貞操侵害による慰謝料請求/愛人の権利を認めた例

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Last update 2015.5.31mf
弁護士河原崎弘

相談:年配の上司に誘惑された娘

私の娘は、学校を卒業し、テレビ局に勤めました。勤めて1年位して、上司(37歳、妻と子どもがいる)が嘘を交えて娘を誘い、肉体関係を持ちました。娘は19歳でした。男性は、「妻とは寝室も別で、うまくいっていない。妻と別れて結婚したい」と言い、娘に交際を迫りました。娘は男性経験がなかったため、考えが浅く、結婚してくれるものと思い、ずるずると関係を続け、妊娠してしまいました。
娘が妊娠した頃から、男性は離れて行きました。その後、娘は男の子を出産しました。
男性は、出産費用として10万円くれましたが、その頃は、もう娘からは完全に離れていました。
生まれた子どもは可愛いのですが、娘が哀れでなりません。娘は、慰謝料は請求できないのでしょうか。子どもの養育費はどうですか。
娘を伴い、母親が法律事務所を尋ね、弁護士の意見を聴きました

回答

原則・・・婚約は公序良俗に反し無効

娘さんが妻ある男性との間で結婚の約束をしても、それは公序良俗に反して無効です(民法90条)。法律は、このような約束を保護しません。 従って、原則として慰藉料は認められないでしょう。

判例

例外・・・愛人の権利が認められた

しかし、女性が男性に妻がいることを認識している場合でも、例外的に、不倫関係でも貞操侵害として慰謝料が認められたケースがあります。男性が「事実上離婚している」などと嘘を言っている場合、年齢差が大きく男性が女性を支配している場合など、男性側の違法性が著しく大 きいと評価できる特殊、例外的な場合に限り、愛人から男性に対して慰藉料請求が許されるのです。
昭和44年9月26日の最高裁の判決では、「女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰藉料請求は、許される」と述べています。
不倫相手の男性が。「妻と離婚して、あなたと結婚する。結婚しなかった場合は、慰謝料399万円を支払う」との誓約書を書いた場合、誓約書を有効とし、慰謝料399万円を認めた判決もあります。
次のような場合に、愛人の女性から男性に対する慰藉料が認められます。愛人の女性の行為は違法だが、男性の行為は、もっと違法性が強い場合です。

小  著しく大
女性側の違法性< 男性側の違法性

注目すべきは、裁判所は、男性と愛人(不貞関与者)の交際を共同不法行為として、男性の妻から愛人に対する慰謝料請求を認めながら、他方で、愛人から男性に対する慰謝料請求を認めている点です。
下記の図の通りです。以後の判例は下記表の通りです。

愛人(不貞の相手方)および妻の慰謝料請求権の関係図
本件では、 娘さんは、男性に対し、慰謝料請求ができ、子供の養育費 も請求できます。慰謝料は200万円〜300万円、養育費は、男性の収入によります。
他方で、娘さんは、男性の妻に対し慰謝料支払い義務があります。金額は100万円くらいでしょう。
下に判例に表われた慰謝料金額を表にしました。左側の慰謝料は、昭和44年以前は、認められませんでした。

判決日不貞関与者(愛人)→不貞配偶者配偶者(妻)→不貞関与者(愛人)
S44.9.2660万円
59.1.1970万円
59.2.23250万円
H4.10.27300万円
15.6.24200万円80万円
19.2.15438万円165万円
23.12.1375万円150万円

判例

相談者の場合

判例では、女性が若く、思慮分別のないことに、男性が付け込んだ、ひどいケースです。慰謝料が認められましたが、金額は小額です。

以上の判例を考えると、娘さんは、当時、未成年でしたので、100万円〜250万円位の慰謝料は認めてもらえます。子どもの養育費は認められるでしょう。
娘さんは弱い立場にいます。そこで、相手の男性と話し合い、娘さんと子供の今後の生活費などにつき書面で取決めたらいかがですか。男性と別れることを前提にした娘さんと子供の生活費についての契約は、次の判例をみても、法律上有効です。

判例


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