プロローグ  
 
「《
My Weekly Journal》//第2編集室の北原和也です...
4月も末になると、すっかり春らしくなりますね...《核弾頭は更新せず、廃棄を!》
のページが長くなりましたので、新しく当ページを立ち上げました。よろしくお願いします。
ええ...核兵器及び核戦略体系は、“文明の折り返し”を提唱している私たちとして
は、乗り越えて行かなければならない“旧・20世紀のパラダイム”です。しかし現在、未
だに、“核兵器の拡散”、“原子力発電所の拡散”が進んでいます。これらの混乱要因
は、排除し行かなければなりません。
さらに、“グローバル化の進展/・・・グローバル・ゲーム”は、人類文明にとって、核兵
器以上の脅威となっています。これは、確実に地球環境を沈没させて行くからです。私
たちは、このための方策として、〔人間の巣のパラダイム〕を提唱しています。
ともかく、この核兵器の脅威を超えて行くためにも、まず核兵器そのものについて、よく
考察をして置かなければなりません。どうぞ、引き続き、よろしくお願いします」
〔1〕 RRWの安全性と、核ジャック対策・・・ 

北原が、冷めたお茶を一口飲み...時計を見て、茶碗を脇の方へ押しやった。
「ええ...さて、始めましょうか...
前のページで考察してきたように...アメリカが保有する核弾頭が、製造からかなり
の年月が経過し、劣化しつつあると言われます。これらの老朽化・核弾頭を、新設計の
RRW/(Reliable
Replacement
Warhead)/高信頼性代替核弾頭に総入れ替えするという、25
カ年計画が、アメリカで進行しています...
東西冷戦構造が20世紀で終結している現在...そして、世界の脅威の対象が、テロ
による大量破壊兵器に変遷して来ている現在...旧・戦略体系のICBM(大陸間弾道ミサイ
ル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の核弾頭を、新開発のRRWに更新することが、果たし
て必要なのかということです。
これは、全人類にとって、≪文明の選択/文明の大きな岐路≫になります。当然の
ことですが...こうした新開発の核弾頭を、もし使用したら...“地球温暖化対策”どこ
ろの話ではありません。地球生態系は、核戦争の果てに、“種の大量絶滅”へ追い込ま
れるのは確実です。こんなことをする権利は、むろんアメリカにはありません。
つまり、RRWは...“絶対に使えない”...“覇権のため”の、“無駄な新型核弾頭”
という事になります...“非常に危険な”...“誰も望んでいない大量破壊兵器”の、惰
性的な開発という事になります」
北原は、ポケットに手を突っ込み、モニターをのぞいている大川を見た。
「さて、大川さん...いったい、どうしたものでしょうか...
アメリカのことではありますが、その標的になるのは、まさにアメリカ以外の国という事
になるわけです...日本としても、同盟関係にあるとはいえ、他人事では済まされませ
ん」
「ま...」大川が、手を伸ばし、冷めたお茶をゴクリとやった。「えてして...
こうした無意味な、ロクでもない事をやっている時に...予想外の大事故というのは
起こるものです...そのことは、重ねて警告しておきましょう。
その必要がなく...目標もなく...“漫然と危険物を扱っている時”ほど、危険きわま
りない状況はありませんな。また、こうした“不要な危険物”というものは、将来に、とんで
もない禍根を残すことになる予感がします」
「はい、」
「ま...
“その程度のシロモノ/・・・覇権のためだけの玩具”なら、ここでキッチリと廃棄してお
くべきでしょう。それが、人類文明の叡智です。人類は今、あらゆる分野で、こうした知的
生命体としての叡智が試されています。アメリカが、好き勝手にやっていいという状況で
はありません。
まず、この峠を越えなければ、知的種族として、生命潮流の最先端を進む道は、閉ざ
されるかも知れません...これが、限界という事です...つまり、ホモサピエンスは、次
の新人類に入れ替わって行くのかも知れませんな...
まあ、それは...“種の大量絶滅”の後、何十万年も後の...地球生態系の風景が
一変した後のことかも知れませんが...しかし、そうした数十万年後の世界というのも、
確実にやってくるわけです。
その時、仮に新人類が出現しているとして...私たちの文明の遺物をどう思うでしょう
か...私たちは、そうした広い視野の中で、“文明の舵”を切って行かなければならない
という事です」
「はい...
ともかく...核兵器の生産や、“覇権競争”をしているようでは、“地球温暖化”はくい
止められませんね。それが分かっていて、なかなか舵を切るという事ができませんね。ア
メリカは、それでもなお、“ガキ大将の地位”を確保したいのでしょうか...?」
「そういう事ですなあ...
それぞれの既得権を越えて行くことが、何よりも必要な時に来ています...日本も、
独自の戦略が必要な時代になりました」
<核兵器の安定性・・・・・> 
「さて...」北原が、肩を回し、スクリーン・ボードを見た。「具体的な話に入りましょう」
大川も、スクリーン・ボードを眺めた。
「大川さん...
アメリカは、まずオハイオ級・戦略原潜の...トライデント型・SLBM(潜水艦発射弾道ミサイ
ル)のW76・核弾頭/100キロトンを、新設計のRRW1に入れ替えるという事ですね。
これはいったいどのように変わるのでしょうか。具体的には、何が変わるのでしょうか?」
「そうですな...いずれにしても、最高レベルの軍事機密です。しかし、公表されている
事はいくつかあります。その範囲で考えてみましょう」
「はい」
「東西冷戦時代には...
ともかく、最大の威力を得るために、MIRV(マーブ:
複数個別誘導再突入体/多弾頭独立目標再突入ミ
サイル)化され、1基のミサイルに複数の核弾頭を詰め込んで来ました。そのためには、1
発の核弾頭は、軽くすることが追及されて来たわけです。
核弾頭のウラン容器の肉厚を、できるだけ薄くしたというのも、その1つでしょう。その
ために、プライマリーの核爆発で、セカンダリーの核融合に火をつける、十分なマージン
を確保できるかという事に、不安があったというわけです。
しかし、新型ではMIRVはなくなるわけで、ウラン容器の肉厚も、それなりに厚くできる
という事でしょう。ここが、改善の1つになるようですな。まあ、そうなのか、といったところ
でしょう」
「はい...」北原がうなづいた。
「それから...
何か不測に事態に、誤って爆発しないようにする、安定性も付加されるようです。それ
には、熱や衝撃の影響を受けにくい、“安定な高性能爆薬”が採用されるようです。つま
り、適切に起爆された時以外に、“絶対に誤って爆発しない”ことが求められるわけです
な、」
「プライマリーの、核爆発を起爆する火薬ですね...これも、当然なことですね、」
「まあ...
兵器や武器として安定し、進化してくれば当然のことです...開発当初の、しかも臨
戦態勢下では、そうした事は後回しになることが多いわけです。一連の核兵器にしても、
そうした事は言えるわけですな...
RRW1では、そうした“安定な高性能爆薬”として...“トリアミノトリニトロベンゼン/
TATB”などの爆薬を採用するようです。この爆薬は、鉄筋コンクリートのブロックに、マッ
ハ4の速度で打ち込んでも、全く爆発は起こりそうになく、安定していると言います」
「そんな爆薬があるのですか?」
「うーむ...
科学技術の進歩でしょう。この種の爆薬は、“燃えているガソリンの火を消すこともでき
る”し...“ガスバーナーの火を当てたとしても、ボロボロになるだけだ”と言います」
「油田の火災なども、こうした爆薬で吹き消すのでしょうか?」
「うーむ...そうかも知れません...
ところでアメリカ軍では...これまで、そのような安全措置というものは、“必要なし”と
してきたようです。米海軍は1990年代初頭、トライデント弾頭の1部を、こうした爆薬に
置き換えるという提案に、“必要ない”として“ノー”を出しています。
要するに、“既存の核弾頭”を、自分たちの手で“安全に管理”できるという、大きな自
負があったのでしょうな、」
「そうですか...アメリカ軍の空気というものを感じることができますね...」
大川は、うなづき、髪をなでつけた。
「この他では...」大川が言った。「システムとしての安全性が挙げられています...
RRW1では、PAL(パーミッシブ・アクション・リンク)が新たに搭載されるようです。これは、核
兵器を作動させる際に、認証を要求するコンピューターシステムです...また、核弾頭
の内部にも、同様のシステムを実装することも可能です。
ただ、この実装には、新たな核実験が必要でしょう。核爆弾本体の問題になります」
「新たな核実験をやるわけですか?」
「いや...
RRWは、核実験をしないで、新たな核弾頭を開発するものですから、核実験はない
でしょう。もっとも、兵器として組み込んだことのないプライマリー(核分裂ピット)の、“SKUA
9”を使うわけですから、こっちの方も、我々には判断ができません...
もし、核実験なしに組み込むとすれば、そうした意味では別の不安材料が積み重なっ
ていくわけですな...」
「そうなりますね...まあ、“使う必要のない核兵器”なら、それもいいのではないでしょ
うか、」
「ともかく...」大川が、ほくそ笑み、腕を組んだ。「PAL(パーミッシブ・アクション・リンク)を新たに
搭載するには、それなりのコストがかかるようです。
こうしたコストのかかる改良には、それが必要かどうか、“議論の余地がある”という事
でしょう...戦略・原潜搭載のSLBMは、戦略・原潜そのものが、厳重な管理下にある
わけで、そんな必要はないという意見もあるのでしょう」
「しかし、大川さん...私は、アメリカ映画で、そのSLBMが核ジャックされるのを見た
ことがありますが、」
「それは、微妙な映画ですねえ...
ある種の警告の意味があるのかも知れませんな。ともかく、あらゆることが想定される
わけです。PALを新たに搭載するのであれば、それに越したことはないでしょう...
B61・投下型核爆弾などの、他の核爆弾の“寿命延長計画”では、安全装備を新規
開発するのではなく、暗号を複雑化するなどの措置が取られたようですがね」
「うーむ...B2/ステルス戦略爆撃機などから、投下する核爆弾ですね?」
「そうです...
前にも言いましたが...B2には、B61−7、B61−11、B83−1の3種類の核
爆弾が搭載されます。合計800発が配備されています...その他に、予備がいくらか
あるはずですな...」
「そうか...予備弾というのもあるわけですね、」
「そうです...
現在あるものは、1960年代〜1970年代にかけて設計された核兵器だと言われま
す。それらは、最初に配備された頃には、安全機能などはなかったと言います...そう
した機能は、徐々に付け加えられてきたわけでしょう。
まさに、戦略爆撃機/B52のように、本体はそのままに、改良によって機能強化し、
兵器として進化させてきたわけです。ものによっては、まったく新しいものをつくり出すの
ではなく、その方がいい場合もあるわけです。
しかし、あまりそれをくり返すと、そっくり新型に入れ替える必要も出てくるというわけで
すな...しかし、いずれにしても、“壮大な20世紀の遺物”です...」
「はい」
「アメリカは...
“2001.9.11/同時多発テロ”以降、数百万ドルを、“核兵器庫の安全性確保”に
注ぎ込んだと言われます...それほど、あのテロは、アメリカにとって大きな衝撃だった
のでしょう。
ところで、面白いのは...PALのような、コンピューターシステム・認証機能が...
“銃(ガン)、警備(ガード)、出入管理(ゲート)に頼る現状を...大幅に改善すると信じるに足る
根拠はない”...というのが、RRW計画を評価するために召集された、専門家会議の
見解のようです...」
「そうですか...そういう空気があるわけですね?」
「まあ、それに対し...
所管のNNSA(エネルギー省/国家核安全保障局)は...短時間ではあるが、“核兵器をトラッ
クで輸送する際に乗っ取られる危険”に備えて、この新機能は必要だ...と主張してい
るようです...」
「まあ...」北原が、体を揺らした。「もちろん、そうした不測の事態は避けてもらいたい
ものですが...そもそも、核兵器そのものが、必要のないものですね...地球の衝突
コースに入った、地球近傍天体を排除する事ぐらいでしょう...」
「アメリカは...今は必要なくても、この核兵器製造技術というものを、維持しておきたい
ようですな...それが、RRW計画の真の狙いだという話も、聞こえてくるようです...」
「再び必要とする時が...果たしてくるのでしょうか?」
「さて、」大川が、ズボンのポケットに両手を突っ込み、スクリーン・ボードを眺めた。「そう
した危険以上に...こうした“危険物を持っていること自体”、非常に危険な事でしょう。
まさに、トラブルの種になります」
「はい...」
<RRW1/地球にやさしい核弾頭とは・・・・・?> 
「さて、大川さん...」北原が、モニターから目を離して言った。「アメリカでは...
トライデント型・SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)のW76・核弾頭/100キロトンを、新設計
のRRW1に入れ替えて行くという事ですね...RRW1は、“地球にやさしい核弾頭”と
いうことですが...これは何とも傲慢な話ですね、」
「うーむ...」大川が、タバコの煙を吐きながら笑った。
「W76は...
港湾や軍事基地、兵站(へいたん)、軍需産業等を含む都市などを標的とする、ソフト・タ
ーゲットの核弾頭ですね。いわゆる、相手の核兵器を標的とする、ハード・ターゲットの核
弾頭よりも小型のものですが、人的被害という点では比較になりません。
いわゆる、ヒロシマやナガサキのようになるわけですね。そんな大量殺人兵器が、“地
球にやさしい”とは、まさに傲慢でしょう...地球にやさしくても、人間には少しも優しく
はない...笑い話にもなりませんが...」
「まあ...」大川が、タバコを持った手を灰皿に運んだ。「そういうことになります...
イラク戦争でも...最初は、トマホーク巡航ミサイルなどのGPS精密誘導兵器で、軍
事目標だけを破壊していました。それが今では、泥沼化しています。戦争とは、そういう
ものだという事です」
「しかも、人が集中した所で、自爆テロが頻発していますね」
「ベトナム戦争のようにジャングルがない分、砂漠での戦争は、民衆がジャングルになっ
ているわけですな...非常に多くの、無辜(むこ/罪のない)民を巻き込んでいます...」
「そうですね...」北原が、両腕を組み、大きく肩を傾げた。「自爆テロは、社会を非常に
不安定にします...恐怖と同時に、人間不信を増幅させますね...」
「さて...
その欺瞞的な、“地球にやさしい核弾頭”ですが...それについて説明しましょう。何
故、地球にやさしいのかということです」
「はい。一体、どの程度、地球にやさしいのでしょうか?」
「W76・核弾頭に入れ替える、RRW1・核弾頭では...
プライマリー(核分裂ピット/核融合を引き起こすための核爆弾)の、ベリリウム/Be(原子番号:4)など
の有毒物質の使用量を、減らせるということらしいですな...ベリリウムというのは、もろ
くて、発ガン性のある物質です。緑柱石として産出されますが、それそのものは、銀白色
の金属です...
性質は、まあ、マグネシウムやアルミニウムに似ています。通常は、軽合金に利用さ
れますな。この元素はW76・核弾頭では、プライマリーの核爆発によって放射される、
中性子をはね返し、連鎖熱核反応を起こさせるのに使われています...つまり、ほんの
一瞬、中性子を閉じ込めておくわけです...」
「はい...」北原が、両手を組んだ。
「複数弾頭を詰め込む、ミサイルのMIRV(マーブ:
複数個別誘導再突入体)がなくなり、ミサイルの
重量制限も緩みました。そこで、多少重くても、“地球環境に害が少ない物質”を使うこと
ができる、ということですな...まあ、これはこじつけで、理由は他にもあるのでしょう」
「ともかく、大量破壊兵器でありながら...ほんのチョッピリ、環境にやさしくなるというこ
とですね...それで、“地球にやさしい核弾頭”ですか、」
「その程度に、環境に配慮したというわけです...ともかく、ベリリウムの代わりに、人
が食べても安全なぐらいな、非常に人に優しい物質を採用するそうです。デザートにでも
出せるぐらいな、」
「御冗談を...」
「はは...
その代替えの物質は、実際、人体に埋め込む人工装具にも使用されているそうです。
およそ考え得る限りの...もっとも人にやさしい物質...だということです。しかし、そ
の物質が何なのかは、詳細は機密事項になるそうです」
「そうではあっても...
プライマリー本体は、猛毒のプルトニウムの塊ですし、それで核爆発を起こすことに変
わりはありませんね。そこに使うベリリウムが、人体には無害な物質に替えられるという
だけのことでしょう...発ガン性などは、何の意味もありませんね、」
「その通りです。せめて、そんなことを言いたいわけでしょう...
さて...RRW/新・核弾頭を製造することになれば...テキサス州/アマリロ/パ
ンテックス工場...ミズーリ州/カンザスシティー工場...テネシー州/オークリッジ/
Y−12工場など...アメリカ国内の、核兵器製造工場の刷新が必要だと言われます。
これは、実は、莫大な費用のかかる問題なのです...果たして、それだけの価値が
あるのかという事ですな...」
「生産ラインの刷新ですか...産業構造の問題になりますね?」
「そうです...
もともと、これらの工場は相当に古いようですな。1940年代から稼働している工場も
あるようです。ヒロシマに原爆が投下されたのは、1945年8月6日のですから、その時
代の工場もあるのでしょう。被爆国としては、非常に遺恨のある工場ですな...
ブッシュ政権では、新・核弾頭の全部品を、1つの施設で製造するプランを、2007年4
月に公表しています。それは、“コンプレックス2030”と命名されているようです。2030
というのは、プログラムの完了を目指す年だということですな、」
「すると...アメリカは、やはりRRW計画を、最後まで推進するつもりなのですね?」
「さて、それは、どうですかな...
“コンプレックス2030計画”が、仮に縮小されたとしても...“RRW計画を遂行する
には、最新の設備の導入が必要だ”と言っています...まあ、我々のスタンスから言え
ば、全てが“時代錯誤の無駄な事業”という事ですがね...」
「はい、」
「しかし...
アメリカは、それで半世紀以上もの間...地球を武力支配してきた実績があるわけで
す。経済支配の背後には、武力支配のバックアップがあったわけです。これは、なかな
か、手放せないという事でしょう...
現在も、支持と期待が衰えているとはいえ、最強/アメリカ軍の世界展開が、世界秩
序の重石になっているわけです。そして、その衰えた力を、日本にも連帯負担させようと
いうのが...アメリカ軍と〔自衛隊〕の、指揮系統の一体化なのです。日本をも、この
“覇権体制”に組み込もうというわけです。まあ、小泉・政権が、強力に推進した事です。
MD(Missile Defense/ミサイル防衛
)構想の推進は、その象徴でしょう...スタンダード・ミサ
イルや、PACK・3で、慣性誘導/弾道弾ミサイルを、迎撃しようというやつですな。この
アメリカのMD構想に参加しているのは、日本だけなのです...
これは、実質的に、核弾頭ミサイルを迎撃するミサイル・システムであり、日本もアメリ
カの核戦略体系の中に、完全に組み込まれるという事なのです...核兵器そのものを
保有していなくても、その迎撃システムの中に戦略的に組み込まれてしまえば、実質的
に同じ事ですな...むろん、我々は...これに“断固反対”をしているわけです...」
「うーむ...
そういう事ですね。MD構想は、このまま進んでいけば大変な事になりますね。国民の
知らない間に、いつの間にか、“覇権体制”に組み込まれているわけですね。これは、憲
法違反ではないでしょうか?」
「まあ、集団的自衛権のあたりに抵触するのでしょう。このあたりは、野党各党の言って
いる事に、耳を傾けて欲しいと思います...
ともかく、新たな“覇権体制”に、ガッチリと組み込まれてしまえば、そこから抜け出せ
なくなります。その上、今後、その核戦略体系の中で、経済的負担は無制限で跳ね上が
ります。止めるなら、今のうちでしょう。
それとは別に、MD構想というのは、その効果そのものが、非常に疑問視されている
ものです。ミサイルを空中で相殺するアクロバットのような戦略が、どれだけ有効なのか
という事です。条件のそろった時だけ、有効というものでしょう」
「これは、東西・連戦構造時代の戦略を引きずっていますね?」
「その通りです...しかし、やがて、このアクロバットのような戦略を、レーザー砲が可能
にするでしょう...もう少し先の話になりますが...
まあ、我々のスタンスは、このレーザー砲に対し、〔人間の巣〕の“万能型・防護力”
で、〔世界市民〕を守っていけると考えています。〔人間の巣〕の万能性は、ここでも発揮
されるわけです...」
「はい。それにしても、一度手に入れた武力は、なかなか手放せないという事ですね」
「そうですねえ...ともかく...
アメリカは、RRW計画を推進するには...ロスアラモス/TA−55施設での、プルト
ニウム・ピットの生産量を、“大幅に増やさなければならない”と言っています。
このTA−55施設では、2007年7月に、18年ぶりとなる新たなプライマリーの生産を
開始しているようです...NNSA(米エネルギー省/国家核安全保障局)の製造担当補佐官/シェ
ーンバウアーは、“私たちは、ピットを生産する能力はあるが、1年に1個〜2個を作るの
がやっとだ”と言っています...
まあ...こうした言葉だけ拾ってみても、何のことかは分からないと思いますが...
要するに、TA−55施設だけでは、生産能力が足りないということでしょう。RRW計画を
遂行している当局が、どんな雰囲気かは、かすかに伝わってくると思います...」
「はい...」
「ええ...つまり...
RRW計画では...新型・核弾頭そのものに加えて、製造設備の更新にも莫大な費
用 がかかるという事です。そして、果たして、それだけの価値があるものかという事です
な。何も生み出さない...“冷戦構造時代の核戦略体制を維持”...することが、“テロ
が脅威の時代”に、どのような戦略的位置付けになるかということです...」
「それは...」北原が、首をひねった。「まるで...
日本の国土交通省や、道路族のような...“時代錯誤の感覚”と似ていますね。“脱・
車社会
〜 急速な人口減少社会”の中で、ただ惰性的に、無用な道路に血税を流し込ん
でいるような...“時代の空気をまるで読めない!
”というか...」
「はは...どこも同じですな...」
「それ自体が、まるで、“地球温暖化対策”に逆行していますね...
道路もそうですが、無駄なRRWを開発・製造するなら、〔人間の巣/未来都市/千
年都市〕を、展開して行くべきでしょう...大型ハリケーン/カトリーナの例もあります
し、竜巻では毎年のように町が破壊され、死者が出ています。〔人間の巣〕なら、これら
を完全に克服して行けます...」
「その通りです...
アメリカでも、こんな使いもしない核弾頭に、莫大な税金を注ぎ込んでいますな。しか
も、日本と違って、まじめに議論されています...しかし怖いのは、それで実際に、新
型・核弾頭が、開発・製造・配備されて行くということです」
「はい、そうですね...」
「そして、それが...
人類社会の頭上に、文明の自爆装置として、セットされることが大問題です。誰が最
初に、その大量破壊のボタンを押すかは問題ではありません。ともかく、それで人類文
明が泥沼化し...全生態系が沈没するという事です...
〔世界市民〕としても、他人事では済まされません。アメリカにも、ロシアにも、そして
中国にも、そんな権利はないという事です」
「はい...
日本の道路建設もそうですが...核弾頭ミサイルもまた...旧パラダイムの遺物だ
という事ですね...20世紀の遺物/“文明の第2ステージ/エネルギー・産業革命”
の、暴走の残滓(ざんし/残りかす)だという事になりますね、」
「まさに、暴走の残滓でしょう...
RRW計画は、その暴走の残滓/負の遺産を、改良・継続しようというものです。こん
なことをしていては、“地球温暖化対策”どころの話ではありませんなあ...」
「そうですね...
アメリカも、日本もそうですが、いよいよ構造的な不況局面に入って来ています。その
上に、気候変動で、社会インフラ全体が根本的な大改造を必要としています。両国とも、
こんな事をしている余裕はないと思います」
「中国もそうですなあ...
“四川・大地震”で、まさに大震災被害の真只中にあります...こうした中で、北京オ
リンピックを迎えるわけです...世界には、気候変動があり、サブプライム問題あり、食
糧危機・飢餓があり、“地球温暖化”があり...世界中が騒然として来ました...
いずれ、“覇権競争”どころではなくなるでしょう。その以前に、気候変動や、食糧危機
で、世界経済の大混乱がやって来るでしょう。こうした問題は、いずれも、武力では解決
のできない問題です」
「はい...
気候変動による大災害は、世界中で顕在化しています。それに加え、“新型インフル
エンザ”のパンデミック(世界的大流行)という、“時限爆弾”を抱えています。あえて、新型・核
弾頭などを開発しなくても、21世紀の人類文明は、十分に危機的な状況にあります」
「そうですな...非常に危機的な状況に突入して来ました...」
〔2〕
文明の折り返し/・・・武器よさらば・・・
 
<“四川大地震”における、“プラント・821”の様相は・・・> 
「さて...」北原が、インターネット情報をのぞきながら言った。「中国の“四川大地震”の
被害の実態が、少しづつ明らかになって来ています...
5月25日時点で...死者が6万人を超えています...さらに、行方不明者が推定2
万人以上...犠牲者は8万人を超えることは確実のようです...
被災民も1200万人と言われていたのですが、現在は4500万人という報道に跳ね
上がっています。また、今日/5月25日にも、最大の余震/M6.4が発生しています
ね。新たな死者や負傷者も、多数出ているようです。まさに中国は、四川省を中心に、大
混乱の様相です。
ええ...ともかく...
*******************************************************
犠牲となられた方々、被災された方々、および関係者に、心よりの
哀悼の意と、お見舞いを申し上げます...
*******************************************************
大震災は...日本でも、“首都/東京直下型地震”、“東海地震”、“東南海地震”、
“南海地震”等が予測され、他人事ではありません...こうした大災害には、互いに協
力し合い、巨大危機を乗り越えていくことが必要な時代になって来ました。“新型インフル
エンザ”に関しては、特に国際協力が不可欠になります...
当ホームページでも、大震災対策として...【災害救助船隊構想】、【対震災・空中
機動師団構想】、【メガロポリスに、人間の巣型・災害対策拠点の展開を】等で、抜
本的対策を考察しています...」
「そうですな...」大川が言った。「道路建設よりも、はるかに優先順位が高いでしょう。
行政の、大規模な、敏速な対応が求められます。大震災が起こる前に、十分な備えが欲
しいですな...後になって、批判が起こらないような、真剣な対策をお願いします...」
「はい...ええ...
こうした中で、私たちの課題は...“中国版/ロスアラモス(マンハッタン計画で、オッペンハイマ
ーが率いたロスアラモス)”と言われる、中国/四川省に存在する“核兵器製造施設”ですね。中
国としては、あまり明らかにしたくない情報だと思います。しかし、こうした情報が、少し
ずつ流れ出してきていますね。これは情報開示という意味で、いいことだと思います。
それから、5月20日に...中国当局の、周生賢・環境保護相が...“地震で32個の
放射性物質がガレキに埋もれ、そのうち30個を回収した”と公表しています...この公
式発表と、放射性物質というのは、非常に微妙なタイミングです...
また、2個が未回収となっているという事ですが、これは、大川さん、心配ですね?」
「そうですな...」大川が、ポケットに手を入れた。「まあ...
その場所は、公表されていませんな...医療用だという話も伝わって来ています。果
たして、どうなのかは不明ですが、一応は、額面どうりに受け取っておきましょう...しか
し、この情報は、注目して行く必要がありそうです」
「はい、そうですね...やはり、何かがあったのかも知れませんね。それにしても、依然
として2個が未回収というのは、どういう事でしょうか?」
「放射能漏れは確認されていないようですし...ひとまずは、大丈夫なのでしょう...」
「そうですね...
あ、“核兵器製造施設”の話をする前に...震源地の汶川(ぶんせん)から1000キロメ
ートル以内に、4つの“原発施設”があるようですね...
ええと...“嶺澳”、“大亜湾”...この2つの“原発”は、フランス/PWR製のようで
す。そして、“秦山”の“原発”は...中国製とカナダ/CANDU製が混在しているようで
す。それから、“田湾”のものは、ロシア/VVER製のようですね...
ええ、大川さん...中国の“原発情報”というのは、私たちはあまり耳にすることはな
いわけですが...フランス、ロシア、カナダなどが入っている様です...これらは核兵器
の開発とは、直接的な関係はないわけですね...今回は、地震による被害は無かった
ようですが...」
「そうですな...
中国には現在、10基の“原発”があります。まあ、核兵器と直接的な関係があるかな
いかは分かりません。日本などとは、国家体制が違いますからねえ...
ともかく中国は、経済発展における猛烈なエネルギー事情から、将来的には“原発大
国”を目指していると言われています。北京などの大気汚染状況も、早急にクリーンにし
て行くという、さしせまった事情もあるわけです...日本の“原発の売り込み攻勢”など
も、相当なものがある様ですな...
しかし、ともかく、現在までの所...“地震による原発被害”は伝わって来ません。日
本では“中越沖地震”による、“新潟県/刈羽原発”で、大被害があったわけですな。とも
かく、そうした被害情報は伝わって来ていませんな、」
「はい...」
「さて...」大川が、ポケットに手を突っ込みながら、モニターをのぞいた。「問題の、“中
国版/ロスアラモス”と言われる“核兵器製造施設”ですが、アメリカの暗号名は“821”
です...
四川省の広元から綿陽にかけて...密林を切り開いた広大な場所があるようですな。
この“プラント・821/Plant・821”は、まさに、中国の核弾頭組み立て製造基地になっ
ているようです」
「はい...ええと...」北原が、インターネットのページをクリックした。「これが...偵察
衛星から見た“プラント・821”の拡大画像です...日本の国際緊急援助隊が派遣され
た、青川に近いようです...」
「うむ...」大川も肩を寄せ、拡大画像をのぞいた。「うーむ...“四川大地震”以後、ア
メリカは、この“プラント・821”の監視態勢に入っているようです。もちろん、各国の偵察
衛星も、ここに集中していますな。今のところ、“プラント821”は無事だった様子です」
「そうですね、」
「地震直後にアメリカは...
“5月16日午後4時現在、放射能漏れはない”...と、関係者が、匿名を条件に、こ
の重要情報を“NYタイムズ”にリークしています...アメリカが、最も心配したのは、チェ
ルノブイリ型の大惨事だったということです」
「はい...そんなニュースを聞いています、」
「中国の保有する核弾頭は...かつては200発と言われていましたが、現在は300〜
400発と推定されていますな。ともかく、この方面でも、軍備増強の方向にあるのでしょ
う。ともかく、中国の核弾頭に関しては、厚いベールに包まれているようです...」
「アメリカは...」北原が、口に手を当てた。「何を持って...チェルノブイリ型の大惨事
を想定したのでしょうか...?」
「うーむ...」大川が、頭を傾げた。
「“チェルノブイリ原発事故”
は、1986年でしたね...
ええと、あれは...旧・ソビエト連邦
(現/ウクライナ )の、
チェルノブイリ原発/4号炉が
起こした事故でした。“メルトダウン”の後、“爆発”を起こし、放射性降下物が広い地域を
汚染しました。それは、日本でも観測されていますね。“最大の原発事故”ですが...」
「今回...何故、アメリカがチェルノブイリの参事を心配したのか、詳しい事情は我々に
は分かりません。
いずれにしても、核兵器や“核兵器製造施設”が、こうした大震災下では、“非常に厄
介なもの”になるということですな、」
「アメリカやロシアについても言えることですね、」
「そうです...
しかし、より脆弱な施設が想像されるのは、後発国ででしょう...インドやパキスタン
の核弾頭や、“核兵器製造施設”です。まあ、それでなくても、“新潟県/刈羽原発”のよ
うな事態もあります。
“原発”も、巨大な核爆弾という側面を持つわけですな...ただ、必死にその暴走を
抑え...ゆっくりと爆発させているだけなのです...事故を起こしたら、その規模は、核
兵器の比ではありません。まあ、爆弾としてセットされているわけではありませんがね、」
「はい...“核廃絶”は、いよいよ“人類文明の至上命題”になって来ました」
「そうですな...
“目的があいまいな危険物”が...漫然と存在していること自体...“最も危険な状
態”です...いい事は何もなく、悪い事だけが起こり得るわけですな...核弾頭などと
いうものは、何の意味のありませんな...」
「はい!」
<核戦略を超えて・・・
子孫に残す・・・
〔千年都市〕 ・・・
〔極楽浄土〕 ・・・
>
「ええ...最後になりますが、大川さん...
人類が文明を発展させた、新石器時代から約1万年...世界4大文明が発祥してか
ら数千年...キリストが誕生した西暦/紀元で、2008年...ようやく、21世紀に突入
しています...
また、地球が誕生してからおよそ46億年...それから、40億年前後の生命進化の
歴史があり...それから見れば、わずか1万年というのは、まるで蚊が飛んでいるよう
な風景ですね...
しかし、その蚊の飛んでいるような存在の人類の文明は...恐るべき、核分裂エネル
ギーと、核融合エネルギーを引き出しました。まさに我々は、その最先端にいるわけで
す...
しかし、その莫大な核エネルギーは...まず、同胞の殺人兵器として開発されたわ
けですね。この時点で、すでに人類文明は、袋小路に入ってしまったのだと思います。し
かし、まだ、遅くはありませんね...
核戦略下の冷戦時代を乗り越え...共産主義〜資本主義を超越し...文明の分散
化・多様性を、〔人間の巣のパラダイム〕で実現できる可能性が出てきました...〔人
間の巣/未来型都市〕は、その“開放系の小単位”で、あらゆる社会体制が可能です。
資本主義/社会主義/宗教/芸術/学術の〔理想郷〕が実現できます。それこそ、
〔極楽浄土/理想郷〕に、最も接近できる王道ではないでしょうか。そして、まさに今、
そこへ舵を切る、“文明のターニングポイント”だと思いますが、」
「そうですねえ...
60年ほど前に...“リトルボーイ”と“ファットマン”という、2発の原子爆弾/核分裂
爆弾が、爆撃機から日本の2つの都市に投下されました...しかし、今、我々が問題に
している核弾頭ミサイルは、ただの1度も、使用されたことはないわけです。
その第2次世界大戦時の2発にとどめ...人類が、核戦略下/冷戦構造時代を乗り
越えたということは、やはり人類の叡智として、評価していいでしょう。しかし、いまだに
その核弾頭を保持し、さらに開発・製造をしようとしているのは、人類文明に対する犯罪
的行為でしょう。アメリカは、そのことをしっかりと考えて欲しいですねえ...」
「はい...」
「今後は、核兵器のコントロールは、これまでのように、うまくは行かないでしょう...
核兵器が拡散して行けば、必ずそれは暴走します。管理・抑制が効かない中で、それ
は必ず使用され、大量破壊テロの時代を招来します...人類文明が泥沼化して行くこと
になりますな...
ともかく、こうした泥沼化を救う方法は...〔人間の巣のパラダイム〕という、新しい
文明形態です。〔人間の巣〕は、大量破壊兵器を無力化し、“究極的な地球温暖化対
策”を提供し...〔世界市民の生活基盤〕を、安定化させます...」
「はい...
まだ実現していませんが、“衛星搭載のレーザー砲”に対しても、最大の防御力を発
揮しますね。宇宙空間から、都市が防護されることは、非常に大きいと思います。まさ
に、非常に強力な“万能型・防護力”です...もちろん、そんな事態にならないことを望
んでいますが...」
大川がうなづいた。
「まあ...〔人間の巣〕の“万能型・防護力”は、今後、様々に注目されて行くでしょう。
それで、“覇権競争の時代”が、終息してくれることを望みます」
「そうですね、」
「“原発”も含め、“完全な核廃絶”をして行くべきでしょう...〔人間の巣のパラダイム〕
によって、それは可能です。〔世界市民〕が、心を一つにし、〔極楽浄土/理想郷〕の建
設へ、舵を切って行くべきでしょう」
「はい!」
<新しい危機の形態・・・自衛隊の再編成は、> 
  
「ええと...」北原が、モニターをマウスでクリックした。「くり返しになりますが...
“リトルボーイ/・・・ウラン型/ガンバレル式”は、ヒロシマに投下されたわけですね。
爆撃機は“B29/エノラゲイ”でした...そして、“ファットマン/・・・プルトニウム型/爆
縮レンズ式”は、ナガサキに投下され、爆撃機は“B29/ボックスカー”でした...
この2例以後...世界中で、数万発の核爆弾・核弾頭が製造されたわけですが、た
だの1度も、都市攻撃に使われたことはないわけですね。なんとか、第3次世界大戦/
偶発戦争は避けられたわけです。私たちは、今こそ、“核廃絶”へ舵を切って行くべきだ
と思います」
「そうですな...」大川が顎をなでた。「人類が発明した道具、あるいは武器の中で、そ
れが1度も使われずに、廃絶されつつあるのは、おそらく核弾頭ミサイルが初めてでしょ
う。さて、それが、うまくいくといいですねえ、」
「はい、」
「21世紀に入り...
人類の社会規範/人間の精神性が、一段と脆弱(ぜいじゃく)になって来ています。これ
は科学技術が、物質主義を優勢にしたことも一因でしょう。また、いわゆる、“ギャンブル
資本主義”が、人々の夢を奪い始めていますな...そうした中で、大量破壊兵器による
テロの危険性が増大しています」
「そうですね...
世界構造が、壮大なギャンブルになってしまいました。これでは、落ち着いた豊かな文
化...勤勉な努力による夢は描けませんね...まさに日本も、努力が認められず、格
差社会・身分格差が進行しています」
「そうですなあ...
ともかく...大量破壊テロの最右翼にあるのが核物質です。いわゆる、テロなどに使
用される類の、小型核爆弾や、核廃棄物/高濃度・核廃棄物をまき散らす“汚い爆弾”
です。それから、神経ガスなどの化学兵器...そして、細菌兵器ですな...
こうしたものは、兵器として開発されていますが、いずれも比較的簡単に製造できる時
代になりました。日本での“地下鉄サリン事件”は、その象徴的でなものでしょう。非常に
危険な事態になりつつあります」
「はい...」北原が、強くうなづいた。「核物質も、ソビエト連邦の崩壊や、“原発”の世界
的拡散で、管理そのものが非常に難しくなって来ています。核廃棄物の問題も、将来へ
の積み残しということでは困りますね、」
「それと...科学技術の進展ですな...
特に、生物兵器は、個人レベルの研究までは、管理しきれないものがあります。遺伝
子テロ、科学技術の暴走、科学技術クラッシュということも...今後の、“新しい危機の
1つの分野”になると、考えられます」
「“新しい危機の形態”ですね、」
「そうですな、」
「それで...〔自衛隊の再編成〕でも、こうした“真の危機”に対応した、“新しい部隊”
が必要だということですね...惰性的な“戦争ゴッコ”ではなく...大震災や、科学技
術クラッシュ、感染症パンデミックなどが...いわゆる“真の危機”になるわけでしょうか」
「そうです」
「“戦争ゴッコ”などは...現状では、2の次、3の次の問題なのではないでしょうか。こ
れは、スポーツの試合のように、相手/敵戦力が存在しなくては戦争になりませんね。
まさに、〔自衛隊〕には、日本に上陸してくるような、敵戦力が見当たりませんね...来
るとしても、せいぜい難民でしょう...」
「そうですな...まあ、災害にしてもそうですが、想定外のことが起こるものです。それ
に、備えておくことは大事でしょう。
しかし、実際の所...人間どうしでは、“話し合えば解り合える時代”になりました。そ
うした意味で、戦争の時代は過ぎ去ったということでしょう...今でも“覇権競争”で騒い
でいる人々は...それを職業とし、あるいはそこに、様々な既得権を持った人たちだけ
でしょう」
「はい。だいたい、そうだと思います」
「社会にとって、“真の危機”は、全く別の所にシフトしましたな...
そのことを、〔自衛隊〕は、もっと深く認識して欲しいと思います。ミサイルや戦闘機や
戦車等は...現状では全く必要がないとは言いませんが...戦略的には〔人間の巣〕
/“万能型・防護力”で、対処できるでしょう...
これからは、文明の操作するエネルギー形態も、“文明の第2ステージ/エネルギー・
産業革命型”の、<粗野な熱運搬型・巨大エネルギー>から、“文明の第3ステージ
/意識・情報革命型”の<微細な情報運搬型・稠密エネルギー>へシフトして行くよう
ですな、」
「高杉・塾長が、そんな事を言っていますね...生態系の本質は、本来、<情報運搬
型・稠密エネルギー>の方で動いていると言っています...」
「それが、生命潮流/進化のベクトルでしょうな、」
「はい...」
「まあ...ともかく...
“旧来の古典的な敵”よりも...21世紀文明の足元を洗い始めた...文明社会の防
御ラインは大丈夫かという事です...大震災、気候変動、科学技術クラッシュ、感染症
パンデミックの方が...桁違いの犠牲者を出すという事ですな。そうした、“真の危機”
への備えを、万全にして欲しいという事です。
現在進行中の、中国/四川の大震災を見ても、それは理解できると思います...基
地内にゴルフ場を造って、コソコソと遊んでいる時ではないでしょう。やることは、山ほど
あります。“新しい形態の危機”に、全力で対処して欲しいという事です。
それこそが、今後の〔自衛隊〕の“真にやるべき仕事”だという事です。そして、何より
も、“国民と一体”となって、“国民の信頼”を得て、歩んでいくことが求められます...」
「はい。そうした意味では...
〔自衛隊〕は、その6割・7割までが、いわゆる“戦争ゴッコ”をしていると考えていい
のでしょうか...ミサイル防衛しかり...戦闘訓練しかり...汚職構造しかり...あ、
それと、ゴルフの練習しかりですね...
様々な訓練/厳しい訓練は確かに必要ですが...“真の危機に対応した訓練”をし
て欲しいですね。国民に迫っている“真の危機”は、武力で排除できる性質のものではな
くなって来ているという事です。
本当に怖いのは、“新型インフルエンザのパンデミック”や、“大震災・火山爆発”など
の災害の方だと思います。こうした“真の危機”に対処する、大機動力や資材を調達して
おいて欲しいものです。そして、そのための訓練とすね。また、その事を国民に知ってお
いてもらう事も大事です...それが、真の〔国家の防人(さきもり)〕だと思います...」
「まさに、北原さんの言う通りでしょう...
そうした意味では...原子爆弾を開発・製造した“マンハッタン計画”も、そうした危機
の部類に入るものです...あれは、“人類文明の危機/文明の袋小路”を承知で、故意
に開発したものです...そして、そのミッションは...アメリカのRRW計画で、現在も
進行中というわけです...」
「うーむ...そうですね...」
「また、少し視点が変わりますが...
生物技術/生命技術では...意図とは別に、“非常に危険なもの”が生み出される
可能性が大きくなって来ました。あるいは、生命技術の管理面等で、“非常に危険な事
態になり得る事例”が、すでに出始めています...
遺伝子の操作や、発生の操作が、すでに展開していますが、こうしたものが、“生態系
を大きく狂わせて行く可能性”があります。短期的な成果が、長期的に生態系を狂わせ
て行く可能性が出てきました。
『沈黙の春』(レイチェル・カーソンの著書)以上に、劇的に地球生態系を擾乱していく可能性が
ありますねえ...また、そうした生物技術が、テロに使われる可能性もあります。科学
技術が、テロのような犯罪に、非常に大きな力を与える事になりますな...」
「ええ...」北原が、背広の前ボタンを外した。「いずれにしても...
テロが...“新たな脅威になる時代”ですね...そうした犯罪心理は、千差万別にあ
りますから、防ぐのは難しいですね。そうした大量破壊テロから、社会を守るのには、どう
したらいいでしょうか?」
「そうですな...」大川が、背中を伸ばして腰に手を当て、天井を見上げた。「これも、資
本主義の暴走/グローバル化の弊害でしょう...
実は、大量破壊テロが存在すること自体が、人類文明の極度の集中から来る、構造
的な危機なのです。人類文明は、全生態系を凌駕し、その存在が異常に過密になり、か
つ、異常に巨大になりました。それゆえに、大量破壊テロが起こり得るのです...
改めて言うまでもありませんが、これは非常に歪(いびつ)な状態です。しかも、危機的状
態です。そうした中で、人類自身が自爆テロをやるのが、大量破壊テロであり、新・核弾
頭の開発・製造ですな...」
「うーむ...そういう事ですねえ...」
<根本的な解決策は・・・
〔人間の巣のパラダイム〕 !
>

「さて...」大川が言った。「重複しますが...
大量破壊テロに対しても...〔人間の巣のパラダイム〕が、根本的な解決策を与える
ことになるでしょうな...また、パラダイムとは別に、大量破壊テロそのものも...何度
も言ってきているように、“万能型・防護力”/〔人間の巣〕が、その物理的な万能性を発
揮します。
パラダイムについて言えば...〔人間の巣〕が展開すれば、大量破壊テロそのもの
が、大量破壊という意味において、不可能になりますなあ...人類文明は、分散化・自
給自足化した上に、“万能型・防護力”という、“強力な殻を獲得”することになるわけで
す。これは、“種としての構造的な進化”につながって行くようですな」
「高杉・塾長は...この“構造的進化”は、“私たちの想像を絶する”と言っています
ね。そうした所まで、進化して行く可能性がある、と言っていますね、」
「そう言っていますねえ...
“新陳代謝”/・・・“生命システムの永遠性”を、その殻に取り込んでいくという事のよ
うですな...単細胞生物には、そもそも多細胞生物のような、寿命というものがないと言
います。実際に、36億年も生き続けている個体が、存在する可能性があるといいますな
あ...“新陳代謝”によって、それが可能なのですかねえ...」
「はい...そのあたりは、よく理解できませんね、」
「まあ、いずれにしても...そうした進化は、遠い将来のことでしょう...それに、現在
のままの形態では、そうした事は起こらないでしょうな...進化とは、そうした想像を絶
したものなのでしょう...」
「はい...ええ、話を戻しますが...
〔人間の巣〕の小単位で...それぞれ第一級の“耐核シェルター”になれば...核戦
略そのものが成立しなくなりますね...核の脅しが、効かなくなります...核弾頭も、
〔人間の巣〕に対しては、通常弾のような威力になってしまいます。
それから、この“万能型・防護力”は、化学テロや細菌テロに対しても、究極的防護力
を発揮しますね。“地球温暖化対策”や、自然災害、気候変動の克服ばかりでなく...」
「そうですな...
いずれにしても、肝心なのは、〔人間の巣のパラダイム〕による、“文明の折り返し”
でしょう。グローバル化ではなく、文明の分散化・多様化へ舵を切って行く時です。そし
て、そのこと自体が、“資本主義の縮小”を意味することになるでしょう。“ギャンブル資
本主義”に、歯止めをかける事になりますな、」
「はい、」
「【開発・発展型の経済原理/・・・市場主義/資本主義】は、もはや明確な限界が見
えて来ました...また、人類文明が存続して行くためには...【エコ/文明の存続】と
いうパラダイムが、まさに“文明の焦点”になって来ましたな...」
「はい...このパラダイム・シフトは、早いほどいいわけですね」
「そうです。時代錯誤の、新型・核弾頭を配備している時ではないということです」
「はい!」北原が、大きくうなづいた。

「ええ、北原和也です。長い間、ご静聴ありがとうございました...
今、人類文明は、文明の拡大/グローバル化から、文明の縮小/分散化・
多様化という、“文明の折り返し点”にあります。様々な構造的危機は、この
“文明の折り返し”によって解決されます。時代的不安は、打開に向けて、進
むべき方向と、その手段が、しだいに明確になりつつあります。
【開発・発展型の経済原理】から、【エコ/文明の存続】へのシフトは必至
です。また、プログラムとしては、〔人間の巣のパラダイム〕で、人類文明が
軟着陸できる可能性が開けてきました。この“文明の折り返し”は、早いほど
いいわけです。“巨大危機”が、輻輳(ふくそう)してやって来ています。一刻も、早
い決断が必要です。早いほど、それだけ混乱は回避されます...
“北海道/洞爺湖サミット”で、この方向性を打ち出して欲しいですね...」
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