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「黒人アフリカの美術」ジャン・ロード (著), 江口 一久 (翻訳)(白水社 1986年2月)

→目次など

■西洋世界における黒人アフリカの美術に対する態度の変遷から、作品の様式や構成要素の比較、アフリカ人たちの宗教意識・美意識までを広く捉えようとした力作。豊富な図式を収録し、巻末には年表も付属。■

「訳者あとがき」に本書について簡潔に記されているので引用しよう。暗黒大陸と呼び、住人を土人などと呼んだ誤解の元である無知を解くことが大きな動機なっている。

アフリカは広大で、そこに住んでいる民族の構成もたいへん複雑である。そういうわけで、本書は、むろん黒人アフリカ全体を網羅的に扱ってはいない。けれども、黒人アフリカの美術を語るために必要なものは、欠かすことなく扱っているといえよう。しかも、代表的な作品はもちろん、従来たいていの多少とも軽蔑的な意味合いをもつ「ネグロによる美術」などという題のついた本にはかかれなかった職人、芸術を生みだした社会についてまで述べているのには、脱帽する。著者は、また、どの作品をも、アフリカ史全体のなかでおさえようとする努力をはらっている。巻末にあるアフリカ美術の項目の入った歴史年表は、たいへん親切なもので使いやすい。

たとえば、私たちがアフリカの仮面や彫刻を見るとき、それは、文脈から切り離された存在であり、西洋とも東洋とも異なる美的感覚によってインスピレーションを与えてくれる素材になり下がってしまっているかもしれない。しかし、その彫刻は王の姿を刻んだものであり、支配を正当化する伝説と結びついていいて、王がスポンサーとなって作らせたものであるかもしれない。仮面は、成人儀礼の際に使われるものであり、特定の役割が与えられ、有名な彫刻家が制作したものであるかもしれない。

あるいは、本書ではアフリカ人の世界観も語られている。アフリカ人にとって重要なことは、その人格ではなくて、世界の秩序に参加し、連帯を保つことであるというのである。ドゴン族やバンバラ族にとって「人間は、宇宙の穀粒である」。

著者は、アフリカ美術を本能の純粋な産物や精神錯乱や恍惚状態から生まれたものであるとする見方を否定する。アフリカの芸術家は、初めから、美術的な面でも、社会的な面でも、定められた規律に応じて職業を学んできた人たちであるのだ。

鉄を扱う者たち(鍛冶屋)は特別な位置を占める。自分たちの起源について口を閉ざしながら、農耕民や狩猟民が必要とする鉄の道具を作って、国の労働生活の重要な部分をになっている。それは宗教生活や文化生活においても同様である。そして死者の世界と生者の世界を仲介する。

アフリカ人は石の家を作らず、土で家を作る。このことが、寺院に人びとを集める方向にではなく、神話的な性質を持つ避難所を作らせた。おそらく同じような理由から、アフリカには絵画はほとんど生まれなかった。

東海岸からはイスラム教が影響を与えて偶像の制作を禁じた。古代エジプトとの関連を示す像もあれば、さまざまな王国・帝国が生まれたことやその統治が美術品の世界にも影響を与えている。政治と美術の関係を説明する際には、バロック様式が引かれている。

アフリカの芸術をささえるものは、定着生活と季節と結びついた農民の文化の表現であり、アフリカ芸術に連帯意識とその内蔵する力を与えるものは、肉体的存在と結びついた卓抜な価値観である。

政治・生活・宗教と結び付いていたアフリカの芸術は、植民地支配によって死滅してしまった。近代化による社会の変化は、ここでも、弟子を育てる余裕や、納得のいくまで制作にいそしむ時間を奪い、芸術化たちは受けの良い異国趣味の粗雑で性急な作品ばかりを製造する羽目になった。

この本は、時間的にも空間的にも主題としても広い範囲を扱っており、なじみの薄い分野でもあることから、読み進めるのは簡単ではなかった。しかし、アフリカについて知るということの他に、美術品一般についての見方も考えさせてくれる本であった。たとえば、新潟から出土する火焔土器にしても、それが作られた文脈や、解釈のための訓練が必要とされていたのかもしれない。たとえば、浮世絵を持ちだした西洋人は、やはり異国趣味にあこがれただけで、文脈や世界観にはまったく興味がなかったのかもしれない。

空想はまだ広がる。たとえば、『ハイン』の壮大なごっこ遊びの世界に鍛冶屋のような力を持つ人びとが登場してみれば、遊びがいつの間にか抗えない現実となり、王の誕生に到ったのかもしれないのだ。

内容の紹介


アラブ人もヨーロッパ人も初期の旅行家たちは、十五世紀に、アフリカの国々が良く組織され、文化が華咲き、都市が豊かで広い街路を持っていると書いた。 - 14ページ

意識して本を選ぶようになってアフリカや東北に関するイメージが随分変化しました。アフリカも東北も、豊かな自然を背景に、古くから人びとの生活の舞台となった土地に見えてきました。


宗教、あるいは魔術との関係の性質によって彫刻を三つのタイプで分けられる。すなわち、呪物と、非物質的なもの(祖先、生命力)が乗り移った彫像と、人物とか伝説的あるいは歴史的出来事を記念するための彫像との三つである。 - 195ページ

藁人形とテルテル坊主とサルボボのように、それぞれ違う意味を持っているということです。


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「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

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