山で楽しむ自作機運用


1・トランシーバを作ろう

そもそもトランシーバを自作しようなどという大それた思いを実行に移してしまったのは「山と無線26号」でJH1HRT津村さんの書かれていた「山で自作のトランシーバを!?」という記事に触れたこと、それに幸運にも近くにいた自作の好きなローカル局の存在だった。

(自作トランシーバをJARL測定コーナーで
計測する。・2000年ハムフェアにて)

自分には子供の時に何度か電子工作をやっただけの乏しい経験しか無いながらも、アマチュア局を開いてからは何か作ってみたいという思いはあった。子供の頃のラジオ少年の気持ちが間違いなく復活していた。しかしいかんせんトランシーバだ。ある意味自作の頂点に位置しており自分がトライするには無理があるように思えた。が津村さんの記事と、時同じくして自作のトランシーバ製作に成功していたローカル局(7MIXPR青木さん)の存在がやってみようかという気にさせてくれたのだった。自分で作った無線機が実用になれば文句無く嬉しい。ましてや山頂でその無線機で運用できれば、「山と無線信奉者?」にとってそれは、間違えなく究極の喜びの一つに挙げられよう。

真空管を取り揃え配線から板金加工まで何もかもフルスクラッチビルドをした偉大なるOMの時代から幸いにもアマチュア無線界は変わっており、初心者にとっては大変ありがたいキットが何種類か発売されている。それらは50MHzバンドのSSBトランシーバのキットが主流であるがそれは開局以来の自分のメインバンドである。

さて実際にCQ誌を繰ると何種類かのキットの広告を見つけることが出来る。サーキットハウス、福島無線通信機、アイテック電子などがキットの発売元として見つけられよう。私はその中の計3種類のキットにトライした。サーキットハウスのキット、それにアイテック電子のキット2種類・・・。なぜ3種類かというと理由は簡単で、第1号機はあまり上手く動作しなかったために2つめに、2つめは動作・性能ともに満足な結果だったために、今度はそのステップアップ版ともいえる3種類めのキットにトライしたのだった。

最初にトライしたサーキットハウスのキットであるが、作り方のせいか周波数のドリフトが大きくそのままでは実用に向かなかった。また受信感度も今一つで59の局も蚊の鳴くような音でしか聞こえない。受信感度については受信系の初段にMOS-FETのプリアンプ(サトー電気のキット)を挿入して良好な結果を得られたが問題はドリフト対策で、サーキットハウスに問い合わせ部品を変えたりして色々トライしたのだが思うようにいかなかった。初心者の出せる手は尽きたように思え、お倉入りの運命を辿ることとなった。もっとも同社のキットはVXO部にバリキャップダイオードを用いるというその回路構成上周波数が不安定であり、それを如何に対策するかという記事が後のCQ誌に掲載されていた。(1998年5月号、JH7OZQ氏寄稿)又受信感度の件もそこには同様に記されており、自分だけではなかったのか、と変に安心したりもした。

今思えば最初からそうすれば良かったのだが次にトライしたのがアイテックのビギトラ(ビギナーのためのトランシーバキット)であり、これこそがローカルの青木さんも製作されたキットそのものである。また津村さんの寄稿を読めば同氏もこのキットを作ったのではないかと想像された。

アイテック電子のJA7CRJ千葉さん設計による当キットにはCQ出版社から「ビギナーのためのトランシーバの製作入門AM SSB編」という製作ガイドも出ておりそのガイドの回路説明から製作・調整ポイントまでを細かく記した内容とあわせ、看板に偽り無し、実に作りやすいキットであった。 11MHzの水晶を用いて11MHzのSSB信号を作り出すSSBジェネレータ基板、今度はそれに13MHzの水晶を用いてその3逓倍周波数(39MHz)を取りだすトランスバータ基板、そしてその両者をあわせて目的の50MHzの信号を得るという回路はSSBトランシーバの基本構造を理解するのに持ってこいと言える。それを懇切丁寧に教える教科書とその実践用キットだ。半田付けと部品の入れ間違えミスさえなければ、後は調整だけである。調整にはややコツと根気がいるがそれもなかなか楽しいプロセスだろう。しかもアイテックに事前に確認したところ有償で修理もしてくれるとのことで、万一動作しなくても心強かった。

じっくりと時間をかけて作ったこのキットは幸いなことに無事動作した。いや幸いではなく、再現性・作り易さを追求したキットだったからこそ自分が作っても無事に出来上がったと言うべきかもしれない。えも言えぬ満足を味わっていたその頃、同社の新製品がCQ誌の広告に載っていた。ビギトラを更に発展させたキットのようだった。アイテックのキットに対する満足感・安心感と完成に味をしめて燃えていた自作意欲のおかげで、早速挑戦してみた。これが3種類目のキットのアイテック電子の50MHzSSBトランシーバTRX602である。

2・TRX602:

TRX602は先のビギトラをよりアップグレードした機種で、「ビギトラ」では同一基板であったトランスバータ回路と周波数可変を受け持つVXO回路が今度は2枚の別々の基板になっている。RIT回路も付き、又SSBジェネレータも新設計のものでAGCの強化、高感度などがうたわれている。出力も「ビギトラ」では設計値150mWだったのが500mWに強化されている。11MHzでSSBを作り13MHZの3逓倍と組み合わせて50MHzを得る、という基本構成は「ビギトラ」と同じであるものの、これは全くの別物であり、実際部品点数も多い。

SSBジェネレータ基板、トランスバータ基板、VXO基板の計3枚の基板と各々の実装用部品と解説書がそれぞれキットとなってばらばらに販売されているが、別に3種の基板と解説書、それにケースまでを1パッケージにまとめた総合キットも販売されている。どっちにせよやや値段は高いが、私は安易に総合キットを買い求めた。ケースにはスピーカやラジケータ、マイク端子などももう付いており、改めてそれらを買う手間が省けた。(ケースそのものに関してはやや自分には難があり結局使用しなかった。後述)

3・製作:

製作に当ってはそれぞれの取説を参考に3枚の基板を順に作り最後にまとめあげる、という全部で4ステージが挙げられる。各々の取説には例によって回路の意図やノウハウから製作上の注意点などが実に細かく記されているのでそれに従う。各基板の製作は、やみくもに部品をハンダ付けしていくのではなく、基板上の各回路部分(AF出力回路、検波回路、IF増幅回路、周波数変換回路、電力増幅回路など)を別に作っていくように細かくステップ分けがされているのでその通りやっていけばよい。何ステップも欲張ると馴れた人ならともかく自分のような素人はミスに陥りやすい。一日1ステップから2ステップあたりをミスがないか何度も確認しながら作っていくのが良いのではないか、と思う。しかし、この詳細なステップ指示と解説は回路設計者(JA7CRJ・千葉さん)のノウハウが惜しみなく出ているので、実際ここまで教えてくれるのか!?と頭の下がる思いがする。

各ステップの製作は実際に取説どおりにやっていけば良いので、ここでは改めて記する事も無い。(それに作って2年以上経つので実際その詳細を忘れている・・)。ただ実際の製作に当って自分が注意した点は

- 基板上のシルク印刷を過信しないで取説上の回路図とも照合の上部品を挿入する。(部品の乗数が変っているケースや両者に矛盾がある個所が何度かあった。)
- 抵抗部品を挿入する前にカラーコードのみではなくその値をテスターで計測してから挿入した。
- 局性のある部品の方向を回路図とシルク印字でダブルチェック。(トランジスタ、FET、ダイオード、電解コンデンサなど)
- ハンダ付けが終わったら実装面から各部品に触れぐらつきはないか確認する。又歯ブラシでハンダ面を良く掃いてルーペを使ってハンダ面をチェックする。ブリッジやイモハンダなどのハンダミスをこれで防ぐ。

これらは自作に馴れている人なら改めて書かずとも当然のように自動的に行っている事かもしれないが自分には特記事項であった。

各ステップを確認しながら基板が完成すれば次は確認・調整ステップとなる。

4・調整:

1)調整機器
高周波機器は組み上げてもきちんと調整をしないと動作はしない。そこが同じ自作でも電源や充電器などの低周波機器との違いだろう。高周波機器の最たるものの一つであるトランシーバもその例外ではない。いくつかの調整機器が必要になるが上を見てもキリが無いのでできるだけ手近なもので揃えたい。

- テスター:アナログ式の1000円テスターでも結構使える。(特に後述のRFプローブと組合すにはアナログ式のほうが分かりやすい。)一方デジタル式は絶対値がすぐに読めるし、これはこれで使いやすい。

- RFプローブ:高周波電力の大小を計るために必要。ダイオードと真鍮の棒ですぐに作れるが簡単なのはFCZ研究所から出ているキットだ。先のテスターにつなげて使う。(FCZキット、寺子屋シリーズ006B)

- コイル調整用ドライバ:これは調整用機器と言うより工具だが、コイルやトリマコンデンサを金属のドライバで回すと浮遊容量の関係で正しく調整が出来ない。セラミックの高周波ドライバは1000円近くして手が出ない。そこで再びFCZにお世話になる。自分で削るアクリルの棒が100円程度で販売されている。(FCZキット、寺子屋シリーズ027A)

- ディップメータ、周波数カウンタ:このあたりが最も「特殊な」機器に入るかもしれない。特に周波数カウンタは正確な発振周波数を確認するのに必要になるのでこれがないとどのように調整をすればよいのだろう・・。自分の場合は幸いにもアンテナの調整に使っていたMFJ社のアンテナアナライザ・MFJ259があった。これはオプションのディップコイルを先端につければディップメーターにも、又周波数カウンタ用のコネクタもあり、一挙両得、なかなかのスグレモノである。

- ジェネレルカバレッジ受信機:SSBジェネレータの11MHzの発振や、トランスバータの3逓倍周波数である39MHzの発振を確認するのに必要。ジェネラルカバレッジ受信機と書くと大げさだがHF帯の無線機があれば代用できる。固定機であればハムバンド以外の受信も可能だろう。

- トーンジェネレータ:出力調整をする際には何らかの信号源をトランシーバに入れてやる必要があるが、口笛を継続してマイクに吹きかける訳にもいかない。マイクにブザーのような物をひっつけてそれをならすという手もありそうだが便利なのはトーンジェネレータ。700Hzあたりのトーンを発生させそれをマイク端子から注入して出力を調整する。トランジスタといくつかの抵抗やコンデンサで発振回路はすぐに作れるようだ。原理がわからない自分はなんでもキット頼みとなる。低周波発振キットはサトー電気からも出ているが、私は秋月電子の「トーンジェネレータキット」を使った。トーン発振ICを使った秋月の当キットは部品も少なく、簡単に作れる。

- QRPパワーメータ:ただのパワーメータなのだが相手となるトランシーバがmW単位のオーダーとなるのでやはりQRP用のパワーメータがあったほうが便利だろう。もちろん普通のパワー計でも良いのだが・・・。再びFCZのキット。QRPパワーメータ(FCZキット、寺子屋シリーズ206)

トーンジェネレータとQRPパワーメータの2つは無くても他で代用がききそうだ。

2)調整調整機器がそろえば次は実際の調整。各基板の調整も取説に従ってステップ毎に行う。各基板とも詳細な調整方法が再び取説に記されているのでそれに従う。上述の調整機器を上手く使いながら調整していく。送信系の調整にはRFプローブが思いのほか活用できる。非常に簡単に作れてしまう測定器であるが、発振すべき箇所で発振しているかいないかが感覚的に読め、出力不良等のときは前段から後段へ順に増幅段ごとにプローブをあてていくと失敗箇所などを見つけられる。

5・ケース入れ:

(「ビギトラ」のケースに新たに中身を
入れ直したTRX602。)
(初代のケース。10ヶ月程度使用。12月の
雲取山山頂避難小屋にて運用中。)
「ビギトラ」ケースの中身。

各基板が出来上がり調整もすめば次はいよいよケースに入れる。ここで問題。上述のように私はケース付きのキットを買ったのだが、「ビギトラ」のキットに付属していたアルミ製のケースに比べ今度は黒の塗装がされた鉄製のケースで、「ビギトラ」ケースの1.5倍近くあろうか、見てくれは良いのだがザックに入れて持ち歩く事を考えればそれはいかにも大きく重かった。

そこでパーツ屋で適当なケースを探し出し一度組み込んでみた。別に作ったリニアアンプ基板(2SC1971使用・出力4W程度、後述)も内蔵させる。スピーカを前パネルに置いて一昔前の受信機風のデザインを狙ってみた。悪くは無いのだがどうもしっくりこない。穴あけなどが未熟な事もあり、自作機とはいえややみすぼらしい。それにアルミの底部と鉄の蓋部のコンビネーションのケースで、やはり重い。10ヶ月程度使用してみたが、これ以上何か回路を追加しようとしてもスペースがなく、更に新たなケース入れを考えてみる。

「ビギトラ」のケースに3枚の基板が入らないだろうか?あれこれ考える。「ビギトラ」を作製したローカルの7M1XPR・青木さんは2枚の基板を2段重ねにしてスペースをセーブして、その分「ビギトラ」の純正アルミケースの余った奥行き方向の部分を切り落とし、随分とコンパクトなケースに改造されていたのが念頭をよぎった。2階建てか・・。TRX602の場合もSSBジェネレータ基板とトランスバータ基板を2段重ねにし、VXO基板は付属のシールドケースごと横置きにすれば「ビギトラ」ケースに入りそうだ。方眼紙を広げてサイズを書き込んでみる。SSBジェネレータ基板を下にして、その上にトランスバータ基板を載せてみよう。高さはぎりぎり大丈夫。が、先に作ったリニアアンプはこのままでは入るスペースが無い。リアパネルの部分が丸ごと空いておりここに組み込めないだろうか?検討するとぎりぎりだが入りそうだ。リニアアンプをその大きさに作りなおせばいいだろう。コンパクト化への道が開け、興奮する。早速アイテックから「ビギトラ」用のアルミケースを購入した。

「ビギトラ」と違いこちらはツマミが多いし(RIT回路用のツマミ)バーニアダイヤル等を採用しているのでフロントパネルはそのままでは使えない。それぞれのレイアウトを考え穴を追加で開ける。開ける穴は少ないほうが良いだろう。電源やRIT用のスライドスイッチなどはスイッチ付きのボリュームに変えてしまえば兼用できてその分穴あけは不要になる。自分は工作全般に大雑把なのだが、特に穴あけなどの板金加工が苦手で必ずズレやガタが出てしまう。まあ自作のご愛嬌、と自己正当化する。

若干サイズに余裕が出たので、青木さんの真似をさせていただく。わずかに2,3cmだがケースの縦方向の部分を切り落とした。例によって切断面はガタガタでヤスリがけしてもみすぼらしかったがまたもや自己正当化で切りぬける。少し小さいケースとなって、満足する。もちろん純正の鉄のケースとは、比較にならない小型軽量化の実現だ。心配していた基板2枚重ねによる発振等のトラブルもなかった。

尚、バーニアダイアルは微妙なチューニングに大変便利だが、オリジナルのままではバーニアダイアルの目盛は実際の周波数と関係がないので、自分の居る周波数がどこなのか直感的にはわからない。ローカルの青木さんは「ビギトラ」に載せたバーニアダイアルに独自の工夫をされていたので、またもやアイデアを借用させていただいた。それはもともとはツマミに連動していたバーニアダイアルの目盛板をはずし、代わりに矢印型の透明のアクリル板をつける。プラバンでバーニアダイアル本体側に蓋をして、そこに実測した周波数を書いていくというもので、ツマミを回すと周波数を書き込んだプラバンの上を矢印型の透明なアクリル板がツマミに連動して回っていく。こうすると自分の周波数がすぐにわかる。アイデアマンの青木さんらしい、コロンブスの卵のような発想だと思う。

6・苦労したVXO:

アイテックのトランシーバのVXOはポリバリコンで容量を変化させ周波数を動かすと言うものだが、どの周波数までカバーさせるかはポリバリコンとクリスタルに直列でつながっているFCZコイル(FCZ7S3.5)をまわして決める。作りっぱなしでは多分50.250MHz付近で発振するので、それをFCZコイルをまわし適当な下限になるまで調整するというものだ。可変幅は大きければ大きいほど良いがその分周波数安定度は悪くなる。上手く折衷点を見つけなくてはいけない。自分の場合何ポイントか求めてみてが、どうも周波数の安定度が低い。交信していてマイクを離すと相手はかなりずれてしまっている。

VXOの可変幅の拡大化とそれに相反する安定化は多分VXO方式のトランシーバの自作を試みるアマチュアがもっとも苦心する点の一つだろう。幾つかの対策方法が文献などで明らかになっている。

(VXO部。クリスタルを2個
並列接続。手巻のコイル
はこのようなラフ?な巻き
方でも問題なかった。)

(1) スーパーVXO:VXO発振に使う13MHzのクリスタルは通常1個使っているが、これをもう一つパラレルに使う(計2個の同じ定格のクリスタルをパラレルに使う)方式。

(2)クリスタルに小容量のコンデンサをパラにつなぐ:スーパーVXOは同じクリスタルを並列に並べるが、この方式はクリスタルではなく小容量のセラミックコンデンサをクリスタルにパラレルに接続するもの。(5pFあたりから1pFあたりまでを順にトライしてみる高容量のもののほうが可変幅が広がる。)

(3) クリスタルと直列につながっているコイルを特性の良いものに変える:TRX602ではここにFCZコイルを使っているが熱などによるインダクタンスの変化が激しくそれが周波数の不安定化に寄与している。ここに固定値のマイクロインダクタを入れることにより安定度はぐっとよくなる。(8μHから12μHあたりを色々トライしてみる。)

(1)と(2)のどちらか方針を選び、それに(3)の適切なケースを組み合わせてそれなりの可変幅と安定化を得る。組み合わせは無数にありそれぞれデータ取りに時間がかかる。 (1)と(2)であるが自分の場合まずは(2)のケースをトライしたが、満足にいたらず、最終的にスーパーVXOで行こうと決めた。後は(3)のコイルの選択。キットの取説にも書いてあるが安定度を悪くしているのにはこの(3)のFCZコイルが影響を与えている事は確かなのだ。いかに特性の良いマイクロインダクタを組み合わせて満足の行くところを得られるかを課題とした。

この頃になると幸いな事に同じ市内や県内にTRX602を作った、あるいは製作中、という何局かと電波を通じて知り合いとなっていた。当然頻繁に情報交換を行うようになり、各局の話題はやはりVXOに集中した。皆それなりに苦労をしているようだった。交信を通じてJK1BMK・青木さんから耳よりな情報を頂いた。彼はスーパーVXOに加え(3)のコイルにマイクロインダクタではなく自分で巻いた空芯コイルを使ってかなりの安定度を得たという。コイルのような繊細なものを自分で巻くなんて上手くいくのだろうか?という疑問を感じたが、早速挑戦してみた。

空芯コイル用のボビンは秋葉原の千石電商で求める。0.3mmのウレタン線をゆっくりと巻きつけていく。JK1BMK・青木さんは7mm径ボビンに0.27mmウレタン線を52回辺り巻いたあたりで良い値を見つけられたと言う。自分も57回辺りから何度か少しづつ解いては挑戦してみる。今までとは安定度が明らかに違っているのには驚いた。巻き方のスマートさはあまり問題ではないようだった。ようやく見つけた安住の地(?)という感があった。

最終的に自分が落ち着いた設定は以下の通り。

発振 スーパーVXO (13MHz水晶をパラレルに接続)
コイル 空芯コイル(7mm径プラスチックボビンに0.3mmのウレタン線を52回巻いたもの)
可変周波数 (電源電圧13.8V、室温22度、受信状態にて計測。時間ごとに試験電波を発信し、もう1台の受信機で最良な復調ポイントを求めた。)
電源投入時 50.166.2-50.251.0
3分経過後 50.166.2-50.250.9
10分経過後 50.166.2-50.250.9
30分経過後 50.166.4-50.250.9
60分経過後 50.166.6-50.250.9


原発振からVXOで拡大させている周波数の下限部分は1時間で+0.4KHz上方向にドリフトしているが原発振である周波数の上限部分は1時間で-0.1KHz(それも電源ONから3分以内)と、自作としては実用的で妥協できるレベルではないか・・。それに実際の運用を周波数上限あたりで行うとかなり安定した運用が出来そうだ。

7・手を加える:

(1) リニアアンプ

(背面ケースにすっぽりと収めたリニアアンプ。RFトランジスタの
2SC1971は放熱板に直付けとした。200mW入力で4Wを出力する。
リレーの上の豆基板は送信時にTRX602から出力されるDC12V信号
をリレーの駆動用に用いるために2SC1815で増幅させるもの。)
(電信発生回路とサイドトーン回路。側板に
付けた700Hzのトーン発生回路と手前に蛇の目
基板にCMOS(4011)を使った無安定マルチ
バイブレータによるサイドトーン発生回路。写真
上方のブザーを鳴らす。)

このキットの購入を考えた時点で出力3,4W程度へのパワーアップを念頭に置いていた。1996年のハムフェアでJS1MLQ・川田さんが発表されていた山屋用超軽量50MHz10Wリニアアンプを参考にした物を自分も作ってあったのでそれを利用してみよう。多分5W位出ないだろうか?試してみるが1W位しか出ない。TRX602の200mW程度のパワーではこのリニアアンプのトランジスタ・2SC1945を充分ドライブ出来ないのかもしれない。他に無いか・・・。高周波デバイス規格表を繰ってみると2SC1971に目が行った。VHF(150MHz)帯移動無線機用、13.5V出力6Wとある。定格値からなんとなく使えそうだ。では物は試しで作ってみる。

親機の出力が小さいので入力のマッチングに可変コイルとトリマコンデサを使うと言う従来のリニアアンプでは調整がやりづらそうだ。トロイダルコアによるインピーダンス変換トランスを用いた広帯域入出力マッチング回路のリニアアンプ回路例を参考書に見つけたのでこれを使ってみる。これなら面倒なマッチングの調整はなく、作りっぱなしで動作するはずだ。入力に4:1のインピーダンス変換、出力には1:4のインピーダンス変換、エナメル線をよじりトロイダルコアに巻くのはなかなか手の込んだ作業だ。何とか作り上げ、ばっちり4W近い出力が出た。実際試しに交信してみると変調も悪くないとの事だった。

初めはやや大きめの基板に組んだこのリニアアンプ回路だが、ケースをビギトラ用のものに入れかえる際に基板サイズの縮小化が必要になった。作りなおす。残念ながら最終段のローパスフィルタ回路が基板に収まらない。仕方なく3段は入れようと思っていたπ型フィルタは1段のみとなってしまった。高調波はどうなるのだろう・・・。(こんな事とても大きな声では言えないが・・・)いずれ改善が必要だろう。

リニアアンプの送り・受け切り替えのリレーを駆動させるにはTRX602から送信時にDC12Vが出力される端子がありそれを利用するのだが、リニアアンプを組み立てた時点ではリレーの動作が不安定であった。もともとこの信号は本体の送りと受けを切り替えるために使っているのであまり大電流が流れるものでもないのだろう、と想像して、簡単なスイッチング回路を用意した。2SC1815を一つ用いた親指先大の小さな基板を両面テープでリレーの上に貼り付けた。リレーの動作は安定した。

後日談だがアイテックからTRX602用のリニアアンプキットが発売されたとの事。2SC1971を同じように用いているとの事だった。

(リニアアンプの回路図・製作詳細はこちら

(背面。リニアアンプの放熱板。CW
の豆ボタン、外部キー端子、BNC、
DC-IN、出力切替えSWがある。)

(2)CW回路
SSBのみならずCWも出られればよりFBだ。トーンをマイク端子から注入すれば簡易CWモードの出来あがりだ。最初は上述の秋月のトーンジェネレータキットを信号源として使ってみたのだがキーイングに対するレスポンスが遅く実用にならなかった。そこでCQ誌からストックしておいた記事(CQ誌1997年7月号7N3GOP氏寄稿)から700Hzのトーン発生回路をデッドコピーさせてもらう。これをマイク端子の横につけたトグルスイッチで切り替えてトーンをマイク回路に直接入れる。が、このままではCW音のモニタができずに不便を感じ、ICとミニブザーを使った回路を「作るハム実用アクセサリ-」(高山繁一著、CQ出版社)から拝借しそこにつなげた。豆ボタンとキー用の端子をパラレルにつないで本体のリアパネルに取り付けてそのどちらででもCWの運用が出来るようにする。キーイングするとプーッ・プーッとなかなか可愛らしいサイドトーンが出る。

CW発生回路とサイドトーン発生回路は小さな生基板にバラックで組み立て、ケースの空きスペースに納めた。

(3)他に
他に付加回路ではないがヘッドフォン端子を設けた。静かな山頂の運用でも気兼ねのないように。(一度山頂で運用していたら、うるさいと苦情を言われたことがあったので)。ウォークマン用のステレオイヤフォンが持ち運びには軽そうだ。(もっとも後述のようにAGCの効きが良くなくて、ヘッドフォンをしていると痛い目に会うことがありあまり使わない。) 

又オリジナルの回路ではSメータの下に豆電球が点灯できるようになっていたが、特に必要を感じなかったので電球は取り除いた。これだけでも消費電流を小さくすることが出来るだろう。

コネクタは移動無線機とそれ用のケーブル類はすべてBNCに統一してあるのでBNCコネクタを使用した。

8・運用:

リニアアンプが組あがる前に試験的な運用を何度か繰り返す。1局目の交信はやはり緊張するがすでに自作機は3例目であり、そういう意味ではやや心に余裕があった。この局、と心に決めてパイルになってないのを確認してからおそるおそるマイクのPTTを押す。無事コールバックが戻ってきたときの感動といったら・・・。

リニアアンプを組み込んで初めて山に持っていったのは山梨・道志の主峰、御正体山だった。山自体もそこそこ標高もあり、又憧れのピークだったのでここでの運用はかなり満足度も高かった。1局、山好きな局と10分以上ラグチューとなったが、この時にVXOの不安定さがずいぶん露わになり先方には迷惑のかけっ放しだった。(これを契機にVXOの見直しに本腰を入れ始めることになった。)

VXOの試行錯誤を続けながらも山へはコンスタントに持っていくようになった。本機初の2000m峰となった奥秩父の雲取山・飛竜山では冬場にも関わらず多くの交信が楽しめた。

VXOを直しケースも入れ直し今の姿になってから最初に持っていったのは長野・佐久の御座山で、この時にはかなりのパイルを浴びる事となった。シルバーのアルミのケースがパイルでビリビリと震えて、ついでに自分も感動でゾクゾクと身震いがした。又山梨・天子山塊の毛無山では神戸市と交信できたり、と山岳移動の醍醐味の一つである遠距離交信も味わえた。

自宅からの運用でもローカルや関東近郊の山岳移動局と交信するには十分すぎる。未交信の市や郡が出ている時やVXOの範囲外で出ている局などには無理だがそうでない時などは出番が多い。電信もなかなか実用的で、ピコ6と同じ豆ボタンによるキーイングは慣れてしまえば一応打つことが出来る。愛知県あたりまでなら相手の耳にも助けられながらも充分交信できる。外部キー(ただしエレキーは無理だが)をつなげばキーイングも格段にしやすくなる。ただセミ・ブレイクインなどの高等な回路は入れていないのでキーイングの時はPTTを押さなくてはいけない。あくまでも簡易モードといえるだろう。しかしピコ6と違って一応サイドトーンも出るし、PTTを握るといってもそれも初代のFT690のようで悪くない。

実際使用して感じるのは感度がなかなか良いと言うことで、か弱い信号も固定機と大差無く聞こえる。また「ビギトラ」で気になった点である送信・受信の切り替え時にスピーカからでる「ブッ」という音が見事になくなっていたのも嬉しかった。又本機になって新規に追加されたRITも実用的でありがたい。

もちろん気になる点もある。やはり混信や外来ノイズには弱くやはりこの辺りは固定機と較べる訳にはいかない。またAGCの利きが悪く、キットの取説には「強化されたAGC」とわざわざ特記してあるも自分の場合はどうも利いているふしがない。設備の良い局が大電力で呼んでくるといきなりスピーカが割れんばかりの音が飛び込んできて慌ててボリュームを下げないととんでもない事になる。テスターでみると信号強度に応じてAGC回路から出力されているマイナス電圧はしっかり変化をしており、IF増幅回路のFETのゲインは一応マイナス制御されているはずなのだが・・。増幅率が足りないのか、組み合わせているFET(3SK240)との相性か、それとも作り方の問題か?

まあこのように幾つかの気になる点はあるもののまずは納得できる完成度であるし、何よりも自分で作ったという事がそんな点を些細なものにしてくれている。2000m級の山から近郊の100m程度の丘陵まで、この無線機をザックに入れて歩いた足跡は自分の中で揺るぎ無い明確なものとして残っている。

組み上げて初交信が1998年9月13日。その後VXOのカットアンドトライ、ケース変更、周辺回路の追加など色々手を加えながら今日に至るまでの本機での総交信数は807QSO、そのうち山岳移動が575QSOという内訳。ここまでいじる楽しみ(苦しみ?)と運用の楽しみを十分に味あわせてくれている・・・。

9・最後に:

前述のように完成以来2年半でのこのリグでの総交信数は807QSOで、まずは1000QSOを目指したい。もっとも私に自作の機会を与えてくれるきっかけとなったローカルの7M1XPR・青木さんは自作のアイテックのビギトラ(出力100mW)で1000局交信(1000QSOではない)を達成しているので、まだまだ私などは見習のようなものだ。

目下のところ心配はこの愛機をどこかの山の山頂に置き忘れないか、ということ、それに酷使(はないにせよ)やザックの振動などでぶっ壊れないか、という事だろうか。壊れた個所を特定化して修理するのは自作熱が下がってしまった今となってはやや辛い。なにせ今改めて蓋を開けて見ると、自分ながらよくぞここまで作ったものだ、と思う始末なのだ。ただその中を仔細に見ていくと行きつ戻りつした各場所が克明に思い出されてきて、又時間を見つけてハンダゴテを暖めてみようか、などとすら思う昨今でもある。

一口にアマチュア無線といってもその楽しさはDXハンティング・JCC/JCGハンティングからローカルラグチュー、ローカルのアイボール、移動運用から山岳移動、そして自作など、その楽しさや懐の深さはとても簡単にカバーできないのだろう。そんな広範囲のわずか一部でも、こうして味わい、又楽しむことが出来るとは・・。

余り見てくれの良くないシルバーのアルミケースについた黒いバーニアダイアルのツマミをまわしはじめると途端に今度はこれをザックに入れて何処の山に行こうか、その山でどんなパイルアップをあびるのだろう(そう上手くは決していかないが)、と楽しい夢想の世界に入り込んでいく。するとトリップを覚ますようにローカルの大音響がいきなり飛び込んできて慌ててボリュームを絞るのであった・・・。

* * * *

最後に製作した当機の定格を示して本稿を締めくくろうと思う。

ベースモデル アイテック電子TRX602
本体サイズ 100x45x155mm
本体重量 540g
電波形式 SSB/CW
周波数可変幅 50.166-50.251MHz、RIT付き
出力(LO/HI時) 200mW/4W(13.8V)、(12.5Vでは3.7W程度)
受信時消費電流(LO/HI時) 60mA/130mA
送信時消費電流(LO/HI時) 180mA/1200mA


(栃木・安蘇の熊鷹山で) (群馬・西上州の諏訪山にて。) (キルティングの布で作った専用ソフトケース。右は重量22g
の専用マイク。プラケースにコンデンサマイクを入れたのみ。
尚これらを写真のタッパに入れてザックに入れる。)


(本稿は山岳移動同人誌「山と無線.37号」に掲載した記事を転載したものです。)

(終わり)



Copyright 7M3LKF,Y.Zushi 2001/7/1


(戻る) (ホーム)