売掛金を貸金にする準消費貸借契約の場合の消滅時効
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2022.12.16mf
弁護士河原崎弘
相談:貸金に切替えた準消費貸借の場合の時効
当社は、衣料品販売の仕事(婦人服の卸)をしています。当社が、顧客の会社(衣料品の小売業)に販売した代金が、滞り、260万円にもなってしまいました。当社は、新規の販売を止め、顧客の要望で、売掛金は貸金に切替え、月額10万円の分割で支払ってもらうことになりました。
ところが、最近、この分割金の支払いが滞りだしました。この2年間ほど支払いがありません。
商品の売買代金は2年間で消滅時効にかかると聞きましたが、当社の債権も時効消滅しているのでしょうか。
弁護士の回答:貸金として時効期間を計算する
滞納している売掛金を、債務者が一括して支払えず、分割払いにするには、債務弁済契約書 にする場合と
準消費貸借契約書にする場合があります。前者は、単に分割払いにする場合、後者は、貸金に切り替える場合です。
債務弁済契約にする場合は、新債権(債務)と旧債権(債務)の法的性質は、同じですので、消滅時効期間に変化はありません。ただし、時効の進行時期は変わります。
他方、準消費貸借契約書にした場合は、売買代金債権が貸金債権に変化します。
債務弁済契約と準消費貸借契約の違いの表
| 旧債権 | | 新債権 | 債権の性質 |
債務弁済契約 | 売買代金債権 | → | 売買代金債権 | 変らず |
準消費貸借契約 | 売買代金債権 | → | 貸金債権 | 変化する |
契約を変えた時期がいつであるかによって、適用する法律が新法か、旧法かの違いがあります。
改正民法施行前(2020年3月31日以前)
旧法の場合は、売買代金債権で消滅時効期間が2年であったのに、貸金債権になったので、消滅時効期間は5年となります(事業者=商人の場合、旧商法522条)
相談者の場合は、準消費貸借にしたのですから、債権の時効は5年に延びています。
改正民法施行後(2020年4月1日以後)
新法の場合は、売買代金債権で消滅時効期間が2年であったのに、貸金債権になったので、消滅時効期間は5年となります(民法166条1項)。商事債務の規定は廃止されたので、債務弁済契約にした場合と貸金にした場合に違いはありません。
判決
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東京地方裁判所平成16年2月26日判決(出典:判例秘書)
消滅時効の成否
被告らは,原告のAらに対する上記各支払請求権は,売掛代金債権の短期消滅時効の規定(民法173条1号)に従い,Aらの
期限の利益喪失時から2年後の平成13年11月15日の経過をもって時効消滅したと主張する。
しかしながら,前記のように,原告とAらとの間で既存債務を消費貸借の目的とする旨の合意が存した以上,爾後の法律関係は消費貸借に関する規定の規制に服するものと解するのが相当であって,殊に債権の種類・性質に応じて客観的な定めの存する消滅時効の期間については,既存債務に関する規定によるべきではなく,当該準消費貸借契約の性質に着眼し,同契約が商行為か否かにより決
せられるべきである。
しかるところ,前記のように,本件契約は,原告,Aら商人間で締結されたものであって,商人がその営業のためにするものと推定され,商行為の性質を有するものと解される(商法503条)。
したがって,原告のAらに対する上記請求権は商行為によって生
じたものであり,5年の消滅時効期間の適用があるから(商法522条),被告らに対する訴状送達時においても,未だ時効期間が経過していないことが明らかである。
よって,被告らの上記抗弁は理由がない。
- 大阪高等裁判所昭和53年11月30日判決(出典:金融・商事判例566号31頁)
そこで被控訴人らの消滅時効の抗弁につき判断する。本件準消費貸借契約は、前記のとおり被控訴人昭義の前記靴下製造販売業
の倒産後における残務処理のため結ばれたものと認められ、したがつてそれが右営業の継続、再開をはかるため結ばれたとみることは
できないが、しかし商人がその本来の営業活動を継続することが困難となり、あるいはその継続意思を失うことによりこれを終了させ
たからといつて、直ちにその商人たる資格を喪失すると解することは相当でなく、その営業廃止の後始末としていわゆる残務処理がな
されている間はその関係でなお商人たる資格を失わないというべきであるから、その行為が少なくとも客観的にみて右にいう残務処理
行為に属することが明白である限り、その本来の営業活動と密接に関連していることでもあり、これまた商行為に該当すると解するの
が相当である。そうすると本件準消費貸借契約による被控訴人昭義の債務は、第1項に認定した右契約が結ばれた経緯すなわち右にい
う残務処理行為として結ばれたことが極めて明白である事実等に照らせば、いわゆる商行為によつて生じたものとみることができるか
ら、右債務についての前記弁済期から満5年を経過した時点をもつてすでに時効により消滅したというべきである。
登録 2009.12.27
(虎ノ門 弁護士河原崎弘)