るびりん書林 別館



こちらは旧サイトです。
関連書評などの機能の追加されている新サイト(https://rubyring-books.site/)に順次移行中です。
ぜひ、新サイトをご利用ください。

「海女の島 舳倉島[新版]」フォスコ・マライーニ(著)牧野 文子(訳)(未来社 1964年10月 2013年9月[新版])

→目次など

■海の民に会い偽善とタブーから解放されたイタリア人■

イタリアの人類学者フォスコ・マライーニが映像記録を残そうとしていた1950年代の日本にも、伝統的な海女はわずかな地域にしか残っていませんでした。マライーニは鳥羽、御宿、初島などを候補地とした後で、ようやく日本海の孤島、舳倉島を知ります。

能登半島の北に位置するこの島で漁をする男女の裸体を目にしたマライーニの感想が『逝きし世の面影』に収録された、幕末から明治初期の外国人たちによる感想と瓜二つであることは興味深いところです。 マライーニは、下着一つになった裸体にあふれている夏の舳倉島で過ごすことによって裸体に対する感じ方が変化することを実感しました。

本書の特徴は、日本人とイタリア人における海との関係が比較されている点や、生活のなかでの裸体についての無頓着さや下着の形状を太平洋の多くの民族と関連付けて考察している点にあると思います。 やはり、日本人、特に海女・海士の集団は、倭人伝に記されている海洋民族の子孫のようです。

マライーニの撮影した海女たちの様子が30点ほど本書に収録されています。

本書より


海女についての精密な社会学的研究は、まだその結論を出すには至っていないが、海女たちは自分たちのグループ以外の者と結婚することはむずかしく、まためったに結婚しない。 - 35ページ


モンスーンのことをいま話続けているが、いまわれわれが、普通では想像もつかないほどの非常に美しい太陽をたのしんでいるこの日本の北の海岸が、冬には降り積む雪に包まれてしまうのを考えてみるのは興味深いことである。 北に向かっているという点で、この海岸はシベリア風の最初に送られてくるところであって、まだそのうえに、その風は、日本海を越えてくるの湿気をはらんだ風なのである。トゥレパルタは、≪この地域は、亜熱帯気象の地方のうち、全く世界唯一の土地である。地球上どこにも、夏の亜熱帯的暑気と湿気とのこのような妙な組み合わせのところはないし、冬には真っ白な深い覆いに包まれて著しい対照をなす土地である≫と、この地域のことを思い出している。 - 64ページ


この当たりの記述は『一万年前―気候大変動による食糧革命、そして文明誕生へ』を思い出させます。

「解説 イタリア人の見た日本のヴィーナスたち」で岡田温司は、「裸体に対する日本の古くからの邪念のない健康な気持ち」というマライーニの言葉に対して、これは西洋人の色眼鏡による理想化であると否定し、江戸時代の海女を題材にした春画を根拠としています。しかし、『逝きし世の面影』を読めば、裸体そのものがそのまま性欲の対象になるのではないということが理解できます。
私たちにとって必要なことは、モンスーン気候の日本に根付いた裸体感を取り戻すことなのではないでしょうか。



トップへ

お問い合わせ:

お気軽にお問い合わせください。

サイト内検索:

るびりん

「ルビリン」は東山動物園にいたアムールトラの名前です。土手で出会った子猫を迎え入れ、「るびりん」と命名しました。

neko to hon

書評

書評

書評

書評

書評

書評

書評