高野史緒作品のページ


1966年茨城県生、お茶の水女子大学人文科学研究科修士課程修了。95年第6回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作「ムジカ・マキーナ」にて作家デビュー。2012年「カラマーゾフの兄妹」にて第58回江戸川乱歩賞を受賞。


1.
アイオーン

2.カラマーゾフの妹

3.まぜるな危険

 


   

1.

●「アイオーン」● 


アイオーン画像

2002年10月
早川書房
(1900円+税)



2003/11/30



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SF歴史叙事詩とでも言ったらよいのでしょうか。
オフ会でわざわざ戴いた本で、今まで余り読もうと思わなかったジャンルの作品と言えるでしょう。
率直に言って、読み始めてすぐ自分には合いそうもないなぁと思いました。しかし、どんな構想に立ったストーリィか頭に入ってくると、こういう趣向があるのか!と興味を覚えたのも事実。
しかし、結局は最後まで納得できないまま読み終えてしまったことを思うと、所詮好き好きの問題と言わざるを得ません。

ストーリィは13世紀暗黒時代のフランスから始まります。
最初戸惑いましたが、要は、現在までの歴史と似ながらも、根本を異にしている歴史小説。
古代ローマ帝国は現代と変わらぬ科学上の発展を遂げ、人工衛星を打ち上げていたばかりか、深刻な放射能汚染を後世に残してしまったというのが、本書における歴史。
科学と信仰の間を彷徨う医師・ファビアンを主人公に、マルコ・ポーロまで登場し、伝説上の都市パルミラ、ビザンティン帝国の首都コンスタンティノポリス、女性のアーサー王ニカイア宗教会議、巨人との戦いという歴史が繰り広げられます。
擬似的歴史を楽しめるかどうかが、鍵。

プロローグ/エクス・オペレ・オペラート/慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において/栄光はことごとく乙女シオンを去り/太古の王、過去の王にして未来の王/S.P.Q.R/トランペットが美しく鳴り響くところ/エピローグ

      

2.

●「カラマーゾフの妹」● ★☆          江戸川乱歩賞


カラマーゾフの妹画像

2012年08月
講談社
(1500円+税)

2014年08月
講談社文庫


2012/08/22


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江戸川乱歩賞受賞ということで読んでみた一冊。
受賞ということがなかったら、いくら「カラマーゾフ」の名が題名にあったとしても読むことはなかったでしょう。
本書は
ドストエフスキイ「カラマーゾフの兄弟」の続編、その13年後の物語。

原作では、3兄弟の父親フョードルが殺され、裁判で長男ドミートリーが犯人とされシベリア流刑されましたが、彼は真犯人だったのか。本作品は、内務省で未解決事件の特別捜査官となっている次男イワンが、事件の再捜査を行うというストーリィです。

いわゆる他作家による「続編」ものですが、内容が真犯人探しに絞られているため、続編というよりも、高野さんによる真犯人推理を小説化した作品という印象です。
元々原作は、
三男アリョーシャを主人公とする壮大な物語の前章として書かれた物語。したがって原作のような深遠な物語には到底なりえませんが、とは言っても「カラマーゾフ」の続編的な作品を書くのは、大胆にして勇気のいることだよなぁと思います。

高野さんの結論については、原作の向こうを張る以上そうなるよなぁとは思うものの、納得感は殆どありません。
また、表題となっている“カラマーゾフの妹”に果たしてどれだけの意味があったのか。
なお、本書を読むについては、原作を読んでおくことが欠かせないと思います。

                

3.
「まぜるな危険 ★★


まぜるな危険

2021年07月
早川書房

(1700円+税)



2021/08/24



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名作を幾つか集め、まとめてミキサーに投入してかき混ぜる。
そしてガラガラポン、と出てきたストーリィは一体どんなものになっているのか。 本書はそんな面白さを楽しめる一冊。

ただし、そういうことなので、かき混ぜられた作品を読んだことがあれば楽しめますが、知らない作品が混じっているとその面白さが分からない、というのは致し方ない結果。

その意味で私が存分に楽しめたのは、次の2篇。
<小ねずみと童貞と復活した女>
材料作品は、
ドストエフスキイ「白痴」、ベリャーエフ「ドウエル教授の首」、キイス「アルジャーノンに花束を
この篇は「ドウエル教授の首」が基本軸になっているのですが、とても面白かったです。
<プシホロギーチェスキー・テスト>
材料作品は、
ドストエフスキイ「罪と罰」に、江戸川乱歩もの。

<桜の園のリディヤ>に関しては、チェーホフ「桜の園」ウェルズ「タイムマシン」は既読であるものの、残念ながら肝心の佐々木淳子の短篇コミック「リディアの住む時に・・・」を全く知らなかったため、今一歩。

なお、残りの3篇は次のとおりです。
<アントンと清姫>:歌舞伎「京鹿子娘道成寺」+α。
<百万本の薔薇>:ソ連時代末期のヒットソング“百万本のバラ”+α。
<ドグラートフ・マグラノフスキー>夢野久作「ドグラ・マグラ」、ドストエフスキイ「悪霊」

アントンと清姫/百万本の薔薇/小ねずみと童貞と復活した女/プシホロギーチェスキー・テスト/桜の園のリディヤ/ドグラートフ・マグラノフスキー

       


   

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