『サザエさん』レビュー

最終更新日: 2013/05/03 第6914話のレビュー追加

 1969年10月の開始以来、放送40周年を迎えた『サザエさん』ですが、雪室さんは1969〜84年、1996〜現在のメインライターの一人となっています。 特にここ数年は3本のうち1〜2本が雪室脚本となっており、『サザエさん』の高視聴率を支えている立役者の一人と言って過言ではないでしょう。 『サザエさん』は良くも悪くも「マンネリ」という評価を受ける作品ですが、動かせないキャラクターや人間関係に対して、雪室さんは外からいろいろな刺激を与えることで単調さや古くささからうまく逃げているように感じます。

 脚本家を気にしながら見ているとすぐに気づくことですが、雪室さんはサブタイトルあたり「原作4コマネタ」を1本だけ使っていることがわかります。 ストーリーは原作ネタに関連はしているものの、思い切ってふくらませた話が多く、ときに原作ネタが浮いているようになってしまう場合も少なくありません。 原作ネタは冒頭か最後に入ることが多いようです。 一方でもう一人のメインライターの城山さんは原作ネタをつなげたストーリーが多く、「偉大なるマンネリ」を指向しているように感じます。 最近は、この二人の組み合わせが、『サザエさん』をうまくバランスのとれたものにしているような気がします(笑)。 アニメでの元ネタ選択は文芸担当のスタッフが過去の履歴を元に行っているそうです。(『アニメーションノート』第4号の成島さんへのインタビュー)

 『サザエさん』は30分番組で3本というのは誰もが知っていることだと思いますが、1話の時間が6分55秒と短時間であるにもかかわらず、ストーリーの密度が非常に濃くテンポが速いのが特徴です。 下手な30分アニメと同じくらいの内容があるときもあります。 みんな『サザエさん』のリズムが当たり前になっていると思いますが、意識して見ると結構すごいですよ。 ただ個人的にはもう少し長い時間で複雑に構成した作品を見てみたいところです。

 磯野家のキャラクターで雪室さんがいちばん好きなのは、カツオでないかと思います。 脚本家として書きやすい(ストーリーを広げやすい)キャラクターであるのは間違いないですし、いたずら好きで頭がよく回ってバイタリティがある、あの性格は『ハリスの旋風』の石田国松以来、雪室さんの好みであることは間違いないと思います。

 逆に書きにくいのはタラちゃんかもしれません。 よい子は苦手なんだと思います。 ストーリー上タラちゃんにいろいろないたずらをさせたり、トラブルメーカー役にしたりしますが、現在の磯野家の雰囲気は、タラちゃんを怒ることを許しません。 初期の作品ではタラちゃんは平気で怒られていて、カツオとあまり変わらないポジションでしたが、40年の間に徐々に変わってきたんでしょうね、たぶん。 今『サザエさん』でタラちゃんが怒鳴られたり、怒られたりする作品を放送したりしたら、一般の(笑)視聴者からは非難の嵐が吹き荒れるでしょう。 この下のレビューで紹介する第5591話「サイレンとカミナリ」のように、雪室さんも精いっぱいの抵抗(?)も試みていたりします。

 磯野家以外のキャラクターでは、雪室さんのエッセイ集『テクマクマヤコン』によると、イクラ、花沢さん、中島、ホリカワくんは原作にいなく、雪室さんの命名したキャラクターであることがわかります。 名前の元になったのが何かについても書いてありますので、ぜひ読んでみてください。 この中でいちばん名付け親に愛されているのは、花沢さんであるのは間違いありません。

参考:サザエさんの作品サブタイトルリスト(大変役に立つサイトです)


作品レビューは主に最近の作品から。1970年代はたぶん見てたはずなんだけど、OP/ED以外は全く覚えていないです。

第?話「モノオキの神様」(1969-70年に放映)

怒られて物置に

ストーリー: いたずらが過ぎたタラちゃんはサザエに物置に閉じ込められる。 タラオはそこで怖い「モノオキの神様」に会う。

感想: 35周年の前祝いスペシャルに、放送1年目の中の傑作として放映。 当時のタラちゃんのポジションが今とは全然違うことがわかる。 カツオとのキャラクターの違いは、いつ頃からどのようにして増幅されていったのだろうか。
その一方でアニメの演出からも、当時の「エイケン」がアニメの最前線を開拓していたという雰囲気が感じられるのが面白い。 アニメ制作会社のエイケンは白黒アニメ時代からのパイオニアで、『カムイ外伝』なども手がけ、現在で言えばGAINAXや京アニのような存在だったはず。


第5591話「サイレンとカミナリ」(2005/07/10放映)

バカモノー!

ストーリー: わがままが過ぎてついに磯野家全体に「これはやばいのでは」ムードが漂うタラちゃん。
カツオ「その点タラちゃんはカミナリがいないから幸せだよ」
フネ「確かに少し甘やかしすぎかもしれない」
サザエ「最近わがままが過ぎるのよ、タラちゃん」
カツオ「ボクもお父さんの孫に生まれたかったよ」
というのは某掲示板のログではなく、本当にアニメのセリフ。 そんなわけで、最後は波平に怒鳴られることに。

感想: タラちゃんの傍若無人ぶりがこれではいけないということは、やはり脚本を書いている側も感じているところなのだろう。 タラちゃんが波平に怒鳴られて、それでも一般視聴者が不愉快に感じない…ということを考えてこの作品が書かれたのだと思う。 現在の『サザエさん』ではこれが限界かと。(^^;


第5712話「天下の美少女花沢さん」(2006/05/07放映)

過去を語る花沢父

ストーリー: マスオの写真がうまいのを聞きつけて、花沢さんが美少女コンテストの応募写真を撮ってもらおうとやって来る。 なぜか花沢さんのお父さんまで乗り気なのだ。 撮影にまる一日つきあわされるマスオとカツオ。 カツオは「頭がくらくらして、花沢さんが美少女に見えてきたよ」と暴言を吐く始末。 さて、36枚撮りフィルム5本分の成果はどうなるのか。

感想: 子供の頃は花沢さんと言えば「ブ○」の代表と思っていたのだが、最近はこういう子がかわいく思えてしかたがない。 この話の花沢さんで、花沢さん痛車まで作ってしまった。


第5875話「父さん発明の母」(2007/05/27放映)

口は災いのもと

ストーリー: いわゆる全自動タマゴ割機の回
波平がある日突然、「全自動タマゴ割機」を買ってくる。秋葉原駅前あたりで、実演販売を見たのだろうか。本人は得意げである。 子供たちは大喜びだが、主婦2名は顔が引きつっている。 マスオは「いやーうまい、やっぱり機械で割ったタマゴはひと味違いますよ」と相変わらずのリアクション。 機械を使いたがらないフネに、波平は「母さんは機械ものに弱いからなぁ」と上機嫌であった。
しかし、すき焼きのにおいを嗅ぎつけたノリスケは、そのことを知らず「手で割ればすむものを、わざわざ機械を使うなんてね」「ああいうものを買う人の気持ちがわかりませんよ」「どうせ買うのは、タマゴなんか割ったことのない関白亭主ですよ」とすっかり本音を語ってしまい、当分出入り禁止に(笑)。 しかし、この話はタマゴ割機にとどまることはなかったのであった。

感想: 雪室さんの「タマゴねた」好きと羽目を外した脚本はいろいろな作品で見てきただけに、「また出たか」くらいに思っていたのだが、ネットの掲示板や動画サイトで異常に盛り上がっていたのは意外であった。
まあ、でもこういった際物を父親が買ってくるというのは結構現実的な話ではないだろうか。 事実、自分の祖父も突然自動缶切り機を買ってきた思い出があったりする。 主婦がTVショッピングでしょうもない物を買ってしまうのと同じなんだと思う。
しかしよく考えてみると、子供たち、主婦たち、マスオの見せるリアクションがそれぞれ本当にリアルだったりするのが、この作品の脚本の本当にすごいところで、だからこそ『サザエさん』でこのストーリーを展開して視聴者に違和感を感じさせないのだと思う。 突拍子もない脚本を書くだけなら誰でもできる。 それでいて、作品の枠にぴったり収まらせることができるのが、雪室さんのすごいところではないかと思うのである。

※ 雪室さんの「タマゴねた歴」については、いずれまとめたいと思っている。(笑)


第6305話「春風からの招待状」(2010/03/28放映)

いわゆる聖地巡礼に行ってきました。 こちらです。


第6914話「となりの浮江さん」(2013/02/24放映)

「サザエさん」謎オチを2倍楽しむ: ブログより転載。

 「となりの浮江さん」は、浮江さんの声がする缶ジュースの自動販売機が出てくる楽しい回でした。 声が浮江さんに似ているというだけで、自動販売機が磯野家一帯のブームになり、みんなで缶ジュースを買いまくるという話です。 数えてみると、(1) タラちゃんがサザエに買わせる、(2) カツオが波平に買わせようとして通りがかりの人が買う、(3) カツオがノリスケに買わせようとして花沢さんが買う、(4) カツオが伊佐坂先生に買わせる、(5) カツオが浮江さんに買わせる、と7分に5回も買っています。

謎オチ(皿洗いの下請け)

 しかし、この話には「謎オチ」が付いていて、フネとサザエがテレビが見たいので、夕食の皿洗いを波平とマスオにやってもらおうとしたが、結局下請けに出されてカツオが皿洗いをするというオチでした。 このオチが本編にどのように結びついているか、放送を1回見ただけでわかった人はまずいないのではないかと思います。 自分も、録画を見直してもすぐにはわからず、結構悩みました。(こんなオチでも誰も文句を言わないのが「サザエさん」のすごいところでもあります。)

 雪室さんがラジオトークで語っていたように、原作から飛躍しすぎてしまったために入りどころがなくなってしまった、この部分が原作ネタだと推測されます。 この原作(未確認ですが)からどのように話が展開されていったのでしょうか。リンクは、4回目の缶ジュースにありました。 伊佐坂先生がハチを散歩させていますが、本来ハチの散歩は浮江さん(か甚六)の役目のはずです。 浮江さんの代役が伊佐坂先生で、さらにその代役をカツオがやる羽目になるという、原作ネタと同じ構図が出てきます。皿洗いの2段階下請けの話を、ハチの散歩の2段階下請けに投影したわけです。 しかも、浮江さんがハチを散歩させているシーンはサブタイトルバックの静止画のみ、伊佐坂先生が引き受けたという描写もありません。これはわかりにくい!

謎オチとの対応(ハチの散歩の2段階下請け)

 すると、伊佐坂先生が散歩をさせなければいけない理由として、浮江さんの外出(旅行)が必要になります。 これは当たり前の展開です。 そして、さらに伊佐坂先生からカツオに下請けに出す理由も必要になります。 その理由が、「浮江さんの声のする自動販売機」が出てきて、ハチがそこから動かなくなる、ということだったんです。 この発想はすごい…というか常人では思い浮かぶものではないと思います。 こんなぶっ飛んだ発想が出るからこそ、雪室さんの作品がいつも想像の斜め上に飛んで行ってしまうのですね。

 しかし、話はこれで収まらなく、「浮江さんの声のする自動販売機」があったら磯野家の人たちはどうするか、が作品の隙間にどんどん埋められていくと同時に、ハチと浮江さんの関係なども語られて、内容の充実したテンポのよい作品になってきます。 このあたりは「師匠譲りの技術」と言えるのかもしれません。 そしてついには「花沢さんの声のする自動販売機」まで出てきて、原作からの距離はピークに達します。 ここまで来たら、もう原作の皿洗い下請けの話は、高尾山から見たスカイツリーの如く、遙か遠くになってしまいました。そして「謎オチ」になってしまったわけです。

 正直言って、「謎オチ」の回は面白い話が多いです。原作を無慈悲に超えて突き進む雪室さんの想像力が堪能できます。 そして、アイディアがどのように展開されてきたのかは、できあがった作品からはふつうなかなか想像しにくいものですが、「原作を入れる」お約束のおかげでこうやって推測できたりもするのです。まさしく2倍楽しみことができるのです!



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