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99.11.19

20歳を過ぎて……

 この18日、神戸市での世界保健機関(WHO)主宰「たばこと健康に関する神戸国際会議」が閉幕しました(開幕は15日)。採択された「神戸宣言」では、「たばこは消費者を死に追いやる商品」「たばこ関連疾患が世界経済に大きな損失を与えている」とし、煙草会社が、特に途上国で大宣伝をしていることを非難しているそうです(「朝日新聞」99.11.19 p.37)
 紫煙が苦手な僕としては、ぜひWHOにがんばってもらって、「たばこ対策枠組み条約」を早期に成立させてほしいと思います。
 とまあ、こう書くと、煙草をたしなまれる方の中にはいやな顔をなさる方がいられるかもしれません。僕が煙草の煙が嫌いだ、という話は、ここでは本題ではないので、とりあえずは控えておきましょう。
 本題は何だったっけ――そうそう、煙草の広告について書こうとしていたのです。
 近所のコンビニエンスストアに行くと、レジの所にカラーディスプレイが設置してあって、そこに「○○弁当新発売」などという自社の製品の宣伝が常時映写されています。ところが、その宣伝の合間合間に、未成年者の喫煙・飲酒禁止を呼びかけるアニメーションが写されます。和田誠ふうの擬人化されたビールジョッキと紙巻き煙草の絵に、

20歳を過ぎて
はじめてOK!!

お酒・タバコは
20歳に
なってから。

なんて添え書きしてある。
 僕は、この広告を見て、「そりゃ、そうだわな」という以上の感想は持たなかったのですが、どうも、じつはこの種の広告には、なかなか手の込んだ裏の意図があるらしい。
 という話を、伊佐山芳郎著『現代たばこ戦争』(岩波新書)で読みました。伊佐山氏は、電車の中にある「たばこはハタチになるまで吸ってはいけない」という吊り広告(上記のとは別)について、こう書いています。

この広告が、子どもたちに喫煙を煽っているものと言ったら、読者はどう思われるであろうか。「そんな馬鹿な」とか、「それは考え過ぎだよ」とか、あるいは、「読んだとおり、二〇歳になるまで吸ってはいけないと戒めている」などいろいろな意見があるかもしれない。だが、問題はそう簡単ではないのである。〔……〕
 子どもたちは、背伸びしたい、早く大人になりたいという共通した心理傾向をもつ。しかも、禁じられたりすると、それらを犯して、社会に刃向かう自分の姿に優越感を感じるという青年期特有の心理がある。〔……〕この広告は、その意味では、子どもたちに逆作用をもつ。ルールに従えと言われれば、破りたくなる。その子どもの心理を巧みについていると筆者は考える。だから、この車内広告が、日本たばこ協会や大蔵省主催のものというのには合点がいく。(p.104-105)

 なるほど、ことばを額面通りにばかり受け取ってはいけないんだな。一種の反語表現、レトリックだったのか。煙草会社の増益、煙草税の増収のためのものであるわけだ。
 煙草のテレビコマーシャルが出来なくなっている現在、売り上げを伸ばすためには、こういう逆説的な形で未成年者に訴えかけることが必要となってきているという話は、なかなか説得力をもちます。若者は、まんまとその術中にはまっているのでしょう。
 「未成年の喫煙・飲酒はだめ」と言われて、「はいはい」と従っていた少年時代の僕は、思えば単純であった。友人の多くは、むしろそれに従わないところに密かな楽しみを見出していたのかもしれません。
 しかし、青少年諸君に言っておきたいのだけれど、喫煙が「大人の証明」で「かっこいい」と考えるのは間違いだ。口から出るものは、吐瀉物にしろゲップにしろ、あまり上品なものではない。煙草も同じじゃないかな。


追記 その後、ニュース番組を見ていると、酒類を未成年に売ったコンビニエンスストアが摘発されている例がよく報じられます。2000.12に未成年者飲酒禁止法の罰則が強化されたことも一因でしょう。千葉県茂原市では、中学生に缶ビールを販売したとして経営者と店員が書類送検されています(「毎日新聞」千葉版 2001.08.21)。コンビニエンスストアとしては、酒類・煙草の販売促進というよりは、こういう事態を避けるため、まじめに注意を徹底しているのかもしれません。効果はどれぐらい上がっているのでしょうか。(2001.11.28)

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