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                     Shadow Biosphere/・・・・・ 異質生命体の探索

         影の生物圏の考察       


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トップページHot SpotMenu最新のアップロード                            担当 : 高杉 光一 

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プロローグ          ・・・・・異質な未知のゾーンへ・・・・・ 2008. 3.30
No.1 〔1〕 太陽系における、異質生命体は・・・ 2008. 4. 5
No.2 〔2〕 異質生命体として、可能性のあるものは・・・ 2008. 4.13
No.3      異質生命体の候補 2008. 4.13
No.4 〔3〕 地球生命圏の中で、異質生命体を探す・・・ 2008. 5.11
No.5 〔4〕 まず、極限環境の調査から・・・    2008. 7. 9
No.6      <深海掘削船/ちきゅう・・・> 2008. 7. 9
No.7 〔5〕 私たちのすぐ隣に、異質生命体がいる可能性も・・・ 2008. 8.28
No.8      鏡像異性体キラリティ・・・ 鏡像生物の存在・・・?> 2008. 8.28
No.9      微生物の驚異的な適応能力・・・> 2008. 8.28
No.10      アミノ酸塩基の種類が違う、異質生命体の可能性は?> 2008. 8.28
No.11 〔6〕 異質生命体の発見か? 

            普通生命体/生きている化石/新種の発見か?

2008.10. 8
No.12 〔7〕 難しい判断/ 結局・・・ 普通生命体 vs 異質生命体 とは・・・ 2008.10. 8
No.13     異質生命体をも含めた・・・ 進化系統樹の森・・・?> 2008.10. 8
No.14     <生命の発生/・・・ 無生物から生物へ > 2008.10. 8

       

                参考文献 :   日経サイエンス /2008 - 03    

                                   シャドウ・バイオスフィア...私たちとは別の生命 

                                                               .デイビス  (アリゾナ州立大学)       

 


  プロローグ・・・                

          wpe73.jpg (32240 バイト)                 wpe8.jpg (26336 バイト)   


《My Work Station/人間原理・ガイア塾》の、塾長/高杉光一です...

  今、“人類の文明形態”が、大きな転換期にあります。私たちが生まれ育った文明の

パラダイムから、異質な未知のゾーンへ入ろうとしています。おそらく、こうしたことを体験

するのは、過去の時代の人々にはなかったことでしょう。

  私たちは、文明史的にも...最大級の叡智が試される舞台に立たされています。とり

あえず、この状況で、“安全な舵”を切って行くには、過去の歴史に学ぶことでしょう。そ

れがまさに、“文明の折り返し”という概念になるわけです。

  文明形態文明の歴史というものは、“くり返す”わけではありません。前進している

わけです。しかし、道に迷った時は...冷静に“立ち止まりること”...あるいは“道を引

き返すこと”...これが、正しい選択になる事が多いのです。“安全に舵に切って行く”

は、こういうことでしょう...ただ、闇雲に突っ走ることは、墓穴を掘ります。

  今...地球生態系が沈没しつつある時...人類文明は、立ち止まり/引き返すこと

が求められています。また、同時に、過去の失敗教訓とし、“同じ過ちをくり返さない”

とも、求められています...

  こうした前提のもとに...中世ヨーロッパにおけるルネッサンスのような、人間性の復

の流れが始まっています。これは、当時のような“教会や神による支配”からの解放

はなく、“エネルギー・産業革命”グローバル経済からの解放になります...

  しかし...ただ立ち止まることは、自転車のようにひっくり返ってしまいます。ゆっくり

とペダルを踏みながら、“過去のよき時代/過去のよき社会”を再現して行くということで

しょう。むろん、当然ながら、前進して行かなければなりません...

  そのための、社会的基盤/文明史的基盤の1つが...私たちが提唱して来ている、

〔人間の巣のパラダイム〕です。〔人間の巣/未来型都市〕を展開しつつ、郷愁“よ

き過去の時代”へ引き返してみるということです。こうした高機能空間を獲得すれば、“エ

ネルギー・産業革命”と、グローバル経済からの、解放が実現できるということです...

  そこに、ひょっとしたら...〔極楽浄土〕があるのかも知れません。あるいは、世代を

超えて、人類文明が長年求め続けてきた...〔極楽浄土/パラダイス/理想郷〕の建

設が、可能なのかも知れません。〔人間の巣〕とは、そうした<ニュー・パラダイム>

の、社会的基盤/文明史的基盤になるものです...

 

  さて、そうした中で...今回はこの地球生命圏における、“異質生命体”...それが

形成する、“影の生物圏/Shadow Biosphere”というものについて考察してみましょ

う。この考察により、私たちが依拠している巨大・地球生命圏というものが、より深く理解

できるものと考えています。

  今回は、 シンクタンク=赤い彗星厨川アンに、サポートをお願いしました。

ええ...アン、よろしくお願いします」

「はい、」アンが頭を下げた。「よろしくお願いします。面白そうなテーマですわ...」

“影の生物圏”については...」高杉が肘を立て、両手を組んだ。「実は...

  深海底の地殻の中に、地下生物圏が広がっていると言われた頃から、すでに準備し

ていたテーマなのです。《地下生物圏/(1999.8.25)ですね...それは、8年ほど前

話になりますが、今回、【日経サイエンス】に、このテーマで論文の掲載がありましたの

で、ページを活性化させることにしました」

「私も論文を読み、資料なども集めてみましたが...範囲の広い、難しいテーマですね。

そもそもが、存在しているかどうかも分からない、“影の生物圏”という事になりますわ」

「まあ...だからこそ、アンにお願いしたわけです...

  企画・担当響子さんの方から、長くなり過ぎないようにとの、厳重注意を受けてい

ます。もっとも、長くなる傾向になってしまったのは、元々は、響子さんが原因を作ったわ

けです。

  去年、《軽井沢・基地》において、新型インフルエンザ《感染症圧力 VS 戦略的対

策》と、《極楽浄土のインフラ建設》で、そうなってしまったのです...あれは、ページを

分割したわけですが、ずいぶんと長くなってしまいました。最近の《未曾有の国難》のテ

ーマでは、ページを3つに分割していますねえ...」

響子さんも...」アンが、口に手を当てて笑った。「高杉が来られたので、つい張り切

り過ぎたと言っていましたわ...あ、私は、響子さん《危機管理センター》をサポート

していますから...」

「うーむ...まあ、ともかく、そういうわけで、今回は簡潔にまとめましょう」

「はい...そうしてみますわ」アンがうなづいた。

 

  〔1〕 太陽系における、異質生命体は・・・

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「ええ、塾長...」アンが言った。「“生命の起源”というのは、まだ解明されていない、科

学の大問題の1つですね...

  広大な宇宙において、生命体とは必然・多発性のものか、あるいはゼロに近い確率

ら、偶然に発生したのかという事も、重要なテーマになりますね、」

「そうです...

  いつ、どこで、どのように生命が誕生したのかは、まるでわかっていないのが実情で

す。地球の年齢は46億年と推定されていますが、35億年前最古の化(ストロマトライト/

シアノバクテリアの死骸と泥粒などによって作られる、層状の構造をもつ岩石)から、その頃すでに、地球上に

生物が存在していたことが確認されています。

  最古の生物体/ストロマトライトの化石は、世界各地で発見されています。また、現在

も生存中のものは、オーストラリア/シャーク湾セティス湖など、ごくわずかな水域で発

見されているようです。

  しかし、それ以前の生物体については、何も分かってはいません。また現在、我々の

いる地球生命圏以外のことも、ほとんど分かっていません。彗星が、地球に有機物を運

び込んだという研究も進んでいますが...では、その地球外の炭素系生命圏は、宇宙

の何処にあり、どのように生命が発生したのでしょうか...

  生命が宇宙空間から地球にやってきたという説は...結局、その起源を無限の宇宙

空間に求めるだけで、問いは振り出しに戻ります。つまり、その炭素系生命圏というもの

が、まさに、眼前している地球生命圏であっても、同じことなのです...

  むしろ、眼前している地球生命圏が、宇宙空間に有機物をバラまいているのかも知れ

ません。システム論的にいえば、地球生命圏は宇宙空間へ開かれた開放系システム

いう側面を持ちます。地球生命圏もまた、増殖するという事です...さて、推論をどう進

めたらいいのでしょうか...」

「はい...」アンが、眼鏡の中央を押し、自分のモニターに目を落とした。

「確かなことは...

  まさに...“ここに巨大生命圏が存在していてる事”...そして、“私たちがここに存

在している事”、のみです...デカルトの言葉を借りれば...“我思う、ゆえに我あり”

いう、哲学的な根本原理にまで遡ります...これは宇宙論への、【人間原理】の導入

も招きました...」

「そうですね...」アンが顔を上げた。「生命彗星に載って地球へやってきたとしても、

その宇宙の彼方にある炭素系生物圏もまた、宇宙の他の座標にある生命圏から、彗星

に載って有機物がやって来たという話になってしまいますわ...

  生命が宇宙から地球に入ってきたという説は...仮にそうだとしても...そもそも、

生命がどのように形成されたのか”、という答えにはなっていませんわ...」

30年ほど前には...」高杉が、チラリとモニターに目を流した。「生命は、“極めて珍し

い化学的偶然によって誕生した”とする理論が主流でした...

  つまり...観測可能な宇宙の中で、“2回以上も生命の誕生が起こることは、有り得

ない”という考え方が主流だったのです...」

「はい...

  “確率論的にゼロに近い偶然の産物”、ということですね。いかにも、その時代を反映

した考え方ですわ...それとも、そうした“確率論的な考え方”が...あの量子力学

黎明期以後の時代を、作ってきたのでしょうか...?」アンが、ひょいと膝に飛び乗った

ミケの頭をなでた。

「ともかく...

  モノー(フランスの生物学者/ノーベル賞受賞)が、1970年にこう言っています。“人類は自分たち

が、無情なまでの広大な宇宙の中で、偶然に出現した孤独な存在であることを、ようやく

理解した”と...

  しかし現在...さらに相当に科学的研究が進展したわけですが...どうも、この考え

方は、様々な要素から否定的になって来ています...まあ、専門家の、難しい判断もあ

るのだと思いますが...」

「うーん...」アンが、ミケを両手で抱き上げた。「科学者も...色々なことを言うもので

すわ...

  物理学でも、相対性理論以前には、マクスウェルの研究を頂点にして、全ての問題が

解明されたと考えられていましたわね...そんな事を言ったのは、誰だったかしら?」

「うーむ...

  それは、1900年に、ロンドンの王立研究所で行われた、ケルビン卿(ロード・ケルビン/イギ

リスの物理学者)の講演でしょう...

  確か...“物理学の分野をおおっている雲は、今や黒体輻射問題と、マイケルソン=

モーレイ実験の問題の、2つしかなくなった...その雲も、疑いもなく、やがて無くなるだ

ろう”...と語ったと言われています。

  ところが、その黒体輻射問題と、マイケルソン=モーレイ実験の問題は、ニュートン物

理学の土台をひっくり返すことになったわけです...斬新的な量子力学の確立は、それ

から30年もたたないうちに、ニュートン物理学のパラダイムを、古典物理学と呼ぶまでに

変貌させたのです...

  その後の、確率論のひとり歩きには...当事者のアインシュタインもついて行けない

ものになりました...アインシュタインは最後まで、“神はサイコロを振り賜わず”と言っ

て、コペンハーゲン解釈(ボーアやハイゼンベルクのグループの、確率論的解釈)には、否定的でした...

  彼は、“科学において、客観性か存在しなくなる”ことを、ひどく嫌ったわけですねえ。

アインシュタインは、最後まで未知の変数(ヒドゥン・パラメータ)の存在を信じていました...ま

あ、我々には計り知れない確信があったのでしょう...」

コペンハーゲン解釈では、この世界というものをどのように説明したのでしょうか?」

「まあ...

  私たちが見ている世界とは...私たちの認識の構造だという事になります。リアリティ

とは、観測する私たちの内側に存在することになるのです...実は、こうした考え方

は、東洋的思想仏教思想などに近いのです...リアリティーは、禅的な“悟り”の風景

に近いわけですねえ...」

「ああ...」アンが、納得したようにうなずいた。「それで高杉さんは、それを素直に受け

入れることができたわけですね、」

「そうです」

「現在は...

  その当時の、一般相対性理論(重力理論)と、量子力学の統合が進まず、両理論のダブ

ルスタンダードの時代が続いているわけですね、」

「そうです...

  それは20世紀の初頭頃の話ですが...そうしたダブルスタンダードの時代の中で、

生命の起源についても、様々に語られて来たわけです。1970年代の、“確率論的にゼ

ロに近い偶然の産物”という理論から...21世紀の現在は、劇的に変化して来ている

ようです...まあ、それについては、これから考察して行きましょう」

「はい、」

 

「さて...」高杉が、モニターを見ながら言った。「ええ...

  1995年に...ド・デューブ(ベルギーの生化学者/ノーベル賞受賞)は、“生命は宇宙の必然であ

り・・・地球に似た惑星であれば・・・いずれでも、生命が発生するのが運命といってよい”

と、主張しています...

  まあ...私は、“【人間原理】・・・現在、まさに私がここに存在する”というスタンスで

すが...“生命”“意識”とは相補的であり...“この世の最も基本的なもの”と考えて

います。

  私は科学者ではありませんが...本来、ド・デューブの主張に近い考えでした。理論

的な裏付けのあるものではなく...直観的なものか、それとも思想的なものかも知れま

せんが、生命が偶然による稀(まれ)な生成物とは思えません。むしろ、そこに、“意志的な

もの”を感じています」

「はい...」アンが、ミケをそっと床に下ろした。

ド・デューブの主張は...“宇宙は生命に満ちている”というものです...

  シャピロ(/ニューヨーク大学)は、この理論を、『生物学的決定論』と呼んでいるそうですね。

そして...この理論は、“生命は、自然の法則に書き込まれている”、という言葉で表現

されるそうです...つまり、“生命はごく自然に発生してくる”、という考え方の様です」

『自然発生説』は、アリストテレスが言い出したと言われますね...

  それから、17世紀初頭...ファン・ヘルモントは...“小麦の粒と、汗で汚れたシャツ

に、油と牛乳をたらし、それを壺にいれ、倉庫に放置すると...ハツカネズミが自然発生

する”と結論付けていますわ...まるで、そんな話なのかしら...?」

「まあ...そんなバカげた話ではないでしょう...

  ともかく...20世紀に入ってからは、オパーリン(アレクサンドル・オパーリン/ソ連/生化学者)

登場します。生命の起源に関する『オパーリンの物質進化説』という概念が登場するわ

けです。それから、1950年代になると、『ユーリとミラーの化学進化説』へと移って行く

わけです。原始地球の海で、アミノ酸が合成されたとする説ですね...

  そしてこれが、いわゆる、“生命は、確率論的にゼロに近い偶然の産物”という事にな

るわけです...量子力学確率論的概念が、生命の起源にも導入されたわけでしょう

か...ともかく私も、そうした論文や記事は、しばしば目にしています」

「これらも...いわゆる、『自然発生説』なわけですね...」

「そうですね...

  しかし、『生物学的決定論』と呼んでいるのは、そもそも、“生命は、自然の法則に書

き込まれている”、というものです...私はこの論文を読んだことはないのですが、“自

然の法則に最初から書き込まれていた”という事は、ビッグ・バン宇宙が起こった時、す

でにその法則が内包されていたという事でしょう...まあ、これは私の拡大解釈かも知

れませんが...」

「はい...」

「私は、この意見に賛成なのです...

  非常に単純な理由からですが...それが非常にスッキリと納まりがいいからです。つ

まり、“この世”というものは、認識された瞬間において、すでに“意志的”なのです。“意

識の鏡”に映されているわけです。そして、“意識”“生命”とは、相補的な関係にある

のです...“意識”があれば、そこに必然的に“生命”というが存在するわけです」

「つまり...完全なる客体としての宇宙は、ありえないと...?」

「そうですねえ...

  私は、専門家でも研究者でもないわけですが...そんなものは、そもそも存在しない

と考えています...もし、存在しても、まるで意味のないものです。したがって、そうした

ものは、考えなくていいわけです。

  しかし、『生物学的決定論』も、私が言うように、“意識/心の領域”にまで踏み込んで

いるものかどうかは知りません。詳しいことは、そちらの方の論文でお願いします...

学的スタンスの、学問的な話かも知れませんから...しかし、21世紀は、“物の領域”

“心の領域”が、統合されて来る時代でもあるわけですね...」

「うーん...『化学進化説』からの、180度の回転になるわけですね...どちらが正しい

のでしょうか?」

「さて...

  私は、昔から、ゼロに近い偶然の生成物”という立場には、懐疑的でした...しか

し、どちらが正しいかの回答は...火星などの地球に似た惑星で、生命の存在の証拠

を発見することしょう...あるいは、木星の第2衛星/エウロパあたりでも、その可能性

があると言われていますね。

  エウロパの氷の表面の下に、“液体の海”があると推定されているようですから。ただ

し、地球からの微生物の持ち込みで、汚染されていないことが条件になります」

「そうですね...」アンが、額の髪を撫で上げた。

太陽系において、2つの惑星で...衛星や彗星も含めてですが...独立に生命が発

していれば...『生物学的決定論』は確実なもとなるでしょう...そもそも、そういう事

なのか、という事になります...少々飛躍してしまいますが...“生命は宇宙に満ちて

る”という事になります」

「うーん...

  だから、太陽系探査においても、火星エウロパでの生命の痕跡の探索が、最優先

になるわけですね...すでに、かなりの探査体が、地球からの火星の大地に到達して

いますわ。汚染の方は、大丈夫なのでしょうか?」

「まあ、そのあたりは、非常に慎重に進められている様ですね...

  ただ、今回の私たちのテーマとも関連しますが、火星エウロパでの生命体の探査

は、容易なことではなさそうです。いや、これは宇宙開発技術とは別の、生物学的な意

で、という事です。

  もし、そこで生命体を発見したとしても、それが、“地球の生命体とは別の起源を持つ

生命体”かどうか、それを確定するのは簡単な事ではないということです。したがって、そ

れが判明するのは、ずっと先の事になるようです。このページでは、そうした事について

も考察して行きます」

「はい...」アンが言った。「それが明確に、“異質生命体”だと分かる生物なら、別です

ね...でも、そうなると、非常に危険な生物なのかも知れませんわ...映画の、『エイリ

アン』のように...」

「まあ...」高杉が笑った。「確かに、そうですね...

  ともかく、簡単にはいかないでしょう...こうした研究というものは、研究が進み、実態

が分かって来ると、ますます複雑化して行くでしょう。

  あの『エイリアン』も、炭素型生命なのか、DNA型生命なのか、“地球の生命体とは別

の起源を持つ生命体”なのかは、研究してみなければ分からないわけです。怪物ではあ

りますが、有機物で構成されているのかも知れません...」

「うーん...ミステリアスですね...生命多発性のものだとしたら、非常にドラマチック

なものになりますわ」

「まあ、いずれにしても、現にこの地球生命圏というものが存在しているわけです。全て

は、そこから始まります...このこと自体が、とてつもなくドラマチックな事です。現在、

モサピエンスが、この巨大生命圏を、全生態系レベルでぶち壊そうとしていますがね、」

「はい...

  将来的には...太陽系全体での、彗星由来の有機物調査も、本格化して来るでしょ

うね...太陽系のからやって来る天体についても、有機物調査が始められるはず

ですわ...」

「そうですね...

  やがては、全太陽系の有機物の版図というものも、その全体像が判明してくるはずで

す...まあ、その仕事は、私たちの子孫がやってくれるでしょう...この人類文明が、

継続していればですが...」

「はい...」アンが、脚にジャレているミケの腹を、優しく踏みつけた。

 

  〔2〕 異質生命体として    wpe8B.jpg (16795 バイト)

              可能性のあるものは・・・

            

「さて...」高杉が、タンとキーボードを叩いた。「そもそも、生命体とは何か...

  【生命体の定義】そのものについて...厳密な意味での【科学的な定義】は確立され

ていません...

  私なども...地球生命圏“1つの巨大な生命体”と望見して、“36億年の彼”という

人格を与えています。36億年というのは、少なくとも時間軸上で、そのぐらいには拡大し

ているだろうという事です。

  この<ニュー・パラダイム構想>も、まだ私の中で確立しているものではありません。

しかし、生命圏というものに人格を与えることにより、様々な側面が見えてきます。

  今回は、これは別に置くとして...ここでは、ごく一般的に、生命体とはどのようなも

のか、まず、簡単に説明してもらえますか、」

「はい...」アンが、答えた。

  ミケが、今度は、作業テーブルに跳び上がった。アンがキーボードに触れないように、

そっとミケの頭を押さえた。ミケが、そのアンの手にジャレた。

「ええ...」アンが、ミケの首を押さえながら言った。「そうですね...

  まず...“代謝能力”“繁殖能力”という...2つの性質を持つことは、ほとんどの科

学者が認めていますわ...“代謝能力”とは、環境から栄養素を取り込み、それをエネ

ルギーに変換して、廃棄物排泄することです」

「その、」高杉が言った。「生命体最小単位は...細胞という事になりますか...

自立していて...“代謝能力”“繁殖能力”の、両方を備えていますね、」

  ミケがアンの手を逃れ、モニターの脇の方へ回った。そして、首をかしげ、アンの手を

見ていた。

「ええと...」アンが言った。「そうですね...

  ウイルスのように...呼吸をしていなくて、他の細胞に依存し...それでいて増殖

るような...“生物と無生物の中間的な存在”がありますわ。こうしたウイルスが、生物

と言えるかどうは、かねてから議論のある所です。

  高杉さんの“36億年の彼”という概念は...上位レベルで、“細胞も個体も種も超え

る概念”ですね。一方...下位レベルで、ウイルスのように、“細胞や個体や種の間を流

動している存在”もあります。

  こうした、“生化学反応や環境をも含めた全体性”が、巨大生命圏/巨大開放系シス

テムとして、ダイナミックに波動しているという事ですね...」

「そうですねえ...」

「うーん...

  生命体というものが、開放系システムであるということは...こうした全関係性は、

宙空間にまで開かれているという事ですわ。つまり、生命は宇宙全体と不可分のものと

いう事になります。マクロの宇宙から、ミクロのウイルスまで...そして、全ての空間座

標/時間軸にまで拡大しているわけですね...

  そして、それは高杉さんの言われるように...“意識”相補的な関係にあります。

識”も、不可分のものになるという事でしょうか...すると、やはり、“生命は自然の法則

に書き込まれいる”、という事になるのでしょうか...ビッグバン宇宙開闢(かいびゃく)

た時には、すでにそれが内包していたと...」

「少なくとも...

  “私たちがまさにここに存在している=意味を持つ宇宙”では、そうかも知れません。

ただ...物質的な意味ではそうかも知れませんが、“意識”がどのように発現してきたか

が、大問題になります。“意識”こそが、宇宙をも含めた“この世”構造化しているからで

す。

  その答えによっては...この世に物質などはなく...全ては夢のまた夢...壮大な

幻影なのかも知れません...ただ、それでも確実な事は、1つあります。デカルトの根

本原理/“我思う、ゆえに我あり”ということです」

「すると、“生命”という物質面よりは、“意識”の方が、より根源的という事になるのでしょ

うか...」

「私は、“生命”“意識”相補的なものと考えていますが...デカルト的に考えれば、

そういう事になりますねえ」

「はい...」

ウイルスの話に戻りますが...

  ウイルスというのは...まるで機動性・遺伝子のように...細胞間・個体間・種間

飛び回っていますねえ...それもまた、“36億年の彼”という、生態系全体性を示唆

する要因になっています。

  したがって、生命体とは...単に“代謝能力”“繁殖能力”という、2つの性質だけで

は語りつくせないものがあります。量子力学がそうであったように、生命体もまた、“意

識”という主体性が強くかかわってきます...これもまた、宿命なのでしょうか、」

「はい...」アンが、手にジャレついてくるミケの背中を、グイと掴んだ。そして、そっと頭

に手を当て、肘で抱えた。ミケが、そこをスルリと抜け出した。

「まあ、ともかく、こうした問題は、ひとまず横へ置いておきましょう...ミケのように、」

「はい...」アンが、作業テーブルの上を歩いているミケに笑いかけた。

 

「さて...」高杉が言った。「そこで...

  “生命体の発生”をめぐる、これまでの見方というのは...地球上生命体何度も

発生していた場合は...“ある1つのタイプ”急速に優勢となり...その他のものは

“すべて排除される”、と考えられて来たわけですね...確かに、そういうことは観測さ

れるわけです...

  資源を素早く独占し...優れた遺伝子を仲間内で交換し...他のタイプを圧倒すると

いうわけです...生態系“空きニッチ”での、生命体の爆発的発生も...DNA型

素呼吸型大繁殖し...それ以前の他の生物種を、排除・絶滅させて来たというわけ

です。

  しかし、果たしてそうだったのでしょうか...生命潮流の、多様性・複雑化ベクトル

考慮した場合...この単純化の風景というのは、正しい判断なのでしょうか...この

大生命圏全体風景というものを、正しく把握していると言えるのでしょうか...?」

「うーん...」アンが、唇にコブシを当てた。「そうですね...

  私たちのヒトゲノムの中には...全生命体のゲノム情報が、同時に含まれていると言

われます...これは、どういう事なのかしら...このこと自体、壮大な記憶になります。

いったい、生命潮流は...どこへ行き着くのでしょうか...?」

「うーむ...そうですねえ...」

「あ、それから...

  仮に、生態系優勢になり...大繁殖し、他を圧倒しても...生命体というものは、

そもそも絶滅させるのは非常に難しいものですわ...これは病院での、病原菌対策

現状を見ても分かります。

  微生物を完全に制圧するのは、非常に難しいのです。抗生物質の戦いでも、耐性菌

が出現し、ケリがつきません。生命体には、恐るべき適応能力があります...これも、

“生命は、自然の法則に書き込まれている”、という所から来ているのでしょうか?」

「うーむ...そうですねえ...」

「それから...この地球生命圏の話に戻りますが...

  こうした事は、“真正細菌”“古細菌”系統樹にもみられます。これらの細菌は似て

いるように見えますが、共通の先祖までは、30億年以上も遡ります...つまり、“真正

細菌”と、“古細菌”とは、大きく異なる系統の微生物だという事ですね。でも、どちらか一

方が、他を完全に排除するということもなく、それなりに共存して来ているわけですわ」

「その通りですねえ...」高杉が、腕組みをし、頭をかしげた。

「これらのことも...」アンも、頭をかしげた。「地球生命圏に、“36億年の彼”という

を与えれば、容易に理解できるかも知れませんね...そうした人格の中で、許容され

ているという事なのでしょうか...単なる食物連鎖や、淘汰圧力とは別の所に、全体と

しての恒常性/ホメオスタシスが、機能しているのかも知れませんわ」

 

「まあ...そういう考えもある...という事ですねえ...

  そこで、このページの本題の“異質生命体”ですが...私たちの比較的近い所にも、

こうした状況からして...“異質生命体”が生存している可能性があるわけです...

  あるいは、もっと可能性があるのは...普通の生物体には生存できないような、過酷

な環境ですね...そこに“異質生命体”が、細々と独自の生態系を作っている可能性

あります」

「はい...」アンが、ミケの頭をなでた。

高山砂漠のような場所では、“独特の環境に適応した生態系”が見られます。“異質

生命体”も、そうした過酷な環境の中で、別の生態系を保持している可能性があるわけ

です」

「つまり...

  “地下の深い領域”や...“大気圏上層部”や...“金属や毒物で汚染された場所”

などですね...放射線・耐性菌では、ヒトの致死量の1000倍ガンマ線でも耐えてい

る、耐性菌が見つかっています」

「ほう...そんなヤツがいるのですか?」

「はい...」アンが、うなづいた。「これは、食品などの殺菌のための、放射線照射をする

実験中に見つかったという事です...どうしてこんな細菌が存在しているのか、とても不

思議ですわ...何故、そんな必要があるのでしょうか...そこに、なんらかの意味があ

るはずですわ...」

「うーむ...そうですねえ...

  最近、探査の進んでいる海底熱水噴出孔などでも、独特の生態系が発見されてい

ますねえ。写真などで見たことがあると思いますが...そこでは、有機物合成をする古

細菌類が、食物連鎖の底辺を支えているようです。そして、ジャイアント・チューブワーム

二枚貝エビなどが、その周辺で生息しているようですね」

「はい...

  地球生命圏でも、まだまだ分かっていない領域が、非常に多いという事ですね...

型の哺乳類などは、ほぼ全体像が分かっているようですが、その一方で、微生物につい

ては、まだほとんどが分かっていないのが実情です。

  ほとんどが、未確認と言っていいでね...その種類総重量となると、はかり知れな

いものがありますわ...その膨大な微生物の海に、植物昆虫動物生態系が、ま

さに浮かんでいるという状況でしょうか」

「うーむ...

  ちょうど、プレート・テクトニクス(プレート変動学)のように、膨大な地球のマントル対流の上

に、大陸プレートが浮かんでいる状況に近いのかも知れませんねえ...人類文明が目

しているだけが、地球生態系の全メカニズムではありません。

  その基盤には、莫大な量の微生物が存在しているという事ですね...“意識”のレベ

ルにおいても、莫大な量の微生物が、その底辺を支えているのかも知れません...そう

したものの総体が、“36億年の彼の意識”という事になります」

「はい...

  細菌(バクテリア)からヒトまで、これまでに人類文明によって命名されたものは、約200

万種と言われますわ。そして、まだ名前も与えられていない生物種は、2000万種とも

3000万種とも言われます。また、これまでにすでに絶滅した種も加えると、地球生命圏

の種は、億単位にのぼると言われます。

  ともかく、途方もない多様化のベクトルが、時空間座標で波動していますわ...そうし

ベクトル上に、“異質生命体”も載っているという事でしょうか...つまり、“異質生命

体”も、多様性の一角を占めているのでしょうか...?」

「うーむ...まさに、そういうことですねえ...

  そこが問題の焦点になります...ともかく我々には力の及ばない、壮大な課題です。

しかし、我々なりに、まず第1歩の考察を進めて行きましょう。その試行錯誤批判

ら、より明確かな版図が浮かび上がって来ます」

「はい、そうですね」

 

異質生命体の候補

    wpe73.jpg (32240 バイト)         

“異質生命体”を探すと言っても...」高杉が言った。「そもそも...それは現在の人

類文明の知識で想像して、どのような生命体なのかという事です...

  整理しておきますが...環境条件が整っていれば...そして、“生命が必然的に、簡

単に発生”するものなら...地球では“生命の発生が、多数起こっていた可能性があり

ます。そうした中に、“異質生命体”も含まれているのではないか、という事ですね、」

「はい...ええ...

  “人類が生命を創出するのは絶望的”なのに対し...“自然界ではいとも簡単に生み

出されて来ます”...もちろん、こうした増殖/繁殖能力によって生まれた生命体は、真

の意味での“創出/発生”とは異なります。

 でも、それにしても...“生命は、自然の法則に書き込まれている”という事なら、ここ

にも当然、“そうした力”が働いているのかも知れません...だから、ファン・ヘルモント

の言うように...ええと...“小麦の粒と、汗で汚れたシャツに、油と牛乳をたらし、そ

れを壺にいれ、倉庫に放置すると...ハツカネズミが自然発生する”...というように

も、見えるわけですね...

  “生命が自然法則に書き込まれている”のなら、1種類炭素型/DNA型だけではな

く、その他の“異質生命体”も、発生している可能性が強くなります...そして、地球生

命圏においても...それらが、しぶとく生き延びている可能性が強くなります」

「そういうことですねえ...

  ともかく...そうした“異質生命体”を見つけ出してみようという仕事が、21世紀にお

いて、いよいよ本格的に始動しているようです。それは、まず、太陽系空間の探索と、こ

地球生命圏の探索に分けられます。

  これまでに知られているどの生物とも、“生化学的に異なる特徴”を持つような、“異質

生命体”の探索が進められています...21世紀に入った現在、人類の知的探求は、こ

うした方面にも向けられてきたという事です。

  ええと...アン...まず、どのようなものが考えられているのか、簡単に説明してもら

えるでしょうか、」

「はい...」アンがうなずき、ミケの頭を押さえ、パソコン・モニターのぞいた。「そうです

ね...ええと...後で詳しく説明しますが、現在、人類文明で想像可能なサンプルを、

簡単に上げておきます...

  あ、その前に...生命の発生には、“液体の水が必須”と考えられてきましたが、

の液体でも、生化学反応溶媒として機能すると考えている宇宙生物学者もいます。

星の衛星/タイタンのように、低温の場所では、液状のメタン液状のエタンを、水の代

にする生命体がいる可能性があると言いますわ...」

「うーむ...

  そういう事では、私も“水の惑星”と言われている地球について...そのについて、

1言、コメントしておきましょう」

「はい、そうですね。お願いします...」

地球生命圏では...

  水/が、ちょうど“3つの相”をとります。これは、実は、奇跡的な絶妙のバランス

なのですねえ...“水の惑星”と言われるように、地球生命圏には、液体としての膨大な

水量があります。また、個体として大量の氷河や、極冠の氷があります。

  それから...厚い大気圏には、これも大量の気体としての水分が含まれています。こ

のことが、地球環境豊かな気候をもたらしています。自転は昼と夜をつくり出し、太陽

の公転面に対する地軸の傾斜が、四季をつくり出しています。

  こうした環境下で、地球表面はこれら“3つの水の相”が、真綿のように生命圏を包み

込んでいます。まさに生命の揺り籠のようです...もっともこれは、こうした環境の中で

発生した、地球型生命体だからこそ言えることかも知れません...」

「はい、」

植物は...太陽光線を浴びて、光合成エネルギーを獲得し...地球表面で暮らす

密で多様な生物種の、底辺を支えています。地球表面の生命体は、この豊かな食物連

鎖のサイクルの中で生きています...

  こうしたハビタブル・ゾーン(HZ : habitable zone/生命生存可能領域)というのは...ダイナミック

に波動する物理的宇宙空間では、まさに奇跡の場/エデンの園(旧約聖書・創世記でアダムとイブ

が置かれた楽園)のような場所でもあるわけです...

  こうした場所に...“まさに私たちが存在している”ということです...これは奇跡

のか、必然なのか...ともかく、“確かに私たちが存在している”のです。これが、【人間

原理のスタンス】です。ともかく、確実に分かっていることは、まさにこの“地球生命圏の

存在”だけなのです...ここから、全ての推理が始まります...」

「はい...ええ...

  それでは、“異質生命体”可能性を数える前に...この地球生命圏における、“異

質ではない”、という所の...私たちの生命体像を、最初の1つとしてカウントしておきま

しょう。

 

*******************************************************

 

 @ 私たちの生命体の系統樹・・・ 

  現在、人類文明によって把握されている全生命体/地球型生命体は...

炭素型であり、同じ生化学的特徴を持ち...遺伝情報はDNA型です...

  私たちの“生命の樹”は、太古において“真正細菌”“古細菌”“真核生

物”という、3本の太い枝に分裂して伸びて来たと考えられています。こうした

図を“系統樹”といいます...

  “古細菌”というのは、最近判明した第3の生物群ですね。1977年発見

され、第3の生物群として提唱されたものです。“古細菌”“真正細菌”と同

じく、核のない単細胞生物ですが、その共通の先祖となると、30億年以上

遡ります。35億年前の、最古の化石/ストロマトライトの時代頃まで遡るわけ

です。つまり、発生間もない時代まで遡り、“系統樹”が枝分かれしています。

  それから、“真核生物”というのは、細胞に“核”を持つ生物のことです。

動物菌類がこれに相当し...複雑な細胞構造を備え...多細胞生物

に枝分かれし、最も著しい進化を見せています。

  人類の大きな進化の流れは...猿人(アウストラロピテクス)原人(ホモ・エレクトス)

旧人(ホモ・ネアンデルターレンシス等)新人(ホモ・サピエンス)となっています...不思

議なことに、こうした様々な人類アフリカで誕生し、世界に散らばっていった

様子です。なぜアフリカだけが、新しい人類発祥の地になるのかは、分かって

いません。現在研究の進んでする分野ですから、今後に期待したいと思いま

す。

  ちなみに、現代人/新人/ホモサピエンスは、フランスドルドーニュ県

発見された、クロマニヨン人(ヨーロッパに分布)が知られています。旧石器時代・末

化石人類ですね...クロマニヨン人は、約1万5000年前に描かれたと

推定される、ラスコー洞窟壁画によって知られています...

  あ、このラスコー洞窟が...つまり、フランス/ドルドーニュ県/ヴェゼール

渓谷にあるわけですね...私たちホモサピエンスの歴史は、わずかその程度

という事になります。

 

  ええと...私たちが、肉眼で確認できる大部分の生物は、多細胞生物と考

えていいでしょう...多細胞生物(/植物・動物・菌類)という事では...菌類(キノコ、

カビなど)には、若干の単細胞生物が含まれます。さらに、細かく言えば、原核生

(核を持たない細胞からなる生物)にも、簡単な多細胞構造を持つものがあります...

  もう1つ...地球型生命体特徴的な事は...単細胞生物には、“寿命が

ない”という事でしょうか...高杉さんは、36億歳とおおよそのことを言われ

ていますが、それ以上の40億歳とも言える、単細胞生物が存在している可能

があるそうです。

  多細胞生物である私たちは、大いなる進化の代償として、“老化/寿命”

いう、本質的な恐怖を背負い込む事になりました。でも、高杉さんに言わせれ

ば...個体は次々と新陳代謝しても...“真の意味での命は”...死を迎え

るのではなく...個体群波/波動のように渡って行くという事ですね...私

も、この高杉さんの見解に賛成です...

  多細胞生物進化した生命体では...“命の本質”もまた...時間軸上に

展開する、その“プロセス性”に投影されているという事ですね。そこに、“36

億年の彼”という、超越的人格が重なって行くのでしょうか...

 

 A “鏡像分子の生物”の可能性・・・ 

  まず...“異質生命体”として、その可能性がまっ先に考えられるのは、

“鏡像異性体(キラリティ)です...

  大きな生体分子では、“右手型”“左手型”という、2種類鏡像的幾何

学的配置をとることがあります...こうした“鏡像分子の生物”が、存在してい

可能性があると言われています。

  私たちのような普通の生物では...アミノ酸“左手型”であり...DNA

“右手型”2重らせん構造になっています。でも、もし生命が再びゼロから

発生したら、逆に“右手型”アミノ酸や、“左手型”DNAを持つ生物になる

可能性があると言われます。

  “生命体は、自然法則に書き込まれていて、非常に発生しやすいもの”、で

あれば、こうした“異質生命体”は、私たちのごく身近に存在している可能性

あります...これについては、後でさらに詳しく考察します。

 

 B “風変りなアミノ酸を持つ生物”の可能性・・・ 

  次に...“風変りなアミノ酸を持つ生物”...が存在する可能性が、あると

言われます...

  ごく稀な例外はあるようですが...私たちのような普通の生物体では、タン

パク質を構成する20種類のアミノ酸共通しています。でも、化学的には、そ

の他のアミノ酸が、幾つも合成が可能なのです。

  “異質の微生物”では...隕石から見つかった“イソ・バリン”“シュード・

ロイシン”のような、“珍しいアミノ酸”を利用している可能性があります。これら

は、必須アミノ酸バリンロイシン似た化合物です...

  もし、こうした“珍しいアミノ酸”を利用していたら、生物体はどのような特徴

を持つのでしょうか?普通の生物の海の中で、どのように生きているのでしょ

うか?先ほどの放射線・耐性菌のように、特殊環境の中で、力強く生きている

のかも知れません...

  生命体は...“存続し続けること”...“生きるという方向へ”...強力な

動因がかかっています。それが生命潮流の、ベクトルの実体化です。人間の

ように、“自殺”するなどという事は、珍しい現象なのかも知れません...

 

 C “ヒ素生物”の可能性・・・ 

  普通の生物で...リン/(原子番号15)が担っている生化学的役割を、“異質

生命体”では、ヒ素/As(原子番号33)が果たしている可能性があると言われて

います。

  ヒ素リンと非常によく似ているので、普通の生物にとっては毒性がありま

す。でも、もし、“ヒ素系生物”が存在したとしたら、逆にリン毒性を持つだろ

うと言われています...

 

 D “ケイ素生物”の可能性・・・ 

  “ケイ素系生物”というのは...私たちの“炭素系生物”とは、“根本的に異

なる異質生命体”になると考えられています...

  ケイ素/Si(原子番号14)は、炭素と同じく原子価数が4(最外殻に4個の電子を含む)

す...ケイ素原子生体分子の骨格を形成する、長鎖構造環状構造をと

ることが可能といわれます...

 

*******************************************************

 

  ...ええ、以上のようなものが、すでに俎上(そじょう/まな板の上)に乗せられています...

私たちがこれまで地球生命圏観測している以外では、こうした“異質生命体”が存在す

可能性があります。でも、可能性というものは、それこそ無数にあるのではないでしょ

うか...

  したがって、人類文明の、非常に限られた現在の知識の中では、とりあえずこの4つ

と...プラス・アルファという所でしょうか...」

「うーむ...」高杉が、うなずいた。「これは...

  現在の、私たちの科学的知識の及ぶ範囲という事でしょう...そもそも、生命体とい

うものについて、私たちはこの地球生命圏以外のものは、全く観測していないわけです

ねえ...“生命”というものも、“意識”というものも、“この世”というものについても、ま

定説というものは確立されていません」

「そうですね...研究は、まだ、ほんの、始まったばかりという所かしら...」

 

〔3〕 地球生命圏で、異質生命体を探す・・・ 

   wpe73.jpg (32240 バイト)         

  高杉が、作業テーブルの上を歩いるミケをワシ掴みにした。ミケが裏返しになり、体を

よじり、高杉の手にジャレついた。

「さて...」高杉が、片手でミケと格闘しながら言った。「この地球生命圏で...“異質生

命体”を探すという事ですねえ...」

「はい...」アンが、目を細めながら答えた。「現在...私たちにできることは、太陽系

空間の探索と、この地球生命圏での調査です...

  膨大な太陽系空間の探索は、宇宙開発技術と不可分のものですわ。これは様々な困

難をともなうものですが、国際レベルのミッションとして、着実に進んで行くでしょう。宇宙

技術が進めば、探索そのものは構造的には単純ですので、それなりに明らかになって

来るものと思います。本質的に、有機物は希薄ですから...

  問題なのは...濃密有機生命体有機物が存在している、この地球生命圏の方

ですわ。この濃密な有機世界の中に、“異質生命体”が紛れ込んでいる場合です。シャド

ウ・バイオスフェア/影の生物圏を形成していることも考えられますが...ひょっとした

ら、共生だって、可能性が無いわけではありません...

  生命体が、“自然法則に書き込まれていて、非常に発生しやすいもの”なら、この地球

命圏という場を、改めて見直さなければなりませんわ。そのことが、ひいては、太陽系

空間“異質生命体”の探索にも貢献します...」

「まあ、そうですねえ...

  “異質生命体”と、DNA生命体共生ですか...まあ、“異質生命体”形態によっ

ては、可能性はありますね...しかも、細胞がそういうものを取り入れていた場合、判別

は非常に難しくなりますねえ...ミトコンドリアクロロフィルも、細胞に取り込まれたも

のですし...ともかく、あらゆる可能性があるわけですねえ...」

「そうですね...

  また...“どのように、自然法則に書き込まれているのか?”という事も、まだ判然と

しないテーマですが、決定的に重要になって来ますわ。場合によっては、一般化できるよ

うなものではなく、この地球生命圏が、“宇宙の唯一の特異点”という可能性もあります」

「うーむ...

  “生命は、確率論的にゼロに近い偶然の産物”というスタンスでも、“宇宙の稀な特異

点”という事になりますからねえ、」

「はい...

  それとも、“神”の創り出した、“奇跡の場/エデンの園”なのかも知れませんわ。そう

した創世記のような神話が存在すること自体、それなりの深い意味を持つものですわ。

科学的ではないということで、簡単にかたずけられる問題ではありません。科学も、リア

リティーの1つの断面でしかありません」

「その通りです」

「そして...

  そもそも、“生命が、自然法則に書き込まれているのが事実だとしても、それは何者

によって書かれたのでしょうか?あるいは、“ビッグ・バン宇宙以前の場”において、それ

どのように決定され、どのように入力されたのでしょうか?謎は、宇宙の開闢以前にま

で遡るだけの事ですわ」

「そうですねえ...

  “確かなコト”は...“我思う、ゆえに我あり”という...デカルト的主体性の確認

けなのでしょう...【人間原理のスタンス】は、まさにここにあります。

  生命体が、“神の創造物”であるにせよ、“ゼロに近い偶然の生成物”であるにせよ、

主体性が確認できるのは...“我思う、ゆえに我あり”という...自らの存在のみです。

そして、それが、“この世の全て”です...“この世の全て”は、主体性の鏡に映された

世界ですから...」

「はい...」アンが、首を傾けた。

「ともかく...

  何故か分かりませんが...まさにここに主体性とが出現し、思惟しているわけですね

え...これは、主体性の絡んだ認識構造そのものに、根本的な原因があるのかも知れ

ません。時空間を構造化してきたのは人類文明ですし、“言語的・亜空間”主体性を投

してきたのは、私たち自身ですからねえ...」

「はい...」

  高杉は、またミケをヒョイと掴み上げた。そして、今度は、その柔らかい体を、両手で抱

いた。

「はは...このミケにしても、実によくできています...いったいこんなものを、誰が造り

上げたのでしょうか...何のために...?」

「はい...私たち自身もそうですね...だから私は、“とても自分が好き”ですわ...」

「うーむ...」高杉が、ミケをそっと放した。「ま、ともかく...“異質生命体”の考察を進

めましょう」

「はい」

 

「まず...

  “異質生命体”が、この地球生命圏に存在するかどうかという事ですねえ。その答えに

よっては、問題の糸口の一端が見えてくるわけです。

  もし、“ケイ素系生物”などが...微生物レベルでも...存在する形跡があるのであ

れば、この地球生命圏の様相がガラリと変わってきます。そういうものが、“存在するの

か/存在しないのか”ということです。

  しかし、少なくとも...我々/炭素系/DNA型は存在しているわけですねえ...そ

して、こうやって、思惟しているわけです...」

「はい...

  その私たち自身が、奇跡に包まれていますわ...多分、偶然の産物なんかでは

ありませんわ...何故なら、私たちは“意識”を持っていますもの...」

  高杉が、顔を崩した。アンも、満面で笑みを作った。

「さて...

  ともかく、問題の“異質生命体”ですが...現在の、21世紀の地球生命圏には生存

していなくても...はるか昔に“異質生命体”が繁栄し...何かの理由で絶滅したり、

何者かに取り込まれている...という可能性はあるわけですねえ...そうした意味で

は、“時間/現在”というものは、あまり意味がありません...

  まずは...“異質生命体”存在していたという事が...大きな意味を持ちます。も

ちろん、その痕跡が発見された場合、現在も生存している可能性が高くなります。また、

その探索に関して、何らかの手がかりを得ることができるはずです」

「はい...

  この生命圏は...事実を探索していくと、常に驚きの連続ですわ...事実は、いつも

私たちの想像を超え非常にダイナミックなものですわ...」

「そうですねえ...

  ともかく、現在の生存を気にせずに、地質年代的な広い範囲を捜索するべきでしょう。

つまり、別の言い方をすれば...“36億年の彼”の中に、“異質生命体”は存在するの

かどうか、という事になります。そうした超越的人格が、“異質生命体”を内包しているの

かどうか、と事になります」

「そうですね...

  ついでに、高杉さんにお伺いしますが...“時間”というものを、単なる時間軸のパラ

メーターとして考えるのは、どうなのでしょうか...

  物理学では、現象を“時間”“空間”という最初の分割を試みていますが...そもそ

“時間”“空間”も、主体性という側面が、常に“影”として付きまとっていますわ。で

も、“時間”が単なるパラメーターでないとしたら...どういうものなのでしょうか?」

「これはまた...難しい話を持ち出しましたねえ...」

「一度...」アンが、口に手を当て、ニッと笑った。「高杉さんに、お聞きしておきたかった

ものですから...」

「うーむ...そうですねえ...

  私の敬愛する道元禅師の著書/正法眼蔵に...<有時(うじ)という項目があり

ます。これは、現代語で訳すと、“普遍的時間”というような意味になるのですが...ボ

スが若い頃に書いた小説に、普遍時間というのがあります。この普遍時間という

タイトルは、実はこの普遍的時間”から拝借したのものだと、ボスから聞いています。

  この作品は、末期ガン患者が死にいたる風景を描いたものですね。ここに、ボスの“時

間”“死”というものについて、1つの概念が示されています。まず、そちらの方を読ん

でいただけるでしょうか」

「はい...その作品は、読んだことがありますわ」

「そうですか...」高杉は、天井を見た。「ただ1つ...私にも指摘できるのは...

  アンが言うように、“時間”にも、“主体性という側面/人間的な影”が、強く反映してい

るという事です...これはリアリティーを分割した、“人間の意思という刃物/言語”が、

その“影/・・・臭い”を付けてしまったということでしょう...

  したがって、それは...素粒子物理学重力理論にまで影響してくるわけです。あの

厳密な量子力学においてさえ、“参与者”という主体性の導入になったわけです...

粒子性/光子とみるか、波動性/波とみるかは、観測者の主体性に任されています。

  つまり、粒子性波動性の両方を、同時に観測することは不可能なのです...しかし

アインシュタインが嫌ったように、量子力学主体性を導入した事は、“言語的・亜空間

座標”を非常に複雑にしました...簡単に言ってしまえば、因果律がおかしくなってしま

いました...

  しかし、まあ...これは大きなテーマですから、また別の折に考察することにしましょ

う。ここでは、地球生命圏における、“異質生命体”の話を進めることにしましょう」

「はい、そうですね...」アンが、微笑してうなづいた。「それでは、ええと...

  その、絶滅したとして...“異質生命体”痕跡とは...その生物指標となる物質

が、地質年代的な地層の中から、発見される可能性があるという事ですね。これを見つ

けるというのは、そう簡単なことではないと思いますが、」

「うーむ...そうだと思います...

  例えば...その“異質生命体”代謝が、全く異なっていた場合...“岩石の組成”

が変わっていたり、普通の生物活動では説明できないような、“特殊なミネラルの堆積

物”があるかも知れませんね...

  また...普通の生物では作り出せない“独特の有機分子”が...始生代の岩石から

見つかった微化石の中に、隠れている可能性もあるようです...」

「はい...そうした可能性はあるのですね?」

「まあ、そうした可能性はあるのでしょう...大きなロマンになりますね...

  始生代というのは、25億年以前/・・・地質年代中の最古の時代のことです。この

生代原生代と合わせて、先カンブリア時代(地球の誕生〜5憶7000万年以前)と呼びます。こうし

た、始生代のような生命の希薄な時代が、1つの狙い目になります。

  それは、太陽系空間の探索と同じですね。同時多発的に、“異質生命体”も生まれて

いたのではないかということです...“生命の誕生が、自然法則に書き込まれていて、

非常に発生しやすいもの”なら、その可能性が大いにあるわけです...

  その先カンブリア時代の後、古生代/カンブリア紀の、生物の爆発的進化が始まるわ

けですね。参考までに言うと...古生代はこのカンブリア紀の後...オルドビス紀

ルル紀デボン紀石炭紀ペルム紀と続き、恐竜の棲む中生代に入って行きます。

  古生代/石炭紀(3億6000万年前〜2億9000万年前)の膨大な有機物の堆積は...名前のと

おり、現代文明における化石燃料になっているわけです。それから、ペルム紀の末期

は、最大級“種の大量絶滅”が起こっています...地球生命圏は今、人類文明の暴

で、こうした“種の大量絶滅”危機に直面していますね...」

「はい...

  その“種の大量絶滅”の後の“空きニッチ(空いた生態系的地位)には、中生代生命の大

発生が起こっているわけですね...“大量絶滅の母”と呼ばれるほどの“巨大な空きニッ

チ”にも、“異質生命体”入り込む余地というものはあるのでしょうか?」

「調べてみる価値はあります...しかし、分かりやすいのは、始生代かも知れません」

「はい...

  あの始生代原始の海で...大気中に酸素の量が増加してきたのは、光合成生物

/シアノバクテリアの大繁栄によるものであることは、まず疑いのない所ですわ。でも、

大気中の酸素の増加過程には、研究者の間で異論があるようです」

「ほう、異論ですか...?」

「はい...ええと、余談になりますが...

  この大気中の酸素濃度の指標で、“パスツール・ポイント”というものが知られていま

す...デンプン酵母を加えると、アルコール発酵を起こします。こうして、お酒を造るわ

けですね。つまり、デンプンアルコールに変わります。でも、この時に酸素を加えると、

アルコールにはならずに、二酸化炭素/CO水/に分解されます...

  通常...アルコール発酵は、酸素濃度が大気中の1%以下でないと起こりません。こ

酸素濃度のことを、“パスツール・ポイント”と呼びます...それ以上の濃度になると、

デンプンCO分解されるわけです。そして、その時に得られる解放エネルギ

は、アルコール発酵の時の19倍と言われます。

  つまり...生物体にとっては、大気中の酸素濃度“パスツール・ポイント”を超えた

事によって、莫大な活動エネルギーを獲得でる環境ができたわけです。これをもたらした

のが、いわゆる光合成生物/シアノバクテリアの大繁栄です。

  この効率的なエネルギーを獲得するためには...生物体遊離酸素/不可欠

だったわけです。化合物としての酸素/酸化物ではなく、遊離酸素/蓄積が必要

だったわけです。今でも私たちは、遊離酸素/がなければ、たちまち窒息してしまい

ますわ...」

遊離酸素/が、現在よりも多すぎても、非常に火災が発生しやすくなりますねえ。そ

れだけでも、生態系としては不安定になります。つまり、非常に、微妙な所で安定してい

るわけですね」

「そうですね...

  巨大な地球生命圏は、そもそも非常に微妙なバランスの上に成立していますわ。それ

を保持しているのは、生態系の恒常性/ホメオスタシスかも知れません...その、生態

系の恒常性が今、人類文明の暴走に、“牙”をむき始めているのかも知れませんわ」

「うーむ...

  感染症の猛威や、海面の上昇気候変動などですねえ...もし、恒常性のメカニズム

が...遊離酸素/の調整もしているとすると...海面上昇気候変動なども、当然

こうした恒常性/ホメオスタシス機能の1つとして、組み込まれているのかも知れませ

んねえ...

  ともかく、人類文明が未だに到達していない、上位システムの生態系の機能が、人類

文明の暴走に、“牙”を向けている可能性はあります...個体レベル/人体などでは、

恒常性/ホメオスタシスは、“治癒”としてよく知られているものです...それが、生態系

レベルで、“人類文明の排除”へ動いている可能性濃厚ですねえ...」

「はい...そうですね...

  経済発展/・・・経済エゴを主張している人たちに、この事態をしっかりと認識して欲し

いと思いますわ。時代は、【経済発展から、エコ/文明の存続】パラダイムシフトして

行かなければなりませんわ...」

「まあ...

  総じて...〔人間の巣〕世界展開していくのが、一番簡単でありもめごともなく

な方法だと思います...それに、莫大な費用というものはかかりません...頑丈な構

造物を作り、土をかぶせるだけです。後は、その周囲で、自給自足農業を展開するわけ

です。社会が非常に安定しますね...

  アメリカ大型ハリケーン“カトリーナ”にしても...つい先日の、十万人以上の死者

を出しているミャンマーのサイクロンにしても...それから、大地を削って行く、バングラ

ディシュのサイクロンにしても...こうしたものから社会を守るのは、〔人間の巣〕しかな

いですねえ...そして、人口を減少させて行くことです...」

「はい...ええ、話を戻します...

  ともかく...大気中の酸素濃度が、“パスツール・ポイント”を超えた事によって、生物

進化の大躍進が起こったと推定されています...

  そこで、この“パスツール・ポイントの時期”というのが、“21億年前の真核生物の出

現の時”とみるか、“5億7000万年前のカンブリア紀の生物の大爆発の時”とみるか、

研究者の意見が分かれていますわ...」

「うーむ...しかしこれは、研究が進めば、いずれはっきりして来るでしょう」

「はい、そう思います」

「ともかく...

  こうした地球生態系環境下で...“異質生命体”絶滅しているにせよ、〔シャド

ウ・バイオスフィア/影の生物圏〕を形成し、現在も生存しているにせよ...その可能

はあるわけです...さあ、果たしてどうなのでしょうか...1つのロマンであり、ミステ

リーですねえ...

  邪馬台国〜大和朝廷の歴史ミステリーよりも、はるかに巨大な地球生命圏のミステリ

です」

「うーん...」アンが、顔をほころばせた。「そうですね...

  現在の医薬品開発のように、経済原理に載っている生物学から見れば、まさにバカ

夢のような探求かも知れませんわ...でも一方で、天文学と同じように、より純粋な学

に近いのかも知れませんね...天文学と肩を並べる、大きなロマンですわ...」

「ま、そうですねえ...

  ともかく...そんな“異質生命体”が存在していれば...とおの昔に発見されている

はずだと思いますが...これが、なかなか難しいようです...生物ほとんどの種は、

微生物です。しかも、顕微鏡で覗いただけでは、“異質生命体”かどうかを知ることは、ま

不可能だと言っていいでしょう...

  “系統樹”では...知られている全生物系統的に分類していますが...これには、

遺伝子塩基配列分析・確定しなくてはなりません。この方も、微生物の領域まで含

めれば、ほんの1部がその学問的作業を終えているにすぎません」

「はい...

  これまでに調べられた生物は...どれも共通の起源に由来することは...ほぼ間違

いのない所ですわ...

  うーん...普通の生物は、“よく似た化学的性質”を備え、“同じ遺伝子言語”で書か

れているからですね。そういう意味では、“異質生命体”まだ1つも見つかっていない

わけですわ...これまでに見つかっているのは、どれも共通の起源に由来する生物

いうわけですね」

「まあ、そうですねえ...

  現在...異質生命体を分析する手法”は...どれも、“私たちと同じ起源/普通の

生物向けに設計”された手法です。これでは、“生化学的特性が異なっている生物”を、

検出できない恐れがあります。

  仮に...“異質生命体”サイズが、微生物レベルであるとしたら、これまでにも見過

ごされてきた可能性があるという事でしょう...さて、“どう立ち向かっていったらいいの

か”...ともかく、こうした本格的な探索は、ようやく始まったばかりです」

「はい...」アンが、頭を傾げた。「そうですね...」 

 

  〔4〕 まず、極限環境の調査から  wpe89.jpg (15483 バイト)wpe8B.jpg (16795 バイト)

              

  ポン助がコーヒーを運んで来た。

「ありがとう、ポンちゃん」アンが、ニッコリと顔を崩した。

「オウ!」ポン助が、コーヒーメーカーとカップの載った盆を置いた。

  アンが立ち上がり、2つのコーヒーカップに注ぎ、砂糖とクリームを入れた。ポン助は、

その盆を向こうの事務机の方へ運んだ。そこで、自分たちのコーヒーを入れた。

「現在の地球で...」アンが、コーヒーカップの一方を、高杉の方に押した。「“異質生命

体”を見つけるには...

  やはり、普通の生物体では生存できないような、極限環境の調査ということになるの

でしょうか?」

「そうですねえ...」高杉がコーヒーカップに触れ、奥のインフォメーション・スクリーンの

方を眺めた。

  そこでは、常設のインフォメーション・スクリーンだけが動いていた。プロジェクターによ

る壁面画像も、スクリーン・ボードも電源が落ちている。電源がオンになっているインフォ

メーション・スクリーンは、《危機管理センター》を映している。が、響子の姿はなく、バイ

オハザード担当夏川清一の後ろ姿が見えた。

「響子さんはいないようですね、」アンが言った。

「うむ...」高杉が、コーヒーカップに手をかけたが、まだ熱かった。

 

「ええと...」高杉が、アンの方に視線を戻して言った。「何だったかな...」

「あ、極限環境についてです...」アンが、ボンヤリしている高杉に、優しい微笑を送っ

た。

「うーむ...」高杉が、顎に手をかけ、モニターを眺めた。「極限環境が...その有力な

候補の1つということですえ...」

「でも...普通タイプの生物にも、並外れた適応能力を持つものが存在しますわ。そうし

た生物と、“異質生命体”とは、どのように違うかということですね...」

「うーむ...

  高温の海底火山の火口付近や、南極のドライバレーのような所にも、微生物は生息し

ています。他にも、塩湖や、金属汚染された強酸性の鉱山廃水にも、微生物は生息して

います...さらに、使用済み核燃料貯蔵プールなどでも、そうした環境に耐える微生物

が確認されていますねえ...

  彼等は、何故...わざわざ、そうした極限環境に住着くのでしょうか...もっと快適に

生息できる場所が、他にいくらでもあるはずです。あえて、そうした厳しい環境に生息し

ているところに、生命潮流深い意味があるのかも知れませんねえ...多様化・複雑

の、強力なベクトルが作用しているのかも知れません...」

「そうですね...」アンが、反対側に頭を振った。

生命体というものが...」高杉が、片手を上げた。「“自然法則に書き込まれていて、非

常に発生しやすいもの”なら...

  これは構造性/構造的なものかも知れません...宇宙論においても、ゲシュタルト的

膨張する真空空間そのものが、莫大なエネルギーを持っているようですからねえ。そ

れが、物理学からくる、宇宙空間の人間的な解釈ということでしょう...“論理的矛盾の

吸収”です...

  生物学生命論においても...極限の状況で、そうした“言語的な分割・分断/・・・

解釈の矛盾”のようなものが出てくるのかも知れませんねえ...“生命”“意識”という

ものも、まさに説明が困難です...

  量子力学でも...“相補的解釈”や、“不確定性原理”確率論的風景”...それか

ら、“量子もつれ”“部分/局所原因の否定”など...人類文明が構築している“言語

的亜空間座標”で、様々な矛盾が噴き出しています...」

「はい...」アンが、口に手を当て、深く考え込んだ。「文明の記述方法に...問題があ

るのでしょうか...時間認識空間認識次元認識なども...今後、変容というものが

あるのでしょうか...?」

「考えられますねえ...

  “文明の第3ステージ/意識・情報革命”では...そうした意識レベルでの、大きな変

が起こると考えています。生命潮流は、今後、意識レベルでのへ進化へ切り込んで行

くのかも知れませんねえ...

  私たちは、“形的態な異質生命体”にこだわって探索しているわけですが...“意識

/認識レベル”での“異質生命体”の探索となると、まだ見当もつきませんねえ...」

「はい...

  私たちは...“善”を追い求めれば、必然的に相反する“悪”の概念が...その影と

して顕在化して来ますわ...私たちは文明の次のステージでは、こうした二元論的矛盾

を超えることができるのでしょうか...?」

「さて...意識レベルで、どのような変容が起こるのかは分かりません...

  ともかく、文明カオス名詞を与え、“言語的亜空間座標”で、それをダイナミッ

クに動的に構造化してきました...生命体の姿というものも、そうした“カオスの人間的

釈という視点”から、再度考察することも、必要なのかも知れませんねえ...今後の

課題としては...」

「うーん...」アンが、腕組みをし、頭を傾げ、高杉を見た。「それは、科学的な客観性

超えた問題という事ですね...科学的探求ではありませんわ...」

「その通りです...

  しかし、科学/・・・客観性と言いますが...真の意味での客観性などというものは、

この世のどこにも存在しません。“この世の全てのもの”は、主体性/一人称の、“認識

の鏡”に映し出された二次的な客観性です」

「それは、そうですが...」

“物の領域”“心の領域”が統合されて行く時代には、実際にこうした基本的スタンス

が、大問題として浮上してくるわけです」

「はい...科学と哲学の融合になりますね...

  その矛盾を解決するのが...これまでは、“神”でよかったのですが...科学的な解

では、“相補的解釈”や、“不確定性原理”や、“量子もつれ”ということになるのでしょ

うか...?」

「あるいは...そうかも知れないということです...

  このHP(ホームページ)は、形式にとらわれずに、そうした問題を自由に考察する場所で

す。アンにも、科学者というスタンスにとらわれずに考察して欲しいですね、」

「でも、私はそうした哲学的な考察には、慣れていませんわ...」

「いや、どうして、大したものです...ともかく、間違っていてもいいわけです。新しい概

念を、自分自身の頭で考察してみることです...」

「現在の、膨大な論理的な矛盾の向こうに...自然界が厳然として存在しているのは分

かりますわ...修正が必要なのは、理論の方です...相対性理論も、量子力学も、」

「その通りです...

  まさに...“過不足のないリアリティーの世界”...“真実の結晶世界の人間原理スト

ーリイ”...その新しい解釈というものが必要になって来るでしょう。それが、“物の領域”

“心の領域”の統合であり、“人類文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代にな

ります...」

「はい...」

〔極楽浄土〕というのは...

  “大自然の摂理”“神の超越世界”との、狭間に位置しているのでしょう...その狭

間に、喜怒哀楽という豊かな感情のあふれる世界”が展開しているのでしょう。そこに

住み、充足した人生を歩むのが、いわゆる〔極楽浄土〕なのです...それが、人間にと

って、一番幸せな姿なのでしょう...」

〔人間の巣〕は、そのための、〔未来型社会の器〕という事ですね...?」

「その通りです!」高杉が、ニッコリと笑った。「当然、そこにも苦楽はありますが、戦争

大量破壊兵器は必要ありません。必要なのは、人としての修行と、存在の覚醒です。

  それを求めて、人類文明は...“農耕・文明の曙”から、“エネルギー・産業革命”を経

て、第3ステージ“意識・情報革命”の時代に突入しています。この第3ステージも、奥

へ踏み込んで行けば、私たちの想像を絶した世界が展開して行くことになります。その

過程で、私たちの時間認識空間認識が変容して行くのかも知れません...

  つまり、【人間原理空間・ストーリイ】の変容です...それが起こるのは、1000年も

の話かもしれませんがね...」

「でも...そうした未来が、確実にやってくるのも事実ですわ。1000年と言えば、それ

ほどの遠い未来ではありませんわ...」

「まあ、その頃まで、人類文明が繁栄していればの話です...」

 

「ええと、高杉さん...」アン、眼鏡を手で押し上げた。「話を戻しましょう...

  先ほども言った...人の致死量の1000倍のガンマに耐える、放射線耐性菌も見

つかっているわけですね...生命というものも、全体構造を含めたゲシュタルトで眺める

と、別の面が見えてくるのかも知れませんわ...」

「そうですねえ...しかし、また脱線しますから、ゲシュタルトの概念は、別の機会にしま

しょう。

  ともかく...微生物“適応/しぶとさ”にも、おのずと限界というものがあります。私

たちの知っている普通の生命体では...“環境に液体の水があること”...が、1つの

カギになっているようですねえ...

  チリ北部/アタカマ砂漠などでは、極度に乾燥しているために、普通の生命体の痕跡

は全く見られないと言います...」

  高杉が、やや冷めたコーヒーを、ゆっくりと飲んだ。それを見て、アンもコーヒーカップを

口に運んだ。

「それから...」高杉が、コーヒーをもう一口飲んだ。「水の沸点を超える温度でも、生存

できる微生物というのもいます。しかし、それも、130℃が限度です...

  逆に言うと...130℃以上の環境で生息している微生物は、今のところ見つかって

いません...この130℃以上の水温というのは、例えば、海底火山の付近などに存在

するわけですね。

  溶岩が噴出している火口付近の海水は、非常に高温になっています。そうした所で

も、130℃以上の環境で、生息している生物は存在しないようですね、」

「そこが...1つの狙い目になるのかしら...?」

“異質生命体”なら...こうした限界をクリアしている可能性があります。もし、そんな生

物がいたら、慎重に調べてみる必要があるでしょう」

「そうですね...」アンがうなづいた。「普通の生物の、限界を超える極限環境下で...

地殻と海水と大気圏の中で...炭素循環といった生物活動の痕跡が見つかれば、“異

質生命体”が存在する証拠になりますね、」

「うーむ...その可能性は、高くなるでしょうねえ...

  “地殻の深い領域/・・・特に海洋地殻の生物圏”や、“大気圏上層部”...それから

先ほど言った、金属毒物放射線などで、“極度に汚染された場所”などが...とり

あえず候補に挙がりますね」

「はい...」

地殻の深い領域と言っても、通常の大深度地下では...どうなのでしょうか...そん

なに深くない所でも、微生物は非常に希薄になって行くと聞いています。しかし、深海底

“海洋地殻”には、生物圏が存在することはほぼ間違いないといわれます。

  この“海洋地殻”に、地球上の微生物の6割が存在する、と推定する研究者もいます

ねえ...」

「うーん...」アンがうなづいた。「そんな話を、どこかで聞いたか、何かの雑誌で読んだ

ことがありますわ...

  でも、こうした極限環境からサンプル採取を試みる代わりに...実験室で、こうした

限環境を作り出す方法もあるわけですね...温度湿度などの条件を変えて...」

「そうですね...人工的なバイオスフィア(生物圏)を作るのとは、逆の方法です...

  そうした管理された極限環境で、もし生物活動が観測されれば、〔シャドウ・バイオス

フィア/影の生物圏〕が存在する、サインとなるかも知れません...例の、人の致死量

の1000倍のガンマ線耐性を示す、放射線耐性菌の場合がそうですね。あれは、たまた

ま、食品などの殺菌の実験中に見つかったということですが...」

「そうですね...

  この放射線耐性菌は、残念ながら、“異質生命体”ではないことが確認されています。

確かに、非常に異質ですが、普通の生物と同じような遺伝子を持っているという事です

わ...ただ...どうなのでしょうか...

  “異質生命体”に、どのような切り口で、アプローチするかという事もありますわ...前

にも言いましたように、私たちはこれまで、“異質生命体”を全て見逃してきているのかも

知れませんわ...」

「そういうことですねえ...

  フィルターを変えれば、別の風景が浮かび上がってくるものです。これまでの既定の概

で、“異質生命体”を分離しようとすると、全てを見逃してしまうことになるかも知れませ

ん。

  ともかく...もし、“異質生命体”候補が見つかったとしたら、それこそビッグ・ニュー

でしょう」

「そうですね、」アンがうなづいた。

 

<深海掘削船/ちきゅう・・・・・>

                  

「ええと...」アンが、モニターに目を移した。「高杉さん...

  一般的な生物圏/生態系から...“完全に孤立しているように見える生態系”も、いく

つか特定されていますね...例えば、“海洋地殻”です。光や酸素から隔絶し、かつ

の生物が作り出す有機物からも隔絶した場所...深海底の地殻などに、そうした膨大

な生態系があるようですね、」

「うーむ...そうらしいですねえ...

  大深度地下というのは、人類にとっては未知の領域です。地震波などで探索は進んで

いますが、それはガリレオの望遠鏡程度のものでしょう。ボーリング調査も、ほんの表面

近に穴をあけているにすぎません。

  特に最近問題になっているのが、深海底の地下です。プレートの沈み込みによる地震

や、メタンハイドレートなどで注目を集めています。それから、“海洋地殻”未知の生

物圏ですね。そこに、“地球上の微生物の約6割が存在する”、と推定する研究者もいる

ようですねえ...

  そうした場所で、生物が生息できるというのは...“化学反応”や、“放射性崩壊反

応”などによって放出された...水素二酸化炭素、あるいは熱量などを...成長

に利用していると考えられています」

高圧下で、熱いということはないのかしら?」

「確かに...

  マントル地球コアは、重力圧力のために高温ですが、地殻ではそれほどでもないよ

うです。それに、深海底下にあるメタンハイドレートは、“大量のメタンを内包した氷”

ね、」

「あ、そうですね...深海底というのは、安定した低温ですね...」

「そうです...

  メタンハイドレートは、周囲の温度が氷点よりも数度上がるだけで不安定になります。

水深500m相当圧力より低くなった場合も、不安定になりますが...“深海地殻”とは、

そうした高圧下低温の、安定世界なのでしょう。海底火山なども、“海洋地殻”熱源

になりますね。

  しかし、残念ながら、こうした隔絶した生態系で発見される微生物も、現在までのとこ

ろ、“地表付近に生息する微生物の近縁種”だということです...まあ、これもまた、ごく

自然な流れということになりますか...

  濃密地表付近の生態系というものが、存在するわけです。まず、考えられるのは、

そことの関係性でしょう...ただし40億年近い、地球生命進化の歴史が...深海底下

の地殻で、我々の想像を絶する営みをしている可能性もあります...」

「未知の、地球生命進化の歴史が、解き明かされることになるかも知れませんね...」

「そう言われていますね...

  地球表面も、雪ダルマのような全球凍結の風景から、温暖な恐竜時代のような風景

で、様々な様相がありました。地殻深部では、高圧安定した環境下で、どのような

成時間の流れ...分子進化があったのでしょうか...」

「そうですね...」

「しかし、まあ...

  現在までの所は、“異質生命体”と呼べるようなものは、見つかっていないようです。お

そらく、“海洋地殻”に生息しているのは、常識的には微生物と思われますが、未知の形

態の生物や、“異質生命体”というのも考えられます...

  “生命が、自然法則に書き込まれていて、非常に発生しやすいもの”なら...初期の

地球の記憶が、そうした低温の安定した環境下で、生き残っている可能性があります」

「はい...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。「地球深部の、生物学的調査は、まさに始

まったばかりですね...これから、驚くような発見が、続々と出てくることが予想されてい

ますわ...」

 

「うーむ...」高杉が椅子の背に体を起こし、腹の上で手を組んだ。「そうですねえ...

  “統合国際・深海掘削計画/IODP”では...新鋭の、“深海掘削船ちきゅう”

が運航を開始しています。これは、洋科学技術センター(神奈川県/横須賀市)が建造したも

のですね...

  水深4000メートルの海底にパイプを降ろし、海底下7000メートルまで掘り抜くことを

目指しています」

「はい...」アンが、明るい顔でうなづいた。「ニュースでも、報道されていますね...」

「順調にいけば...」高杉が、膝の上に脚を組み上げた。「最終的には、マントルへの到

になるわけです...

  地表では、火山から熱い溶岩が噴き出していますが、これはあくまでも地殻活動の話

になります。人類文明による、地球深部のマントルへの到達するとなると、木星土星

到達するよりも、はるかに難しかったわけですねえ...」

「そういうことになりますね...」アンが、膝に飛び乗ったミケの頭を撫でた。「深海底

は、地殻が薄くなっているのですね...それで、7000メートルも掘削すれば、マントル

へ到達することが可能なわけですね...」

「そうらしいですね...

  しかし、それでも、富士山(3776m)の2倍ほども、海底を掘削するわけです...しかし、

それで地殻を貫いて、マントル対流の最上部に到達するわけですねえ。地殻とマントル

の境界/ホモを、貫くことになるわけです。

  安全性も含め、越えなければならない課題も多くあるのだと思います。しかし、いよい

よ、地殻の最深部が明らかになってくるわけですねえ。そして、マントルを直接観測する

ことができるようになるわけです」

「はい、」

「まあ、地球深部の直接観測の、最初の入り口ということでしょう...ともかく、そこから

“新しい地球科学”が始まりそうです」

「はい。私たちの地球の深部に、どんな世界が広がっているのか、少しづつ明らかになっ

てくると思いますわ、」

 

「ええと...」高杉が、組み上げている脚を下におろした。「この、“深海掘削船ちきゅ

う”について、もう少し詳しく話ましょう...」

「はい、」

「この船は、日本が中心となり...その他の諸国共同運行する、

洋科学技術センターが建造しました...2002年1月18日に、三井造船玉野ドックで進

水し、2006年から運航しているようです。

  これまで、アメリカが中心となって運航していた...“掘削船/JOIDESレゾリューショ

/ライザーレス掘削型”は...1本の長いパイプで、海底下を素掘りしていました...

これに対し、最新鋭船深海掘削船ちきゅう”は、ライザー掘削型”です。

  ライザー掘削型”というのは...船底から海底までの海水中に、2重管(/外管を

“ライザー”という)を設置して...防噴装置を付け...どのような構造組成の海底

も、深くまで掘り進めることができると言われます...

  文部科学省の資料によれば...この深海掘削船ちきゅう”の目的は...


掘削試料を痛めず回収し、様々なタイムスケールの地球環境変動を「精密

  に」復元すること


日本海溝や南海トラフなどの沈み込み帯上面の地震発生域を掘削して地

  震断層の有様や応力分布などを解明して地震予知に貢献すること(掘削

  孔は海底ステーションとして永年利用する)


海底深部に存在する特殊なバクテリアなどから地球生命の起源を探るとと

  もに、海底下の水やメタンの循環と不遜を明らかにし「地球進化の」道筋を

  たどるなどである。

       詳しくは、こちらをご覧ください・・・(文部科学省/地球深部探査船に関する取組みについて)   

 

  ...という事ですね。当面は、水深2500mまで可動可能ということです。十分経験を

積んだ後、水深4000mへ、拡張する能力を有しています。最終的には海底を6000m

以上掘削し、地殻とマントルの境界(モホ)を貫くのことを大目標としています...」

「はい...

  ええ...“深海掘削船ちきゅう”掘削孔は、“海底ステーション”として、永年利

するという事ですね、」

「そですねえ...詳しいことは、上記の文部科学省のホームページを見て欲しいと思い

ます」

「はい、」

  〔5〕 私たちのすぐ隣に、               

           異質生命体がいる可能性も・・・

              wpe8.jpg (26336 バイト)

「さて...」高杉が、シャツの腕をまくり上げた。「そもそも...

  “異質生命体”というのは、これまで考察してきた“海洋地殻”などの、孤立した生態系

で探すよりも...まず、私たちの周囲の身近な所で探索してみるのも、1つの方法でしょ

う。いずれにしても、こうした身近な領域に関しても、しっかりと調査しておく必要がありま

す」

「でも...」アンが、大きく肩を傾げた。「私たちの身近に、“異質生命体”が紛れ込んで

いるとなると...実際に、それを特定するのは、意外と難しいものですわ...

  土壌の中には、膨大な微生物世界が存在します。その、微生物サイズ“異質生命

体”だとすると...そうしたものを通常の検査法で見つけ出すのは、先ほども言ったよう

に、非常に困難だということですわ。

  まず、形状からですと、そうした微生物は、ほとんどが小さな球状や、小さな棒状

す。こうした外見上からでは、何も分かりませんわ」

「うーむ、そういうことですねえ...

  したがって...やはり、生化学的な特徴を手掛かりに、広く探索するという方法がい

いでしょう。そこで、“異質生命体”には、“普通の生物とは異なる、どのような化学反応”

があるかということです。それを推測し、その証拠を、探すことから始めればいいわけで

す」

「でも...それも、簡単なことではないですわ...」

「まあ、しかし、その辺りから、手をつけて行くということでしょう」

「はい...」アンがうなづいた。「いずれにしても、こうした探索は必要です。私たちの

態系というものを、より深く知るという意味においても。また、全体レベルを押し上げて行

くということにおいても、」

「その通りです」

 

鏡像異性体キラリティ・・・ 鏡像生物の存在は・・・?>

                

「そうした意味で...」高杉が言った。「まず、最初に候補に上がるのが、“鏡像異性体

キラリティでしょう...これは、アンの方が詳しいので、まず簡単に説明してもらえま

すか、」

「あ、はい...

  キラリティ(chirality) というのは...3次元の図形や、物体や、現象が...その

像と重ね合わすことができない性質のことです...キラリティがあることを、キラル(chir

al) といいます。英語の発音だと、カイラリティ・・・カイラルになりますね、」

「うーむ...キラリティの話をすると長くなりますね...

  まず、それを簡単に説明しておきましょう...つまり、物体には...鏡に映した像/

鏡像が、元の像/実像と...“重なり合うもの”“重なり合わないもの”があるわけです

ね...キラリティというのは、実像鏡像“重なり合わないもの”のことです...

  話がややこしいですのが、ちょうど右手左手がそれに相当します...手を合わせれ

ば、両手は重なり合いますが、実際には右手左手は違うものだということです。鏡に映

した掌と、実際の掌を比べてみれば、一目瞭然です。親指と小指の位置は逆になってい

て、明らかに違うものですね。

  このことを頭に入れて、DNA二重螺旋構造を見てみましょう。DNAは、右手型/右

回りの二重螺旋のものしか存在しません。左手型/左回りの二重螺旋DNAというも

のは、普通の生物体では観測されていません...

  つまり、自然界の生物では、DNAの重螺旋右手型/右回りの螺旋であり、左手

型/左回りの二重螺旋というものは、1例も存在しません...そういうことで、いいわけ

ですね?」

「はい...」アンがうなづき、眼鏡を押し上げた。「そうですね...

  もし、左手型/左回りの二重螺旋DNAが観測されたら、それは“鏡像異性体という

ことになります...つまり“鏡像異性体”というのは、こうした右手型左手型のような違

いの生物体のことです。これまでの私たちの知っている、“ルールに違反している”“鏡

像生物体”ということになります...」

「そうした、“鏡像異性体”というのは...生物学的に可能だということですね?」

可能かどうかは断定できません...ただ、私たちの知識では、可能だろうということで

す。右回りの二重螺旋と、左回りの二重螺旋に、実質的な違いはあるのでしょうか...

つまり、そういう領域の問題です...」

「うーむ...」

「これは...くり返しますが...

  原子の種類は、同じであっても...“幾何学的配置が互いに異なる生体分子”

いうものが、問題になるわけですね...生体分子では、“鏡像異性体を持つものが多

いのです」

生体分子というのは、アミノ酸や、タンパク質や、糖鎖などの、生物体を構成する分子

のことですね」

「そうです...自然界に存在する、普通の生物/これまで観測されている全生物が、実

際に使っているのは...何故か、どちらか一方だけなのです...これは、厳然と存在す

るルールになっています」

「そこが、不思議な所ですねえ...」

「はい...何故なのかは、現代文明では分かっていません」

「大気中のCOでも...生物由来/化石燃料由来のものには...何故か、C12がの

比率が高いようですね、C13よりも...こうしたことも、何故なのかは、私たちには、謎

なわけですね?」

「それは、多分...光合成由来の、軽い炭素ということかも知れませんわ」

「ああ...なるほど...そういうことになるわけですか...」

「でも、確かなことは分かりませんわ。生物由来というと、そういうことになりますけど、」

「うーむ...聞いてみるものですねえ...」

「ええと...基本的な問題ですので、もう少し詳しく説明しましょうか?」

「そうですね、」

「はい...

  生体分子では、“鏡像異性体を持つものが多いと言いましたが...例えばタンパク

がそうですね。タンパク質を構成するアミノ酸は、生物体では左手型で統一されていま

す。ところが、おなじ生体分子であっても、右手型なのです。

  DNAは、高杉さんが言われたように、右手型のものしか観測されていません。こうし

たことは、全生物体で共通しています。例外は、ただの1例も見つかっていないのです。

もし見つかれば、“鏡像異性体”の発見ということになります...」

「紛れは...ただの1例もない...ということですね?」

「はい...」アンがうなづいた。「これは、非常に厳格なルールになっています...

  でも、それが、何故なのかは分かっていません。ただ、自然界のルールで、そうなって

いるのです。自然界のルールというのは、絶対的ですわ...もし間違っていても、それ

は間違いとは言わないのです。それが現実の姿であり、それが、正しい姿だということで

すわ。

  例え、私たちの頭脳数式が間違いを起こしても、自然界のルールは間違いを起こし

ません。何故なら、それが原本/根本だからです...“この世”で、過不足のないリアリ

ティーだからです...これは、高杉さんには、“仏の耳に念仏”ですね...」

「いや...私も、それほど深く理解しているわけではありません...誰も、全てを理解し

ている者などはいないのです」

「うーん...御仏も、でしょうか?」

「多分...生身の釈尊が理解したのは...全ての真理ではありません。自らの存在を

覚醒したのです...それが、“悟り/覚醒”ということです...」

「はい...」

「アン...そのルールというのは、変えられないのですか?」

「うーん...

  生命進化の源流まで遡り、最初からやり直すのなら...あるいは、右手型のタンパク

や、左手型のDNAというのは、あり得るのかも知れませんね...原初の、生命進化

の分水嶺で...そうした選択がなされれば、ということですね...

  “鏡像異性体というのは、そんな自然界のルールの、ほころびを探し出すようなもの

かも知れません...でも、原初の分水嶺で、反対側の山の斜面にも、雨水が流れ下っ

ていたのなら...そうした生命も、しぶとく生き残っている可能性があります。それが、

私たちの探している、“鏡像異性体なのかも知れません...」

「そうした、それこそ無数の可能性の1つが...つまり、異質生命体”の探索というわ

けですね...

  現在の炭素型/DNA型の生命体が...地球生命圏で、圧倒的優勢になっているの

は確かですが...それ以外の可能性が、完全に否定されたわけではないですね。むし

ろ、1種類というのは...多様性の意味からも、奇異な風景と言えるのかも知れません

ねえ...」

「でも...原本/根本奇異な風景だというのなら...私たちは、それに従わざるを得

ませんわ。“この世”の存在そのものが、そもそも、非常に奇異なものではないかしら?」

「うーむ...」高杉が、うなづいた。「その通りですねえ...

  主体の観察において...リアリティーでは、局所原因というのは否定されているわけ

です...因果律もまた、ほころびが見え始めているわけですねえ...それだけ、アンの

言う、原本/根本に接近しているのでしょう...」

「はい...」

「では、そもそも...

  “主体性の鏡”に映し出されている...原本/根本とは何なのでしょうか...それに

しても、根源的な矛盾は、人類文明が構築してきた、“言語的・亜空間座標”の、記述の

仕方にあるのかも知れませんねえ...

  文明の第3ステージ/意識・情報革命”の時代には...この“言語的・亜空間座標”

の、変容があるのかも知れませんね...」

「うーん...どのようにでしょうか?」

ホモサピエンスの脳の、莫大な未使用領域が、使われるのかも知れません...

  “外適応”による進化だとすると...その可能性が一番高いことになります。5感(視・

聴・嗅・味・触)を超えた、第6感のようなものが、確実性を増せば...“言語的・亜空間座標”

の変容が起こります。第6感という直接的知識が、また1歩、リアリティーに接近するとい

うことです...

  相性の良くない“量子論”と、“一般相対性理論”の統合が...理論物理学者を、長年

苦しめてきましたが...座標系の変容/新しい座標系の出現によって、あっさりと統合

されるかも知れませんねえ...

  それとも、座標系の変容の時点で...“量子論”“一般相対性理論”は、またして

も、古典的物理学として、本棚に納められるのかも知れません...いずれにしても、“物

の領域”“心の領域”の統合が、いよいよ文明的な課題として、俎上に上がって来てい

ます」

ニュートン力学のように、古典的になってしまうのでしょうか...」アンが、口に手を当て

た。「その...“文明の第3ステージ”は、確実にやってくるのでしょうか?」

人類文明が存続して行けば、それは確実にやって来ます...

  そして、デカルトが分割した、“物の領域”“心の領域”の統合が、文明的な大課題

なって来るでしょう。“物の領域”“心の領域”は、“表裏一体/影と実体”のようにくっつ

いたものですが...“言語的・亜空間座標”では、どうにも統合が難しいわけですねえ」

文明の第3ステージ”では...それが、明らかにされて行くと...?」

「そうです...

  まあ現在は...“20世紀の残滓/覇権競争”で忙しいようですが、いずれ未曾有の

パラダイムシフトが起こるでしょう。“文明の折り返し”です...これに成功しなければ、

人類文明“種の大量絶滅”を引き起こすことになります...」

「はい...

  古生代の終わり/ペルム紀の終末や...中生代の終わり/白亜紀終末/恐竜の絶

のような...生態系の大事変が起こるということですね。そうなれば、異質生命体”

の探索どころではなくなりますわ」

「うーむ...そういうことですねえ...」

 

微生物の驚異的な適応能力・・・>

         wpe8.jpg (26336 バイト)          

「ええと...」アンが、モニターの方に目を流した。「話を戻しましょう...

  ともかく...生体分子において...“鏡像異性体も、化学的性質というのは同じな

のです...生物体を介さないで、化学合成で作った場合には...右手型左手型の分

子は、半分づつに分かれてできます。

  でも、生物体では...ここで生物体に組み込む素材を、“偶然”かどうかは知りません

が、キッチリと右左と選別したのです。量子論的確率で、多様な姿というわけにはいか

なかったわけですね。

  進化/構造化のフィールドで、圧倒的優勢を占め、淘汰が起こったのかも知れません

わ。おそらく、36憶年の生命進化の中でも、ここで作成したルールは変わらなかったの

だと思います...」

「うーむ...

  分水嶺の雨水が、山の斜面を東か西かを選択し、谷川を削り、大渓谷を形成し、巨大

地球生命圏/生命進化の奔流を創り出したということですねえ...その、まさに、分水

において、右手型左手型は、しっかりと選択されたということですか...」

「はい...そうですね...

  右手型タンパク質であっても、左手型DNAであっても...私たちの理解する限り

においては...なんら問題はないはずですわ。でも、その右手型左手型の、混在はな

いということです」

「うーむ...」

「仮に...

  こうした、“鏡像異性体化学物質からなる...“鏡像生物”というものが存在した場

合ですが...普通の生物とは、遺伝子交換ができません。DNAが、逆回りの二重螺旋

になっているからです。

  また同じように、“鏡像生物”が、普通の生物捕食しても、消化することはできないと

言われています。幾何学的に、分子構造が逆に折りたたまれているからです。つまり、

“鏡像生物”普通の生物は、競合することも交雑することも、無いだろうと言われます」

競合はないわけですか...そうなると、難しいですねえ...」

「...と...」アンが、ニッコリと笑った。「考えられていますわ...でも...“鏡像生物”

ならば、ごく簡単な実験で、それを判別できます...」

「ふむ...」高杉が、頭をかしげた。

 

「ええ...」アンが、横目でモニターを見ながら言った。「“標準的な培養液”というのは、

様々な栄養分子が含まれています...これらを、全て“鏡像体にした培養液”を作れば

いいのです...

  この“鏡像栄養分子”は、普通の生物には利用できませんね...でも、“鏡像生物”

らば、利用可能なのです...つまり、それで“鏡像生物”を判別できるのです...」

「なるほど...」高杉が、顎を撫でた。「これは、簡単ですねえ...」

「はい...実は最近、こうした実験が試みられているのです...

  NASA(米航空宇宙局)/マーシャル宇宙飛行センターの、リチャード・フーバーエレナ・

ピクータのやった実験です。彼等は、強アルカリ湖などの極限環境から、新たに見つけ

た様々な微生物を、この“鏡像培養液”培養してみたそうですわ、」

「ほう、」高杉が、手を止めた。

「その結果...」アンが、高杉の顔をうかがうように、微笑した。「この“鏡像培地”でも、

成長する微生物が、存在したのですわ!」

「?...」高杉が、アンを見つめた。

「それは...」アンが、目を細め、顎を上げた。「アメリカ/カリフォルニア州の、アルカリ

湖の堆積物にいた、微生物だということです。でも、残念ながら...この微生物は、“鏡

像生物”ではありませんでした...」

「何故?」

「この微生物は...驚いたことに...アミノ酸“鏡像異性体”を...化学的に変

して、消化できる形にしていたのです...つまり、この微生物“驚異的な適応能力”

だったのですわ...」

「なんと...それもまた、すごい微生物ですねえ...」

「はい...」アンが、自ら興奮してうなづいた。「“驚異的な適応能力”を備えた...普通

タイプ微生物ということですわ...本当に、生物というのは、私たちを驚かせます!」

「うーむ...生物界には、私たちの想像を絶する事態が、まだまだ存在するということで

すねえ、」

「はい...

  彼等が調べたのは、微生物界のほんの1部にすぎません。したがって、この方法を駆

使すれば、さらに奇妙な普通タイプの微生物が、見つかるかも知れません。そして、もち

ろん、標的“鏡像/微生物”も...」

「つまり...

  このことは...“異質生命体”の、見つけ方/その手法というものが...非常に大事

なことを教えていますねえ...これまでの、普通の観察方法では、実際には、両手から

全てがこぼれ落ちていたのかも知れませんねえ...」

「はい...そこが、難しい所です...」

「うーむ...

  想像を絶する、“驚異的な適応能力を持つ微生物”が、私たちの身近に、非常に多く

するのかも知れませんね...まだ、それが試されていないだけで...」

「そうですね...」アンが、頭をかしげた。「でも...

  その中で最大のものは...私たち/現世人類/ホモサピエンスではないでしょうか。

高杉さんの言われるように、膨大な“言語的・亜空間世界”構造化し、そこに巨大な文

明社会を形成しています...

  この“人間的・亜空間/人間的・認識空間”は、“ホモサピエンスに特有の認識世界”

ということですね...?」

「まあ...」高杉が、顎に手を当てた。「そうですねえ...私たちが、異なる種の“共同

意識体”をのぞけないように...ホモサピエンス“言語的・亜空間世界”というものも、

異なる種からはのぞくことができないでしょう...

  例えば、イワシの群れが、どのようにしてシンクロナイズして泳ぐのか、また、いかに

の防衛がなされるのか...それを観察することはできますが、意識の内部にまでは、入

れないということです」

「でも...精神感応のようなものは、どうなのかしら...それで、直接的につながること

は...?」

「うーむ...難しい話になりますねえ...

  まあ、先ほども言ったように、知識というものには...5感(視・聴・嗅・味・触)由来の/直

接的知識と...言語論理数式などで形成される、シンボル的/文化的/間接的知

とがあるわけです。

  人類文明を構築している、“言語的・亜空間世界”というのは、主として、シンボル的

/文化的/間接的知識の方なのです...これが、“言語的・亜空間世界”に、論理

空認識や、歴史ストーリイとして蓄積されてきたのです。

  この、“言語・シンボル的に形成する領域”には、ホモサピエンス特有バーチャル空

ですので、他の生物種は入って来れないのです。また、私たちホモサピエンスも、この

広大な文明空間に参加するために、言語を覚え、文字を覚え、教育システムに参加して

行くわけです。

  つまり、文明というのは、人類の努力によって形成され、維持されている、高度な“言

語的・亜空間世界”なのです。その“バーチャル空間”は、リアリティーの影のように振る

舞い、張り付いていて、相互作用します...まあ、それが行き過ぎてしまったのが、“地

球温暖化”なのです...

  しかし、ホモサピエンスの種から離れてしまえば...基本ソフトとしての5感世界も変

わってしまいます。犬の嗅覚世界や、コウモリのレーダー能力世界とは、そもそも基本ソ

フトが違っているということです...」

「でも...生態系の、同じものを見ていますわ...

  違った角度から、同じリアリティー世界を見ています...私たちが可視光線で見てい

る映像だけが、真実の姿ではありませんね...宇宙空間も、様々な波長の電磁波で観

察すると、それぞれに違った姿を現します...

  そこで...5感ではなく、良く言われるところの、第6感のようなものはどうかしら?」

「ま...重なる部分はあるでしょうねえ...

  理解という点では...が異なっていても、生命体として“36億年の彼”リンクし、

平等な関係にあると考えられます...まあ、実際の所...この方面の私の考察は、こ

れ以上は進んでいません。

  しかし、まさに今、“文明の第3ステージ/意識/情報革命”が開花しようとしています

ねえ...この話は、そちらの方へ譲ることにしましょう。もちろん、私も考察して行きます

が、私の手には余る、壮大なパラダイムの話になります」

「はい...」アンが、小さくうなづいた。「本当に、ご苦労様ですわ...私にも、協力でき

ることがあるでしょうか?」

「その時は、」高杉が、ニッコリと笑った。「もちろん、お願いします」

「はい、」アンがまばたきした。

「まあ...アンの言うように...

  最大の謎は、ホモサピエンスの、存在自体かも知れませんね...その中でも、“この

私/・・・主体性の発現”...それ自体が、最大の謎でしょう...こうした謎は、深まる

ばかりです...まさに、“意識/情報革命の時代”が、大接近していますねえ...」

「はい...」アンが、手を伸ばし、椅子の下に来ているミケの頭を撫でた。

アミノ酸塩基の種類が違う・・・ 異質生命体の可能性は?> 

                wpe8.jpg (26336 バイト)

「さて...」高杉が、モニターに目を移した。「話を進めましょう...

  次に...“塩基やアミノ酸の種類が異なる/・・・異質生命体”...というのも、考えら

れるようですが...これは、どういうものなのですか?」

「ええ...言葉の通りですわ...

  DNAの構成要素である、“塩基の種類が違っている生物体”の可能性です...ある

いは、タンパク質の構成要素である、“アミノ酸の種類が違っている生物体”という可能

性もあります...」

「ふーむ...」高杉が、脚を組み上げた。

「つまり...

  普通の生物では...遺伝情報を記述する文字として、(アデニン)(シトシン)(グアニ

ン)(チミン)、という4種類の塩基を使っています。これ以外の塩基を使っている場合は、

“異質生命体”と言うことになります。

  また、少数の例外はありますが...細胞内の働き手である、タンパク質を構成するア

ミノ酸は、20種類のうちのどれかです。これ以外のタンパク質を使っている場合は、これ

も、とりあえず、“異質生命体”と言うことですわ...」

「ふむ...」高杉がうなづいた。「そういう、ルール違反の生物体は、まだ見つかっていな

いということですね?」

「そうですね...

  ご存知のように...遺伝暗号は、3個の塩基の組み合わせが基本です。この塩基の

組み合わせ/塩基・文字によって、まずアミノ酸が決定されます。それから、DNAの中

に並んだこの塩基・によって、アミノ酸の配列も定まり、これらが数珠つなぎになっ

て、特定のタンパク質が決定されるわけですね...

  ても、化学的には生物体が利用していない様々なアミノ酸というのも、合成なの

です...つまり、ここに、20種類以外のアミノ酸を使っている...“異質生命体”の可能

性が出て来るのです」

「何故、その20種類に限定しているのか...本当に、そうなのかということですね?」

「はい...

  1969年に...オーストラリアに落下した、マーチソン隕石というのがあります。これ

彗星の断片のようですが...この隕石には、普通の生物が使っているアミノ酸の他

に、“イソバリン”“シュードロイシン”というような、見慣れないアミノ酸もあったというこ

とです」

「ふーむ...

  彗星に、そんなものがあるというのは不思議ですねえ...しかしこれは、宇宙技術

進めば、彗星の直接探査という手段も開けてくるでしょう...しかし、その辺りは、まだ

謎が多いですね。まだまだ、未知の領域ということになりますか、」

「はい...」アンがうなづいた。「マーチソン隕石アミノ酸が...どのように形成された

のかは、現在のところはっきりとしていませんわ...でも、多くの研究者は、“生物由来

のものではないようだ...”としているようです...詳しいデータは、ありませんが...」

「うーむ...

  まあそれも...太陽系空間全体の、総合的な版図というものが明確になってくれば、

その由来も分かってくるでしょう。将来的な楽しみの1つですね...もし逆に、生命由来

のものだとしたら、可能性の高いのは、地球生命圏由来のものということでしょう...」

「そうです...そして次に、外部からの侵入です...

  でも、事実は、どうなのかということですわ。太陽系近隣の恒星系にまで、人類文明

の版図が広がって行けば...いずれ、“異質生命体”というものも、かなり明確になって

来ると思います」

  ミケが、ヒョイと高杉の膝の上に跳び乗った。そして、高杉の手をペロリと嘗め、そこで

くつろぐ準備を始めた。

「うーむ...」高杉が、ミケの背中に手を置きながら言った。「そうですねえ...そういう

未来というものも...そう遠からず、やって来るわけですねえ...

  “生命体”“意識”というものは...そもそも、私たちが考えているものとは、およそ

かけ離れた存在だという可能性もあります...科学的探求というのは、複雑化して行く

わけですが...実は、その答えは、別の所にあるのかも知れませんねえ...私たちは

それを眺めるのに、ずいぶんと複雑な事をしているのかも知れません...」

“生命が、非常に発生しやすいもの”...かどうかというようなことではなく...この

宙と不可分の存在...という意味でしょうか?」

「ある意味では...」高杉が言った。「そういうことかも知れません...

  しかし、まあ、これは私たちの世代の仕事ではないですね...人類文明が、“大艱難

(だいかんなん)時代”を乗り切り...“文明の第3ステージ/意識・情報革命”が進展して

行けば...その時代の人々の仕事になります...」

「本当に、そうあって欲しいものですわ...」アンが言った。「ええと、話を戻します...

  つまり...20種類以外珍しいアミノ酸の中には...“異質生命体”に適していて、

こうしたものが、実際に取り入れられている可能性もあるということですね。

  こうした、見慣れないアミノ酸を用いている...“異質生命体”を見つけ出すには...

まず、そうしたアミノ酸を特定することですわ...どの生物にも使われていない、また

や、分解の副産物としても生じてこない...そうしたアミノ酸を特定することです...

  その上で...それらが微生物の周辺や、有機堆積物などに存在しているかどうかを

調べればいいわけです...例えば、“イソバリン”“シュードロイシン”といったような、

見慣れないアミノ酸が...実際に存在しているかどうかを、調べればいいわけですね」

「うーむ...そういうことですか、」

 

「ええと...」アンが、モニターをスクロールした。「この種の探索を絞り込むために...

  現在、急速に発展中の、合成生物学から、そのヒントを得ることができます。この研究

分野では、タンパク質に、20種類以外のアミノ酸を挿入しているようです...そうするこ

とによって、これまで存在していない、“改造生物”を創り出す実験が行われているようで

すわ...」

「うーむ...」高杉が、腕組みをした。「“改造生物”ですか...合成生物学ですか...」

「はい...この研究の先駆者...

  アメリカ/フロリダ州/ゲーンズビル/アプライド・モレキュラー・エボリューション財団

/スティーブ・ベンナーは...“α・メチルアミノ酸”と呼ばれる種類の分子が...キチン

とした折りたたみ構造を取ることから...人工生命構成要素として期待できる...と

指摘しているようですね...」

「ふーむ...“α・メチルアミノ酸”ですか...?」

「はい...

  これらの、“α・メチルアミノ酸と呼ばれる種類の分子”は、普通の生物体からは、発見

されていません...これで、“改造生物”ができるのかどうかは分かりませんが...」

「うーむ...だいぶ、話が具体的になって来ましたねえ、」

「ともかく...」アンが、両手をそろえた。「私たちは、新しい微生物が発見された時...

  “質量分析法”のような手法で...タンパク質の組成を調べ...その生物が含むアミ

ノ酸の種類を調べるのは、比較的容易です...そうした中に、明らかに変わっているも

が存在すれば...」

「もし、そうしたものが存在すれば...その微生物は、“異質生命体”候補として...

疑ってみる価値がある、ということですね?」

「そうです...」アンが、うなづいた。「これも、“異質生命体”を探し出す、“有力な手法”

の1つですわ」

「うーむ...」

  

  〔6〕 異質生命体の発見か・・・?    

      普通生命体/生きている化石/新種の発見か?

           wpe8.jpg (26336 バイト)

「ええ、さて...」アンが、椅子の背に体を起こし、顎をしぼった。「こうした、様々な手法を駆

使して...“異質生命体”有力候補を見つけ出したとして...それが、まぎれもない“異質

生命体”だと決定するには...様々に迷う ことになるだろうと言われています...」

「ふむ...」高杉が、大きく頭をかしげた。

「これは、実に、背景が大掛かりなことになるのです...

  具体的には、古細菌の例がありますわ。これは、1970年代 の後半に発見された新しい生

物のグループですね...現在では、全生物界は、真正細菌古細菌真核生物“3つのドメ

イン”に大きく分類されます。

  これは、以前の“5界分類”より、もっと上の分類体系になり、ドメインと呼ばれているわけで

す。1970年代 の後半なり、古細菌が発見されたわけですが...これは、単細胞生物であ

り、原生動物であり、しかも原核生物ですね。界のレベルでは、これまでに知られているバク

テリア(細菌)とは明らかに異なる生物グループです」

「うむ...

  アーキア(古細菌)バクテリア(細菌/原核生物)ユーカリア(真核生物)“3つのドメイン”に分か

れて進化を続けていますね...原核生物である細菌の世界では、30〜20億年前門のレ

ベルでの分岐が起きていますが...このあたりが、古細菌への枝分かれですか...?」

「そうですね...

  ともかく、古細菌系統樹の上で 見れば分かりますが、原初近くの所で大きく枝分かれし

ています...もちろん、古細菌“新しい生物グループ”です。“異質生命体”ではありません

わ。つまり、ごく最近になっても、このような例が、実際に起こっているということです」

「そうですねえ...」高杉が、顎に手を当てた。「古細菌の例がありましたね。今後も、こんな

ことになるのでしょうかねえ...」

「うーん...」アンが、楽しそうに首をかしげて見せた。「そうかも知れませんわ」

「そんな、ドメイン・レベル古細菌のグループが、1970年代の後半にもなって、ようやく見

つかったというわけです。本格的な探索が進めば、この生命圏の構造も、さらに揺れるかも知

れませんねえ、」

「はい...古細菌(archaea/アーキア)にってい、もう少し詳しく定義すると...

 正細菌が持たない、“sn−グリセロール−1−リン酸”の、“イソプレノイドエーテル”を含

んだ細胞膜を持つ...原核生物ということです。一般に、メタン菌高度好塩菌好熱好酸

超好熱菌などの、微生物が含まれますわ...」

「うむ...どいつも、面白い奴等ですねえ...」

「はい...

  ええと、それから...これは、ホットニュース(/2008年7月21日)なのですが...深海掘削

ちきゅう”調査研究チーム(/海洋研究開発機構・高知コア研究所・・・高知県南国市・・・とドイツ・ブレーメン

大学の合同チーム)で、“海底下が古細菌の楽園”であることを突き止めています。 従来は海底下

には真正細菌が多く、古細菌は少ないと見られていました。ところかこの調査で、古細菌が全

体の約9割を占め、大量に生息していることが分かったようです」

「それは、1カ所の調査ですか?」

「いえ...そうではないようです...

  ええと...下北半島沖や、紀伊半島沖カナダ沖ペルー沖太平洋と...ベネズエラ沖

大西洋...それから黒海なども調べています。世界16カ所で...最大で海底下約365メ

ートルまで掘削し、海底下の泥を調べたようですね...

  深海掘削船ちきゅう”は、黒海などへは入っていないと思いますから、そうした調査を

総合したものかしら...ともかく、今後の研究動向にも注目して行きたいと思います...」

「うーむ...海底下には、古細菌が多いのですか...これは、何を意味するのでしょうか?」

「それも、これからの重大な研究テーマになるのではないでしょうか...

  ともかく、1970年代の後半になって、古細菌という非常に古い生物グループが発見された

わけですね。でもこれは、普通の生物の系統樹に属する、生きている微生物化石のようなも

のです。

  カブトガニ(/約2億年前)シーラカンス(/約4億年前)という、私たちが知っている生きている化

よりもはるかに古いものです。シアノバクテリアストロマイト(/約35億年前)ほど古くはありま

せんから、その間に位置するものです...それの、ぐんと原初に近い所で...」

生物界は...」高杉が言った。「真性細菌古細菌真核生物“3つのドメイン”に大別さ

れるわけですが...最近、それらに寄生するウイルスの間に、ある共通性が見つかってきた

と言います」

「はい...」アンが、モニターから顔を上げ、高杉にうなづいた。

「つまり...どういうことかと言うと...

  このニュースは...ウイルスという奴等は...生物界が“3つのドメイン”に枝分かれした

約30億年前には、すでに地球上に出現していたと推測できるということです。古細菌というも

のも、その後で、進化系統樹の上で枝分かれして来たと考えられるわけです...」

「はい...」アンが、肘を立て手を組んだ。「古細菌は...そうした太古に枝分かれしたもの

ですが、“異質生命体”とは違うということですね...つまり、普通の一般的な進化系統樹

の中に、当然のように組み込まれたということですわ」

“異質生命体”だと...そこに、別の生物の系統樹が出現するということですか...?」

「はい...」アンがうなづいた。「そう簡単には...“異質生命体”だと決めてしまうわけには

いかないということです...そのニッチ(生態的地位、生息環境)に、これまでに存在しない別種の

生物の系統樹が創られるということです...これは、容易なことではありません...

  もし...新たに、古細菌のようなグループが発見されたとしても...それが、普通の生物

グループならば、これまでの進化系統樹の中に位置づけられます。でも、万一、“普通生物体

の新種の発見”ではなく、“異質生命体の発見”だとしたら...そこに、別の進化系統樹が競

していることになります。これは、かなり複雑なことになりますわ...

  私は専門家ではありませんから、そのあたりが、どのように競合するのかは分かりません。

例えば、“鏡像生物”などが存在した場合は...それが、純粋な意味で“異質生命体”なの

かということですね...」

「うーむ...

  ともかく、これまでは...この地球生命圏では、“異質生命体”は確認されていないというこ

とですね、」

「そうですね...もし発見されれば、最大級のビッグニュースになりますわ」

「うーむ...

  しかし...存在しないと決め込んでしまうわけにも、いかないわけですねえ...なにしろ、

不思議なことに...普通の生物体/我々自身が、これほど大繁栄しているわけですからね

え。我々の存在自体も、まさに、大不思議としてカウントしなければならないでしょう」

 

古細菌の例で...」アンが、モニターから顔を上げながら言った。「こういうことも、可能性と

して挙げられています...

  先ほど、遺伝暗号の話をしましたね...全生物に共通する遺伝暗号は、DNAの4種類

塩基/A(アデニン)(シトシン)(グアニン)(チミン)のうち、“3文字が1組”になって、“20種類

のアミノ酸”の、どれか1つを指していると...」

  高杉が、黙って、コクリとうなづいた。

「この遺伝暗号表は...

   致命的なエラーが生じにくいように、非常に精巧にできていますわ。でも、最初からこうだっ

たのではなく...自然淘汰の結果現在のような姿になったという...形跡が見られると言

われています。

  それ以前には...“塩基2文字が1組”となり、“10種類程度のアミノ酸”から、どれか1つ

を指定するという...原始的・遺伝暗号表が存在していた可能性があると指摘されていま

す。また、現在でも、塩基2文字の暗号表を使う、“原始的・生物”が存在する可能性は、十分

に考えられる、とも言われています」

「うーむ...単細胞生物には、寿命が無いと言いますからねえ...原初から存在している、

単細胞生物だと、まさに何があるか分かりませんねえ...」

「はい...

  でも...塩基2文字の暗号表を使う、“原始的・生物”がもし存在していたとしても、こうした

ものは“異質生命体”というよりは、“生きた化石”の範疇に入ります。もちろん、もし発見され

れば、ビッグニュースですわ...」

「なるほど、」

初期生物“生きた化石”としては...この他に、DNAの代わりに、RNA遺伝情報として

使っている生物が考えられています...」

「うーむ...そんな話は、どこかで聞いたことがありますね...」

  アンがうなずき、近くへ来たミケの腹を足ですくい上げた。ミケがそれにジャレつき、ヒョイと

アンの膝の上に跳び乗った。

  〔7〕 難しい判断       wpe8B.jpg (16795 バイト)     

     結局・・・ 普通生命体 vs 異質生命体 とは・・・

                           

 

「さて...」高杉が言った。「色々と考察してきましたが...これらの他に、“異質生命体”の可

能性はあるのでしょうか...」

「そうですね...

  “生物学的決定論/・・・生命は、条件がそろえば必ず発生する”...が仮に、正しいとする

ならば...火星でも生命が発生していた可能性があります。これは、太陽系の他の惑星

でも可能性がありますが、ともかく初期の火星表面には、液体の水が存在していましたわ」

「うーむ...

  そのあたりが、宇宙探査の具体的な大問題になって来ましたねえ。しかし、実際の所は、どう

なのでしょうか。純粋な形で、“異質生命体”というものは、観測できそうなのでしょうか?」

「それも...」アンが、腕組みをした。「実は...意外と難しいと考えられていますわ...

  仮に...生命体が、地球火星別々に発生していたとしても...数十億年の時間経過

中で、これらが混じり合っている可能性が高いのです...」

「うーむ...地球から発進する火星探査体は、極力、地球生命圏からの微生物の持ち込みを

排除してきたはずですが、」

「はい、もちろんですわ...

  でも...地球火星には、小惑星や彗星の衝突で、相当量の物質が宇宙空間に吹きあげ

られています。それが、惑星運動引力により、双方の惑星や、その他の惑星・衛星・小惑星・

隕石・彗星に降り注いでるわけです。

  これほど巨大濃密な、地球生命圏が太陽系に存在するということは...実際にはどなの

でしょうか...莫大な太陽系空間全体が、地球型生命に汚染されていると考えた方がいいの

ではないでしょうか...この汚染は、さらに太陽風の及ぶ太陽系領域を越え、彗星に載って、

外宇宙へ及んでいる可能性の方が高いのではないかしら...」

「うーむ...」高杉が、脚を組み上げた。「そうだとすると...

  純粋な形で、“異質生命体”を補足するのは、非常に難しいことになりますね...“生物学的

決定論”はともかくとして、地球生命圏というのは、“宇宙の特異点/神の創造によるエデンの

園”だという説明も、可能になりますねえ」

「すると...」アンが、笑いを含んで言った。「話は、振り出しに戻ってしまいますね」

「はは...」

「基本的な問題は、高杉さん...本当の意味で、“異質”かどうかということですわ...

  ご存知のように、普通の生物を構成する基本的な化学元素は、5つあります。炭素/C

素/H酸素/O窒素/Nリン/P5元素です。このうちどれか1つが、別の元素に置き換

わる様な生命体は、可能なのかということですね...

  ええ...ページの前の方で述べましたが...可能性のあるのは、リン/Pですね。実は、

というのは、比較的珍しい元素なのです。量も少なく初期・地球環境下では、生物が吸収

しやすい形の、水に溶けた状態では存在していなかったようですわ。

  ええと...ハーバード大学/ウルフ・サイモンは...ヒ素/As ならば、“生物体内でリンの

役割を果たすことが可能”と言っています...」

「うーむ...

  ヒ素/As(原子番号33 原子量74.92)というのは、周期表ではリン/P(原子番号15 原子量30.97)

同じ、窒素族元素ですねえ...化学的な性質が、リン/Pと似ているわけですか...」

「そうですね...」アンが、モニターを見ながら言った。「生体構造での結合や、エネルギー貯

に関するリンの役割を、ヒ素/As ならば全て果たせるようですね。また、代謝を促進するエ

ネルギー供給源にもなります。

  ただ、前にも言いましたが、普通の生物にとっては、ヒ素有毒です。これはまさに、ヒ素

がよく似ているためです。したがって、もしヒ素生物が存在したら、その生物にとっては、、リン

の方が毒物になると言われます」

「うーむ...実際の可能性としては、どうなのですか?」

「はい...もしかしたら...

  太古の時代に、ヒ素生物が実際に存在していて...それが海底火山の噴火口や、温泉

ようにリンが乏しくヒ素が豊富に存在する特殊環境で、現在も生き残っている可能性があると

言われますわ...」

「すると...古細菌のように、“生きている微生物化石”ということですか、」

「そうですね...

  こうした“異質生命体”が存在した場合...それがどのような位置づけになるかは、難しい問

だと思います。でも、可能性が無いというのではなく...逆に、“生物界というものは、常に私

たちを驚かせて来た”ということですわ」

「その通りですね、」

 

「あ、それから...」アンが顎に指を当て、モニターをのぞきながら言った。「今まで、話さなかっ

たのですが...もう1つ注目すべき、サイズの課題というのがあります。

  普通の生物体は、細胞内にあるリボソームという分子機械/小器官を使って...アミノ酸

つなぎ、タンパク質を作り出しています。普通の生物体進化系統樹に位置する、自律的な生

物体(/最小は単細胞生物)では、このリボソームを体内に納め、タンパク質を作っているわけです。

  つまり生物体というのは、少なくともこのリボソームを体内に納めるサイズ...“直径数百nm

(ナノメートル/1nmは10億分の1m)の大きさが必要だということですわ... 

  ええ...ウイルスというのは、はるかに小さくて、20nmほどしかないわけですが、これは

律的な生物体ではありません。感染した細胞機能を利用しなければ、繁殖できないわけです

ね。

  あ...このウイルスというグループですが、彼等は普通の生物を利用して生息していること

から、いわゆる“異質生命体”とは考えられていません...これは、生物無生物の間に位置

していて、古くから議論のある領域ですね」

ウイルスというのは、別の起源から発生したという、“異質生命体”の証拠もないわけですね」

「そうですね...

  ええ...話をリボソームに戻しますが...“地球生命圏には、リボソームを収納するには小

さすぎる細胞が、多数存在する”...という主張が、以前から存在しているようです。それは、

“ナノ微生物”と呼ばれているものです。

  ちなみに、1990年...アメリカ/テキサス大学/オースティン校/ロバート・フォークが、

タリア/ビテルボ温泉堆積岩から、楕円形卵型小さな物体を発見したそうです。彼はこ

の物体を、“直径30nm(ナノメートル)程度の微小な生物が化石化”したものと考え、“ナノ微生物”

と呼んだと言われています。

  また、最近の話ですと...オーストラリア/クイーンズランド大学/フィリッパ・ユーウィンズ

が...ええと...西オーストラリア州沖の深海掘削ボーリング孔/岩石サンプルから、同じよ

うな構造体の物を発見していますね。明らかに、そういうものが存在するということです」

「ふーむ、」

「もしこれらの構造体が...

  “生物学的プロセスによって構造化”したものなら...タンパク質の組み立てに、リボソーム

を必要としない例となりますわ。つまり、これまで知られている普通の生物の、最小限界サイズ

よりも、さらに小さな...“異質生命体”...が存在している証拠になります」

「うーむ...

  西オーストラリア州沖の深海掘削ボーリング孔/岩石サンプルから発見したというのは、一

体、どのような構造体なのですか。最近のものなら、それなりに分析の方も進んでいるはずで

すね?」

「うーん...」アンが、マウスでモニターをつついた。「ここには、あまり詳しい資料はありませ

んが...

  ええと...約2億年前の砂岩だそうです...20nm(ナノメートル)〜150nmの微小な構造体

のようですね。実験室では、“増殖しているように見えた”と、報告されているようです...それ

から、この構造体には、DNAが含まれていたとありますわ...」

「まあ、ウイルスにもDNAは含まれているわけですがね...サイズ的にも、ウイルスと同じよう

なものですねえ...」

「でも、岩石サンプルから発見されているのです...生物体に寄生しているわけではないので

す...つまり、独立した生命体ということ...」

「じゃ、一体...どうやってタンパク質をつくっているのでしょうか?」

「さあ、そこが問題ですわ...

  でも...この“ナノ微生物”“生きている”という主張には、異論を唱えている科学者たちも

いるようですわ。それに、“生物学的プロセスによって構造化”という点についても、激しい議論

があるようです...でも、ウイルスのサイズの、“おかしな何者か”が存在しているということで

すわ...」

「うーむ...生物と無生物の間に、我々の理解を超えた何者かがあるということでしょうか、」

「そうですね...それはまた、別の問題になりますけど...」

 

異質生命体をも含めた・・・ 進化系統樹の森・・・?>

           

   

「さて...」高杉が腰を浮かし、椅子に掛け直した。「生化学的に...奇妙な性質を持つ微生物

が発見されたとしましょう...

  その微生物が、既存の系統樹の新しい枝ではなく...ゼロからスタートした、“異質生命体”

/“生命がゼロから複数の形式で発生していた証拠”となるかどうかは...普通の生物から、

どのくらいズレているかによって決まるでしょう...しかし、生命がどのように発生したか分から

ないので、区別する明確な基準がないということですねえ、」

「そこが問題ですね...」アンが、深く首を絞った。

宇宙生物学者の中には、」高杉が言った。「炭素化合物とは別に、ケイ素(Si/原子番号14、原子量

28.09/化合物として地殻中に多量に存在する)化合物から発生した生命体を考えていますね...

  現在の生化学は、炭素化合物が中心ですから...ケイ素化合物が中心の生命体が、もし存

在するとすれば...私たち普通の生物とは同じ起源であるとは考えにくいわけです。つまり、

化系統樹を別にする、“異質生命体”と考えられるわけです。

  こうした“異質生命体”に対して...塩基アミノ酸遺伝暗号だけが違っている“異質生命

体”の場合には、“進化に伴う変動/遺伝的浮動”でも説明できますね...こうしたケースでは、

独立した進化系統樹を持つ“異質生命体”とは、そもそも考えにくいですね、」

「その通りです...」アンがうなづいた。「実際に、遺伝暗号表が...1部だけ異なる生物は、す

でに見つかっていますわ...

  でもこれは、“異質生命体”とはみなされていません。“進化に伴う変動/遺伝的浮動”と考え

るのが自然だと思います。でも、これは、逆の大問題もあるのです...」

「ふむ...」高杉が、ゆっくりと首をかしげ、アンの言葉を待った。

「ええと...つまり...

  ゼロからスタートした、“起源の異なる異質生命体”でも...同一の環境にさらされ続けてい

ると、徐々にその状況に最も適した形に適応して行くということが考えられるのです。こうした進

化を、“収斂(しゅうれん)進化”と言います。

  例えば、哺乳類のイルカと、魚類のサメ同じような体型なったのは、“収斂進化”の結果な

のです...もともと、哺乳類魚類は、全く別の系統樹の枝にあります。ところが、同じ海の中

繁殖を重ねて行くうちに、外見的にはちょっと区別のしにくいものになりました」

「うーむ...

  “収斂進化”も、微生物“異質生命体”となると、非常にややこしい、見えにくいものになり

ますねえ...」

「はい...」アンが、コクリとうなづいた。「そこから、さらに、こういうことが考えられるのです。

  例えば...タンパク質をつくるのに、現在の20種類のアミノ酸が選ばれたのは、進化によ

る最適化の結果かも知れないということですわ。もともとは、別のアミノ酸を使っていた“異質生

命体”が、長い間に普通の生物と同じ20種類のアミノ酸を利用するように、進化した可能性

あるのです...」

「なるほど...

  なにやら、進化系統樹というものも、そういう“異質生命体”“収斂進化”まで考えると、複雑

になって来ますね。しかも、生命体開放系システムですから、“異質生命体”といえども、全く

無関係ではいられないでしょう。

  リアリティーの世界に、局所原因/部分というものは存在しないわけです。“生物学的決定論

/・・・生命は条件がそろえば必ず発生する”というのが正しいとして...“異質生命体”が無数

に存在しているとすれば、宇宙には“進化系統樹の森”が成立することになりますねえ...」

「はい...」

「これが...

  生命潮流のベクトルであり...現在、宇宙で観測されている4つの力(重力、電磁気力、弱い核力、強

い核力)よりも、さらに源流に遡るものかも知れません。つまり、私たちの因果律で言えば、ビッグ

バンを越え、宇宙の初期条件ということになるのでしょうか...

  しかし...話を“進化系統樹の森”まで拡大した所で、基本的な謎は何も変わらないわけで

すが...はは...」

 

「高杉さん...」アンがモニターから顔を上げ、高杉を見て言った。「“生物の発生/・・・無生物

から生物体への変容”をめぐっては、相容れない2つの仮説があります。これがまた、この問題

を一層複雑にしていますわ。それを、簡単に説明しましょう」

「あ、お願いします」

 

  wpe89.jpg (15483 バイト)  <生物の発生/・・・ 無生物から生物へ >  

************************************************

生物の発生/第1説・・・

「ある系の化学的複雑性が、一定の閾値に達したため、物理学での相転移のよう

に、突然に全体の性質がガラリと大きく変わり生命が発生したとするものです。

この系は、単一の細胞でなくても、かまわないのだそうです。つまり、複数でもいい

ということですね。

  この説を主張する生物学者は...“原始・生命”が、物質や情報を交換しあう一

群の細胞から発生し、細胞の自律性種の分化は、その後で起きてきたとしてい

ます」

 

生物の発生/第2説・・・

化合物から生物への変化は...突然の出来事などの存在しない...長く連続

したものであり...“生命の起源として特定できる、はっきりとした境界線は存在し

ない”というものです」

 

************************************************

 

「ええ...生命を定義することの難しさは、よくご存知のことと思います...

  生命とは、ある種の情報を蓄積し、処理する能力を持つ、1つのシステムと定義し...か

つ、“生物”“非生物”境界線がはっきりしているのであれば...生命の起原1つか、あ

るいは、複数かと考えることに、ある種の意味はあると思われます。

  でも...“生命とは・・・組織的な複雑さのようなものだ”...と漠然と定義した場合...生命

の起源は、“膨大で複雑な化学反応と渾然一体”となり、何が生物かを区別できるようなもので

はなくなります....

  こうなってくると...別の恒星系のような、非常に離れている場合をのぞき...別の起源/

ゼロからスタートした“異質生命体”を特定するのは、非常に困難なのかもしれません。まさに、

高杉さんの言われる、“36億年の彼”の中に、不可分に溶け込んでいるのでしょうか...」

別の恒星系というのは...」高杉が言った。「私たちの感覚から言えば...

 数光年数十光年数百光年と...非常に離れているように感じるかもしれませんが...

アリティーの別の切り口では、実は非常に近いのかも知れませんね。そうした意味では、“36

億年の彼”という“地球生命圏の人格”もまた、孤立したものではないでしょう...

  しかし、そう簡単に答えの出る話ではなくなってきましたねえ...」

「はい...それも、“生命が1のシステム”であり...“生物”“非生物”境界線がはっきりし

ている場合ということですね ...」

「うーむ...そう言われてしまうと、全てがますます混沌としてきますねえ...」

「はい...」

「私はもともと、量子力学“コペンハーゲン解釈”というものを、漠然と素直に支持してきまし

た。つまり、“この世界”とは、“主体の認識構造を映している”ということです...リアリティー

とは、観測する“主体/・・・私の内側に存在する”...ということになります」

「はい...」アンが、考えながらうなづいた。

「つまり...“主体と客体は1つのものである”ということですね...これが、“禅的な覚醒/悟

り”と融合し...私はそうした概念とともに育ってきました...」

「はい...」アンが、目に微笑をたたえ、うなずいた。「それが、非常にマッチしていたのですね」

「そういうことですねえ...私の場合は...

  他と比較したことはないのですが、自分では正しいと確信しています。“36億年の彼”という

生命観も、そこに立脚しているわけですが、まだ全体像というものは構築中です。しかし、今回

はさらに、別の恒星系にまで拡大しましたねえ...」

「高杉さんの言われるように...」アンが、眼鏡の真ん中を押した。「他の恒星系というのは、

意外と近いのかも知れませんわ...それこそ、意外と...

  私の専門外ですが...“量子もつれ”のような現象も、検証されているわけですね。局所原

が否定されるような現象が、量子コンピューターのデバイスとして、すでに開発が始まってい

るわけですね、」

「そうです」

 

「ええと、長くなりましたが、高杉さん...最後の、まとめをしておきたいと思います」

「ああ、そうですね。お願いします」

「はい...

  ええ...地球生命圏には、現在までに、約150万種の生物認知されています。として

記載されている数字は、これをはるかに上回るわけですが、間違った報告も多数あり、実際の

所は約150万種ほどが、人類文明によって認知されています。

  他の推定では...数百万種数千万種、さらに億を超える生物種が、この地球表層域に生

していると考えられています。こうした中には、種の新陳代謝進化のベクトルの中で、すで

絶滅している種も多数あるわけですね。太古の生物種恐竜などは、“36億年の彼”

態系の記憶と、地質年代の地層の中にその記録を留めるだけです」

「アン...」高杉が言った。「“36億年の彼”の、生態系の記憶というのは、正確ではありませ

“36億年の彼”は、時間軸・空間軸を超越して、現在も波動している、“地球生命圏の人

格”です。

  私たちが、誕生以来の過去を背負い、そのプロセス性の中に人格を投影しているようなもの

なのです...」

「はい...」アンが、唇に微笑を吸収した。「分かりました...

  ええ...多様性について、少し話そうと思ってのですが、また別の機会にしますわ...ただ、

“遺伝子の多様性”“種の多様性”“生態系の多様性”という分類を述べておきます。そして、

こうした膨大な多様性の奔流の中に、“異質生命体”という、別の進化系統樹が溶け込んでい

るかも知れないということですね...」

「うーむ...

  生命の出現は、確率論的にゼロに近い偶然の産物”なのか...それとも、“生命の誕生は

宙の必然・・・地球に似た惑星であれば、生命が発生するのは必然”ということなのか...その

答えが、少しづつ明らかになってくるということですねえ...」

「はい...でも、とても一筋縄でまとまる話でもなさそうですわ」

「そうですねえ...」

 

           wpe73.jpg (32240 バイト)      

「ええ、高杉光一です...

  長い間、ご静聴ありがとうございました。この間に、世情が騒然としてきました。

国際金融不安と、“地球温暖化”と、グローバル的に連動している所に、さらに

大艱難の兆しが重なって望見されます...

  こうした時代の中で、私たちは〔人間の巣〕による文明形態の転換を提唱して

います。いよいよ激動の時代ですが、どうぞ、今後の展開にご期待下さい...」

 

 

 

 

   <キッチン>