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00.03.05

飲みニュケーションその後

 以前「飲みニュケーション」ということばを取り上げたことがありますが、その続編です。
 この「飲みニュケーション」というのは、「コミュニケーション」ということばをまず「コミニュケーション」と誤り、しかる後に、この「コミ」と「飲み」をかけたつもりで作られたものであろうと考えました。いったん「ノミニュケーション」の語形が作られると、まさか、もはや「ノミュニケーション」には戻らないだろうから(ノミュニでは意味不明だ)、「ノミニュケーション」の形のまま定着するだろうと、僕は予想していました。
 ところが、その後、新聞記事等をウォッチングしていますと、情勢は意外な方向に転がったのでありました。
 たとえば、数年ほど前に出版された小冊子(パンフレット)の見出しにこう出ています。

飲みニケーション”を重視する企業戦士の体質がインターネットには合わない
(遠田{火+華}彦・編著「インターネットの落し穴−日本にインターネットは定着しているか−」初版第一刷、株式会社テクノ/「インターネット 光と影」〈株式会社テクノ〉に合綴 1995.06.22 p.49)

 なるほど。「ノミニケーション」の形で来たか。この著者はインテリらしいので、「ノミニュケーション」の形を潔しとせず、かといって「ノミュニ」ともできず、苦渋の選択をしたのではないだろうか。
 でも、「ノミニケーション」では、初めの「コミュニケーション」からだいぶ遠ざかってしまい、しゃれとして面白くなくなっているのではないかな。
 そう思ったのでしたが、その後僕が目にした形は、いつもこの「ノミニケーション」の形なのです。

課長代理の香子{きょうこ}さん(34)も独身だ。会社は古い業界。男社会だから女性を意識させまいと、努めて「男に同化した」。仕事は徹底的に男性の手法を真似た。
 かっちりしたスーツは戦闘服だ。接待酒、接待ゴルフはもちろん、社内の「飲ミニケーション」も欠かさない。人脈を培い、人事情報を手に入れ、根回しもする。本心では酒席はあまり好きではないし、自分の時間も作りたいが、仕事を回すための必要悪だ。(AERA 1998.03.02 p.9)

 日本のビジネスマンの世界には、「飲む」と「コミュニケーション」を合体させたノミニケーション≠ニいう造語がある。それほどに、お酒を介した付き合いが大事にされているわけだ。(サンデー毎日 1999.09.19 p.61〔松井宏夫「酒飲みのいいわけ考・ノミニケーション=v〕)

 表記はさまざまですが、語形としては「ノミニケーション」となっています。
 後者では「ノミニケーション」をこと新しく説明していて、まだ普及していないことばであることが想像されます。しかし、「日本のビジネスマン」が使いそうな語形は、やはり「ノミニュケーション」のほうではないかと思いますが、いかが。誌面では、校閲がそれを許さなかったために「ノミニケーション」となっているのではないでしょうか?
 さて、今朝の新聞にも出ていた例を見ると、カッコが取れていた。

 では、飲みに行くこと自体をやめた方がいい? 「日本社会では、ノミニケーションを避けるのは難しい。出かけて行った自分を責める必要はありません」(朝日新聞 2000.03.05 p.20)

 カッコ付きで「“ノミニケーション”」のように言っているうちは、まだ耳新しいことばであるという雰囲気が感じられます。しかし、上の例ではカッコを用いていないので、書き手は、「ノミニケーション」が世間で普通に通用することばであると認識しているらしく思われます。「ノミニケーション」は標準形の地位を確立したのでしょうか。


関連文章=「「ノミニュケーション」補遺

●この文章は、大幅に加筆訂正して拙著『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波アクティブ新書 2003.06)に収録しました。そちらもどうぞご覧ください。

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