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●「ローマ帝国衰亡史」● ★★★ |
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原題:"The
History of the Decline and Fall of the Roman Empire"
筑摩書房刊 訳 |
第1巻 |
ギボンが人類のもっとも幸福な時代と評した五賢帝統治の後からローマ帝国衰亡の歴史は始まる。その契機となったのは、最後のマルクス・アウレリアス帝が慣行を破り、実子のコンモドゥスに帝位を譲渡したこと。この最悪暴帝の以後、愚帝・暗帝・軍人帝が続き、賢帝は非命に倒れるという繰り返しの結果30人僭帝時代を招く。そして、遂にウァレリアヌス帝はペルシア王の補囚となる。 |
第2巻 |
崩壊に瀕する帝国を救ったのは、微賎から身を起こした属州出身の皇帝たちだった。天成の統治者ディオクレティアヌス帝は帝国4分割統治を導入し、国家体制を整える。しかし、同帝退位の後、皇帝間の争いにより再び帝国は混乱に陥る。その帝国を再び一皇帝の支配下に整えたのは、競敵を次々と打倒したコンスタンティヌス大帝。 |
第3巻 |
30年におよぶ独裁体制、新首都(コンスタンティノポリス)建設、キリスト教の国教化という偉業を成し遂げたコンスタンティヌス大帝にしても、その晩年は有為の長子クリプス・皇妃ファウスタの殺害、酷税の新設等血腥い汚点を残した。帝国を分治した後継帝三子は、暗愚と凡庸、そしてコンスタンティヌス二世帝は血族の大量粛清を引き起こした。生き残った中から背教帝ユリアヌスが誕生、多神教を復活させる。 |
第4巻 |
ユリアヌス帝はペルシア遠征の中で戦死。ローマ帝国は再び東西に分裂。 375年フン族西進に圧迫され、西ゴート族が帝国内に侵入、民族大移動が始まる。ヒスパニア出身のテオドシウス大帝は、ゴート族と名誉ある和解を成立させ、僭帝討伐の内戦を勝ちぬいてローマ帝国を安定させる。しかし、国事多忙の中病没。 |
第5巻 |
テオドシウス大帝の死後、その長子次子が東西両帝国の帝位に就く。ここにローマ帝国は最終的に東西に分離する。この時期、無能・無気力な皇帝を差し置いて両帝国の宮廷を動かしたのは、忠臣、佞臣、帝妃、帝の姉妹たち。一方、アラリックに率いられたゴート族はイタリア本土にまで
侵入、410年には首都ローマが占領・略奪の憂き目に会う。さらにフン族王アッティラの侵寇も始まる。 |
第6巻 |
フン族王アッティラ、ヴァンダル族王ガイセリック、東ゴート王テオドリック等の相次ぐ侵寇。西ローマ帝国においては、簒奪者、傀儡、あるいは東ローマ帝国からの輸入による無能な皇帝が続く。そして、遂に
476年蛮族の傭兵隊長オドアケルがイタリアに君臨し、西ローマ帝国は滅亡する。 |
第7巻 |
ブルガリア地方の名も無き家系の出身であるユスティニアヌス大帝は、同じく卑賎出身の妻=女帝テオドラとの共同統治により、ビザンティン帝国最盛期を築き上げる。名将ベリサリウスを登用してのアフカ、イタリア征略、ユスティニアヌス法典の編纂、行政改革、聖ソフィア大聖堂の建築、異教禁圧等の多くの事績を残す。 |
第8巻 |
ランゴバルド族のイタリア侵入、ペルシア皇帝ホスロー2世の来攻、さらにイスラムの興起。さらにキリスト教権上政治上の不和、対立、抗争。7世紀中興の英雄ヘラクリウス帝の後は、イサウリア朝、マケドニア朝、
ドゥカス朝、コムネヌス朝の諸皇帝により、次第に帝国は頽勢へ傾いていく。 |
第9巻 |
7世紀前半アラビア半島に興起したイスラム教アラブ人は、東ローマ帝国を脅かす一方、マホメットの後継者たるカリフの諸王朝によるイスラム帝国を築き上げる。この世界的宗教改革の性格と
その歴史的展開を描くギボンの公平・冷静な筆致は「衰亡史」後編中の白眉と推賞される。 |
第10巻 |
11世紀後半、セルジュク・トルコによるエルサレム支配は、2百年におよぶ十字軍時代の幕開けとなる。しかし、十字軍は次第に宗教的情熱より国家間の利害がそれを凌ぎ、第4回十字軍においては救援どころかコンスタンティノポリスを占領し、ラテン帝国を称するに至る。もはや、ビザンティン帝国は歴史の激浪に洗われる一公国に成り果てたのである。 |
第11巻 |
モンゴル帝国チンギス・ハーンの大征服やティムールの脅威にからくも耐えていたコンスタンティノポリスであったが、メフメット2世率いるオスマン・トルコの火砲による大規模な攻囲に屈し、ついに陥落。最後の皇帝コンスタンティヌス11世パラエオログスも死し、1453年 5月29日東ローマ帝国は滅亡した。 |
(まとめ) 名著であると同じに膨大なこの歴史書を読もうと思い立ったのは、訳者の中野好夫さんのファンであり、本書訳が中野さんのライフワークになるだろうと思ったからでした。中野さんは本書を歴史文学として訳出したということです。残念ながら途中で中野さんは亡くなられてしまいましたが、 朱牟田さん、好之さんの手で完訳がなりました。 著者のギボンが本書執筆に費やした時間は約20年、本訳書刊行に要した年数は約16年、私が読み始めて読み終えたのは1986年10月〜94年11月、8年がかりでした。それだけに、私の読書生活の中でもきわめて忘れ難い本です。 上記各巻の概略は、訳書巻末の各巻概略説明に私が多少アレンジを加えた ものです。私の読後感想のメモでは、一貫性なく、内容をきちんと説明する自信もないため、そうした方法をとりました。ご了承の程。 ギボンの「ローマ帝国衰亡史」は、各皇帝たちの人物を主体に書かれており、その反面社会、経済的側面はあまり触れられていません。そうした意味で、正確な歴史書としては不充分な点が多いのですが、通算1400年にもおよぶローマ帝国の歴史を描いた大叙事詩として、名著という評価は揺るぎ無いものだと思います。 いつの日か「ギボン自伝」も是非読んでみたいというのが私の願いです。 |