上橋菜穂子
(うえはしなほこ)作品のページ No.1


1962年東京都生、立教大学文学部卒、同大学院博士課程修了。女子栄養大学助手等を経て現在川村学園女子大学児童教育学科教授。専攻は文化人類学で、現在オーストラリアの先住民族アボリジニを研究中。
89年「精霊の木」にて児童文学作家としてデビュー、92年「月の森に、カミよ眠れ」にて日本児童文学者協会新人賞、96年「精霊の守り人」にて第34回野間児童文芸新人賞および産経児童出版文化賞、2000年「闇の守り人」にて第40回日本児童文学者協会賞、01年“守り人”シリーズ3作につき第23回路傍の石文学賞、02年に“守り人”シリーズ4巻につき第25回巌谷小波文芸賞、03年「神の守り人−来訪編・帰還編」にて第52回小学館児童出版文化賞、04年「狐笛のかなた」にて第42回野間児童文芸賞、15年「鹿の王」にて本屋大賞および第4回日本医療小説大賞、2014年国際アンデルセン賞・作家賞、23年“守り人”シリーズにて第8回吉川英治文庫賞を受賞。


1.
精霊の守り人

2.闇の守り人

3.夢の守り人

4.虚空の旅人

5.神の守り人−来訪編&帰還編−

7.蒼路の旅人

8.天と地の守り人−第一部 ロタ王国編−

10.天と地の守り人−第ニ部 カンバル王国編−

11.天と地の守り人−第三部 新ヨゴ皇国編−

12.流れ行く者−守り人短編集−

15.「守り人」のすべて−守り人シリーズ完全ガイド−

16.炎路を行く者−守り人作品集−

21.風と行く者−守り人外伝−


孤笛のかなた、獣の奏者1・2、獣の奏者3・4、獣の奏者・外伝、物語ること生きること、明日はいずこの空の下、鹿の王、ほの暗い永久から出でて、鹿の王水底の橋

 → 上橋菜穂子作品のページ No.2


精霊の木、香君

 → 上橋菜穂子作品のページ No.3

 


       

1.

●「精霊の守り人」● ★★☆   野間児童文芸新人賞・産経児童出版文化賞


精霊の守り人画像

1996年07月
偕成社刊

2007年04月
新潮文庫
(552円+税)



2007/05/13



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数々の児童文学賞を受賞した上橋菜穂子さんの“守り人”シリーズの文庫化、第1巻。
実は、上橋さんの名前も“守り人”シリーズのことも全く知りませんでした。
そもそも私が子供の頃の児童書というと世界名作を子供向けに抄訳したのが殆どで、ファンタジー作品などは余り無かった気がします(ピーターパン辺りか)
今回、私が知らない中にもまだこんなに面白い本があったのかという驚きと嬉しさを感じるとともに、今の子供たちの前にはどんなにいろいろな物語が用意されていることか、恵まれているようなァという思いを強くします。ゲームにばかり熱中しているなんて、勿体ない!

本書の主人公は、短槍の達人という女用心棒のバルサ、30歳位。偶然新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを助けたことからニノ妃に皇子を託され、父帝が差し向ける刺客から皇子を守って逃避行を続けることになります。
チャグムが父帝から狙われることとなったのは、チャグムが精霊の卵を宿した(=精霊の守り人)ことから。しかしそれは、新ヨゴ皇国の伝承では建国の頃退治されたという水妖であり、忌むべき存在であった。
ファンタジー的なストーリィに伝承要素が加わり、さらにサグナユグという2つの世界の二重構造という構想。
そして過去のトラウマを引きずるバルサと、バルサと薬草師タンダとの逃避行を通じて成長するチャグムの成長物語という要素も本書の面白さです。

しかし、魅力的な物語というのは文句無く面白いもので、理由付けなど不要なもの。本書もまさにそんな物語のひとつでしょう。
ロッダ“リンの谷のローワンシリーズも伝承を鍵とする、スケールの大きい割りに読み易い魅力的な物語でしたが、本シリーズもそれに優るとも劣らないシリーズだと思います。
続巻の読書がこれから楽しみです。

      

2.

●「闇の守り人」● ★★★       日本児童文学者協会賞


闇の守り人画像

1999年02月
偕成社刊

2007年07月
新潮文庫
(590円+税)



2007/07/28



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“守り人”シリーズの第2巻。
第1巻精霊の守り人が楽しかったので、本巻も読むのを楽しみにしていました。
シリーズものとなると大抵は、第1巻の面白さの延長線上にその後の巻の面白さもあるのですが、本書はそんなものに留まりません。単独の物語として抜群に面白いのです。
そして単に面白いというだけでなく、惹きつけられて止まないのです。
何故こんなに面白く感じるのか、惹き込まれるのか、それが判らない。
ファンタジー冒険物語といっても、元々児童向けに書かれた作品ですから、そう込み入ったストーリィではありません。それなのになんで? その謎こそがまた本書の魅力と言う他ありません。

さてストーリィ。
「精霊の守り人」から離れ、女用心棒バルサは25年ぶりに故郷カンバル王国へ向かいます。
幼い頃ジグロに救われて故郷を脱出したものの、それらのことは古傷となって今も心の内に残っている。故郷に戻ってその古傷を癒そうというのがバルサの動機。
しかし、カンバル王国に入ったバルサが知ったことは、もっと深い陰謀が張り巡らされていたこと。そしてカンバル国は新たな危機を迎えようとしていたこと。
それはカンバル王国と共に在る地下の王国、<山の王>に関わること。そしてバルサは、地下の王国で“闇の守り人”と対決することになります。

本書の魅力は、登場人物ひとりひとりが、自らの生き方を問われているところにあるのではないかと思います。
主人公のバルサ然り、ジグロ然り、少年のカッサ、バルサの叔母ユーカ、ジグロの甥カーム、そしてジグロの実弟ユグロさえも。
かといって本書は小難しいところまるでなく、あくまでファンタジー冒険物語というコーティングをまとった作品なのです。
中身の苦さとコーティングの甘さが絶妙に溶け合って、とても美味しい一品。
バルサ自身を主題にした巻として、シリーズ中でも白眉の一巻ではないかと思う次第です。
これはもう、「精霊の守り人」以上にお薦め!

   

3.

●「夢の守り人」● ★★


夢の守り人画像

2000年06月
偕成社刊

2008年01月
新潮文庫
(552円+税)



2008/02/19



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女用心棒バルサが主人公となる“守り人”シリーズの第3巻。
第1巻は現世界のサグと別世界ナユグが相互に関わり合うことを描いたストーリィでしたが、今回は<花>の世界との関わりがストーリィの軸となります。

<花>の世界における花は、人の夢を糧として咲き続けます。ところがその<花>の世界に異変が生じたのか?
皇太子を亡くして悲しむ一ノ妃に続いて、タンダの姪までもが眠ったままとなります。カヤを救おうと一人で<魂呼ばい>を試みたタンダは、逆に花の番人によって“花の守り人”にされてしまい、現世で人鬼のような姿となってバルサ、放浪の歌い手ユグノに襲い掛かります。
再び皇太子チャグムも登場。大呪術師トロガイらと力を合わせ、バルサは幼馴染のタンダたちを救うことが出来るのか、というストーリィ。

第1巻・第2巻ともファンタジーな冒険物語でしたが、夢、そして<花>の世界がストーリィの核心を成しているという点で、本書はより一層ファンタジー性の高い作品です。
その一方で、花のもつ平和で可憐なイメージと、本書に展開される<花>の世界、花の守り人の危険な匂いはなんと対照的なことでしょう。
花なのに?、本当にそうなのか?、という思いに心揺さぶられつつ読み進むストーリィであるが故に、(面白さでは前2巻に及ばないものの)イメージ性という点で前2巻に優る作品となっています。
タンダの師である大呪術師トロガイの秘密を明かすストーリィともなっていますが、女用心棒バルサの物語としては外伝的。
それでも、単独の物語として充分に面白く、かつ楽しめる作品であることに何ら変わりありません。

   

4.

●「虚空の旅人」● ★★☆


虚空の旅人画像

2001年08月
偕成社刊

2008年09月
新潮文庫
(590円+税)



2008/09/16



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本書題名が「守り人」でなく「旅人」となっているのは、本書に女用心棒バルサは登場せず、主人公は精霊の守り人に登場した新ヨゴ皇国の皇太子=チャグムであるため。
そのため本書は“守り人”シリーズの外伝ということになるのですが、上橋さんによると本書はシリーズの流れを大きく変えた重要な一冊であり、本物語からシリーズは「長大な大河へと乗りだしていったのです」とのこと。

舞台は新ヨゴ皇国の南隣国、多数の島から成るサンガル王国
その新王即位の式典に招かれ、チャグムは星読博士=シュガらと共にサンガル王国を訪れます。
ストーリィは、海の底にある異世界に魂を奪われた少女<ナユーグル・ライタの目>というサンガル王国の伝承話から始まり、サンガル王国に対して何かを企んでいる謎の人物の登場、さらには南の強国=タルシュ帝国による侵略へと広がっていきます。

本書での魅力は、何といってもバルサとの邂逅を経て著しく成長したチャグムの姿にあります。
「陰謀を知りながら、人を見殺しにするようなことを、決してわたしにさせるな」という断固としたチャグムの一言には、凛々しさと清々しさを感じて嬉しくなります。
そのチャグムに呼応するかのように活躍するのが、サンガル王国の第三王女サルーナ。姉である第一王女カリーナと対照的に、人を慈しむことを知る聡明な女性です。
その他、少女の身ながら懸命に家族や<ナユーグル・ライタの目>にされた幼女エーシャナのために奮闘する<海をただよう民>の娘=スリナァの魅力も見逃せません。

上橋さんのこのシリーズを読み終わる度に不思議に思うことは、何故こんなにもこの物語が面白く、こんなにも強く魅せられるのか、ということ。
ファンタジー冒険物語としての面白さだけでなく、風習や生活様式の異なる民たちとの価値観の違いを素直に受け容れる包容力、人間の善性に対する信頼、そして自分の弱さに負けず正しいことのために立ち向かっていこうとする主人公たちの勇気に惹き付けられるからではないか、と思うのです。
※なお、サンガル王国の聡明な第三王女サルーナ、是非また後の巻で再登場してもらいたいものだと心から思います。

   

5.

●「神の守り人−来訪編&帰還編−」● ★★☆


神の守り人画像

2003年01月
偕成社刊

2009年08月
新潮文庫
上下
(514・552円+税)



2009/08/26



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“守り人”シリーズ第5巻。
今回の舞台はロタ王国、主人公は再び女用心棒バルサです。

バルサとその幼馴染である呪術師のタンダは、秋の草市を目的に久々に町に出ます。
そこでバルサが見かけたのは、人身売買組織によって攫われ今や売り払おうとされているチキサアスラの兄妹。
自分の生い立ちを鑑みて2人を見過ごすことのできなかったバルサは2人を救い出そうとしますが、ロタの呪術師であるスファルシハナという父娘もまた2人を攫おうとし、ここにバルサは思いがけず危険極まりない騒動の渦中に巻き込まれることになります。
実はチキサとアスラの兄妹、ロタ王国内で潜むように暮らすタルの民。そしてそのアスラこそ、亡き母親の手によって<畏ろしき神>といわれる凶暴で残虐な鬼子“タルハマヤ”を招く者に仕立て上げられた少女。
アスラが我を忘れて怒った時、タルハマヤが出現し、そこにいる全てのものに凶暴な牙を振るい、後には死体が残るのみ。
そしてそのアスラを利用してロタ王国を手中にしようと企む者が姿を現わし、バルサの必死の闘いが続く、というストーリィ。

この“守り人”シリーズ、本来児童向けのファンタジー冒険物語のはずなのに、大人が読んでも何故こう面白いのかと不思議に思うくらいなのですが、本巻もそれは変わりません。
ひとつには、ファンタジー、冒険を超える大切なものが本ストーリィに篭められているからでしょう。
本巻でそれは、女用心棒バルサの人間像に尽きます。
用心棒を生業とし、しかもその道で一流と評されるバルサの身の処し方。そしてそのバルサが懸命にアスラに伝えようとしているもの、それらはもう哲学というに相応しい。
そうした人間観、人生訓があってこそ、本巻の類稀なる魅力があると思います。

  

7.

●「蒼路(そうろ)の旅人」● ★★★


蒼道の旅人画像

2005年05月
偕成社刊

2010年08月
新潮文庫
(590円+税)



2010/08/22



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“守り人”シリーズ第6巻ですが、女用心棒バルサは登場せず、新ヨゴ皇国のチャグム皇太子が主人公となる“旅人”第2弾。

前作虚空の旅人で南の強大国タルシュ帝国からの魔手をサンガル王国から斥けたチャグム。そのチャグムに再び、タルシュ帝国との対決の時が訪れます。
タルシュ帝国の攻勢に援助を求めてきたサンガル王国。そこに罠が潜んでいることを知りつつ、チャグムの勢力を削ごうと帝は、チャグムの祖父である海軍大提督トーサをサンガルに向かわせます。祖父の危難を救うため、チャグムも祖父と共に大海原へと旅立つ。
そこでチャグムを待ち構えていたのは、究極の危機。
バルサも、チャグムをずっと補佐してきた星読博士シュガもいない状況、まさにチャグムは単身でタルシュ帝国に立ち向かう、というストーリィ。

本作品で15歳になったチャグムは、自分の真価を問われる立場になります。
困難な状況の中、自分の歩むべき道をどう選択するか。そこに読者は、チャグムの目覚ましい成長と、民の幸福のみを願う皇太子としての雄々しい行動を目にすることになります。
その最終場面が、真に素晴らしい。

「蒼路の旅人」という本書題名は、チャグムが自ら選び取ったこれから進むべき困難な道のりを示すもの
危険を顧みずたった一人、大海原に身を投じたチャグムの雄姿。それを思うと爽快な気分になります。

      

8.

●「天と地の守り人−第一部 ロタ王国編−」● ★★


天と地の守り人第一部ロタ王国編画像

2006年11月
偕成社刊

2011年06月
新潮文庫
(590円+税)


2011/06/27


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精霊の守り人を読んだのが4年前。
当初、こんなに夢中になる物語とは、思いもしませんでした。
これまでの物語の集大成となる最終巻、「天と地の守り人」。
やっとここまで来たと言うべきか、あるいはもう最終巻に来てしまったと言うべきか。おそらく、両方の思いをもって読み進むのだと思います。

前巻
蒼路の旅人の最後、故国を救うため大海原に身を投じた新ヨゴ皇国の皇太子チャグム
その故国では既にチャグムは死んだと公表され、三ノ妃が産んだ弟王子が皇太子に指名されています。
一方、今もなお用心棒家業を続ける短槍遣いの
バルサの元に、ロタ王国に赴いた筈のチャグム皇太子を見つけ、守って欲しいとの手紙がもたらされます。
急ぎ
ロタの港町ツーラムへ向かうバルサ。果たして無事にチャグムと再会できるのか、というストーリィ。

言い切ってしまうと、バルサとチャグムが再び会い見え、2人で力を合わせて困難に立ち向かうからこそ読み応えある物語。
本編は、そのチャグムを追い求めるバルサを描いた部分だけに、面白さとしては未だ充分ならず。
三部作のまだ始まりの編、という内容です。 

         

10.

●「天と地の守り人−第二部 カンバル王国編−」● ★★☆


天と地の守り人第二部カンバル王国編画像

2007年01月
偕成社刊

2011年06月
新潮文庫
(552円+税)


2011/06/28


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第二部は、バルサチャグムを守り、2人でカンバル王国を目指す、という編。

第一部では、懸命に単身で奮闘し続けるチャグムの凛々しい後ろ姿が印象的でしたが、バルサと行動を共にするようになると、時にしてチャグム、迷いや苦しみについつい弱音を吐いてしまうようです。
この第二部は、カンバル王宮への旅路を通じて、成長したチャグムの真価が問う、という要素が強く感じられます。
何もそれはチャグムだけに限ったことではなく、カンバルの国王
ラダール、同国の<王の槍>であるカーム、またタルシュ帝国の弟王子ラウルの密偵であるヒュウゴについても言えること。
大きな苦難に際して自国の民のため、自身のプライドや身を捨てて厳しい道を選ぶという姿が感動を呼びます。

どこかの国の各トップたちのように、上っ面な言葉を弄ぶのではなく、その行動によって登場人物たちはその人間としての真価を問われます。身を捨てるという行為の中にあって、プライドなどは所詮無用のものでしょう。偶々ではありますが、つい今の日本が直面している苦難への各指導者たちの対応状況と比較せざるを得ません。

いよいよ山は動きだし、次の第三部へとこの壮大な物語を繋いでいく編です。 

     

11.

●「天と地の守り人−第三部 新ヨゴ皇国編−」● ★★★


天と地の守り人第三部新ヨゴ皇国編画像

2007年02月
偕成社刊

2011年06月
新潮文庫
(590円+税)



2011/06/29



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いよいよタルシュ帝国新ヨゴ皇国に対する侵略の火ぶたが切って落とされます。
チャグムもまたロタ王国カンバル王国の騎兵らからなる連合軍を率いて新ヨゴ皇国へ。
チャグムにとっては2年ぶりの故国。
そして、身を以てタルシュ軍と戦ったチャグムは、清らかな存在である父親の帝から穢れた身と非難されながら、ついに王宮にて再会を果たします。まさに万感胸に迫る、場面です。
 
一方、
バルサは激戦の跡地にタンダを探し求め、腕に傷を負って瀕死の状態にあるタンダに再会します。
 
迫りくるタルシュ軍団の脅威だけでなく、
ナユグの春によって王都にもたらされる大災害。
帝、チャグム、そして当代一の呪術師
トロガイ等々、各々信じるところに従って道を切り開こうとする姿が描かれます。
立場は変われども、それは皇帝死去後のタルシュ帝国において、兄ハザール王子と皇位継承を争う
ラウル王子にしても同じこと。

各人各様の思い、道があり、人はそれぞれを背に負って歩んでいくしかない。
大河ファンタジー物語の最終章に相応しいストーリィが、本編において展開されます。

蒼路の旅人」+「天と地の守り人・第一部〜第三部」は、チャグムとバルサの2人ががっちり組んだ、“守り人”シリーズの集大成と言うべき物語。
苦難に面した時に人はどう行動するか、という点では、宮城谷昌光さんの中国歴史小説に匹敵します。
そして、数多い登場人物それぞれの魅力、物語性、ファンタジー性、全ての点において、読み応えたっぷりな大長編。

本シリーズ・文庫版完結を機に、改めてお薦め!です。

                       

12.

「流れ行く者−守り人短編集−」● ★★☆


流れ行く者画像

2008年04月
偕成社刊
(1500円+税)

2013年08月
新潮文庫化



2011/07/31



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用心棒稼業で生活の糧を稼ぎながら、バルサを守り育てる武芸の達人ジグロ
そのジグロに鍛えられながら成長するバルサの、13歳の少女時代を描いた短編集。
シリーズ番外編ながら、これはまたこれで魅力たっぷりの物語になっています。
 
「浮き籾」は、山の上に住むトロガイ師のところに滞在していた頃のバルサと、ふもとの農家の三男坊である11歳のタンダの交流を描いた篇。
対照的な暮らしを送る少年タンダと少女バルサの姿が鮮やかですが、そうでありながらも結ばれている2人の交誼が微笑ましい。後の2人の関係の原型がここにあります。

「ラフラ<賭博師>」ヨゴを離れロタの酒場でジグロは用心棒として、バルサは給仕として働いていた時期の、「流れ行く者」は再びロタを離れヨゴに向う隊商の用心棒として雇われたジグロとバルサの物語。
前者は、勝負というものの厳しさ、後者は用心棒稼業の厳しさをバルサに身をもって教える物語。そして後者は同時に、用心棒稼業で将来身を立てていこうとするバルサにとって成長をするための転機となる大きな試練を与える物語となっています。

本短篇集の魅力は、一流の用心棒へと成長していくためバルサにとって必要な、哲学が語られている要素が込められている点。
だからこそまた、バルサとタンダの絆が爽やかです。

浮き籾/ラフラ<賭事師>/流れ行く者/寒のふるまい

                

15.

守り人のすべて−守り人シリーズ完全ガイド−」● ★☆


「守り人」のすべて画像

2011年06月
偕成社刊
(900円+税)


2011/07/23


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「守り人」シリーズの読み方案内に始まり、作者の言葉、「守り人」百科事典、レシピ、人物事典等々から対談・講演録まで、「守り人」ファンだから楽しめる諸々を収録した一冊。

天と地の守り人を最後に「守り人」シリーズを一通り読み終えた今だからこそ、ストーリィ全体のおさらい、その魅力を改めて整理してみる、といった楽しみが味わえる“完全ガイド”です。

中でも魅力なのは、「守り人」海外出版をめざしての英訳苦労話等が語られる上橋さんと翻訳者=
平野キャシーさんの講演録。
それに付随して、海外で出版された「守り人」の表紙絵紹介も興味尽きないところです。(英語版・スペイン版・イタリア版・台湾版・中国版)
また、
精霊の守り人一部の日英対訳が掲載されており、言語の違いによって文章の順番まで変わるのかと、翻訳の難しさと面白さの一端を覗くことができます。

なお、「天と地の守り人」の後、連れ合いとなった
バルサタンダの穏やかな暮らしを描いた掌編小説「春の光」が収録されているのも、ファンとしては見逃せません。

                

16.

「炎路を行く者−守り人作品集−」● ★☆


炎路を行く者画像

2012年02月
偕成社刊
(1500円+税)

2017年01月
新潮文庫化


2012/02/18


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“守り人”シリーズの中で幻の物語になっていたという「炎路の旅人」と他1篇を収録した一冊。
 
「炎路の旅人」は、蒼路の旅人から登場したタルシュ帝国の密偵アラユタン・ヒュウゴの成長時代を描いた中篇。
ヨゴ皇国で<帝の盾>を務める武人階級の嫡子として生まれたヒュウゴが、タルシュ帝国によって父親だけでなく母妹まで惨殺されたにもかかわらず、何故タルシュ帝国に仕える道を選んだのか、を描いたストーリィ。
題名の「炎路」というのは、苦しい道を敢えて選んだヒュウゴの心の内を現したものでしょう。

「十五の我には」は、十五歳当時の少女バルサを描いた短篇。
まだジグロからやがて離れていくだろう前の時代を描いたストーリィで、身の程知らず、計算しないまま向こう見ずな行動の結果として傷ついて横たわり、ジグロに諭されるというストーリィ。

本ストーリィが欠けたからといってシリーズがどう変わるものではありませんが、主要登場人物のシリーズ以前のストーリィ、エピソードとしてファンにとってはやはり嬉しい一冊です。

炎路の旅人/十五の我には

                 

21.
「風と行く者−守り人外伝− ★★☆


風と行く者

2018年12月
偕成社

(1800円+税)

2022年08月
新潮文庫



2019/01/02



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ファンタジー大河小説“守り人”シリーズ、もうひとつの守り人物語、といった内容の長篇。
シリーズ完結後、初めてとなる長編作品。

新ヨゴ皇国の草市で
<サダン・タラム(風の楽人)>の窮地を救ったバルサは、若い頭のエオナからロタ国北部のアール家領までの護衛を依頼されます。
そのサダン・タラム、20年ほど前に
ジグロと16歳のバルサがやはり護衛として一緒に旅をしたという縁あり。
当時の頭は、今は病床にあって地元に留まったエオナの母親である
サリ
そこから、ロタ国の多数派を占める
ロタ氏族と、少数派であるアール氏族との争い、アール領内にある「エウロカ・ターン<森の王の谷間>」でサダン・タラムが担ってきた鎮魂の儀式をめぐる謎に関わる物語が、過去と現在を結びながら繰り広げられていきます。
過去、そして現在と、二度にわたってサダン・タラムを襲撃する一味の正体は何なのか、そしてその理由は・・・。

あの懐かしい“守り人”の世界に再び戻れる、そこで繰り広げられる冒険を再び目にすることができるということに、興奮、そして感激するばかりです。
そしてそれは、“守り人”シリーズが本格的に始まる前の、ジグロとバルサを深く描くストーリィであるのですから。

“守り人”シリーズのファン、そして同シリーズを知らない方にも、是非お薦めしたいファンタジー冒険物語の逸品です。


序章.風の旅立ち/1.あらたな旅へ/2.遠き日々/3.風の行方/終章.風がいこうところ

     

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