池井戸潤作品のページ No.1


1963年岐阜県生、慶応義塾大学法学部卒。銀行勤務を経て、98年「果つる底なき」にて第44回江戸川乱歩賞、2010年「鉄の骨」にて第31回吉川英治文学新人賞、11年「下町ロケット」にて 第145回直木賞を受賞。


1.
空飛ぶタイヤ

2.鉄の骨

3.下町ロケット

4.ルーズヴェルト・ゲーム

5.ロスジェネの逆襲

6.七つの会議

7.銀翼のイカロス

8.下町ロケット2−ガウディ計画

9.陸王

10.花咲舞が黙ってない


下町ロケット−ゴースト、下町ロケット−ヤタガラス

 → 池井戸潤作品のページ No.2

  


    

1.

●「空飛ぶタイヤ」● ★★★


空飛ぶタイヤ画像

2006年09月
実業之日本社
(1900円+税)

2009年09月
講談社文庫化
(上下)

2016年01月
実業之日本社
文庫化



2009/10/12



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走行中のトレーラーから外れたタイヤが、通行中の母子を襲い、若い主婦は事故死。
自動車会社が提出した報告書の理由は、簡単に「整備不良」。
本当にそうなのか。疑問を抱いた運送会社の社長=赤松は、必死でホープ自動車に食い下がるが、こちらは財閥系の名門大企業、そっちは中小零細企業と、端から問答無用という態度。
しかし、当事者である赤松運送は、警察の捜索を受け、大口取引先から取引を切られ、さらに取引銀行である東京ホープ銀行から融資回収を迫られたうえに、被害者遺族から制裁的損害賠償を請求されるといった状況に置かれ、会社存続の危機に瀕する。
そんな四面楚歌の中、スジを通すため、被害者のために真実を明らかにせんと、大企業相手に中小運送会社の社長が戦い続けるという企業ストーリィ。

個人対国家権力を描いた高杉良「不撓不屈、IT企業の雄対一運送会社を描いた楡周平「ラストワンマイルに優るとも劣らない、迫真的ストーリィ。
読み始めたら最後頁を繰る手が止まらず、休日とあって夜半までかけて一気読み。読み手を次から次へ、先の展開にぐいぐい引きずり込んでいく筆力は圧巻です。

なお、大企業対中小企業という主軸ストーリィ以外に、大企業内部の勢力争い、さらに何処を向いて頑張るのか、という部分も描かれているところに、本作品の良さ、魅力を感じます。
ホープ自動車内部で大掛かりなリコール隠しが行なわれていることに気づく課長職社員。しかし、結局その行動は、それを餌に社内で良いポジションを得ようという、利己的な域を出ない。
一方、ホープ自動車と主力銀行の東京ホープ銀行の姿が対照的。
片やプライド意識ばかり高く、社員と組織が有効に機能してないホープ自動車に対し、銀行は社員と組織がきっちり機能する。
だからといって東京ホープ銀行が全てそうかというとそうでもなくて、赤松運送の取引店である自由が丘支店では、支店長個人が勝手に暴走してしまう姿を見せます。

ストーリィとしては、ホープ自動車の余りに自分勝手な思考に憤りを覚え、赤松社長の孤軍奮闘に胸熱くなりますが、大企業なんてこうしたものだろうという思いもあります。
得てして信義・社会的道義より、自社優先・利益優先を実践してきた人間こそ昇進し、会社の行く末を左右するポストに就く、というのが企業というものの傾向なのですから。
それはともかくとして、文句なく面白い企業小説。お薦めです。

※映画化 → 「空飛ぶタイヤ

       

2.

●「鉄の骨」● ★★          吉川英治文学新人賞


鉄の骨画像

2009年10月
講談社刊
(1800円+税)

2011年11月
講談社文庫化



2010/02/06



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題材がゼネコン、談合ということで、私の苦手なドロドロしたストーリィではあるまいかと見送っていたのですが、直木賞候補作に挙がったということで気持ちを切り替え、読書。

主人公は、中堅ゼネコンの一松組に入社して3年という若手社員=富島平太。建設現場で情熱をもって仕事に取り組んでいた平太は突然の人事発令で、本社の業務部に異動する。
その業務部とは、ゼネコン業界の談合に関わる部署。折しも経済不況により一松組も資金繰に苦しみ、受注がとれるかどうかは一松組自体の死活にも関わってくる状況。
そうした中、実力者の尾形常務が業務課に下したのは、2000億円規模の大型地下鉄工事の入札を絶対に獲れ!というもの。

どのゼネコンも脱談合宣言をしながら、何故談合あるいは官製談合はなくならないのか。そしてまた、ゼネコン業界にとって談合は是なのか非なのか。
その問題をテーマにした、骨太な経済小説。

ストーリィ展開に淀みがなく、そのうえ次の展開がどうなるのか全く予想できないというサスペンス性もバッチリ。
その中で、所詮は若手の一サラリーマンに過ぎない富島平太はどう自分を処していくのか。それはそのまま、平太と野村萌との恋人関係にも影響していくという個人ドラマ部分も備えていて、読み応えたっぷり。
表向きは奇麗事を言ってみても本音・現実となるとそうはいかない、というのが常に繰り返される言い訳。本当にそうなのか、そういう視点から談合問題を考えさせる、意義ある作品。
エンターテイメントとしての面白さも、最後のドンデン返しといい、サスペンス小説に比較しても遜色ありません。お薦め。

           

3.

●「下町ロケット」● ★★☆          直木賞


下町ロケット画像

2010年11月
講談社刊
(1700円+税)



2010/12/29



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佃航平、43歳。元宇宙科学開発機構のロケットエンジン開発研究員にして、7年後の現在は父親の跡を継いで佃製作所の2代目社長。
その佃製作所はというと、エンジンに関する技術を売りにした精密機械製造業。
その佃製作所に突然、経営上の危機がのしかかります。まず、大手先から突然の取引終了を告げられる。そこに追い打ちをかけるように、競合先の大企業から特許侵害の訴訟を提起されます。支援を仰ぎたい主力銀行はどうかというと、経営破綻を心配して運転資金の融資を拒絶、という具合。
大企業の傲慢な攻勢に窮地に追い込まれながら、信念を失うことなくふんばり、起死回生の逆転劇に繋げるというのが、前半ストーリィ。
この辺り、
空飛ぶタイヤのノリで、痛快な面白さです。

しかし、そこで終わらないのが本作品の魅力。
後半、もの作りに夢とプライドを賭けた中小企業の、新たな挑戦が始まります。目標は、新型ロケットエンジン製造への参加。

確かにマネーゲーム、アイデアによって、現代では巨額の儲けを手にすることができるのかもしれません。でも、そこに何の夢があるというのか。
ものを作り上げてこそ、夢への挑戦も、次への発展もあるのだ、というのが本作品の伝えるメッセージ。
もの作りの大切さを改めて実感させられるストーリィ。義憤、興奮、痛快、若さ、夢、たっぷりです。
低迷する現在の時勢にあって、胸のすく、夢の膨らむ、熱いビジネス小説。お薦めです。

             

4.

●「ルーズヴェルト・ゲーム」● ★★


ルーズヴェルト・ゲーム画像

2012年02月
講談社刊
(1600円+税)

2014年03月
講談社文庫化



2012/04/30



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池井戸さんお得意の企業小説。
景気低迷のあおりを受けて、販売先から納品数量の激減かつ値下げという過酷な要求を突き付けられた中堅企業=
青島製作所は、ついに従業員の一部解雇というリストラ策の実施を余儀なくされます。

そんな苦境の中、監督かつ主力選手2名がライバル企業に移った野球部は、かつての名門とはいえ存続が許されるのか。
企業存続、それとは別に野球部存続という命運を賭けて、社長の
細川、総務部長兼野球部部長である三上らの、まるでもがき苦しむかのような苦闘を描く長篇ストーリィ。
その苦境を狙ったかのように、ライバル会社=
ミツワ電器から経営統合、実態は吸収合併の提案がなされる。
表題の「ルーズヴェルト・ゲーム」とは、野球を愛した
ルーズヴェルト大統領「一番面白い試合は、8対7だ」と語った言葉から。その理由は逆転への期待ということにあるようです。

青島製作所の逆転は成るのか。そうした企業ストーリィが野球部の逆転勝利有無と絡ませて描かれるところに、本作品の面白さがあります。
会社も野球部も、要はそこにあるのは“効率”以前に“人間”。
そして、そもそも企業とは誰のために存在するのか。会社のためか、社員のためか、はたまた株主のためか。それとも社会のためなのか。永遠の命題も併せて描かれます。

後からの理由づけはそれなりにできますが、要は敗北寸前に追い込まれながら、そこから逆転劇があってこそ、野球も、企業小説も興奮する面白があるというもの。本作品はそんな一冊です。

             

5.

「ロスジェネの逆襲 The Lost Generation Strikes Back ★★


ロスジェネの逆襲画像

2012年06月
ダイヤモンド社刊
(1500円+税)

2015年09月
文春文庫化



2013/08/26



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バブル末期に大手都市銀行に入行した銀行員=半沢直樹を主人公とした企業エンターテインメント、「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」に続くシリーズ第3作目。

コメディ風作品かという題名に騙された(苦笑)恰好で、作品は知りつつも視野外に置いていた本シリーズだったのですが、「倍返し」というセリフで人気沸騰中のTVドラマ“半沢直樹”の原作。おかげで図書館への予約殺到、予約件数は鰻上りらしい。
前2作を読んでいないままなのですが、たまたま本書第3作を借出すことができたので、一応読んでおこうかと思った次第。

本書で主人公の半沢は、東京中央銀行から左遷出向させられ、現在子会社の東京セントラル証券の営業企画部長の職にあります。
そこに持ち込まれてきたのが、IT企業の雄=電脳雑伎集団からの、同じ新興IT企業である
東京スパイラル敵対買収へのアドバイザー役。
しかし、対応に時間を取られている間にアドバイザー契約はまんまと親会社の東京中央銀行証券営業部に横取りされてしまいます。
何かからくりがあるのか。そして東京セントラル証券はこの不測の事態にどう立ち向かえば良いのか。
そこから、子会社であるにもかかわらず親銀行の
証券営業部と敵対する営業へと、半沢は東京セントラル証券の舵を取っていきます。
まぁ親銀行と子会社が競走対立するなど、普通には考えられないことでしょう。そんな出来事が展開するのですから、いくらフィクションの企業エンターテインメント小説といえども、興奮せざるを得ないところ。まさに一気読みでした。

さてさてサラリーマンとは何ぞや、仕事とは何ぞや、という問いがあり、それに対する半沢の回答がある訳ですが、それはサラリーマンなら何度も自問自答を繰り返してきたことだろうと思います。それに対する答えは学校教育から得られるようなものではなく、結局は社会に出てから自力で学びつつ、自分として何を目的にするのか、その選択に尽きると言えます。
そうした視点から読んでも、本書は存分に面白い。

椅子取りゲーム/奇襲攻撃/ホワイトナイト/舞台裏の道化師たち/コンゲーム/電脳人間の憂鬱/ガチンコ対決/伏兵の一撃/ロスジェネの逆襲

                 

6.

●「七つの会議」● ★★


七つの会議画像

2012年11月
日本経済新聞出版刊
(1500円+税)

2016年02月
集英社文庫化



2012/12/07



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めざましい営業成績を上げ続けていた注目の営業課長が、信じ難いことに部下からパワハラで訴えられたうえ、直ぐに人事部付にされてしまう。一体何があったのか。

近時何かと話題になるパワハラ、セクハラを題材にした企業小説かと思えば、徐々にその裏で内部不正のあったことが明らかになっていきます。
舞台は大手電機メーカーの子会社。管理職社員、女子社員、役員等々各章で主人公を変えながら、7人の人物によってこの会社に巣食う暗部が語られていく、というストーリィ構成。

リアルかつスリリング、そんな面白さは池井戸作品に共通するものですが、内容としては毎度お馴染みのものかと思いました。しかし、そこでふと考えたことは、もし自分自身が7人の内の誰かであったらどう行動できただろうか、ということ。
正しい道を選ぶ、それができるのはその会社に依存しなくてもやっていける人間だからではないでしょうか。家族を抱えて働く社員だったら、会社の存続を危うくするようなことはそうできるものではない、と思います。
本来そこで問われるべきなのは役員こそ。やっと手に入れた椅子を手放したくないという気持ちは判りますが、そこで果たすべき責任を果たさずして何のための役員か。

終盤、登場人物の一人が「客を大事にせん商売は滅びる」という言葉を思い出しますが、後から後悔しても詮無いこと。
一方、弁解の言葉となると、人間はこうした時途端に饒舌になるようです。その並び立てられた弁解文句を眺めるのは、ひとつの面白味とさえ思えます。
しかし、真相は(読者も含め)驚愕すべきものだった・・・・。

各章、ひとつひとつのドラマにおいて人間の真価を問うているストーリィ。面白さに留まらず、そうした視点から是非本書を読んでみてください。

※映画化 → 「七つの会議

   

7.

「銀翼のイカロス Icarus−Flying on Silver Wings ★☆


銀翼のイカロス画像

2014年07月
ダイヤモンド社刊
(1500円+税)

2017年09月
文春文庫化



2014/09/04



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「倍返し」という決め台詞がすっかり評判になった半沢直樹”シリーズ第4弾。
本書の感想を端的に語ってしまうなら、政治・ビジネス界を背景にしたバトル・ゲーム、と言うに尽きます。面白く読めることは読めるのですが、でもそれだけに留まるという印象。

さてストーリィはというと、合併行である東京中央銀行で営業第二部の次長である半沢に、頭取からだという異例の指示がもたらされます。
それは、経営再建を模索中である
帝国航空を営業第二部で担当せよ、というもの。ところが同行において問題先企業を担当するのは本来審査部であり、同じ財閥系企業グループを担当する営業二部が担当するということ自体、そもそも異例。
担当役員の
紀本ならびに現担当者が共に旧T行出身であるのに対し、営業第二部長の内藤と半沢は旧S行出身。審査部はプライドを傷つけられたということで、まさに冒頭から波乱含み。
さらに、国政選挙にて
進政党が地滑り的勝利をあげ、政権の座を憲民党から奪取。航空行政を所管する国土交通大臣には、元女子アナの白井亜希子が任命されます。
その白井、帝国航空再建を我が手でやり遂げたという手柄を手に入れようと、銀行と帝国航空が練り上げた前政権時代の再建策を一蹴、
私設タスクフォースを立ち上げ、再建策の立案を委ねたと勝手に発表します。その瞬間から、今回のバトル・ストーリィの幕が切って落とされます。

尽きることなく繰り広げられる、逆転、また逆転というバトルの面白さ。再建の為に何が必要か。信念を賭けた闘いではなく、片や自分の功績作りのため公権力を振ろうとし、片や銀行員として銀行の論理を貫こうする、という対立構図。それに加えて、東京中央銀行の内部における旧行間の対立がストーリィが半沢の状況をより困難なものにします。
善悪の立場が類型的に明瞭なので、これはもうバトル。政治権力という巨大な力でねじ伏せようとする相手方に対し、一歩も引かず、諦めず、を貫いての大逆転。だからこそ、面白く読めるという点ではこの上ないのですが・・・。


序章.ラストチャンス/1.霞が関の刺客/2.女帝の流儀/3.金融庁の嫌われ者/4.策士たちの誤算/5.検査部と不可解な融資/6.隠蔽ゲーム/終章.信用の砦

            

8.
「下町ロケット2−ガウディ計画」 ★★


下町ロケット2 ガウディ計画

2015年11月
小学館刊
(1500円+税)

2018年07月
小学館文庫化



2015/11/24



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ベストセラー作品の続編。
“ロケットから人体へ”というのがこの続編でのキャッチフレーズです。
前作から数年後、再び
佃製作所に危機到来。
といっても前作のような絶体絶命の危機というまでは感じられず、その分前作程の迫力はなし。ただ、それはやむを得ないところでしょう。そう絶体絶命の危機が繰り返されたら堪ったものではない、というものでしょうから。

まず冒頭、医療機器大手の
日本クラインから佃製作所に試作品の依頼がもたらされます。使途を明らかにしないままの一方的な要求でしたが、折角の好機と佃は依頼を引き受けます。しかし、相手の余りに自分勝手なやり方に決別。そしてそこに、NASA出身であることを売り物にする椎名社長率いるサヤマ製作所が登場。
一方、前作で水素エンジン用バルブの納入取引を成功させた
帝国重工では、開発グループの財前部長を押しのけ、調達グループの石坂部長が佃の前に立ち塞がります。その石坂、財前とは犬猿の仲のライバル関係という設定。その結果、次期バルブ納入はコンペとされ、佃の競争相手としてまたしてもサヤマ製作所が登場します。

今回は
人工心臓、心臓の人工弁という医療機器開発が題材。万が一問題が生じた場合には、多額の損害賠償を請求される可能性のあるリスクの高いビジネス。さて佃製作所は相次ぐ難題に対してどう立ち向かうのか・・・。

題材として医療機器開発に目を向けた点は慧眼。
そしてストーリィとしては、たかが中小企業と見下す、自己あるいは自社の利益優先という大企業らを相手に一旦は押し潰されそうになるものの、最後は自社の高い技術力をもって胸のすく逆転勝利を果たすという展開は前作どおり、すこぶる痛快な面白さを味わえるところは何ら変わりありません。
総じていえば、続編としての面白さ。さて、ここまで来たら、さらなる続々編を期待したいところです。


1.ナゾの依頼/2.ガウディ計画/3.ライバルの流儀/4.権力の構造/5.錯綜/6.事故か事件か/7.誰のために/8.臨戦態勢/9.完璧なデータ/10.スキャンダル/11.夢と挫折/最終章.挑戦の終わり 夢の始まり

                  

9.
「陸 王」 ★★


陸王

2016年07月
集英社刊
(1700円+税)



2016/08/06



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埼玉県行田になる足袋作り 100年の中小企業“こはぜ屋”。
社長の
宮沢紘一は、先細る一方の足袋に代わる新事業をと、ランニングシューズ作りに乗り出します。
ところが、簡単な思いから手を出したものの、新事業を成功させようと思うとその世界は限りなく深く、幾つもの難題が立ち塞がります。その度に宮沢へ協力の手を差し伸べてくれる人物が現れ、共に手を携えて自社シューズ
“陸王”を成功させるため奮闘するのですが、やがて日本陸上界に深く食い込む世界的スポーツメーカー=アトランティスの日本支社がこはぜ屋を敵視してその前に大きく立ち塞がる・・・・。

下町ロケットに似る、久々の、池井戸さんならではの興奮尽きないビジネスストーリィ。 約600頁と読み応え充分、たっぷり楽しめます。
ただし、登場人物、とくに悪役側は決まりきったようなステレオタイプで、善人側と悪人側にはっきり二分されてしまっているのは何だかなァと思いますが、その分判り易く、ストーリィに乗り易いというのもまた事実だけに、あまり批判もできません。
職人気質のシューズフィッターとしてアスリートたちから信望を集める
村野尊彦、新素材開発に熱を上げ本業の会社を倒産させてしまった飯山晴之という曲者たちも、本書の中で存在感をみせています。

本書が描き出そうとしたことは何かと言えば、“仕事”とは何か、仕事で一番大切なことは何なのか、そして自分の道をどう選ぶべきか、ということ。
若い人こそその選択における苦悩は切実でしょう。
本ストーリィでそれを体現しているのが、宮沢の長男で就活苦戦中の
大地、故障からの復帰を目指す長距離ランナーの茂木裕人
まぁ、難しいことを考えなくても十分楽しめる一冊ですが。


プロローグ/1.百年ののれん/2.タラウマラ族の教え/3.後発ランナー/4.決別の夏/5.ソールを巡る旅/6.敗者の事情/7.シルクレイ/8.試行錯誤/9.ニュー「陸王」/10.コペルニクス的展開/11.ピンチヒッター大地/12.公式戦デビュー/13.ニューイヤー決戦/14.アトランティスの一撃/15.こはぜ屋の危機/16.ハリケーンの名は/17.こはぜ屋会議/最終章.ロードレースの熱狂/エピローグ

         

10.

「花咲舞が黙ってない ★☆


花咲舞が黙ってない

2017年09月
中公文庫刊

(740円+税)



2017/12/04



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「不祥事」「銀行総務特命」に続く、東京第一銀行事務部臨店指導グループに所属する女子行員“花咲舞”シリーズ第3弾。

TVドラマにもなったという本シリーズですが、私が前2作を読んだのは、台風到来で沖縄のホテルに缶詰めになった際、コンビニで購入してのこと。
そんな思い出、懐かしさもあって、この第3弾も購入して読んでみようと思った次第。

前2作と大きく異なるのは、東京第一銀行にて融資先の不良債権化が相次ぎ、銀行存続を図るため
産業中央銀行との合併を決意するという状況が背景とされていること。
合併となれば、当事者2行の間で主導権争いが生じるのは当然のこと。そんな状況にもかかわらず、東京第一銀行内では不祥事が相次ぎます。
その目撃者となるのが、事務臨店指導グループの
相馬と、その相馬が「狂咲」と呼んでその直截的行動にいつもハラハラしているのが花咲舞という次第。
終盤では、自分たちの権力保持のため隠蔽工作をして恥じない役員・部長たちに、舞が怒りの声を上げるという事態にまで。

なお、合併絡みという事情にて、産業中央銀行企画部の調査役としてあの
半沢直樹も顔を見せます。
(※半沢が所属していた東京中央銀行とは、東京第一銀行と産業中央銀行の合併行だったみたいですね)

主人公である花咲舞が上げる声こそ、社会一般が感じる良識というものなのでしょう。
軽快でコミカル、ちょっぴりスリルもあるというビジネス小説、それなりに楽しめました。


1.たそがれ研修/2.汚れた水に棲む魚/3.湯けむりの攻防/4.暴走/5.神保町綺譚/6.エリア51/7.小さき者の戦い

             

池井戸潤作品のページ No.2

           


  

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