HISTORICAL RECORDINGS BY HUGH TRACEY [4]


KALIMBA AND KILUMBU SONGS, Northern Rhodesia 1952 & 1957


今回は、ザンビア編(SWP 010)の日本語訳(試訳)です。

ただし、これもピグミー編(SWP 009)と同様に、あくまで英語が不得手な私がCDの内容を把握するために作ったものなので、意訳はもちろんのこと誤訳が含まれている可能性もあります。特にこのザンビア編の解説では、私が最も苦にするところの音楽の専門用語が飛び交っており、どれだけ正確に訳出できているのか全く自信がありません。そうしたことを前提に、明解でない点については原文を参照しつつ、以下の拙い訳文も参考にしていただければ幸いです。

■KALIMBA AND KILUMBU SONGS, Northern Rhodesia 1952 & 1957

カリンバとカルンブ、甘い響きをもつこれら2つの単語は、ともに最もよく知られたザンビアの楽器の名称である。カリンバはンビーラという重要なアフリカの楽器の系統に分類される。このンビーラは、「ラメロフォーン」、「親指ピアノ」、あるいはリケンベ、ンサンシ、ンディンバ、カンコウェレ、チサンジ、サンザといった、数多くある他のアフリカの名前でも知られる。カルンブはミュージカル・ボウ(楽弓)という昔の南部アフリカの楽器の系統に分類されるもので、その起源は古く、現在はコイサンとして知られるホッテントットやブッシュマンといった、バンツー以前に大陸南部に居住した人々にまでさかのぼることができる。かつてコイサンが居住したほとんど全ての地域においては「昔のコイサン」と言うべきである。と言うのも、現在コイサンはボツワナ、ナミビア、アンゴラの限られた地区にしか居住していないからだ。恐らく今日のザンビアにおいても「昔のカリンバとカルンブ」という呼び方をすべきなのだろう。南部アフリカの大部分の地域では、伝統社会で重要な位置を占めなかったほとんど全ての楽器は、衰えるか死に絶えるかした。かつてこれらの楽器は、楽しみに、慰めに、散歩に、時間潰しに、あることがらについて自分の意見を表現するために、(一部訳出不能)演奏されていた。最近の若者たちは替わりにギターを弾いている。

以前なら、いたるところに自分の楽器を抱えたカリンバの演奏家たちを目にしたものだ。楽器は簡単に持ち運べるくらいに小さい。ザンビアのコッパーベルトの鉱山労働者や農場労働者はいつも自分のカリンバを持ち歩いていた。現在のザンビアでこれらの楽器を見つけることは困難だけれども、ここでヒュー・トレイシーと彼がILAMのために行った録音とが重要な意義を持つこととなる。私たちは幸いにも、現地で録音された、これらふたつのザンビアの楽器による、大変魅力的な一方で、シンプルで覚えやすく、個人的で特徴あふれる「かわいらしい」音楽を紹介することができる。いくつかの演奏は全く外向的であり、また他のいくつかは内省的なもので瞑想的でさえある。

  

カリンバ KALIMBA

最近の研究によると、ザンビア、ジンバブウェ、モザンビークを貫通するザンベジ渓谷とその両岸にひろがる地域は、アフリカのンビーラの系統の発祥地と考えられる。そしてその最も初期の形式は、恐らく8つのキーをもつ楽器で、それは今日でもザンベジの上流、下流で演奏されるカリンバの基本をなすものである。

この図(オリジナルCDを参照)は古い8音カリンバのキー配列で、左右とも3つの高音とひとつの低音を持つこと、つまりベース音は中央に位置することを示す。基本スケールはヘクサトニックで、6つの異なる音をもち、そのチューニングは川の上流と下流とで変化するが、以下にかなり近いものである。

          
音の番号
1音からのセント数
長音階との比較(セント)
1060
7th - 40
 880
6th - 20
 700
5th
3 & 3’
 360
3rd - 40
 180
2nd - 20
1 & 1’
   0
主音

  

実際、8音のカリンバは最近ではほとんど見かけることがない。これは演奏者が基本となる8音にキーを追加するからで、このことで、音域が広がり、左右に同じ音が備わる。ザンビアでは約14のキーが、ジンバブウェでは30ものキーが使われる。そして音階に1音を加えることでヘプタトニック、すなわち1オクターブに7つの異なる音をもつことになる。ザンビアでは北西部のカンコウェレ、カンコベラ、チサンジと北東部のベンバのチリンバは、それぞれ幾分異なる音階を持つが、全てベース音が中央に位置する構造である。
ザンビアのカリンバのあるタイプのものでは、音列が左から右へ音程順に並べ替えられている。こうしたタイプとしては、ンディンバ、ンダンディ、シタンディ、カタンディ、そして西部のザンベジ氾濫域のロジのカンゴンビオが知られる。ベース中央型とベース左型のふたつのタイプはしばしば同じ音程の音階をもつ。


これらザンビアのカリンバは全て小型で、壊れやすく、タッチに反応しやすいよう細いキーでできている。また小さく口を開き、パッドを当てられたひょうたんの上に置く形で持たれることで、ひょうたんの中の空気が音を増幅する。ひょうたんは、てっぺんの縁に何かを当てられた、ブリキの缶やジョッキに置き換えられる。中の空気は、楽器の共鳴盤の中央にある穴を覆っている、蜘蛛の卵の嚢でできた薄い膜を振るわせるという、もう一つの役目を持つ。これは、楽器自体の音と同様にそれぞれのカリンバの音の一部をなす、特徴的なアフリカ的バズ音を生み出す(こうした音は特にトラック8、16〜21で聞くことができる)。演奏者によってはカリンバをひょうたんからちょっとだけ離して持ち、その間隔を変えることによりビブレートする音色、つまり自然なワーワー効果を得ている。


ザンベジの上流のカリンバと下流のカリンバとの間には音楽テクニックの上で注目すべき違いがある。録音に聞くことができる通り、ザンビアではハーモニーの構造は4度の音に大きく依存し、曲のメロディーは4度上または4度下の音でハーモニーがつけられる。その一方、下流域ではこの平行和声の方法は使われず、異なる法則がとられている。


実際にンビーラという系統が存在する通り、あるひとつの特徴が全てのカリンバを統合している。それは演奏者が行っていることは、リズム・ベースであり、パターン・ベースであるということである。
アフリカの美学において、楽器の上で指を動かすことに集中させるような、ひとつのあるいは2つ3つの心地よい動作パターンを持たずに、演奏をするポイントとは一体何であると言えようか。そうした動作パターンを彼らは「固有パターン」と呼んでおり、アフリカ言語に関する彼らの認知作用と言語の音声的特質との間には強固な関係が存在する。しかしながら、こうした音楽を聞いて楽しむためにはアフリカの言葉を話せる必要はない。ただ、音楽のあらゆるレベルで起こっていることに耳を傾け、音楽の形式が理解されるまで時間をかけるだけでよい。そしてこれで全てではない。カリンバを含めて、多くのアフリカの楽器は、あなたが傾注したことで期待する以上のものを音の中に返してくるような、人の心を引きつける力を持つ。その全体は合計以上のものである。

   

カルンブ KALUMBU

カルンブ、またはカルンボは弦が一本のひょうたんでできた楽弓であり、かつてはありふれた楽器だったが、現在では珍しいものである。これはブラジルに「輸出」されビリンバウとして有名な、隣国アンゴラのオカンブルンブンブワという楽弓と近い関係にある。多くのアフリカの楽器と同様にこれはシンプルだが、この楽器の紬出す音楽は単純なものには止まらない。カルンブは5フィートに達する長さをもち、一本の金属弦が張られている。この弦はある一点で弓の方向に引き寄せられて、ふたつの部分に分割され、それぞれが固有の音高をもつ。弦を結びつけているのと同じひもが弓の反対側でひょうたんを固定することになり、ひょうたんの口は演奏者側を向いて、弓からは離れている。ひょうたんとひもでできた部品は、上下に動かすことでふたつの音の間隔を変えることができ、短3度と短7度(近似値)の2つが典型的である。両方の場合において低い方の音は指の作用で半音ほど高められ、E−F−G、またはE−F−D’とおおざっぱに表現できる3つの音が得られる。E−F−D’というチューニングの場合、高いD’は全く奇妙なことに、Eより低く聞こえる。カルンブの演奏は、楽器を胸の正面に垂直に持ち、ワラ(thatching grass)の堅い部分で軽く打って行う。


「たったの3音だって。それで何ができるんだ。」と言うかも知れない。確かにそうだが、それは3つの「基本」音であり、それぞれが倍音に富んでいる。こうした倍音は、演奏中ひょうたんを胸に対して近づけたり離したりすることで、ひょうたんの内部で選択的に共鳴し、ここでも自然なワーワー効果が得られる。主音(4次高調波)と5度(3次高調波)は簡単に聞くことができる。3度(5次高調波)を聞き取ることは簡単ではないが、それでも耳を倍音に合わせて聞けば、存在することがわかる。(チベットの道士は倍音を使って歌うため、このことを簡単にできる。)


南部アフリカの伝統的音階の多くはその地方の一弦楽弓のハーモニックスから引き出されてきた。あらゆる楽弓は最低2つの基本音を発し、2つの倍音列が生まれることとなり、これからひとつの音階の音が引き出される。もちろん多くはこれら2音の間隔に依存する。カルンブでのE−Fという半音は多くのザンビアの音階が独特なサウンドをもつ理由となっている。


(1999/10/27 Ver.1.0)
(2000/01/22 Ver.1.1)


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