縮刷版96年5月中旬号


【5月20日】 企業の決算発表がピークを迎えており、担当している企業の決算発表を聞きに、毎日のように兜町の東京証券取引所に通っている。今日は大日本印刷の決算発表があったので3時前には東証の兜クラブにはいる。200社近くの決算発表があった先週金曜日ほどには混んでいなかったけど、発表が集中する3時ころになると、資料を投函するポストの前には、お母さん鳥が運んでくるエサを待つヒナ鳥のように、通信社の人たちが集まって来て、なかなかの賑わいを見せている。
 通信社の人たちは、資料が投函されるや否や、ポストからさっと資料を抜き出して、自分たちの座席までダッシュで運んでいく。ほかの通信社より1分でも1秒でも早く、資料の数字を電話やパソコン通信で本社にあげて、記事として流さなくっちゃいけないから。これが300社以上も決算が重なる今週金曜日ともなると、ポスト前はさながら「浅草三社祭り」か「一宮はだか祭り」の様相を呈し、くんずほぐれつの大混雑のなかで、資料争奪合戦が繰り広げられることになる。おまけに大騒ぎの様子を撮ろうと、新聞社のカメラが3台も4台もポストを取り囲んで、上から下からパチパチと撮るから、混雑に一段と拍車をかける。
 あまりの混みように、資料の奪取&ダッシュができなくなるから、通信社によってはボックス前から自分たちの席まで何人もバイトを並べて、資料のバケツリレーを始める。なぜだか知らないけれど、バケツリレーの選手には若い女性が多くって、背広姿の男記者をものともせずに、資料の受け渡しをする姿はなかなかの見物。もっともこっちも資料探しに大わらわなんで、バケツリレーの選手をかき分けながら、ポスト前の資料争奪戦に1枚加わることになる。上からフラッシュばちばち。翌日の新聞に写ってんじゃないかと思って全紙を見返すんだけど、載っていたことは1度もない。やっぱ被写体として相応しくないのかなあ。

【5月19日】 歳をとったのか目覚めが早い。日曜日だってのに朝7時には目が覚めてしまい、やることもないので読み残しの本を片づけにかかる。まずは「創竜伝」(田中芳樹)の第10巻。いいかげん出なかったので、どんな展開になっていたのかすっかり忘れていたが、第10巻の冒頭部分から類推するに、どうやら主人公の竜堂4兄弟はイギリスに来ているらしい。
 スコットランドからイングランドへと向かう先々で、登場するのは恐怖の小早川奈津子姫。西洋甲冑に身を包み、首切り斧を振り回して「人類の敵」たる竜堂4兄弟を抹殺にかかるが、そこはさすがに「人類の敵」、ちょっとやそっとの攻撃などにはびくともせずに、小早川奈津子姫をかわし、当面の敵だった「フォー・シスターズ」の本部を壊滅させ、そのまま竜になって日本へと戻って来る。世界史に暗躍する陰謀組織をものの2日で崩壊させてしまう小説が過去にあっただろうか。犬神明がなんか可哀想になってくる。挟み込みの小早川奈津子姫のピンナップは最高です(っていわないと虐められるんです。ホラ、聞こえるでしょ。「おーほほほほほほ」ってあの声が)。
 田中芳樹先生、最近の日本の体たらくをよほど腹にすえかねているのか、描写の中で住専問題や薬害エイズ問題での政治の無策、官僚の逃げ腰を指弾している。登場人物が読み手を意識する漫画ではお馴染みの描写と合わさって、小説としての出来を大きく損ねているような気がして仕方がない。長く読み継がれるべき小説であるからこそ、安易に時事問題を織り込むことをせずに、自分なりに咀嚼して、普遍的な形にして提示して欲しかった。でもまあ、圧倒的に強いヒーローというものは、やはり圧倒的にカッコよく、そんなキャラクターたちが次にどんな圧倒的な活躍を見せてくれるかを期待している身としては、重税にめげず、締め切りに怯えずに、11巻、12巻と書き継いでいって欲しい。
 ほかにはクリストファー・プリーストの「逆転世界」(創元SF文庫、750円)を片づけて午前中は投了。駅に行って天麩羅ソバを食べ、西武百貨店に行って晩御飯用に冷やし中華を買って、ほかにすることないからダラダラと昼寝していたら、ほら夜だ。テレビの日曜美術館でアンディ・ウォーホル展を見て、早く行かなくちゃと思いつつも、今は行ってもカタログが買えないからと思い直して先延ばしを決める。読書とテレビで終える五月晴れの日曜日。私の辞書に「春」という季節はない。

【5月18日】 約束があって神田神保町をブラブラ。本屋に入ると新刊が山積みになって、僕に「買ってくれー」と精神攻撃をかけてくる。給料日まで1週間を切り、今がいちばん苦しい時なのだが、あれやこれやと手にとって、レジにドンと積み上げるいっしゅんの快感に身をまかせ、挙げ句に残りの1週間を、ひもじい思いですごすことになるのだ。
 「創竜伝」(講談社)は第10巻がようやく発売。本来なら今月はじめに発売になっていたハズなのだが、田中先生の都合なのだろー、2週間ほど遅れての発売になった。文庫の方が着々と巻を重ねていて、いつか新書に追いついてしまうのでは、との不安感もあったけど、とりあえず前に進むことができて、「やっぱり竜堂4兄弟は天野喜孝さんじゃなかくっちゃ」という人も、安心したことだろう。それから「新世紀エヴァンゲリオン・フィルムブック」(角川書店)の第6巻。赤木リツコの腕にしがみついた伊吹マヤの表紙絵が、なんだかアヤシイ雰囲気だけど、収録されている「第拾七話」と「第拾八話」は、衝撃のラストへ向かって転がりはじめる1歩手前の、高いボルテージを見せていたころの作品で、リアルタイムで見ていた人は、これから起こる出来事を知らずに、期待に胸躍らせていたんだろーと類推する。しかし最終2話の「フィルムブック」って、どーなるんだろー。
 「始末人」シリーズや「サンプル・キティ」の明智抄さんが、「別冊花とゆめ」に連載している「砂漠に吹く風」(白泉社)が単行本になって発売。明智さんの作品では、華麗で耽美な表情で、おかしな言動を取るキャラクターのオン・パレードに、いつも抱腹絶倒されられたけど、今度の「砂漠に吹く風」も、キラリと光るキャラクター造形の妙に、むふむふと笑いをこらえながら、「サンプル・キティ」に負けず劣らずシリアスなSFストーリーを堪能した。続きはどうなることやら。財布が軽くなったのは悲しいが、楽しみが増えたのはホントに嬉しい。

【5月17日】 またまたサンリオSF文庫の話。といっても、サンリオSF文庫に入っていたクリストファー・プリーストの「逆転世界」が、ようやく創元SF文庫から再刊されたとゆーこと。これで大枚数千円を支払って、古本屋でサンリオ版「逆転世界」を買わなくてもよくなった。もっとも420ページほどで750円とゆー値段は、いくらSFがミステリーほど部数が見込めないといっても、ちょっとばかり高すぎる気がする。
 さて「逆転世界」だが、まだ50ページほどを読んだだけなのに、確実に面白いSFになりそうだとの予感がしている。読み進むページごと、読み終える1文ごとに、ぎっしりとつまった作者の想像力のパワーが僕を襲う。冒頭の「ついに650マイルの歳になった」とゆー1文が最高だ。舞台となった世界の異様さを見事に言い表していて、読者を一気に作品世界へと引きずり込む。新聞などでちょっと長めの企画記事(通称「ハコ物」)を書くときには、いつも出だしの1行で、どんな工夫をしようかと思案を巡らしているのだが、企画の内容を端的に言い表して、かつ読者の興味を惹きつけるような1文は滅多に書けない。
 新聞記事のテクニックでいうと、冒頭の1文に鍵となる人物の発言を持ってくるケースが多々ある。例えば『「たわたに実ったリンゴが、1つだけ、風もないのにポトリと落ちたんです」−万有引力の法則を発見したアイザック・ニュートン氏は、アイディアがひらめいた時のことを、今でも鮮明に覚えていると話す。』といった具合。気を付けて新聞記事を読んでみれば、10あるハコ物の3つか4つに、こんな手法が使われていることに気が付く。気の利いた1文が思い浮かばない場合、僕もときどき使わせてもらう手だがが、常套手段化しているとゆーことは、裏返せばそれだけ陳腐化しているとゆーことで、やむなく使った時などは、出来上がった原稿を見ながら、なんとなく居心地の悪い思いをする。
 かといって、あまり懲りすぎた出だしを使うと、今後は読む人が解らない。かつて千葉市の幕張に企業が次々と進出しているとゆー記事を書いたときに、「チバシティ」を意識してウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」をマクラに振ったことがあったが、デスクに「ギブスンなんて知らん」と一蹴された。あれだけヒットしたサイバーパンクの代表作を知らないのかと、その時は憤慨したものだが、SFマーケットの小ささを意識するよーになった最近では、デスクの判断も当然かと思えるよーになった。悲しいけど、これが現実なのだよ。

【5月16日】 新宿御苑にある会社でソフトの発表会。3次元可視化ツールとゆー、素人にはさっぱり解らないソフトについての説明を受ける。解らないなりに解ったフリをして発表会場を出て、新宿御苑駅に向かう途中で古本屋を見かけて中に入る。神保町の古本屋に並んでいたのとは種類が少し違った「サンリオSF文庫」が20冊ばかり並んでいた。マイクル・コニイの「ブロントメク!」があって欲しかったけど、持ち合わせが300円くらいしかなくあきらめる。アンガス・マッキーの表紙絵が美しかったブライアン・スティプルフォードの「宇宙飛行士グレンジャーの冒険シリーズ」も何冊か残っていた。僕がはじめてかったサンリオSF文庫がこのシリーズ。1冊だけ今をトキメク菊地秀行さんが翻訳していたはずなんだけど、どの巻だったかよく覚えていない。
 午後は飯田橋の出版クラブに行って日本雑誌協会の記者会見に出る。普段行きつけていない場所だけに、さっそく道に迷う。神楽坂をウロウロしながら、目印の銀行や本屋を探して、ほうほうの体で会場にたどり着く。発表内容は、来年5月に有楽町と東京駅の間に建設中の国際会議場で開かれる、雑誌出版社の世界大会の中身について。ヨーロッパやアメリカでは何度か開かれている大会だけど、アジアで開かれるのはこれがはじめてとゆーことで、日本雑誌協会のリキの入れようもスゴい。だいいち、工業新聞にまで記者会見の案内が来るってことだけで、その意気込みが解るってもんだ。なんだかとっても自虐的。
 記者会見に出席していたのは、日本雑誌協会の理事長で、文藝春秋の会長でもある田中健五氏や、角川書店社長の角川歴彦氏など。名前は知っていたけれど、じかにお顔を見るのはこれがはじめての方々で、出版界を取り仕切るエライ人たちを前にして、ちょっとばかり緊張で指が震える。大蔵省の役人も銀行の頭取も日銀の総裁も東京証券取引所の理事長も、持っている影響力は甚大で会うたびに緊張を感じていたけれど、言論を左右する力を持った出版界の方々には、本人が意識するとしないとに関わらず、大蔵省や銀行や日銀や東京証券取引所のトップとは違った意味での、大きな影響力が備わっているから、面談にはやはり緊張感が伴う。マスコミの末端にぶら下がった僕の場合は、「チョンマゲ野郎」「アブナイ奴」と、金融の人とも出版の人ともぜんぜん違った緊張感を、周囲に振りまいているに違いない。反省はしないよ。

【5月15日】 幕張メッセで「インターネットワールド96ジャパン」が開幕。朝9時とゆー、新聞記者や雑誌記者にとっては空前絶後の「早朝」から記者会見をやるとゆーので、毎週楽しみにしている「赤ずきんチャチャ」も「楽しいムーミン一家」も見ないで、8時前に家を出る。8時半にはメッセに到着して、お茶飲んだり少年マガジン読んだりして時間をつぶし、9時10分前には記者会見場となった展示会場内のイベントスペースに入る。それなのに、開始時間の9時を回っても、いっこうに始まる気配がない。集まっている記者も編集者も、吃驚仰天の時間帯だったためかことのほか少なかった。
 15分遅れでようやく始まったが、主催者のエライ人やゲストのジェリー・ヤン(ヤフーCEO)や他2名のゲストがしゃべるしゃべる。テープカットが始まる時間になってもしゃべり続けていて、設定されていた質疑応答の時間が吹き飛んでしまった。ジェリー・ヤンが出るからってんで、悪逆非道な時間帯にも関わらず、気力を振り絞って行ったってのに、どーなってやんがんだと心の中で叫ぶが、顔には出さない。テープカットの後で会場を散策したが、ジャストシステムの受付に座っていた女性のスカートが短かった他は、見たいと思うよーなものはなかった。
 インターネット絡みでは、午後から電通とソフトバンクがインターネット広告の合弁会社を設立するとゆー記者会見。ともにビッグネームの会見だけに、さぞやインターネット広告で新機軸を見せてくれるんだろーと期待して行ったのに、人気サイトの広告枠を合弁会社が買い切って、電通の営業力でクライアントを付けよーって程度の内容で、ちょっとがっかりした。やり方としては確かに堅実で的確なんだけど、インターネットとゆー新しいメディアの特色を活かした、新しいセールスプロモーションの方法が編み出せないものかと常々思っているだけに、新聞や雑誌やテレビなんかと同じ、よそ様の媒体のために広告を集めて差し上げましょうといった手法とは違った、吃驚仰天するようなアイディアを見せて欲しかった。

【5月14日】 前に銀背の「光の塔」(今日泊亜蘭)を買った古本屋で、今度はル・グィンの「天のろくろ」とヴォンダ・マッキンタイアの「夢の蛇」を買う。今はなきサンリオSF文庫版で、2冊で1300円は高いのか安いのか。「天のろくろ」はまだしも「夢の蛇」はハヤカワ文庫から再刊されてるよーだし。ちなみに「天のろくろ」はまだ1冊残っていて、値段はたぶん500円くらいだったか。前に名古屋で見たときは2000円くらいしてたから、まあ安い部類に入るのかも。サンリオSF文庫はほかに、アンナ・カヴァンの「氷」とか、作者ど忘れの「マイロン」とか、マイクル・コニイの「カリスマ」とか、全部で50冊くらいは並んでたかなー。読みたかったキングズリイ・エイミスの「去勢」や、P・K・ディックの「銀河の壺直し」はさすがになかった。先日死去したボブ・ショウも。このあたりを庶民的なお値段で探すのは、もはやムリなのだろーか。
 文庫とえいば(ちょっと強引な振り)、文春文庫から坂田靖子さんの自選作品集と銘打った「階段宮殿」(600円)が出た。坂田さんは、雑誌の読み切り短編とかで接して以来、大好きな漫画家の1人なのだけど、なぜか単行本は1冊も持っていなくて、これがはじめての購入になる。表題作ほか全部で10編を収録していて、「大ネッシー探検」を除くとたぶん初読の作品ばかり。妙に親切な魔王(どー見てもウシ)が出てくる「階段宮殿」、のたっとした雷魚が出てくる「天花粉」、1人トーチカで番をする不思議なドイツ兵が出てくる「幽霊」等々、それはほのぼのとした、ときにゾクッとするような短編漫画を堪能できた。6月には自選作品集の第2弾「ハリーの災難」(これは読んだ記憶があるなあ)が出る予定でとても楽しみ。1人の作家に短期間にのめりこんで「爆読」する傾向のある僕だけに、1カ月も待てないと、週末ごとに古本屋に通い、あるいは漫画専門店をのぞいて、坂田さんの本を買いあさっているかもしれない。その可能性は極めて高い。

【5月13日】 だから、言ったではないか、ユーゴスラビアの誇りよりも名古屋モンロー主義が先きであると。だから、言ったではないか、駄洒落をしゃべるマイケル・J・フォックスに対して1部国民が余りに盲目的、雷同的の賛辞を呈すれば、これが模倣を防ぎ賜わないと。
 なんて、いきなり桐生悠々(戦前のジャーナリスト)が、2・26事件の際に書いた論説を模倣した文章を持ち出しても、さっぱり意味が通じないかもしれないが、それほどまでに僕は今、動揺している。名古屋グランパスエイトのストイコビッチが、雑誌「ナンバー」に掲載されていたカローラワゴンの広告で、「マカシテチョーヨ」と発言していたことは既に報じた。その際に「テレビ版はあるのだろーか」と問うたその答えを、今しがたテレビで見た。チラと見ただけだったが、確かに見た。こうなればピクシーよ、ワールドカップの予選を勝ち抜き、出場を祝うユーゴスラビアのテレビのインタビューで、「頑張って下さい(現地語)」で聞かれたら、すかさず「マカシテチョーヨ(名古屋語)」と答えるのだぞ。
 ソニー・ミュージックエンタテインメントの決算発表に東京証券取引所の記者クラブへ行く。長い頭して後ろを縛った胡乱(うろん)なヤツ(僕のことだ)なんて1人もいないから、ごったがえした記者クラブでも目立つこと目立つこと。嬉しいかというとちょっぴり嬉しいけれど、それ以上に恥ずかしい気持ちもあって、すみっこで決算発表が始まるまでの時間をつぶす。決算はプレイステーション向けCD−ROMの受託製作とかが伸びた一方で、TMNとユニコーンの解散で湧いた1昨年の反動からレコードの売り上げが伸び悩んだため微増収に止まる。今年は久保田利伸に浜田省吾にTHE BOOMにNOKKOに佐野元春のアルバムが出るとか。ファンの人は乞うご期待。ユーミンの話は出なかったなあ。
 NECに行って「デジタルブック」の近況を聞く。とんと聞かなくなった評判に、すでに死に絶えたと思っている人も多いだろーが、どっこい囲碁の分野で生き残っていたのであった。なんでも地方のアマチュア囲碁大会でデジタルブックと囲碁ソフトを販売すると、上は80歳過ぎのおじいさんが、興味を示して買ってくれるのだそーな。小松左京さんの「地いは平和を」とか綾辻行人さんの「迷路館の殺人」とか岡嶋二人さんの「ツァラトウストラの翼」とか、電子出版しか残っていないソフト、電子出版ならではの特色を生かしたソフトもあるんだけど、今ではほとんど見掛けなくなってしまった。とりあえず囲碁プレーヤーとしてハードを売って、それからソフトをもー1度作ってもらうとゆー手もあるが、それまで保つか保たないか。これ以上は差し障りもあるので、答えは3年後の今月今夜に自分の目で確かめてちょーよ。

【5月12日】 こんな夢を見た(おー、久しぶり)。高校に合格して入学式の朝、寝坊して家に10時頃までいる。慌てて着替えて自転車に飛び乗り駅に向かうが、途中の坂道がきつくてなかなか駅にたどり着けない。前のカゴに入れていたはずの皮のアタッシェケースが、いつの間にか3つに増えていてとても重い。
 ようやく峠を越えて下りはじめた時に、峠の上にある施設を爆破しなくてはいけないという任務を思い出して、ダイナマイトが1本入っているアタッシェケース1つと、ほかに何が入っているか解らないアタッシェケース2つを荷台に乗せて、再び坂道を上りはじめる。坂道が急で自転車がこげないので、アタッシェケースだけを先に持って上り、それから自転車を押してようやく峠にたどり付く。ダイナマイトに火を着けるためのマッチが湿っていないか、妙に気にしている。この夢の意味するところはなんだろーか。それにしても酒飲んで寝るとロクな夢を見ない。
 友成純一さんの「黄金竜伝説」(ハヤカワ文庫、700円)を読む。近未来の博多を舞台にしたスーパー伝奇小説で、ユダヤの「契約の箱」をめぐるフリーメイソンの陰謀に、「オリオン座の不可視の恒星系ヨグアキムより、メッセージを携えてきた」セナの啓示を受けて使命に目覚めた女子大生が、博多弁をしゃべる女刑事らとともに敢然といどむストーリーは、クライマックスの超能力合戦を経て、新たなる教祖様の誕生へと展開するのであった。あー、伝奇。
 友成さんといえば、グチャグチャでドロドロのスプラッタ作家として知られる人だが、あとがきで友成さん自身が「最近はスプラッタをやらなくなった」と言っているよーに、「黄金竜伝説」は全然ほんとにスプラッてない。そのかわり情景描写や背景描写が綿密になり、その中をキャラクターが生き生きとして動きまわっているため、500ページ近い分量を一気に読み終えることができた。後半の展開が急で、謎も多く残されたままの引きとなっているため、全10巻くらいの大長編のサワリだけを読んだ感覚にとらわれる。続きは出るのだろーか。女刑事の植村尚子(30歳そこそこ)はカラっとした性格がグッド。博多弁をしゃべる「葛木ミサト」か。

【5月11日】 「星界の紋章」(森岡浩之、ハヤカワ文庫、520円)の第2巻「ささやかな戦い」が発売。フェブダーシュ男爵領を脱出してスファグノーフ侯国に向かった成り上がり貴族のジントと帝国の王女ラフィールだったが、すでにそこは帝国と対峙する「人類統合体」の攻撃を受けて陥落寸前だった。乗ってきた連絡挺への攻撃をかわし、命からがら侯国に不時着した2人。はじめて地上に降りたラフィールを連れて、逃避行を続けるジントに、新たな敵の魔手が迫るのであった! とまあ期待どおりの展開を見せてくれた本書に、晴れた土曜日の午前中、暗く湿った布団の中で我を忘れて読みふける。現在発売中のアニメージュには、大森望さんによる第1巻「帝国の王女」についてのレビューが載っているから、スペースオペラに興味のある人、すでにラフィールにぞっこんの人は必見。「刮目して次巻を待て」の言葉は、第2巻を読んだ今も変わらない。
 文藝春秋の雑誌「ナンバー」は欧州サッカーの特集。目次前に載っていたカローラワゴンの広告を見て驚く。名古屋グランパスエイトのストイコビッチが出ている。グランパスはトヨタ自動車が大スポンサーになってるし、ピクシーは今いちばん注目されているサッカー選手だから、CMに出たって不思議はないが、それにしても決めのセリフが「マカシテチョーヨ」(名古屋弁でまかせてくださいの意味)とは。「カッコインテグラ」のマイケル・J・フォックスも、「どんなモンタナ」のジョー・モンタナも、名古屋弁だけは喋らなかった。このCM、テレビ版はあるのだろーか。
 そのグランパスは清水エスパルスに4対1で快勝。しかし横浜フリューゲルスも鹿島アントラーズもジュビロ磐田も浦和レッズも勝って、上位陣に大きな順位変動はない。ラモスの入った京都パープルサンガは、いい試合をしながらも、最後の場面でスキラッチにしてやられて13連敗。次に対戦する浦和レッズは「おれたちが初白星を献上するんじゃないか」とビクビクしてるに違いない。もっともその次の対戦相手はグランパスだから、水曜日の試合で浦和レッズが勝つと、妙なプレッシャーがぐーんとかかってくるだろー。


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