ニッケル水素電池用充電機の作製


1・充電器を作ろう:

新しモノ好きが災ってか興味のある物にはいろいろとてをだしてしまう。ディジタルカメラなどがそのさいたるもので、目新しい機種がでるたび何度か購入したものだった。最近購入したディジタルカメラは単三アルカリ電池で動くもののやはりバッテリーの消耗は激しい。ファインダーのみで撮影していればアルカリでもさして問題ないのだが液晶モニタを使うとあれよあれよという間に電池が減っていく。又メーカの推奨も二次電池であるニッケル水素電池のほうがより好ましい、というものだった。そんな事もあってニッケル水素電池の充電器を作ってみようかという気になった。ここ暫く自作をしていないという事もあり何か作ろうという気もあった。久々にハンダゴテを握ってみたかった。

さてニッケル水素電池用といって特別な専用回路がある訳でもない。ニッカド電池の充電で用いる定電流回路そのもので良い。CQ誌や他の自作記事からその作例は豊富だったが、手っ取り早いのはやはりキットに手を出すことであった。キットといえばやはり秋月電子となる。実際秋月電子の充電器のキットは種類が豊富で、幾つか検討した結果「マイナスデルタV急速充電器」キットを作る事にした。

急速、と言うのは重要でいくら電池の為とはいえ充電に半日以上もかけるのは大変である。その点このキットであれば充電も2、3時間ですみ良さそうだった。ニッカドもニッケル水素電池も充電完了直前にわずかに電圧降下があるという。それをマイナスデルタVと呼ぶそうで、このキットはその電圧降下を検知する専用の充電回路用IC(MAX713)を用いているキットで、さらに過充電を防ぐためにタイマー機能までもMAX713には組み込まれている。キットとしての完成度は高そうだった。

また秋月のキットが良いのはラインアップが豊富なこと以外にCQ出版社から「秋月電子のキットを作る」(吉田功・高木雅利著)という手ごろな参考書が出ていて自分のような初心者には心強いこともあった。「マイナスデルタV急速充電器」はもちろん同書の中にのっている。秋月ではさらに1600mmAhの高容量の単三形ニッケル水素電池が一本200円で売られており電池と充電器キットが同時に入手できるので便利だ。

2・作る前に:

(基盤に組み込んだキット。パワー
トランジスタの放熱板が大きい。
右サイドの基板は放電器回路。)

(1) 電池本数の設定:

さてキットは買ってきたその状態では単三電池6本または8本を充電するように取説上に作り方が書いてあるので、自分の充電したい本数にあうように設定を変えなくてはいけない。MAX713自身は1本から16本間までで任意の充電電池の本数を選ぶことができる。自分の場合は単三電池2本(2セル)の充電が出来ればよいのでキットに付属のMAX713のデータシートから2セル用の結線を見てその通りジャンパ線をとばせば良かった。

MAX713はその3番ピンと4番ピンの他のピンとの結線の組み合わせで充電セル数を決めるようになっている。キットの基盤は買ってきた状態では3番ピンと4番ピンのランドはOPENのままで、電池の本数によってそれぞれのランドを指定のピンのランドに結線をすれば良い。2セルの場合の具体的な結線はMAX713の3番ピン(PGM0)を15番ピン(V+)につなげるようにジャンパ線を飛ばし、又4番ピン(PGM1)はOPENのままで良い(どこにもつなげない)事になる。

(2)タイマー時間の設定:

次にこのICの持つ便利な機能である強制タイマーオフまでの時間を決める。MAX713では上記の電池本数の設定と同じくIC上の特定のピンの結線の組み合わせによって22分から264分までのタイムアウト時間の設定ができる。キットの初期設定では充電電流は830mAとなっている。充電の対象が1600mAの電池なので単純計算でも満充電まで2時間強はかかるだろうか。2時間付近でMAX713の持つタイマー値では132分とその上に180分という値があり2時間強という想定充電時間から132分ではやや不安で180分を選ぶことにした。その設定はキットの取説から9番ピン(PGM2)を基板上の16番ピン(REF)に、10番ピンをシルクB(BAT- = 12番ピン)に結線すれというもの。

尚強制タイマーオフと言っても電源そのものが落ちるのではなくその時間になれば充電電流が20mA程度まで下がり急速充電からトリクル充電に移行するというものだ。(トリクル充電時の電流値・20mAはディフォルト値で、これも任意に設定可能)    

(3)電源電圧の設定:

「秋月の電子キットを作ろう」(CQ出版社)を参照に最後に充電器の電源電圧を決める。同著によるとニッケル水素電池の電圧は1本あたり1.2Vだが充電電圧は1.6から2Vと想定しさらにパワートランジスタ(2SB948)の消費分を2から3Vとすると、自分の場合最低でも6から7Vの電源電圧が必要そうだった。一般的であろうという理由から電源電圧は9Vに決定した。これに伴いMAX713への電源供給線(15番ピン/V+)に接続する抵抗を初期値の1KΩから470Ωへ変更する。このあたりの公式は先述の「秋月の電子キットを作ろう」に詳しい。(電源電圧-5.5)/10mA=抵抗値、で求める。尚、キットの取説には8セルまでの充電はこの抵抗値(1KΩ)を変更する必要はないと書かれており、その点ではこの参考書と矛盾する。迷ったが、参考書の方が後に書かれたものだろう、と考え抵抗値を変えることにした。

また電源電圧の変更に伴って電源につながるLEDへの抵抗値も変更する。LEDへは通常2〜20mA程度流れるようにするので抵抗値は500Ωあたりで良しとした。

これら3点がキットを買ってきてから使う電池の本数に応じて変更する箇所である。これを理解・準備して製作に取り掛かることになる。

3・製作:

キット自体の製作はさして難しくない。キットに用いられているのは蛇の目基盤をベースにパターンとシルク印字がされた基盤なので、指定箇所に間違えなく部品をセットしてはんだ付けするのみだ。取説にはジャンパー線を先に配線するように書かれているが確かにICソケットの下をくぐる配線もあるので先に半田付けをすべきだろう。発光ダイオードは基盤上ではなくケースに入れることが前提であれば基盤からリードをのばして取り付けた方がよいだろう。取説にはトランジスタの実体図とその足の局性まで書かれているので自分のような初心者にはありがたい。キットにはパワートランジスタの放熱用に大きめのヒートシンクが付属している。実際に組み上げての後日談であるが、このパワートランジスタは結構発熱する。ケース自身に大きめのヒートシンクをつけるかキット付属のヒートシンクを使う場合はやや大きめの箱がよいように思える。

4・動作確認:

組立を終えるとその状態で配線ミスなき事を確認して動作チェックとなるが自分はケースまで組み込んでしまった。キットの取説には動作チェックの為のいくつかのチェックポイントが載っている。それを一つづつ調べていくべきだが自分はすでに1.0V付近まで放電していたニッケル水素電池をそのまま充電にかけてしまった。

実験段階ではアマチュア無線機器の主電源に使っている30Aの可変電圧電源を9Vに設定して充電器につないでみた。キットには2A程度必要とあったが,実際どの程度の電流値が必要かわからなかったためだ。緊張の一瞬。充電器にDC9Vをつなぎ電池をセット。電源を入れると電源ONを示す赤色LEDと充電中を示す緑色LEDが点灯する。発煙もなくなんとかOKか・・。

時間がたってくるとパワートランジスタがかなり発熱しケースも暖かくなってきた。ものの1時間もたっただろうか、不意に緑のLEDが消えた。充電完了の証だ。無事にマイナスデルタVを認識したようだった。電池をホルダから外し電圧をはかってみる。電池もほんのりと暖かい。上手くいってそうだ。測った電圧は1.4Vある。取説にも1.4VあたりあればOKとある。無事充電完了といえるだろう。一応成功といえるか・・・。が充電時間が1時間とはずいぶん早いように思う。設定以上の電流が流れているのか、念のために急速充電時の電流を測ってみる。ぴたりと860mA。キットの設定値(830mA)とさして変わらないので一応OKだろうと勝手に理解した。

又充電期間中の主電源の電流値は急速充電中は0.8A程度であった。これであれば2Aでなくとも1.5A程度のACアダプタが使えそうだ。手持ちには9V/0.3A程度のACアダプタしか無かったが秋月から同じく9V/1.2AのACアダプタが700円で売られているのでこれを購入してこの充電器の電源として使う事にした。

5・完成と使用感:

(完成してケースに組み込んだ状態)

使い始めて日も浅く、又そう頻繁に充電作業が発生するわけでもない。そんなわけで使用感をレポートするには早いかもしれないが、まずは急速に充電が完了するのはやはり便利だと思う。半日以上かけて充電するのであれば使いたいときにすぐに使えない・・。

MAX713のタイマー値であるが今までのところいずれも1時間強で充電が完了してしまう。180分という設定は現実的ではないかもしれない。いずれ132分に設定をしなおそうと思う。

又ニッケル水素電池はニッカド電池と同じく放電不充分で充電させるとメモリー効果が発生しその寿命が著しく縮んでしまう。といって1.0V以上放電させてしまうとこれまた過放電で寿命が縮む。そんなこともありきちんと安全に放電できるような回路をこのケースに組み入れ切り替え式で放電・充電が両方できるようにしようか、という考えが充電器キットを作る前からあった。(放電器は秋月からキットで出ているし、上述の参考書「秋月電子のキットを作る」にも作例がある)ところがニッケル水素電池2本で使っている今のディジタルカメラはうまい具合に電池一本あたりの電圧が1.0V付近になったところで動作しなくなってしまう。つまりカメラが動作しなくなれば自動的に1.0V付近まで放電していることになる。これは便利で、放電器はどうやら不要のようだった。そんなこともあり不要と考えたのだが、せっかく放電器用のパーツも揃えてしまっていたので、後日組み上げてケースの中に同居させることにした。(製作記は別途記載。また写真の完成したケースの中で右側のスイッチが上から「放電器・充電器切り替えスイッチ」、「充電器の電源スイッチ」、赤い 押しボタンが「放電器の電源スイッチ」となっている。)

尚、これは充電器ではなくニッケル水素電池に関して言える事だろうが、カメラに入れて使っているとそれまでは問題なく使えていたのに急に容量が落ちて使えなくなってしまうようだ。使い慣れたアルカリ電池などでは徐々に容量が減ってきてカメラのバッテリー残量インジケータで減ってきたことが分かるのであるが、ニッケル水素ではインジケーターではへたりを認めることもなくストンと急激に落ちてしまうようだ。なかなかあとどの位使えるかが読みづらい。

いずれにせよ動作原理は分からずとも(?)自分で作ったものが実用になるのは大変うれしいことで、ガンガン充電したいと思ってしまう。費用的にはキット1300円+ACアダプタ700円+単三型1600mAhニッケル水素電池2本400円、それにアルミケースが430円、計2830円。最近はアルカリ電池も10本単位などでとても安く売っているし、これを高いととるか安いととるか? 

そう、残念ながらその通り!費用面では割り切れないのが自作の楽しみ、といったところだろうか・・・??  

(充電器2001/2/4作製、放電器組み込み2001/3/25)

Copyright:7M3LKF:Y.Zushi 2001/3/10


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