HISTORICAL RECORDINGS BY HUGH TRACEY [3]


ON THE EDGE OF THE ITURI FOREST, NORTHEASTERN BELGIAN CONGO, 1952


  

SWP レコードからライナーの翻訳の使用に関して承諾が得られました。HUGH TRACEY のCDのライナーノートの日本語訳を作成しつつ、補足説明を始めたいと考えています。

今回は、ピグミー編(SWP 009)の日本語訳(試訳)です。ただし、これはあくまでも英語が不得手な私がCDの内容を把握するために作ったものなので、意訳はもちろんのこと誤訳が含まれている可能性もあります。そのことを前提に、明解でない点については原文を参照しつつ、以下の拙い訳文も参考にしていただければと考えます。

ON THE EDGE OF THE ITURI FOREST, NORTHEASTERN BELGIAN CONGO, 1952

2年前にタンザニア、ケニア、ウガンダを訪れ、さらにルワンダそれにコンゴの東部と北部、そして西方、バングイのリベンゲにまで足をのばしたヒュー・トレイシーは、1952年に、どれがこれまでで最も壮大な録音調査旅行のひとつに位置づけられかはっきりさせた。コンゴにおいては、数ある中で、彼はピグミー、ゾウ使い、人食い(?)、そしてザンジバルからの影響を受けた前植民時代のアラブ貿易の主権者(Tippu Tip が悪名高い奴隷、象牙交易者のうちの最後の人々である)の子孫に遭遇し録音を行った。このアルバムには、巨大なイトゥリの熱帯雨林の東縁部と北東部で1952年に行われた録音を収録した。これらの土地ではムブティ・ピグミーが肉や蜂蜜を持って森を抜け出し、森の周縁部に暮らすナンデ、ビラ、マンベレ、ブドゥといったバントゥーの人々が持つマニオクなどの品々と交換していた。これらの録音はピグミーと周辺の人々の間にある「特別な関係」を明らかにしており、ムブティがナンデから借りたフルートを吹いたり(トラック13、14)、マンベレから借りたドラムを叩いたりしており(トラック20、21)、また一方では例えばブドゥの音楽にピグミーが与えた明確な影響を見て取ることができる(トラック1、3、4)。森の周縁部は経済交流ばかりではなく、音楽交流の場でもあった。


トレイシーは、ベニの近くにあるムバウ・ムビリの村でムブティとナンデを、ゴンバリでムブティとマンベレを録音した。これらの村はバントゥーの暮らす村で、一方のピグミーは森の住人であり無比の狩猟採集民である。トレイシーはすぐにピグミーの持つ威厳の賞賛者となったが、ナンデ、マンベレ、ビラとピグミーたちとの間に見つけたある関係によって思考が引き戻された。これらバントゥーに人々はピグミーを利用したり、だましたり、「無報酬の召使いのように命令したり」していた。1927年にコンゴのこの地域に最初に入り、1953年の死までそこで暮らしたパトリック・プットナムと、1954年に森の中でピグミーとともに生活を行ったコリン・ターンブルというふたりの人類学者は、こうした関係について広範囲にわたって書いている。これらのバントゥーはピグミーを「所有する」という言葉使いをしており、そしてピグミーに対して支配を及ぼそうと試みる重要な方法に、ピグミーの少年たちに『ンクムビ』を受けさせることがある。『ンクムビ』は村の成人式であり、これにより村の少年とピグミーの少年とがカレ(血の兄弟関係)のきずなによって互いに結び合わされる。これは理論的には、彼らに今後の人生においてお互いに助け合う義務を負わせるもので、実質的、経済的結びつきを間違いなく強化する。しかし、ピグミーは自らの意のままに村を訪れ、いつでも気軽にいなくなっては森の中へ帰っていく。ピグミーは、ベルギー政府も含めて、誰にとってもとらえどころのないままであった。


その一方で、ブドゥは、彼らがやってくるよりずっと昔からピグミーが森の中で生活していたことを認めて、ムブティをははるかに尊敬していた。これらの関係をターンブルは、収穫期、地元のピグミーは最初のフルーツという贈り物を受け取り、他方でブドゥはピグミーがブドゥの村近くにいるときに肉と蜂蜜の贈り物をいつも受け取るというように描写している。またトレイシーはブドゥによるピグミーの虐待についてはいっさいコメントしていない。確かに彼はバオノコの支配する村で行われたhelluva(?)パーティーの目撃者であり、それはこのアルバムに収録されている。トレイシーのフィールド録音テープを聴くと、彼が録音を行うその状況を制御できなかったと感じたことはこれまでになかった。しかしここでは状況の強烈さと歓喜のために、彼は苦しみの伴う時間を体験した。Akakalu Babini (トラック5)では彼の嫌う「フェード・イン」と「フェード・アウト」でさえ強いられた。

   
(*1)不明語句、不明表現については後日、補足修正を行う予定です。

(*2)『ンクムビ』については、次の文献に詳しく書かれています。
      コリン・M・ターンブル著『森の民〜コンゴ・ピグミーとの三年間〜』(筑摩叢書)

(*3)ピグミーのレコードについては、RECORDS OF PYGMY も参考にして下さい。

(1999/10/26 Ver.1.2)
(2000/01/22 Ver.1.3)


HUGH TRACEY : [1] [2] [3] [4]


TOP

CONTENTS

BACK