51.

 まつながーの鼻水とよだれでどろどろになった上にこれかい。何で風呂場にこんな余計なモンが有るんや。後でまつながーに聞いてみよかな。
 ……やな予感がする。メチャ痛いデコピン10連発を喰らいそうやから止めとこ。
 俺がまつながーの天子なぁ。マジで堪忍してや。恥ずかしすぎてまつながーの頭を押さえ込んで顔面を膝で蹴り上げそうになったで。
 まつながーの涙の理由はなんとなく判る。今までずっと気を張って我慢してたんが、ぷつんと糸が切れてしもたんやろ。無意識でやっとったコトやからまつながーに自覚が無いのも判る。
 判るけど……絶対に言いとう無い。まつながーが俺の膝の上に顔を伏せた時から、ホンマは全部声に出とって聞こえてたってコトまで言わなアカンくなるやろ。
 あないに俺の本性完全無視で褒めちぎらたのにメッチャ恥ずかしいやん。あんなのまつながーの妄想以外の何やっちゅーねん。
 背中が痒くなるから思い出すのも嫌や。俺は綺麗に忘れるコトにする。だから、まつながーも全部忘れてしまお。たまに思い出に浸るのもええけど、もっと前を見よや。きっと今のまつながーにはそれが必要やろ。

 俺が風呂から出るとまつながーはすでに着替えとって、ソファーに座ったまま手を振ってきた。
「ヒロ、時間が勿体ないから急いで朝飯食うぞ」
「あ、そやなぁ」
 そういや喧嘩したりバタバタしとったから、チェックアウトの時間を完全に忘れとったなぁ。携帯を見たら時間はまだ余裕有るけど、ラブホから人通りが多い時間に出るのは嫌やもん。早々に退散したいよな。
 あれ? まつながー、何か変わった? 俺がじっと顔を見とったら、まつながーが「ばーか」と言ってにやりと笑った。
 あ、そうか。変わったんとちゃう。さっきまでの怒りや憤りが無うなって、いつものまつながーに戻ったんや。真っ赤やった目も戻っとるし切り替えメッチャ早いなぁ。
 やっぱ、まつながーって凄いて思う。俺には何でまつながーが自分のコトをヘタレて言うんか、俺なんかが羨ましいって思うのか全然解らん。けど、自分の欠点を認めた上で前向きに行こうって姿勢は好きやから黙っとこ。
 俺もソファーに腰掛けると、まつながーが変な顔して俺のコト見とる。ちゃんと髪は乾かしたし、シャツもボタンの掛け違いしとらんよな。洗面台の鏡でチェックしたから多分どこもおかしくないハズや。どうしたんやろ。
「ヒロ、そのシャツ脱げ」
「へ?」
 いきなり何やねん? て、思ってたらまつながーは自分が着とったTシャツを脱いで俺に放ってきた。ますます訳判らんで。
「交換だ。ヒロは今日1日そっちを着てろよ」
「何で?」
 まつながーのTシャツを俺が着るとぶかぶかになるやん。俺が顔をしかめるとまつながーはもっと嫌そうな顔をした。
「その服だとお前の胸元が赤く痣になってるのが丸見えだ。どう考えても俺の拳の跡だが、ぱっと見キスマークみたいで気分が悪いから隠してろ」
「げーっ! マジぃ?」
 あっ。まつながーに胸ぐら掴まれて強く押さえ込まれた時に痣になったんか。着替える時にそこまで気付かんかった。キスマークぅ? うげげっ。響きがメッチャ嫌やー。たしかに俺の綿シャツは胸元開いとるもんな。まだサイズが合っとらんTシャツの方がましかも。
「まつながーはこれでええの?」
 俺もシャツを脱いで投げると、まつながーは「この方がまだマシだ」と言い返してきた。相当これが見えるのが嫌なんやな。深く考えるの止めよ。マジで鳥肌まで立ってきた。
 まつながーは俺がずぼらして頭から脱いだ服のボタンを全部外して慎重に着とる。いくら体格差が有ってもそうそうシャツが破れるとは思わんのやけどなぁ。
「ヒロのシャツはMでもLに近いくらい大きめだから俺でも着れる。こういう綺麗な色は俺に合わねーけど仕方ない。ヒロは……やっぱり似合わねーな。それに、ぶはははははっ」
 振り返るなりまつながーがTシャツを着た俺を見て爆笑する。
「そこで笑うなやー」
 まつながーのTシャツは胸元がちゃんと隠れとるけど、肩の位置が全然合わん。袖は五分丈以上になっとるし、裾も女子高生の超ミニスカートみたいな長さ で、ケツが完全に隠れてまうから座る時に気を付けんと伸ばしてしまいそうや。スポーツ系ならこういうのも有りやけど、いかにも借り物って感じなんよな。綿 シャツなら多少大きくてもここまで変やないんやけど。こうなるって判っとったから嫌やったのに。
 まつながーは俺には(少しと言いたい)大きめやったシャツを(ひいき目に見て)ピッタリ着とる。暑苦しい胸板や二の腕の筋肉もしっかり見える。無地やからええけど、これで派手な柄付いてたらほとんど……にしか見えんで。

 止めた。気を取り直して朝ご飯食べよ。
「あー」
「どうした?」
 まつながーがホテル備え付けの紙カップコーヒーを片手に、総菜パンを頬張りながら聞いてくる。俺がむすったれながらスーパーの袋からペットボトルのコーラを出すと、「ああ、そういえば有ったな」なんて暢気な口調で言った。
 昨夜風呂上がりに飲もうて思っとったのに、エロビデオ観ながらすぐに寝てもうたんよな。生温かいコーラなんて美味しく無いやん。このまま家に持って帰ろうにも炎天下の車内で熱膨張するよな。裂けるかフタが飛んで溢れる可能性大や。車を汚したら姉貴に何言われるか判らん。
 俺がコーラを見ながらあんパンを食っとったら、まつながーがにやりと笑って言った。
「お前のポカは自業自得だからそれの始末は自分でしろよ。生温いコーラを飲むのは経験済みだろ」
 何か思わせぶりでデジャビュを感じる言い方やなぁ。……あ、あの時や。
「まつながー、甘いあんパン食っとるのに、口ん中が納豆パスタ味になったー」
 まつながーはしてやったりという顔でにやりと笑う。絶対わざとやな。うがーっ。見た目も食感もあんパンなのに味は納豆+めんつゆ。嫌過ぎや。
 分かったわい。「勿体ないから捨てずに飲め」って言いたいんやろ。根性悪いやっちゃな。
 俺が500ミリリットルのコーラを一気飲みすると、まつながーは「お子ちゃまは素直で可愛いなー」なんて笑いながら言っとる。メッチャむかつくー。さっきのだらーと鼻水垂らした変な顔、携帯で写真撮って証拠残してやれば良かった。
 ……チョイ待て。
 あの時のまつながーの服はこのホテル備え付けの寝間着。バックはやたら一見豪華な部屋。アカン。とてもや無いけど誰にも見せれんからネタに使えんやん。
 まつながーはホンマに完全復活したっぽい。それは凄くええコトやけど、この毒舌だけは復活せんでも良かったのに。


52.

 さっきまでの神憑りな怒りと威圧感はどこへやら。普段どおりに戻った俺の天子は相変わらず表情が豊かだ。口に出さなくても、何を考えているのか丸判りで見てて飽きない。
 なんか馬鹿な事を考えてすぐに自分で否定していたけど、あの顔からしてどうやら俺関連っぽいぞ。やれるモンならやってみろよ。さっきの詫びと礼代わりにどんな事でも受け止めるから。……と、言ってもお人好しのヒロが考えつきそうな悪戯なんて知れてるけどな。
 パンを食い終わってゴミ箱に要らない物を捨てる。歯を磨いたらさっさと出発しようぜ。
 ヒロ、今日は俺をどこかに連れて行ってくれる気だったんだろ。よもや「忘れてたー」とか言わないだろうな。こっちは楽しみにしてるんだ。
 チェックアウトして車に乗るとヒロが横目で俺を見ながら「なあ」と声を掛けて来た。頼むから運転に集中してくれ。そのいかにも慣れてない手つきが怖いだろ。
「まつながーは海好き?」
 いきなり何だよ。もしかして今日の行き先か? それはさすがに嫌だぞ。
「大好きとまで言わないけど好きだ。まさかと思うけどこれから泳ぎに行こうとか言い出さないだろうな。俺達は水着も持ってきてねーだろ」
 しかも男2人の海岸は滅茶苦茶虚しいぞ。と言い掛けたところでヒロが笑い出した。
「ちゃうて。海を見にいかん? て聞いてるん。それと水族館やな。まつながーはそういうトコ好き? 嫌いなら他のトコ行くから」
 また思いっきり「デートコース」を選びやがったな。この馬鹿。とは言わずにおこう。ヒロの頭の中にはそんな考えは1ミリグラムも有りゃしないだろ。自分が側からどう見えるのか自覚が無い奴は暢気で良いな。どうなっても知らねーぞ。
「ヒロが後悔しないなら俺は行ってみたい」
「何やそれー?」
「深い意味なんかねーよ」
 確実に別コースになる様な事を誰が言うかよ。そこは前々からヒロが俺を連れて行きたかった所なんだろ。ガイド役のヒロが決めた場所は外れが無いから安心して任せられるんだよな。「人の顔色を見るな」って、俺に何回言わせる気だ。本当に学習能力が無い奴だな。

 しばらく幹線道路を走って外宮の側を通るとすぐに高速道路に入る。あ、昨日ヒロが車を停めたのはこのすぐ下だったのか。時間と太陽の位置から今向かっているのは北東寄り。道の角度から内宮はここより南東だな。だんだんこの辺りの地理が解ってきたぞ。
「まつながー」
「ん?」
「昨日、まつながーがせっかく話してくれてたのに、俺が止めてしもた話有ったやろ。高速道路走ってる間は、運転下手な俺でも話を聞く余裕有ると思うで」
「あ、うん」
 完全に忘れていた。そういえばあの時はヒロが慣れない運転で緊張しすぎない様にって、昔話をしようと思ったんだったな。
 今朝の事が無くても美由紀の話はしたくもないし、聞かされるヒロもたまったもんじゃ無いだろう。動揺してハンドル操作を間違えるに決まってる。
 寮時代の話は裕貴ネタを外す方が難しい。裕貴の趣味がアレだけに、下手にヒロが裕貴に興味を持ったら洒落にならない。
 昨日は何を話そうとしたんだったけか。昨夜から色々有りすぎて記憶が曖昧だ。勘の良いヒロが俺が何も話さないので少しだけヒントをくれた。
「俺の記憶違いやなかったら……おじいさんの話やったと思うん」
「そうだった」
 盆に帰らないのがやっぱり気が引けて、つい死んだじいさんの話をしたんだった。
「ちょっと暗い話になるけど聞いてくれるか?」
「まつながーが俺なんかに話してもええて思ってくれてるんなら聞きたい」
「その「俺なんか」は止めろっての」
 俺が軽く頭を叩くと「運転手相手に暴力ふるっちゃアカンやろ」とヒロが苦笑する。

 ヒロが受け止められない事なんて無いだろ。
 美由紀の名前を聞いて理性が切れた俺に、罵られて酷く痛めつけられても逃げ出したりしなかった。真っ正面から俺にぶつかってきて、自分でも判らない俺の感情全てを、天子の優しさで受け止めてくれた。ヒロ、お前は本当に強い。今更泣き言の1つくらい増えても良いよな。
「俺が中3の時、一緒に暮らしてた母方のじいさんが急に家で倒れたんだ。それこそ殺しても死にそうもないくらい元気なじいさんだったから、お袋も親父も俺もびっくりしてしばらくオロオロしてたよ」
「俺がまつながーと俺が同じ立場やったら、やっぱりオロオロすると思う」
 ヒロが続きを促す様に相づちを打つ。聞き上手でも無いのにヒロは話しやすいな。構えなくて良いからリラックスできる。
「1番先に冷静になった親父が急いで救急車を呼んで大学病院に連れて行ったんだ。お袋はショックでボロボロ泣いてたな。俺もまだ中学生だったから、泣くお 袋を連れてタクシーで病院に行くのが精一杯だった。数週間検査入院してじいさんは肺ガンだと判った。もう歳も歳だから手術なんかとても身体が保たないと医 者から言われて、放射線と投薬治療を地道に続けるしか無かったんだよ」
「……うん」

 話していく内に少しずつあの時の記憶が鮮明に頭に浮かんでくる。淡い色の病院の壁。自分の病名を知っても「何とかなる」とベッドの上で笑い飛ばしたじい さんの姿。冷静に医者から話を聞く親父。ばあさんも数年前に亡くしてるからか気落ちするお袋。そして何もできなかったガキの俺。
「お袋はそれまで勤めてた会社を辞めて、短時間パートをしながら家と病院を往復する生活になった。そうすると中学生の俺でも少しは考えちまう訳だ。じいさ んの病気が治るのにどれだけ時間が掛かるか判らない。親父は仕事で忙しいし、お袋も家事とパートと病院で毎日疲れてた。俺も何か手伝おうとしたんだけど、 「受験生は勉強しろ」って、お袋は俺に自分の部屋掃除以外はさせなかったんだ。秋になって俺が「地元で寮の有る進学高校に行くよ」って言った時、親父もお 袋も何だかんだと言いながら、やっぱりほっとしてたな」
 溜息混じりに話すとヒロは顔を少しだけ俺の方に向けて笑顔を見せた。
「まつながーはやっぱり孝行モンやねぇ」
 そう来たか。運転中じゃ無かったらヒロの頭を抱えてかいぐり回してるところだ。
「そうか? 単に俺がガキの頃からじいさんっ子だったからかもしれない。遠くの学校に行ったらなかなかじいさんの顔を見れないだろ。俺のパチンコと酒と煙草はじいさんの仕込みなんだ」
「なんやー。メッチャ悪いじいちゃんやん。どうせならもっとええコトをまつながーに教えたれば良かったのになぁ。まさか毒舌までおじいちゃんに似たとか言わんやろーな」
「そっちはモロにお袋似なのと、寮の奴らの影響だ」
「やっぱし遺伝やんか」
 ヒロが明るい声で少しだけ笑う。響きに全然嫌みが無くて自然と俺の心も軽くなる。今ならきっと言える。ヒロが口下手の俺に力を貸してくれるだろう。
「じいさんのせいで俺が受験に失敗したなんて、誰にも言われたく無かった。俺は勉強に集中させてくれたお袋に感謝しつ本気で勉強したんだ。それで水戸市内でも有名な進学校に入れた」
「まつながーは努力家やもんねー」
「んな事ねえよ」
「んじゃ、まつながーって天才?」
「な……お前なぁ。馬鹿な事言ってるんじゃねーっての」
 ヒロはさっきより陽気な声で笑う。どうしてそうやっていとも簡単に俺の気持ちを楽にしてくれるんだ。
 それも良いさ。狭い車の中じゃ伊勢の天子は俺の独占状態だ。思いっきり使い倒してやる。

「寮生活が始まると正月以外は寮で暮らしてたな。俺も部活が休みだったり、学校帰りとかになるべく病院に顔を出してたんだけど、高校3年になったばかりの春に快方に向かってたはずのじいさんがあっさり逝っちまってよ。あの時は家族全員一気に力が抜けちまった」
「そっか。……残念やったね」
 病院から帰ってきた棺に収められたじいさんの身体。癌はそうとう苦しいって聞いてたのに、ぽっくり逝ったからかとても穏やかな寝顔だった。ばあさんの写 真と位牌を持って、じいさんに話し掛けるお袋。お袋に何かと声を掛けつつ葬儀会社の人と打ち合わせをする親父の背中。俺は学校から急いで帰ってきたけど、 何をして良いのか判らずにただ立ってそれを見ていた。
 葬儀にはクラスや寮の連中も来てたな。学校が終わってから来た美由紀は俺よりも泣いていた。そういえば通夜の時から学校をサボって家に来てくれた裕貴 が、泣きじゃくる美由紀を連れて帰ってくれたんだったな。あの時は俺も全然余裕が無くて葬儀に来てくれた連中にまともに礼も言いそびれちまっていた。裕貴 が色々気を配ってくれなかったらかなりやばかったよな。
 裕貴は根は凄く良い奴なんだ。趣味が問題なだけで。ああ、本当に「アレ」さえなきゃあいつが親友だってクラスでも堂々と言えてたぞ。

 俺と裕貴が3年掛けて培った関係を、あっという間にヒロは追いついて、すっかり馴染んじまってる。今じゃ裕貴とヒロを比べるなんて到底できねぇ。
 あ、ヒロが心配そうな顔してやがる。ちゃんと最後まで言わなきゃな。
「35日法要が終わると、親父やお袋は俺にすぐに帰って来いって言ったんだ。けど、今度は俺の方が大学受験で余裕が無くなってたんだ。学校や図書館、塾の 近くに有る寮の方が何かと便利だったから。今の大学に受かって卒業して一旦家に帰ってもすぐ東京に出てきちまった。だから親父とお袋とはここ数年間あまり ちゃんと話して無いな。その分学校で……」


53.

 まつながーはそこで黙ってしもうたけど、何を言いたいんか俺でも判る。意地張ってしもうたせいで引くに引けずにいるんやな。親御さんらと会いたいのに会えんで辛いんやろ。ホンマは話したいコト一杯有るんやろ。
 それと話を聞いてて美由紀さんがまつながーにとって、高校時代にどれだけ心の支えになってきたのかも凄く解る。こら簡単に忘れられる訳無いよなぁ。名前が出るだけでナーバスになって当然やん。
 親御さんに心配や迷惑掛けたくないからってまつながーは何年も我慢してきたんや。きっと親御さんも同じ気持ちで、ほやからあないに何度も「帰って来い」て電話掛けてきとったんやろうな。
 お互いを気遣ったからこその別居生活やもん。会わしたいよなぁ。まつながーと本音で向き合ってから、強引に伊勢に連れて来たんをちょこっと後悔しとる。俺がもっと早くまつながーに話しとったら良かったのに。ホンマに後悔先に立たずや。
「寮じゃ裕貴のとんでもねーくそ馬鹿行動に振り回され続けてきたけど、あっ……」
「裕貴?」
 初めて聞く名前な気がする。誰やろ。寮ってコトは多分高校時代の友達よな。まつながーの顔をちらっと見たけど露骨に「しまった」て顔しとる。うっかり口 が滑ったって感じっぽい。こら聞かん方がよさそうや。大酒呑んだ時以外は、滅多に自分の過去を話してくれんまつながーがこれだけ俺に話してくれたんやも ん。それで充分よな。
「まあ、終わった事だし、今はヒロが側に居てくれるからな。凄く助かってる」
 そう言ってまつながーはドラマやアニメのヒーローがする様な、女の子らがよく言う「今にもとろけそうな顔(だっけ?)」をして俺の頭をなでてきた。
 うげげーっ。マジで止めれや。話して気が抜けたらアホスイッチが復活しおったな。どんなにええ男でも気色悪すぎて声も出んかった。
 そういう顔を男の俺相手にすなやー。大学やバイト先で女の子相手にせい。一気にモテモテになるで。しつこく言うけど女の子「限定」やからな。人類外は論 外やけどこっちも絶対嫌や。全身に走った鳥肌と冷や汗をどうしてくれる。まつながーは自分の行動に気付いてへんから尚更凶悪や。さっきの顔を自分が鏡で見 とったら、ナルシストやないまつながーも絶対吐いとるで。
 嫌なモン見たのは忘れて、もうすぐ出口やし運転に集中しよっと。

 今目指しとるのは鳥羽。二見浦にも水族館が有るんやけど、男2人で夫婦岩なんか見とうない。夫婦連れやカップルだらけやから、まつながーの言い分や無いけどメッチャ虚しいっちゅーねん。
 トンネルをくぐってしばらく走ると正面から左手にかけて海が見えてくる。狭くて足を縮めとったまつながーも風景が変わって嬉しそうや。目的地まで後少しやから我慢してや。
 水族館附属の駐車場に車を停める。まつながーは漸く足が伸ばせたって感じで車から降りて身体を伸ばしとる。ここは時間的にも伊勢からそないに離れてへんのやけどなぁ。
 背の低い俺は全然平気やからチョコっといじけモード。振り返ったまつながーは速攻で「ばーか」と言って俺に痛くないデコピンしてきた。何で顔も見ずに俺が考えてる事を解るん?


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