箴言 ヒポクラテス著
Aphorisms  Hippocrates


英訳:Francis Adams (1796~1861)
「The Genuine Works of Hippocrates」 (1849)
邦訳:前田滋 (カイロプラクター、大阪・梅田)
( https://www.asahi-net.or.jp/~xf6s-med/jh-aphorisms.html )
掲載日:2013.11.13

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邦訳者(前田滋)の序

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~~~ 目 次 ~~~

第一章 第二章 第三章 第四章 第五章 第六章 第七章


第一章
1-1.
命短し、医術は遠し。好機は一瞬、試行は功せず、診立ては難し。およそ医家たる者、自が一人のみ確固たるにては未だ足りず、患家、看護人、外界と相携うるが必須なり。

(前田注;"art=術" "decision=判断"には、医学に限定した訳語を用いた)
(前田注;「訓誡・心得」第1節参照)

口語訳:江戸落語調
人生短けぇっていうのにさ、技の道ってのはぁ遠いもんだねえ。はるか彼方だね、こりぁ。「日暮れて道遠し」、「少年老い易く學成り難し」っていうやつだね。それにさ、せっかくいいチャンスだってぇのに、あっという間にどっか行っちまいやがるしさ、やることなすことしくじってばっかり。もうどうしたらいいのか、さっぱり分かんなくなっちまったい。

だいたい医者っていったってね、自分一人だけ腕がよくったって、なあんにもならないんでね、患者さんとかお手伝いさんとか、周りのみんなと協力しなくちゃ治るものも治りゃしねえぜ。
上方落語調の口語訳はこちら

1-2.
自然に生じる下痢や嘔吐は、排出されるべきものが排出されるのであるから、それはよいことで、身体もこれによく耐える。しかし、そうでない場合には、その逆となる。

催吐剤についても、出るべきものが排出されるなら、身体によいことであるし、耐えやすい。そうでなければ、その逆となる(前田注;第一章第25節参照)。従って医師は、地域、季節、患者の年齢、疾患を考慮し、その使用の適否を判断しなければならない。

1-3.
運動選手は、その活力が限界近くまで高まっていると危険である。彼らは同じ状態を維持できないし、じっとしていることもできないからである。じっとしてもいられないし、それ以上活力を高めることもできないので、低下するしかないのである。このような理由から、すぐに活力を落とすべきである。そうすれば、身体は再び回復し始めるだろう。

しかし、彼らの場合、活力低下を極端に行なってはならない、これもまた危険だから。そして身体が許容できる程度に活力を落とすべきである。

同様にして、治療目的の活力低下も極端に過ぎると危険であるし、同じ目的での活力回復も極端に過ぎると危険である。

1-4.
少量に抑えた食餌は、慢性疾患においては常に危険である。またこれを必要としない急性疾患においても危険である。もう一度いうが、極度に抑えた食餌は危険であり、極端な大食もまた危険である。

1-5.
食餌制限を行なっている時に、患者が処方に背くと、(他のどんなやり方よりも?)却って有害である。正しく行なわないと、それがどんなものであろうと、緩やかな食餌制限よりも、ずっと深刻な結果を招くことになる。

このような観点から、健康な人にとっては極度に抑えた食餌は危険である。というのは、かれらが正しいやり方に従うのは、もっと難しいからである。このため、極度に控えた食餌は、緩やかな食餌制限よりも概して危険である。

1-6.
重度の疾患に対しては極度に厳しい治療法がもっとも適している。

1-7.
極めて急性の疾患では、すぐさま極度に強い痛みが出る、従って食餌を極端に制限する必要がある。もっと緩やかな養生でかまわない場合には、病気の程度に合わせて制限を緩める。

1-8.
病気がその頂点に達している時には、食餌を最も厳しく制限しなければならない。

1-9.
病気の最悪期まで患者が食餌療法に耐えうるどうか、またその前に様態が悪化して食餌療法に耐えられなくなるか、あるいは、その前に病気が快方に向かうかを、明確に判断しなければならない。

1-10.
病気が素早くその頂点に達する場合には、食餌も早急に制限しなければならない。病気の進行が遅い場合には、最悪期の少し前に食餌制限を行なう。しかし、それまでは患者が耐えうるように完全食を摂らせる。

1-11.
病気の勢いが強い時の食物は有害であるので、この時期には食餌を制限するべきである。病気が周期的に悪化する場合にも、悪化時には食餌を制限するべきである。

1-12.
病気の勢いが強まるか弱まるかは、個々の病気、季節、周期によって決まる。その周期は、毎日か隔日か、あるいはもっと長い期間かもしれない。そしてまた併発症状によっても決まる。例えば、胸膜炎の場合には、 初期に痰の排出あるなら、発作が短くなる。しかし、それが後になってから起きると、発作が長引く。同じように尿、便、汗が、併発徴候としての善し悪しから、その病気が短期か長期かを示す。

1-13.
絶食に最もよく耐えるのは老人である。そのつぎが中年で青年はかなり耐えがたく、幼児は最も耐性が低い。そのうちでも通常より活発な者が耐性が低い。

1-14.
成長期にある者が最も体温が高い。そのために、この人たちには最も多くの食物が必要で、これを奪うと身体が痩せ衰える。

老人の体温は低い。このため、食餌は少量でよい。大量の食物は体調を崩す元になる。老人は元々身体が冷たいので、他の年代の人よりも急に発熱することは少ない。

1-15.
腸は元来が冬と春に最も高温になる。そして睡眠も最も長くなる。そのために多くの栄養が必要になる。体温が高くなるので、多くの食物が必要になる。これは若者と運動選手の例で判る。

1-16.
発熱患者には流動食がよい。特に子供や流動食に慣れている人には有効である。

1-17.
場合によっては食餌を1日1回にしたり、2回にしたりする必要がある。またその量を多くしたり少なくしたり、少しずつ与えたりする必要がある。季節や地域、年齢に応じて供与するべきである。

1-18.
夏と秋は食物が最も吸収されにくく、最も吸収されやすいのは冬で、その次が春である。

1-19.
病勢が周期的に悪化する例では、峠を越す前には何も与えず、また無理に食べさせず、栄養を減らすべきである(前田注;第一章第11節参照))。

1-20.
病気の極期の間やその直後には、患者の安静を妨げたり、催吐剤その他の強刺激剤を与えてはならない。患者をそのままにしておくべきである。

1-21.
排出されるべき物は適切な経路を経て、出やすい方向に排出するようにすること。

1-22.
熟し切った膿汁は出し切るか他に移すべきで、熟していないものは、出ようとしていない限りは出すべきではない。ただし、熟していないもので出ようとしているのは殆どないが(前田注;第四章第1節参照)。

1-23.
吐瀉物は、その量を判定するのではなく、その内容物が適切かどうかを判断する。そして患者がそれに耐えうるかどうかで判断すべきである。患者が失神するまで嘔吐させる必要がある時には、患者がそれに耐えられるなら行なう。

1-24.
急性疾患においては、その初期に催吐剤の使用は控える。これは、しっかり検査した後に使用すること。

1-25.
出るべきものが出るなら、患者にとってよいことで、充分それに耐えうるだろう。そうでなければ、患者にとって苦痛となる(前田注;第一章第2節参照)。

第二章

2-1.
眠ると苦痛を引き起こす病気は致命的であるが、眠ると楽になる場合には、命には関わらない。

2-2.
眠ることで意識混濁が治まるなら、それは良い徴候である。

2-3.
睡眠にしろ不眠にしろ、度が過ぎると共に悪い徴候である(前田注;第七章第72節参照)。

2-4.
過食や断食その他何であれ、身体の耐えうる限度を超すとよくない。

2-5.
理由の分からない疲労は病気の徴候である。

2-6.
身体に痛みのある病気を抱えていて、その痛みをほとんど感じない人は精神に異常がある。

2-7.
緩やかに身体が衰弱した人はゆっくり回復させるべきである。急速に衰弱した人は早く回復させるべきである。

2-8.
病後に食餌を摂っても体力が回復しない場合には、必要以上に食事の量を摂取しているしるしである。食餌を摂っていないのに体力が回復しない場合には、催吐剤が必要なしるしである。

2-9.
嘔吐させる必要がある時には、身体の流動性を高めておくこと(前田注;第七章第71節参照)。

2-10.
身体が浄化されていないと、栄養を摂らせれば摂らせるほど有害である。

2-11.
身体を満たすのは、食物よりも飲み物の方が簡単である。

2-12.
分利の後にも症状が残っているなら、その病気は再発する。

2-13.
分利が起きる時には、症状が増悪する前夜は概して不快だが、それが終わった後の夜は楽になる。

2-14.
下痢の時に便が変化するのは、それが悪いものでない限りは、よいことである。

2-15.
首の周りに異常がある時や身体に腫れ物ができた時には、便を調べるべきである。便が胆汁性であるなら、全身の病気である。それが健康時の便と同じであるなら、栄養を摂らせても問題ない。

2-16.
空腹状態にある時には、患者を疲労させてはならない。

2-17.
身体の許容限度を超えて栄養を摂ると病気になる。このことは治療(下剤)によって判る(前田注;第二章第22節参照)。

2-18.
一度に、そして慌てて食餌を摂ると、排泄されるのも早い。

2-19.
急性疾患の場合には、それが死に至るか治るかを予想するのは全く確言できない。

2-20.
若い時に便が緩い人は、老年になると便が硬くなり、若い時に便が硬い人は老年になると便は緩くなる(前田注;第二章第53節参照)。

2-21.
強いワインを飲むと空腹がまぎれる。

2-22.
過食が原因の病気は絶食すれば治る。絶食が原因の病気は満腹にすれば治る。概して原因と反対のことを行なえば病気は治る。

2-23.
急性疾患の分利は14日目にやってくる。

2-24.
7日の中で4日目が要注意である。8日目は次の週の始まりである。11日目は2週目の4日目であるので要注意である。また17日目は第14日から4日目で、第11日からは7日目であるので、これも要注意である。

2-25.
夏の四日熱は概して短くて済む。しかし秋の四日熱は冬に近づくほど長期化する。

2-26.
発熱後に痙攣を起こすよりも、痙攣の後で発熱する方がよい。

2-27.
思いがけず病状が改善しても、これを信じてはいけない。また思いがけず症状が悪化しても、これを恐れすぎる必要はない。このような変化は概して不確かで、決して長引いたり慢性化しないものであるから。

2-28.
熱が引いていないのに身体が全く衰弱せずにいる時や、過度に衰弱するのは、よくない徴候である。前者は病気が長引く徴候であるし、後者は身体が弱っている徴候であるから。

2-29.
病気の初期に強い薬(浣腸剤や催吐剤)が必要と思われるなら、それを使用するがよい。しかし病勢が頂点にある時には、患者を安静にしておくこと。

2-30.
病気の初期と終期にはどんな症状も軽いが、病勢が頂点に達すると強くなる。

2-31.
病後の回復期に食欲があるのに体調が回復しないのは、よくない徴候である。

2-32.
一般には、病気の初期に食欲があっても、回復しない場合には、最後には食欲が落ちる。一方で初期には食欲がなくても、後から食欲が出てくる人は回復する。

2-33.
どんな病気でも、患者の理性が正常で、食餌を楽しんで摂っているなら、よい徴候である。これが反対ならよくない。

2-34.
病気が、患者の体質、習慣、年齢、季節に関係しているなら、これらに関係していない病気に比べると、危険性は小さい。

2-35.
どんな病気でも、臍の周りと腹部を太らせておくのがよい。この部分が細くなって痩せているのはよくない徴候である。この状態では下剤を使用するのが危険である。

2-36.
健康な人でも下剤したり変な食物を摂ると急速に元気を失う。

2-37.
健康な人に下剤を与えるのは困難である(前田注;第四章第16節参照)。

2-38.
食物にしろ飲み物にしろ、質が良くて不味いものよりは、少しばかり質の良くない物でもおいしいものを摂る方がよい。、

2-39.
概して老人は若者よりも病気になりにくい。しかし慢性疾患にかかると、死ぬまで続く。

2-40.
非常に高齢な人の鼻炎と鼻風邪は同一視できない。

2-41.
原因が分からないのに極度の衰弱を繰り返す人は突然に死ぬ。

2-42.
重症の卒中発作を治すのは不可能で、軽いものでも治すのは容易ではない。

2-43.
首を吊って人事不省に陥っている人がまだ死んでいなくても、口から泡を吹いているなら、回復することはない。

2-44.
体質的に肥満の人は痩せている人よりも急死しやすい。

2-45.
若者の癲癇は、年齢、季候、場所、生活様式が変わると治りやすい。

2-46.
二つの痛みが同時に別の場所にある時には、強い方の痛みによって弱い方の痛みが薄まる。

2-47.
化膿による痛みや発熱は、化膿し終わった時よりも形成途中の方が強い。

2-48.
身体を動かすたびに痛みが出るなら、身体を休めると痛みが消える。

2-49.
年寄りでも身体が弱い人でも、肉体労働に慣れている人の方が、身体が丈夫で若くてもそれに慣れていない人よりも、よく耐える。

2-50.
長い年月にわたって慣れてきたことは、たとえそれが慣れていないものより悪いことであっても、通常は苦にならないものである。とは云っても、慣れていないことに変える必要もある。

2-51.
身体を細くすることや太くすること、温めること、冷やすこと、その他身体に負担をかけることを突然また過度に行なうのは危険である。実際のところ、過剰なことは全て自然に反するからである。そして「少しずつ」というのが安全なやり方である。特に一つのことから別のことに変える時には。

2-52.
全てを指針通りに行なっている時に、常法通りの結果が得られない場合、最初の様子が変わらないなら、別の治療法に変えるべきではない。

2-53.
若い時には、便が堅いよりも、緩い方がよい。しかし老人の場合には便が緩いのはよくない。というのは、通常は老年になると便が堅くなるからである(前田注;第二章第20節参照)。

2-54.
体格のよい人は若い時には堂々としていて見た目がよい。しかし老年になると、小柄な人よりも不便で魅力が薄れる。

第三章

3-1.
季節の変わり目には病気になりやすい。また季節の中でも寒暖の変化が激しいと病気になりやすい。その他のことも、これと同じである。

3-2.
体質については、夏に順応しやすいものと順応しにくいものがある。また冬に順応しやすいものと順応しにくいものがある。

3-3.
病気と年齢によっては季節や、場所、生活習慣に順応したりしなかったりする。

3-4.
同じ日に暑くなったり寒くなったりする場合には、秋の病気を予測する。

3-5.
南風は、難聴、眼のかすみ、頭重、倦怠感、疲労感をもたらす。南風が強くなると、このような症状が病気に現れる。北風が強く吹くようになると、咳、喉の病気、便秘、悪寒を伴う排尿障害、脇腹と胸部の痛みが出現する。北風が優勢になると、これらの症状が現れることを予期しておく。

3-6.
夏が春のようであるなら、発熱時の発汗が多くなると予想される。

3-7.
日照りの時には急性病が発生する。特に一年を通して乾燥している時には、発生する病気もそれに対応したものになることを予想しなければならない。

3-8.
季節が滞りなく巡り来て、季節の作物がその時々に実ってているなら、病気も通常通りで、分利しやすい。季節の移行が異常であると、病気も異常な経過をたどり、分利するのが難しい。

3-9.
秋には急性病が最も起こりやすく、また概して致命的となりやすい。 春に起きる病気は最も軽く、死の危険性も小さい。

3-10.
肺結核患者にとって秋はよくない。

3-11.
季節に関していえば、冬は北風が吹いて乾燥し、春は南風が吹いて雨がよく降る。そうすると夏には急な発熱や眼の病気、血液混じりの下痢(前田注;赤痢)が発生する。こららは特に女性や湿性体質の人に生じる。

3-12.
しかし冬に南風が吹いて雨が多く降り穏やかで、春に北風が吹いて乾燥すると、春に出産予定の女性は些細なことが原因で流産する。たとえ出産しても、その子供は虚弱で病気がちであるので、すぐに死んでしまうか、生き延びても細くて不健康な身体つきになる。他の人々には、血液混じりの下痢(前田注;赤痢)、乾燥による眼の病気が起きやすく、老人では、急死に至る粘膜の炎症が起きる。

3-13.
夏に北風が吹いて乾燥し、秋に南風が吹いて雨が多く降ると、冬には頭痛と共に咳、喉の糜爛、風邪にかかり、場合によっては肺結核にかかる。

3-14.
しかし秋に北風が吹いて乾燥するのは、湿性体質の人や女性にとっては助かることである。他の人たちは、乾燥性の眼の病気、急な発熱、風邪を起こしやすく、人によっては鬱病になる。

3-15.
年間の季候でいえば、日照りの年は雨の多い年よりは、概して健康的で致命的な病気は少ない。

3-16.
一般には、雨期には発熱が長引き、下痢、壊疽、癲癇、卒中、咽喉の爛れが起きる。乾期には、肺結核、眼疾、関節疾患、疼痛性排尿困難、血液混じりの下痢(前田注;赤痢)などが起きる。

3-17.
日々の天候に関しては、北風は身体を奮い立たせ、緊張して動きが機敏になり、肌の色つやがよくなり、耳ざとくなるが、便秘と眼がちかちかしやすい。それに加えて、以前からあった胸痛が悪化する。

南風は身体を弛緩させ、湿気を強める。そして頭重、難聴、目眩を起こし、眼と全身の動きが鈍くなって下痢気味になる。

3-18.
春と初夏の頃は、子供と若者が最も快適に過ごし、元気である。夏と秋の一時期には老人がそうなり、秋の残りの時期と冬には中年の人が最も快適で元気に過ごす。

3-19.
どんな病気も全ての季節に発症するが、あるものは特定の季節に起こりやすく、また増悪しやすい。

3-20.
春には鬱病、精神異常、癲癇、血性下痢、喉の爛れ、風邪、喉痛、咳、吹き出物、その他の皮膚病が起きる。吹き出物は一般に膿瘍や腫瘍に移行し、関節の病気が起きる。

3-21.
夏には、上に述べた病気の幾つかと持続性の発熱、過高体温(間欠性マラリア)、三日熱、嘔吐、下痢、眼疾、耳痛、口唇の潰瘍、陰部の壊疽、汗疹(あせも)が出る。

3-22.
秋にはほとんどの夏の病気が起きるが、四日熱、急な発熱、脾臓肥大、水腫、肺結核、疼痛性排尿困難、消化不良による下痢、血液混じりの下痢(前田注;赤痢)、坐骨神経痛、化膿性扁桃腺炎、喘息、腸閉塞、癲癇、精神異常、鬱病が起きる。

3-23.
冬に起きる病気は、肋膜炎、肺炎、鼻風邪、喉の糜爛、咳、胸部痛、胸郭と腰の痛み、頭痛、目眩、卒中などである。

3-24.
それぞれの年代によく起きる病気は次の通りである。幼児や乳児はアフタ性口内炎、嘔吐、咳、不眠、恐怖、臍の炎症、耳だれが起きやすい。

3-25.
歯が生え始める頃の年代では、歯肉炎、発熱、痙攣、下痢を起こしやすい。特に犬歯が生え始めの頃や、非常に太っている場合、便秘気味の場合には、このような病気を起こしやすい。

3-26.
前記の例よりも年上の子供は、扁桃腺炎、頸部の脊柱彎曲、喘息、結石、線虫、回虫、疣(いぼ)、耳のそばの腫れ、頸部リンパ腫、その他の結節を起こしやすい。

3-27.
さらに年上の、思春期に近づいた頃には、前記の病気のほとんどと、持続性の発熱、鼻出血が生じやすい。

3-28.
子供の病気のほとんどは40日、7ヶ月、7年、あるいは思春期に近づいた頃に分利を迎える。しかし子供の頃の病気が思春期になっても続いている男児や、初潮を迎える頃になっても続いている女子では、その病気は慢性化する。

3-29.
青年男子では、喀血、肺結核、喀血、癲癇、その他の病気が起きやすいが、特に上記の病気が起きやすい(前田注;第五章第9節参照)。

3-30.
青年期を過ぎた人では、喘息、肋膜炎、肺炎、嗜眠、譫妄性脳炎(Jones注;マラリアまたはこれに似た症状を呈する他の病気から起きる)、過高体温(間欠性マラリア)、慢性の下痢、コレラ、血液混じりの下痢(前田注;赤痢)、消化不良性下痢、痔疾が起きる。

3-31.
老人では、呼吸困難、咳を伴う粘液の炎症、排尿障害、関節痛、腎炎、目眩、卒中、悪液質(体重減少と羸痩)、全身掻痒、不眠、下痢、眼や鼻からの体液漏出、眼のかすみ、白内障(緑内障)、難聴が起きる。

第四章

4-1.
便が詰まっている妊婦は、妊娠四ヶ月から七ヶ月の場合には下剤を用いるべきである。しかし、七ヶ月に近づいている場合には、ずっと軽くする。妊娠初期と後期には下剤を用いるべきではない(前田注;第一章第22節参照)。

4-2.
強制的に排出させる場合には、自然に出たがっている物を排出させること。そうでないものは出させるべきではない。

4-3.
出るべき物が排出されるのは患者にとってよいことで、これによく耐えられるが、そうでなければ患者は苦痛である(前田注;第一章第25節参照)。

4-4.
夏には上から、冬には下から排出させるのが好ましい。

4-5.
おおいぬ座の頃とこれが現れる直前の頃は、下剤を用いると問題が起きやすい。

4-6.
痩せている人に催吐剤を与えると楽に嘔吐するが、冬に用いる時には注意が必要である。

4-7.
中程度の体格で嘔吐しにくい人は下剤を用いるべきだが、夏に用いてはならない。

4-8.
肺結核の人に催吐剤を用いてはならない。

4-9.
同じ理由によって、抑鬱気質の人には反対の処置を行ない、思う通りに下剤を与えてよい。

4-10.
非常に急な疾患では、便が溜まっているなら初日に下剤を用いるべきである。このような場合には、後で用いると有害であるから。

4-11.
疝痛や臍の周囲の痛み、腰痛がある時に、催吐剤その他の方法によって解消しない時には、最後には乾性水腫(鼓腸)になる。

4-12.
冬には、消化不良性下痢の人に催吐剤を与えるのはよくない。

4-13.
ヘレボレ(hellebore;前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を用いても吐瀉しにくい人は、これを飲ませる前に、食事の量を増やしてから休ませ、身体の水分を増やしておくべきである。

4-14.
ヘレボレを飲ませた後は動き回らせるようにし、眠らせたり休ませたりさせないようにするべきである。船で海に出ると気分が悪くなるのと同じである。

4-15.
ヘレボレの効果を高めたい時には運動させ、効果を抑えたい時には、眠らせるか休息させるとよい。

4-16.
健全な肉づきの人にヘレボレを与えると痙攣を誘発するので、危険である。

4-17.
発熱がなくて、食欲がなく、胸焼け、目眩、口の苦みがある人は、催吐剤で嘔吐させる必要がある。

4-18.
横隔膜から上に痛みがある人は催吐剤で嘔吐させ、横隔膜から下が痛む人は下剤で排出させる必要があることを示している。

4-19.
催吐剤を用いて吐瀉させても喉が渇かない人は、喉が渇くまでは完全に吐瀉が済んでいない。

4-20.
発熱がなくて、疝痛、膝が重感、腰痛があるなら、下剤が必要であることを示している。

4-21.
血液の色のように真っ黒な便が自然に排出されるなら、熱があってもなくても非常に悪い徴候である。便の量が増えるほど、またその色が黒くなるほど、ひどい徴候である。これが下剤によるものなら、よい徴候である。またこの場合に便の色がさまざまである時には、悪い徴候ではない(前田注;第四章第25節参照)。

4-22.
どんな病気でも発病の初期に黒い胆汁液が嘔吐されたり排泄されたりするのは、致命的な徴候である。

4-23.
急性または慢性の病気あるいは怪我その他の原因で身体が衰弱している時に、黒い胆汁液または黒い血液のようなものが排出されると、翌日に死亡する。

4-24.
黒い胆汁液を伴って始まる血液混じりの下痢(前田注;赤痢)は致命的である。

4-25.
どのような性質のものでも、吐血するのはよくない徴候である。しかし下血はよい徴候である。黒い便もよい徴候である(前田注;第四章第21節参照)。

4-26.
血液混じりの下痢(前田注;赤痢)を患っている患者が肉片様のものを排泄すると、それは致命的な徴候である。

4-27.
どんなタイプの発熱でも、場所がどこであれ大量に出血すると、回復期には下痢を起こす。

4-28.
便が胆汁性である時に難聴を併発すると、胆汁便は止まる。難聴がある時に胆汁性の便が始まると、難聴が治る。

4-29.
発熱して6日目に悪寒が起きると、分利は厄介である。

4-30.
発作を伴う病気においては、発作が治まった同じ時間に翌日も発作が始まるなら、分利は厄介である。

4-31.
発熱時に患者が疲労して弱っているなら、関節、特に顎関節に膿瘍が発生する。

4-32.
病気の回復期に、身体のどこかに痛みがあるなら、その部位に膿瘍ができる。

4-33.
しかし、病気になる前に痛みがあるなら、痛む場所に病気が居座る。

4-34.
熱がある時に、喉の腫れがないのに突然呼吸困難に陥るのは致命的な徴候である。

4-35.
熱があって突然に首が歪み、嚥下がしにくいのに腫れがないのは致命的な徴候である。

4-36.
発熱時の発汗は、3日目、5日目、7日目、9日目、11日目、14日目、17日目、21日目、27日目、31日目、34日目に発汗が始まるのはよいことである。というのはこのような発汗は分利をもたらすからである。その他の日に始まる発汗は痛みや慢性病、再発の徴候である。

4-37.
高熱時の冷や汗は死の徴候である。中程度の発熱時の冷や汗は慢性病の徴候である。

4-38.
身体のどこかに汗が出ているのは、そこに病気があることを示している。

4-39.
身体のどこかが熱かったり冷たかったりすると、そこに病気がある。

4-40.
全身の状態が変化する時、例えば冷たくなったり再び熱くなったり、ある色から別の色に変わったりするのは、慢性病の表れである。

4-41.
はっきりした理由がないのに就寝後に大量の汗をかくのは、食べ過ぎの表れである。食餌を摂っていないのに大汗をかく時は、排泄が必要なことを示している。

4-42.
熱い汗でも冷たい汗でも、これが続く時、冷たい汗なら重病であり、熱い汗ならそれほど重い病気ではない。

4-43.
途切れることなく一日おきに悪化する発熱は危険であるが、間欠的な発熱(マラリア)は、どんなものでも危険はない。

4-44.
発熱が長引いている人は腫瘍があるか、関節の痛みがある(前田注;第七章第64節参照)。

4-45.
発熱後に腫瘍ができたり関節に痛みが出るなら、食べ過ぎである(前田注;第七章第65節参照)。

4-46.
発熱が続いていて、身体がすでに衰弱している時に悪寒が起きるのは、致命的な徴候である。

4-47.
発熱が続いている時に、痰が青黒かったり血液が混じっていたり、悪臭がしたり、、胆汁が混じっていたりするのは全てよくない徴候である。しかし、適切に排出されるなら、それはよいことである。このことは便や尿についても当てはまる。それぞれの経路で適切に排出されないとしたら、それはよくない徴候であるので(前田注;第七章第70節参照)。

4-48.
発熱が続いている時に、身体の表面が冷たいのに内部が火照るように熱くて喉が渇くなら、これは致命的な徴候である(前田注;第七章第73節参照)。

4-49.
発熱が続いていて身体が衰弱し、唇、眼、眉、鼻が歪んだり、物が見えにくくなったり、聞こえにくくなったりすると、これらのうちどれが起きても死が近い。

4-50.
発熱が続いていて、呼吸困難と意識混濁が始まると臨終の徴候である。

4-51.
発熱状態にある時に最初の分利で膿瘍が解消しない時には、その病気は慢性化する。

4-52.
発熱時や他の病気の時に患者が自分から泣くのは異常ではないが、勝手に涙が流れ出るのは、かなり異常である(前田注;第七章第83節参照)。

4-53.
熱がある時、歯に粘着性の物質が付着すると、その熱はもっと高くなる。

4-54.
過高体温(Jones注;弛張性マラリア)と空咳が続いていて、喉のむずむずが僅かである時には、喉の渇きはそれほどひどくならない。

4-55.
横痃(よこね)に伴う発熱は、一日で治まるものでない限り、全てよくない。

4-56.
発熱に伴う発汗によって熱が下がらないのは、よくない徴候である。この場合には病気が慢性化し、水分が多すぎる徴候であるから。

4-57.
痙攣やテタヌスの時に発熱すると、その病気は治る。

4-58.
過高体温(Jones注;弛張性マラリア)は悪寒が始まると治まる。

4-59, 真性の三日熱(前田注;マラリア)は最大でも七周期で分利する。

4-60.
発熱時に難聴となった時、鼻からの出血があったり、下痢すると、その病気は治る。

4-61.
発熱してから奇数日に熱が下がらない時には、概してその熱は再発する。

4-62.
発熱してから7日経過する前に黄疸が出ると、下痢しない限り、これはよくない徴候である。

4-63.
発熱時に毎日悪寒が生じると、その都度熱が下がる。

4-64.
発熱時に、7日目、9日目、11日目、14日目に黄疸が出るのは,右の季肋部が堅くならない限りは、よい徴候である。そうでない時には、これは悪い徴候である。

4-65.
発熱時に腹部が非常に熱くて胸焼けがあるのは悪い徴候である。

4-66.
急性の発熱時に痙攣して腹部に激しい痛みがあるのは悪い徴候である。

4-67.
発熱時に睡眠後に恐怖を感じたり痙攣を起こすのはよくない徴候である。

4-68.
発熱時に呼吸が止まるのは、痙攣が起きることを示しているので、よくない徴候である。

4-69.
熱があって、尿が濃くて、ぬるぬるした塊で満たされ、量が少ない時、その後に薄い尿が大量に排出されるなら、その病気は治る。これは、病気の始まりと、その直後におりものがある患者では普通のことであるから。

4-70.
発熱時に、家畜のように尿が濁ると、頭痛があるか、そのうちに起きるだろう。

4-71.
発病して7日目に分利する場合、4日目の尿は赤く濁り、その他の症状も通常通りとなる。

4-72.
無色透明の尿はよくない。これは譫妄性脳炎(Jones注;マラリアまたはこれに似た症状を呈する他の病気から起きる)に多く見られる

4-73.
季肋部が腫れて腹がゴロゴロ鳴っている時に腰痛が起きると、ガスが出るか、大量の尿が排出されない限りは下痢が起きる。これは発熱時に出現する徴候である。

4-74.
関節に膿瘍ができそうな時、消耗性の発熱患者が4日目に排泄し始めるような、濃厚で白濁した尿が大量に出ると、その膿瘍は回避される。また鼻からも出血すると、その病気は極めて速やかに治る。

4-75.
尿に血液や膿が混じっているのは、腎臓や膀胱に潰瘍があることを示している。

4-76.
尿が濃厚で、小さな肉片のような毛髪状のものが混じっているのは、腎臓由来であることを示している。

4-77.
尿が濃厚でふすまような物が混じっている時には、膀胱が疥癬にかかっていることを示している。

4-78.
血尿が勝手に出る時には、腎臓の小さな血管が切れていることを示している。

4-79.
尿に砂のようなおりものが混じっている時には、膀胱に結石がある。

4-80.
尿に血液とぬるぬるした塊が混じっていて、疼痛性の排尿困難があり、下腹部と会陰部にも痛みがある時には、膀胱の周囲に病気がある(前田注;第七章第39節参照)。

4-81.
尿に血液や膿、鱗片状の物が混じっていて、臭いがきつい時には、膀胱に腫瘍があることを示している。

4-82.
尿道に腫瘍ができた時には、化膿して破裂すると治る。

4-83.
夜間に尿が多く出る時には、排便が不足していることを示している。

第五章

5-1.
ヘレボレ(hellebore;前田注;クリスマスローズ;キンポウゲ科)を飲んだ後に痙攣が起きると命に関わる。

5-2.
怪我をして痙攣が起きると命に関わる。

5-3.
大量に出血した後で痙攣や吃逆(しゃっくり)を起こすのは、よくない徴候である。

5-4.
過剰に嘔吐した後で痙攣や吃逆を起こすのは、よくない徴候である。

5-5.
酒に酔った人が突然声が出なくなった時、発熱せず、酔いが覚めても声が出ないなら、痙攣を起こして死に至る。

5-6.
テタヌス(強直)を起こした人は4日で死に至る。しかしこれを乗り越えると回復する。

5-7.
思春期前に発症した癲癇は治るかもしれない。しかし25才以後に発症すると、通常は死ぬまで続く。

5-8.
肋膜炎が14日できれいにならない時には膿胸になる。

5-9.
肺結核は主に18才から35才の間に発症する。

5-10.
扁桃腺炎が治まっても肺に病気が移行したら、7日で死に至る。しかし、これを乗り越えたなら膿胸になる。

5-11.
肺結核の患者の痰を燃えている石炭に落とすと強い悪臭がし、頭髪が抜けると、これは致命的な徴候である。

5-12.
肺結核の患者で頭髪が抜けると、下痢に見舞われて死に至る。

5-13.
泡立つような血を吐く時、それは肺から排出されている。

5-14.
肺結核患者に下痢が始まると、これは致命的な徴候である。

5-15.
肋膜炎から膿胸に移行した人は、40日で破裂が起きて肺がきれいになれば病気は治る。そうでなければ肺結核に移行する。

5-16.
過度に何度も身体を温めると、次のような障碍が起きる。肉が軟らかくなる。筋肉が弱まる。思考力が低下する。出血と失神。中には、上記の障碍に続いて死に至ることがある。

5-17.
身体を冷たいもので冷やすと、痙攣、テタヌス(強直)、黒ずみ(壊疽)、発熱性の悪寒を起こす。

5-18.
骨、歯、腱、脳、脊髄に対して、冷やすことは有害だが温めるのは有益である。

5-19.
冷え切っている部位は、出血している時や出血しそうな時を除いて温めるべきである(前田注;第五章第23節参照)。

5-20.
冷やすと傷が痛み、皮膚が硬くなる。そして化膿を伴わない痛み、皮膚の黒ずみ、発熱性の悪寒、痙攣、テタヌス(強直)を起こす。

5-21.
筋肉質の若者が外傷を起こしていないのに強直した時には、場合によっては真夏なら大量の冷水をかけると体温が戻る。体温が戻るとこれらの症状は消える。

5-22.
身体を温めると化膿しやすいが、全ての傷が化膿するとは限らない。そしてこれは危険を回避する最も有効な方法である。温めることによって皮膚は柔らかく、薄くなり、痛みが和らぎ、悪寒、痙攣、強直が解消する。またこれは頭重を解消する。温めることは特に骨折に有効で、とりわけ骨が露出している時、また最も有効なのが頭部外傷の時である。また、寒冷による壊疽や凍傷、滲出性の疱疹、臀部、陰部、子宮、膀胱にも有効で、分利を促す。逆に冷やすことは有害で、致命的な状態を引き起こしやすい。

5-23.
冷やすことは次の場合に用いるべきである。すなわち出血しているか出血しそうな時。しかし出血部位を冷やすのではなく、その周囲を冷やすべきである。炎症がある時や、炎症を起こしている膿疱が新鮮な血液によって赤く充血しかけている時、このような時には当該部を冷やす(古い炎症の場合には冷やすと黒ずむ)。爛れていない丹毒も冷やすが、爛れている場合には冷やすと有害である(前田注;第五章第19節参照)。

5-24.
雪や氷のような冷たいものは胸に有害である。これは咳や、血痰、粘膜の炎症を誘発する。

5-25.
痛風や捻挫の時、炎症を起こしていない関節の腫れや痛みは殆どが大量の冷水をかけることで腫れや痛みが治まる。これは適度な麻痺によって痛みが解消するからである。

5-26.
素早く温め、素早く冷やすのには、水が最も軽い。

5-27.
夜間に激しく喉が渇き、水を飲んだ後に眠れるのはよいことである。

5-28.
芳香蒸気浴は月経を促す。これはまた、頭重を起こさない限りは他のさまざまな用途に使用できる。

5-29.
便秘の妊婦は、妊娠四ヶ月から七ヶ月なら下剤を用いるのがよい。ただし七ヶ月に近い場合にはゆるくする。胎児が四ヶ月未満の場合や七ヶ月を過ぎている場合には使用に際して注意が必要である(前田注;第四章第1節参照)。

5-30.
妊婦が急性病にかかると、どんな病気であれ致命的である。

5-31.
妊婦に瀉血すると流産する。胎児が大きいほど流産しやすい。

5-32.
女性の吐血は月経が始まると解消する。

5-33.
月経が停止した女性が鼻血を出すのはよいことである。

5-34.
妊婦が激しい下痢に襲われると、流産する危険性がある。

5-35.
ヒステリーを患っている女性や難産の女性がくしゃみをするのはよい徴候である。

5-36.
月経の分泌物の色が悪くて周期が不規則である時、これは下剤(月経促進剤;Jonesによる)が必要であることを示している。

5-37.
妊婦の乳房が急に萎むと流産する。

5-38.
双子を孕んでいる妊婦で、片方の乳房が萎むと一人の胎児を流産する。右の乳房が萎むと男児を、左の乳房が萎むと女児を流産する(前田注;第五章第48節参照)。

5-39.
妊娠も出産もしていないのに母乳が出るようなら、月経が止まる。

5-40.
女性の乳房が充血するのは精神異常の徴候である。

5-41.
女性が妊娠しているかどうか確かめるには、夕食を摂らせずに寝る前に蜂蜜水を飲ませる。そして腹部に疝痛が起きれば妊娠している。そうでなければ妊娠していない。

5-42.
胎児が男子なら妊婦の顔色がよく、女子であるなら顔色が悪い。

5-43.
妊婦の子宮に丹毒が発生するのは致命的である。

5-44.
不自然に痩せた女性が妊娠した場合、太らないと流産する。

5-45.
通常の体つきの女性が、はっきりした理由がないのに妊娠2~3ヶ月時に流産するのは、子宮の胎盤分葉が粘液で満たされたために胎児を支えられず、ばらばらに断裂したからである。

5-46.
過度に肥満している女性が妊娠しないのは、腸の大網(脂肪?)が子宮口を邪魔しているからで、これが解消されない限りは妊娠しない。

5-47.
股関節に近いところの子宮の一部が化膿したなら、栓塞杆による治療が必要である。

5-48.
一般に男の胎児は子宮の右側に、女の胎児は左側に位置を占める。

5-49.
後産の排出を促すには、くしゃみを促進させる薬を与えて鼻孔と口を塞ぐのがよい。

5-50.
女性の月経を停止させるには、左右の乳房にできるだけ大きな吹玉を用いるのがよい。

5-51.
妊娠している女性は子宮口が閉じる。

5-52.
妊娠中の女性で、乳房から大量の乳汁が出るのは胎児が衰弱しているしるしである。しかし乳房が堅いのは胎児がずっと健康な証拠である。

5-53.
流産しかけている女性は、両方の乳房が萎む。しかし再び張りが出て、両乳房や両股関節、両眼、両膝のどれかに痛みが出るなら、流産は起きない。

5-54.
子宮口が堅くなっている時には、その子宮口は必ず閉じている。

5-55.
妊婦が発熱し、明らかな理由がないのに痩せ細ると、出産は難産となって危険で、流産しても母体が危険である。

5-56.
女性の月経(月経過多?)中に痙攣や意識混濁を起こすのはよくない。

5-57.
月経過多の時には病気にかかり、月経が終わると子宮の病気にかかる。

5-58.
直腸と子宮の炎症には疼痛性排尿困難が併発し、腎臓の化膿にも疼痛性排尿困難が併発する。また肝臓の炎症には吃逆(しゃっくり)が併発する。

5-59.
妊娠しない女性が妊娠できるかどうかを確かめるには、毛布で身体を包み、下から燻蒸する。そして身体を通して鼻孔や口から芳香が匂うようであると、不妊の原因は女性自身にはないと判る。

5-60.
妊娠中の女性に月経が始まると、その胎児は健康ではいられない。

5-61.
女性の月経が止まった後に悪寒も発熱もしないが吐き気に襲われるなら、妊娠していると予想される。

5-62.
子宮が冷えて堅くなって(小さくなって?)いる女性は妊娠しない。また子宮に水分が多い女性も妊娠しない。これは精子が死滅するためである。そして子宮が非常に乾燥して高温になっている女性は、精子の栄養がないので死滅する。子宮が上記の中間状態にある女性は妊娠する。

5-63.
男性に関しても同様で、身体が弛緩していると生気が外に抜けて精子を放出できない。あるいは身体が締まりすぎていると、体液(精子?)が外に出て行けない。またあるいは、身体が冷えていると、精子が暖まらず、適切な場所(精巣)に集まらない。また熱くなりすぎると、同じことが起きる。

5-64.
頭痛の人や熱のある人、季肋部が腫れている人、腹がゴロゴロ鳴っている人、喉が渇いている人にミルクを与えるのはよくない。また急な発熱で胆汁性の下痢をしている人や血液を大量に排出(吐血?)している人にミルクを与えるのもよくない。しかし、消耗性疾患(肺結核)の人でひどく発熱していない場合には、ミルクを与える方がよい。また上記のような徴候がなく、慢性で軽度な発熱で、過度に衰弱している人にはミルクを与えるべきである。

5-65.
損傷部が腫れた時には、痙攣や意識混濁は起きそうにない。しかし突然に腫れが引いた時には、傷が身体の後面にあるなら、痙攣と強直が始まり、傷が身体の前面にあるなら、精神躁病や身体の側面の痛みを併発する。そして腫れがかなり赤くなるようであると、化膿や血液混じりの下痢(前田注;赤痢)を併発する。

5-66.
ひどく悪化した損傷なのに腫れがないのは、非常によくない。

5-67.
前記のような症例で、損傷部が柔らかいのはよいが、生硬なのは好ましくない。

5-68.
後頭部に痛みがある人は、前額部の真っ直ぐな血管を切開するのが有効である。

5-69.
女性の悪寒は、特に腰から始まり、背部から頭部に拡がる。男性では、身体の前面よりも後面に生じ、腕や大腿から始まる。体毛の生え方から判るように後面の方が体毛が薄いからである。

5-70.
四日熱に罹患している人はめったに痙攣を起こさない。先に痙攣を起こしていて四日熱にかかると、痙攣は治まる。

5-71.
皮膚が張っていてかさかさに乾き、硬くなっていると、臨終の時に汗をかかない。しかし皮膚がたるんで生硬であると、臨終時に汗をかく。

5-72.
黄疸を起こしている人はあまり鼓腸にならない。

第六章

6-1.
慢性の消化不良性下痢の場合、今までになかった酸性の曖気(げっぷ)が出るのは、よい徴候である。

6-2.
生まれつき鼻が水っぽくて精液も水っぽい人は、かなり病弱である。しかしこれと反対の人はずっと健康である。

6-3.
慢性の血液混じりの下痢(前田注;赤痢)を患っている人で食欲がないのは、よくない徴候である。これに加えて発熱を伴うと、もっとよくない。

6-4.
体毛が抜け落ちる腫れ物は悪性である。

6-5.
体側や胸部、その他の痛みがお互いにどれほど違うか、注意しておかねばならない。

6-6.
老人が腎臓や膀胱の病気を発症すると、これは治りにくい。

6-7.
腹部の痛みは、表面に近いほど軽く、深くなるほど重症である。

6-8.
水腫に罹患している人の身体にできた腫れ物は治りにくい。

6-9.
広範囲な発疹は、ほとんど痒くない。

6-10.
ひどい頭痛がある時、鼻や口、耳から膿や体液、血液のどれかが流れ出ると、その症状は治まる。

6-11.
黒胆汁性の病気や腎臓病に痔核が併発するのはよい徴候である。

6-12.
慢性の痔核が一つ残らず治った時には、水腫か肺結核に罹患する恐れがある。

6-13.
吃逆(しゃっくり)に苦しんでいる人がくしゃみをすると、その吃逆は止まる。

6-14.
水腫の場合、水分が血管から腹部に流出すると、病気は治る。

6-15.
慢性の下痢の場合、自然に嘔吐すると、下痢は治る。

6-16.
慢性の肋膜炎や肺炎に下痢が併発するのはよくない徴候である。

6-17.
眼炎に下痢が併発するのはよい徴候である。

6-18.
膀胱、脳、心臓、横隔膜、小腸、胃、肝臓にひどい損傷を受けると致命的である。

6-19.
骨、軟骨、腱、顎の細い部分、包皮が損傷すると、その部位は元に戻りもしないし、癒合もしない(前田注;第七章第28節参照)。

6-20.
血液が異常に腹部に流入すると、必ず腐敗する。

6-21.
精神異常の人に静脈瘤や痔核ができると、精神異常は治る。

6-22.
背中から肘に拡がる破裂痛は瀉血によって解消する。

6-23.
恐怖感と抑鬱状態が長時間続く時は、黒胆汁性の病気である。

6-24.
小腸が刺し傷を受けると、もはや癒合しない(前田注;第六章第18節参照)。

6-25.
丹毒が体表から内部に拡がるのはよくない徴候である。しかし身体の内部から外部に拡がるのはよいことである。

6-26.
過高体温(間欠性マラリア)では身体が震えるが、これは意識が混濁すると治まる。

6-27.
膿胸や水腫を切開したり焼灼する場合、体液や膿が一気に流れ出ると、必ず死に至る。

6-28.
去勢された人は痛風にも禿頭にもならない。

6-29.
女性は、閉経を迎えるまでは痛風にはならない。

6-30.
童貞の男性は痛風にはならない。

6-31.
眼の痛みは生のワインを飲むか、入浴するか、蒸気浴、瀉血、催吐薬で治まる(前田注;第七章第46節参照)。

6-32.
吃音障碍の人は慢性の下痢に襲われやすい。

6-33.
曖気(げっぷ)が酸性の人は肋膜炎にかかりにくい。

6-34.
禿頭の人には大きな静脈瘤は形成されにくい。しかし、禿げている人に静脈瘤ができると、再び毛髪がしっかり生える。

6-35.
水腫の人が咳を併発するのはよくない(前田注;第七章第47節参照)。

6-36.
瀉血は排尿障害に有効であるが、それには深部の血管を切開する必要がある(前田注;第七章第48節参照)。

6-37.
咽喉炎においては、頸の外側が腫れるのは、病気が外に向かっているので、よい徴候である(前田注;第七章第49節参照)。

6-38.
隠れて見えない悪性腫瘍に対しては、どんな治療もしない方がよい。治療すると患者はすぐに死に至るので。逆に治療しないでいると、患者の命は長期間保たれる。

6-39.
痙攣は食べ過ぎや空腹によって起きる。吃逆(しゃっくり)も同様である。

6-40.
炎症を起こさないで季肋部周辺に痛みがある時には、発熱すると痛みが消える(前田注;第七章第52節参照)。

6-41.
膿ができてはっきり現われないのは、身体の深いところにあるからである。

6-42.
黄疸を起こしている時に肝臓が硬くなるのはよくない徴候である。

6-43.
脾臓が肥大している時に血液混じりの下痢(前田注;赤痢)を起こし、それが慢性化すると、水腫または消化不良性の下痢を併発して死亡する。起こして

6-44.
疼痛性排尿困難の人が腸閉塞を起こすと、発熱して大量の排尿がないと7日で死亡する。

6-45.
外傷が一年またはそれ以上続くと、骨が剥脱し、瘢痕が窪む。

6-46.
喘息や咳によって思春期を迎える前に亀背になっている人は死亡する。

6-47.
瀉血や吐瀉が効果のある人は、春にそれを行なうべきである。

6-48.
脾臓が肥大している時に血液混じりの下痢(前田注;赤痢)を起こすのはよい徴候である(前田注;第七章第43節参照)。

6-49.
痛風においては、炎症は40日で治まる。

6-50.
脳にひどい外傷を受けると発熱と嘔吐を併発する。

6-51.
健康であった人が突然頭痛に襲われ、すぐに倒れて話さず、大きないびきをかくと、熱が出ない限りは7日で死亡する。

6-52.
次のような状態の時には、寝ている時の眼の状態に注意しなければならない。閉じた瞼の間から白目が見え、これが下痢やひどい嘔吐によるものでないなら、非常に深刻で致命的な徴候である。

6-53.
狂乱状態にあっても笑っていれば危険はないが、抑鬱状態なら危険である。

6-54.
発熱を伴う急性疾患でひどい呼吸音がするのはよくない。

6-55.
殆どの痛風は春と秋に悪化する。

6-56.
黒胆汁性の病気では、体液の流れによって次のような病気が起きる。それは、卒中、痙攣、精神異常、失明である。

6-57.
卒中は40才から60才の間に発症しやすい。

6-58.
腸の大網(腹膜)が脱出すると、必ず壊疽を起こして脱落する。

6-59.
慢性の股関節疾患においては、これが脱臼して再び整復すると股関節に粘液が生成する。

6-60.
慢性の股関節疾患において骨が脱臼した時、そこを焼灼しないでいると骨が細くなり、不具となる。

第七章

7-1.
急性疾患において四肢が冷えるのはよくない。

7-2.
骨に病気がある時に肉の色が青黒くなるのはよくない。

7-3.
嘔吐する時に吃逆(しゃっくり)と眼の充血を伴うのはよくない。

7-4.
発汗と共に悪寒戦慄するのはよくない。

7-5.
精神狂乱を起こしている時に血液混じりの下痢(前田注;赤痢)、水腫、恍惚状態を起こすのよいことである。

7-6.
病気がひどく長引いている時に食欲がなくなり、水様便が出るのはよくない徴候である。

7-7.
飲み過ぎによる悪寒や意識混濁はよくない。

7-8.
体内の膿瘍が破裂すると、極度に衰弱したり嘔吐、失神する。

7-9.
出血時に意識が混濁したり痙攣するのはよくない。

7-10.
腸閉塞を起こしている時に嘔吐や吃逆(しゃっくり)、痙攣、意識混濁を起こすのはよくない。

7-11.
肋膜炎に肺炎を併発するのはよくない。

7-12.
肺炎に譫妄性脳炎(Jones注;マラリアまたはこれに似た症状を呈する他の病気から起きる)を併発するのはよくない

7-13.
ひどい火傷の場合に痙攣や強直が起きるのはよくない。

7-14.
頭を強打して感覚が麻痺したり意識が混濁するのはよくない。

7-15.
吐血の後には膿汁を吐く。

7-16.
膿汁を吐くと肺結核と体液の異常流出を起こす。喀痰が止まると、その人は死亡する。

7-17.
肝臓の炎症がある時に吃逆(しゃっくり)が起きるのはよくない(前田注;第五章第58節参照)。

7-18.
不眠の時に痙攣や意識混濁を起こすのはよくない。

7-18a.
昏睡状態で振顫を起こすのはよくない。

7-19.
骨が露出している時に丹毒にかかるのはよくない。

7-20.
丹毒の時に壊疽や化膿を起こすのはよくない。

7-21.
強く拍動している傷から出血するのはよくない。

7-22.
腹部の痛みが長引いていて化膿を起こすのはよくない。

7-23.
水様性便が出ている時に血液混じりの下痢(前田注;赤痢)が起きるのはよくない。

7-24.
頭蓋骨骨折で意識混濁が起きた時には、頭蓋腔の中まで影響が及んでいるならよくない。

7-25.
ひどく吐瀉して痙攣を起こすと致命的である。

7-26.
腹部に強い痛みがある時に四肢が冷たくなるのはよくない。

7-27.
妊娠中に腹が渋ると流産する(前田注;渋り=実際には出ないのに尿意・便意を強く感じること)。

7-28.
骨、軟骨、腱が切断されると、どれも元に成長しないし、癒合もしない(前田注;第六章第29節参照)。

7-29.
白股腫に罹患している時に激しい下痢を起こすと、この病気は治る。

7-30.
下痢の時に便が泡立っていると、それは頭部から流れ下りている。

7-31.
発熱時に粉状のおりものが尿に混じっているのは慢性疾患があることを示している。

7-32.
排尿の初めは色が薄く、その後に胆汁性のおりものが混じるのは急性疾患にかかっていることを示している。

7-33.
尿が分離する時には身体に重大な不調がある。

7-34.
尿の表面が泡立つ時、これは腎臓に病気があり、その病気が長引くことを示している。

7-35.
尿の浮きカスが脂肪質で大量なら、これは腎臓の急性疾患を示している。

7-36.
前記のような症状が腎臓疾患に現われて、背部筋に急な痛みがある時、その痛みが表面にあるなら、そこに膿瘍があると予想できる。痛みが深部にあるなら、膿瘍も内部にあることが予想できる。

7-37.
吐血しても発熱しなければ致命的ではない。しかし発熱するのはよくない。この場合には解熱剤と止血剤で治療する。

7-38.
胸腔に体液が流入(粘膜の炎症;Jones)すると20日で化膿する。

7-39.
疼痛性排尿困難を起こしている時に尿に血液と血餅が混じり、会陰と恥骨部が痛むなら、これは膀胱のあたりに病気があることを示している(前田注;第四章第80節参照)。

7-40.
舌が突然に力を失い、身体の一部に卒中発作が起きると、その病気は黒胆汁性である。

7-41.
老人が下痢を頻発している時に吃逆(しゃっくり)を併発するのはよくない徴候である。

7-42.
発熱が胆汁性でないなら、大量の潅水を頭にかけると熱は引く。

7-43.
女性は両手利きにはならない。

7-44.
膿胸を焼灼または切開した時、傷口からきれいな白い膿が出ると患者は回復する。しかし、膿に血が混じりドロドロして悪臭を放っていると、患者は死亡する。

7-45.
肝臓の膿瘍を焼灼または切開した時、きれいな白い膿が出ると患者は回復する(この場合には肝臓の皮膜に膿が溜まっているため)。しかし、膿が油粕のようであると、患者は死亡する。

7-46.
眼の痛みはワインを薄めずに飲み、たっぷりの熱い湯に浸たし、瀉血すると消える(前田注;第六章第31節参照)。

7-47.
水腫の患者が咳(Jones)を起こすと絶望的である(前田注;第六章第35節参照)。

7-48.
疼痛性排尿困難や排尿障害は、生のワインを飲み、深部の血管を瀉血すると治る(前田注;第六章第36節参照)。

7-49.
ひどい化膿性扁桃腺炎の患者で胸が腫れたり赤くなるのは、よい徴候である。というのは、病気が外に出てきているからである(前田注;第六章第37節参照)。

7-50.
脳が壊疽にかかると3日で死亡する。しかしその日々を乗り越えると回復する。

7-51.
くしゃみは頭から起きる。これは頭が温められたり、頭部の空洞(脳室)に湿気(Jones訳)が満たされるためである。ここに空気が充満し、それが出て行く時に、狭い通路を通るので音が出るからである。

7-52.
肝臓の病気で痛みがある時に発熱すると、その痛みは消える(前田注;第六章第40節参照)。

7-53.
血管から血を抜く(瀉血)のが効果的な患者には、それを春に行なうべ きである(前田注;第六章第47節参照)。

7-54.
粘液が、どの空洞(胸腔、腹腔;Jones訳)にも出口を見いだせずに横隔膜と胃の間に溜まっているために痛みがある時には、それが血管を通って膀胱に流れると、病気は治る。

7-55.
肝臓に水が充満して腹膜内で破裂すると、腹腔は水で満たされ、患者は死亡する。

7-56.
不安感、欠伸、悪寒は、ワインを同量の水で割って飲むと解消する。

7-57.
尿道に結節(腫瘤)ができた時には、化膿して破裂すると痛みは消える。

7-58.
如何なる原因であろうと脳震盪を起こすと、患者は必ず話せなくなる(前田注;第四章第82節参照)。

7-59.
発熱して喉の奥に腫れがないのに突然呼吸困難に陥り、物を飲み下せないなら、これは臨終の徴候である。ただし何とか嚥下できる場合を除 く(前田注;第四章第34節参照)。

7-59a.
発熱して苦しんでいる人の場合、喉に腫れがなく、首を横に向けて物を飲み下せないなら、これは臨終の徴候である(前田注;第四章第35節参照)。

7-60.
肉が水分過多の人には断食を処方するべきである。なぜなら、断食は身体を乾燥させるからである。

7-61.
全身に変化が現れる時、すなわち身体が冷たくなったり熱くなったりし、皮膚の色が変わったりする時には、慢性疾患にかかっていることを 示している(前田注;第四章第40節参照)。

7-62.
熱くても冷たくても大量の汗が常に流れ出ているのは体液過剰を示している。この場合には身体が頑健な人には吐瀉させ、虚弱な人には排便を促して水分を排泄させねばならない。

7-63.
間欠性の発熱でない時に、3日目ごとに悪化するのは危険である。しかし、どんな形態であっても間欠性の発熱なら危険はない(前田注;第四章第43節参照)。

7-64.
発熱が長引いている時には、慢性の膿瘍か関節の痛みが起きる(前田注;第四章第44節参照)。

7-65.
発熱の後で慢性の膿瘍(腫瘤)あるいは関節痛が生じるのは、食物の摂りすぎである(前田注;第四章第45節参照)。

7-66.
熱のある人に健康な人が摂るのと同じ食物を与えると、健康な人には大丈夫でも熱のある人には有害である。

7-67.
尿に排泄されたものが健康な人のものと似ているかどうかをよく見ていなければならない。全く違っているなら重症で、健康人と似ているなら軽症である。

7-68.
排泄物を揺らさず、そのままにしておき、(腸からの)削り屑のようなおりものができるなら、排便させるのがよい。ただし下剤を飲ませる前に大麦汁を摂らせると、量が多いほど害が強くなる。

7-69.
未消化の排泄物は黒胆汁の産物である。これが多い時には黒胆汁が多く、少なければ黒胆汁も少ない。

7-70.
間欠性の発熱ではない時の痰が暗青色であったり、筋状の血が混じったり、悪臭を放ったりしているのは、全てよくない。しかし尿や便のように、これがふんだんに排出されるならよいことである。そしてどんな排出物でも留まって排泄されないのはよくない(前田注;第四章第47節参照)。

7-71.
排泄させる時には、身体をそれにふさわしい状態にしなければならない。上方から排泄させたいなら腸を固める。下方から排泄させたいなら腸の水分を高める(前田注;第二章第9節参照)。

7-72.
睡眠も不眠も度が過ぎると病気になる(前田注;第二章第3節参照)。

7-73.
発熱が間欠性でない時に、身体の表面が冷たくて内部が燃えるように熱く、しかも熱が高いなら、これは臨終の徴候である(前田注;第四章第48節参照)。

7-74.
発熱が間欠性でない時に、唇、鼻、眼が歪むか、視覚や聴覚が麻痺するかして、しかも身体が衰弱している時には、上のどれが起きても致命的である(前田注;第四章第49節参照)。

7-75.
白股腫には水腫が併発する。

7-76.
下痢には血液混じりの下痢(前田注;赤痢)が併発する。

7-77.
血液混じりの下痢(前田注;赤痢)には消化不良性の下痢が併発する。

7-78.
壊疽を起こすと骨が剥脱する.

7-79 & 7-80.
吐血すると肺結核になり、膿汁を吐く。肺結核になると頭から体液が流れ出る。流出が始まると下痢を起こす。下痢すると吐瀉が止まる。吐瀉しなくなると死亡する(前田注;第七章第15、16節参照)。

7-81.
身体が、自然な状態からどんな風にでも逸脱しているなら、膀胱や腸、肉(皮膚?)からの排泄物の異常が軽微なら病気は軽く、その異常がひどい時には病気は重く、異常が極度な時には致命的である。

7-82.
40才前後の人が譫妄性脳炎(Jones注;マラリアまたはこれに似た症状を呈する他の病気から起きる)を起こすと回復は容易ではない。病気が患者の体質や年齢に応じたものなら、その危険度は小さいからである。

7-83.
どんな病気でも感情衝動によって涙が出るのはよい徴候である。しかし勝手に流れ出るのはよくない(前田注;第四章第52節参照)。

7-84.
四日熱の際に鼻血が出るのはよくない徴候である。

7-85.
分利の日に汗が出ないのは危険である。そして汗が額から強く早く、滴となって出たり流れ落ちるように出たり、また過度に冷たくて大量に出るのは危険である。このような汗は極限状態の時や、極度の痛みがある時に出るもので、じっくりと絞られるように出るものゆえ。

7-86.
慢性疾患の時に下痢するのはよくない。

7-87.
薬が効かない病気は鉄の刃(メス?)で治る。鉄の刃が効かない病気は火で治る。火が効かない病気は治らないと知るべきである。

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