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「★世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界」川北 稔(著)(筑摩書房 2016年1月)

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■世界を有機体的なシステムととらえ、国や大陸の枠組みを超えた理解を可能とする点で必読書とも言える本だが、金融の圧倒的な影響力や、世界システムを支える制度の構築に触れない点に不満■

世界システムという言葉は、アメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインによる用語であり、専門家の評によると、本書の内容も大部分は、ウォーラーステインによる複数の著作をわかりやすくまとめた内容になっているという。ウォーラーステイン以外による知見も加えられている。私にとっては、随所に陰謀論につながる知見がちらばった本である。著者は、イギリス近世・近代史、世界システム論を専門とする文学博士であり、大阪大学名誉教授とある。本書はもともと放送大学の講義資料として出版されたものでもある。

世界システムとは、<近代世界を一つの巨大な生き物のように考え、近代の世界史をそうした有機体の展開過程としてとらえる見方>である。大航海時代以降、世界は「国」単位で見ることのできない単一の世界システムに組み込まれていき、中核と周辺を産み、周辺部を低開発状態に置きながら中核地域で抗争が続き、やがて半世紀ほど続くヘゲモニー国家が生れた。これまで世界には、17世紀中ごろのオランダ、19世紀のイギリス、20世紀のアメリカという3つのヘゲモニー国家が存在した。ヘゲモニーは、生産から商業、さらに金融の側面におよび、ヘゲモニーが崩壊するときも、生産、商業、金融の順に崩壊するという。

こうした世界システムとして世界史を捉えなおすことで、世界で最初の「工業化」の実例であるという産業革命や、「市民革命」の典型であるとされるフランス革命などが従来とは違う意味合いを持ってくる。従来とは異なる捉え方に対しては当然反論もあるが、反論に対する反証もまた随時展開されている。

産業革命を実現させたのは「ヨーマンと呼ばれた中産的な人びとがピューリタニズムの禁欲・勤勉の精神にしたがって働いた」からではない。世界システム内部での経済余剰のシェア争い、つまりヘゲモニー争いにイギリスが勝利したからであり、三角貿易のかたちをとった大西洋奴隷貿易があったからなのである。プランテーションの生産物の一つである綿花をカリブ海の植民地から輸入してリヴァプールの後背地マンチェスターで加工、できあがった綿製品をアフリカ西岸の黒人国家を相手に黒人奴隷と交換した後、カリブ海に奴隷を送る。資金と製品市場の確保、原料供給のいずれの面でも奴隷貿易が核になって産業革命が起きたのである。著者は指摘していないが、こうして理解すると工業化がそもそも不幸を生み出しながら利益を追求する行為でしかないことが浮かび上がり、その背後で金融の役割が大きかったことが浮かび上がる。

フランス革命はどうであろうか。著者は、フランス革命による社会変動はかつていわれたほど大きくなく革命前のおおかたの有力な家系がじつは革命後も生き残っており支配階層全体の構造はたいして変化していないことの指摘から解説を始めている。(著者はロシア革命の前後も同様であるとしているが、実は支配階層は大きく変ることがないという事実にこそ普遍性があると私は見ている。)イギリスは、17世紀末にイングランド銀行を設立して「財政革命」を確立し、能率的な徴税国家になることで得た膨大な資金を軍事費と軍事支出のための国債につぎ込むことで対仏戦争に勝利し、ヘゲモニーを得て産業革命に至ったのである。これに対抗するために早急に体制をたてなおし、イギリス型の財政・軍事国家に移行する必要性が生んだのがフランス革命であった。

近代世界システムでは、「周辺」は、低賃金によって経済的余剰を生み出し、「中核」に奉仕する必要があるため、労働コスト引き下げのために強制労働が展開される。産業革命とフランス革命がもたらした新しい編成は、低コスト労働の確保のために人種差別や性差別、高齢者の排除などの差別を生みだす。こうした新たな差別は、フランス革命の理念である「普遍的」な価値、すなわち基本的人権の思想や自由・平等といった概念が世界各地に浸透するのと同時に、表裏一体をなして浸透していった。イギリスが世界の商業化を担い、フランス革命の論理が「普遍的な価値観」となって全世界が単一のマーケットに組み込まれていったのであった。

このように近現代史を理解して見れば、私たちが生きる世界の救いようのない実態が明確に見えてくる。「普遍的な価値観」は建前に過ぎず、産業の発展は貧困の輸出なしには成り立たないのである。

本書では、WASPに都合よく作られていたアメリカの建国神話も解体されている他、労働者がセレブ風習慣(砂糖を入れた紅茶)をとり入れるとき、すでにそれは世界システムに組み込まれて伝統的な生活を失ったことを意味しているともとれる話なども取り上げられおり、本書を読むことで「普遍的な価値観」を教え込まれて育った私たちの目が少しは開くようになっている。世界システムの展開の中に我が人生を位置づけてみれば、先見の明があろうがなかろうが、労働者として生きる私たちは操られた存在にすぎなくなる。

一方、本書では金融の重要性を指摘しながらも国家の枠組みを超えて活躍してきた金融家たちの姿には一切触れていない。フランス革命の「普遍的な価値観」には触れながらも伝統的な価値観の破壊に大きな役割を果たしてきたキリスト教の布教には触れていない。この世界システムを可能とする社会制度(法律、大学、学校教育、マスメディア)を作りあげてきた人々にも触れていない。ソ連も中国も、資本主義的世界システムのなかにある「反システム的な政体」であるにすぎないという記述はあるが、国際金融家たちが労働コストを引き下げる実験として社会主義のスポンサーになったという事実はスルーしている。これらの点は途中までの期待が大きかっただけに非常に残念であるとともに、本書の大きな欠点になってもいる。

インドのムンバイのように情報通信技術の展開を主要因として、工業ではなく金融と情報を基礎とする地域がかつての低開発国から世界システムの中核に加わるとき、世界システムのあり方は変わらざるを得ないと著者は結んでいる。しかし、金融と情報を独占する者たちの存在を前提とする観点からすれば、この動きは国境を越えて活躍する彼らにとって想定内の動きであり、世界システムの完成度が増していることを意味しているにすぎないのである。

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逝きし世の面影』:世界システムに組み込まれる前の日本

内容の紹介


「近代世界システム」の展開
  近代の世界システムは、いわゆる大航海時代の後半に、西ヨーロッパ諸国を「中核」とし、ラテンアメリカや東ヨーロッパを「周辺」として成立した。以後、この巨大な生物は、十九世紀のように激しく成長・拡大する時期と、十七世紀のようにむしろ収縮気味の時期とを繰り返しつつ、地球上のあらゆる地域を呑み込んでいった。ロシア史上、西ヨーロッパの文化を取り入れたとされるピョートル大帝の時代は、世界システム論からいえば、ロシアがこのシステムに組み込まれたことを意味するにすぎない。わが国の開国・維新もまた同じである。今日では、地球上に、このシステムに組み込まれていない地域は、ほとんどない。 - 28ページ

幕末に日本は植民地化されなかったのだとしても、事実上何の意味もないということがわかる。


エンコミエンダと先住民
  ともあれ、砂糖キビの栽培や銀山の開発にあたって、その労働力確保の手段となったのが、エンコミエンダである。エンコミエンダとは、スペイン国王が一定範囲の土地とそこに住む先住民を、特定の私人(スペイン人)に「委託」する制度である。委託された私人、つまりエンコミエンデーロは、その土地の労働力を自由に利用する権限を得ると同時に、住民を保護し、文明化すなわちカトリックのキリスト教への改宗をさせる義務を負った。しかし、義務のほうはほとんど本気では果たされなかったから、先住民は新たにもち込まれた病気や苛酷な労働のために、つぎつぎと死滅した。その有様は、かの有名な聖職者ラス・カサスらの批判するところとなった。先住民の保護をうったえたラス・カサスの主張は、先住民が「劣等人種」であるかどうかをめぐるセプルベーダとの「バリャドリ大論戦」などを通じて、本国では、しだいに受け入れられていった。しかし、植民地の現状は、むしろ広義のプランテーションにおける、砂糖や銀のような世界市場目当ての「世界商品」の生産においては、先住民が、労働力として十分に機能しえないことがはっきりしたことによって「保護」がなされるようにになったというほうが当たっている。当初。三〇万人はいたといわれるカリブ海の先住民たちは、一五四〇年代には絶滅してしまった。事実、アメリカ先住民の「人間性」を声高にさけんだラス・カサスにしても、先住民に代わる労働力として、黒人奴隷を導入することには、反対しなかったのである。 - 63-64ページ

世界システムを壊さない限りにおいて、「普遍的な価値」の実現に務めたかのような人物を称賛する。気づいてみれば、よく見る光景です。


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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