縮刷版96年7月上旬号


【7月10日】 そうだ太田貴子だったクリーミーマミの声を当てていたのは。メールを戴き思い出し、歌っていた「ハートのシーズン」(だっかかな)とゆー曲のタイトルまで思い出してしまった。これはカッコいい歌だった。サビだけならまだ歌える。それにしても太田さん、今はどうしているのやら。

 大雨の振る中を電車で多摩センターへと向かう。山間部へと分け入っていく電車の車窓に、帰りも電車は動いているんだろーか、風雨で立ち往生するか土砂崩れで不通になるかして多摩センターに閉じこめられるんじゃないかと心配するが、明るいうちは風雨もそれほど強くはならないと聞いていたので、多分大丈夫じゃないかと思って勇気を振り絞る。目的地のベネッセコーポレーション東京本社ビルは、今日もニキ・ド・サンファンの明るく派手な彫刻群に囲まれ、巨大なヒトガタを壁面に浮かび上がらせて、サンリオピューロランドを見おろす丘陵に立っていた。

 エレベーターで21階にあるドーム・シアターへと登り、今日がお披露目だとゆー、大型ドーム用の新作映像「ピリアロハ」を見る。日本人とハワイ人の少年の交流を描くストーリーが、丸天井いっぱいに映し出されると、14インチのちまちました画面で見ているテレビの画像が、なんだかものすごく陳腐でチンケに思えてくる。作ったのがベネッセで、配給先が博物館とか科学館とかいったドーム施設を持っている所になるため、教育番組とゆーか科学番組とゆーか、お勉強的な要素が入った内容の映像だったが、長い年月をかけてけずり取られた渓谷の間を飛んでいくシーンなどは、自分も空を飛んでいるよーな感覚になれてちょっと感動。あまりの迫力に、じっと見続けていると、乗り物酔いの時みたく、だんだん気持ち悪くなってきた。夏休みを利用して見に行ったこどものうち、きっと何人かはげろんげろんになるだろー。弱い人はビニール袋必携。

 部の歓送迎会の費用を、積み立てていた部費を取り崩すことになったため、会費に想定していた幾ばくかのお金で本を買う。これじゃあ溜まるわきゃないわな。買ったのはドナルド・カッツとゆー気鋭のジャーナリストが書いた「ジャスト・ドウ・イット」(早川書房、2200円)。タイトルを聞いてピンと来た人は、よほどのスポーツ好きかコマーシャル通。そう、今やナンバー1の運動靴メーカーとなった「NIKE」の創設者であり、極端なまでのマスコミ嫌いで知られるフィル・ナイトにスポットを当てたこの本のタイトルは、NIKEがスローガン、キャッチフレーズ、CMコピーなんかに使っていた言葉だ。

 サッカーシューズで最近NIKEを買ったほかは、バッシュもスニーカーもNIKE製品はこれまで避けて来た人間だけど、NIKEとゆー会社の成長の秘密とか、成長に大きく貢献したマーケティング戦略、広告戦略には興味があった。まだ最初の数10ページを読んだだけだけど、かなり面白い。CEOなんかが先頭切って大言壮語する割には、いつまで経っても商品が出ない某大手ソフトメーカー(複数)が多いなか、マスコミにはほとんど出ず、しかし商品は売れに売れまくっているNIKEの物語に、だれきった目を覚まさせられる。


【7月9日】 電通に行って取材。電子新聞の展望と課題を聞くとゆー企画の1つで、新聞局の人に広告代理店側からみた電子新聞というメディアの可能性、広告媒体としてのバリュー、現行のメディアと電子メディアとの関係が将来どーなるか、といったことを聞く。ふだん編集の現場にいて、毎日の新聞作りにしゃかりきになっていると見えてこない、新聞というメディアだけでなく、メディア全体を俯瞰した意見が聞けるので、こうした取材は楽しいし、ためになる。

 結局のところは、既存のメディア(ここでは新聞)は、長い歴史で培った、情報を集めて分類加工して提供するノウハウで、電子メディア時代にも対応していくとゆー、業界内部の人間にとってははなはだ嬉しい見方が出てきたが、ここで立場を内部から外部へと転じてみると、そもそも情報にアクセスする権利を、既存のメディアだけが特権的に行使しているのは何故なんだろーっとゆー疑問に行き当たる。「それは国民の知る権利だよ」とゆー人もいるけれど、「国民の」であって「メディアの」権利ではない。まあ、国民の付託を受けて権利行使をしているのだとゆー、理想的な見解をここでは受け入れたとしても、ならばその権利を行使して得た情報を、新聞という形で完結させることをせず、データベースや電子メディアといった形で、商業的に2次利用、3次利用してもいーのだろーかという疑問が出てくる。フトコロに響く問題だけに、内部からはなかなか論議しづらいものがあり、ちょっと悩む。月末に給料袋を見ると、「これでいいのだ」とゆー見解になっちゃうかもしれない。

 萩尾望都とゆー名前が表紙に載っていたのに乗せられて、リクルートの「ダ・ヴィンチ」を買ってしまう。とっても不本意(ごめん、リクルート)。「ゲームマシンはデイジーデイジーの歌をうたうか」で、水玉蛍之丞さん描く超絶美女の似顔絵に魅せられてしまった小野不由美さんのコラムが載っていたが、こっちは竹本健治さん描く顔無しの似顔絵になっていて、ちょっとガッカリする。もっとも、この日記の似顔絵も顔がないから、大きなことはいえない。ちなみに日記の似顔絵シリーズは、小野さんのコラムにも出てきたアニソン歌手の作家「Y・M」さんの著作にインスパイアされて出来たもので、妙なところで話しがつながってるなーと、ちょっと驚く。

 あす7月10日は双子の弟の誕生日。ってことはゆーまでもなく自分の誕生日でもある。せっかくの誕生日なのに、夜は所属する部の歓送迎会があって、素敵な女性とめくるめく東京の夜を過ごす訳にはいかない。あー残念(と負け惜しみ)。


【7月8日】 リリースを書いて午前中を過ごす。ソニー・クリエイティブプロダクツが送って来た、「るろうに剣心」の文具セットに関するリリース。本屋の店頭の平台の上に、「るろうに剣心」と書かれたB6サイズの箱みたいな物を見掛けたことはないだろーか。それが「文具セット」。出版流通大手のトーハンと組んで考え出した商品で、書店ルートで文具を売るのに適したパッケージ形態にしたとゆーことらしい。出版社にとって書店の平台は戦場の最前線。それを本以外の商品が閉めているとなると、内心おだやかではないだろー。しかしトーハンが仕切っているとなると、なかなか声高には非難できないだろーから、これはソニー・クリエイティブ、うまくやったもんだと感心する。

 夕方になって大日本印刷の「銀座グラフィックギャラリー」に行き、月始めの展示入れ替えに伴うパーティーをのぞく。今月は「ADC展」と銘打って、東京アート・ディレクターズ・クラブ・エキシビションの受賞作品を展示中。グランプリを受賞したのは永井一正さんがミキモトのためにデザインした「save nature」のポスター。黒字に白い文様が一杯に描かれ、真ん中に一匹、動物が据えられているデザインのポスターで、プリミティブな雰囲気が、自然への回帰を強く周囲にアピールしている。会場には受賞者の永井さんや、田中一光さん、青葉益輝さんとったいいつもの面々が出席していたよーだが、有名人過ぎて気軽に声などかけられる筈もなく、歓談している周囲に背後霊のように寄り添って、ハイブロウな会話の中身を聞く。

 「ADC展」の今回のポスターを手掛けているのは、気鋭のアーティスト、村上隆さん。彼のオリジナルキャラクター「DOB」が、下から上に増殖していような場面が描かれたポスターが、会場の入り口や階段付近に貼ってあった。受賞作品なんかより、そっちのポスターの方が欲しい。ヒロポンちゃんならなおのこといいのだが、さすがに「ADC展」には使えないか。それにしても村上隆さんの新規プロジェクト「カラオケ甲子園サッポロ」は、いったいどーなっているのだろーか。誰か知りませんか。

 前に買いに行って違う本を買って帰って来てしまった久美沙織さんの「誘惑者」(ワニ・ノベルズ、800円)をようやく購入。面白くって、あっとゆー間に読み終える。永遠の命を生きる2人の美しい吸血鬼が主人公。なんて書くとまるで「ポーの一族じゃあねえか」といわれそーで、事実似ている部分も少なくないのだが、だからとって本作品の魅力を削ぐとか価値が減じられるとかいったことはなく、美しい吸血鬼の他を圧する活躍を見られるだけで、それはもう読者冥利につきるとゆーものだ。イラストを寄せているのは高田明美さん。好きだったなー「クリーミーマミ」。主人公の声をあててた人の名前が思い出せず、記憶の不永遠さに愕然とする。その人のオリジナルLP、2枚も持っていたってゆーのに。


【7月7日】 「奇才」テリー・ギリアムの最新作「12モンキーズ」を観に行く。エリザベス・ハンドのノベライゼーション「12モンキーズ」(野田昌宏訳、ハヤカワ文庫、560円)をあらかじめ読んでいたため、ストーリーはだいたい理解できたが、「バンデットQ」で観た、背広を着た神様、頭に船を乗っけた巨人のような映像的サプライズはなく、「未来世紀ブラジル」で感じた管理社会への批判精神もなく、割と単純なタイムストラベル映画だったので、ちょっとガッカリした。ブランド・ピットの饒舌で狂気じみた演技や、サングラスかけた医者どもが、ハワイかどっかの絵をバックに歌を歌うシーンには、ちょっとときめいたけど。

 何年ぶりになるのだろうか、高橋留美子さんの「1ポンドの福音」(小学館、500円)の第3卷が出ていたので買う。負け続けの4回戦ボーイだった畑中耕作は、8回戦を戦うまでのボクサーに成長していたけれど、相変わらずの大食らいで、やっぱりシスターをやきもきさせている。新キャラとして登場した可菜ちゃんがナイスバデイでカワイイ。メキシコ出身の陽気なボクサー、タコス八郎の作るタコスはどのくらいマズイのだろーか。少年サンデー本紙の「らんま1/2」も終わってしまったことだし、高橋留美子にはまた、「めぞん一刻」のよーな傑作ラブ・コメディーを描いて欲しい。

 大原まり子さんと岬兄悟さんの夫婦SF作家が編纂したアンソロジー「SFバカ本」(ジャストシステム、1900円)を購入。「原始、SFはバカ話であった」とゆー帯のアオリもそのままに、稀代の書き手による「バカSF」9本が収められて、映画帰りの電車の中で、にまにま笑みを浮かべながら一気に読み終えてしまう。1900円とはちょっと高い気がするけど、寡作・遅筆で鳴る火浦功さんの最新作が読めるとあっては、この値段もいたしかたなしとゆーところか。それにしても、本に挟まっていた「小松左京コレクション」のチラシに写っている、「大原まり子」と書かれた写真の人って、いったい誰なんだろー。


【7月6日】 「カツオのたたき」こと、西澤保彦さんの「人格転移の殺人」(講談社ノベルズ、840円)を読了。「味噌カツ」こと、森博嗣さんの「冷たい密室と博士たち」(同、800円)と迷って、郷土愛から先に「味噌カツ」から食べることにしたんだけれど、これが意外にも大正解。味噌の甘さに胸焼け食傷気味となった胃袋を、ネギとニンニクがたっぷとりまぶされ、ポン酢がどっぷりとかけられた、奇絶怪絶また壮絶な本格ミステリーSFが、スキッとさせてくた。

 あとがきにある、脳移植を題材にした弓月光さんの漫画って、長編の「ボクの初体験」だったんじゃないだろーか。いや、もしかしたら最初に「笑って許して!」って短編が発表されて、面白かったんで長編化されたのかもしれない。奥浩哉さんの「HEN」みたいなパターンね。「ボクの初体験」の方は、最初はたしかマーガレットコミックスで発表されて、その後長く絶版状態が続いていたけれど、最近になって大判で復刻されたから、今でも本屋に行けば並んでいるかもしれない。「エリート狂想曲」なんて名作も、いっしょに復刊されていたから、「甘い生活」だとか「みんなあげちゃう」といった、比較的最近(でもないが)の作品を読んファンになった人も、昔の少女漫画家時代の弓月さんの作品を、今でも新刊で読むことができる。無定見な文庫化なんかよりは、こーいった復刻の方が僕は好き。

 「人格転移の殺人」のよーな、性別が入れ替わってしまうって設定は、ファンタジーやSFの世界ではもはや定番の1つになっていて、例えばさっき挙げた「HEN」の最初の方にも、そんな設定の短編があった。久美沙織さんの新刊「誘惑者」(ワニ・ノベルズ)を探しに行って、隣りに並んでいた水沢龍樹さんの「神変武闘女賊伝」(同、800円)を手にとってしまったのも、「人格転移の殺人」の読了直後だったからなのだろー。

 「か弱い娘に変身させられた若武者の妖異な恋物語!?」って帯のアオリを読んだだけで、およそストーリーの何割かは知れてしまったとゆーもの。あとは変身の過程とか、変身後のとまどい(「ニタア」と笑って胸に手をやるとか、股間を素通りする手に愕然とするとか、まあ色々ね)のパターンとかを確かめつつ、ストーリーを追っていけばいい。

 「神変武闘女賊伝」についていえば、最初のトランスジェンダーの部分なんか吹っ飛ばし、さる高貴な生まれの姫君が乱世の中でたくましく育ってしまい、仙女の母親の助けを借りて、父王の位の簒奪者と対峙するって話にしても、たいして違いはなかったよーな気がする。中国っぽい場所を舞台にしたファンタジー作品ってとこにも、いちおー中国史を勉強した(覚えていないけどね)者にとって、なんとなくささくれ立つものがある。じゃあ、なんで買ったのってことになるんだけど、そこはやっぱり映画「転校生」を見るような、胸がザワザワとするよーなお楽しみを期待したからで、やっぱり根はスケベなんだと、強く自覚した次第。


【7月5日】 早起きして秘密の仕事のための原稿書き。すでにゲームの方はクリアしていたので、内容を思い出しながらあれやこれや書き飛ばす。思い出しているだけでも体力の消耗には激しいものがあり、朝特有の起ち上がる痛みをこらえながら、必至の形相でワープロを叩く。

 夕方から富士通の懇親会。本社20階のホールに行くと、すでに記者や富士通関係者がいっぱいで、間を縫って部屋の済みにおかれたパソコンに近づき、富士通の力作コンテンツの数々をながめる。なかに1点、アニメ顔の美少女がニコニコ笑いかけてくるとゆー、富士通らしからぬソフトがあった。タイトルは「エスカフローネ」じゃなかった「エーベルージュ」。「ワーランドシリーズ」の第1弾と銘打たれたこのソフトこそが、富士通が満を持して送り出す、オリジナル「育成シミュレーション」ゲームなのだあー!ってホントだよ。

 育成シミュレーションとゆージャンルを打ち立てた金字塔ともいえるソフト、「プリンセスメーカー」の向こうを張ろうってだけに、キャラクターデザインに北爪宏幸さん、シナリオに少年マガジン「BOYS BE」原作のイタバシマサヒロさん、声優に瀧本富士子さんや椎名へきるさんといった蒼々たるメンバーを揃えている。これが奏効してか、すでに引き合いも多くきているそーで、富士通の人は「初版で1万本は固い」と自信たっぷりに話していた。それにしても「よくこんなメンバーを揃えましたねえ」と聞いて、「よくお解りになられますねえ」と言われてしまった僕って何?

 「エーベルージュ」にゴーサインを出した取締役のところにいって、「よくこんなタイトルの企画が、富士通で通りましたねえ」と聞くと、やっぱり最初は2の足、3の足を踏んでいたんだけれど、コンテンツビジネスに力をいれたいって会社の方針や、「エーベルージュ」を企画した担当者の熱心さもあって、やってみろとゆーことになったとか。逆に「お詳しいですねえ、うちでソフトを作らない?」なんて(社交辞令を)言われてしまって、ちょっと心が動いたけれど、「オタク学入門」を読んで、僕にはこれほどまでの「オタク魂」はないと自覚していたから、ムリですムリですと言って丁重に辞退申し上げる。


【7月4日】 大日本印刷からリリースが届く。インターネット上で見られるよーなデジタルコンテンツを募集する、「DNP AWARD」の募集を始めたとゆー内容だが、コンテストを実施するとゆーこと自体は、すでに今年の始めに発表済み。その時は、今年の1月1日から始まった、「インターネットエキスポ」の企業パビリオンの出し物として、コンテストを開催するとゆー名目を、前面に打ち出していたはずだった。

 今日届いたリリースを見ると、エキスポの一環とゆー文句は本文の下の方にチラリと書かれているだけで、むしろ自分とこの会社が、独自でやりますよって感じに変わっていた。もっともどれだけの人が、インターネット上で「エキスポ」が開かれているってことを知っているのだろーかと、かねがね疑問に思っていただけに、あえてエキスポの一環と書かなかったのは、正しいことなのかもしれない。

 それにしても恐ろしく盛り上がりに描けている「インターネットエキスポ」。村井純センセイのゆーよーに、ネットワークインフラ作りのための撒き餌のよーなものと思えば、盛り上がらなくってもどーとゆーことはないが、これだけのインフラが出来つつあるのに、それに見合った、話題性のあるコンテンツが出て来ていないともいえるだけに、決して安穏としてはいられない。

 森博嗣さんの「冷たい密室と博士たち」(講談社ノベルズ、800円)を読了。名古屋を舞台にしているのに、名古屋弁の「だがや」も「みゃあ」も「ぬくてゃあ牛の乳持って来てちょー」も出てこない小説が、かつてこの世に存在しただろーか。これだったら何も名古屋を舞台にしなくても、例えば筑波の学園都市とか湘南藤沢にあるキャンパスを舞台にしても、それほど違いはないよーな気がする。これはまあ、僕のひねくれた郷土愛の発露と笑ってもらうとして、デビュー2作目となった今回も、緻密に組み上げていく小説手法、緻密に崩していく解決手法の手際の良さには感嘆するばかり。登場人物の性格も、2作目だけあってずいぶんこなれて、生き生きとして来ている。

 太田忠司さんの解説には、理系人間の様子をリアルに描いている作品と書かれているけど、登場する2人の助手がともに女性であったりして、男ばかりの世界とゆー、僕の一般的・通俗的な理系への認識とはちょっとズレている。それに理系人間の様子といっても、文系人間の感覚から大きくはずれているよーな人は登場しておらず、ことさらに理系人間の「特殊性」を強調しなくってもいーよーな気がする。担当編集者の「ミステリー版(工学部版)動物のお医者さんを目指す」とゆー姿勢は、理系に限らず「大学」とゆー「異質」な世界を舞台にした、エンターテインメントを目指したものと受け取りたい。


【7月3日】 エイガアルの伊藤淳子さんからメールで知らせて戴いた、寺沢武一さんのデジタルコミック「Black Knight BAT」の記事を書く。むかしスコラから単行本が出ていた作品だけど、これをCGでフルカラー化して、ホームページ上で連載することにしたのだとか。日本語版と英語版の両方を用意しているから、外国人でもあの、アメコミチックな寺沢武一の世界を楽しめる。

 「Java対応ブラウザを使用のこと」って注意書きにあるから、もしかしたら動く漫画になっているのかもしれないが、肝心の伊藤さんは、アメリカで開かれている何かのイベントに寺沢さんと連れだって出張中で、どんなページに仕上がっているのか聞けなかった。明日朝1番くらいでアクセスしてみよー。それにしても伊藤さんは元気。E3でも寺沢さんといっしょに会場を闊歩していたと、東芝EMIの人から聞いた。立ち話で1時間半もしゃべっていたとか。僕が代官山のエイガアルに取材に行ったときは、延々3時間しゃべりっぱなしだった。帰って来たら、またなにか面白い話が聞けるかもしれない。

 ミステリーの当たり月になるのかも。本屋に行くとミステリーの新作が山積みで、SFなんてほんとに全然まったく見ない。いやミステリーと銘打ってあっても、実はSFなのかもしれなかったりするから、それはそれでいいんだけれど、やっぱりはっきり「SF」って銘打ってある作品が、本屋に山積みになって欲しいなーと、古くからのSF者として切に願う。

 その「SFかもしれない」ミステリー作品の最右翼ともいえる、西澤保彦さんの「人格転移の殺人」(講談社ノベルズ、840円)が、森博嗣さん待望の第2作「冷たい密室と博士たち」(同、800円)といっしょに並んでいたので、とるものもとりあえず財布から1000円札を2枚取り出して、本とともにレジへ突き出す。かたや大森望氏大推薦、こなた同郷の新進作家と甲乙つけがたく、どちらから読み始めたらいいものかと、2冊を並べて思案する。メロンパンとカレーパンをお昼に買って、どっちを後に食べよーかと思い悩むよーなものか。いやいや食べ物に例えるならば、土佐造りと味噌カツのお皿の上で、迷い箸をするよーなものだ。

 結局、前に1冊読んだことのある森さんの方から取りかかることにするが、もちろんそう早く読み終えられるはずもなく、今はまだ導入部の段階。たぶん今晩は徹夜だな。それにしても部屋の中には、半分だけ食べたフランスパン(「サマー・アプカリプス」)に1本まるまる残ったフランスパン(「薔薇の女」)、ちょっとなめただけの玄米パン2コ(「争いの樹の下で」上下)、半分かじり取ってモグモグしている最中のワカメパン(「海魔の深淵」)などなど、食い散らかしたパンの山が出来ている。この梅雨でカビ始めているのもあって、食中毒にならないように早く食えと、せき立てられてるよーな気がして胃が痛い。


【7月2日】 丸の内の東京會舘で開かれた電通の発表会に行く。創立95周年(って中途半端な年数)を記念する事業として、中国の大学に電通の社員が行って、ニッポンの広告営業だとか、ニッポンのマーケティングだとか、ニッポンのクリエーティブだとかのスキルを、中国の学生に講義することになったとゆー内容。3年半ほど前に中国にいった時も、あっちゃこっちゃに、ニッポン企業やアメリカ企業などの広告を貼った大きな看板が立ち並び始めていたから、その後の発展を考えると、中国の広告市場の急成長ぶりも容易に想像がつく。

 しかし中国といえば、改革開放政策で資本主義が導入されつつあるとはいえ、いまだ国家(とゆーか共産党)が全ての実権を握っている国。自分たちの教えた広告のスキルが、例えばプロパガンダだとかに使われやしまいかと、考えた上での事業なのだろーかと不思議に思う。かといって中国の駐大使館の人だとか、人民日報だとか新華社通信のよーな中国のマスメディアの人たちが大勢来ている発表会の席上で、「10数億人もの人たちを1つにまとめる中国の宣伝方法を、こちらが学びたいくらいです」なんてお世辞を言った日には、2度と美味しい上海蟹を食べに上海にいけなくなるし、2度と美味しい老弁餃子を食べに審陽にいけなくなるので、ここはぐっとこらえて早めに席を立つ。

 先輩記者が退社することになり、夜はその歓送会。辞めてどーするかとゆーと、奥さんの実家の会社の社長室長に就任するのだとか。いわば逆タマってやつだが、伝統的な男性感情に即した場合、やはり面と向かって「おめでとう」と言われるのは、気恥ずかしいとゆーか腹立たしいといった部分もあるのだろーかと、相手の立場を慮って思い悩む。僕が当該の事態になったなら、まあ会社の規模にもよるけれど、少なくとも僕を迎え入れよーなんて考えた、相手の会社に同情してしまう。だってほら、仕事そっちのけでパソコン通信で遊んでいたり、本ばっかり読んでいている人間に、今のよーな仕事以外の、真っ当な仕事は勤まるはずがないじゃない。でもまあ、日記を読めば解るように、逆タマに乗る以前の決定的な問題、よーするに周囲にタマが1つもないとゆー事実があって、これはあと10年(謙遜だよ)は悩まなくていいのかなー、などと思って嘆息する。逆タマありませんかー?


【7月1日】 電通のホームページがオープンしたとゆーのでさっそく見に行く。江戸川乱歩賞作家で直木賞作家の藤原伊織さんが、編集長として参加していると聞いていたので、そっち方面の話題も載っているかと思ったけど、残念ながら会社の概要紹介とか、広告業界に関するデータベースとか、電通が出している新聞や雑誌の記事見出し一覧とかいった内容の、企業がよく作るホームページの域に止まっていた。それになにより画像が重たい。各ページに付いているクリッカブルマップの画像が100Kとか90Kとかあって、自宅のパソコンでひろひろと見ていると、あまりの重たさにかりかりしてくる。しかしまあ、人ん家のホームページをとやかくいうと、やっぱり「天に唾」となるのでこの辺でやめとく。

 あれやこれやで話題のソニー・ミュージック・エンタテインメントに行ってエライ人に取材。週刊朝日の最新号なんかでもしっかり書かれていた問題だけに、相手を怒らせないよー、場がこなれた所で切り出そうと思ってたのに、エライ人は機先を制しようと、自分からどんどんとその話題に入っていってしまうので、かえってこっちが冷や汗をかく。久保田利伸のヒットもあって、それなりになかなか(うーん、サラリーマン的言い回し)のSMEだけど、一方でエイベックスが出す安室奈美恵のアルバムのイニシアルが250万枚とか聞くと、時の勢いというものはつくづく恐ろしいと思う。しかし3年ひと昔ですら甘いといわれる業界、かつて飛ぶ鳥落とす勢いだったファンハウスのその後なんかを見るにつけ、現場をスポイルしない程度に、マネージメントがしっかりしないといかんのかなー、などと考えるが、これが結構難しいと見えて、その結果が今、あっちこっちで噴出しているのだろー、などと想像する。

 日曜日の朝日新聞、今日発売の週刊朝日と朝日新聞グループが連続して書評で取り上げていた丸山健二さんの「争いの樹の下で」(新潮社、上2000円、下2200円)を買う。どちらの媒体も同じ安原顯さんが書評していて、どちらの媒体でも同じく大絶賛している。誉めてばかりの書評とひんしゅくを買う我が積ん読パラダイスなんかとは違い、罵倒する時には徹底的に罵倒する安原さんが誉める本とゆーのは、確実に面白いのだと解るからありがたい。しかし読まずに積んである本が溜まって来ているので、この「争いの樹の下で」も、いつから読み始められるのかとんと見当がつかない。いちおうの目標は今週末に置き、もしかしたら夏休み中と保険をかけ、いちばん確かな目標を年内としておこー。


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