Menu生命科学危機管理センターthink tank癌(ガン)熱ショックタンパク質

       熱ショック・タンパク質  wpe18.jpg (12931 バイト)        

                                                heat shock proteins;HSP 

     ガン・ワクチンへの道/・・・多彩なシャペロン機能・・・  

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  トップページHot SpotMenu最新のアップロード                            担当 :   厨川 アン 

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プロローグ       ・・・・・“希望、絶望...可笑しさ...それぞれの人生”・・・・・ 2008.12.16
No.1 〔1〕 熱ショックタンパク質/HSP 2008.12.16
No.2 〔2〕 HSPの多彩な任務/多方面に及ぶ護衛 2008.12.30
No.3     <シャペロン機能/・・・分子シャペロンとは? 2008.12.30
No.4     <HSP60・シャペロン/HSP70・シャペロン

         /HSP100・シャペロン・・・分子シャペロンの姿・・・> 
2008.12.30
No.5     ストレスと・・・HSP/熱ショックタンパク質 2008.12.30
No.6 〔3〕 細胞の感染・ガン化の警報・・・

        MHCクラスT
HSPシャペロン・・・抗原提示
2009. 1.28
No.7     MHC(主要組織適合性抗原)>とは・・・ 2009. 1.28
No.8 〔4〕 抗原提示細・・・様々な免疫細胞と、HSPとの相互作用!> 2009. 2.21
No.9     “HSP− ペプチド複合体” で、“ガン・ワクチン” 2009. 2.21
No.10     臨床試験“やり方”に・・・問題があるのか?> 2009. 2.21
No.11 〔5〕 拡大する、“熱ショックタンパク質”の影響 2009. 3.11
No.12     “HSP/熱ショックタンパク質による・・・新薬の登場 2009. 3.11
No.13     【皮膚上の・・・メラノーマの見分け方】 2009. 3.11
No.14     HSP新薬の・・・作用メカニズムからの分類】 2009. 3.11
No.15     【作用メカニズム/治療薬名/対象疾患/・・・製造元】 2009. 3.11

         

 参考文献   日経サイエンス /2008 - 11 

               熱ショックタンパク質を、がんワクチンに  P.K.スリヴァスタヴァ  (コネティカット大学) 

                                          (日経サイエンス /2009 - 02)

                                               NEWS SCAN/がんワクチンに援護射撃


プロローグ                    
                                                                       

                      wpeE.jpg (34439 バイト)    

二宮江里香です...

  季節が移り、いよいよ冬の装いになって来ましたね...世界が非常に不安定になって来てい

ますが、季節は巡り...時代は流れ...歴史が紡がれて行きます...

  こうした中で、心静かに暮らすのは大変難しいことですが、私などにはどうすることもできませ

ん。とりあえず、日常の日々を、その時々において、しっかりと見つめて行くだけです。高杉・塾長

が言っていました...

 

“希望、絶望...可笑しさ...その内的フィードバック/ストーリイの積層が、

それぞれの人生...それぞれの【人間原理空間・ストーリイ】の、真実の結晶”

 

   ...なのだそうです。私も、支折さんと一緒に、禅の修業を始めてみようと思っています。あ、

支折さんは、響子さんのもとで修行していますから、私もそういうことになるのかしら...これが、

世界的な不安定な時代に対する、私としての対処です...いよいよ、不安定な時代がやって来

ますね...」

 

「今回は、“熱ショック・タンパク質/heat shock proteins; HSP”の話です...

  “熱ショック・タンパク質/HSP”は、あらゆる細胞に存在し、ストレスから細胞を守る分子とし

て、かなり古くから知られているようですよ。そして、最近の研究から、ガン・ワクチン/ガン治療

にも応用できる可能性が見えてきたようです。

  今回も、外山陽一郎さん厨川アンのお二人に考察していただきます。今回は、《生命科学

/ガン》・・・/担当/厨川アンに分類されました。でも、広い範囲の考察になりますので、《生

命科学》《ガン》の両方に分類しておくそうですよ...

  ええ...外山さん...アン...どうぞ、よろしくお願いします!」

  二宮江里香が、二人の方に、丁寧に頭を下げた。厨川アン外山陽一郎が、同じように頭

を下げた。

「よろしくお願いします!」アンが言った。「江里香さんがいると、いろいろと便利ですね...楽し

いし、コーヒーも美味しいし、楽しみですわ」

「ありがとうございます、」江里香が、はにかんで、胸に手を当てた。「でも、私にできるのは、コー

ヒーを入れるぐらいですから...」

「あ、いえ...会話にも参加して下さいな、」

「でも...」

「大丈夫です!ただ、普通の女の子として質問してください。外山さんとでは、非常に専門的な

会話になってしまいますの...いいかしら?お願いします!」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。「やってみます...普通に質問したりすれば、いい

わけですね?」

「はい!」アンが、ニッコリとうなづいた。「普通でいいんです!」

「ま、よろしくお願いします...」外山が、肩をかしげた。上機嫌で、上着のポケットに手を入れ

た。「江里香さんも、少しずつキャリアを積み上げていますね」

「はい...」江里香が、外山に笑顔を向けた。「普通の女の子ですから、少しづつキャリアを積み

上げていく他ないんです」

「いや...」外山が言った。「その中から...個性才能が発現してくるのです。そういうもので

す...」

「そうですね、」アンが、期待を込めるように、うなづいた。「その時が来れば、きっと、自分で分か

りますわ」

「はい!」

        

  〔1〕 熱ショックタンパク質/HSP(heat shock proteins)

            
  

「ええ...」アンが、細い髪を耳の後ろにかき上げた。「...始めましょうか...

  あらゆる細胞に存在し...ストレスから細胞を守る分子として...“熱ショックタンパク質/

HSP”は、かなり古くから知られています。発見の発端は、1962年のことと言われています。

  イタリア遺伝学研究所で、ショウジョウバエを入れた飼育器の設定温度を、誤って高く上げ

てあげてしまったことに起因しています...それを、若い遺伝学者のリトサ(Ritossa)が、図らずも

顕微鏡で観察したところ...染色体部分的に大きく膨(ふく)らんでいたのです...」

  アンが、モニターに画像を表示した。

「ええ...」アンが続けた。「現在でも...

  再現実験で、ショウジョウバエの細胞極端な高温下に置くと、染色体“パフ ”と呼ばれる

特の構造が見られるようになります...DNAは、通常はしっかりときつく巻き上がり、いわゆる

染色体構造をとっています。

  それが、極端な高温にさらされると、“パフ ”の部分でそれが緩み、転写されやすい状態にな

るのです。熱ストレスに対応して現れた“パフ ”の部分には、実は“熱ショックタンパク質/HSP”

遺伝子があるのです。リトサが顕微鏡で発見したのは、その“染色体の局部的な膨らみ”です。

  このような...“染色体の局部的な膨らみ”は、その部分にある遺伝子が活性化され、タンパ

ク質の合成が盛んになっていることを示しています。つまり細胞は、熱ストレスに対処するために、

まず“熱ショックタンパク質/HSP”を盛んに作ろうとしていたわけです...」

  アンが、ゆっくりと指を組み、江里香の方を見た。

「理解できるかしら?」

「はい!」江里香が、自信ありげに、コクリとうなづいた。

「難しくなったら、気軽に質問してくださいね、」

「はい、」

「この...リトサの最初の発見は...

  ショウジョウバエ特異的な現象と考えられ、いったんは忘れ去られてしまいました...そして

次に...哺乳類をはじめ、様々な動物の細胞においても、同じような現象が認められたのは、そ

れから15年も後のことでした。

  熱によって活性化される、一群“熱ショックタンパク質/HSPの、本格的な発見になります」

1962年の、」江里香が言った。「最初の発見から、15年後のことですね。ええと...1977年

になるかしら?」

「そうですね...」アンが、うなづいた。「実は...

  現代生物学では...“熱ショックタンパク質/HSPは...“生命の根幹”を支える、非常に重

な...“中心的な役割を担う分子グループ”だと見ているようです。それは、細胞レベルにとど

まらず、生物体やあらゆる生物種においても、“極めて重要な分子”だということが分かって来た

のです」

「はい、」江里香が、手を握った。「今回、取り上げたのも、今後、“極めて重要な分子”になって行

くからですね?」

「そういうことですわ...」アンがうなづいた。「おそらく、今後...

  生物学にとって、“非常に重要な分子グループ”になって行きます...ここでは、まず、その概

略を説明しておきましょう。それから、判明して来ている、“多様な機能”について説明します」

「はい、」

 

「ええと...」アンが、外山の方に目を投げた。「ここも、私が説明しましょうか?」

「どうぞ、」外山が、頭をかしげ、うなづいた。

「はい...

  HSP/熱ショックタンパク質は、実際にあらゆる細胞で発現しています...つまり...太古

における生命の誕生と共に、この世に出現していたと考えられるのです。生命進化の過程を経

たにもかかわらず、その遺伝子構造というのは、様々な生物種で比較しても、非常によく似てい

からです...」

「はい、」江里香が、真剣な顔でうなづいた。

「おそらく...

  “HSP”は...“生物の生き残りを担う = 戦略分子群”であり...さらに最近では、“進化さ

えも促進する”...と考えられているのです...」

「はい...」江里香が、うなづいた.「すごいんですね...」

「そうですね...

  とりあえず...“HSP”は、をはじめとする様々なストレスに反応して作られます。そして、

悪な環境下でも、個々の細胞が、何とかその任務を遂行できるように、手助けをします...その

手助けの範囲というのが、相当に広い分野に及ぶようです...」

「そんな細胞があるなんて、」江里香が言った。「驚きですね、」

「うーん...」アンがうなづいた。「不思議なことですね...

  それから、最近になって...ヒトのような高等動物では、別の重要な役割を担っていることが

分かって来ています。ここ十数年の研究で、“HSP”ガン病原菌に対する、“免疫防御システ

ム”に組み込まれていることが分かって来たのです」

免疫ですか?」

「そうです...

  この方向に...ガン・ワクチンの可能性や、新たな治療法も開けて来ているのです。それにつ

いては後で触れることにして...ともかく、“HSP/熱ショックタンパク質”の、全体スケッチを紹

介しておきましょう」

「はい」

  〔2〕 HSPの多彩な任務/多方面に及ぶ護衛   wpeA.jpg (42909 バイト) 

   wpe73.jpg (32240 バイト)               

 

<シャペロン(お世話を焼く)機能/・・・分子シャペロンとは・・・?>

「ええ...」アンが言った。「“HSP”は、非常に多才なタンパク質ですが...その多才なタンパク

が、どのように他のタンパク質“シャペロン”しているのかを、お話します。

  “シャペロン”は、お世話を焼くという意味です...本来の意味は、社交界にデビューする若い

女性の、付き添いをする婦人のことですわ...“HSP/熱ショックタンパク質”は、他のタンパク

共同したり、集合体を作ったりして、“シャペロン機能”を発揮するので、“分子シャペロン”

も呼ばれています」

「はい、」

「さて、では...

  “HSP/分子シャペロン”は、どのように“シャペロン機能”を発揮するかを説明しましょう。社

交界にデビューする若い女性の“お世話を焼く”のと同様に...2通りの方法を用います。

  第1は...“好ましくない相手との付き合いはなるべく排除”...第2は、“好ましい相手との

付き合いは手助けし奨励する”...ということです。こうした“シャペロン機能”により、“好ましい

相手/ふさわしい相手/・・・ふさわしいタンパク質”との...安定的かつ、生産的な関係性を築

き、生物体の維持に貢献しているわけです」

「本当に...」江里香が、顔を輝かせるように笑った。「“お世話を焼く”わけですね、」

「ふふ...」アンが、口をすぼめて笑った。「そうですね...

  細胞内で作られた、1個のタンパク質というのは...通常は1つか、非常に限られた数“相

方/・・・相手”しかいないのが普通です。そしてこうした両者は、生物体の維持有益に相互作

しています。

  良い例が...“レセプター/受容体”と、“リガンド/特異的に結合する物質”の関係でしょう。

これらは、鍵穴と鍵のような関係にあります...つまり、注文に応じて生産され、調整され、その

タンパク質就職先も決まっていねということです。

  こうした関係とは対照的に...“HSP/熱ショックタンパク質”は、“分子シャペロン”として、

常に多くのお相手(/クライアント・タンパク質)と結合する傾向を持ちます」

「浮気性なんですね、」江里香が言った。

「そうかも知れませんが...」アンが微笑し、頭をかしげた。「それが仕事なのですわ。ともかく、

“HSP”非常に多くのお相手がいて、大変忙しく仕事をこなしています」

「はい、」

「では...

  “HSP”の仕事としては、どんなことをやっているのかというと...細胞内リボソームで、新

たに合成されたばかりのタンパク質のアミノ酸・鎖が...正しく折り畳まれるように手助けをし

たり...壊れたタンパク質を解体したり...それから、あるタンパク質を、別のしかるべき

タンパク質のもとへ運んだり...しています。

  また一方で、“好ましくない相手/好ましくないタンパク質に近づけないようにしたり”...しま

す。仕事としては、難しく多岐にわたっています。それゆえに、“HSP”は、“生物の生き残りを担

う = 戦略分子群”であり、“進化さえも促進する”...と考えられるようになりました」

「小さな“HSP/熱ショックタンパク質”が...体中にあり、重要な仕事をしているわけですね、」

「そうですね...

  生命体というのは、機械やロボットなどの遠く及ばない所で、“完璧性を保持している存在”

のです。高杉・塾長などは...生命体“この世”とは、表裏一体のものと見ているようですわ」

“この世”と、ですか...どういうことでしょうか...?」

「そうですね...」アンが脚を組み上げ、顎に手を当てた。「生物無生物の違いは...

  “存続へのベクトル/・・・存続への力と方向”を持っている存在か...あるいは、そうではない

存在かということです...“存続へのベクトル”とは、おそらく“生命潮流のベクトル”と同一のもの

でしょう。

  無生物機械やロボットというのは、いかに頑丈に作ろうとも、エントロピー増大(/熱力学の第2

法則)の影響を受けます。形あるものは、崩壊して行く運命にあるということです。分かりますか?」

「はい、」江里香が、まっすぐにアンを見てうなづいた。

「一方...」アンが、うなづいてから言った。「“存続へのベクトル”を内包している、生命体という

ものは...新陳代謝を波動させ、存在を継続して行きます...新陳代謝というのは、エントロピ

ー増大宇宙の中で、観測されている限りでは、おそらく唯一...“構造化/進化”を維持し、存続

していくシステムなのです。

  こんなシステムを、偶然の確率の中から見つけ出し、生命体を組み上げるのは、おそらく不可

ですわ。この意味では、私は塾長に賛成しています。

  したがって、おそらく、“生命潮流のベクトル”のようなものが存在します。それは、エントロピー

増大/熱的平衡とは逆方向...“構造化/進化”の方向の流れです。これは、宇宙論になるか、

そもそも、科学を超えたステージの話になりますね...

  塾長は、生命現象宇宙の初期条件に入れているようですね...あまり深い考えではなく、と

りあえず入れておこうという考えのようですわ...」

「はい...」江里香が、あいまいに答えた。

「いずれにしても...」アンが、モニターを読んでいる外山を眺め、頭をかしげた。「生命体とは、

“構造化/進化”ベクトル上に存在する、プロセス性の渦のようなものかも知れませんわ...」

「渦ですか?」

「そうです...

  それから、ヒトも...生まれてきて、漠然とそこに存在しているわけではありません...全細

が、“存続方向へのベクトル”を持って生まれて来ています...誕生したばかりの赤ん坊

は、母親と未分化の状態から独立し、生存・存続への、莫大な動因が発動して行くのです。

  その“存続への動因”...“存続方向へのベクトル”...は何処から来るのか...?それが、

生物無生物との違いになっています。つまり、この“存続へのベクトル”は、機械やロボットには

無いということですね...違いは、まさに、ここにあります」

「はい、」江里香が、コクリとうなづいた。

「そうですね...

  具体的現象としては...生物体に見られる“再生能力”や、“増殖能力”でしょう...そしてそ

のことが、実は、“この世の最大の謎”の入口なのです...私たちが、日常的に目撃しているこ

とですが...そこに、“この世の存在の・・・巨大な謎”があるのです...」

「はい...」

「そうした事から...塾長は、生命体“この世”とは、表裏一体とみているようです。あるいは、

生命体が、“この世の超媒体”ということでしょう。それは、私も賛成です。

  いずれにしても、この相互主体性・世界の全ては、“主体性/認識の鏡”に映し出され...“私

/・・・1人称”を通して眼前し...目撃されているということです...この、当たり前のことが、実

は、“この世の最大の謎”なのです...」

「はい...うーん...」江里香が、真剣に、困ったように頭をかしげた。

「あら、ごめんなさい...」アンが、優しく言った。「急にこんな事を言われても、分からなくて当然

ですわ」

「あ...はい、」江里香が、明るくうなづいた。

「高杉・塾長の言われていることを、正直に伝えたかったために、無理をしてしまいました」

<HSP60・シャペロン/HSP70・シャペロン      

        /HSP100・シャペロン・・・分子シャペロンの姿・・・

wpe73.jpg (32240 バイト)              wpeA.jpg (42909 バイト)

「ええと...」外山が言った。「いいかな...

  主な“HSP・シャペロン/分子シャペロン”が...どのように、クライアント・タンパク質介添

え役を演じているか、具体的に見て行きましょう。そうすれば、その仕事がいかに重要かが理解

できるでしょう」

「はい、」江里香が、外山の方にうなづいた。

「あるタンパク質が...

  本来の働きをするには、正しい場所に、タイミングよく存在しなければなりません。しかし、それ

だけでは、十分とは言えません。しかるべき形を取っていなければならないのです...

  アミノ酸が、のようにつながって作られるタンパク質は...新しく合成されると...色々な力

が加わることにより、注文どうりの正しい形/正しいタンパク質構造へと折り畳まれるのです。そ

膨大な種類の構造が、多彩なタンパク質の機能になるのです」

「はい...」江里香がうなづいた。「タンパク質というのは...アミノ酸のようにつながってい

て、それが正しく折り畳まれているのですね。その折り畳み方は、膨大な種類があるのですね?」

「その通りです...

  それが正しく折り畳まれないと...“異常プリオン・タンパク質”のようになり...難しい病気

なったりするわけです。この“異常プリオン・タンパク質”による病気は...“プリオン・タンパク質”

構造が、何かのきっかけで変化すると起こるようです。

  脳がスポンジ状になり...クロイツフェルド・ヤコブ病や、狂牛病/BSE(牛海綿状脳症)などとい

う、難しい病気になるわけです...」          ..... <詳しくは、こちらへどうぞ>                                                              

「はい...BSEは、一頃、日本でも大騒ぎになりましたわ」

「そうですねえ...最近は、あまり騒がれなくなりましたが、アメリカからの牛肉の輸入について

は、今でも国民に強い警戒感があります」

「はい、」

 

「ええ...」外山が、ゆっくりとモニターの方へ顔を移した。「話を戻しましょうか...」

「あ、はい...」

アミノ酸・鎖が、どのように折り畳まれるかというと...

  例えば...個々のアミノ酸は、細胞質内に存在するに対して、特徴的な反応をします。

水性のアミノ酸水を嫌い、逃げるようにタンパク質の内側の方へ潜り込もうとします。これに

対し、親水性のアミノ酸は、水と接触する表面に留まろうとするわけです。そうすると、自然に

タンパク質・鎖が、折り畳まれて行くわけですね...

  しかし...タンパク質・鎖正しく折り畳まれるには、こうした作用だけでは、とても十分とは言

えません。そこで“HSP60”のような、“HSP・シャペロン”手助けが必要となるのです。つまり、

もっと細かく“お世話を焼いてもらう”必要があるわけです。

  そうでなければ、複雑で多種多様なタンパク質は、とても製造・管理できません。タンパク質は、

リボソームだけで作られているわけではないのです」

「はい...」江里香が、自分のメモ用紙を見ながら言った。「ええと...

  “HSP60”というのは...“熱ショックタンパク質”の1種なのですね...そのシャペロン機能

が...タンパク質正しく折り畳まれるには...どうしても、必要なのですね...?」

「そういうことです...」外山が、感心するようにうなづいた。「江里香さんは、努力家ですねえ。

若い頃を思い出します。はは...そうした真面目さは、当ホームページのスタッフの中では、珍し

い部類ですね」

「そうかしら...」アンが言った。「皆さん、真面目ですよ、」

「私は、普通の女の子ですから...」江里香が、明るく言った。「だから、真面目に努力するしか

ないんです...人一倍努力することになります。いつもそうなんです」

「うーん...」アンが、楽しそうに顎にコブシを当てた。「勤勉なことは、いいことですわ。そして楽

しいことですわ...私は、勤勉が好きです」

「はい!私も努力することが好きなんです!」

  アンが、コクリとうなづいた。

 

「さて...」外山が、指先でモニターを追った。「現在、理解されている、“HSP60・シャペロン”

概念を確立したのは...アメリカ/エール大学ホーイックです...」

「はい、」江里香が言った。

“HSP60・シャペロン”は...

  複数“HSP60”分子からなる集合体で...ちょうどカゴのような形になっています。“HSP

60・シャペロン”の...カゴの入り口部分の内側は、疎水性が高くなっていているのです。そして

近くにある...まだ、折り畳まれていないタンパク質・鎖の、疎水性アミノ酸を引きつけます。

  そうやって、“HSP60・シャペロン”カゴの中に入ったタンパク質・鎖は、今度はカゴの内部

“親水的な環境”にさらされることになります。“疎水性アミノ酸”は、何とかこの環境を避けようと

するので、タンパク質全体の形が変わって行くわけです。

  もちろん、このプロセスは1回で完了するわけではありません。取り込んだタンパク質“放出”

“再取り込み”をくり返しながら、しかるべき立体構造へと、タンパク質を徐々に変えていくわけ

です...簡単に説明しましたが、実際には非常に高度で、複雑で、精密な仕事をしています」

「はい...」江里香が、胸で手を握った。「タンパク質というのは、そのように折り畳まれて行く

けですね、」

タンパク質というのは...」アンが言った。「ご存知のように、膨大な種類がありますわ...

  あらゆる酵素なども、タンパク質をもとにできているわけです。また、ヒトと、マウスと、チンパン

ジータンパク質も違います...それゆえに、似ている遺伝子酵素でも、微妙に違ってくるわ

けです...こういう所が、マウスの実験ヒトの臨床試験とでは違ってくるわけですね...

  それから...タンパク質といっても、大豆タンパクから作る豆腐のようなものもあるわけです。

豆腐は私も大好きですが、体には非常に良い食べ物です。こうした膨大な種類タンパク質

違いというものは、アミノ酸・鎖の構成や、こうした折り畳み方が、それこそ無限にあるからです」

「でも...」江里香が言った。「何故、そんなに多くの種類があるのかしら...そんなに多くの種

タンパク質がなければ、生物体/生命体は作ることができないのでしょうか...?」

「さあ...」アンが、口に手を当てた。「それは...非常に難しい質問ですわ...私たちは、よう

やく小高い岩の上によじ登り...生命体の広大な遠望の広がりを垣間見たばかりです。その、

らの存在の意味も、“私”という真の意味も含めてです...」

「あ...はい...まだ何も分からないのですね...」

「そうですね...まだ何も分からないという事を分かるのは、非常によく理解したということです」

「はい!」江里香がニコリと笑った。

「ええ...」外山が言った。「いいかな...

  ともかく、“HSP60・シャペロン”は...このように、タンパク質の折り畳みを促進する、“フォー

ルダーゼ/折りたたみ酵素”として知られています...これに対して、逆に“HSP100・シャペロ

ン”は、“アン・フォールダーゼ/解きほぐし酵素”になっています...」

“HSP60・シャペロン”は...」江里香が言った。「“HSP60”という...“熱ショックタンパク質”

分子集合体ですよね...?」

「そうです」

「じゃ...タンパク質の酵素が...

  リボソームでできたばかりのタンパク質アミノ酸・鎖を、しかるべく立体構造に、折り畳んで行

わけですね...タンパク質が、新しいタンパク質の形成を、自らコントロールしているわけです

ね?」

「そういうことですねえ...」外山が言った。「まさにそれが、生命活動の中枢にあるものです...

  酵素というのは、本来が、そういうものです。その酵素の、タンパク質の設計図は、遺伝子とし

て、染色体の中のDNAに収蔵されているわけです。それが、細胞分裂によって、増殖コピーして

行くわけです」

「はい!」江里香が、手を握りしめてうなづいた。

“HSP100・シャペロン”ですが...

  この酵素は、“HSP70”と協同ながら...熱などでダメージを負ったタンパク質や、異常に

凝集したタンパク質や、さらには、正常なタンパク質さえも、解きほぐしてしまうものです...」

「はい。“HSP70”と、力を合わせるんですね?」

「そうです...

  うーむ...“HSP70”分子は、集合体を取る“カゴ型・シャペロン”とは違います。まあ、多くの

“HSP”分子は、クライアント・タンパク質カゴの中に取り込むのではなく...“肘を抱えるように

して介添え”して、シャペロン機能を発揮するものです。

  例えば...“HSP70”は、アミノ酸・鎖のうち、比較的真っすぐに伸びた短いペプチド部分(ショ

ート・ストレッチ)直接結合します...いいですか、“HSP70”には、ペプチドに結合するための溝の

ような構造があるのです」

「あの、ペプチドというのは、何かしら?」

「ああ...ペプチドというのはですね...ペプチド結合によって、アミノ酸が2個以上結合した化

合物のことです」

「はい。“HSP70”には、そのペプチドに結合するための、溝のような構造があるのですね?」

「そうです。さて、江里香さん...ATP/アデノシン三リン酸というのを、知っていますか?」

「...いえ、」江里香が、首を振った。

ATPは...」アンが、江里香の方に言った。「生体内のエネルギー通貨のことですわ...

  生命活動の、共通のエネルギー源となる化学物質のことです。生体内ではこのエネルギーで、

細胞が活動しています。私たちの体は、ガソリンで動いているのでも、電気で動いているのでも

ありません。食物を食べ、呼吸し、血液を循環させ、生体内のエネルギー通貨として、ATPを活

用して動いているのです」

「はい、」江里香が、コクリとうなづいた。「そういえば...学校で習ったことがありました」

  アンが、目を細めた。

「ええと...」外山が、モニターを見ながら言った。「何処だったかな...

  そうそう...“HSP70”にはペプチドに結合するための、溝のような構造があるということで

すね...そして、ATPが存在する状態では、この“開放型”になっていて、ここにペプチド

入り込むのです。

  ATPが存在しなくなると...(ふた)のような構造が、ペプチドの結合した溝に覆いかぶさりま

す。その結果、タンパク質その場所に捕えてしまうのだそうです...これが、タンパク質をつか

という状態なのでしょうか...ま、この“参考文献”からは、そう読めますねえ...」

  アンがうなづいた。

「例えば...」外山が言った。「“HSP40”が...新しく合成されたアミノ酸・鎖を、“HSP70”

受け渡し...“HSP70”は、これをつかんだまま、正常な機能を持つタンパク質になるように、そ

折り畳みを促進するようです。そして、折り畳みが終了すると、そのタンパク質を離すということ

のようです...」

  江里香が、アンの顔を見た。アンが、ニッコリと笑った。

「全部は理解できなくて結構ですよ...」アンが言った。「ほんの、ごく1部を説明しているだけで

すから。タンパク質の折り畳みには、このように“HSP/熱ショックタンパク質”が、シャペロンとし

介添えをしているということを、理解してくれればいいのです。コトは、相当に複雑なのです」

「はい、」

「ちなみに...」外山が言った。「“HSP70”は...

  様々なペプチドと結合することによって、新しく合成されたタンパク質の折り畳みシャペロン

る他に...“タンパク質複合体”を形成するための、集合の促進を行っています。“タンパク質複

合体”というのは、細胞膜にある受容体のような、より大きな分子集合体です...こうしたものを

形成するための、ガイド役を務めているようですねえ...

  それから、“HSP70”の役割としては、他にも高温でのタンパク質分解の抑制など、生命維

持に不可欠な役割をも担っています...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。「すごいんですね...」

「そうですね、」アンがうなづいて、唇を引き結んでうなづいた。

 

ストレス・・・ HSP/熱ショックタンパク質

  wpe73.jpg (32240 バイト)                wpeA.jpg (42909 バイト)

「ええと...」アンが言った。「“HSP/熱ショックタンパク質”は、外山さんが話されたように、

常な環境下でも、もちろん活動しています。でも、細胞ストレスを受けた状況/・・・少々困難な

環境下におかれた時に、目覚ましい活躍を見せ、あらためてその重要性が分かります...」

  江里香が、黙ってうなづいた。

“緊急事態/・・・極端な高温や低温・・・低酸素・・・脱水・・・飢餓・・・等々”...の状況下

では、細胞は何とか存続しよう/・・・生き延びようと、必至になります。

  生物体は、種が生き残るためには、多大な自己犠牲をもいとわないという風景を、私たちは

しばしば目撃します。種のレベル個体のレベル細胞のレベルで、戦略的対処戦術的対処

が見られます。もちろん文明社会でも、極限状況に陥った時などに、しばしば見られますね。それ

は、情緒豊かなストーリイを描き出します...まさに、珠玉の世界です...」

「はい、」

「それが...生命の最小単位である細胞レベルでは...“HSP”が、細胞が生き残るように、

トレスの影響を和らげようとします。必要なタンパク質を救助し、ダメージを受けたタンパク質は分

解し、アミノ酸としてリサイクルをするなどします。

  そうすることで、できる限り、細胞活動円滑に進むようにするわけですね。これが、生命の最

小単位で行われていることに、大きな意味があります。その方向...存在/存続するという

ベクトルの存在です...これは、【散逸構造論】(イリア・プリゴジン/ベルギーの化学者/ノーベル化学賞受賞)

どのレベルではなく、明確な最小単位の、“存続のベクトル”だということです...」

「はい...」江里香が、ほつれた髪を耳の後ろへすき上げた。

細胞を...」アンが言った。「高度のストレスにさらした場合...

  最初に生じる細胞反応は...まさに、46年前/イタリア/遺伝学研究所で...リサトが目撃

した..あの熱ショックを与えられた、ショウジョウバエ“染色体の部分的な膨らみ”だったのです。

つまり、高度のストレスにさらされた時...染色体のその部分の遺伝子が活性化し...より多く

“HSP”分子を作り出すことだったのです」

「私たちの体も、」江里香が言った。「ストレスのたびに、そんな反応があるのでしょうか?」

「そうですね...

  それ以上に複雑な反応をしています...それが、などのストレスではなく...異物

病原体の場合...あるいは、身内の存在である、自己のガン細胞の場合にも...それぞれ別

の対応があるわけですね...

  次に、その“HSP”の、ガン細胞への関与について考えてみましょう」

「はい、ガン・ワクチンの可能性ですね、」

「そうですね...」

 

  〔3〕 細胞の感染・ガン化の警報・・・

    MHCクラスT HSPシャペロン・・・抗原提示  

            

「ええ...」アンが、モニターとメモ用紙を交互に眺めた。「いいかしら...」

「あ、はい!」江里香が、胸に手を結んでうなづいた。

「ええ...マウスや...ラットの実験で...

  “ガン細胞を攻撃するように・・・免疫応答を誘導できる”...という現象が知られています。こ

現象は、すでに1940年代から知られていたようですね。古くからある、免疫応答の謎でした。

ご存知のように、ガン細胞は私たちの自己の細胞です。したがって、それを免疫システムが攻

撃することの、説明ができなかったわけですわ...

  このマウスラット免疫系の実験は...“ガン細胞に対してのみ・・・免疫系が特異的に攻

撃”を仕掛けるものです...そして、まさにガン縮小・消失するというものです...何故、この

ような事が起こるのか...半世紀以上も、十分な説明がされないままに、推移して来ています」

「はい...」江里香が言った。「どうしてでしょうか?」

「その先進的な発見に対して...医療・医学全体が、十分に熟成していなかったということでしょ

う...特に、免疫システムについて、文字通り、解明が進んでいなかったからです」

  江里香がうなづいた。

「ええと...」外山が言った。「背景を、もう少し説明しておきましょう」

「そうですね...」アンが、顎を撫でた。「お願いします」

 

「まず...」外山が言った。「ヒトなどの、哺乳類免疫系というのは...

  病原体に由来するタンパク質/非自己を...“異物”として認識します。これは、臓器移植

どにおける、他人の臓器なども、“異物/非自己”として認識するわけですね。つまり、これが、

“抗原(/細菌・毒素・異種タンパク質等...生体にとって、異物的な高分子物質が、抗原として作用)となって、壮大な免

疫応答が起動するわけです... 

  しかし、今も言ったように、ガン細胞はもともと自己由来の細胞です。つまり、病原体と違って、

“異物”ではないわけですねえ...では何故、マウスラットでは、自己由来のガン細胞に対し、

“免疫応答を誘導できるのか?”...ということになります。

  この場合...“抗原物質は、いったい何なのか?”...ということになります。これが、長い間

の謎だったわけです」

「はい、」江里香が、髪を揺らした。

「ええ...」外山が、モニターに目を投げた。「そこで...

  “参考文献”の筆者(コネティカット大学/P.K.スリヴァスタヴァ)は...1980年代初期/・・・インド/ハ

イデラバード/細胞分子生物学センター/・・・当時は大学院生...が、このガンに特異的な、

“抗原”の抽出に取り組み始めたようです。むろん、世界中の研究者が取り組んでいたのでしょ

うが...彼もまた、特筆すべき研究成果を上げたということです」

  江里香が、無言でうなずいた。

「彼は...

  博士課程の研究成果として...“ガンに対する・・・免疫抵抗性を誘導できるタンパク質”...

を同定し、それをgp96”と命名しました。あるガン細胞から抽出したgp96”を、マウスに対し

ワクチンのように使うと...その同じガン細胞を後から移植しても...“ガン細胞は増殖しな

かった”といいます」

ええと...」アンが言った。「そうですね...

  後に...このgp96”という分子/タンパク質は...“熱ショックタンパク質”“HSP90/

ファミリーの1員”であることが分かりました。つまり、驚くべきことですが、これは正常細胞にも存

在している、“HSP/熱ショックタンパク質”だったということなのです」

「はい...gp96”とは、“熱ショックタンパク質”だったわけですね、」

「そうです...

  では...正常細胞に存在する全てのgp96”が...ワクチンのような作用があるのかという

と、そうではなかったわけです。ガン細胞から抽出したgp96”だけが、そうした特殊な作用

持っていたわけです...何故なのか、非常に不思議な事でした...」

「はい...」江里香も、頭をかしげた。

「ええ...」外山が、上着のポケットに手を入れた。「この発見に遅れること...2年...

  米国立衛生研究所(NIH)/ウルリッヒらのグループも...全く別の実験系で、類似の現象

観察しているようです...つまり、別の角度からも、証明されたわけです」

「そうですね...」アンが言った。「ええと...話を進めましょう...

  さて、不思議なことに...ガン細胞gp96”正常細胞gp96”とは...アミノ酸構造

においては、完全に一致していました。では何故、ガン細胞由来gp96”だけが...ガン

対して“特異的に・・・免疫反応を誘導できるのか?”...この謎も、なかなか解けなかったわけ

ですわ...」

「そうですねえ...」外山が言った。「ええと...

  この答えが明らかになったのは、1990年代に入ってからですね...“参考文献”の筆者は、

その頃、アメリカ/ニューヨーク/マウント・サイナイ医科大学に、研究場所を移していました。

  そして当時、そこのポスドク(Postdoctoral fellow/博士号を取ってすぐ後の研究者。数年以内の契約制で、博士研究

員・・・)だった鵜殿平一郎(うどのへいいちろう/理化学研究所/HSP70を同定/免疫シャペロンを命名)と共に、ガン

細胞から...ええと...“HSP70”を抽出しているようです...

  で...この“HSP70”が...“ガン細胞に対して・・・免疫誘導ができるかどうか?”...を調

べたようです。ガン細胞から抽出した“HSP70”は...“実際に・・・ガンを拒絶”...できたの

ですが、さらに驚くべきことが分かりました。

  それは...ガン細胞由来“HSP70”に、ATP(アデノシン三リン酸/エネルギー通貨)を作用させると、

“ガン細胞に対する免疫活性が、完全に消失した”...ということです。“長年の免疫誘導の謎”

に対して、大きな手がかりが発見されたわけですわ」

「あの、本当に、完全に消えたのでしょうか?」江里香が聞いた。

「そうです」外山がうなづいた。

 

「このことは...」アンが言った。「前にも少し触れていますね...

  “HSP70”ATPを加えると...“HSP70”結合していた物質を放出するのです。この

出物質というのは、ペプチドであることが突き止められました...    (・・・詳しくは、こちらへどうぞ)  

  ええ...それからほどなく、複数のグループにより...ATPと結合すると、“HSP70”構造

を変え...それまで結合していたペプチドを遊離することが、明らかにされたわけです...

  さらにその後...“HSP60”“HSP70”“HSP90”ファミリーは...“細胞内で普通に作

られたペプチドと結合”していることが分かりました...このことから、次のことが明らかになりま

した...つまり...

  ウイルス感染細胞や...結核菌感染細胞や...ガン細胞等から抽出された、“HSP70”

“HSP90”には...“ウイルス特異的”“結核菌特異的”“ガン特異的”などの...“抗原ペプ

チド”が結合しているということです...

  つまり...“HSP/熱ショックタンパク質”と結合した...“細胞内ペプチド”“抗原”となり、

免疫応答をしていたということですわ...」

「うーん...」江里香が言った。「すごいんですね...そんな事が、分かるなんて、」

「そうですね...」アンが、目を細めた。「ブラックボックスのような、生物体システムを解明する

のは...それこそ、“気の遠くなるような努力の積み重ね”なのです...でもそれが、強大な文

明の力なのですわ...」

「はい!」

「ええと...」アンが、モニターの方に目を向けながら続けた。「こうした...

  “HSP/熱ショックタンパク質”は...自分の存在している、“細胞内にあるペプチド/内在性

ペプチド”と結合するという...非常にユニークな機能...があったわけですね...“内在性ペ

プチド”とは、自分が何者であり、どんな状態であるかを示す...“目印/自己証明”とでもいう

べき存在だったのです」

「はい...“内在性ペプチド”...ですね、」江里香が、復唱した。

「ええ...」アンが、顎に手を当てた。「いいですか...

  自分が存在していた細胞の...“特有の目印/自己証明”を持ち続けるという...ユニーク

な機能があるために...“HSP/熱ショックタンパク質”は、免疫システム基本的プロセス

おいて、非常に重要な役割を演じているわけです。これが、“免疫シャペロン”になるわけです」

「つまり...」江里香が言った。「ガン細胞や、感染細胞などを...免疫システムが認識するた

めに...“シャペロン/・・・介添え”をするということですね?」

「そうです...」アンが、コクリとうなづいた。「これを...“抗原提示”...と言います。

  この“抗原提示”精緻な機構の存在によって...ガン細胞や、ウイルス感染細胞などの

胞表面に、“抗原ペプチド”が提示されます。この“抗原ペプチド”を...免疫システムの司令塔

/T細胞/Tリンパ球が認識し、免疫系に号令をかけるわけです」

「はい...免疫システムの司令塔/T細胞は、Tリンパ球なのですね?」

「そうです...」アンが、にっこりと微笑んでうなづいた。「覚えがいいですね...

  T細胞には...“ヘルパー”“キラー”2種類があります。免疫システムの司令塔は、このう

ちの“ヘルパーT細胞”の方ですわ。特別に調整されたエリート細胞です。さしずめ、官僚組織

キャリア官僚のようなものかしら、」

「うーむ...」外山がうなった。「その表現には、問題がありますねえ...

  どう見ても、現在日本の官僚組織は、国家のガン細胞といった方が、国民評価に近いので

はないでしょうか...官僚組織行政組織が、メタボ状態/末期症状になっているというのが、

《当ホームページMy Weekly Journal》の見解になっていますから...」

「うーん...それでは訂正しますわ...さもしい官僚支配国家の、末期症状ということですね」

「そうですね...それなら津田・編集長も、了解するでしょう」

 

「余談ですが...」アンが言った。「HIV(エイズウイルス/ヒト免疫不全ウイルス)は...

  まず戦略的に、この“ヘルパーT細胞”に感染し、司令官を排除してしまうのです。特に、最も

攻撃されるのは、“メモリー・ヘルパーT細胞”です。この後、“メモリー・ヘルパーT細胞”の数は、

完全に元に回復することはありません。

  これが、HIV慢性的感染の入口になるのです。免疫系が、システムダウンしてしまうのです。

“キラーT細胞”の方は、言葉通りの破壊細胞ですね。これが、次のHIV攻撃対象になります。

HIVは、“キラーT細胞”の方も、やっつけてしまうわけですね」

「恐ろしいウイルス何ですね、」

「そうですね...

  もともと、T細胞/Tリンパ球というのは...強力な破壊活動指令・ 実行できるわけですか

ら...官僚・・・警察官というよりは、軍隊内警察官/憲兵のような役割かしら...

  ともかく...免疫システムの全体像については...生命科学(生物情報科学)免疫

システムの考察で...今回のように、徐々に説明して行きます。一度に説明するのは、と

ても不可能ですから...」

「はい。免疫システムというのは、本当に難しいですね、」

「そうですね...

  私は、軍事の方面は詳しくないのですが...免疫応答反応では、それが本格化すると、大部

隊/大軍隊を動かし、ウイルス細菌等“異物”と、全面戦争に突入するわけですね...私

たちにとっては強い味方なのですが...その調整が微妙に狂うと、アレルギー反応を起こしたり

すねわけです」

「ものすごく、精巧にできているんですね。私たちの体は、」

「そうですね。特に免疫系は、女性の方が強く調整されています...

  そのために若い女性に、全身性エリテマトーデス(SLE)などが発症したりするわけです。でも

それは、免疫系より強い設定で、体が守られているということなのです。妊娠し、子孫を残す

するという、大役があるからですわ」

「はい。男性腕力で守られているけど、女性免疫システムで守られているのですね?」

「そうですね...」アンが、楽しそうに笑った。「そのような...微妙で精巧な人体を使って、私た

ちは、実に下らない事をしているのかも知れませんね、」

「はい...」江里香も、つられて笑った。

「でも...そんな私たちの社会というものは、実は、“非常に貴重なもの”なのかも知れませんわ。

私たちの理解を...はるかに越えて...」

「はい...そうなんですか?」

「ええ...でも...それを、一言で説明するのは、難しいわね...」

「はい...」

MHC主要組織適合性抗原とは・・・        wpe7.jpg (10890 バイト) 

               

「通常は...」外山が、脚を組み上げた。「細胞で生じた、あらゆるタンパク質は...分解され

ペプチド(ペプチド結合によって、アミノ酸が2個以上結合したもの/2個のものをジペプチド、3個のものをトリペプチド、多数の

ものをポリペプチド)になります...

  それから...分子機構の詳細については、まだ不明ですが...細胞内タンパク質が分解

されたペプチドは...“HSP60”“HSP70”“HSP90”ファミリー結合しています。そして

これらのペプチドは、最終的に、“MHCクラスT(主要組織適合性抗原・クラスT)と呼ばれる分子に載

せられて、細胞の表面提示されるわけです」

「はい!」江里香が、うなづいた。「細胞内のタンパク質は、分解されてペプチドになり...それ

から、“HSP/熱ショックタンパク質”と結合し...“MHCクラスT”に載せられて、細胞表面

提示されるのですね?」

「その通りです...」外山が、天井を見た。「そうやって...細胞内の状態を、看板のように細胞

表面提示します...

  免疫システムの司令塔/T細胞/Tリンパ球は...この“MHCクラスT− ペプチド複合体”

を認識し...細胞ウイルスに感染したり、ガン化したりして病んでいると判断すれば...その

“抗原提示”の情報に基づき...破壊するわけです...

  免疫システムの司令塔/T細胞というのは...先ほども言ったように、非常に優秀なシステ

ム管理者です。壮大な免疫システムによって、人体の60兆個の細胞保守されています。そし

て、人体“新陳代謝”し、エントロピー増大宇宙の中で、永続性を保持しているというわけです」

「はい、」

高杉・塾長によれば...

  そのプロセス性の実態/・・・時間軸上の展開が、生物体/生命体ということになります。まあ

これは、“言語的・亜空間座標”認識方法が...時間軸上に、ストーリイ的に展開しているとい

うことですがね...映画のフイルムのように...」

「はい...」江里香が、小首を傾げた。

「実は...他にもっとダイレクトな...直接的認識というものもあるのです...

  例えば...第6感や...透視...以心伝心...などというものです。ま、こんな話をするとき

りがありませんねえ。こうしたことは、いずれ心理学担当の、綾部沙織さんに話してもらいましょ

う...」

「はい!」江里香が、嬉しそうにうなづいた。

 

「ええと...」アンが言った。「生命体最小単位の細胞を...たった1個を抽出しても、その

極的な解明は、おそらく難しいでしょう...生命現象とは、私たちの理解を越えて、それほど奥

が深いのですわ...

  でも...ヒト60兆個の細胞の生滅/・・・動的な新陳代謝が...こうしたT細胞に監視され、

整然と1つのベクトルの中で活動しているというのは...“ナノ世界の大工場”というには、あま

りにも膨大なシステムです。何故、このような“細胞世界の大河”が存在するのかは、まさに謎で

すわ...」

「はい...」

「さらに...

  そうした生物体というものが、いとも簡単に、無数に存在しているわけですね。生命潮流の、

多様性・複雑化を含むベクトルの中で、壮大な生態系を形成しているわけです。いったい、この

ような複雑で途方もない世界を、誰が創ったのでしょうか...そうした事を考えたことはないか

しら...?」

「ありますけど...」江里香が、はにかむように白い歯を見せた。「でも...そんなに難しいこと

は分からないし...」

「ええ...でも、同じですわ...

  こういうことは、結局、知識が増えても同じなのです。子供のころに思ったことが、その増えた

知識の中で膨れ上がっているだけですわ...真理への到達というものは、そのようなダイレクト

なものかも知れませんね、」

「はい...」

「そして今...

  その地球生態系/・・・地球生命圏は、40億年の生命進化の後、ようやく“文明という花”を咲

かせています...野に咲く花...それ自体は、生態系の中で必死に生き、その自分の美しさ

知らないのかも知れません。おそらく、そうした価値基準というものを持たないのでしょう。あるい

は、生命潮流の、食物連鎖淘汰圧力の中で、ひたすら流されているだけかも知れませんね。

  ところがホモサピエンスは、“言語的・亜空間座標”巨大/人類文明を構造化し...“文明

の第1ステージ”“文明の第2ステージ”“文明の第3ステージ”と...無限にストーリイが拡大

しつつありますわ...この膨大なストーリイ/それ自体が...何なのかも分からずにです...」

  江里香が、真剣な眼差しでアンを見ていた。

花の美しさを知り...」アンが言った。「自らの存在を覚醒し...“心の領域”“物の領域”

分割し...今再び、高い次元で、それらを再統合しようとしていますわ...

  でも、江里香さん...こんな世界を、いったい“誰”が創ったのでしょうか?何処にそのに“意

思/・・・意識”があり...あるいは、“誰”にその“能力”があったのでしょうか...?

  それとも、ビッグバン宇宙が開闢(かいびゃく)した後、その百数十億年の間に、本当に“確率論

的に、偶然にでき上がった存在”なのかしら...?」

「じゃあ...」江里香が、大きく口を開けた。「“神様”が存在している、ということでしょうか?」

「さあ...どうでしょうか...」アンが、小首をかしげた。「考えてみて下さいな...」

「はい!」江里香が、コクリとうなづいた。

 

「ええと...」外山が言った。「話をまとめておきましょう...

  こうした...細胞内にある“内在性ペプチド”に対する...“HSP/熱ショックタンパク質”

シャペロン機能/介添えシステムというのは...“MHCクラスT・分子”による“抗原提示”

は、まさに不可欠のものだということが分かります。

  ええ...薬剤を使って、“HSP”を働かないようにしてみると...“MHCクラスT・分子”への

ペプチド供給が途絶えてしまいますね...すると、何も載っていない、カラッポ“MHCクラスT

・分子”が、細胞表面に提示されます。これでは、免疫システムの司令塔/T細胞も、何も認識

できないことになります」

「はい、」江里香が、コクリとうなづいた。「免疫システムというのは、ものすごいものですね、」

「うーむ...」外山が、深くうなづいた。「そうですねえ...

  私たちが...知ろうと、知るまいと...生物体の中には、こうした膨大なテクノロジーが、幾

重にも層を作り埋め込まれ、起動状態にあります。免疫システムもそうですし、それをサポートす

幹細胞システムなどもそうです。また、染色体や、遺伝子発現のシステムもそうですね。

  いや、それ以前に...神経システムや、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)システムや、頭脳メカニ

ズムそのものがそうですねえ。その統合された膨大なシステムが、生物体ではまさに起動状態

あるのが特徴です。

  その起動状態のプロセス性/存続性/永続性こそが、“命”なのでしょう。それが“停止”した

時、“命”から単なる有機物の塊に代わります...その時に“意識のシステム”崩壊/離脱

あるわけですが、残留思念“霊”なども含めて、“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の舞

台で解明されて行くでしょう」

「はい、」

「ちなみに...」アンが言った。「高杉・塾長は...

  “意識”は、中陰(ちゅういん/日本では人の死後49日間)を経て、“命”リンクの元である、“36憶念

の彼”に統合されると考えています。仮説ですから、本当かどうかは分かりませんが、“考察の

叩き台”としての価値がありますわ」

「うーん...不思議な世界ですね、」

「ほほ...そうですね、」

 

「アンに見習って...」外山が言った。「私も少し言って置くと...

  私たちが、知ろうと、知るまいと...“誰”かが、こうしたものを創り上げたようです。そして、

“エデンの園(/旧約聖書)に、アダムイブを置いたのかも知れませんねえ...まあ、考古学的

な実証はともかくとして...象徴的ストーリイとしては、そうなのかも知れません...」

  江里香が、コクリとうなづいた。

「それが...江里香さんの言うように...

  “神様”だというなら、そうなのかも知れませんね...一方、高杉・塾長のように、ややこしい

問題は、“宇宙成立の初期条件”にブチ込んでしまう、という考え方もあります...もともと、“宇

宙成立の初期条件”の中に、“意識”“生命”が存在するという項目を、書き加えておくというこ

とです...

  いったいそれを、“誰”が書き加えたのか...そんな事は知りませんが...そうした条件下で

あるならば、宇宙開闢(かいびゃく)後は、そうした宇宙になるということです」

「あの、」江里香が言った。「ビッグバンの前の...宇宙が開闢する前に...そうした条件にす

るのですか?」

「そういうことです...」外山が、深くうなづいた。

「それが...」江里香が言った。「つまり...【人間原理】という考え方なのですか?」

「そうですわ...」アンが、優しく言った。「デカルトが考えたように...

  私たちには...信じるべき実態は何もありません...全ては、“幻想/・・・夢の世界”なのか

も知れません...私は詳しくはないのですが、そう喝破している偉い禅僧もいるようですよ。そ

れは、高杉・塾長が詳しいので、聞いて下さいな...きっと、塾長は喜びますよ」

「はい!」江里香が、白い歯を見せた。

「話を戻しますが...」アンが言った。「デカルトは...

 我思う。ゆえに、我ありという...“存在の根本原理”というべきものを、発見したわけで

す。“この世”とは、“幻想/夢の世界”のような不確かな世界ですが...唯一、我思う。ゆえ

に、我ありという、“この世の拠り所/・・・この世のアンカー(碇/いかり)を見つけたのですわ。

  まさに...“思惟している我/・・・精神”が存在することを発見したわけです。ニュートンが、

“リンゴが木から落ちて引力を発見した”のよりも、だいぶ前のことになりますが、よく似ています

ね。“我”が存在するのなら...“肉体/物質世界”もあり...この世の実態も在るのだろうとい

うことです。

  デカルトは、まさに“神の存在”を信じていたわけですから、私たちとは少し感覚が違うのか

も知れませんが、」

「はい...」

「つまり、デカルトの疑問のように...

  “存在の根本原理”に到達する前の彼のように...私たちは宇宙論において、“どのように宇

宙が成立してきたのか”は、その経緯は、実際には全く分からないわけです。もちろん、想像す

ることはできますわ。

  これまでも、様々な宇宙論がありましたが、それが正しいのか間違っているのかは、本当の所

は、私たちには分かってはいないのです。宗教的な基盤や、科学的な基盤をもとに、豊かに想像

を巡らせてきたにすぎません」

「はい、」江里香が、ゆっくりと頭をかしげた。

「現在は...

   “ビッグバン宇宙論”が定説になっていますが、それさえも、時代とともに移って行くものです。

“相対性理論”“量子論”にしても、“標準理論”にしても...それが、はっきりと欠陥理論だと

いうことは分かっています。何故なら、それらの理論は、“心の領域/精神”というものには全く

触れていないからです。

  デカルト“存在の根本原理”が、棚上げにされているのです...“物の領域”だけで、論理が

追及されているからです。これは、仕方のないこととはいえ...明確な片手落ちです...統合理

論的に言えば...“心の領域”未統合なのです。

  そして、それは...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”の舞台で、本格化して来るものと

いうことですね」

「まあ...」外山が言った。「そうですねえ、」

 

「うーん...」アンが言った。「脱線ついでに、もう少し言いましょう...

  いったい生命体は...太古の地球の海で...確率論的偶然に合成された存在であり...

それゆえに地球生態系は、宇宙の奇跡の特異点であり...同じような生命体の誕生は、2度と

起こることはなく...“私たちは真に孤独な存在なのか?”...ということですわ...

  それとも...この太陽系の惑星空間にも...10万光年に及ぶ銀河空間にも...あるいは、

他の超銀河集団にも...“生命体は満ち溢れているのでしょうか?”...これは、“人類文明の

最も知りたいことの1つ”です」

「はい...」江里香が、まっすぐにアンを見つめた。

「現在...

  太陽系空間の直接探査が始まっていますし...天文学の世界では、水の存在する惑星系

探索しています...20世紀に主流だった...“生命体は、確率論的にゼロに近い偶然の産物”

という考え方は、最近では懐疑的になって来たようですわ...でも、まだ、はっきりしたことが言

える段階ではないようですね...その確証が、まだ得られていないわけですわ」

「はい、」

「ええと...」アンが、口に手を当てて笑った。「そう、そう...

  ずいぶんと脱線してしまいましたが...私が言いたかったのは...デカルトの、我思う。ゆ

えに、我ありと、同じ意味だということですわ...そうした意味で、宇宙論に、【人間原理】とい

“存在の根本原理”が導入されてきているということです。

  どのような背景経緯があり...また、“神”が創造したものであったとしても...ともかく、こ

こに【人間原理】が発現し...ここに、人類文明が存在するということです...つまり、宇宙論

00の【人間原理】の導入です。

  《当ホームページ》のタイトル...【人間原理空間】は、ここに由来しているわけですね」

「はい!」江里香が、両手を握った。

「うーん...これを言うために、ずいぶんと脱線してしまいましたわ...あ、これは、企画担当

響子さんからの依頼です」

「はは...」外山が笑った。「ここで入れたわけですね、」

「そうです...」

  〔4〕  抗原提示細胞とは・・・   

            様々な免疫細胞と・・・HSPとの相互作用

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「ええ...」アンが言った。「ガンや、細胞内に潜んだ病原体に対して...

  その細胞から精製した“HSP/熱ショックタンパク質”を使って...“特異的な免疫”をつける

ことができるのは...まさに“抗原”を、“介添え/シャペロン”する...“HSP/熱ショックタンパ

ク質”特性が、基本にあるからと言われます。

  さらに、“HSP− ペプチド複合体”は...その“抗原”が、敵か味方かを“T細胞”が認識する

上で、もう1つ決定的な役割を果たしています。それは、“抗原提示細胞”と呼ばれる様々なタ

イプの免疫細胞との、相互作用を通じて演じられています。ここでは、そのことを説明しましょう」

「あの...」江里香が手を握った。「“抗原提示細胞”というのは...例えば、どんなものなのか

しら?」

「言葉通り、免疫細胞ですわ...例えば、マクロファージなどです...

  つまり、この時マクロファージは、“抗原提示細胞”として働いているわけです。マクロファージ

というのは、聞いたことはないかしら?」

「あります!」江里香が、白い歯を見せた。「でも、よく分からないんです。普通は何をしているの

ですか?」

「ええと...」アンが、髪を揺らした。「そうですね...

  マクロファージというのは、“大食細胞/貪食(どんしょく)細胞”とも言われます...細菌異物

細胞の残骸などを、自分の細胞内に取り込み消化します。つまり、力の強い/大型の単核細胞

ですわ。単球/白血球の1種/単核白血球が...組織内ではマクロファージに移行するとされ

ています」

「はい...」江里香が、2度うなづいた。「そのマクロファージが、“抗原提示細胞”としても、働く

わけですね?」

「そうですね...

  様々なタイプの免疫細胞が、“抗原提示細胞”として機能します。“免疫システムの番人/抗

原提示細胞”というのは、およそ体中のあらゆる組織に分布していると考えられます。そして、

近くに存在しているかも知れない、“抗原”を探すべく、周囲の物をどんどん体内に取り込むので

す。

  食細胞ですから...猛烈なスピード“新陳代謝”して行く細胞の残骸なども、掃除機のように

呑み込んで行くわけです」

お掃除ロボットのようですね?」

「そうですね...

  そして、細胞内に取り込んだものは、とりあえず全て“T細胞”に対して提示されるようです。そ

こで、“T細胞”“異物/・・・抗原”として認識すれば...ガン細胞感染組織などの同じ看板

の出ている病変部に浸潤して行き、これらを破壊します。

  この時、ガン細胞自己由来の細胞ですから、長い間そのシステム構造が分からなかったわ

けです。“抗原提示細胞”は、細胞の残骸など/本人由来のペプチドも、全て提示するわけです。

でも、ガン細胞以外で...自己由来の細胞を認識して攻撃するような...いわゆる、“調整に

失敗したT細胞”は、あらかじめ排除されています...

  “T細胞”というのは...骨髄“造血・幹細胞”から分化しています。そして、前駆細胞(/前T細

胞)を、“Tリンパ球/胸線リンパ球”分化・増殖している...“胸線”という器官で...調整・鍛

しているようです。そこで、しっかりと教育され、厳選されて、全身に送り出されいるようです。

  特に...“ヘルパーT細胞”は、免疫系の司令官として、超エリート教育が施されています。そ

して、不適格細胞は、キッチリと排除されているわけです。これは非常に重要なことですわ。もし、

“本人由来の細胞を攻撃”するようだと、“自己免疫疾患”に陥ってしまうということになります。

  免疫の調整は微妙で...強くなり過ぎると、若い女性に多い“エリテマトーデス”などの症状が

出ます...あ、もっとも...“エリテマトーデス”は、遺伝的要因によるものですが...“そのよう

な側面”もあるのではないかということですね...若い女性に多いということですから...」

「はい...」江里香が、唇を結んだ。

 

「ええ...」外山が、ゆっくりと両手を組んだ。「もう少し、詳しく説明しましょう...

  “抗原提示細胞”の表面には、“HSP− ペプチド複合体”に対する、受容体があることが発見

されています。最初に発見された受容体は、“CD91”という分子ですねえ...

  “HSP− ペプチド複合体”は...“CD91”を介して細胞内に取り込まれた後、そのペプチド

“T細胞”に対して、“抗原”として提示されるわけです...その“抗原”を認識した“ヘルパーT細

胞”は、“キラーT細胞”増殖を指示し、またガン病原体の撃退に向かわせるわけです...」

「はい、」江里香が、うなづいた。「“ヘルパーT細胞”は、司令官なのですね、」

「そうです...」外山が微笑した。「さて...

  “HSP/熱ショックタンパク質”は...いわゆる“侵入者の人相書き”を伝えるだけでなく...

免疫系に対して、“迫りくる危険”も知らせているようですねえ...“参考文献”の著者らは、“抗

原提示細胞”に、“HSP70”“HSP90”を添加するだけで...“免疫防御に必要な炎症”を引

き起こす、シグナルを誘発できることを発見したようです」

「?...シグナルを誘発...するのですか?」

「そうです...

  普段は、“HSP”細胞の中で、本来の仕事に励んでいるわけです。しかし、ストレスの条件下

に置かれた時...“1部のHSPが細胞外に分泌”されたり...多くはありませんが、“細胞膜の

表面に移動”したりするようです...

  このこと自体は、以前から知られていたわけですが、それを誘発するシグナル因子を発見した

ということでしょう...」

「それは、つまり...“HSP70”“HSP90”ということですか...?」

「まあ、それほど単純なものかどうかは分かりませんが...とりあえずは、そういうことのようで

すねえ...」

「はい...」江里香が、ゆっくりとうなずいた。

 

「ええと...」アンが、モニターから目を上げて言った。「少し、話をまとめて置きましょう...」

「はい、」江里香が言った。

細胞が...

  ガン化したり、病原体に感染した場合は...通常とは違うタンパク質をつくり始めます。こうし

タンパク質が分解してできた“細胞内ペプチド”が...“抗原”として作用し、免疫応答を誘発

するのです...

  こうした、病んだ細胞の中に生じた“抗原”は...“HSP”“介添え/シャペロン”され...ま

細胞の外へ出ます。そして、“抗原提示細胞”へと運ばれるわけですね...そこで、“抗原提

示細胞”の膜にある、“CD91・受容体”がこれを受け取り...“抗原提示細胞”の中に取り込む

わけです」

「あ、そうなんですか...」江里香が言った。「“HSP/熱ショックタンパク質”によって...まず

胞の外に連れ出されるわけですね...そして、その辺にウロウロしている...マクロファージ

んかの...受容体に結合するわけですね?」

「そうです...」アンが微笑した。「ええと...

  それから、“抗原”を取り込んだ“抗原提示細胞/マクロファージ等”は...“T細胞”に対して

“抗原提示”すると同時に...“炎症性シグナル”を出し...他の免疫細胞を引き寄せるわけで

す。このシグナル因子になるのが、“HSP70”“HSP90”ファミリーだということです...」

「はい、」江里香が、唇に手を当ててうなづいた。

「一方...

  “抗原提示”を受けて...“標的抗原”を認識した“T細胞”の方は...“ヘルパーT細胞”の指

令のもとで、“キラーT細胞”破壊を開始するわけです。また、本格的な撃退に備えて、活性化

/増殖の準備に入ります。

  破壊されて死んだ細胞は...“新陳代謝”アポトーシス(プログラム細胞死)して行く細胞と一緒に、

大食細胞/貪食細胞がきれいに掃除して行くわけですね...皆さん、それぞれ、とてもよく働き

ますよ...よく訓練されていますし、非常に優秀なエキスパートです...もちろん、司令官もいま

す...」

「これって...」江里香が、目を輝かせて言った。「ものすごく、良くできていますよね...精巧に、

精密に...本当に、“神様”が創ったのかも知れませんね...?」

「そうですね...」アンが、深い眼差しでうなづいた。「人体は、そうした“60兆個もの細胞”でで

きた、“壮大な自己制御システム”なのです...

  膨大なレベルで統制され...“新陳代謝”し、“自己増殖”し...エントロピー増大宇宙の中で、

熱的平衡へ向かうのではなく...構造化/進化している存在なのです。それが、つまり、生命体

なのです...そして、生命体のもう1つの特徴として、“意識”を持っているということですね...」

「はい...そんなものを、“神様”が創ったのかも知れませんね...?」

「それを考えるのが...」アンが言った。「私たち...知的生命体に与えられた、使命なのかも

知れませんね」

「はい、」江里香がうなづいた。

HSP− ペプチド複合体で、“ガン・ワクチン”      

    wpe73.jpg (32240 バイト)            

「ええ、外山さん...」アンが顔を上げた。「それでは、いよいよ、“ガン・ワクチン”の話に進みた

いと思います」

「うーむ...」外山が、口に手をやった。「その現状を説明する前に...

  どうして...ワクチン可能かということを...もう一度説明しておきましょう。むろんこれは、

感染症“死菌ワクチン”や、“弱毒・生菌ワクチン”などとは様相が違います。ターゲットが、

染病原体ではなく...“ガン化が進行して行く細胞”...だということです」

「そうですね...」アンが、顔をかしげた。

「さて...

  これまで説明してきたように...“ガン組織から精製した・・・HSP− ペプチド複合体”を使っ

て...“ガンに対する免疫反応を誘導できる可能性”が出てきました...免疫システムを、うまく

誘導できそうだということです...

  それからもう1つ...ワクチンの確立には大事なことがあります。誘導ミサイルのような、ター

ゲット確実な補足性です。これに関しては、“ガンの抗原性”は、“個々の患者ごとに異なって

いる”、と考えられるからです...

  このような“抗原”は、“ユニーク抗原”と呼ばれています...“その患者のみに存在する、唯一

無二の抗原”と考えられます。つまり...真にガンを追い込むことができるような、“患者固有の

ガン抗原”というのは...“どれ1つとして同じではない”のです...」

「...」アンがうなずき、ゆっくりと頭を反対側に倒した。

「こうしたことを踏まえ...ええ...“参考文献”の筆者は...

  “患者のガン組織”から、“HSP− ペプチド複合体を抽出”して...患者のガンに特異的な

免疫応答を・・・刺激/増強するワクチン...として使えるように、その“精製・・・使用法”を開

発したということです...

  まあ、この開発に関しては、現段階では順調に進んでいるわけではないようですねえ...“モ

ノクローナル抗体医薬”のように、“長い間の研究開発・・・試行錯誤”を経て、ようやく評価に値

する、という経過をたどるのかも知れません」

 

「はい...」アンが言った。「ええと、その“ガン・ワクチン”の方に、話を進めたいと思います。

  臨床試験は、順調に進んでいるとは言い難いですが、前進はしていますね...その、臨床試

験の問題点については、“別の参考文献”で、私の方でまとめてあります。これは、後で説明した

いと思います。

  ええと、外山さん...それではまず、“ガン・ワクチン”の概略の方を説明していただけるでしょ

うか、」

「はい...」外山が、顎に手を当てながらうなづいた。「この...“HSP− ペプチド複合体を使う

ガン・ワクチン”については...

  アメリカヨーロッパで...複数のガンに対し、“第1相”“第2相”の、一連の臨床試験が行

われています。それから、さらに進んで、“有効性に関する試験/無作為の第3相試験”が、悪性

黒色腫(メラノーマ)と、腎臓ガンの患者を対象に...アメリカヨーロッパオーストラリア、それと

シアで行われ...このほど終了したということです...」

「はい、」アンがうなづいた。「それに、日本は、含まれていないわけですね?」

 

「そうです...」そう言って、外山が大きく首をひねった。「薬事行政については...

  どうなのでしょうか...“日本は先進国とは言えない状況”ですねえ...ここでは、そうした

社会面に首を突っ込むつもりはありませんが...日本厚生行政は、“全般に非常に立ち

遅れている”ようですねえ。日本“官僚支配社会の悪弊”が、極端な形で顕在化しています。こ

れは、非常にまずいですね...」

「はい...」アンがうつむいて、自分の拳を見つめた。

「過去においても、いくつもの薬害事件を引き起こしています...

  それから...脳死問題や、臓器移植の問題でも、非常に立ち遅れています。厚生労働省は、

“国民の命/国民の福祉/国民の労働”などに関与する官庁ですが...日本においては、ここ

が、“今まさにパンク状態”です」

靖国神社の合祀問題も...厚生労働省ではなかったかしら?」

「そうです...うーむ...

  首を突っ込むつもりはないのですが...まさにかつての、“官民格差問題”終着駅のように

なっていますねえ。いや、終着駅というよりも、ダムに溜まった大量のゴミのようですね。全てが

機能不全に陥り、ダムの大量の清流が、しだいに腐って行くようですねえ。未曾有の事態です」

年金問題も...」江里香が言った。「大問題になっていますね...

  あれは、そもそも、“犯罪”ではないのかしら...?結局、どうなるのかしら...?厚生事務次

だった人が、“奥さんと一緒に殺された事件”がありましたけど...また、あんな事件が起こる

のかしら?」

「今の調子でいけば...」外山が言った。「圧力が、限界に達するでしょうねえ...

  そうなると、“天誅(天に代わって誅罰すること)のような事件”が、続発する恐れがあります。それを

然に防ぐには、国民に分かるように、キッチリと対処して行く以外にはありません...しかし、

行政も、そうした差し迫っている危機に対し、“驚くほど鈍感”ですね...」

「はい...」アンが、眼鏡を押し上げた。「津田・編集長も、青木・政治部長も、こぼしていました

わ...」

年金問題では...」江里香が言った。「“第3者委員会”が、何故機能しないのかしら...?」

「うーむ...そうですねえ...非常に心配な事態になって来ました...」

「でも...」アンが笑顔をつくり、明るい気持ちをこめて言った。「この方面では...

  “ips細胞/人工多能性幹細胞”で...久々に、京都大学/中山伸弥・教授が、ホームラン

打ちましたわ...それで、“新しい流れ”ができてくれればいいですね...」

「うーむ...そうですねえ...」

 

「あ、」アンが言った。「話を戻しましょうか、」

「そうですね...」外山がうなづいた。「さて...悪性黒色腫腎臓ガンの患者...“第3相・

臨床試験”の結果ですが...

  転移が、皮膚リンパ節...までに限られた、双方の患者のうち...“十分量のHSP−

ペプチド複合体を・・・ワクチンとして投与された患者”は...“他の化学療法を含む標準的な治

療を行った患者”よりも...生存期間が長くなっていたということです。腎臓ガンの患者では...

“再発なしの生存期間”が、“1年以上も長くなった例もある”ということです...」

「それだけを聞くと...」アンが言った。「素晴らしい成果ですが...ワクチンと呼ぶには、まだま

検証開発が...始まったばかりだということですね...?」

「そうですねえ...

  しかし...これらの臨床データは、ロシア政府を納得させたようです。“最初のガン・ワクチン”

として、ロシア治療に使うことを許可しました...ヨーロッパでも、それほど時間を置かずに、

許可される見込みだ、と...“参考文献”には書かれています...

  ただ...アメリカ食品医薬品局/FDAでは、もうしばらく追跡調査を行うようです。“もう少し長

期間にわたるワクチン効果”を、検討するようですね」

「はい...微妙な段階ということですね...」

 

臨床試験“やり方”に、問題があるのか・・・?

                 <参考文献//日経サイエンス/2009−02/・・・NEWS SCAN/がんワクチンに援護射撃>

                  

「ええ...」アンがモニターを見ながら、前髪を撫で上げた。「私たちも...

  特定の研究論文だけを見ていると...研究の進め方や、その経緯などは分かりやすいので

すが...研究開発の全体状況で、意外な思い違いなどをしていることが、間々あります。

  最先端の研究開発領域を、全世界的に見渡し、優劣・問題点等を判断することは不可能です

ので、仕方のないことですが...今回も、まさにそうした状況に陥るところでした。というのは、

悪性黒色腫(メラノーマ)のワクチン/・・・“カンバキシン”は...実は、患者の生存率を改善できず、

開発元の製薬会社は、最終的に別の会社に買収されたようですわ...」

「そうらしいですねえ...」外山がうなづいた。

「もちろん...」アンが、言った。「こうした経緯については、私たちは承知していません...

  非常に生臭い、経済の話になってしまいましたが、私たちは...“日経サイエンス/2009−

 02/NEWS SCAN”で...、最新の臨床試験風景の一端を知ることができました...

  それによると...様々な、“ガン・ワクチンの臨床試験”が、“みじめな敗北に終わっている”

いうのが実態のようですわ。それでは...これまでの研究開発は間違っていたのか...無駄

だったのか...というと、もちろんそうではないと思います」

  外山が、窓の方を見ながらうなづいた。

「また...

  研究者の中には...“臨床試験のやり方が間違っている”から、“誤った結論が出ている”、と

主張している人たちもいるようです...

  失敗した臨床試験詳しいデータが公表されて来たことで...こうした新しい視点も出てきて

いるわけですわ。ここではそうした例を取り上げて、“ガン・ワクチンの考察”の一助にしたいと思

います」

「あの...」江里香が、手を立てた。「それでは、ロシア政府許可したというのは、嘘なのです

か?」

「いえ...」アンが、優しく笑った。「本当でしょう...

  でも...アメリカ食品医薬品局/FDAが、もうしばらく追跡調査を行い、“長期間にわたるワク

チン効果を検討する”という辺りが、“本当のところ”を示しているのも知れません...もちろん、

ロシア政府の立場は、“命を縮めている・・・患者の切実な立場”を反映したものでしょう。軽薄

いうことではないと思います。

  日本のように...“製薬会社の立場に配慮”し、“度重なる薬害事件(/最近では、薬害エイズ事件、薬

害C型肝炎事件等)を引き起こしているものとは、違うのだと思います。でも、ともかく私たちは、そう

した目を養う必要があります。どの辺りが、“正確な所”を進んでいるかということですね。

  闇雲に、“苦しんでいる患者の立場に配慮すればいい”というものでもありません。長い目で見

ての、“良い薬”というものを創り出さなくてはなりません。“様々な意味での良い薬”...というこ

とですわ」

「はい...」江里香が、まばたきした。

 

“ガン・ワクチン”でも、“エイズ・ワクチン”でもそうですし...」アンが言った。「“再生医療”でも

そうですが...確実に前進していることは、間違いありません...そして、今後も開発研究は、

進んで行くものと思います...

  ただ...“大自然の摂理に反し、何処まで“神の領域”に踏み込んで良いものか”...という

問題はあります。でも、遠い遠い将来の話として...人類自身が、“神と接近・・・融合”しようと

しているのかも知れませんね...これは、高杉・塾長が言っていた言葉ですが...」

「はい...」江里香が、真剣な眼差しで言った。「あの...私たちが、“神様と融合”するのです

か?」

「そうです...」アンが、唇を引き結んだ。「意外かもしれませんが...私たちは本来、“神なの

かも知れない”...ということですわ...」

「うーん...」江里香が、手を握りしめた。「私が...“神様”ですかあ...?」

  アンが、微笑した口を、手で押さえた。外山は、声に出して笑った。

「本当に、ですか...?」江里香が、聞いた。

「ええ...」アンが、うなづいた。「これは、真面目な話ですよ」

 

「ええと...」アンが、モニターに目をやりながら言った。「ともかく、話を進めましょう...

  “腫瘍の、縮小ナシでも・・・延命している”...ということについて、話ましょう。“前立腺ガン・

ワクチン/プロベンジ(/デンドレオン社製)は...“第3相試験”で、“効果がなかった”と、2006年

に報告されています。

  ところが、その後の解析で...“ガンが転移していた患者”については...プラセボ(偽薬)を投

与した場合に比べて...“生存期間が、中央値で4.5ヵ月延びていた”...ということが分かっ

たといいますわ」

「ふーむ...」外山がうなった。「中央値で4.5ヵ月ですか...」

「はい...

  また...ワクチン投与後に、“抗がん剤治療を受けていた患者”は、さらに生存期間が延びて

いたようです...ええと、プラセボ投与後に、化学療法を受けた患者群の中央値が、25.4ヵ月

だったのに対し、ワクチン投与群は、34.5ヵ月だったということです」

「ふーむ...」

米国立ガン研究所/腫瘍免疫学/生物学研究室長シュロムは...

  標準的な臨床試験で用いられている効果判定基準を・・・ワクチンに適用するのは不適切だ

と指摘していますわ。ワクチンは、従来の抗ガン剤と違って、腫瘍を小さくするわけではない

いう側面があるようです。

  したがって、“腫瘍縮小”などの点で評価すると、“効果ナシ”という結果になってしまうというこ

とがあるようです。実際には、腫瘍の縮小具合とは裏腹に、患者の生存期間は延びている、と

彼は言っていますわ。

  さらに...“ガン治療薬の臨床試験に加わる患者”というのは...すでに幾つかの治療を受

けていて、免疫系の働きが鈍っているといいます。この“免疫系の低下”は、新しい抗ガン剤

の試験には影響しないのですが、“免疫応答の誘発を狙うワクチンの場合には、足を引っ張る”

といっています」

「なるほど...」

「あと...

  ワクチンは、“くり返し投与”することで働きが強まりますから...“効果が表れるのは、予想よ

りも遅いかも知れない”、と指摘しています」

「うーむ...

  しかし、いずれにしても...“病原菌に対するワクチン”のような、特効薬とはいかないようで

すねえ、」

「そうですね...」アンがうなづいた。「ガンの発生は、加齢による免疫力の低下や、ヒトの寿命

とも関係してきますわ...

  “ガン・ワクチン”ができたとしても...システムが複雑な上に、多様な原因が重なっています。

やはり、とても一筋縄ではいかないということでしょうか。でも、“若い人がかかるガン”の場合は、

ワクチンができればいいですね...」

「まあ...高齢者では、その分、ガンの進行も遅くなりますからねえ」

 

「もう1つ...」アンが言った。「“ガン・ワクチン”で問題になるのが、“適切なアジュバントがない”

ことだそうです。

  アジュバントというのは、薬物の作用を修飾(/増強)するために加えられる試薬のことですね。

これは、あるにはあるのですが、適切なものがないということのようです。企業は一般に、“他社

製品の補助役になるだけの化合物”は、開発したがらないものなのだそうです。

  これは、臨床試験にとっては、1つのジレンマになっているようです。でも、ワクチン有望そう

なアジュバントの組み合わせに焦点を当て、“適切に設計された臨床試験”も、少数ながら進行

しているということですわ...」

「ふむ、」

「ええと...1つの例を、紹介しましょう...

  “グラクソ・スミスクライン製/肺ガン向けの“MAGE−3ワクチン”/“第3相試験”の例です。

これは、“ガンを手術で切除”したものの、他の治療は...“ほとんど 〜 まったく受け付けていな

い・・・2300人”...を対象にしたものです...

  ええ...この規模で試験するには...同ワクチンが標的とする“MAGE−A3抗原”の有無を、

約1万人の患者で調べ、“抗原を持つ患者”を選び出す必要があったということです。これだけ

の患者数を確保すれば、曖昧さはなくなるだろうと、実施・担当者は言っていますわ」

「しかし...」外山が言った。「莫大な費用がかかりますねえ、」

「そうですね。そして、その労力も大変ですわ...

  ええと...ともかく、患者は...“MAGE−3ワクチンと3種類のアジュバント”を投与されまし

た。この試験研究は、最低でも5年に及ぶとみ込まれています。そして...ワクチンが腫瘍を

縮小するかどうかではなく・・・ガンの再発を防げるかどうかを評価する...ということですわ」

「規模も大きいですが、相当な自信ですねえ...」

  アンがうなづいた。

「ええと...」アンが、モニターに目をやった。「この他に...

  有望なワクチン臨床試験としては...先ほども話した、“前立腺ガン向け/プロベンジ(/デン

ドレオン社製)...白血病向け/“WT1”(グラクソ・スミスクライン製)や...前立腺ガン向け/“オニバッ

クスP”(英オニバックス製)...などがあります」

「ふむ...」

「それから、一方で...依然として、懐疑的な見方をする研究者もいるようですわ...

  ひとつの心配は、1部のワクチンが、...“体内に自然に存在するタンパク質/通常は免疫

系が攻撃しないようなタンパク質を、標的にしている点”...だということです。ワクチン投与は、

“免疫系に備わっている防御機構を、無効にするように身体に要求する”...ことになるからだ

そうです」

副作用として、“自己免疫疾患”を引き起こす恐れがあるということですねえ、」

「そうですね...臨床試験の引用は、このぐらいにして置きましょうか」

「はい!」江里香が言った。


  〔5〕 拡大する、“熱ショックタンパク質”の影響

                  

太古の...」外山が言った。「...地球生命夜明けより...

  “HSP/・・・熱ショックタンパク質分子”というのは、細胞内大量に存在していたようです。

しかも、現在に至るまで不変のまま・・・生命体の基本的インフラ”として、機能して来たようで

す。これは、どういうことかというと...例えば、“タンパク質を・・・タンパク質たらしめて来た”

いうことです。

  つまり...“タンパク質の合成を介助”し、“その分解を促進”し...またある時は、“環境スト

レスから・・・タンパク質を保守”し...さらに、“遺伝子変異の・・・悪影響をも緩和”するように、

働いて来たということです。

  もちろん、これまで話してきたように、その他にも多彩な機能があるわけですねえ。それゆえ

に、“生命の基本的インフラ”として、今後益々、注目されて行くだろうということです」

「ふーん...」江里香が、頭をかしげた。「色々な機能があるんですね、」

「そうですねえ...

  この“魔法のような機能”は...非常に奥深いものがあります。この“勤勉極まるお節介機能”

の中に...“高杉・塾長の言う・・・生命進化のベクトル”が...色濃く反映しているのかも知れま

せんねえ...」

「この中に...」アンが、顔を上げた。「“生きるという力/方向性”への“動因”があると...?」

「うーむ...」外山が、腕組みをした。「...生命の最小単位細胞は...もちろん、その“動

因”がかかっています...

  しかし“HSP”は、タンパク質分子だということですねえ...それが、これほど中心的に、主体

にかかわっているということです...そんな健気(けなげ)が、生命体を組み上げ支えている

わけです...」

「...」アンが、唇を指で押さえた。「生命の最小単位/細胞により近いのは...呼吸はしてい

ないけれども、“感染/寄生して・・・自己増殖”できるウイルスですわ...生態系の中を泳いで

いる、機動性遺伝子のような存在です。

  このウイルスのような存在も、大きな意味を持つものですが、“HSP”別のレベルで、“基本

的インフラ”として、大きな意味を持つということですね、」

「まあ...そうですねえ...」

1個の...」江里香が言った。「個体を超えた...生命体の問題ですね、」

「そうです...」アンが、眼鏡を押さえた。「こういうことを、“超個的/トランス・パーソナル”と言

います...心理学の分野では、“トランスパーソナル心理学”と言いますね、」

「あ、はい!綾部沙織さんの担当している分野ですね?」

「そうです...」

沙織さんは、色々な事を話してくれます。人間の心理の、深い所を、」

「これからは、“心の時代=物と心の統合される時代”になります。綾部沙織さんの登場も、多く

なるでしょうね、」

「はい」

         

「さて...」外山が、モニターをのぞいて言った。「ともかく、話を進めましょう...

  “HSP”が、細胞内ストレスに満ちた状況を、いかに軽減しているか、唖然とするような実験

事実があります。これは、アメリカ/シアトル/ワシントン大学のラザフォードと、イギリス/ケン

ブリッジ/ホワイトヘッド生物医学研究所のリンドクイストによるものです...

  彼等の実験によると...ショウジョウバエの、“HSP90の機能を抑制したところ・・・それまで

隠されていた多くの遺伝子変異が・・・外見などの形質として発現した”...ということです...」

「目に見えるような形で...」江里香が言った。「現われたということで...いいんですか?」

「そうです...」外山が、微笑した。「このことは...

  “生物の生存に、悪影響を及ぼすような遺伝子変異があっても・・・それが表に出ないように、

“HSP90”によって、緩和されていることを意味する”...と言います。話が多少前後してしまい

ましたが、こういう機能もあるということですね」

「うーん...?」江里香が、頭をかしげた。

「はは...」外山が、軽く笑った。「まあ、聞いて下さい」

「あ、はい...」

「彼等は、さらに、こんな風に主張しているようです...

  “生物には本来、広範囲に及ぶ遺伝子変異が蓄積されているが・・・中には、個体機能に影響

を及ぼすようなものもある。しかし、これらが表に出ないように・・・HSP90が、一定の抑えを利か

している”...ということです」

「はい...」

「つまり...」アンが言った。「“遺伝子変異が、静かに蓄積されて行くということを・・・HSP90

可能にしている...ということですね、」

「そうです...」外山が、うなづいた。「例えば...

  環境温度が激変した場合...“HSP90”は、温度変化の対応で大忙しになります。そのため、

結果として、“遺伝子変異による形質変化”が、表に出てしまうことがあるようです。そして、表に

出た形質は、自然淘汰の対象になります...ここで、淘汰されるものもあれば、環境に適応し、

生き残るものもあるわけです。

  これは、つまり...“HSP90は、遺伝子変異を蓄積することにより・・・進化を促進している”

ということもできるわけです」

「はい...」江里香が、曖昧に答えた。

「ええと...」アンが、頭を反対側にかしげて言った。「さらに...ケンブリッジ/ホワイトヘッド

生物医学研究所/リンドクイストたちは...

  様々な真菌類が、“薬剤耐性のような・・・新手の形質を素早く獲得するのに・・・HSP90が関

与している”...ということを示しています。これも、つまり、進化に関与していということですね。

こうした結果を踏まえて...“種・特異的な、HSP90阻害剤”...というものができれば、真菌

にも効く、“新世代の抗生物質”として利用できる...ということですわ」

新しい抗生物質ですか?」江里香が聞いた。

「そうです...

  でも、“参考文献”からは...これ以上、詳しいことは分かりませんね。でも、そのうちに明らか

になって来ると思います。あ、それから、もう1つ、大事な指摘があります。

  それは...“HSPが・・・本来なら、ガン細胞の生存を低下させるはずの遺伝子変異まで抑え

てしまい・・・ガンの悪性化を助長している側面もある”...ということです。これも、“新薬のター

ゲット”になります」

「そうですね...」外山が、口を押さえた。「ともかく...

  “HSP90”というのは...他のどんな“HSP/熱ショックタンパク質”よりも...より多くの細

胞内シグナル伝達経路に関与しています。そのために、“HSP90”の機能が失われると、ガン

細胞ストレスに対する抵抗力が弱まります。

  つまり、これを利用すれば...“化学療法などの・・・効果が高まる”...ということが期待され

ます。こうしたことから、現在...“HSP90を、より特異的に阻害するような薬”...が、数多く

テストされているようです...

  これらは...抗ガン剤ワクチンなどと併用する...“アジュバント”になるわけですね。“薬

の効果を・・・より高める作用”をするわけです...こうした新薬については、後で説明します」

「はい、」江里香が、メモにチェック入れた。

 

「ええ...」アンが、モニターをスクロールさせた。「もう少しですから...頑張りましょう...」

「はい!」江里香が、唇に微笑を浮かべた。

「この...“HSP−ペプチド複合体/・・・ガン・ワクチン”ですけど...

  あまりにも大量に投与すると...“免疫応答を誘導”するどころか、逆に“免疫を抑制”してしま

うようですね...これは、“参考文献”の筆者と、アメリカ/コネティカット大学/チャンダワーカ

共同研究で明らかになったようです」

「大事な所ですね、」外山が言った。「つまり...

  “HSP”は、“免疫・促進剤”である一方...“免疫・抑制剤”としても機能するということです」

「はい...」アンが、うなづいた。「ええと、次に...

  “自己免疫疾患”と考えられる、T型糖尿病について考えてみましょう。これは、マウスでの研

ですが...“大量のHSPの投与によって、T型糖尿病脳炎(/自己免疫疾患のもの)が抑制でき

たということです...」

「ええ...」外山が言った。「それから、これは...

  イスラエル/ワイツマン科学研究所/コーエンらのグループということですが、T型糖尿病

臨床での研究をしています。つまり、ヒトの臨床での研究ということですね...

  彼等は...“HSP60”と、“それに由来する1部のペプチド”が、T型糖尿病における“自己抗

原”推測...免疫系はこれを標的分子として、インスリン産生細胞を攻撃していると推測...

その方向で研究していたようです。

  さて、彼等は...臨床試験で、“HSP60由来の1部のペプチドに対し・・・免疫応答をブロック”

すれば...“T型糖尿病の症状が軽減”することを証明したようです...あ、ええと...この

床試験は...現在も継続中のようですねえ、」

T型糖尿病は...」江里香が、胸にコブシを当てた。「子供のうちに発症することが、多いんで

すよね...これは、いい話ですね、」

「そうですね...」アンが、優しく瞬(まばた)きした。「風邪をひいた後に...ウイルス感染で起こる

ことがあるようです...膵臓(すいぞう)B細胞が、インスリンを作ることが出来なくなって、発病

ます。最近では、こうした“自己免疫疾患”も、色々な方面から光が当たり出したようですわ...」

「はい!」江里香が、顔を輝かせ、うなづいた。

HSP/熱ショックタンパク質による・・・新薬の登場   

              

「さてと...」外山が、マウスを引き寄せ、クリックした。「これで、最後になりますが、現在開発中

の、“HSP”に関連する新薬について、概略を述べて置きましょう。

  これらは...“HSPの多様な機能を抑制する薬”もあれば...逆に、“HSPの機能を高める

薬”もあります。病気の種類/性質によって、それが使い分けられるようです」

「はい、」江里香が、コブシを握った。

治療の対象となる疾患は...ガンが多いわけですが...感染症もあります。ほとんどが、臨床

試験中となっています。治療薬として認可されたのは、1点のみです。

  ええと、この1点は...先ほども紹介したように...2008年4月/ロシア政府が認可したも

のです...ええ、この“ガン・ワクチン”に関して、もう少し詳しく言うと...

 

“HSP”の種類/Gp96...治療薬名/HSPPC−96/ヴァイテスペン...

  製造元/アンティジェニクス社...商品名/オンコファージ...対象疾患/固形ガン

 

  ...というものです。これが現在認可されている唯一の製品です」

「はい!」江里香が、メモをチェックした。「その“固形ガン”というのは...悪性黒色腫/メラノ

ーマで、いいわけですね?」

「そうですね...」アンが、顎に手を当てた。「....メラノーマ/・・・メラノサイト(メラニン色素を形成

する細胞)から発生する腫瘍は、母斑(ぼはん)の1種です。良性若年性・黒色腫と...極めて悪性

度の高い、悪性黒色腫とがあります。

  これは、進行度が速く、難治性希少ガンです...“固形ガン”が全て、この珍しいガンという

ことではありませんが、これも含まれますね。これを含めた“固形ガン”が、対象疾患ということで

しょう」

「はい、アン...メラノーマというのは...ホクロのような、怖い皮膚ガンですよね?」

「そうです...」アンが、口元を厳しくし、うなづいた。「でも...早く発見すれば、完全に治すこと

ができると言われています。

  このガンに、“ガン・ワクチン”が認可されたということですが...ええ...アメリカの食品医薬

品局/FDAは、もうしばらく、患者の追跡調査を行うようです。もう少し長期にわたる、ワクチン

効果を検討するようですね...

  つまり、“その辺りに位置している薬”...ということでしょうか。新薬として、まだ歩き始めた

ばかりです。でも、これから膨大なデータが集まり、蓄積され、新薬として成長して行くわけです

ね。期待したいと思います...」

「はい...ええと、メラノーマについて、少しメモを取って来てあるのですが、いいでしょうか?」

「あ...」アンが、ニッコリとうなづいた。「お願いしますわ」

「はい!

  ええと...

 

     *******************************************************************

     【皮膚上の・・・メラノーマの見分け方】

     wpeA.jpg (42909 バイト)        wpe7.jpg (10890 バイト)     

 ほくろのガン”であるメラノーマは、極めて悪性度が高いということで恐れられてい

ます。でも、早期に発見すれば、完治することができます。

  子供は、メラノーマになることが少ないのだそうです。男女を問わず、40歳頃から

するそうですよ。でも、それよりも若い人にもありますので、注意しておいた方がいい

ですね。

  進行が早くリンパ節などへ転移しやすく...最も悪性度が高く致死率も高いのだ

そうです。ただし、非常に希なガンでもあるようです。

  私たちの皮膚の状態は、簡単にみることができます。日頃から、危ないホクロとはど

のようなものかを、知っておいて下さい。その、ちょっとした注意が、命を救うことになる

かも知れません。

 

≪色・・・≫

 まったく黒色の場合と、茶色が混じっている場合があります。

 シコリの周りに、墨がにじみ出たようになっている場合は、要注意です。

 爪の下にできると、爪に黒いスジが入ったようになります。

 

  (まれに...一部が自然に治って、皮膚の色となっていることもあるようです。それか

   ら、これも稀にですが...無色素性メラノーマ/皮膚色〜紅色というものあります。

   疑わしかったら、迷わずに、お医者さんに診てもらってくださいね...)

 

≪大きさ≫

 直径5mm以下・・・  まず大丈夫といわれています。

 直径6mm以上・・・  数カ月から1年で、急に大きくなった場合は、要注意

 直径7mm以上・・・  メラノーマの可能性が高い

 鉛筆を当てて見て・・・ 鉛筆の径よりもはみ出す場合は、要注意

 

  (これだけが、全てではありませんが...皮膚にこのようなものがあったら、一応、

   疑って見て下さい。誰かと話し合うのもいいですし、最終的には、お医者さんに聞

   いてみるのが一番です。もちろん、専門医がいいのですが、どのお医者さんでも、

   気軽に聞けば、アドバイスはしてくれると思います...それが、早期発見につなが

   るかも知れません...)

     *******************************************************************

 

  ...ええと、以上です...」

「はい...」アンが、うなづいた。「どうも、ご苦労様でした」

      
  

「ええと、いいですか...」外山が言った。「それでは、今度は、“HSPの新薬”の説明に移りま

しょう...ええと、作用メカニズムから、次の3つに分類することができます...

 

     *******************************************************************

              HSP新薬の・・・作用メカニズムからの分類】

      

@ “HSP”の抑制

   ガン細胞病原体に感染された細胞・・・生存するために必要なHSPの機能を、

   ブロックする。           

A “HSP”の発現レベルを高める

   薬剤によって・・・患者自身のHSP合成”を高め・・・手術などの、治療中の身体

   組織を保護する。

B ワクチン/免疫療法

   HSP−ペプチド複合体/・・・抗原ペプチドと結合したHSP”抽出・精製し・・・これ

   をガン患者や、感染症患者に投与することにより・・・免疫応答を刺激する。

 

     *******************************************************************      

 

  ...と...3つに分類されます。全体風景をまとめれば、こういうことになりますかね...」

「はい...」江里香が言った。「ワクチンだけではないわけですね...

  手術などの、治療中の身体組織を保護するために...物理的に、“HSP”を活性化させるこ

ともあるのですね?」

「そうですね...」アンが、口に指を当てた。「“HSP/熱ショックタンパク質の利用は...新薬

を作るだけはでなく...薬剤によって、その能力を活性化させ...身体組織を保護するの

にも有効なわけですね。

  こうした医療技術を高めていけば、非常時などの別のシーンでも、応用できるかも知れません

ね。事故災害などの緊急時にも、広く応用できるかもしれません」

「はい」

「ええ...」外山が言った。「それでは、参考までに...

  臨床試験中の、新薬候補を簡単に述べておきましょうか...まあ、どんな薬が、実際に開発さ

れているのかということですね。何かの参考になれればと思います。しかし、“参考文献”からは、

これ以上の内容は分かりません...

 

******************************************************************

       【作用メカニズム/治療薬名/対象疾患/・・・製造元】

 

@ HSP90・・・では

  (===HSPの抑制===)

 アルベスピマイシン ・・・・・・ 乳ガン  (製造元/コーサン・バイオサイエンシズ)

 テインスピマイシン ・・・・・・ 白血病リンパ腫固形ガン

                          (製造元/コーサン・バイオサイエンシズ) 

 CNF 2024 ・・・・・・・・・・・  白血病リンパ腫固形ガン

                          (製造元/バイオジェン・アイデック)

 SNX−5422 メシレート・・  白血病リンパ腫固形ガン

                          (製造元/セレネックス) 

 AUY−922 ・・・・・・・・・・・  固形ガン (製造元/ノバルティス) 

 IPI−504 ・・・・・・・・・・・・・ メラノーマ前立腺ガン

                          (製造元/インフィニティ・ファーマスーティカルズ) 

 BIIB021 ・・・・・・・・・・・・・ 白血病リンパ腫固形ガン

                          (製造元/バイオジェン・アイデック) 

A HSP27・・・では

  (===HSPの抑制===)

 OGX−427 ・・・・・・・・・・  固形ガン  (製造元/オンコジェネックス・テクノロジーズ)

 

B HSPは・・・さまざま 

  (===HSPの発現レベルを高める===) /  ラジオ波療法                      

                 ・・・・ メラノーマ  (・・・・・・・・・・・・・・・) 

 

C HSP65・・・では 

  (===ワクチン/免疫療法===) 

 HspE7 ・・・・・・・・・・・・・ ヒトパピローマ・ウイルスに感染した、前ガン状態の子宮

                 頚部細胞 

                        (製造元/ヌヴェンタ・バイオファーマスーティカルズ)

D HSP70・・・では

  (===ワクチン/免疫療法===) 

 AG−707 ・・・・・・・・・・  2型単純ヘルペス・ウイルス感染 

                          (製造元/アンティジェニクス)

 HSPPC−70/AG−858 ・・・  慢性骨髄性白血病 

                          (製造元/アンティジェニクス)

E Gp96・・・では

  (===ワクチン/免疫療法===) 

 HSPPC−96/ヴァイテスペン ・・・  固形ガン   商品名/オンコファージ  

                          (製造元/アンティジェニクス)  

 ロシア政府/2008年4月/最初の“ガン・ワクチン”として認可!   >                               

 

******************************************************************

 

  ...ええ、こんなところですね、」外山が、カチ、とマウスをクリックした。

「はい...」アンが、うなづいた。「現在の所...

  認可されたのは1つですが...研究開発臨床試験の方は...様々、進んでいるということ

ですね、」

「そうです...

  “iPS細胞”の登場で、再生医療が爆発的に進んでいますが...“HSP/熱ショックタンパク

質”の方も...今後、非常に広範囲に影響して行くようです」

“ヒトゲノムの解読”も...」江里香が言った。「大きな影響を与えたといいますね、」

「あれは別格ですわ...」アンが言った。「“ヒトゲノム解読計画”は...コンピューターの発達

ら、情報革命時代へ突入する、大きな入口のようなものでした...

  分子生物学〜生物情報科学と...電子情報工学を結びつけるものでした。その全体が情報

革命を引き起こしています。そして、さらに、次世代量子情報科学へ進み...“情報革命時代

の本格化のステージ”へ進んで行くようですね...

  私たちとしても、生物情報科学の立場から、非常に関心のある所です...」

「はい...」江里香が言った。「大自然が、さらに解明されて行くのかしら?」

「そうですね...」アンがうなづいた。「この、“眼前するリアリティーの世界”は...それこそ、

の塊ですわ...私たちの存在自身も...

  これを、どのように説明するのかが...“知的生命体/文明社会の背負っている・・・根本的

な課題”...なのです。私たちは、今まさに、その最先端を切り開きながら、1歩1歩前進してい

るのです...

  現在、世界レベルで、社会状況が非常に混沌としてきましたが...私たちがそれに向かって

歩んでいる状況は...変わりませんわ...それが、“存在の覚醒・・・その歩み”なのです...」

「はい...」江里香が、コクリとうなづいた。

 

                 wpeA.jpg (42909 バイト)

「二宮江里香です...

  ご静聴ありがとうございました。今回はこれで終わります。外山さんとアンは、

引き続き、《大恐慌の中/医療・研究開発の将来展望》の方へ行きます。そ

れと、アンは《HIV/エイズ・ウイルス戦略》の方へも行くようですよ。これは、

響子さんの依頼だです。どうぞ、そちらの方もご期待下さい! 

  私は、しばらく雑務や、次の仕事の準備に入ります。雑務も色々多いので、何

処かで、すぐにお合いするかも知れませんね...それでは...」

 

  江里香が、前で両手を揃え、丁寧にお辞儀をした。それから、チャッピーとミケ

が、江里香の後について行った。

 

 

    

 

   

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