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きょうのことばメモへ三省堂国語辞典
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99.03.28

文法用語と一般用語

 今朝の「朝日新聞」に電子メールに書き方についての記事がありました。その中にあった、ある編集者のことばです。

「電子メール文化はまだ発展途上。きっちりとした書体やルールができていないので混乱もあります。でも基本は一般の社会常識ですから、肩の力を抜いてやってみましょう」(「朝日新聞」1999.03.28 p.10)

 「書体」? ああ、「文体」の意味かな。「書体」というのは、ふつうは明朝体とかゴシック体とか、楷書体とか行書体とかいうものの総称です。電子メールは明朝体で表示しなければならない、なんていうルールはできるはずがないですね。
 これは誤用に近いような気もしますが、一般的なことばと文法用語のくい違いはままあることです。たとえば夏目漱石の文章から引くと、

例へて見れば視覚となづける意識は、分化の結果、触覚や味覚と差別がつくと、同時にあらゆる視覚的意識を統一する事が出来て始めて出来る言語であります。(「文芸の哲学的基礎」『漱石全集』第16巻 p.75)

 この「言語」も、ふつうは日本語とかフランス語とか、人間の言語とかいうときに使う用語なので、一瞬「?」となってしまいます。「視覚という概念」の意味でしょうから、「概念」と書くのがよいと思います。
 また別の文章では、

けれども私の此処で云ふ道楽は、そんな狭い意味で使ふのではない、もう少し広く応用の利く道楽である、善い意味、善い意味の道楽といふが使へるか使へないか、それは知りませぬが、段々話して行く中に分るだらうと思ふ、(「道楽と職業」『漱石全集』第16巻 p.392)

と言っています。この「字」は「ことば」とか「単語」とかの意味でしょう。こういう混同は古来よくあったようです。書かれた「字」そのものと「ことば」や「概念」は、往々にして区別されないものらしいです。
 ほかにも、文法用語とは違った意味合いで使われることばはいくつかあります。

親子ほど年の違う人たちと一緒に活動したおかげで、「若手財界人」と呼ばれるようになった。その形容詞がずっとついて回ったが、私も七十歳。(「朝日新聞」1998.08.08 p.5)

 国会中継は、視聴率が低く、おもしろくない番組の代名詞なのですが、今の日本を見ることができる貴重な機会ではないかと思います。(「朝日新聞」1998.03.07 p.5)

 「形容詞」は、「うれしい」とか「広い」とかいうもので、「若手財界人」は文法用語としてはどう考えても名詞ですなあ。「形容」なら問題ないでしょう。
 また、「代名詞」は、「これ」とか「それ」とかいうのがそうです。上のような場合は「面白くない番組の代表格」とか「換喩」とかいうのがいいんじゃないでしょうか。

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