危機管理センターバイオハザード(掲示板)エイズ戦略の再挑戦

  バイオハザード  〔AIDS〕   HIV克服=先進国の・・・重い使命と、重い責任

      HIV/エイズ・ウイルス戦略    

           ワクチン・・・ 着実な成果も、戦略再編成の時

         HIV感染の概略新たなターゲット・・・構造化する感染症パンデミック

                                   

 トップページHot SpotMenu最新のアップロード            担当 :夏川 清一/里中  響子

    INDEX                                

プロローグ        ・・・・・HIVの特定から25年、いまだワクチンはなく・・・・・ 2009. 2.27
No.1     文明社会に拮抗する ・・・ 感染症圧力の構造化!> 2009. 2.27
No.2 〔1〕 あらためて・・・HIV感染”とは・・・ 2009. 3.22
No.3        <そもそも、ワクチンとは・・・//ワクチン血清の違い・・・> 2009. 3.22
No.4                 【ワクチンとは・・・】 2009. 3.22
No.5                 【ワクチンと、血清の違いは・・・】 2009. 3.22
No.6 〔2〕 HIV”の体内への侵入・・・ 2009. 3.22
No.7        “変異”のくり返しによる・・・免疫系の混乱! 2009. 3.31
No.8        <臨床試験まで進んだ・・・ 最初のHIV・ワクチン! 2009. 3.31
No.9        <細胞の乗っ取り・・・ HIVのライフサイクル・・・の考察!> 2009. 4.  6 
No.10                【 HIVのライフ・サイクル 】 2009. 4. 6 
No.11 〔3〕 戦略変更?/予防・ワクチンから発症防止・ワクチンの探索! 2009. 4. 21
No.12

   <Ad5/風邪ウイルスに、  

          3つのHIV遺伝子を組み込んだ、発症防止・ワクチンの顛末>                        

2009. 4. 21
No.13       “生ワクチン”・・・ “弱毒化したHIV”では?> 2009. 4. 21
No.14 〔4〕 HIV・ワクチンの歩みと展望・・・ 2009. 4. 25
No.15                【 HIV・ワクチンの歩み・・・ 】 2009. 4. 25
No.16 〔5〕 問題点の整理/新しい流れ・・・ 2009. 5.  7
No.17        <キラーT細胞・誘導ワクチンの周辺・・・> 2009. 5.  7
No.18        <感染克服者のパズル・・・?> 2009. 5.  7
No.19             <顕在化する・・・物理的非局所性の拡大>  (響子・コメント) 2009. 5.  7

      

    参考文献   日経サイエンス /2009 - 02  

                       エイズウイルスへの挑戦    D.I.ワトキンス   (ウィスコンシン大学) 

                       HIVを退治するには    M.スティーブンソン  (マサチューセッツ大学)

                       

 

   プロローグ             
 

「お久しぶりです、里中響子です!

  さっそくですが...“HIV(ヒト免疫不全ウイルス/エイズ・ウイルス)ワクチン”の開発が...次々に失敗に

終わっています...現在、“HIV治療の戦略的な見直し”が迫られています...

 

  HIVが...ワクチンに対して、これほどまでに頑強に抵抗することは、25年前には予想もでき

なかったことです。25年前/・・・1983年〜1984年に...“エイズの原因が、HIVであることが

判明”し、これによって、“すぐにでも予防ワクチンができる”と考えられていました。でも、その期

待は、あっさりと裏切られました。

  それから、12年後/・・・1996年に...“強力な薬剤の併用”という手段により、“HIVの血中

濃度を、検出できないレベルにまで低下”...させることが可能となりました。この時も、“ウイル

スを早い段階で激しく叩けば・・・根治(こんじ)は可能”と、楽観的な予想が出されました。

  でも...残念ながら、これも裏切られました。そして最近...最も有望視されていた、メルク社

ワクチン候補も...2007年臨床試験打ち切られ、これも失敗に終わっていますわ。エイズ

の病理で、HIVが特定されて以来、すでに25年以上がたっているわけですね。

  でも、いまだにワクチンは実現されず...にも至っていないわけです...そして私たちは

今、多くの研究成果を獲得しつつも、基礎研究にまで立ち返り...戦略的な再編成が迫られて

います...」

 

  人類文明社会に拮抗する ・・・ 感染症圧力構造化!

                             

「これには...」響子が、モニターを見ながら言った。「“免疫系を巧妙かつ大胆に攻撃/・・・素

早い変異”という...“HIVの奥深い戦略的側面”と、“深遠な背後の風景/・・・生態系のホメオ

スタシス(恒常性/人体の治癒力のようなもの、大自然の復元力)という...全生態系の不可分の構造が垣間

見えます...

  高杉・塾長【思考モデル】では...このステージにおいては...“36億年の彼”が、強く

ンクしているようです。“増え過ぎた人口/・・・人類文明の暴走”に対する...“生態系からの淘

汰圧力の増大/・・・自然淘汰の構造化の起動”ということになります...

  そこに、“超越的人格/36憶年の人格”の...“意識=意志”が働いているということになりま

す...さあ、この≪36 憶年の彼/ニューパラダイム仮説≫は...“非常に便利な思考実験”

なのですが...はたして、本当なのでしょうか...?

  いずれにしても...“異常な人口増加圧力と対峙”する...“生態系の正常な復元力”という

ことになるのでしょうか...それが、“人類の天敵”となるべく、“感染症パンデミックを構造化”

ていると、考えられるわけです...

  これも...はたして、本当かどうかは推定の域を出ませんが...私たちは、何もしないという

わけにはいきません...」

 

「ええと...」響子が、モニターをスクロールし、マウスをクリックした。「2007年に...臨床試験

が打ち切られた...最も有望視されていた、メルク社ワクチン候補というのは...

  ええ...“5型アデノウイルス(Ad5/風邪のウイルス)を使ったHIV・ワクチン”ですね...この臨床試

失敗を受けて、2008年秋に予定されていた、“大規模な国際共同・臨床試験/DNAプラス

ミド・ワクチン”の方も、中止となりました...

  研究資金の方も、すでに基礎研究の方に振り向けられたようですね...戦略の見直しという

ことですね...残念ですわ...こうした経緯については、後ほど、バイオハザード担当夏川

清一に、もう少し詳しく説明していただくことにします...

  ともかく...発症は抑えることはできるわけですし...現在も、大車輪で、鋭意、治療研究

は進められています。決して、頓挫したということではありません。こうした現在の状況につ

いては、“参考文献”をもとに、これから考察して行きます」

 

 「さて...もう少し、話を進めましょう...」響子が、椅子を回し、インターネット正面カメラの方を

向いた。

「ええ...くり返しますが...

  何故、HIVのような感染症が...人類社会に...そしてこの時期に...“地球温暖化”ととも

に...襲ってきたかということです...この方向を、もう少し深く考えてみたいと思います。

  予想されている、強毒型/高病原性【H5N1型】/新型インフルエンザのパンデミック”も輻

輳している様子ですね。こうした事態は...“ただ事ではない!”...ということですわ。私たち

はその背後にある、巨大な脅威というものを、真摯に読み取るべきです。

  ともかく...“人類文明と・・・感染症パンデミックの対立という構図”が、非常に先鋭化して来

ているように思います。これが、“生態系からの淘汰圧力の一環”だとしたら、人類文明はそもそ

も、こうした戦いに勝てるものなのでしょうか?勝てないのだとしたら、人類文明方向転換をし

なくてはならないということです...」

 

「ええ...こうしたのことの、哲学的意味については...

  医学的にも...科学的にも...もちろん経済学的にも...あまり考察されたことはなかったよ

うですね。でも、私たちは、あえてこうした課題も交え...“現/文明パラダイム”を越えて...考

察してみたいと思います。

  “人口増加/科学文明の暴走に対する・・・生態系のホメオスタシスの起動”...という視点か

らの考察です。“害悪をなす人類文明を駆逐しなければ・・・全生態系が沈没してしまう”という状

況での...“生態系の治癒力の起動”ということです...

  こうした事まで考慮しなければ、“輻輳する感染症の津波”は、根本的には解決しないように

思います。人類文明の暴走は、私たちよりも上位システムにおいても、“大きな対立的構造”を生

み出しつつあるようですわ...」

 

「再度...くり返しますが...

   私たちは、“文明の折り返し点”に来ています。文明社会は、大自然の摂理に反し...過飽

和の状態にあり...巨大になり過ぎたということです。そして、まさに、その破局点/カタストロ

フィー・ポイントが、はっきりと見えてきたという状況です。

  こうした、生態系のホメオスタシス(恒常性/大自然の復元力との戦いに、勝つことは不可能でしょう。

仮に...医学によって、感染症パンデミックに対して、戦術的な勝利を収めたとしても、本質的な

部分を変えなければ、結局、“全生態系が大崩壊して行く”ということになるのです。

  そうなった場合は...6度目の、地質年代的“種の大量絶滅”という事態を招くことが予想さ

れています。古生代の終わり/ペルム紀の終末の、“大量絶滅の母”と言われるような壮絶な風

になるでしょう。“母”と呼ばれるのは、その後の“膨大な空きニッチ”に、爆発的な生命進化

訪れるからです。

  恐竜突然絶滅したように、ホモサピエンス突然の絶滅となるのでしょうか?恐竜の絶滅は、

中生代の終わり/白亜紀の終末/6500万年前のことです。メキシコ/ユカタン半島付近に落

下した、巨大隕石(直径10キロメートルの小惑星、または彗星/地球の全生物種の70%が死滅)が原因と言われます。

でも、本当にそれだけが原因だったのかは、まだ研究の余地があるようですね。

  ホモサピエンスの場合も...“科学文明の暴走/欲望の暴走”になるのか、“気候変動/飢

餓”になるのか、“感染症パンデミック”が引き金となるのか...それは分かりません。ともかく、

このままカタストロフィ(破局)が進行して行けば、“地球規模の相転移”が起こり、“種の大量絶滅”

に至るということですわ...」

 

「ええ...したがって...

  医学・医療・衛生管理により...感染症パンデミックに対して勝利を収めたとしても、そういう

事態になっては、元も子もないということなのです。ここの所を、私たちは深く考えて置く必要が

あります...

  これが...人類文明に対して仕掛けられた、“感染症パンデミックの刃”であり...“知的生命

体/・・・人類文明”に対する...“大きな試練”なのかも知れません...いずれにしても、私たち

は、“この試練”を乗り越えて行かなければなりません。

  “生命潮流のベクトル”が...存続と進化を内包している以上...私たちには、選択の余地

ありません...私たちはまさに、“ここに覚醒”し...“ここに存在”しているわけですから...」


                      

「ええ...」響子が、夏川清一の方に肩を回し、ゆっくりと頭を下げた。「夏川さん、よろしくお願

いします、」

「はは...こんにちは...」夏川が、笑いながら片手を上げた。

「うーん...」響子もつられて微笑し、頭を揺らした。「...新型インフルエンザパンデミック(世

界的大流行)も、差し迫っていますが、エイズ対策の方も大変ですわ...

 HIVは、“空気感染/速攻性”インフルエンザ・ウイルスとは、まさに対極的な位置あります。

こちらの方は、まるで“真綿で首を絞めるような、狡猾な殺人ウイルス”です。この両極端にある

感染症ウイルスが、現代医学にとっても、非常な難敵になって来たようですね」

「そうです...」夏川が、バン、とやや荒っぽく、作業テーブルにコブシを下ろした。

「でも...」響子が、夏川を見つめた。「根本的な解決策は、はっきりとしていますわ...

  非常に明白です。ともかく、人口を激減させて行くことですわ。そして...“反グローバル化/

文明の折り返し”/・・・〔人間の巣の世界展開〕へと、人類文明をシフトして行くことですわ」

「まあ、そうですね...」夏川が、ポケットに手を入れた。「理想としては、そうでしょう...

  しかし、バイオハザード担当としては、そんな遠回りなことはしていられませんね。“現在罹患

(りかん)している人々”や、“将来罹患するであろう人々”や、そうした社会状況に対して、どう対策

をとるかということです...もちろん、長期的/根本的対策というのも、必要なのですがね...」

はい...」響子がうなづき、アンの方を見た。「ええ、今回は...お忙しい中を、厨川アンにも

来ていただきました。アン...夏川さんは、以前からご存知なのですね?」

ええ...」アンが、あらためて夏川の方に笑顔を向け、頭を下げた。「アメリカでも、1度お会いし

ていますわ。最近も、時々お会いすることがあります感染症パンデミックは、私にとってもテリ

トリー(縄張り)の範囲ですから、」

「アンは...」夏川が言った。「“スペイン風邪/1918年ウイルス”の研究者として...この分野

ではよく知られています」

「それは、若い頃の話ですわ。でも、パンデミックがクローズアップする時代になって来ました。特

に、【H5N1型】鳥インフルエンザ・ウイルスは、強毒型ですから大変ですね。しかも、世界はグロ

ーバル化していますし」

「非常に、悪い時代になりました」

はい...」響子が、口を結んだ。「そういう訳で...ここでも、アンに助力をお願いします」

はい、」アンが、深くうなづいた。

  〔1〕 あらためて・・・“HIV感染”とは・・・  

               wpe73.jpg (32240 バイト)       
 

HIVの単離から...」響子が言った。「もう、25年になるわけですね...

  起源...アフリカ/カメルーン南東部/チンパンジーの群れ...まで、特定されているわ

けです...サル型のエイズヒトに感染するようになり、ヒト型のエイズになったといいます。

インフルエンザが変異し、ヒト型のインフルエンザとしてパンデミック(世界的大流行)を引き起こすの

と、同じパターンですね」

  響子は、モニターをスクロールした。

「こうした、アフリカ1地方の風土病を...

  開発グローバル化により...“文明社会を脅かす構造的な危機・・・驚異的なパンデミック”

に、人類自らが育ててしまった、のではないでしょうか...“免疫システムを攻撃・・・性的接触に

よる感染ルート”...まさに、“生体にとっても、文明社会にとっても・・・難所/急所”を、狡猾に

攻略していますわ」

「そうですね...」アンが、うなづいた。

「私たちは...

  “文明社会の形成/・・・自然界の征服/・・・グローバル化/・・・あくなき欲望の追求”の中で、

どうやら、“とんでもない怪物・・・難敵”作り上げて来たようです。私たちは、自然界を征服した

のではなかったのです。、その反動感染症圧力の増大や、“地球温暖化/海洋の酸性化”

として、顕在化して来ているわけです」

  アンがうなづき、肘を抱いた。

「ええと...」響子が言った。「このHIVの起源については...

  アフリカ/カメルーン南東部ということですが...詳しくは、《エイズ掲示板/ HIVの起源

を特定 をご覧ください...それから、“HIVの広報/予防/支援活動”などについては、こ

のページでは触れません。それでいいでのすね、夏川さん...?」

「結構です...」夏川が、白いガウンのポケットに手を入れた。

「ええ...」響子が言った。「ここでは...

  病理的なことや、研究開発がどのような状況にあるかということを、“参考文献”をもとに、考察

して行きます...

  ともかく...HIVは、現代医学の急速な進展にもかかわらず、“非常に構造的な・・・高度な難

敵”に、成長してきたということです。これは、私の個人的な意見ですが...グローバル化/貧困

/人口爆発、さらに“地球温暖化”とも関連する、構造的な背景があると考えています...」

感染症パンデミックという意味では...」アンが言った。「新型インフルエンザも同様ですね...

  “新型肺炎・SARS”の例にも見られるように、こうした“新興感染症・候補”は、続々とスタンバ

イの状況に入って来ている様子です。西ナイル熱デング熱のように、すでにその影響が出てい

るものもありますわ...」

「そうです...」夏川が、トントン、とテーブルを叩いた。

21世紀は...」響子が言った。「こういう意味でも...非常に不安定な時代ですわ...

  感染症克服のためにも、“万能型・防護力”/〔人間の巣〕を展開すべきなのです。今、〔世界

市民〕に必要なのは、〔人間の巣〕“世界政府/地球政府”だと考えます...」

  アンが、小さくうなづいた。夏川が、ポケットに手を入れ、天井を見ていた。

「ええ、でも...」響子が、口に手を当て、笑いをこらえた。「この話は、ここでは控えるとして、本

題に入りましょうか...?」

「そうですね...」アンも、クスクスと笑った。

「それでは...」響子が言った。「ええと、アン...

  HIVが体内に侵入すると...いったい、細胞でどのような事が起こるのでしょうか。まず、あら

ためて、その病理的な風景を説明していただけるでしょうか」

 

                               

「はい...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。「ええ...まず、概略の方を、簡単に先に説明して

おきましょう...

  エイズの原因ウイルス/・・・HIVが特定されてから...25年と言いますが...そもそも、この

ウイルス特効薬/ワクチンというものが、うまく作れないのです。それは、このウイルスによっ

て、免疫システム破壊されてしまうからです。それが、そもそもの問題です。

  でも...ヒトの免疫システムが...“全面降伏/完全にお手上げ”かというと...そうではあ

りません...稀なケースになりますが...“感染克服者(elite controller)が存在するからです。これ

は、今後予想されている、新型インフルエンザでもそうですね。パンデミック(世界的大流行)が起こっ

ても、必ず生き残る人々がでてきます。それが、“感染克服者です...

  細菌ウイルスなどでも...薬剤耐性菌がしぶとく出現して来ますわ。これが、生物体の1つ

の特徴なのです。絶滅させるのは、逆に、ひどく難しいのです。その頑強なシステムは、何に依

しているのかということですね...」

「うーん...」響子が、口にコブシを当てた。「高杉・塾長の見解だと...“36憶年の彼”との、

リンクということになるのかしら...?」

「ともかく...」アンが言った。「HIV感染でも...

  “感染克服者”がいる以上、その“細く正しい道は・・・確実に存在する”ということですわ。その

道筋を解明し...押し広げていけばいいわけです。でも、そのワクチン開発が...既存の知識

や技術では、うまく成就できないということなのです...ブレーク・スルーが必要です...」

 

                              

「まあ...」夏川が、うなづいた。「そうですね...

  25年近くもの努力の末に...メルク社ワクチン大規模・臨床試験中止されました。実

は、効果があるどころか、むしろ悪影響がある可能性が判明したのです。そして、そのために、

もう1つのワクチン候補国際共同・臨床試験も、2008年9月に開始される予定だったのです

が...ええ、直前の、7月の時点で...棚上げとなってしまいまいた。

  結局...もう1つの方のワクチンも、似たようなものだったために、臨床試験の根拠がない、と

いうことになったようです。これらの有望な臨床試験が次々に中止になり、“HIV・ワクチン戦略”

そのものが、大混乱に陥ってしまったということです」

「それで...」響子が、夏川に言った。「“HIV・ワクチン戦略”の、見直し/再編成ということになっ

ているわけですか...?」

「まあ、そういうことです...」

「現在、どのような状況にあるのでしょうか...アンに病理的な説明を聞く前に、現在の状況

お聞きして置きましょうか、」

                      wpe73.jpg (32240 バイト)        house5.114.2.jpg (1340 バイト) 

「そうですね...」夏川が、両手の5本の指を組み合わせた。「まず、ですねえ...

  HIVに対して...従来のワクチン製造法というものが、どれも失敗したわけです。1つも成功し

ていないわけですねえ。その見通しが立たないとなれば、戦略的な見直しが必要かも知れない

ということです。

  可能性がゼロというわけではありませんが...ただ、奇跡だけを待っているわけにはい行か

ないでしょう。我々は、患者とは立場が違うのです。したがって、この辺りで1歩退き、これまでの

成果問題点を眺め直してみることも、無駄ではないでしょう。それによっては、“対・HIV戦略の

再構築”も、必要かも知れないということです...」

「はい...」響子が、無表情に夏川を眺めた。

「いいですか、響子さん...

  医療というのは、治療であって科学ではありません...しかし、医学というのは、は解剖学的

/組織学的に追及する...科学的手法方法論的学問なのです。根拠の定かでないものを、

いつまでも手探りしているわけにはいきません。それでは、神仏祈祷(しんぶつきとう)に頼るのに近く

なります」

「うーん...」響子が、神妙にうなづいた。「そうですね、」

「しかし、さて...

  戦略的な見直しとなると...まだ、“空想段階にあるような独創的な治療法”や、“ウイルスそ

のものの弱点を解明する”など...“これまでとは違う・・・革新的な治療戦略”が、必要になると

も言われています。

  むろん...これまでのワクチンの可能性を、廃棄したということではありません。ワクチンの戦

略的ターゲットを、“感染予防から発病防止へ・・・目標を変更するのも1つの方法”です...」

  響子が無言でうなづき...アンの方を見た。

ワクチンというのは...」アンが言った。「現在も、そして将来も、私たちにとっては極めて有効

特効薬ですわ。そのことは変わりありません。

  そうしたワクチンが、全否定されたということではないのです。膨大な免疫システムは、私たち

の個体にとって、それこそ“完璧な防御システム”なのです。ただ、こうした免疫システムに、“真

正面から挑戦するようなウイルス”が出現してきたということです...これは、響子さんの言うよ

うに、非常に不思議なことですね...」

「はい、」響子が、まばたきした。

「これは...

  響子さんや、高杉・塾長の専門分野の...哲学の問題がからんできます。科学に限定するの

ではなく、“この世の成立”や、“認識の構造”や、“因果律/ストーリイ形成”まで...じっくりと考

察する必要があるのかも知れませんね...」

「私たちは...」響子が、脚を組み上げた。「専門分野というのは無いのです...

  でも...アンも、こうした方面に関心があるのが分かって、嬉しいことですわ...ふふ...」

「うーん...」アンも、首をかしげて笑った。「でも...それは、影響されたのですわ。響子さんや

塾長に...多分...」

「私も、そうかもしれませんね...」

「それなら、全てがそうとも言えますわ」

 

「いいですか...」夏川が、二人を交互に見た。「進化の過程で、免疫システムが構築され...

また、それに対抗するような...狡猾なウイルスが出現してきたということです。これは、果たし

て、何者の知恵なのか...

  響子さんの言うように、ウイルス自身の知恵とも思えません...はは、高杉・塾長の言うとこ

ろの、“36憶年の彼”知恵なのでしょうかね、」

「私は、」響子が、まっすぐに夏川を見た。「本当に、そう思っていますわ」

「うーむ...一途ですねえ...」

「...」

「ともかく...」アンが言った。「脊椎動物にとって...免疫システムは今後も、個体防御の基幹

であり続けるということですわ。免疫システムは、“HIV/・・・免疫系を攻略する侵入者”に対し、

多くを学び、それなりに、適応・進化して行くのだと思います...

  でも、“生命潮流・・・自然界の進化”は...ホモサピエンスの方だけを向いているのではない

のでしょうね...そのことは、頭に入れておく必要があります...でも、私たちもまた、知的生命

として、その頂点にあるわけですから...生態系にとっても、敵対者ではないということです」

「でも...」響子が言った。「“HIV感染者”にとっては、将来的な進化というのは、何の意味もな

いものですわ。現状での適応なら、意味があるでしょうけど、」

「うーむ...」夏川が、頭をかしげた。「自然な適応進化は...医療と呼べるのでしょうか、」

「そうですね...」響子が、モニターをのぞき込んだ。「さあ、具体的な話に入りましょうか...」

 

<そもそも、ワクチンとは・・・//ワクチン血清の違い・・・> 

 

                    

「ええ...」アンが、首をそらすように、モニターを眺めた。「いいかしら...

  インフルエンザポリオの...2つのワクチン例は、50年以上にわたる...“病原体に対する

予防の主力・・・ワクチンの基本原理”というもの示しています」

「あ...」響子が、人差指を立てた。「アン...さっそくですけど...

  ワクチンについて、基本的な事を少し説明して置きたいと思います。分かっているとは思います

が、一応、整理して置きたいと思います」

「はい、」アンがうなづいた。「そうですね...

  専門的になり過ぎますから、基本的な事を、一度整理しておいた方がいいかも知れませんね」

「はい、」  

       

    ***********************************************   

             【ワクチンとは・・・】   

 

「ええ...」響子が、モニターを見ながら言った。「そもそも、ワクチンというのは...

  “生体に免疫をつくらせて・・・感染症を予防するために用いられる・・・抗原”のことです。病原

、あるいは細菌毒素の...毒性を弱めるか、失わせるかし...“抗原性”だけを残したもので

すね。

  “ワクチン/・・・無力化した抗原”投与により...“本物の侵入者/本物の抗原”がやって来

た時、これを効率よく撃退してくれます...毎年流行の、“インフルエンザ・ワクチン/予想される

無力化した抗原”予防接種しておくことにより...あらかじめ“抗原性”を持たせておくわけです。

 

  具体的には...“ワクチンとは・・・各種伝染病の・・・弱毒菌、死菌、無毒化毒素”のことを言い

ます。これを生体に接種し、“抗体”を生じさせることが目的です。この“抗体”とは...“抗原によ

って作られ・・・抗原とのみ結合する物質”のことですね...

  くり返しますが...体の中に異物(/病原菌、微生物等)が、侵入してくることを感染といいます。“抗

とは、それに抵抗して体を守るためにできた物質のことです。 体の中に一度抗体ができると

“同じ異物/抗原”が再び入って来た時、これを効率よく撃退してくれます。これが、免疫です。

  

  抗原抗体は、カギカギ穴に例えられ...完全に一致した時に、“抗原・抗体反応”

起こります。この反応を利用したものに...感染症検査/ウィルス検査/微量蛋白質検査/ホ

ルモン検査/アレルギー検査等があります...つまり、これが“免疫血清検査”ですわ...

 

  ええと...“弱毒菌/・・・弱毒化した菌を用いる生ワクチン”は...BCG痘苗(とうびょう)ポリ

オ生ワクチンなどに用います。

  “死菌/・・・殺した菌”は...チフスコレラインフルエンザポリオ・ソーク・ワクチンなどに用

います。

  それから...“無毒化毒素/トキソイド、アナトキシン/・・・細菌などがつくる毒素や蛇毒など

を・・・ホルマリンで処理して毒性を除き、抗原性だけを残したもの”は...ジフテリア破傷風

ブやマムシ/(毒蛇)などに用います...

 

  免疫とは本来...ある特定の病原体に、1度感染して回復できると、抵抗性を持つようになり、

再び同じ病気にかからなくなることを言います...あ、それから、免疫には...“先天的に備わ

っている=自然免疫”と、“後天的に得られる=獲得免疫”があります...

 

  システムとしては...“液性免疫/体液性免疫”と、“細胞性免疫”の2つがあります...“液

性免疫”は、“抗体”“補体(20以上のタンパク質と、タンパク質断片からなる/サイトカインなどが関連を中心とし

免疫系です...“抗体”血清中に溶解して存在するために、こう呼ばれるようです。

  一方...“細胞性免疫”は、T細胞マクロファージなどの免疫細胞が、体内の異物排除をす

“抗体の関与しない免疫系”です。これは、高度な免疫系で...“獲得免疫”のうちの1つです

ね。この辺りになると、非常に複雑になり、錯綜しますので...どうぞ、専門のホームページ

門書の方でお願いします」

 

    ***********************************************

        【ワクチンと、血清の違い・・・】    

 

「あ、最後に...」響子が言った。「ワクチン血清(免疫・血清)の違いについて、簡単に触れておき

ます...

  血清というのは...血液が凝固する際に、血餅(けっぺい)から分離してできる、透明な淡黄色の

液体です。血漿(けっしょう/血液の液状成分)から、フィブリノーゲン(血漿中に含まれる、血液凝固因子の1つ)を除

いたものですね。これには、アルブミングロブリンなどのタンパク質(/血清タンパク質)の他に、“免

疫抗体”も含まれています。

 

  ハブマムシのような猛毒を持っている毒ヘビに噛まれたり...あるいは、破傷風菌のような

猛毒を作る細菌感染を受けると...放置しておくと、命の危険にさらされます。ヘビ毒細胞

を溶かしますし、破傷風菌の毒は神経麻痺を起させます。

  こうした、緊急毒の危害には...“その毒に対する・・・免疫抗体を含む血清/抗毒素・免

疫血清”注射します。すると、“毒に対する抗体が毒と結合・・・中和”します。こうした血清療法

というのも、免疫学的な理論に基づいています。

  あ...ついでに、“カイワレ大根騒動”で有名になった...死亡率の高い“大腸菌O−157”

は、ベロ毒(べロトキシン)を出すことで知られています。これは、“菌体抗原/O抗原・血清型”を用い

て・・・大腸菌を血清型分類し・・・157番目という意味”...だそうです...

                  <こちらもご覧ください・・・・・ 《新興感染症・掲示板/O−157のベロ毒素に中和剤》

 

  ええと...もう少し説明しましょうか...免疫というのは、“能動(active)免疫”と、“受動(passive)

免疫”に分けることもできます...“能動免疫というのは・・・ワクチンを注射して免疫にする方法”

です。“受動免疫というのは・・・抗体を含む血液または血清を・・・他の個体に注射して免疫にす

る方法”です。

  ワクチンを使う“能動免疫法”は...生体が能動的に...自ら“免疫抗体”をつくります。その

ために、“抗体”ができるまでに1週間以上かかりますわ。でも、その免疫は長年持続します。し

かし、ハブマムシに噛まれた時...こんな悠長なことをやっている、時間的余裕はありません。

  そこで...抗体を含む血清を注射して免疫にする・・・緊急措置/受動免疫法”が、取られま

す。この方法は、“生体が、自ら抗体をつくることはない”ので...1時的に免疫になりますが、

期間に及ぶ持続性はありません。

  ええ、こんなところから...インフルエンザ予防にはワクチン...毒ヘビに噛まれた時には血

、ということになるわけです。あ、もちろん...インフルエンザ・ウイルスに対する、“免疫抗体を

含む血清”を作る事はできますよ。それは可能です...

  でも、何時感染するのか、特定できませんから...“免疫・血清”では対応できないのです。同

じように、緊急ヘビ毒破傷風毒には、悠長なワクチンでは対応できないのです。

 

  ええと...説明は、このぐらいでいいでしょうか...アン、お願いします...」

 

    ***********************************************   

 

「はい...」アンが、ゆっくりと髪をなで上げた。「ご苦労様です...

  ええ...免疫システムは、説明して行けば非常に奥の深い世界になってしまいますね。現代

医学の最前線の話になってしまいます。まだ研究段階のことや、臨床段階のことも多いわけです

ね」

「そうですね...」響子が、うなづいた。

  〔2〕 “HIV”体内への侵入・・・       

                   

 

「ええ、話をもどします...」アンが言った。「もう一度、言いますと...

  インフルエンザポリオの、2つのワクチン例というのは、50年以上にわたる...“病原体に

対する予防の主力・・・ワクチンの基本原理を示すもの”...ということですね。

  でも、この手法は残念ながら、HIVには通用しませんでした。“抗体やT細胞を誘導するという

・・・標準的な方法”では...HIV感染予防できなかったのです。いえ、具体的に言えば、特効

薬/ワクチンを作ることができなかったのです」

「はい...」響子が、うなづいた。「免疫システムそのものが、“ヘルパーT細胞への先制攻撃”や、

“HIVの変異/・・・変化の速さ”で...“ほぼ完全に攻略されている”ということですね...?」

「そうです...」アンが、頭をかしげた。「基本的に...

  “これまでの全てのワクチンというものは・・・自然感染の状況をまねたもの”です...つまり、

“免疫系が・・・感染に関する記憶を作り・・・次の機会に、より機敏に強く反応する...という手

法をとります。

  でも、これに対し...HIVはまず、“免疫システムの司令塔/ヘルパーT細胞”先制攻撃

仕掛け...システム大ダメージを加えているわけです。正直なところ、私もこれには、“何者か

の作為”のようなものを感じますわ...」

リアリティーの全体性...」響子が、つぶやくように言った。「そのカオス(混沌)の中から...

  このような、明確な目的性が顕在化するのは、そこに“意識”が存在するからでしょう...生態

ホメオスタシス(恒常性)の起動と共に...それを映し出す、【人間原理空間・ストーリイ】

変動値も絡んで来るのではないでしょうか...?」

「うーん...」アンが、頭を揺らした。

「明らかに...還元主義的・機械論的偶然の産物とは思えませんわ...そこには、意識の流

れがあるのだと思います。それが、生態系の流れをも、緩く支配しているのだと思います...」

“36憶年の彼”...ということかしら...?」

「うーん...

  “因果律(原因があって結果があるという法則)の破れ”というのも問題ですわ...量子世界“因果律の

破れ”はよく話題になりますが...こうした所にもあるのではないかしら...もちろん、これは“因

果律の破れ”ではなく、“36憶年の彼”でも説明できますが...」

「うーん...」アンが、響子の真似をして、頭を揺らした。「はっきりしていることは...

  HIV全ての点で...ヒトの身体に備わった免疫反応を...避けたり無力化したりすること

ほぼ完全に成功している事です...一方、免疫システムの方は、この特殊化したウイルス

に、戦略的に敗北している事ですわ。

  確かに、こんなことは...還元主義的・機械論的偶然と考えられません。私たちは、その

味の背景というものを...もっと、深く探っていく必要があるのかも知れませんね。これから、“文

明の第3ステージ/意識・情報革命”に突入して行くのですから、そうした別の角度からの光も、

当たって行くと思います」

「そうですね...」響子が言い、深く頭をかしげた。「でも、アン、何故なのでしょうか...?」

「これは、難し過ぎる質問ですわ...

  このような、“途方もない戦略・・・巨大な知恵”を...“誰が”“どのように”“HIVに授けたの

か”ということです...あるいは、“HIVを選択し・・・ここに置いたのは誰か”...と言ってもよい

でしょうね...」

“人間とは何か・・・主体/私とは何か”という、根本的な疑問と同じになってしまいますね」

「そうですね、」アンが、チャッピーの頭を撫でた。

 

                       house5.114.2.jpg (1340 バイト)
                                  

「さあ...」アンが、チャッピーを引き寄せた。「話を進めましょう...

  HIV新しい宿主に感染すると...その宿主の細胞内で、急速に自己複製を開始します。そ

して、新しく生まれた大量のウイルスは、さらに他の細胞を攻略して行き、増殖して行くわけです。

ウイルス複製効率は非常に高く、感染から1カ月で、血漿(けっしょう/血液で、血球をのぞいた液体成分)

1ml(ミリリットル)ウイルス個数が...1億個に到達することもあるようです...」

血漿1ml中に、1億個ですか...」響子がつぶやいた。「ちょっと、見当のつかない数字ですね」

「うーむ...」夏川が、顔を横にし、口に手を当てた。「そうですねえ...

  HIV感染で...“全く治療行為をしていない感染者の場合”はですねえ...まず、感染初期

ウイルスが急増し...風邪のような熱が出ます。そしてその後は、“血漿中・平均3万個/ml

のウイルス量で安定”します...これが、“治療を受けていない・・・感染者の状況”ということにな

ります」

「はい!」響子が、固くコブシを握った。「初めて聞きましたわ。それが、感染者の体内の状況です

か...血漿1ml中に、3万個ですね...」

平均・約3万個ぐらいということでしょう...

  これまでの観察研究では...適切な治療を受け...“ウイルス個数が、1700個以下/mlに

なっている人”は、“パートナーに移してしまうリスクが・・・かなり小さくなる”...ということです」

「うーん...」響子が、口をすぼめた。「“血漿1ml中に・・・1700個以下”というのは、1つの目安

になるのかしら?」

「そうかも知れません...

  これは、結論のようになってしまいますが...“HIVの完全排除は難しい”としても...“ピー

ク時のウイルス濃度を押さえ・・・常在ウイルス量を、1700個以下/mlに低下させるようなワク

チン”...を目指すべきだということです...

  つまり、このように、戦略目標を変更して行くのも、1つの選択肢だということです。完全排除が

困難なら、次善の策/次善の目標設定をしなければなりません...」

「はい...」響子が、固く手を組んだ。

 

「ええ、いいですか...」アンが、2人に言った。「そのことは、後で詳しく考察しましょう...

  ともかく、HIVに感染された細胞は...“自然免疫”という...非効率ですが、ただちに発動で

きる仕組によって、すぐに破壊されます...でも、大概の感染者は、“免疫系の司令官/ヘルパ

ーT細胞”を叩かれ...さらに、猛烈な変化と増殖を続けるHIVの前に、屈伏してしまうのです。

  そんな中でも...マクロファージなどの免疫細胞は、ウイルス・タンパク質の1部などを呑み込

み、忙しく処理して行きます。呑み込んだウイルス・タンパク質を断片化し、“抗原”として提示す

るわけですね。

  これは...最近担当した《HPS/熱ショックタンパク質》の内容と重なるものですが...

入者を効率よく攻撃する、“獲得免疫”誘発するものです。“獲得免疫”については、先ほど響

子さんが少し説明しましたね、」

「はい、」響子が、うなづいた。「ええと...

  “免疫の全体構造”としては、“自然免疫”“獲得免疫”2つの系統があります...“状況に

応じて・・・適切に機能”している...ということですね?」

「そうですね...

  くり返しになりますが...“自然免疫”とは...生まれつき持っている免疫系です。例えば、

邪のウイルスが侵入してきたら、体の中にあるマクロファージ顆粒球などが、ウイルスを食べ

てしまいます。こうした“元々ある防御体制”です...

  一方、“獲得免疫”とは...“色々な抗原に感染”することで身につく...“後で獲得する免疫

系”す。T細胞B細胞感染情報を記憶し、再び侵入してきた時に、効率よくこれを迎撃しま

す。ワクチンは、こうした性質を応用したものですね...

  ともかく...免疫システム非常に奥が深く...解明されていない領域も多くあります...

イトカイン(生物活性因子の総称)ひとつを取って見ても...まだまだ、人体は謎だらけなのが分かりま

す」

「はい...」響子が、大きくうなづいた。

 

「ええと...」アンが、モニターに目を投げた。「その先の話ですが...

  “獲得免疫”で活躍するT細胞には...“ヘルパーT細胞”と、“キラーT細胞”2種類がありま

す。このうち免疫系の司令塔/司令官になるのは、“ヘルパーT細胞”の方ですね...この細胞

が、“異物である侵入者/抗原”に対し、警告を発したり、攻撃を指揮したりします...

  一方、“キラーT細胞”の方は...“侵入して来た抗原/ウイルス”認識するとともに...“ヘ

ルパーT細胞”からの化学信号を受け取って、増殖を開始します。それから全身に分散し、“抗原

/ウイルス”を見つけしだい、破壊するという任務に就くわけです」

「うーん...よく統制がとれていますね...」

「そうですね...

  でも、この免疫システムが狂い出した場合は、アレルギーや、“自己免疫疾患”ということになり

ます」

  響子がうなづいた。

「ええ...」夏川が言った。「HIV感染で...

  この、“キラーT細胞の反応は・・・感染から約3週間後に開始”します...“ウイルス感染細胞

のほとんどを破壊し・・・体内のウイルス濃度を低下”させるわけですが...HIV感染の場合は、

“大概・・・このキラーT細胞の反応が・・・小さすぎるか、遅すぎる”ために...“生涯続く・・・慢性

型感染”...が成立してしまうようです」

「うーん...!」響子が、口に、コブシを強く押し当てた。

 

                    
 

「残念です...」アンも、顔をかしげた。「前の、《HPS/熱ショックタンパク質》のページでも、

少し説明したのですが...その辺りを、あらためて説明しましょう」

「はい...」響子が顔を上げ、アンを眺めた。

“ヘルパーT細胞”は...」アンが言った。「先ほども話したように...

  免疫システムの司令塔/司令官に相当します。そして非常に厄介なことに、HIVは最初から、

この“ヘルパーT細胞”そのものを、感染・標的としているということです...感染・第1撃で、“免

疫システムの司令塔を攻略”して来るということです...」

「うーん...」響子が、口を押さえた。

「特に...

  “ヘルパー・メモリーT細胞”を、激しく攻撃します...このT細胞は、メモリーと名のつくように、

“遭遇した病原体を記憶する細胞”です。免疫システムの中枢になるものですね。この先制攻撃

で、“HIV感染からわずか数週間で・・・体内のヘルパー・メモリーT細胞の量が激減”するようで

す」

「すごい集中攻撃ですね...」

「ええ...イワシの群れのように、どこに頭脳や、“種の共同意識体”があるのか分かりません

が、非常に戦略的に優れています」

「きっと...“36憶年の彼”とのリンクですわ...」

「はい...」アンが、微笑してうなづいた。「ともかく...

  こうして、免疫系指揮管理系統が損なわれてしまい...“二度とは、完全には回復しない”

のだそうです。後は、免疫不全に陥ってしまうわけですね。日和見・感染症(ひよりみ・かんせんしょう)に、

非常にかかりやすい状態になります。そして、やがて彼等の独断場になってしまうわけです」

「あ...ええと...」響子が言った。「日和見・感染というのはですね...

  “感染抵抗力の低下時に・・・非病原性の微生物による感染”...が起こることです。“HIVの

感染”から...適切な治療をしないでいると...“エイズの発症”になるわけですね。ただHIVに

感染しているだけでは、免疫系が破壊されているだけで、エイズ症状症状はありません...」

「そうですね...」アンが言った。「だから、“HIV感染”があっても...

  適切な治療を受け...“エイズを発症させない”ことが大事になります。潜伏期間が非常に長

いわけですから、現代医学研究開発に期待したいと思います。“感染克服者(elite controller)

存在するのですから...必ず攻略法はあるはずなのです」

「はい...」響子が言った。「...ええと...

  エイズの場合...具体的に日和見・感染症は...カリニ肺炎カンジダ症などがあります。

性腫瘍としては...カポジ肉腫悪性リンパ腫があります。神経障害としては...エイズ脳症

知られていますね...」

  夏川がうなづいた。

「つくづく...」響子が、頭を反対側に倒した。「どうして...こんなウイルス存在するのでしょ

うか...

  それにしても、“エイズが・・・発展途上国・・・特に世界の貧困地帯で蔓延”しているというのは、

文明構造の限界を叫んでいるように思われます...こうした意味からも、“文明の折り返し”が、

喫緊の課題となっています...」

「そうですね、」アンが言った。

                          

「ええ...」アンが言って、大きく息を吸った。「狡猾(こうかつ/ずるく悪賢いこと)HIVは、“ヘルパーT

細胞”激しく攻撃すると同時に...“キラーT細胞”から逃げるのもうまくなります。

  HIV細胞へ侵入すると...“逆転写酵素が働き・・・自分の遺伝物質であるRNA情報を・・・

細胞のDNAにコピー”します。ここから、細胞機構を借用しての、膨大な自己増殖が始まるので

す」

 「あ...」響子が言った。「ええと...HIVは、“RNAゲノムを持つ・・・レトロ・ウイルス”です。レト

ロ・ウイルスは、変化が早いのです。少なくとも、mRNA(メッセンジャー・RNA)になる手順が、それだ

け省けることになります...」

「そうですね...」アンが言った。「そして、また...

  HIV大雑把なのか...結果的に巧妙と言えるのか...コピー間違いが多いのです。そ

頻発する間違いのために、子孫ウイルス“変異”が起こるわけです。こうした部分的な変化

というのは、子孫ウイルス自己増殖して行くたびに、くり返し付加されて行くわけですね。

  結果的に...変化が非常に速く...“抗体”追随して変化できないのです。このことが、後

で述べますが、特効薬/ワクチンの作製を、非常に難しくしています」

  響子が、コクリとうなづいた。

「ええと、それから...

  “2個のウイルスが、同じ細胞に感染した場合・・・互いの遺伝物質を交換する”...という現象

が起こります。これは“組み換え”というのですが、これも、“さらに新しい・・・変異ウイルス”を作り

出し...“変化の速さ”に寄与しています...」

“免疫系への攻撃”と...」響子が言った。「“変化の速さ”というのは...HIVの最大の特徴

なるわけですね...?」

「結果的に...」アンが言った。「そういうことになると思います。そのために、私たちの医療

補足するのが、非常に難しくなっています。

  それから、上位レベルの意味では、響子さんの言われるように...“人類文明の暴走に対す

る・・・生態系のホメオスタシスの起動”...といった、構造的な意味になるのだと思います。私も、

根本的には...医学を超えた、生態系レベルでの対処が必要だと考えています」

“文明の折り返し”であり...〔人間の巣のパラダイム〕への移行...という方向ですね?」

「そうです...

  “新型インフルエンザ”や、“新型肺炎・SARS”“ニパ・ウイルス(マレーシアで発生した急性脳炎/新

興感染症の原因ウイルスの1つ)...これ等は、中国大陸南部新興感染症と考えられますが...アフ

リカ型“エボラ・ウイルス”“HIV/エイズ・ウイルス”というのは...これはこれで、人類社会

にとって、独特の凶暴性を感じます。

  それから...“西ナイル熱”“デング熱”も、“地球温暖化”とともに北上し...世界の人口密

集地帯に侵入しつつあります。やはり、構造的意味の考察が必要だと思います。“文明の折り返

し”ということで、現在、パラダイムシフトが可能なものは...〔人間の巣〕だと思います...」

「はい...ありがとうございます、アン」響子が、頭を下げた。

  アンが、微笑してうなづいた。

「そこで...」響子が言った。「私たちが、具体的に、“どういう行動を起こすのか”ということにな

りますね?」

「そうですね...

  こうした“新興感染症・危機”も...このままで推移したら...人類文明壊滅的な打撃を与

えることは明白です...70億に達する人口を、こうした坩堝(るつぼ)に放り込めば、結果的に、

口の激減になるでしょう。でも、これでは、“文明種族/知的生命体”の所業とは言えませんわ」

「はい、」響子が、うなづいた。「それを軟着陸させるのが...〔人間の巣〕の展開です。これは、

《危機管理センター》としての、“総合的//戦略的・危機管理の展望”です...」

  アンが、うなづいた。

“変異”くり返しによる・・・免疫系の混乱!>   

           

「ええと...」アンが言った。「次は、“変異のくり返しによる・・・免疫系の混乱”についてですね。

この問題について、少し詳しく考察しましょう...」

「はい、」響子が言った。

HIVに感染された私たちの細胞というのは...

  ウイルスタンパク質細胞表面に提示(/抗原提示)して、自分が感染されていることを、キラ

ーT細胞に知らせます...ところが、ウイルス“変異”を重ね、多様性が増してしまうと、最初

に提示されたウイルス・タンパク質とは、少々異なったタンパク質になってしまいます。

  つまり...出回っている手配書の人相とは、少々顔が変化してしまうのと同じです。さあ、こう

なると、手配書の顔写真モンタージュ写真は、その意味を失います。免疫細胞では、最初に

提示されたウイルス・タンパク質のデータで、侵入者を追いかけているわけです。でも、その情報

が、急速にズレて行くと言うわけです」

  響子が、うなづいた。

「もちろん...

  “それほどの変異のない抗原”を提示している感染細胞は...キラーT細胞認識され、破壊

されます。ところが、“変異タンパク質を持つ/・・・変異ウイルス”感染された細胞というのは、

キラーT細胞認識されません。つまり、破壊されずに、残存して行くことになります。

  その結果...感染者の体内ではどういう事が起こるかというと...全体が、“変異ウイルス/

変異HIV”に取って代わって行くことになります」

「はい、」

「ええ...これと、ほぼ同じ理由から...

  “最初の感染から3〜4週間後に・・・免疫系によって作られる抗体は・・・感染後期の感染者

の体内にあるウイルス粒子の多くを・・・認識できない状態”

  ...になるということです。適切な治療を行わなければ、感染者の体内HIVの独壇場になっ

て行くわけですね。この状態が、先ほど夏川さんが言われたように、“血漿中・平均3万個/ml

のウイルス量で安定”して行く状況ですわ...」

「うーん...そんな状態になっているのですか...」響子が、口に手を当てた。

「ともかく...

  “HIVの変異体”を、免疫系認識できなくなって行くということですね。そして、この“HIVの変

異体”認識できなくなるという問題は、ワクチンによって作られた“抗体”や、キラーT細胞にとっ

ても同様です。つまり、このことは...ワクチン開発の最大の難関となっているわけです...」

「うーん...」響子が、深くうなづいた。

ある特定のHIV株に対して...」アンが頭をかしげ、髪を揺らした。「強力なメモリー反応を、

クチンで誘導しても...

  後から入って来る別の株に対しては、効果がなかったり...“変異が重なる”につれて...役

に立たなくなるわけですね...ワクチンとしては、ボロボロに敗北した状態ですわ...それは、

私たちの守護神/免疫システムも同様です...」

インフルエンザ・ウイルスで...」響子が言った。「外被のタンパク質が、毎年少しづつ変化して

行くのと似ていますね...でも、HIVの場合は、その“変異が・・・驚くべき速さ”で進行するという

ことですね?」

「そうです...」夏川が、頭の後ろに手を当てながら言った。「...まさに、その通りです...

  “感染から6年たった患者の・・・HIVの外被タンパク質”というのは...“ある年の、ヒト・インフ

ルエンザ・ウイルスの全ての株よりも・・・多様性が高い”...と推定されていますねえ...」

「うーん...」響子が、頭をかしげた。「そう言われても...専門家ではないので、ちょっと見当が

つきませんわ、」

「うーむ...」夏川が、ボンヤリと自分の両手を見つめた。「...いいですか...

  HIVに対する“抗体”や、他の免疫反応を...もし、従来の方法で誘導するワクチンを作るとし

たら...それこそ、“1つの株ではなく・・・数千〜数十万もの異なるウイルス株”に対する、ワクチ

でなくてはならない、ということです」

「はい...」響子が、口に手を当てた。「ともかく...それほど変化が早いということですね、」

「そうです」

臨床試験まで進んだ・・・ 最初のHIV・ワクチン!>  

                  

長期的な戦略で...」夏川が言った。「最も良い解決法というのはですねえ、」

「はい、」響子が脚を組み上げ、夏川の方に肩を回した。

「先ほども話したように...

  “完全排除免疫を作り出し・・・感染を完璧に防ぐワクチン”の製造なのです。そして、それには

最低でも...“全てのHIVを認識/細胞への感染阻止のできる・・・反応性の広い中和抗体”

誘導できるような...ワクチン...でなければ、ならないということです...」

「はい、」響子が唇を引き結んだ。「そうですね...」

「いいですか...」夏川が、体を前に乗り出すようにした。「そもそも、エイズ・ウイルス/HIVが、

ヘルパーT細胞侵入するには...ちょっと難しい話になりますが...

  まず...エイズ・ウイルスエンベロープ/外被にあるタンパク質が...ヘルパーT細胞の側

表面にある、“CD4受容体”と...そして、さらに“CCR5”、または“CXCR4”という別のタン

パク質/共受容体の...両方の受容体結合しなければなりません...

  つまり、この感染初期段階の風景からも分かるように...まず、HIV細胞への侵入を防ぐに

は、“これらの受容体との結合を・・・阻害するワクチン”を、開発すればいいということになります。

これは、非常に単純明快です。そして、まずそれが、ワクチン開発の目標になったわけです...」

「はい...」響子が、無表情に夏川を眺めた。「それが...うまくいかなかったわけですね?」

「そうです...」夏川がうなづき...ボンヤリと、天井を眺めていた。

「夏川さん...」響子が、声をかけた。

「ああ...」夏川が、視線を響子に戻した。「ええ...ともかくです...

  これらの受容体と結合するのは...HIVエンベロープ(外被)にあるタンパク質です。まあ、こ

こに、“抗体”をくっつけてしまえば...もう細胞の側受容体と結合ができなくなり...細胞内

侵入することは不可能になります。

  ところがです...このエンベロープのタンパク質というのは...HIVのどの部分よりも、変化し

やすい部位なのです...なんとも、皮肉です...難攻不落の城の、外堀のようですねえ...」

「そうですか...」響子が、膝に手を置いた。「というか...非常に狡猾ですわ...

  全てに“悪意”がある様な...何かの“意図”が、そこにある様な...“確率論的な偶然”とは、

とても思えませんわ」

「まあ...人間の側から見れば...そうなのでしょうねえ...」

「うーん...

  私たちは...【人間原理空間の・・・人間原理的ストーリイ】の中に棲(す)んでいるのですわ。

自ら構造化した人類文明の...“言語的・亜空間座標”の中で...リンゴの皮のように、リアリ

ティー表裏一体の所に棲んでいるのですわ。

  この、“相互主体的・・・共同意識体”という...“因果律的ストーリイ世界”の中で...“リアリ

ティーから・・・カオスを再構成”しています...その過程で...“何らかの悪意”が反映されてい

るということですわ。

  おそらく、それは...生態系ホメオスタシス(恒常性)の、“治癒のベクトル”から来るものでしょ

う。ホモサピエンスは今、そうした“拠って立つもの”からの、排除攻撃にさらされている可能性

が、濃厚となって来ました。

  そもそも私たちは...こうした戦いに勝てるのか...この戦いは正当なものなのか...という

ことですわ...話が、少しそれてしまったかしら...」

「うーむ...」夏川が、白いガウンのポケットに、両手を突っ込んだ。「...ホモサピエンスに対し

て...“悪意を背負ったウイルス”ですか...はは...響子さんも、悩ましいことを言いますね

え...」

「それは...」響子が、ツン、と顎を上げた。「承知していますわ...

  でも...これは、当/《危機管理センター》からの警告です!当たり前の警告は、各方面から

出されるわけですが、これは、当/《危機管理センター》からの警告です!

  おそらく、〔人間の巣のパラダイム〕推進され...“文明の折りし”が始まれば...“こうし

た意味/・・・悪意”というものも浄化され...後退して行くものと思っています。これはおそらく、

未知の上位システムから来ているものでしょう...」

「そうした事も...」アンが、両腕を伸ばした。「今後の、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”

の中で、本質的な解明が進んで行くのでしょうね、」

「まず...」響子が言った。「そこへ、たどり着くことができるかどうかです。安定するには、“人口

の激減”は不可避です...その過程で、大きな悲劇が起こらない事を、願っています...」

 

「うーむ...」夏川が肩を落とし、顎を立てた腕の上に載せた。「ま、響子さんの警告警告とし

て...話を続けましょう...

  ええと...臨床試験が行われた、最初のHIV・ワクチンの1つ...“エイズバックス(AIDSVAX/

バックスジェン社)は...実際に、エンベロープ/外被タンパク質”に対する、“抗体反応”を引き

起こすように、設計されていました。つまり、細胞の側受容体との結合を阻害するものですね。

  このワクチンは...1998年に、5年間の臨床試験が開始されたわけですが...失敗に終わ

っています。このワクチンによって誘導された“抗体”は、HIVヘルパーT細胞侵入するのを、

防ぐことができなかったのです...ま、細かな検証は、ここでは必要ないでしょう...」

「はい...」響子が、眼を落してうなづいた。

「これは...

  第3相臨床試験まで進んだ、最初のHIV・ワクチンだったわけです...国際的な臨床試験

終わった2003年に、失敗と発表されています。まあ、一言、コメントすれば...このワクチン

感染に対する予防効果は...プラセボ(偽薬)と変わらなかったようです」

「うーん...完全に失敗だったわけですね?」

「そうです」

細胞の乗っ取り・・・ HIVのライフ・サイクル ・・・の考察!>  

            

「さて...」夏川が言った。「ここで...“HIVのライフ・サイクル”の要点を、簡単にまとめておき

ましょうか」

「そうですね...」アンが、モニターをスクロールさせた。

「ええ...

  HIV・ワクチンや、新しい治療法を開発するためには、何はさておき、HIV/エイズ・ウイルス

ライフ・サイクルというもの、熟知しておかなければなりません」

「はい、」響子が、反対側に髪を揺らした。

HIVは...

  宿主細胞に感染/・・・つまり侵入すると...1個のウイルスの単位で...具体的にどういう

事が起こり...増殖して行くのかということです。HIVの場合は、最初にヘルパーT細胞ター

ゲットにするわけですが...ともかく、“HIVのライフサイクル”メカニズムというものを、もう少

し詳しく説明しましょう」

 

********************************************

    【 HIVのライフ・サイクル 】    

 

【感染/第1段階・・・】 

「まず...」夏川が言った。「HIV/エイズ・ウイルス細胞に侵入するには、次のよ

うなメカニズムにな ります...

  HIVエンベロープ(外被)にあるタンパク質が...ヘルパーT細胞表面にある、

“CD4受容体”と...さらに“CCR5”、または“CXCR4”という別のタンパク質/共

受容体両方の受容体に、しっかりと結合します。これはスペース・シャトルが、

宙ステーションドッキングするようなものですね。

  これは逆の言い方をすれば...HIVとは...“CD4受容体=CD4タンパク質”

発現 しているT細胞に感染する...レトロ・ウイルス(/逆転写酵素を持つRNAウイルス)と言

うこともできるわけです。こういう風に、1歩さがって見ることも大事です」

 

【感染/第2段階・・・】

「次に、ウイルス細胞膜に融合しながら...自分の中身/・・・ウイルスのRNA・

ゲノムを、細胞質内に送り込みます...

  ご存知のように...ウイルスというのは、遺伝情報を担う核酸(/DNAまたはRNA)と、

それを囲 む“タンパク殻/キャプシド”るからなる、ごく単純な構造をしています。そし

て、HIVのように、タンパク質・脂肪・糖質を含む、エンベロープ(外被)を持つものもあ

ります...

  そうですね...ウイルスについて一般的な事を言えば...各種のウイルスは、そ

れぞれ特異宿主細胞に寄生して、 その細胞機構エネルギーを利用して、タンパ

ク質の合成や、自己増殖をしています。

 まあ、そうしたウイルスの活動にともない...種々の疾病を引き起こしているわけ

です。例えば、HIVや、インフルエンザ・ウイルスや、SARS(新型肺炎)・ウイルス...

あるいは、西ナイル・ウイルスや、エボラ・ウイルスのようにです...」

 

【感染/第3段階・・・】

「次に...ウイルスのもつ“逆転写酵素”が...ウイルスRNA・ゲノム鋳型にし

て、2本鎖DNAを作ります。これは、通常の細胞増殖“転写”とは異なり...RNA

・ゲノムDNAを作るという、逆転していることになるので、“逆転写”と呼ばれている

わけですね。

  まあ、mRNA(メッセンジャーRNA)からDNAを合成する反応は、“逆転写”と呼ばれるわ

けです。ちなみに、これによって出来上がったのは、“HIVの・・・DNA”ということにな

ります...

  そして、この、“逆転写で生じる多くの間違いが・・・HIVの多様性を生み出している”

というわけです...この、RNA情報DNAへのコピーが...方法が大雑把で、間違

いが多いということですねえ。

  はは...響子さんは、まさにこのことに腹を立てているわけですね...“わざと間

違えている”のではないのかと...うーむ、そうなのかも知れません...まあ、HIV

聞いてみなければ、分かりませんがね...」

 

【感染/第4段階・・・】

「さて、次は...

  “HIVのもつ逆転写酵素とは、別の酵素・・・インテグラーゼ”が、“逆転写”で作った

“HIVの・・・DNA”を、“宿主細胞の・・・DNA”挿入します。そして、さらに...“細胞

機構は・・・ウイルス遺伝子を・・・RNAに転写し直す”のです。ここには、ウイルス・タ

ンパク質鋳型となる、RNAも含まれているわけですね...

  少々ややこしくなりますが...こういうことが観察されていると理解してください。実

際には、はるかに複雑で、精巧で深遠なことが、行われているわけですね。これ以

上の詳しいことは、専門書の方でお願いします...」

 

【感染/第5段階・・・】

「次に...ウイルスが関与し、“細胞機構によって・・・正常に転写し直された・・・新た

なRNA”ですが...これは細胞質の方に移動します。そして、細胞リボソームの働

きによって、“遺伝子が翻訳されタンパク質”が作り出されます。しかし、これはつまり、

HIVのタンパク質ということですね...」

 

【感染/第6段階・・・】

「ええ、次に...ウイルスのRNAと...ウイルスのタンパク質が...細胞膜の近く

に輸 送され ます。そこに集まって、ウイルス粒子が出芽するわけですね...これは、

細胞に侵入す る時とは逆に...細胞から外に出て行く準備...をするわけです」

 

【感染/第7段階・・・】

「最後に...“HIV・プロテアーゼ”(/プロテアーゼとは・・・タンパク質分解酵素。タンパク質のペプチド

結合を、加水分解する酵素の総称)によって...ウイルス・タンパク質鎖が切断され...新し

い未成熟ウイルスが、細胞表面から離脱して行きます...

  この時はまだ、未成熟ウイルス粒子ですが、やがて感染能力を持つ、成熟ウイル

になるわけです...」

 

「ええ、これが...

  “HIVのライフ・サイクルの概略”です...そしてこの時、爆発的な増殖が起こるわ

けです。また、増殖したウイルスが、さらに別の細胞に大量感染し、膨大な数量に膨

れ上がって行くわけです。

  感染初期に、風邪のような発熱があるのは...ウイルスの増殖自然免疫系との

攻防です。これは、風邪・ウイルスや、インフルエンザ・ウイルスとの攻防も同様です」

 

**********************************************

 

  〔3〕 戦略の変更・・・?     house5.114.2.jpg (1340 バイト)

   予防・ワクチンから、発症防止・ワクチン探索

         

「これまで...」アンが、指で赤毛をすいた。「臨床試験が行われた、HIV・ワクチンと いうのは、

いずれも...“HIVの細胞への侵入を防御/個体への感染を防御・・・するまでの力”は、ありま

せんでした。

  まさに...このために...“理想的なHIV・ワクチンの開発”が、非常に難しくなって います。

むろんこうした、“理想とする=予防・ワクチン”を、諦(あきら)めたわけではありません。でも現在

は、“次善の策=発症防止・ワクチン”の方へも...探索の手が広がっています」

「はい...」響子が、襟足(えりあし/襟首の髪のはえぎわ)を押さえた。「...発症を抑え...また、

の人への感染リスクを低下させるという、“次善のワクチン”ですね」

「そういうことです...

  こうした、“発症防止・ワクチン”は...“感染細胞を破壊する準備を整えた、キラーT細胞を誘

導し・・・感染初期に、ウイルス濃度が急増するのを防御”します。また...“その後も・・・ウイル

スを非常に低い濃度に保つ”ことを、目的とします...」

「はい、」響子が、唇を引き結んだ。

「つまり...

  予防線ではなく...実質的な防衛線で...ウイルスの増殖を抑え込むわけです。戦争に例

えるの は、あまり好きではありませんが...領空/領海の防御から...上陸後の地上戦での

防御とい うことになるでしょうか...したがって、リスクも伴います」

「はい...それなりの、リスクがあるわけですね」

「そうですね...

  でも...感染・初期/急性・感染期に...HIVの複製を抑制できれば...体内のヘルパー

T細胞/免疫系の司令官を、かなり救うことができるかも知れません。このことは、後の免疫系

の展開で、非常に有利になります。

  また、軍事組織に例えますが...圧倒的な奇襲攻撃を受けても...1人でも多くの司令官を

残すということは、重大な事態に陥るのを防ぎます...もちろんこれは、HIV感染では、“私たち

/感染者”にとっては...大変望ましい状況になるわけです」

「うーん...でもそこが...HIVの狡猾な所ですね...

  感染・初期において...まず、ヘルパーT細胞集中攻撃するというわけですね。彼等は

略・戦術というものを、よく心得ていますわ...HIVの方が1枚上手なのではないかしら...」

「そうですね...」アンが、口に手を当てた。「ええ...ともかく...

  HIVは、“感染後・・・最初の3週間/21日間で・・・多くのヘルパーT細胞を破壊”するようです。

中 でも、最も激しく攻撃されるのは、ヘルパー・メモリーT細胞だと言われます。“免疫系の記憶を

つかさどるT細胞”ですね」

「はい、」

「この、ヘルパー・メモリーT細胞の...

  “一度、遭遇したという記憶・・・抗原/異物の克服記録データ”こそが...免疫システムの中

なのです。それがあってこそ、“膨大な免疫システム/高度な自己防衛システムが・・・再度遭

遇した時・・・完全な克服データの照合により・・・適切な対応が可能”なのです...

  これは、非常に優れた自己防衛システムです...ワクチンはこの機能を借用して...“弱毒

菌”“死菌”を使 って...予防線を張ったり、特効薬とするわけです。

  例えば...インフルエンザ・ワクチン予防・接種するようにです...そして、HIVに対しても、

こうした予防・接種するのが理想的なわけですわ...だから、どうしても、HIV・ワクチンが欲し

いわけです。

  後で述べますが...薬剤/新薬よりは、特効薬HIV・ワクチンの方が...“エイズ・克服の

決定打”になるということです。

  “新型インフルエンザのパンデミック”に対してもそうですが...“タミフル”“リレンザ”等の

薬剤/新薬は...新しい株から、特効薬・ワクチンが作られるまでの、ツナギなのです。逆に言

えば、ワクチンとはそれほどの威力のあるものなのです...」

人類文明の、防衛ラインということですね...

  ワクチン抗生物質というのは、それぞれ強力な防衛ラインなのですね...ところがHIVは、

まさにそのワクチン/免疫システムにとって、とんだ難敵だったという わけですね...故意に、

そこん集中してきた“天敵”のようなものかも知れませんね...」

  アンが、ゆっくりとうなづいた。

“天敵”は、大げさだと思いますが...確かに生態系というのは、そういうシステムで成り立っ

ています。ホモサピエンス生態系の頂点に君臨し、いわゆる“天敵”はいないわけですが、そ

のことが未曾有の、生態系がどんどん破壊されて行くほどの...大繁殖になっているわけです」

「つまり、“天敵”が出現して当然という...?」

「さあ...私の立場では、それほど大胆なことは言えませんが...そうですね、何かがあっても、

おかしくはない状況ですね...」

                                      
           

「ええと...」響子が言った。「ひとこと、言わせて下さい」

「はい、どうぞ...」アンが顔を上げ、いつもの顔で響子を眺めた。

「ともかく...」響子が、考え込むように言った。「地球表面において...

  ホモサピエンスが異常繁殖加速させ...生態系全体の危機を作り出しました。そして、そ

れと並行して...HIVのような“新興感染症”が、“天敵として登場”してきたのだと、私は思って

います。HIV 感染者は、この犠牲になっているのだと考えています。今後、こうしたパンデミック

で、人口が激減して行くこと も、十分に予想されます。

  あ...前にも言いましたように...私はこれが、生態系のホメオスタシス(恒常性/・・・治癒力)

ら来ていると考えています...大量発生したネズミバッタイナゴなども...全て大自然の

環境圧力が、種を適正な数量まで減少させて行きます。

  ところが...科学技術文明を持つホモサピエンスの場合...非常に厄介な状況ですわ。その

ニッチ(生態的地位)を、科学技術力でどんどん拡大して行くからです。そして、そのことは、一方で、

大自然を無制限に破壊してきました。

  でも、い よいよ...“ホモサピエンスの文明に対応した、高度なメカニズムが・・・生態系のホ

メオスタシス/治癒力として・・・起動/スイッチがオン”になったという実感を持ちます...い

よいよ、“生態系の意識”が動き出しているようです...

  折しも...ホモサピエンスは、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代に突入して行く

わけですが...」

「そこが、大事な所ですね...」アンが言った。「その...鋭い響子さんの、実感というのが、」

「鋭いかどうかは、私には分かりませんが...その確信はあります...

  こんな状況下にあっても...日本厚生労働省は、“少子化対策”旗振りをやっていま す。

人口を、増やそうというわけですね。政府も同様です。こうした事態が、腰の定まらない政策を生

み出し...“国策/国家の舵取り”を、大きく誤らせている観がありますわ...

  ともかく、今必要なことは...“急激な人口の減少”と...“反グローバル化/文明の折り

返し”です。 そうした方向で...全体状況の改善を行わなければ...“生態系のホメオスタシス

/生態系の治癒力が・・・人類文明の排除の方向で動く”...ということですわ」

「はい...」アンが、丁寧に頭を下げた。「ご苦労様でした」

                              

「ええ、話をもどしましょう...」アンが、テーブルの上で腕を立てた。「いいかしら...

  “HIVの感染初期/急性感染期/最初の3週間の攻撃後・・・激減したヘルパー・メモリーT細

胞の数が・・・2度と、完全には、回復することはない”、ということです。でも...“感染初期/急

性感染期に・・・HIVの複製/増殖を抑制すれば・・・ヘルパーT細胞/免疫系の司令官を・・・か

なり救うことができる”...ということですわ。

  “発症防止・ワクチン”で...このヘルパーT細胞/免疫系の司令官を守るこ とによって、

はあったとしても...エイズの発症を引き起こす、“全体的な免疫能力の低下”は、防げるか

も知れないのです...その可能性があるということです」

「うーん...」響子が言った。「感染初期/急性感染期が、非常に大事なのですね...後で話

の出 てくる...ここを、“薬剤で激しく叩く”というのも、そういうことなのですね」

「そうですね、」

「ともかく...

  ヘルパー・メモリーT細胞には、できるだけ多く生き残って欲しいわけですね。 そう すれば、何と

かシステムを再編成して、HIVに対し組織的な抵抗できるわけですね。すごく勤勉で、優秀な司

令官ですから...」

「そうですね...」アンが、椅子の背に体を倒した。そして、脚を組み上げた。「まさに...“私の

守護神/私の有機的アイデンティティーの防護・司令官”ですわ。大切にしてあげたいですね。

本当に、 若者には、自分自身の身体を、大切にして 欲しいと思います...」

「はい...」響子が、うなづいた。

「ええと...

  先ほど、夏川さんが言われ たように...“治療行為を全くしていない感染者の場合”は、“急

性感染期に、ウイルスが急増した後・・・血漿1mlあたり・・・平均3万個のウイルス濃度で安定”

し ます。

  そして、これまでの観察研究では...“血漿1mlあたり・・・1700個以下のウイルス濃度では

・・・パートナーに感染させるリスクは小さい”という ことです。

  したがって、“完全排除・免疫//予防・ワクチン”は困難だとしても...“ピーク時のウイルス

濃度を抑え込み・・・常在するウイルス量を・・・1700個/ml以下に低下させるワクチン・・・発症

防止・ワクチン・・・この辺りが、1つの戦略的ターゲット”になるということです」

「うーん...」響子も、ゆっくりと脚を組み上げた。「それは分かりますけど...ずいぶんと、目標

が下がった ものですね、」

「しかたありませんわ...」アンが、指を組み合わせた。「当面は、次善の策で対処して行くしか

ありません。そして、これすらも、“青信号”とい うわけではありません。それについては、これか

ら話 します」

「はい...」響子が無造作に、左手首の時計を掴んだ。そして、チラリと時間を見た。

  アンが、モニターを眺めた。夏川の方は、モニターで何かを検索していて、それをチャッピー が

見ていた。

                        

「ええ...」アンが、モニターを見ながら言った。「響子さん...」

「はい...?」

「ともかく...

  “キラーT細胞が・・・ウイルス量を抑制するのに・・・重要な役割”を果たしています。これ は、

“ヒト・HIV感染”で も...“サル・SIV(サル免疫不全ウイルス)感染”の研究からも、分かっていますわ」

「はい...」響子が、アンの横顔を見つめた。「つまり...

  “ウイルス量を低レベルに抑え込むような・・・ワクチン開発は・・・有効”...ということです ね。

“カギは・・・キラーT細胞”だと言うことですね...?」

「あ、そうですね...」アンが、はっと振り返って、微笑した。「ええと...それから...

  これも、キラーT細胞が関連しているのですが...例の、“感染克服者(elite controller)の現象”

があります...“HIV感染を克服したヒト”の存在が、厳然ありますわ。彼等は、どのようにして、

HIV感染を克服できたのかということです。その“教科書/虎の巻”が、私たちの目の前に存在

す るのです」

ブラックボックスですけが...やがては解読されると?」

「ええ...」アンが、強くうなづいた。「もちろんです...

  こうした、“珍しい・・・ヒト感染者のケース”や...“サル感染個体の大半”はそうらしいので す

が... このような“感染克服のケースというのは、特定の型のMHC(主要組織適合性抗原)分子”

を持ってい るようです...

  ええと...“参考文献”からは、詳しいことは分かりませんね...ともかく、細胞表面“抗原

提示される・・・MHCというのは...“最初にキラーT細胞を刺激する時に働く・・・重要なタンパ

ク質分子”...だということです。

  免疫細胞が...これらの“抗原提示・情報”認識して、ヘルパーT細胞/免疫系の司令官

報告することにより、膨大な免疫システム起動するのです。“抗原/異物”指名手配写真/

タンパク質情報が...機動捜査隊/破壊工作隊インプットされるようなものかしら...」

                                     < MHCに関する関連データは、こちらへ ・・・> 

「うーん...」響子が、首をかしげた。「特定の型のMHC分子”というのは... どういうことか

し ら...?」

  アンが、夏川の方を見た。

 

「まあ...」夏川が、白いガウンを肘まで押し上げた。「...それがスッキリと、完全に解明さ れ

ているようであれば、問題解決なのかも知れません...しかし、そうしたことはまだ、生命の神

秘のベールの向こう側にあるのでしょう...

  しかし、仮に...問題解決で、人間が万能者に近くなれば...さて、どうなのでしょうかねえ。

この 先、地球生態系はどういうことになるのでしょうか...やはり、地球生態系パンクしてしま

うの でしょうかねえ...そ うならば、“真の万能者/神”にならなければなりません...」

「はい...」響子が、口に手をやった。「そうですね...

  《当ホームページ》でも...《神と霊魂の融合》の企画 を進めていますが...うーん...そ

の道は、はるかに遠いものと思います...」

綾部沙織さんのやっている、あのページですね...」夏川が、髪をパラリとかき上げた。

「そうです...まだ、あまり進んでいないようですが、」

「はは...」

Ad5(5型アデノウイルス)/風邪ウイルスに、       

  3つのHIV遺伝子を組み込んだ発症防止・ワクチンの顛末・・・>

          

「さあ...」アンが言った。「また、脱線してしまわないうちに、話を進めましょう...

  ええ、数々の証拠から...“キラーT細胞が・・・“ウイルス量の抑制に重要な役割を果たして

いる”、ことが分かっています。そこで...“HIVを攻撃する・・・キラーT細胞の誘導を目指した

ワクチン開発”が、試みられました。

  これは関係者をはじめ、世界中の大きな期待の中で、臨床試験に臨みました。ニュースなど

で、 ご存知の方も多いと思います。

  これは、夏川さ ん...メルク社が開発し、2004年臨床試験に入った、“Ad5・ワクチン”

したね...2007年に、打ち切りになっていますが?」

「ええと...そうです...」夏川が頭に手を当てながら、モニターからアンの方に肩を回した。「

ルク社の...“Ad5・ワクチン”です...

  まあ、正確には、“ワクチン・候補”だったということですね...あれは、“5型アデノウイルス/

Ad5”という風邪・ウイルスに...3種類のHIV遺伝子を組み 込んだものです。それを、細胞に

感染させ、細胞HIVタンパク質を作るのを待ちます。

  そして、“期待どうりのHIVタンパク質ができれば・・・免疫系はHIVに感染されたと勘違いし、

防御反応を開始する・・・だろう?・・・”...というものでした。

  ちなみに...“Ad5・ワクチン”に使われた、“3種類のHIV遺伝子/3種類のHIVタンパク質

(/遺伝子はタンパク質に対応する)というのは...“Gag”“Pol”“Nef”というタンパク質です。これら

は、様々なHIV株においても、“比較的変化しにくいもの”でした」

「でも...」アンが、口にコブシを当てた。「残念ながら、失敗したわけですね」

「まあ...

  この、“キラーT細胞によって・・・免疫反応を誘導する方法”は、大いに期待されていたのです。

しかし、うまくいかなかったわけですねえ。このワクチンに対する被験者のT細胞反応は、平均

すると、“比較的弱いものだった”と言われています」

「ふーん...」

“感染克服者(elite controller)というのは...

  “ワクチンなしでも・・・本人の免疫系によって・・・ウイルスの複製が抑制”されます...この、

“感染克服者T細胞反応と比べると...それはおよそ10〜 20%のレベルにとどまって いた

ようです。

  さらに、“ワクチン接種の被験者の反応”の場合は...免疫系の攻撃対象になったのは、ウイ

ルス・タンパク質3つの領域に限られていました。しかし、“感染克服者の反応では、“Gag/

タンパク質”に対するものだけでも...ええと...3〜6種類の特異的な反応領域があるという

ことですねえ。

  つまり、“Ad5・ワクチン”T細胞反応は、予想外に弱かったということでしょうか...まあ、詳

しいことは、“参考文献”の資料からは分かりませんが...」

「どこが...」アンが、夏川の顔をのぞき込んだ。「悪かったのでしょうか?」

「難しい質問ですが...“参考文献”では、こう言っています」

「はい...」アンが、口にコブシを当てた。

                           

「何故...」夏川が、響子の方にも顔を向けた。「失敗したのかということですね?」

「はい...」響子が、髪を揺らした。

「このメルク社“Ad5・ワクチン”は...どうして、“HIVの複製を・・・抑制することができなかっ

たのか?”ですね...

  まず、HIV遺伝子の運搬役として...“5型アデノウイルス/Ad5”を使ったのが、間違い

はなかったのか、ということです。それとも、選択した3つのHIV遺伝子間違いであり、適切で

は なかった、ということも考えられます。あるいは、その両方が不適切だった、という可能性もあ

り ます」

「うーん...」アンが、眼鏡をはずし、テーブルに置いた。

「いいですか、アン...」夏川が言った。「もともと...

  “5型アデノウイルス/Ad5”では...“HIV感染を十分に抑制できるほど・・・強力で、広範な

細胞性・免疫反応を、刺激できていないという可能性”があります...」

「はい...」アンが、眼鏡をかけ直した。

「多くの人が、このありふれた風邪ウイルス感染したことがあり...すでに、このウイルスに対

する、免疫反応を成立させて います。

  したがって...“Ad5に対する・・・特異的な抗体が・・・体内に存在”しているせいで...“細胞

に感染できる・・・Ad5・粒子の数が限られ・・・HIV遺伝子を運ぶという効果”が、弱くなったの か

も知れないのです」

「うーん...」響子が、腕組みをした。「...なんとなく、分かりますけど...」

「まあ...」夏川が、顎をこすった。「これと同様にですねえ...

  “5型アデノウイルスに・・・特異的なキラーT細胞が・・・すでに体内に存在”し...ワクチン

対する初期・免疫反応を開始していた可能性があります。そのせいで、“HIVを攻撃するT細胞

の反応効果/反応範囲を・・・狭めてしまった可能性”...というのも、あるかも知れません。

  それから...もともと、“選択した、3種類のHIV遺伝子/3種類のHIVタンパク質では・・・ウ

イルスを抑え込むには不十分”だったという可能性もあるわけです...」

  それだけ言うと、夏川は両手を組み合わせ、強く口を押しつけ、考え込んでしまった。

“生ワクチン” ・・・ “弱毒化したHIV”では?>    

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「ええ、では...」アンが、響子の方に言った。「私の方で...

  “弱毒生ワクチン/・・・弱毒化したHIV”...を使ったら、どうなのかということを、少し考えて

みましょう」

「あ、はい...」響子が、リラックスするように、体を左右に大きく揺らした。

「ふふ...いいかしら...」アンも、首をゆっくり回した。

「どうぞ...」響子が言った。

「響子さんが...先ほど、ワクチンの概略について解説してくださったように、ワクチン大きく3

つに分類されます。

  “弱毒菌/・・・弱毒化した菌を用いる生ワクチン”...これは、BCG痘苗(とうびょう)ポリオ生

ワクチンなどに用いるわけですね。それと、“死菌/・・・殺した菌”は...チフスコレラインフ

ルエンザポリオ・ソーク・ワクチンなどに用います。

  それから...“無毒化毒素/トキソイド、アナトキシン/・・・細菌などがつくる毒素や蛇毒など

を・・・ホルマリンで処理して毒性を除去・・・抗原性だけを残したもの”、があるわけですね。これ

は、ジフテリア破傷風ハブやマムシの毒蛇などに用いるわけですね...」

「はい、」響子が、うなづいた。「そこで...“弱毒化したHIV”ではどうなのか...という確認で す

ね?」

「そうですね...」アンが、小首をかしげた。「でも、確認ではなく...少々触れてみるとい う程度

です」

「はい、」響子が、微笑した。

「ええ...いいかしら...

  “Ad5・ワクチンで作られる・・・HIV・タンパク質の数が・・・非常に限られている”...のとは、

対照的なのですが...“弱毒生ワクチン/弱毒化したHIV”を使う方法ならば、“Nef・タンパク

質”の一部を除く...“あらゆるウイルス抗原”を作れるのだそうです...」

「はい...」響子が、ボンヤリとうなづいた。

「ええ...」アンが、モニターに目をやり、眼鏡を押した。「そうですね...

  実は...“弱毒生ワクチンを使う方法は...SIV(サル免疫不全ウイルス)を使って、サルでの実験

が行われています」

「はい。」

生ワクチンというのは...

  もちろん...天然のウイルスよりは、毒性が弱いわけですね...これを、ポリオ・ワクチンと同

じよ うにサルに接種するわけです...“SIV・ワクチンは、接種を受けたサルの体内で・・・複製す

る”わけです ね」

  響子が、うなづいた。

接種後は...

  “ワクチンに使われたウイルスとは、大きく異なるSIV株への感染に対しても・・・しっかりとサル

の身体を防御”...してくれるようですわ...」

「それは...ワクチンとしては、理想的ではないかしら?」

「そうですね...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。「でも...残念ながら、そう簡単には行かな

いのです。現実は、その先から、かなり複雑になります。

  響子さんが言うように...狡猾なのか...トボケを決め込んでいるのか...シブトイのか、 と

もかく、一筋縄ではいかないのです...」

「うーん...」響子が、納得するようにうなづいた。「これまでの、25年の経緯からすると...

  私たち の側が、“負け癖”が付いてしまった観がありますね...」 

「でも...」アンが首をかしげた。「そうでもありません...

  現代医学は、“完全排除・免疫”には失敗していますが...ウイルス量を押さえ、“エイズの発

症を 抑える”ことは、可能になっています...もちろん、とてもとても、十分と言えるものではあり

ません が、」

「そうですね...」響子が、小さくうなづいた。

 

                 
  
    

アカゲザルというサルは...」アンが言った。「HIVと非常によく似たSIVに感染しやすいため

に、エイズ研究重要なモデルになっています。

  これらの実験では...“弱毒化したSIVから作った・・・生ワクチン”は、何年間アカゲサルを、

“SIV感染から完全に防御”してくれるようですわ...」

「はい、」

「でも、残念ながら...

  “弱毒化した株が・・・最終的には自分自身を修復し・・・元の弱毒化していないSIVに回帰”

てしまうそうです...それで、結局どうなってしまうかというと...“サルは・・・ワクチンを原因と

するエイズのために・・・死んでしまう”ということです...」

“生ワクチンが原因で・・・エイズが発症”してしまうということかしら?」

「そうです。でも、全てがそういう結果になる、ということではないようです...

  “生ワクチンに使用した・・・弱毒化ウイルスが変異・・・完全なSIVに戻り・・・死んだ例も報告

されている”...という事のようです。どのぐらいの割合で起こるのかは分かりませんが、“無視

できるものではない”と言うことでしょう...」

「...」響子が、うなづいた。

「その上...さらに...

  “ワクチンと・・・実験に使われたウイルスが一緒になり・・・致死性の新しい株が生じる”という

こともあるようです。したがって安全面を考えれば、“弱毒化したHIVを・・・ヒトのワクチンとして

使うのは・・・難しいだろう”...と考えられています」

メルク社“Ad5・ワクチン”とは対照的に...」響子が、両腕をしぼった。「“あらゆるウイルス

抗原”を作れても...“弱毒菌が・・・元の強毒ウイルスに回帰してしまう”...という ことですか

あ...」

「でも...」アンが言った。「サルが...

  “長期間、完全に防御され・・・エイズを発症しない”という...その実績の理由を解明できれ

ば...“効果的なワクチンとしては・・・どんな免疫反応を誘導するべきなのか”という...その

道筋が見えて来るのかも知れません」

「はい...」響子が、細い指を組んだ。「“感染克服者(elite controller)が、目の 前に存在するとい

うことは...“パズルには正解がある!”...ということですね?」

「その通りです!」

 

「ええ...」響子が言った。「そうであっても...何度も言うことですが...

  このような、戦術的・対処では難しい天敵は...戦略的・対処で圧倒すべきなのです。 ここで

も、“反グローバル化/文明の折り返し”が、根本的・解決策だということです。長期・戦略的

に は、〔人間の巣のパラダイム〕へ移行することです。

  それで...“文明と構造的な対立関係にある・・・感染症・パンデミック問題”は、根本解決

向かいます」

長期戦略としては、」アンが言った。「そうでしょうね...

  でも現実に...HIVは、パンデミック=世界的大流行を引き起こっているわけです。そして、

“感染克服者存在するわけです。“HIV克服の正しい道”は、確実に存在するのです。 私たち

は、“世界中の、現在の感染者”も救い、〔人間の巣〕軟着陸して行きたいのです...」

「はい...」響子が、まばたきした。

 

  〔4〕 HIV・ワクチンの歩み           

                     

「ええ...」夏川が言った。「ワクチン開発の歩みについて、年代順に簡単に述べておきましょう

か...これは、HIVを特定して以来の、25年の歩みそのものでもあるわけです」

「そうですね、」響子が言った。「重複になる部分もあると思いますが...分かりやすい説明で、

お願いします」

「はい...

  ワクチンに関して、大きな出来事としては...ごく大雑把に、1984年1998年2003年

2004年2008年の、5つに分類することができますかね...以下に、その年の出来事につい

て説明します...」

 

********************************************

     【 HIV・ワクチンの歩み・・・ 】    

 

1984年...

1984年4月23日...

  アメリカ/保健福祉省/マーガレット・へクラー長官と、アメリカ/国立ガン研究所

/ロバート・ギャロは、“エイズの原因であると考えられる、ウイルスが発見された”

発表しました...これが、現在/2009年から25年前の...“HIVの単離”です。

  へクラー長官は、報道陣に対し...“病原体/HIVが判明したので・・・2年ほどあ

れば・・・HIV・ワクチンの臨床試験を行えるようになるだろう”...と、誇らしげに宣言

し たと言うことです...」

 

1998年...

バックスジェン社“エイズバックス”は...

  第3相・臨床試験まで進んだ、最初のワクチンです。このワクチンは、HIVの表面に

ある“エンベロープ(外被)のタンパク質”に対する、“抗体産生”を刺激するように 設計

れたものでした。

  しかし...国際的・臨床試験が行われた後、2003年失敗だと発表されています。

こ れについては、先ほども述べていますが...“HIV感染に対する予防効果は・・・プ

ラセボ(偽薬)と変わらなかった”...と言うことです」

 

2003年... 

アメリカタイは...

  “カナリア痘ウイルス”で免疫系を刺激し、“エンベロープのタンパク質”に対する

細胞反応を誘導するように設計したワクチンの...大規模・臨床試験を開 始しまし

た...

  しかし...小規模な実験で、ワクチンに対する弱い反応しか見られなかったため、

開始時には多くの研究者が、公然とこの臨床試験に反対しています。

  最終結果は、2009年に出るとありますが...さて、2009年現在/明るい予兆

はあるのでしょうか?」

 

2004年... 

「これは、メルク社“Ad5・ワクチン”です...

  すでに述べたように、“Ad5/5型アデノウイルス=風邪ウイルス”に、3つのHIV

遺伝子を組み込んだワクチンです。このワクチンも、“T細胞を誘導”するように設計

れたもので...接種された人に、強い免疫反応をもたらしました。

  しかし、それにもかかわらず...“ワクチン接種した群が・・・プラセボ(偽薬)投与群

より・・・感染する人が多い”...ということが判明し、2007年臨床試験が打ち切り

となっています...失敗の原因究明は、現在も続いているようです」

 

2008年... 

「これは...現時点では昨年ということですが...

  HIV遺伝子を...“環状DNA/プラスミド”と、“Ad5/5型アデノウイルス=風邪

ウイルス”に組み込んで、順番に投与するHIV・ワクチンの...国際共同・臨床試験

が...2008年9月開始される予定でした。

  しかし...アメリカ/国立衛生研究所(NIH)/国立アレルギー・感染症研究所/ア

ンソニー・ファウチ所長が...“このような大規模・臨床試験を、指示する証拠がない”

と述べ...2008年7月見送りを決断しています。

  ちなみに...この“PAVE100”と呼ばれる国際共同・臨床試験には...世界中で

合計8500人が参加する予定になっていたそうです。非常に大きな期待があったわけ

ですね...それを思うにつけ、非常に残念です...

  これも...小規模・臨床試験では...このワクチンによって誘導された免疫反応

いうのは...“メルク社のAd5・ワクチンと・・・実質的に差がなく”...見送りが決定

れたというわけです...」

 

*********************************************

 

   〔5〕 問題点の整理新しい流れ・・・  

 

        wpe73.jpg (32240 バイト)     

「ええ...」アンが、作業テーブルに両腕を置き、上体を前に乗り出した。「ともかく...

  2007年の、“Ad5・ワクチン(/メルク社)臨床試験・打ち切りは...HIV・ワクチンの開発史

においても、特筆すべき大打撃/戦略的な撤退となる、大きな出来事でした。1時的にせよ、

代医学敗北を認め、“戦略的な立て直し”に追い込まれたからです。

  HIV・ワクチンの開発史などという言葉を使いましたが...医学史的に見ても、そうした歴史

的なメルクマール(目印、指標)にな るものだったということですね。今後、エイズ戦略感染症パン

デミック戦略が、どのような展 開になろうとも...1つの大きな撤退でした...

  この、“Ad5・ワクチンの沈没以来...“HIV・ワクチンは、本当に可能なのだろうか?”...

と いうことが、大っぴらに議論されるようになったと言われます。事態は、25年に及ぶ敗北の連

の中で、それほど深刻にいびられ、かつ、絶望的なまでに打ちのめされていたのでしょう。

  もちろん、それ以上の落胆を強いられたのは、世界中でワクチンを待ち望んでいた感染者

あることは、言うまでもありま せん。特にHIVは、無辜(むこ/罪のないこと)の貧困地帯で、感染が拡

しているわけですね」

「うーん...」響子が、顎をしぼった。「研究者も、“負け癖”がついてしまったと言うことかしら、」

「でも...」アンが、悲しそうに唇を引き結んだ。「それが、厳然たる事実だということですわ」

「そうですね...」響子も目を落とした。

2007年/・・・大きな期待の中での、臨床試験・打ち切りを受ける形で...

  既存のワクチン候補も、慎重に見直を迫られるという運びになったわけです。臨床試験は、

大な予算と、大きな患者のリスクをともなうわけですね。現在、大規模な臨床試験が行われてい

るのは、タイで実施されている2008年中に終了予定(/?)のものだけだそうです。

  あ...この辺りは、“参考文献”でも年月日が錯綜しています。最終結果は、2009年に出る

とあったり...2008年には終了したはずだったりです。ですが、ともかく、この臨床試験失敗

だったということでしょう。今/現在、良いニュースは無いのですから...」

「これで、」響子が言った。「全部なのでしょうか...?」

「ごく近い将来において...大規模な臨床試験が予定されているワクチン候補は、皆無です。

  もちろん、有望なワクチン候補があれば嬉しいのですが、そうしたものは無いということでしょ

う。重要な研究継続していますが...この厚い暗雲を突破するほどの、斬新なワクチン候補

は無いのでしょう...人類文明は、HIVというものを甘く見ていたようです...」

「まさに...

  HIV・ワクチン構想敗北し...私たちは、“戦略的な立て直し”が迫られているという状況な

のでしょうか?」

「そうですね...」アンが、厳しい口ぶりでうなづいた。「そういう事だと思います...現状を言う

と、“HIVの高い多様性は・・・依然として、ワクチン開発の大きな障害”になっています。

  感染者の体内で...HIV“変異”“組み換え”を、高頻度で起こします。そのために、“ワク

チン接種をしても・・・ワクチンに使われた株とは10%以上も異なるウイルス株に・・・再度感染す

る可能性が高い”のです。

  このために...ワクチンHIVの多様性に追いつけず、力尽き・無力化して行くわけですわ。

免疫システムにとって...“免疫系に特化して攻撃してくるHIV・・・CD4受容体=CD4タンパク

質を発現 しているT細胞に感染するウイルス”は...まさに“天敵”のようなものです...

  “司令官/ヘルパーT細胞を先制攻撃”されたり、“免疫抗体に対して激しく変化”したり、“休

眠状態で潜伏”したりで...翻弄(ほんろう)されたあげく、最後には負けてしまいます...つまり、

非常に“狡猾”(こうかつ)なのです...」

「でも...今さら言うのもなんなのですが...どうしてこんなウイルスが存在するのかしら?」

「本当に...」アンが、ため息とともに言った。「...響子さんの言う通りですわ...

  人類文明と対立する感染症パンデミックの、智慧のようなものが背後にあるようですわ...」

 

キラーT細胞・誘導ワクチン の周辺・・・>     

            wpe73.jpg (32240 バイト)    

 

「ええ...」夏川が二人を眺め、ゆっくりと片手を立てた。 「いいですか...

  前にも言いましたが...HIVの、エンベロープ(外被)・タンパク質を作るcnv 遺伝子”というの

は、非常に変化しやすいのです。

  実は、“ここに蓄積した変異”は...“HIV株のグループ分けの指標”として使われていほどな

のです」

「あ、そうなんですか?」響子が言った。

「はい...」夏川が、うなづいた。「HIV株のグループには...、などがあり、さらにサブ

タイプ(分枝群)に分かれています。

  ちなみに、エンベロープ・タンパク質アミノ酸配列は...分枝群によっては、最大35%も異

なることが明らかになっています。また1つの分枝群の中でさえ、アミノ酸配列の多様性は20%

に達するそうです」

「ここには...」響子が、髪を押さえた。「ものすごい...多様性のベクトル(/力と方向)が、存在/

・・・発現しているわけですね...稀にみるような、ダイナミックな多様性の発現が...」

「うーむ...」夏川が、腕組みした。「そうですねえ...

  稀に見るというよりは、異常ではないでしょうか...まあ、自然界が標準であって、それを

と言うのは人間のエゴなのかも知れません。私はHIVの専門家ではありませんが、“狡猾”と、

専 門家は言いますね...そこに、ある種の“意図/意志”の流れを感じ取っているからでしょう」

「はい、同意見ですわ...」

「確かに...そうした方向性が、非常にダイナミックに発動しいています...

  これは、人体の細胞レベル/ミクロ領域の攻防ですが...そうした多様性の起動が、ホモサ

ピエンスの爆発的繁栄に対し、生態系からの圧力の一環になっているのかも知れません。私は、

ここは素直に認めるべきだと思っています」

「はい、」響子が、うなづいた。

「しかし...

  そうではあっても、私たちとしては、HIVを阻止しなければならない事に、変わりがありません。

狡猾なHIVの正面/HIVの顔の変異は、逆にHIV株のグループ分けに利用されているわけで

すね...

  まあ、そんな事情のために...“T細胞を利用する/HIV・ワクチン候補”では、エンベロープ

・タンパク質を用いて免疫反応を誘導する手法は、設計段階から断念しているというわけです。

  代わりとして...“Pol・タンパク質”“Gag・タンパク質”、そして“Nef・タンパク質”のように、

比較的変化しにくいタンパク質に着目しています。先ほども説明したように、メルク社“Ad5・ワ

クチン”は、その典型になりますね」

「でも...どうにも、うまくいかなかったわけですね...?」

「そうですが...私たちは、多くのことを学んできたわけです...

  実際...小さな変異/比較的変化しにくいタンパク質でも、ワクチンの有効性には、大きく影

したわけですねえ。タンパク質の中の、たった1つのアミノ酸の違いによって...ワクチンによ

って誘導された“抗体”キラーT細胞が...ウイルスを認識する能力が低下したり、 あるいは、

全く認識できなくなることもあるわけです。

  したがって...“多少の変異があっても・・・幅広く反応できる・・・信頼性の高い中和抗体”...

を、 どのように誘導させるかと言うことなのです」

「そこが...最重要な、“戦略的課題”...ということになるのかしら?」

「そうですね...言葉の上ではそうなりますか...」

「でも、それが、難しいと...」

「そうです...いいですか、響子さん...

  自然感染の折...キラーT細胞HIVに対して示す、幾つもの反応があります。その“どの反

応に注目すべきか”という問題があります。“全ての反応を模倣・促進”すべきか、あるいは、“特

定の反応に絞るべきか”、と言うことです」

“感染克服者(elite controller)では、どうなのかしら?」

「まあ...」夏川がほくそ笑み、口に手を当てた。「簡単には、そこに到達できないということです

ねえ...それができるのなら、問題はないのです...はは...」

「はい...」響子が、優しく微笑み返した。

 

「我等の、“キラーT細胞・殿”は...」夏川が、声を大きくして言った。「HIVの色々な部位にある

ウイルス・タンパク質を、アミノ酸配列をもとに選んで反応するわけです」

「はい、」

「ところが...

  “1部の領域は・・・他の領域よりも多くの反応”を、引き起こします。それは、何故なのか?そ

して、一方では...“全てのキラーT細胞の反応が・・・機能的に同じではない”ということも、 徐

々に明らかになって来ています...」

キラーT細胞の反応も...複雑な構造に分岐しているということかしら?」

「ま、今後の大きな課題でしょうが...“参考文献”からは、そう読み取れます...

  キラーT細胞の中には、どうやら、“効率的に・・・ウイルスの複製を抑制できるヤツ”も、いるよ

う なのです。これは、“面白いキャラクター”なのかも知れません...彼等は我々の、曖昧な脳細

胞の指令ではなく、免疫系の指令で、実に真面目に、よく働きますねえ...

  そうした中に...“デキのいい奴”がいるのかも知れません。あるいは、響子さんの言うように、

さ らに高度な適応の構造があるのかも知れません...」

「それもまた...“私/自己に属するもの”なのですね」

「そうです。非自己を排除する、自己の番人です...

  話を戻しますが...ごく最近開発された“新しい分析法”は...多くの細胞反応のうち、“どれ

が実際に・・・HIVの複製を抑制できるのか”を、実験で解明するのに役立つと言われています」

「はい、」

「そうした実験結果として...

  例えば...非常に珍しい反応が、最も効率的にウイルスを抑制できると分かったら...“キラ

ーT細胞の反応パターンを・・・その方向で調整・促進”すればいいわけです...“その反応を強

めるのが・・・最も良いワクチン”につながる...という可能性が高いということです」

「はい...」響子が、コクリとうなづいた。「こうした努力が、まさに現在も続いているということで

すね」?

「そうです!」

感染克服者パズル・・・?>    

                     

「さて...」夏川が、ガウンのポケットに手を入れた。「同様に...

  “感染克服者で...HIV(ヒト免疫不全ウイルス)SIV(サル免疫不全ウイルス)の複製が、“自然に抑

されている理由”が解明されれば...“ワクチンの設計”にも、大いに役立つと思われます。

  ともかく、“キラーT細胞・誘導ワクチン”というのは...つまり、“感染克服者と同じ道筋”

としているようですから...」

「はい...“パズルの解=感染克服者は...正真正銘、目の前に存在しているわけですね」

  夏川が、うなづいた。

「うーん...でも、どのようにパズルを解きほぐし...回路を一般化して行くのでしょうか?」

“感染克服者の場合は... 

  “初期/急性感染期が治まった後・・・ウイルスの複製が抑制されるようになる”...というこ

とですねえ。 キラーT細胞が、HIVの複製を抑制をしているわけですが、この移行期について詳

しく研究すれば、“最初にウイルスが制圧される過程”についての、何らかの手がかりが得られ

るはずなのです」

「うーん...」響子が、脚を組み、体を前に乗り出した。アンの方を見ると、彼女はジッとイン ター

ネットの記事を読んでいた。

「ええと、」夏川が、データを見ながら言った。「いいですか...

  “1部の感染克服者では...“免疫細胞の数量や、免疫機能を・・・促進するような変異”や、

それから、“細胞側のCCR5・受容体に・・・ウイルスが結合しにくくなるような変異”...というも

のが、存在することが分かって来ています。

  前に説明していますが...HIV細胞に侵入するには、エンベロープにあるタンパク質が、

ルパーT細胞表面にある“CD4受容体”と...さらに“CCR5”、または“CXCR4”という別の

タンパク質/共受容体の両方に、しっかりと結合する必要があります。

  細胞への侵入は、スペース・シャトル宇宙ステーションドッキングするようなものです。 とこ

ろが、“1部の感染克服者では、“CCR5・受容体に・・・ウイルスが結合しにくくなるような変異”

が、起こっていると言うわけです...こうしたベクトルは、何処から来ているのでしょう かね」

「はい...」響子が、両コブシを合わせた。「それは...つまり...ヘルパーT細胞/免疫系の

司令官の仕事ということかしら...?」

「まあ...当然、そうしたことが考えられるわけですが...何故そうなのかは、分かりません」

「そのメカニズムが...つまり、パズルの1つだということですね」

「現在...」夏川が、窓の方を眺めて言った。「“大勢の感染克服者が、エイズ研究のために集

められています...

  彼等の遺伝子や、免疫系や、ウイルスとの関連性などが、大車輪で分析されている様子です。

ともかく、こうした研究から、“感染克服者のパズル”について、“重要な手がかり”が得られて来

るはずです。

  そして、こうした手がかり発見から...サルのSIV直接試験が行えるような、“新しいワク

チン候補”が登場して来るはずだ、ということです」

「はい...」響子が、拝むように両手をこすり合わせた。「そうですね...ゴールには、“パズル

の解=感染克服者が、厳然と存在しているわけですね...

  したがって、要するに...初期/急性感染期の後...ウイルス複製が抑制されるまでの間

に、何が起こっているかと言うことですね...この、“移行期のパズル・・・その迷路”が、解明さ

れればいいわけ ですね?」

「うーむ...」夏川が、髪をなで上げた。「そうですねえ...

  すでにこれまでに、膨大なデータが蓄積されています。また、キラーT細胞や、HIV...それ

免疫システムについても...新たな発見研究・開発が進んでいます。しかし、それでもなお、

一筋縄ではいかないということですねえ...」

「でも...

  ガン細胞/・・・自己細胞に対する免疫システムのメカニズムなども...長い間“免疫のナゾ”

とされていたわけですが...そのパズル不断の努力で解明されたわけですね。“感染克服者

のパズル”についても、必ず解明されますわ...」

「ま...少しでも、早くということですねえ...」

 

「ええと...」アンが、二人の方に体を向けた。「前にも話したましたが...

  サル“弱毒性・SIVワクチン”は、非常に強力です...接種を受けたサルは、“ワクチンに使

用したウイルス”とは大きく異なる、“強毒性・ウイルス株”にも、なかなか感染しないと言われま

す。この方面での研究が進めば、ここでも貴重な知識が得られますわ」

「そうです...」夏川が、額に手を当てた。「ええと、くり返しますが...

  “弱毒生ワクチン=弱毒化・HIV”が、ヒトで使われるということは決してあり ません。これは、

安全上の問題があるからです。“ワクチンに使用したウイルスが・・・元の強毒性ウイルスに回帰”

してしまうからです。

  しかし、“そこに至る前の・・・高いワクチン効果の理由”を、詳細に解明できれば、ここからも、

“新しいアイデア・・・有望なワクチン候補”が期待できます」

  アンが、眼鏡に手をかけ、黙ってうなづいた。

 

「まあ...」夏川が、響子の方に言った。「これから始まる“新たな研究体制”も...HIV・ワクチ

ンの新しいアプローチにつながることが、大いに期待されます...“参考文献”では、日本の事

というのは分かりませんが、日本でも相当に進んでいるはずです」

「はい」響子が、うなづいた。「ええ...

  “参考文献”は、アメリカの状況を説明しているわけですが...現在の“危機的な課題/戦略

の見直し”に取り組むために...初めて、研究者のグループが結集し、幾つかのコンソーシア

(機関・会議)が設立されたようです...

  ここに、研究資金を提供しているのは...“ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団”“国際エイズ

ワクチン推進構想”、そして“米国立衛生研究所”です。コンソーシアムの設立によって、HIV・ワ

クチンの開発を促進する、重要な手がかりが発見される可能性は、これまで以上に大きくなって

いる、ということです」

  響子が、アンの方を見た。

「そうですね...」アンが言った。「HIV・ワクチンの開発は、新しい戦略を整えつつ、さらに強力

に継続しているということですわ。今後の新展開に、期待したいと思います」

「はい」響子が、頭を下げた。

 

 <顕在化する・・・物理的非局所性の拡大>

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「響子です。ご静聴ありがとうございました...

  私たちが、エイズ(後天性・全免疫不全・症候群)HIV(エイズウイルス/ヒト免疫不全ウイルス)

ついて...“知るということは・・・すなわち克服することだ”ということです。たとえ、

いまだにワクチンができなくても、“知るということ”で、私たちはエイズを克服できる

のです。なんとなく、そんな気分にはならないでしょうか...?

  結局それは、具体的には文明の叡智で、戦略的に克服できるということですね。

 

  でも...“知るということ”はそれに止まらず、“不思議な・・・神秘的作用”をともな

うことを指摘しておきましょう。それは、リアリティーカオス非局所性から、“言語

的・亜空間文明”ストーリイの整合性として...“囁(ささや)きのように漏れ・・・調整

されて来る何者かの作用”...ということなのかも知れません。

 

  こうした調整が...“この世の数々の奇跡の風”となって...私たちの頭上を通

り過ぎて行き ます。量子力学のエキゾチック(異国的)な驚きの世界も、それは“極微

の物の領域”での...“主体/心の領域”との統合性/整合性近さだと...高杉

・塾 長は言っておられました。

  “量子力学で顕在化した物理的非局所性”が...今後、“主体/心の領域”

和性を深めて行くことになるので しょうか...すでに、“量子もつれ”という物理的非

局所性が、量子コンピューター・デバイス量子通信の中に、具体的に組み込まれ

ようとし ています。

  物理的非局所性の拡大が、私たちの認識世界に、今後どのような影 響を及ぼし

て行くのでしょうか...さあ、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代の幕が

上がって行きます...

 

  現在...ホモサピエンス【人間原理空間ストーリイ】変動値が...歴史上で

も稀に見るほどに高まっている様子です。それゆえに、感染症パンデミックの克服

も含め、“人類文明は折り返しの時”に来ているものと思われます。安定指数の非

常に高い、〔人間の巣のパラダイム〕は、今後予想される“大艱難の時代”には必

須の共通認識と思われます...

 

  さて...HIV・ワクチンについては、ここで1区切りとしたいと思います...次は、

HIV・薬物療法の方に移ります。長くなってしまいましたので、ページの方も新しく

立ち上げることにしましょう...では、引き続き...よろしくお願いします...」

 

   “HIV・薬物療法”    

 

 

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