サザエさん#6305「春風からの招待状」を訪ねる

最終更新日: 2010/05/29 (おまけ 2010/06/21)

 いわゆる聖地巡礼です。

 2010年3月28日放映『春休みスペシャル サザエさん』のメイン作品「春風からの招待状」(作品No. 6305、脚本: 雪室俊一、演出: 森田浩光、原画: 石丸哲也、背景: 佐藤博)は、磯野家そろって外出で、いつもの家の中が全く出てこないスペシャルな話でした。 番組も前編・後編に分かれていて、いつもの2話分ありました。

 磯野家は「あさひが丘ウォーキング大会」に出るため家を空けて、あさひが丘公園を出発します。 そして、たどった行き先は、一切どことは出ていませんでしたが、調べたところなんと全て実在しているのです。

 磯野家のある「あさひが丘」は、現在「長谷川町子美術館」のある世田谷区の桜新町周辺という設定らしいです。 終点の調布飛行場まで15km、右の地図に示した距離は直線距離なので、実際に歩くともっと長い距離となってしまいます。 自分も歩いて追いかけてみたかったのですが、さすがに時間がかかりすぎるので、電車やバスを使っています。 それでも、ちょうど電車の走っていないところなので、結構移動が大変でした。



烏山寺町


竹林のあるお寺

 スタートして次に出てきたのが、このお寺です。 地デジのおかげで看板の文字が「妙○寺」と読めます。 世田谷区から調布に行く途中の寺を地図で探していると、このお寺のたくさん集まっている烏山寺町が見つかりました。 しかも、「妙○寺」がいくつもあります。 桜新町から直線距離でも8kmあるので、歩いて2時間以上はかかるはずです。 フネさんが「うちから2、3時間歩いたところに、こんなに落ち着けるところがあったんですねぇ」と言っていたのとも合致します。

 お寺の門の描写は「法華宗 妙壽寺」と完全に一致していました。 しかし、千歳烏山駅方面から歩いてきたとすれば妙壽寺は左手にあるはずで、アニメで進行方向右手に寺がある描写はちょっと合っていませんでした。


妙壽寺(世田谷区北烏山5丁目)

すばらしい竹林

 このお寺は「すばらしい竹林」があるところとして作品中では描かれていましたが、訪問したときはちょうど閉門になってしまっていたため、妙壽寺の中に入ることはできませんでした。 やはり竹林があります。 周囲の塀の上から竹林が見えていましたので、ちょっと覗かせていただきました。

 このお寺、インターネットで検索しても、特に「竹林で有名」などというクチコミも宣伝も何も見つかりませんでした。 脚本の前にしっかり現地調査されているのは間違いないと思います。


妙壽寺の竹林

寺の前の通り

 そしてこの通りの画像は烏山寺町のメインストリートである「寺院通り」、常栄寺前と完全に一致です。 常栄寺の背の高い並木がすばらしいです。 通りの緑色の歩道表示まで、ちゃんと描かれています。 両側にずっとお寺が並んでいて、ふしぎな雰囲気のある通りです。

 休日に訪れましたが、観光客やハイカーはほとんどいない様子でした。


寺院通り・常栄寺の前

お寺の門

 常栄寺の門は、実際には道路に対して少し傾いているのですが、それ以外はほぼ一致しています。

 ここのお寺の方や、周辺の方々は、「サザエさん」に出てきた背景がここだと気づいているのでしょうか?


常栄寺(世田谷区北烏山4丁目)

中島が逃げ込んだ寺

 中島くんが逃げ込んだ寺は常栄寺かと思ってあまりちゃんと調査しませんでした。 花沢さんに救護車に押し込まれ、女装させられるところです。

 しかし、後でアニメを見直してみると、常栄寺とは少し離れた他の寺に駆け込んでいて、門の描写も少し違っています。 もう一度行く機会があったら、ちゃんと確認し直したいです。


神代植物公園


植物園内を横切る道

 ウォーキングコースは植物園へと移りますが、この辺りで植物園と言えば「神代植物公園」しかないでしょう。 コースは植物園のフェンスに沿って歩くことになっていたのに、カツオたちだけがうっかり植物園内に入ってしまったという設定です。

 左の絵が正しいコースの道で、両側の柵の中が植物園になっている描写です。 ここは深大寺本堂裏と調布市総合体育館を結ぶ細い道で、たぶん間違いないでしょう。 この道は両側が柵になっているところ(右の写真)と石垣になっているところ(右下の写真)がありますが、石垣の上の柵はよく見えないため、この作画にぴったり合う場所はありませんでした。


深大寺本堂裏の細い道

植物園との立体交差

 深大寺本堂裏からこの道を進んでいくと、植物園内の道との立体交差があります。 無料だからと入園してしまったカツオたちは、ここで誤りに気づき、あわててコースに戻ります。 作画にある植物園内の温室(?)は見えませんでしたが、橋の下の構造や道の曲がり方などを見ても、右の写真の場所がモデルになっているのは間違いないと思います。

 こんな立体交差を見ると、脚本家の人はすれ違うドラマを発想してしまうのでしょうか? 「小学生以下は無料」という神代植物公園の料金体系すら、うまくドラマに生かされています。

 神代植物公園の入口は正門と深大寺門の2か所です。 カツオたちが入ったのは、ルートから考えると深大寺門でしょうか。 道の曲がり方から見ると、かおりちゃんと早川さんも深大寺側からこの道に入り、北に進んでいるようです。


深大寺本堂裏の細い道

深大寺


お寺の境内

 途中で立ち寄ったこの大きなお寺は深大寺本堂でした。 「深大寺そば」で有名ですが、恥ずかしながらお寺があるとは知りませんでした。 かなり敷地が広く、観光客もたくさんやって来ていました。

 左の小さな東屋は、香炉のような煙を浴びる鉢(「常香炉」でいいのかな?)です。 木の塔が省略されていますが、ほぼそっくりに描写されています。


深大寺本堂

お寺の門

 階段を上がって境内に入る門は、深大寺の山門でした。 これも完全にそっくりに描かれています。


深大寺山門

水車小屋

 水車小屋も完全に同じものが深大寺の前にありました。 そばの製粉に使っているんでしょうか。 深大寺と水車の関係などもおそらく書いてあったのでしょうか、説明を見るのをすっかり忘れています。

 水車小屋はバス通りに面していて、歩道もそれほど広くないので、正直こんなにゆったりした感じではなかったです。


深大寺の水車館

お寺の参道

 深大寺の入口から本堂へ行く参道を見たところです。 アニメでは山門が見えていますが、実際には木が茂っていて入口からは見えません。 参道の両側にはそば屋や土産物屋が並んでいます。

 左手前の店は「鬼太郎茶屋」というキャラクターショップ(?)で何かと思ったら、調布は水木しげるさんゆかりの地なんですね。 「ゲゲゲの女房」ののぼりも乱立していて、写真撮影にはやや鬱陶しかったです。


深大寺の参道

調布飛行場


飛行場ターミナル

 ウォーキングの終点は飛行場でした。 調布に小さな飛行場があることは知っていたので、『サザエさん』を見たときにピンときました。 しかし、行ったのは今回が初めてです。

 飛行場の敷地はそれなりに大きいのですが、ターミナルは「空港」のイメージとはほど遠く、地方都市のバス待合所といった感じです。 利用客が1機数名〜10数名であることを考えれば、バス待合所と同程度で問題ないのは確かですね。

 アニメの作画と比べても、実際のターミナルは、プレハブ小屋みたいな感じだったり、左手の航空会社事務所の陰になっていたりで、寂寥感が漂っていました。 あと、両側の桜はありませんでした。


調布飛行場ターミナル

ターミナル入口の中

 ターミナルの中の作画は、それなりに似ています。 入口の様子はほぼそのままですし、ベンチの並び方もこんな感じです。 実際入ってみると、中は正直言って狭いです。


調布飛行場ターミナル内

大島行き飛行機

 この飛行機は新中央航空ドルニエ228-212(乗客19人、乗員2名)でした。 プロペラの高翼機ってかっこいいですよね。 一度乗ってみたいです。 空港に着いた直後に離陸してしまったので、写真は撮れませんでした。

 アニメでは、飛行機だけデジタル作画になっていたように見えました。


ターミナルの前

 アニメではターミナル前に車を横付けしていましたが、実際にはタクシー専用になっているようでした。 桜の木もありませんでした。

 あと、道路の向こうには住宅や商店っぽい建物が描かれていますが、ここにはJAXAの建物とグラウンドがあるだけです。


調布飛行場ターミナル前

ゴール地点から空港内

 ウォーキングのゴール地点は、空港の中が金網越しに見える場所でした。 空港ターミナルの近くでこのような広場は2か所あり、飛行機への乗降がすぐ横で見えるのは、飛行場ターミナルの南側にあるこの「飛行場展望広場」です。 写真は、金網の隙間から撮っています。

 このときは、新中央航空のアイランダー機が止まっていました。


飛行場展望広場から見た空港内

管制塔

 この管制塔は、カツオたちがゴール地点から見たものとして描かれています。 「飛行場展望広場」から見た管制塔が、まさにアニメで描かれていた管制塔でした。 他の方向から見ると窓の様子などが違いますので、ここで間違いありません。


調布飛行場の管制塔

 

ゴール地点

 そして、ゴール地点が「飛行場展望広場」であることを確信したのが、このフェンス際にある大きな木です。 とても印象的で、大団円を迎えるのにふさわしい舞台に映りました。

 しかし、この広場は意外と狭いのです。 広場はフェンスに沿って長く伸びているわけではなく、桜並木もありません。 ゴール地点がこの「飛行場展望広場」だとすると、左下の桜並木の作画は架空の風景ということになってしまいます。

 もしかすると、空港西側の広い緑地帯がモデルになっているのかもしれませんが、今回はそこまで回る時間がありませんでした。


調布飛行場の飛行場展望広場

感想

 中島くんの女装が話題になったこのスペシャルですが、脚本・作画ともにとてもよかったと思います。 みんなが違う方法で同じゴールに向かう、というのは雪室脚本でのお出かけの鉄則です。 とはいえ、イクラちゃんが飛行機に乗ってしまったのには完全に意表を突かれました。 他にも海平さんの登場をはじめ、盛りだくさんのエピソードでこの話は彩られています。

 現地を見て回って感じたのは、舞台になった場所が、どこも東京都内としては「こんなところがあったのか」と意外性のある場所だったことです。 皆さんもぜひ行ってみてはいかがでしょうか。 しかし、遠足はあまりお勧めできないかもしれません。 大きな道は車が行き交う横を歩かなければなりませんし、細い道を通っても、東京なのでそれなりに交通量があります。 遊歩道のようなものはありませんでした。

 しかし、これだけ実在の場所を使っているのであれば、なぜオープニングのように、「深大寺」とかテロップを入れなかったんでしょうか。 地元の人は喜びそうに思うのですが、きっと、いろいろ難しい問題があるんでしょうね。 ともかく、すごくしっかり取材して作品を作っているんだと驚かされた一日でした。

撮影日: 2010/05/22


リンクなど


おまけ:桜新町


不動産屋さん

セブンイレブン三河屋

そば屋さん

調布飛行場のセル画が

 一応、自宅のある設定の世田谷区桜新町も行ってきました。 東急線桜新町駅から長谷川町子美術館までが「サザエさん通り」になっていて、サザエさんのキャラクターで彩られているのですが、基本は原作マンガの絵です。 その中で、いろいろな店の店頭に飾られている等身大パネルが、アニメ絵柄でした。

 長谷川町子美術館は、長谷川姉妹が蒐集した絵画が中心の展示です。 東山魁夷や平山郁夫なので、あまり趣味に合いません。 もっと長谷川町子作品に重点を置いて展示すればいいのに。 屋外にはこの「春のスペシャル」のセル画が…。 貴重なセル画を日光に曝して退色させてしまうとは、あまりにももったいない。

撮影日: 2010/06/19


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