|
21.タスキメシ−五輪− 22.転職の魔王様2.0 23.青春をクビになって 24.タスキ彼方 25.鳥人王 26.夜と跳ぶ 27.サリエリはクラスメイトを二度殺す |
【作家歴】、屋上のウインドノーツ、ヒトリコ、タスキメシ、さよならクリームソーダ、君はレフティ、潮風エスケープ、ウズタマ、完パケ!、風に恋う、イシイカナコが笑うなら |
競歩王、タスキメシ−箱根−、できない男、沖晴くんの涙を殺して、転職の魔王様、風は山から吹いている、世界の美しさを思い知れ、弊社は浴び集されました!、モノクロの夏に帰る、ラベンダーとソプラノ |
「タスキメシ−五輪−」 ★★ | |
|
陸上競技と料理を掛け合わせたスポーツ小説「タスキメシ−箱根−」のその後を描くシリーズ第3弾。 今回は、対称的な2部構成。 前半の「祈る者」は、東京オリンピック開催前から開催中にかけてのお仕事小説。 選手村での食堂運営を受託したのが鶴亀食品。その鶴亀食品に入社して食堂運営部門に配属され、新入社員ながらオリンピック選手村での食堂運営という過酷な現場に放り込まれたのが、紫峰大学駅伝部のキャプテンだった千波千早。 そしてもう一人、コロナ感染の影響で失職した井坂都が上記食堂スタッフに応募して、現場で千早と協力し合います。 その千早と都の奮闘を描いたのが、本篇。 「百聞は一見に如かず」と言いますが、読むだけでもその凄さ、大変さが分るというもの。 その中での千早と都の活躍ぶりは、胸のすく思いがして爽快。 駅伝やマラソンといった舞台のヒーローにはなり得ませんが、誰かの役に立つ実感、達成感は、仕事をするうえでの遣り甲斐になるというのはそのとおりでしょう。 一方、後半の「選ぶ者」は、今も選手生活を送る眞家春馬、助川亮介、藤宮統一郎の3人の現況が、それぞれ語られます。 大学の4年間というような時間の区切りがないところが難しい。 春馬は自分を高めるためのモチベーション作りに奮闘。 そして藤宮は、現役続行か引退かの選択にぶつかります。 それらは皆、アスリートの誰もが抱える課題でしょう。 「タスキメシ」としては、後半の方が本来のストーリィでしょうけれど、私としては前半の方が読み応えありました。 プロローグ/1.祈る者/2.選ぶ者/エピローグ |
「転職の魔王様2.0 THE EXPERT OF CHANGING JOBS」 ★★ | |
|
TVドラマ放映中の「転職の魔王様」、第2弾。 転職がとかく話題になる現在、本転職ストーリィには興味津々、新しい趣向の“お仕事小説”としても充分に面白い。 前作では、CA(キャリアアドバイザー)としての活躍は“転職の魔王”こと来栖嵐に頼りっきりでしたが、前作から1年経ち、本作では羊谷千晴もCAとして一本立ちしています。 そこに新たに加わるのは、<シェパード・キャリア>に転職してきた天間聖司・28歳。前職もCAで求職者から“天使のお仕事”と呼ばれていたという。 魔王こと来栖、天使こと天間、その2人に挟まれて千晴、どういった活躍を見せることやら。 CAが三者三様としても、そもそも求職者からして様々なのですから、それはそれで良いのかと思いますし、そうであってこそストーリィも面白くなるというもの。 しかし、天使の功罪は如何? 天使であれば良いという単純なものではないようです。 引き続き来栖からアドバイスを受けつつ、千晴がCAとしてどう成長していくのかも、読み処です。 しかし、最後の展開には正直、驚かされました。 また、魔王、天使の向こうを張り、“求職王子”と呼ばれるベテラン求職者が登場します。CAたちを嘆かせるその存在もユニーク。 なお、本作6篇の内では、製薬会社の営業職女性の転職話を描いた第4章に一番興味を惹かれました。 続編を期待です。 プロローグ 1.大事な部分って、働いてみないとわからないんですよ−23歳/女性/IT企業 プロモーション職 2.求職者の人生に責任を持つことはできません−28歳/男性/フリーライター 3.転職を生き甲斐みたいにしては駄目です−39歳/男性/不動産会社 営業職 4.優等生は、社会に出たら気をつけないといけないんですよ−30歳/女性/製薬会社 営業職 退職 5.大人なんだから、自分で決断すればいいんですよ−33歳/男性/転職エージェントCA |
「青春をクビになって」 ★★ | |
|
本作、まず題名に惹きつけられます。 「青春」という言葉には甘酸っぱい印象がありますし、その一方で「クビ」とは辛辣、世知辛い。 その二つの言葉が合わさると、何となく可笑しみと明るさを感じます。 しかし、本作の内容は、そんな呑気なものではありません。 大学院を出てポスト・ドクター(博士研究員)になっても、それで食っていけるわけでもなく、前途多難らしい。 主人公の瀬川朝彦は35歳。ポスドクで複数の大学で非常勤講師をしているが、安給料。 冒頭、まだ勤務して5年経っていないというのに契約更新はしないと通告され、他の大学でも5年経つため雇止め間違いなし。失職の危機に陥ります。 大学の同期で同じポスドク仲間だった栗山侑介は、雇止めにあったのを契機に研究者の道を諦め、レンタル・フレンド派遣派遣の会社を起業、一応社長という立場。 瀬川はさっそく栗山の下で、レンタル・フレンドの仕事を始めます。 一方、瀬川の10年先輩のポスドクである小柳博士(ひろし)は、雇止めされて現在は無職。 その小柳が大学所蔵の古事記の版本を盗んで失踪、という連絡を受け、他人事ではない瀬川は、小柳の身を案じます。 いやー、本当にこれは過酷、悲惨な道だなァ、と思わざるを得ません。 老齢の同僚講師である大石が瀬川に語った言葉には、まさにそのとおり!と同感します。 こんなことでは、日本の学術研究は衰えるばかり、国際的な順位も、坂道を転げ落ちるように下がっていくばかりなのではないかと懸念するばかり。 さて、瀬川、小柳は最後にどう決断するのか。 それはそれで、敗者ではなく、ひとつの道であると思います。 何だかんだと言って、サラリーマンは楽なのかもしれません。 1.僕たちは研究者です/2.幸せは転がってるんだと思う/3.何か、役に立ちましたかね/4.振り返っちゃ駄目ですよ/5.それは、悲しいことでしょうか 間章:また、夜行バスで/丸暗記の私に/片割れの蕎麦屋/踏ん張って |
「タスキ彼方」 ★★ | |
|
先日行われた、箱根駅伝 第100回大会、それを記念する先の大戦戦時下で行われた2つの大会経緯を描いた物語。 箱根駅伝は、ただ回を重ねて 100回まで続いた訳ではない、戦時下でも箱根駅伝を開催しようとし、敗戦後の困難な状況の中で再び箱根駅伝を復活させようと奮闘した学生たち、それを支援する人々の存在があってこそ“駅伝のタスキ”は今日まで繋がれたのだと描く、熱い物語。 先日の箱根駅伝の興奮がまだ消えない内に本作を読めたことは幸運でした。 何故これだけ箱根駅伝に人気があるのかというと、箱根の山登り(第五区)、山下り(第六区)という他の駅伝にはないドラマ要素があるからでしょう。 しかし、戦時中で行われた駅伝大会に参加した学生たちの胸の内には、想像もしなかった想いが籠められていたようです。 それには衝撃を覚えます。 1941年は中止されるも、代替駅伝として<青梅駅伝>を開催。42年は再び開催できなかったものの、43年に第22回大会が実施。そして戦後の47年に第23回大会として箱根駅伝が復活。 戦時下では大会開催のため「必勝祈願」とか「出兵前の鍛錬」とか、苦肉の言葉が並びます。 それらを通じ、軍部なる組織は決して政治を担ってはいけない、という事実を改めて噛み締める思いです。 ストーリィは、現在と過去を交互に描く構成。 今まで知らなかった事実だけに、戦時下での駅伝開催までのドラマが充分に面白い。 特に第22回大会、駅伝を走るランナーたち個々の姿も描かれ、TVで見る駅伝レース光景と重ね合わせながら読むと、胸が熱くなります。 箱根駅伝ファンには、是非お薦め。 第一章 消えた箱根駅伝 1.ボストンマラソン/2.最後の駅伝/3.中止/4.帰国/5.青梅駅伝 第二章 箱根駅伝への選択 1.真珠湾/2.広島/3.スパイク/4.交渉/5.戸山学校/6.夏合宿 第三章 箱根駅伝の亡霊 1.類家/2.予選会/3.足を/4.MGC/5.新倉/6.日本代表 第四章 箱根駅伝の最期 0.靖国/1.伴走/2.踏切/3.追走/4.女将/5.前に/6.山下り/7.審判員/8.熱/9.記者/10.再び、靖国/11.提灯/12.KGRR 第五章 蘇る箱根駅伝 1.豪雨/2.終戦/3.誘導/4.道連れ/5.GHQ/6.メッセージ/7.復活/8.ウミネコ/9.箱根駅伝/10.百回 |
「鳥人王 Athlete Comedian」 ★★ | |
|
主人公は御子柴陸、30歳。高校の同級生と漫才コンビ<パセリパーティ>を結成しプロに挑んだものの、未だ芽が出ず、芸人としては崖っぷち。 一方、子どもの頃から運動だけは得意。その運動能力を買われ、素人がスポーツ競技に本格的に挑戦するバラエティTV番組<アスリート Challenge(略称:アスチャレ)>に、放送開始から3年間ずっとレギュラー出演。しかし、お笑い芸人としてそれで良いのか、先があるのか、と葛藤も抱えている。 そんな陸に突きつけられた新企画は、“棒高跳び”への挑戦。 オリンピック候補選手と共に練習を重ね、「アスチャレ芸人はマスターズ選手権大会優勝を、オリンピック候補選手はパリ(オリンピック)をめざす」、というもの。 主人公の御子柴陸も個性的ですが、候補選手の大学生=犬飼優生も、爽やかなイケメンという表向きの表情とは別に、実はかなりの曲者らしい。 さらに、個性抜群のスポーツオタク・プロデューサー=綿貫紅一に、綿貫の幼なじみで大学理工学部で国産の棒高跳びポールを試作中の准教授=狐塚翠が加わります。 いくら何でも出来過ぎ、というくらいの、陸の踏ん張り、奮闘、そして葛藤が、とにかく面白い。 スポーツ小説は一般的に、楽しいし、ワクワクするものですが、本作は設定と趣向の独創性が面白さを引き立てています。 エンターテインメント性たっぷりのスポーツ小説です。 1.そのポール、十万するんで折らないように気をつけて 2.嫌ですね。十万もする得体のしれない棒で信号機を飛び越えるの 3.全人類がキプチョゲの夢を知ってる前提で話さないでくださいよ 4.馬鹿の一つ覚えみたいにカツ丼でも食えばいいんじゃないですか? |
「夜と跳ぶ Shibuya Street Skater」 ★★ | |
|
さるトラブルを起こして仕事を干されてしまったスポーツカメラマンの与野丈太郎、38歳。(1年前離婚され、一人暮らし) 東京オリンピックでスケートボードの初代金メダリストになったものの、パリオリンピックを目指さず、夜のストリートで気ままに滑っている大和エイジ、19歳。 その2人が夜の渋谷で出会ったところから、二人の、街を疾走するストーリーが幕を明けます。 丈太郎、斡旋してもらった芸能ゴシップの写真撮りを失敗、自分にはできそうもないと夜の渋谷を悄然と歩いていた処遭遇したのが、スケートボードを楽しむ若者たち。 その中の一人が大和エイジ。そのエイジのトリック(技)に魅了された丈太郎、エイジに煽られ、ボードに乗って並走、エイジの繰り出すトリックの撮影に挑みます。 エイジのフィルマー(ボードに乗って撮影)となった丈太郎は、エイジと共にあちこちの街のストリートで、様々に起きる事件、トラブル解決のため疾走することになります。 実はエイジ、三歳の頃に児童養護施設の門前に置き去りにされ、その養護施設で育った身元不明の孤児。そのエイジの舎弟を自称し、いつも共にいるトモ(真中智亜、中一女子)も、同じ養護施設の後輩。 何故エイジはパリオリンピックに挑まず、今も都会のストリートで滑り続けるのか。 そこにエイジなりのメッセージが篭められていて、本作の読み処です。 そんな若いエイジやトモたちに絡み、中年の与野丈太郎が得難い仲間になっていく処が痛快。丈太郎にもエイジたちに負けない熱さがある、という証に他なりませんから。 ※オリンピックのスケートボード競技を思い浮かべながら本作を読むと、リアルに楽しめると思います。 1.渋谷ヒカリテラス16/2.宇田川プーケットナイト99/3.渋谷駅東口ボードスライド/4.井の頭線01チェイサー/5.トップ・オブ・コンコルト24 |
「サリエリはクラスメイトを二度殺す」 ★☆ | |
|
4年前、朝里学園大学付属高校の卒業演奏会の最中、演奏者6人の内の一人=恵利原柊が、首席だった雪川織彦を殺害するという事件が発生。 上記事件は「朝里」と「恵利原」をひっかけ、モーツァルト毒殺の噂があった作曲家サリエリに模して、<サリエリ事件>と呼ばれた。 そして本作題名から分かるように、4年後の同大学卒業演奏会において、またしても再び演奏者間で殺人事件が起きます。 いったい何故? そして誰が誰を殺害するのか? 卒業演奏会を控えた時期、上記演奏者であった残る4人の前に週刊誌記者の石神幹生が現れ、4年前の事件について聞き込みをし始めます。 仲が悪い訳でもなかった同級生間で、何故殺人事件が起きてしまったのか、さらに二度も。その点は間違いなくミステリ。 一方、思わぬ事件で同級生を失った4人はこの4年間、2人のことを忘れることはできず、心に深い傷を負ったまま。その点ではダークな青春物語と言えます。 人間とは、衝動的に殺意を爆発させてしまうことがあるのか。それを抑えることはできないのか。 重たい課題を描いたストーリーのように思われますが、ただ彼らそれぞれの運命を思うと、その残酷さに胸が痛くなります。 額賀作品は割と明るい話が多いのですが、珍しく本作は暗い。 ※モーツァルトとサリエリを描いた作品、既読は次の2作。 ・プーシキン「モーツァルトとサリエーリ」 ・P・シェーファー「アマデウス」 1.四年後のサリエリ/2.サリエリの行方/3.サリエリの秘密/4.分岐点のサリエリ/5.サリエリの使者/6.サリエリの手紙/最終章.サリエリの軌道 |
額賀澪作品のページ No.1 へ 額賀澪作品のページ No.2 へ