「なぁ、ヒロ」
「何?」
「あ、やっぱり良い」
「何やねん? まつながーらしくないで」
「言っても無駄って気がした」
「何か引っかかる言い方やなぁ。どういう意味やねん?」
「だから言っても無駄だと……」


『ま、そんな日々』


1.

 冷蔵庫を開けるとかなり寂しい状態になっていた。ここ最近ヒロも俺もバイトが忙しくて、買い物に行く時間が取れなかったから仕方ねーよな。
 少しでも出費を抑えようと、生活必需品のコンビニ買い禁止令を出していたのが裏目に出たな。多分ヒロの冷蔵庫も似たようなもんだろ。
 一緒に買い出しに行こうと壁を数回叩いたが、数分待っても返事が無い。今日はヒロもバイトが休みだから寝てるのかもしれないな。
 サンダルを履いて部屋を出た。あ、ヒロのヤツまた玄関を開けっ放しにしてやがる。最近は物騒だから止めろと何度も言ってるのに全く聞きやしない。まぁ、ヒロがそうする気持ちも解るけどな。
 うちのアパートは窓が西向きで、7月に入る前から午後は部屋が蒸し風呂状態になって暑くてかなわない。茨城出身(一応関東なんだから東北とか言うな)の 俺が言うならともかく、東京より南寄り(どっちかといえば西か)の三重出身のヒロが、毎日「暑いーっ!」と愚痴を言っているくらいだから、東京の暑さは半 端じゃねぇ。
 軽くノックをして扉から部屋の中を覗くと、ヒロがパンツ1枚で扇風機に抱きついていた。
 ……。
 突っ込みどころが多すぎてしばらく言葉が出なかった。どうりで返事が無かったはずだ。耳元の風音とモーター音がうるさくてノックが聞こえなかったんだな。
 窓と玄関の扉を全開にして、少しでも部屋に籠もった熱気を逃がそうとしているんだろうが、西日が入るカーテンまで開けていたら意味が無いだろ。風は通るからすだれ代わりにカーテンは閉めておけ。
 汗が出て気持ち悪くても、裸で風に当たるのは逆に熱効率が悪いぞ。せめてシャツ1枚くらい着ろ。誰が通るか解らないんだから部屋の中でもパンツ1枚は止 めろって。それで無くても近所のおばさん達に「可愛い」とか言われてるんだから、その恰好で窓際に行こうものなら喜ばれるだろうが。男でも少しは羞恥心く らい持て。
 それから扇風機には抱きつくな。風邪を引くどころかマジで死ぬぞ。
 というか、お前は幾つのお子ちゃまだ?

 俺が部屋に入ってリモコンを拾って扇風機を止めると、ヒロが恨みがましい目で見上げてきた。
「何すんねん?」
「常識的行動だっての。扇風機の風に直接当たり続けたら運が悪けりゃ死ぬぞ」
「ほなコト言うたかてメチャ暑いんやからしゃー無いやん。扇風機無しでこの部屋におったら熱射病で倒れてまうやん」
「限度ってモンがあるだろ。それはともかくヒロの冷蔵庫の中身はどうなってる?」
「中身ぃ? んーと」
 ヒロは額の汗を拭ってだるそうに立ち上がると、冷蔵庫の扉を開けて中を覗き込んだ。
「昨夜作っておいた麦茶が1リットルくらい残ってるでぇ。あ、食パンが後2枚しか無いなぁ。牛乳もほとんど無いし肉や魚も在庫無いでー。野菜もにんじんくらいしか残って無いなぁ。米と缶詰や乾物やったら少しは有るんやけど」
「やっぱり同じか。ヒロ、何をやってんだ?」
 さっさとドアを閉めれば良いのに、ヒロは開けた冷蔵庫に頭を突っ込んでいた。
「こうしとると涼しいなぁて思ったん。冷やっこくてメチャ気持ち良いん」
「お前は馬鹿か。冷蔵庫の開けっ放しは厳禁だろ」
 俺がヒロの髪を引っ張って冷蔵庫の扉を閉めると、ヒロはまた恨みがましい目で俺を見た。夏が暑いのは俺のせいじゃ無いだろーが。
 とにかく食料の買い出しに行かないと2人共今夜食べる飯すらまともに無い。スーパーに出掛けるから服を着るように言うとヒロはもっと嫌そうな顔になった。
「えーっ。今すぐやのうてもええやん。まつながー、せめて日が沈んでもうちょい涼しくなってからにしよ。スーパーまで歩くと15分以上掛かるやん。あそこに辿り付く前に俺が倒れてしまいそうやもん」
 普段なら滅多に我が儘を言わないヒロが珍しく駄々をこねる。よっぽどこの暑さが応えているんだろうがこっちも譲れない。
「今、3時半を過ぎてる。スーパーの土曜特売は4時からだろ。遅くなったらめぼしい物は全部売り切れて欲しい物が買えないじゃないか。諦めてすぐに服を着ろ。出掛けるぞ」
「うーっ」
 ヒロは嫌々立ち上がると、鴨居にハンガーで引っ掛けていたジーンズと綿シャツを着た。

「あ、涼しー」
 スーパーに着くまでの間、口をぼんやり開けているか「暑い」としか言わなかったヒロが、冷房の効いた店内でほっと息を付く。
「来て良かったろ」と聞くと「うん」と素直に笑って返事をする。現金というかやっぱりこっちの方がヒロらしいな。夏バテを起こしてぐずっているヒロには調子が狂う。
 あ、またやっちまった。
 人を噂や外見でしか捉えない事がどれだけ視野と思考を狭くするか、ヒロと知り合ってから充分知っていたはずなのに、俺までこんな事を考えてどうする。ヒロは想像していたより暑いのが苦手で、たまたま今まで知らなかった一面も俺に見せてくれただけだ。
 俺が拳で軽く自分の頭を叩いていると、ヒロが「どうしたん?」と聞いてきた。「何でもない」と答えると、「そっかぁー」とだけ言って生野菜に視線を向けた。しまった。また余計な気を使わせちまったか。

 俺達が値引きシールの付いた食料品を慎重に選んでカゴに放りこんでいたら、魚のトレーにシールを貼っていた店員のおばさんが声を掛けてきた。
「あら、ヒロちゃん。今日もお兄ちゃんと買い物? 本当に仲良いねぇ。うちの子達もヒロちゃん達みたいに仲良くして欲しいわ」
「おばちゃん、こんちはー。もしかしてこのサンマも安くなる?」
 おばさんはヒロの笑顔のつられて「まだそれに貼るのは早いんだけどね」と言いながら、俺が持っていたトレーに50円引きのシールを貼った。
 おい、ヒロ。いつ俺達は兄弟になったんだ? また知らないヤツから勝手に作られた新しい設定か? 値引きは嬉しいが、誤解をされてるのに笑ってるんじゃない。
「おおきにー」
「久しぶりにヒロちゃんの顔を見たからね。その代わり沢山買ってってね」
「うん。そうする。おばちゃん、またー」
 俺達が鮮魚売り場から総菜売り場に移動するまで、おばさんは嬉しそうに手を振っていた。
 おばさん相手に「おばちゃん」と呼んでもサービスして貰える男、ヒロ。ある意味凄い。俺が言ったら一発で怒らせそうだ。かといって、お袋と同年代らしいおばさんをわざとらしく「お姉さん」なんてとても呼べない。
 乳製品売り場まで移動した時に小声でヒロに聞いてみたら「何でか知らんけど、ここの店ではいつの間にか兄弟ってコトになっとるみたいやでー。まつながー が老けて見えるんかな。でも、そのおかげで安くして貰えたんやからラッキーやん」なんて言っている。誰が見たって逆だろうが。この童顔め。

 5時近くになってもじりじり照りつけてくる強い日差しの中、2人掛かりでも両手にスーパーの大袋を3つづつ持ってアパートに戻った。俺のTシャツも汗で背中がびっしょり濡れていて気持ちが悪い。
 速攻で綿シャツを脱いだヒロが「死ぬー」と言うと、すぐに扇風機のスイッチを入れて前に陣取った。
「休むのは生ものを全部片付けてからにしろ。パックを半分に分けるぞ」
 俺が少しだけ怒った声を出すと、ヒロが慌てて立ち上がって牛乳パックとかを冷蔵庫に放り込み始めた。
「野菜や肉は無理に分けんでもどっちかの冷蔵庫に入ってたらええと思わん? どうせお互いの部屋の鍵持ってるんやし、作るのもいつも2人分やろ。この季節にあまり生モンに触ると逆に早く悪くなるんやないかな」
「野菜は良いけど1回で使い切れない肉と魚は小分けにして冷凍庫だろ」
「そやなぁ」
 ヒロは棚から冷凍袋と箸を手に取るともそもそした動作で徳用パックを分け始めた。帰り道にまた夏バテが復活したな。冷凍庫から小さいアイスバーを出して渡すと、ヒロは文字通り目をキラキラさせて喜んだ。
「まつながー、おおきにー」
「冷凍庫を少しでも空けたかっただけだ。どれだけ暑くても1日1本だけだからな。腹を冷やすし逆に夏バテが酷くなる」
「うん。分かったー」
 自分でもヒロ相手だと小言が多くなって母親臭いと思いつつ(もう慣れた)、アイスバーを口に含みながら元気を取り戻して素早く手を動かすヒロはとても嬉しそうに見えた。税込み30円で簡単に釣られるとは安上がりなヤツだ。俺もこれが終わったらビールでも飲むか。

 サンマの塩焼きに納豆と具沢山味噌汁の晩飯を食い終わって、テレビのニュースを見ていたらヒロが「なあ」と声を掛けてきた。新聞はネットの無料版で済ませるが、ニュースを真面目に見るタイプのヒロにしては珍しいな。
「何だ?」
「俺と共同出費でエアコン買わん?」
「は?」
 どういう意味だ? 俺が無言でいると、ヒロは真面目な顔で提案してきた。
「俺とまつながーで共同でエアコン買ったらどうかなって思ったんなぁ。個人で買うにはメチャ高いし、電気代も勿体無いやろ。ベッドが有るまつながーの部屋 にエアコン付けて、冬になったら俺の部屋にコタツと石油ストーブ置いたらええと思わん? 隣に住んでるんやし、光熱費は折半にして夏場と冬場だけ一緒に住 も」
 ……。
 殴りたい。思いっきり頭を叩いてやりたい。というか誰かこの超脳天気馬鹿を何とかしてくれ。

 俺は怒鳴りつけたいのを我慢して、少しでもクールダウンしようとコップに残っていた氷を囓った。普段なら勘の良いヒロが俺が怒っているのに気付かないの か、「駄目ー?」と聞いてくる。ああもう、こいつにどう説明したら解って貰えるんだ? 誰かって……俺しかいねーな。頑張れ、俺。
「あのな。ヒロ」
「ん?」
「金銭面を考えたらヒロの意見はかなり良い」
「うん。そうやろ。まつながーならそう言ってくれると思ったん」
 嬉しそうに言うな。ぷちっ。という音がどこからか聞こえた気がしたが今は我慢する。
「だがな、もしヒロに彼女できたらどうする気だ?」
「え?」
「「え」って、ヒロは誰かと同居している部屋に女を入れる気か?」
 ヒロは意味が判らないという顔をして俺を見返してくる。何か変な事を言ってしまったか? 俺が自分の言った事を反芻していると、ヒロがのんびりした口調で言い返してきた。
「まつながー、まさかこのボロアパートに彼女さんを上げる気やったん? 真田さんみたいにサバサバした人や慣れてる子ならともかく、普通の子やったら外観だけで嫌がるんとちゃうかなぁ。喫茶店や外で会えばええやん」
「よりにもよってあの真田を例に挙げるな。彼女と2人きりになりたい時に色々困るだろ」
「2人きりてカラオケボックスとかじゃアカンの」
 む……虚しい。滅茶苦茶虚しいぞ。精神安定剤代わりに無性に煙草が吸いたくなってきた。髪を掻きむしって溜息まじりに突っ込みを入れる。
「ヒロ、お前絶対童貞だろ」
 ヒロは図星を突かれて耳まで真っ赤になると、飲みかけの麦茶を噴き出した。
「しゃーないやん。今まで女の子と付き合ったコト無いんやから」
「聞いた俺が馬鹿だった。……じゃない。悪かった」
 これくらいの事でそんな今にも泣きそうな顔をするなよ。俺は真面目なヒロが恋愛感情抜きで簡単にセックスできるなんて思って無いっての。
 そういう意味じゃ無いからと説明しても、きっとヒロには理解できないだろう。何せエロビデオが睡眠薬代わりになる男だ。何本分のレンタル代を無駄にしたか覚えていない。

 俺は無意識の内に煙草に手を伸ばそうとして止めた。ヒロに俺がイライラしているなんて誤解をされたくない。このまま平行線で言い合いになるのも嫌だ。ヒロの提案を受け入れる気にもなれない。
 どう言えば1番良いのか判らないが、とりあえずヒロの真似をする事にした。ヒロの言う事があっさり人に受け入れられるのは言葉に毒が無いからだと思う。
 言ってる内容そのものは充分俺の思考クラッシャーなんだが。
「俺が誰かと付き合ってるとして、他の女と同居していたらそいつの部屋に上がろうと思わない。その友人の知らないところで勝手に部屋に入るのが嫌だから だ。同時に俺がもしヒロと同居を始めたら、ヒロの同意無しで女を連れてこようと思わない。ヒロのプライバシーを俺の都合で他のヤツに見せたく無いからだ」
 できるだけ噛み砕いて話してみたらヒロはゆっくり「うん」と頷いた。俺の下手な説明でもヒロなりに理解してくれたらしい。
「俺に好きな女ができたら、誰にも気を使わずにのんびりできる自分の部屋で会いたいという欲求が出ると思う。第1金が掛からないからな。親に学費貰ってる学生の身に、アパートの綺麗さを要求する様な女と付き合うのは面倒だ」
「経験無いからきちんと理解できとる自信無いけど、そうかもしれんなぁ」
 ヒロは真面目な顔で相づちを打つ。
「だから」俺はそう言うと笑ってヒロに軽くデコピンを当てた。
「ヒロが彼女居ない歴を更に4年間更新したいのは勝手だが、俺まで巻き込むなっての」
「えーっ。んなコト全然考えとらんかったわい。暑いのが我慢できそうも無かったから言っただけやてー」
 ヒロはぶくっと頬を膨らませた。俺がぶっと噴き出すと益々拗ねた顔になって立ち上がる。
「そろそろ部屋に戻って寝るなぁ。明日のバイトは夕方からやけど、ここんトコ夜も暑かったからあまり寝れてないんな。冷たいシャワー浴びてすっきりしてから寝てみる」
 余計な事と思いつつ、つい小言を言ってしまった。
「身体を冷やしすぎると風邪引くぞ」
 玄関先で振り返ったヒロは少しだけ苦笑して言った。
「分かっとるわい。あ、まつながー。今日は変なコト言って困らせてしもてホンマ堪忍なぁ。自力で夏バテ対策考えてみるー。ほな、おやすみー」
 やっぱり気付かれてたか。俺が返事をする前にヒロは少しだけ頭を下げて扉を閉めた。

 ポケットから煙草を出して火を付ける。
 ヒロと喧嘩したくないからできるだけ冗談めかして言ってみたんだが、夏バテで呆けていても勘の良いヒロは、自分が俺に要らない気を使わせたんだと思ってしまったらしい。つくづく日本語は難しいな。
 テーブルの上を片付けてノートパソコンを置く。頭を冷やす代わりに書き掛けのレポートを今日中に終わらせてしまおう。ヒロの事だからきっと明日の朝には 何事も無い様に振る舞うだろう。俺が謝るのも変だし、逆にヒロを傷付けかねない。だったら俺も何でもないって顔するべきだよな。

 あっ。
 うっかりノートパソコンを開いたまま電源切るのを忘れていた。しかもデータ保存をするのすら忘れている。俺も昼間は暑さでかなり呆けていたらしい。パソコンは熱暴走でOSが完全フリーズを起こしていた。
 4時間分のデータを泣く泣く諦めて強制終了をさせる。運が良ければバックアップファイルから少しは復元出来るだろう。完全アウトなら始めからまた書き直しだ。
 気力で自分は暑さを我慢できても機械は無理だな。梅雨時も時々動きがおかしくなったし、こういう時にエアコンが有れば……。
 何だ。馬鹿馬鹿しい。結局、ヒロが言う事の方が正しいんじゃないか。
 俺はパソコンを一旦冷やしてから再起動させて、一気にレポートを仕上げていった。

 翌朝、隣に行くとヒロがタオルケットにくるまって畳の上に直寝していた。扇風機は微風で直接身体に当たらない様にしてある。寝不足と暑さで呆けていても、昨日俺の言った事をちゃんと聞いてくれてたんだな。
 枕元にしゃがんで顔を軽く突いたらヒロは「んー」と言いながら目を開ける。
「あれ、まつながー。おはよー。どないしたん?」
 俺を見上げてしっかりした口調で言う。ヒロは寝起きが悪いからすぐには起きないだろうと思っていたが、昨日言っていた様に本当に睡眠が浅いみたいだな。
「ヒロ、午前中にATMに寄って電器屋に行くから付き合えよ。さっさと手続きして早く工事をして貰おう。もしかしたらこのアパートは電源から直さないとエアコンを付けられないかもしれない」
 俺がそう言うとヒロは大きな目を更に大きく見開いて何度も瞬きをした。何で? という顔をするから俺はわざと少しだけむすっとした顔をしてみせた。
「昨夜、俺のパソコンが「暑い」と抗議してストを起こした。あれが正常に動いてくれないと勉強ができないんだ」
 俺の下手な冗談でも受けてくれたのか、ヒロはぷっと吹き出してにぱっと笑った。
「腹減ってるから朝ご飯食べてからでもええ?」
 俺の勝手な言い草にヒロが怒るんじゃないかと内心ビクビクしていたが杞憂だったらしい。やっぱりこいつにはかなわない。俺は立ち上がると親指で玄関を指さした。
「俺の部屋に用意してある。顔を洗って着替えたら来いよ。今朝は和風納豆トーストだ」
「げーっ! アレだけは堪忍やって何度も言うたやん」
「夏バテが暑さ対策メニューに文句を言うな」
 ヒロの文句を受け流すと俺は部屋を出て行った。
「まつながーの根性悪ーぅ」
 閉じた扉越しにヒロの恨み言が聞こえてくる。正直に感情を表に出せないのは俺の悪い癖だ。
 悪いがヒロ、諦めてくれ。


2.

 エアコンを買って快適になったまつながーの部屋でお互いにレポートを纏めていた。昼間からカーテン引いて電気付けてるのは何か違和感有るけど、この方が 電気代が安く済むらしい。室外機にはすだれが掛かっとる。これも電気代対策になるんやて。そういや家のエアコンの室外機も流行のガーデニング用木製カバー が付いとったなぁ。
 ホンマにまつながーは色々なコト知ってて羨ましいなぁ。電器屋との交渉も全部やってくれたもんな。俺も早くまつながーレベルに上がれるとええんやけど。

 今纏めてるんはまつながーとかぶっとる講義の課題。一般教養科目に学科は関係無いもんな。でも今時「自分の死を想定して遺書を書く」なんて課題出すやろか。俺はチョット前に19になったばかりやで。そら、病気や事故で急にぽっくり逝く可能性も有るけど。
 多分、あの教授のコトやからこの課題を出したんは言葉どおりの意味とちゃうと思う。まだ若い俺らに遺書を書かせるコトで、これからの人生設計を今の内からきちんとやっとけって言いたいんやないかな。
 人生設計なぁ。今、立てたって状況でどんどん変わっていくと思うんやけど、それを言い出したらレポートがいつまでも完成せん。普通に人生送ると仮定して、死ぬのは平均寿命でええよな。とりあえず未来年表から作ってみるか。

 俺がそんなコト考えとったら、まつながーはにやけた顔をしてキーボードを打っとった。どういう人生を想定しとるんやろ? 少しだけ気になったんで聞いてみた。
「んなモン真面目に考えてないっての。今、将来やりたい事と卒業時だと違う可能性が高いだろ。てきとーに教授受けが良さそうな事書けば良いかって感じだ」
 まつながーも俺と同じ様なコト考えとるんやなぁ。だったらその顔は何なん。じっと見とるとやっぱ気色悪いんやけど。
「ヒロはどういう人生を想定してるんだ?」
「んーっと。今未来年表作ってるんやけど、4年で無事に大学卒業して、うちは男俺1人やからできれば実家に近いトコに就職したいんな。遅くても30前には 結婚したいなぁ。子供も性別はどっちでもええから2人は欲しいトコ。んでもって定年まで働いたら貯蓄と年金で……年金、ホンマに出るんかいな。それはとも かく、歳取ったらのんびり暮らしたいなぁって思うん。最後は奥さんより早く死にたいなぁ。ほら奥さんに先立たれた男の1人暮らしって、いきなりがっくり来 るって言うやろ」
俺が画面を見ながら話すと、まつながーは口を少しだけ開けて俺をじっと見とった。
「何?」
「あ、……そうか。うん。ヒロはそういう希望か」
 目があさってな方向に泳いどるで。最近気付いたんやけど、まつながーって本音を言いたく無い時は目を絶対合わせようとせんのよな。
「だから何やねん?」
「いや、その」
 何でまつながーが俺の(願望満載やけど)未来年表聞いておろおろするん? どう見ても思いっきり不審人物状態やで。
「ヒロは」
「ん?」
「彼女も居ないのに妙なところで細かい計画だけ立てるヤツだったんだなって思った。普通そこまで具体的に作るか?」
 ホンマオカンみたいに細かいトコに気付いてうるさいやっちゃな。今は彼女がおらんくても、その内できるやろ。多分、いや絶対。
「そんなコト言うたかて、レポート纏めるのに一応は必要やろー。まつながーはどんな教授受けしそうな未来設定しとるん?」

 俺が聞くとまつながーはにやりとしか言いようが無い顔で笑った。
「取り合えず死に方は腹上死って事で後はてきとーに」
「へ?」
 今、まつながー何て言ったん? 絶対に俺の聞き間違いよな。
「堪忍なぁ。まつながーの言ったコトよう聞こえんかったん。もう1回言って貰ってもええ?」
「腹上死」
 即答かい。しかも俺の聞き間違いでも無かったんかい。つーか、ホンマに何を考えとるん。
 顔に思っとったコトが出とったんか、まつながーは更に笑って言った。
「勉強と仕事はやって当然。惚れた女とやって死ねたら本望だろ。どうせレポートには具体的な死に方まで書かねーんだから」
 俺はそんな死に方は絶対しとうないわい。第1メッチャ恥ずかしいやろ。みんなにバレてしもたら末代まで笑い語り継がれるに決まっとる。まつながーはそういうコト考えんのかなぁ。
 俺が返事に困っとったら、まつながーは真面目な顔に戻ってキーボードを打ち始めた。
「ヒロ、人間死んだらそれまでだろ。生きてるからこそ色々選択肢や可能性が有るんだと思わないか」
「う、うん。ほやな」
 なんや。結構真面目に考えとるんやん。さっきは俺をからかおうって思ったんやな。相変わらず品が無いつーか、タチの悪い冗談やなぁ。
「だから」
「ん?」
「やっぱり死ぬなら1度は男のロマンを求めだな。やってやってやりまくってから死にたいって思うだろ」
 ……本気だったんかい。だから俺はそんなコト全然思わんっちゅーねん。やっぱここはツッコミ入れどころやろ。
「そういうのって身内に迷惑とか恥ずかしいとか思わんの?」
 俺がそう聞くとまつながーは平然と言い切った。
「自分が死んた後の事なんか知るかよ。恥も何も関係無いだろ」
「俺、まつながーがそんな死に方したら、絶対葬式には行かんで」
 俺があまりのアホらしさに呆れて言ったら、まつながーは軽く手を振った。
「あ、もう遺言状に「必ず酒井博俊に友人代表で挨拶させろ」って書いたから、ヒロは逃げられないぞ」
「あ……アホか。結婚式の披露宴じゃ有るまいし、身内でも無いのに葬式でそないなコトできる訳無いやろー」
「退屈なお経よりその方が面白いだろーが。俺は何回か親戚の葬式に出たけど毎回途中で寝たぞ」
 アカン。よっぽど嫌な課題やったんか、まつながーの頭にアホスイッチが入っとる。聞くふりして放置するコトにしたけど、どんどんネタが下の方にいってもうて当分止めそうもない。
 まつながーはちゃっかり手も動かしとるけど、気が散ってもーて俺の方がレポート纏められんやんか。
 まつながーのどスケベアホー!


3.

 バイト先の先輩から「お勧め」と言われて18禁エロビデオを無料レンタルした。近々処分する予定のビデオだそうで、気に入ったらそのまま返さなくて良いと言われたんだが、何が悲しくて美少女系ギャグアニメを貰わなきゃいけないんだ。こういうのは俺の趣味じゃ無いっての。
 ヒロにビデオを見せたら「へー。こんなんも有るんやなぁ。初めて見た」と言った。
 おい、まさかと思うが未だに俺が借りてくる以外のビデオを……ヒロが自分から観るはず無いか。
 一緒に暮らしてみると益々解るヒロの健全生活。朝1から大学に行って、そのままバイトに行くかアパートに帰って晩飯を食った後に、深夜シフトのバイトに 行くか、そのままアパートで勉強しながらテレビを観ている。たまにアクションゲームもやってるみたいだが、すぐに飽きるらしくて止めてしまう。
 俺も同じだがヒロは1、2年の内にできるだけ単位を取りつつバイトで稼いだら、3年以降は極力専門分野の勉強に集中する気でいるらしい。
 ヒロは変に真面目で不器用だからか、日常生活にもそれが徹底されている。ここまで清らかだと時々俺の方がおかしいんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
 ビデオは30分物でお気軽そうだという話になり、寝る前に観る事になった。
「どうせ途中で寝るんだから先に布団しいておけよ」
「分かったー」
 ヒロに自覚ができた事を喜ぶべきか悲しむべきか、……当然後者だな。このままじゃ好きな女ができても、まともな恋愛ができるのか本気で心配になってくる。
 寝る準備が終わったのでビデオをセットする。今日は何分保つだろうか? これまで観始めてから10分以上ヒロが起きてられた事はない。

 滅茶苦茶馬鹿くせー展開、んな事できるかよ。男も女も人間か?
 俺が欠伸をかみ殺していると、ヒロが、あのヒロが、しっかり目を開けてビデオを観続けている。
 これまでFカップの美人が主演だろうが、SM系だろうが、パロディ系だろうが、5分で寝ていたヒロが真面目にテレビを食い入る様に見ている。
そうか。ヒロはこういうのが好みだったんだな。俺の好みじゃないからと、全く借りて来なかったのが悪かったのか。
 まさかヒロは3次元の女に興味が無い……はず無いな。買ってくるエロ本は普通のグラビアだ。一瞬、心臓が痛くなったぞ。

 巻き戻しが終わって俺がビデオをレンタル袋に入れるとヒロが「なぁ、まつながー」と声を掛けてきた。「最後まで寝なかった」と言う気か? まぁ、初めての快挙なので、寒々した気分になるが言ったら誉めてやろう。
「何だ?」
「今のビデオのヒロインさんてな。何カップくらいやと思う?」
「は?」
 流行のアニメだぞ。普通じゃ有り得ない体型をしていただろうが。俺がそう思っているとヒロはテーブルの上から電卓を取った。
「主役の兄ちゃんが割と普通っぽい体型やったからそれと対比してあのヒロインさんはアンダーバストが65くらいやと思うんな。んでもって横から見たらそれなりに厚みが有ったからカーブしとっても最低でも6センチくらいにはなるやろ」
「は?」
「身体は裏表有るから(65−6×2)/2として前から見たら26.5やろ。んで、スイカかバレーボールみたいな胸しとったから直系13.25センチにな るんな。胸は両方ついとるからこの数値はまんま直線部も残して、円周は直径×πやから13.25×3.14/2で20.8。全部足したらトップバストって 最低でも85.8センチになるん」
 まさかと思うがヒロが糞つまらないストーリー無しのビデオを観て起きていられたのは。
「Aカップがトップとアンダーの差は10センチやから、単純計算すると(85.8−65−10)/2.5で4.32になるからEカップは有るなーと思ったん。カップ数はともかくこないな形の胸した人おるわけ無いやん」
 普段のヒロからは考えられないくらいブラのサイズに詳しいと思ったが、以前少し歳が離れた姉さんが居ると言っていたな。
 嫌な予感がしたが、一応確認してみた。
「ヒロはビデオを観ている間、ずっとそれを計算してたのか?」
「うん。出てくる女の子全員分。みんな変な形の胸ばっかしなんやもん。中には骨格から完全にはみ出してHカップくらいの子も居ったでー」
 そんな事を自慢げに言うな。というかエロビデオ観ながら計算するな。思考が止まって頭が真っ白になるのを何とか堪える。
「ヒロ、今すぐに寝ろ」
「何で?」
「良いからお子ちゃまは寝ろ。明日起きれなくて遅刻しても知らないぞ。俺は寝る。おやすみ。電気消せよ」
 俺はそれだけ言うとベッドに横になった。
「お子ちゃま言うなっていつも言ってるやろー」
 ヒロの抗議は無視決定。一気に疲れた。今はもう何も考えたくない。
 先輩には悪いが、2度とこの手のアニメだけは借りて来ないと決心して、俺は心の中で耳栓をして寝た。


4.

 この間からメチャ気になっとるスナック菓子が有る。俺の理性は「止めとけー。止めとけー」と何度も言ってるんやけど、スーパーやコンビニで見掛ける度に手を伸ばしそうになっとった。
 今日は俺が食事当番の日で、スーパーに買い出しに行ったついでについつい買ってしもうた。
 まつながーは夕方早くから深夜までの長時間バイトの日。大学からバイト先に直入で途中で買い食いするから、晩飯は俺1人分しか作らなくてもええんやけど、いつもの癖で2人分作ってしもうた。
 まぁ、ラップ掛けて冷蔵庫に入れておけば、明日食えるからええやろ。

 晩飯を食い終わって片付けもした後、布団の上でテーブルの上にあるスナック菓子を見る。『納豆(キムチ、わさび)』味の2つのスナック菓子、この段階で俺の脳裏に危険信号が灯る。過去この手の物に手を出して美味かった記憶がないんよな。
 何度も痛い目見とるんやから始めから手を出さなきゃええんやけど、もし美味しかったら干し納豆ばっかり食うまつながーに教えたろうと前々から思っとる。
 前にわさび納豆巻きで酷い目に遭ったからキムチ味を食べるコトにした。
 フタを開けると部屋中に漂う納豆とキムチの臭い。菓子なのにメチャリアルやなぁ。インスタント味噌汁のカップみたいな入れ物の中に1センチくらいのちょこっといびつな円筒形のスナックが結構な数入っとる。1個掴んでみたら凄く軽かった。
 取り合えず試食っと。
 ……。
 俺は口を押さえて台所に走ると、冷蔵庫からまつながーのビールを1本出して口に含んで思いっきりうがいをした。水でこの味に対抗できるとは思えん。
 口一杯にビールの苦みが広がって、スナック菓子の味は消えた。
 自腹とはいえ変なモン買い食いして美味しくなかったから全部捨てたなんて、まつながーが知ったら無駄遣いって怒るに決まっとる。
 まつながーは俺がビールやチューハイに手を出しても絶対怒ったりせん。逆に「慣れておけ」て言うくらいなんやもん。ほやけど、うがいに使ったなんて知ったらやっぱり怒るよなぁ。
 丸々1個分菓子は残っとる。封を切ってない分はともかくどないしよう。
 俺はテーブルの前に座って半べそをかきながら、ビールでスナック菓子を腹の中に流し込んだ。食って飲んでしまえば、まつながーにはばれんやろ。
 その後の記憶はほとんどない。

 目覚まし時計の音で目を覚ますと、横のテーブルの上は綺麗に片づいとった。俺、自分でやったんかな?
 まだ寝とるまつながーを起こさない様にそっと台所に行ったら、流しの中に俺が昨夜作ったおかずの皿が洗剤入りの洗い桶に浸かっとって、洗ったビール缶が2つ立ててある。
 深夜バイトから帰ってきたまつながーが夜食代わりに食ったんやな。もともとまつながー用に作ったんやからええけど、ちゃんとレンジで温めてから食ったんかな。酔っぱらっとったからまつながーが帰って来たのも覚えとらん。
 冷蔵庫から牛乳を出した時に燃えないゴミ箱の中に昨日俺が食べたキムチ納豆味、もう1個のわさび納豆味のスナック菓子の空パックが捨てて有るのが目に入った。まつながーが俺が寝てる間に食ったんやな。勇気有るなぁ。
 あ、もしかしてテーブルの上を片付けてくれたんもまつながーかも。まつながーは綺麗好きやから、帰ってきてさぞかし呆れたやろうな。俺が出掛ける前に目を覚ましたら謝るか。
 トーストと牛乳で朝食を済ませて部屋を出たけど、まつながーは起きてこんかった。よっぼどバイトで疲れてたんやろな。今夜はまつながーは休みで俺が夕方勤務やから謝るタイミングを逃しそうや。起きた頃を見計らってメールを入れておこっと。

 バイトが終わってアパートに帰ったら、まつながーが晩ご飯作ってくれて食べずに待っとってくれた。ホンマに有り難いなぁ。
「いただきます」
 服を着替えてからまつながーと一緒にご飯を食べ始めたんやけど、まつながーの後ろにいつも行くスーパーの大袋が2つも置いてあるのが気になった。
 昨日、俺も買い物したのにあんなに買うモン有ったかいな。それにいつもなら買い物したらすぐに片付けるまつながーらしくない。
 俺の視線に気付いたまつながーがにやりと笑った。
「ヒロ、昨夜1人でずいぶん面白いモン食ってたんだな」
 うっ。やっぱりソコに話がいくんかい。俺が「うん」とだけ答えると、まつながーは上機嫌って顔して後ろに置いとったスーパーの袋を俺の前に置いた。
 何やろうと思って袋を覗き込むとあの納豆スナック菓子が一杯入っとった。
「おわっ!」
 俺が思わず後ずさるとまつながーがどうしんだという顔をした。
「ヒロが俺に食えって感じでテーブルに置いていただろ。ビールのつまみに合うし、美味かったからまとめ買いしといた。この手の菓子は期間限定が多いだろ」
 スーパーに並んどったのを大人買いしてきたんかい。まつながーにはアレが美味しかったんか。たしかわさび味の方やったよなぁ。でもキムチ味食べたら多分後悔するで。
「試しに買ってみたんやけど気に入ってくれて良かったなぁ。まつながーの好きなだけ食ってなぁ」
 つーか、頼むから全部1人で食ってな。俺にそれを食わそうとか思わんといてな。
「ヒロも気に入ったみたいだから、飯を食い終わったらビールを飲みながらお互いに別の味を食おうと思ってた。何か問題有ったか?」
 あ、まつながーに完全誤解されとる。
 そうよな。誘われても滅多に酒を飲まない俺が自分からビール飲んで、買ってきた納豆菓子をまつながーは気に入ってくれたんよな。きっと嬉しかったんやろな。けど……。

「まつながー、堪忍して。実は俺、それ全然駄目やったん。ビール飲んだのも納豆臭いの消そうと思っただけなん。ホンマ堪忍な。怒るかもしれんけどそれ全部1人で食べてぇ」
 俺は土下座してまつながーに本気で頼んだ。まつながーの好意も全部裏切るコトになってまうけど、俺にはそれを食べ続ける気力が無い。
 まつながー、ホンマに堪忍。許して貰えるまで謝り続けるから、気が済むまで叩いてもええから、俺のコト嫌いにだけはならんといて。
「ヒロ、頭上げろ」
「へ?」
 頭の上から普段どおりのまつながーの声がした。もしかして怒っとらんの?
 おそるおそる顔を上げたら、まつながーが俺の顔を掴んで、口の中に強引に何かを押し込んだ。

 げーっ! これってアレのキムチ味やん。臭いなんてモンやない。
 俺がじたばた暴れとったら、まつながーが俺の頭を抑えたままにっこり笑って言った。
「ヒロは初めて食う時は嫌がってもすぐに慣れるタイプだろ。大丈夫だっての。何回か食べる内にお前も好きになるから安心しろ」
 いや、ホンマにそういう次元の味とちゃうんやけど。つーか、お茶。せめてお茶飲ませてーっ!
 俺が涙目になりながら暴れると、まつながーの力が強まって更に口の中に菓子を詰め込まれた。こういう攻撃はマジで堪忍やて。

「ほら、全部食えただろ。昨夜は慣れない味に舌がびっくりしただけだって」
 へ? まつながーの手が離れてテーブルに目を向けると空になったパックが有った。昨夜は半べそかきながらビールで流し込んだのに、俺1人でこれ全部食べられたん?
 俺がビックリしてパックを眺めとったら、まつながーが冷蔵庫から缶チューハイを出して渡してくれた。
「その味だったらビールよりこっちの方が合うと思う。わさび味なら絶対ビールだけどな」
 言われたとおりチューハイを1口飲んでみたら、ホンマにこっちの方が合っとった。あれ? って思って聞いてみた。
「まつながーはこれの味を知ってたん?」
「回転寿司でキムチ納豆軍艦巻きが有るだろ。それの味を想像したら大体判る」
「へー」
 まつながーは何を今更という顔をして、晩ご飯の残りを食べ始めた。

 なんか拍子抜けしたつーか、良いように丸め込まれたつーか、訳判らん。ちらっとまつながーの顔を見たら、俺の顔を見てにやりと笑った。
 あ、何考えてるか俺でも判ったで。
「俺の身体で遊ぶなやー!」
「一石二鳥だから良いだろ。ヒロだって食えないモンが減るのは良い事だろーが」
 ……あっさり正論で言い返されてもうた。チョット悔しいなぁ。

 教訓、今後納豆系の食い物を食う時は、ゴミも含めて完全に証拠隠滅するコト。
 つーか、まつながーにだけは何が有っても絶対見つからんコト。

おわり

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