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更新2024.8.5mf
弁護士河原崎弘
私立学校の学費、塾の月謝は、養育費に含まれますか
相談:塾の月謝
私は、家庭裁判所で離婚調停中です。今、夫と養育費のことでもめています。私は、子ども(13歳)の塾の月謝などを含めて養育費を月額6万円要求していますが、夫は2万円と言い、塾の月謝は養育費に含まれないと言っています。
塾の月謝を含めて養育費を決めることができますか。
回答:塾の月謝は問題がある
父母の未成熟の子どもに対する扶養義務は、生活保持義務と言い、扶養義務者が自己の最低生活をさらに下げてでも負う義務です。子は親と同程度の生活水準を要求できるのです。
これは、父と母が離婚しても変わりません。父の生活程度が高く、例えば、子が父と同居していたならば、塾へ行くことができたとの状況なら、塾の費用は、養育費 に含まれると考えることができます。
現在では、通常、父親の収入、母親の収入、子供の数だけを条件にして、算定表によって、養育費を決めています。算定表の金額には(公立学校の)平均的な教育費が含まれます。
そこで、相手とあなたの収入を基に、算定表で、養育費がいくらになるか調べて下さい。教育費(学費)が、後述の公立中学校の学費(年13万4217円)を超えるなら、超える額(差額)について特別経費として請求できます(学費を、双方の基礎収入で按分した額を請求できます。)。
その結果、養育費の額が少ないなら、家庭裁判所に、養育費増額の調停申立をしてください。弁護士を依頼せず、自分でできます。不安なら弁護士に依頼してください。
教育費とは、正規の学校の費用であるとし、私学費加算は認められ易いですが、塾の費用を認めない裁判官もいます。塾の月謝についての審判例は、少ないです。学習塾・習い事の費用9万円の半分を婚姻費用として考慮し、これを基礎収入によって按分し、婚姻費用分担額を算出した例がありました(家裁月報62.11-74)
相談2:私立学校の学費
5年前に離婚し、前夫から月額9万円の養育費をもらっています。私が引き取った子供(16歳)が私立の高等学校へ進学しました。学費などが80万円かかかります。
前夫の給与は1100万円(年)、私の給与は320万円です。
この場合、適正な養育費は、どのように計算するのでしょうか。
回答:公立学校の学費との差額は考慮される
養育費算定表で決められた養育費の中には、子供の公立学校における学費が含まれています。文部科学省「子供の学習費調査報告書(平成8年、10年、12年)」によれば、公立高等学校教育費の平均は、
年額33万3844円です(新しい統計がありますが、養育費算定表が用いた古い統計を使用すべきです)。
養育費算定表では、以上の金額は考慮済みです。そこで、差額の46万6156円(80万円−33万3844円)を算定表の金額に加算することになります。
算定表を作成した裁判官は、以上のように発表しています(判例タイムズ2006.7.15、p11)。しかし、差額をそのまま加算するのではなく、差額を、基礎収入額に応じて、按分した額を加算するのでしょうね。
以上のことは、私立大学の学費についても当てはまります。
公立学校の学習費:平成8年〜平成10年の平均値
(判例タイムズ1111-294)
学校区分 | 公立幼稚園 | 公立小学校 | 公立中学校 | 公立高等学校 |
教育費/円/年 | 125,887 | 59,153 | 134,217 | 333,844 |
私立学校の学費を含めた養育費の計算例2
【父親の年収1100万円給与】、
【母親の年収320万円給与、監護する子供16歳(私立高等学校の学費80万円)】のケース
- 基礎収入を計算:基礎収入率を乗じる
義務者(父親)の基礎収入
= 1100万円 × 0.40
= 440万円
権利者(母親)の基礎収入
= 320万円 × 0.42
= 134万円
- 子の生活費を計算
子の生活費=440万円×
85
100 + 85
≒202万円
- 義務者が通常負担する養育費
分担額=202万円×440万
440万 + 134万
= 154万8000円(年)
= 12万9000円(月) ← 算定表の金額
- 私学の学費との差額を算出し、按分する
学費の差額=80万円−33万3844円 ← 私立の学校へ行った場合と公立の場合との差額
=46万6156円
差額を基礎収入に応じて按分する
義務者の負担額
=46万6156円×
440万
440万 + 134万
= 35万7332円
= 2万9777円(月)
- 差額を加算した義務者の最終的分担額
養育費分担額
= 12万9000円 + 2万9777円
= 15万8777円
上記4が問題です。上記4では、支払う額を基礎収入の比で案分(和歌山家裁平27.1.23)負担しています。しかし、義務者に扶養家族が増えたなどの考慮がされていないのです。そこで、その外に、1/2ずつ案分負担する、義務者が1/3負担する(大阪高裁平27.4.22)などの案があります(判例タイムズ1424.126)。
判例
- 東京家庭裁判所立川支部令和4年2月4日審判
(5)減額後の養育費の額について
ア 申立人(支払い義務者)の年間収入及び基礎収入について
申立人の給与収入は600万円であり,不動産収入は,不動産所得36万9968円に青色申告特別控除額10万円を加算した46万9968円となる(上記1(5))。前記不動産収入を給与収入に換算すると54万円程度になる。そうすると,申立人の年間収入は給与収入として654万円程度であり,基礎収入はその41%の268万1400円となる。
イ 相手方の年間収入及び基礎収入について
相手方の年間給与収入は233万0519円である(上記1(6))。基礎収入はその43%の100万2123円(1円未満四捨五入。以下同じ。)となる。
ウ (申立人の2人の)養子らの生活費指数について
(申立人の)再婚相手の年間給与収入は744万円(甲4〜11。62万円×12か月)である。基礎収入はその40%の297万6000円となる。
養子らは,その生活費指数各62を申立人と再婚相手で基礎収入の割合により分担することになるから,申立人の分担する生活指数は次の計算式により各29となる。
62×268万1400円÷(268万1400円+297万6000円)=29
エ 養育費月額について
上記ア及びウによれば,未成年者らが申立人と同居している場合に(3人の)未成年者らに分配される生活費は次の計算により144万9827円となる。
268万1400円×(62+62+62)÷(100+62×3+29×2)=144万9827円
これを申立人と相手方との間で基礎収入の割合で分担すると,申立人の分担する養育費は次の計算により105万5393円となる。
144万9827円×268万1400円÷(268万1400円+100万2123円)=105万5393円
上記養育費を1人月額に換算した額を目安に,申立人がFの費用負担で家電製品を購入したり(甲20),通信契約をする(乙8)など,役員報酬以外の実質的な収入があることが推認されること等本件における一切の事情を考慮すれば,本件の養育費は1人月額3万5000円とするのが相当である。
- 横浜家裁川崎支部令和3年12月17日審判
(4)上記1(6)によれば,申立人の年収は786万0588円と認めるのが相当である。基礎収入割合は40%とみるのが相当であるから,基礎収入額は314万4235円となる。申立人の再婚相手は収入を有するが,未成年者を扶養する義務を負わないから,その収入を申立人の収入とみることはできない。
上記1(7)によれば,相手方の年収は,給与年額720万円に賞与120万円を2度加えた960万円と認めるのが相当である。基礎収入割合は40%とみるのが相当であるから,基礎収入額は384万円となる。
(5)上記のとおり認定した相手方の基礎収入を基に,未成年者の生活費指数を85,相手方の再婚相手,相手方の長女及び二女の生活費指数をいずれも62として,相手方が未成年者に充てられる生活費を計算すると,87万9784円(≒384万円×85÷(100+62+62+62+85))となる(1円未満四捨五入)。
これを,申立人及び相手方の基礎収入額で按分すると,月額4万円(≒87万9784円×{384万円÷(384万円+314万4235円)}÷12か月)となる(1000円未満四捨五入)。
以上を踏まえ,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,相手方が申立人に対して負担すべき未成年者の養育費額は,月額4万円とするのが相当である。
(6)また,本件の経緯等に照らすと,本件審判において形成すべき養育費の始期については,申立人が本件調停事件を申し立てた令和3年2月とするのが相当である。そうすると,令和3年2月から同年11月までの未成年者の養育費は40万円(月額4万円×10か月)となる。
上記1(8)によれば,相手方は,申立人に対し,前件調停で定めた養育費として,令和元年10月13日,令和2年1月15日,同年4月13日,同年7月15日,同年10月14日,令和3年1月13日,同年4月13日,同年7月13日,同年10月13日に,それぞれ5400人民元を,D銀行の未成年者名義の口座に振り込んで支払ったが,そのうち令和3年4月13日,同年7月13日,同年10月13日の支払分合計1万6200人民元(=5400人民元×3回)は,本件審判において形成すべき養育費の始期以後に支払われたものであるから,既払となる。1人民元の為替レートは17.22円であるから,既払額を日本円に換算すると27万8964円(=1万6200人民元×17.22)となる。よって,未払の養育費は,12万1036円(=40万円−27万8964円)となる。
-
大阪高裁平28年10月13日決定
「(6) 抗告人(*義務者、父親)は、平成二八年七月一一日、Pと婚姻し、同日、同女の長男(平成一二年××月××日生。一六歳)と養子縁組を行い、上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。」
(2) 同三頁一五行目〈同七二頁四段二九行目〉の「基礎収入」の次に「(抗告人は二二四万〇六一六円(基礎収入割合五一%。月額一八万六七一八円)、相手方は八一万七七二五円(基礎収入割合三九%。月額六万八一四三円))」を加える。
(3) 同三頁二一行目〈同七三頁一段七行目〉の末尾に改行して次のとおり加える。
「 もっとも、未成年者は上記進学に伴い入寮し、上記学費の相当部分が食費、光熱費を含む寮費に充てられるところ、上記入寮の限度で相手方は食費及び光熱費の負担が軽減することが認められる。そして、上記負担の軽減される額について検討すると、一級地−一における生活扶助基準の居宅第一類(飲食物費、被服費等個人単位で消費する費用)が一五歳〜一九歳で月額四万五六七七円、居宅第二類(光熱費、家具什器購入費等世帯全体で消費する費用)が世帯人数一人で月額四万三七九八円、同二人で月額四万八四七六円であること、世帯人数の減少が直ちに人数に応じた支出の減少につながるとはいい難いこと及び標準的算定方式により算定される養育費の額及び相手方の基礎収入額を考慮すれば、食費につき上記四万五六七七円の約六割に当たる月額二万七〇〇〇円が軽減され、光熱費につき上記世帯人数二人の生活扶助基準額と同一人の額の差の約四分の一に当たる月額一〇〇〇円が軽減されると認められる。したがって、この月額合計二万八〇〇〇円を養育費から控除すべきものである。
(4) また、抗告人は、平成二八年七月一一日、Pと婚姻し、同日、同女の長男(一六歳)と養子縁組を行い、上記長男に対する扶養義務を負担するに至った。これを前提として抗告人の未成年者に対する養育費の額を標準的算定方式により算定すると、月額四万四〇〇〇円程度となる。
(計算式)
一八六、七一八×(九〇÷(一〇〇+九〇+九〇))≒六〇、〇一六
六〇、〇六一×(一八六、七一八÷(一八六、七一八+六八、一四三))≒四三、九六九」
- 神戸家庭裁判所姫路支部平成28年7月1日審判
(1)申立人の給与収入は、平成二七年においては、上記認定の平成二六年の収入により、年二〇五万〇三三二円、平成二八年においては、上記認定の平成二七年
の収入により、年二〇九万五四五一円とみるのが相当である。
相手方の事業収入は、平成二七年においては、上記認定の平成二六年の確定申告書により、五一八万二九六六円(=四、九七八、九五一−四四五、九八五+六五〇、
〇〇〇)、平成二八年においては、上記認定の平成二七年の確定申告書により、四三九万三三六五円(=四、一六八、四八五−四二五、一二〇+六五〇、〇〇〇)とみ
るのが相当である。
(2)これらを、上記算定方式に基づく算定表のうち「表二 養育費・子一人表(子一五〜一九歳)」に当てはめると、平成二七年においては「八〜一〇万円」の
枠の下域に、平成二八年においては「六〜八万円」の枠の下域に位置する。
(3)未成年者は、平成二八年四月、私立高校に進学した。その学費及び入学金については免除されているものの、寮費等に年間約八五万
五六〇〇円がかかる。相手方は、未成年者が同校に進学することに同意しているのであるから、学費及び入学金が免除されていることも考慮し
て、算定表において考慮されている公立高校の学校教育費相当額三三万三八四四円を超過する五二万一七五六円については、申立人と相手方と
で、基礎収入に応じて按分して負担するのが相当である。したがって、相手方は、三八万二三一三円(月額三万二〇〇〇円程度)を負担すべき
こととなり、これを上記(2)のとおり標準的算定方式の算定表への当てはめによって得られた養育費分担額に加算すべきである。
(計算式)
五二一、七五六×四、三九三、三六五×〇・五一÷(四、三九三、三六五×〇・五一+二、〇九五、四五一×〇・三九)
(4)そうすると、当事者双方の生活状況等、本件記録から認められる諸般の事情を考慮し、上記学費を加算して修正した養育費分担額は、平成二七年においては
月額八万円と、平成二八年一月分から同年三月分までは月額六万五〇〇〇円と、同年四月分以降は九万七〇〇〇円と定めるのが相当である(申立人は、平成二八年四月
五日付けの回答書において、養育費としては月額八万円を希望する一方、同月七日受付の書面において、学費等に関して別途支払うよう求めているので、平成二八年四
月分以降につき、上記(3)の点を考慮して八万円を超えて定めることとする。したがって、申立人が相手方に対して半分の負担を求める未成年者の高校入学時に要し
た費用については、算定表及び上記(3)の修正によって考慮済みである。)。
- 大阪高等裁判所平成27年4月22日
決定
「ウ 上記イによれば,長女の大学の学費等は年額66万5800円(53万5800円+13万円)となるところ,標準的算定表では基礎収入の算定において公立高校を前提とする標準的学習費用として年33万3844円を要するものとして予め考慮されていることからすると,標準的算定表の試算額を超える長女の学費等は33万1956円(66万5800円−33万3844円)となる。そして,当事者双方の収入等からすると,仮に,当事者双方が離婚していなかったとしても,当事者双方の収入で長女の学費等の全額を賄うのは困難であり,長女自身においても,奨学金を受けあるいはアルバイトをするなどして学費等の一部を負担せざるを得なかったであろうことが推認されることなどからすれば,上記超過額のうち,抗告人(*父)が負担すべきものは,その3分の1とするのが相当である。したがって,抗告人が負担すべき長女の学費等は年間11万0652円(33万1956円×1/3)となり,1か月当たり9000円(1000円未満切捨て)となる。」
「(3) 以上によれば,抗告人は,長女の養育費として月額3万円(2万1000円+9000円)を,二女の養育費として月額2万1000円をそれぞれ負担すべきである。」
(6) 同7頁21行目の「満22歳に達する月までとし」を「大学を卒業する見込みの満22歳に達する年の翌年の3月までとし」に改める。
(7) 同8頁1行目の「上記のとおり」から同2行目の「同月以降」までを「したがって,抗告人は,相手方(*母)に対し,平成26年□月から平成27年3月までの長女及び二女の養育費として□□万円((3万円+2万1000円)×□□)を直ちに,同年4月以降,長女については満22歳に達する年の翌年の3月まで毎月末日限り3万円を,二女については満20歳に達する日の属する月まで毎月末日限り2万1000円を支払わなければならない。なお,平成26年□月以降」に改める
- 東京高等裁判所平成22年7月30日決定(家庭裁判月報63巻2号145頁
)
ア 抗告人(子)の1年間当たりの学費関係費用は,次の各金員の合計約65万円である(前記認定事実,一件記録)。
(ア)学費 53万5800円
(イ)交通費 8万2320円
(ウ)テキスト代 3万0000円
一方,抗告人が受領している奨学金は,1か月当たり4万5000円(年額54万円)であり,年額11万円(1か月当たり9166円(1円未満切捨て))
が不足する。
イ 他方,学費関係費用を除く生活費等の不足分については,抗告人が母C及びDと同居しているため,抗告人単独の分を算出することは困難であるが,便宜,従前の養育費(1か月当たり11万5000円)を基準とし,養育費算定に当たり学校教育費として考慮されたものと認められる学校教育費(15歳以上の子につき年額33万3844円)を控除すれば,上記不足分は,次の計算式により5万7179円である。
(計算式)
11万5000円(月額養育費)−33万3844円(年額学校教育費)÷12か月−3万円(抗告人の月額アルバイト収入)=5万7179円(1円未満切
捨て)
4 前示の諸点の検討に加えて,相手方(父親)が原審第3回及び第4回の期日において話合いによる場合との留保を付しつつも「1か月当たり3万円を限度として扶養料の支
払に応じるが,平成22年×月の前月である同年×月分までの過去分の支払意思はない。」旨の意向を有するものと認められることを併せ勘案すれば,本件の事実関係の
下においては,相手方は,抗告人に対し,上記学校関係費用の不足額9166円及び生活費等の不足額5万7179円の合計6万6345円のうち3万円を扶養料として
平成22年×月から抗告人がその在籍する大学を卒業すると見込まれる月である平成24年×月まで毎月末日限り支払うこととするのが相当である。
登録 Oct. 29,1998
港区虎ノ門3丁目18-12-301(神谷町駅1分)河原崎法律事務所弁護士河原崎弘 03-3431-7161