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11.競歩王 12.タスキメシ−箱根− 13.できない男 14.沖晴くんの涙を殺して 15.転職の魔王様 16.風は山から吹いている 17.世界の美しさを思い知れ 18.弊社は買収されました! 19.モノクロの夏に帰る 20.ラベンダーとソプラノ |
【作家歴】、屋上のウインドノーツ、ヒトリコ、タスキメシ、さよならクリームソーダ、君はレフティ、潮風エスケープ、ウズタマ、完パケ!、風に恋う、イシイカナコが笑うなら |
タスキメシ−五輪−、転職の魔王様2.0、タスキ彼方、鳥人王、夜と跳ぶ、サリエリはクラスメイトを二度殺す |
「競歩王」 ★★ | |
2022年06月
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題名からすぐ分かるように、陸上競技“競歩”を題材にしたスポーツ小説。 よくある爽快なスポーツ小説の一つ、と思う処ですが、本作の異色なところは、主人公が選手ではなく、学生作家であること。 榛名忍は慶安大学文学部の3年生。高校3年時に出版社の新人賞を受賞し作家デビュー、「天才高校生作家誕生」ともてはやされたものの、今や低下傾向、焦燥感を抱えている。 担当編集者の百地さんから、東京オリンピックに向けてスポーツ小説を書かないかと勧められ、つい口に出たのが、TVで見たばかりの<競歩>。 さっそく同じ大学の陸上部に見学に行きますが、競歩選手は2年生の八千代篤彦一人のみ。 もう一人の主人公と言えるのが、この八千代篤彦。箱根駅伝出場を夢見て入部したものの、とても無理と断念し、オリンピックを目指し競歩に転向したものの、まさに孤高の挑戦。 口にしたものの競歩にイマイチ興味が向かない榛名。いつも難しい顔で練習している八千代は、取材という榛名に反発も。 でもこの2人、この先に向けて追いつめられた状況にある等々、よく似ています。 慶安大学新聞の記者だという福本愛理に教えられる内、次第に榛名は八千代の練習、競技参加をサポートするようになります。 学生作家と学生スポーツ選手、それぞれに葛藤を抱え、苦しみ悩みながらも、共に前へ進もうと共闘していくストーリィ。 <競歩>という競技のことを知る楽しみもありますが、作家・競歩という2つの成長ストーリィを楽しめるとあって、お得感たっぷりです。 また、二人の周辺人物、榛名の高校以来の友人=亜希子、担当編集者の百地さん、前述の福本愛理の他、ライバル作家、ライバル選手たちと、それぞれ切れ味が良く魅力的。 額賀澪さんは、面白くて楽しい話を書くのが上手いですよねぇ。 本作でも、冒頭の印象と違い、どんどん面白くなっていくところが楽しい限り。 そして圧巻なのは、八千代の命運がかかった最後のレース。 選手側ではなく、応援する側であるからこその興奮、感動があります。 まさに映画的なストーリィ。手に汗を握る興奮を味わいたい方にお勧め。 序章.2016年 夏・秋/1.2017年 冬/2.2017年 春/3.2017年 夏・秋/4.2018年 冬/5.2018年 夏・秋/6.2019年 冬・春/7.2019年 春/終章.その先へ |
「タスキメシ−箱根−」 ★★ | |
2022年11月
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高校陸上部で長距離ランナーだった眞家早馬を主人公にし、陸上競技と料理を掛け合わせたスポーツ小説「タスキメシ」の続編。 大学陸上部でも故障続き、ついに箱根駅伝を走れないまま引退した早馬も今や社会人3年目。 かつての仲間=助川亮介や藤宮藤一郎、弟の春馬らが実業団ランナーとして東京オリンピックを目指しているのに対し、早馬は病院で管理栄養士として勤務。 しかし、このままでは自分の目標に近づけないと、病院勤務を辞め大学院への進学を決意します。 その紫峰大学で出会ったのが、同大学駅伝部の館野監督。 館野から請われ、駅伝部の管理栄養士兼コーチアシスタントという立場となった早馬は、寮に住み込み、箱根駅伝未経験の部員たちと共に箱根駅伝出場を目指します。 ところがキャプテンの千波千早は、そんな早馬を素直に受け入れることができず・・・・。 ストーリィは早馬、千早、交互に2人の視点から描かれます。 “箱根駅伝”とは何なのか。箱根を目指した結果として、何が得られるのか。 そして、努力したからといって結果が得られるとは限らない、と経験者の早馬は千早に明言します。 さて、早馬、紫峰大学駅伝部の部員たちは、本作品の最後でどこに行き着くのでしょうか。 それらを経たうえでの箱根駅伝レース、まさに迫真に迫り、興奮とともに胸が締め付けられるような思いがします。 ふと、三浦しをん「風が強く吹いている」を思い出しました。 箱根への挑戦は、常にドラマになるなぁ。 楽しく、読了。 プロローグ/1.願う者/2.挑む者/エピローグ |
「できない男」 ★★ | |
2023年05月
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地方の小さな広告制作会社でデザイナーとして働く芳野荘介は、一度も恋人ができたことない恋愛経験ゼロ、仕事にも今ひとつ行き詰まりを感じている28歳。 一方の河合裕紀は、著名クリエイターである南波仁志のオフィスで右腕として働くアートディレクターながら、4年前に恋人から二股を掛けられたショックを未だ引きずっている33歳。 荘介の地元=夜越町が大手食品会社と共同で立ち上げたテーマパークプロジェクト<アグリフォレストよごえ>のブランディングを受注したのが南波オフィス。その南波オフィスに地元デザイナー枠として荘介が放り込まれたことから、河合と芳野が出会うことになります。 片や、自ら「青春できない男 → 恋愛できない男 → 仕事できない男」と自嘲する荘介。片や、南波から「覚悟できない男」と評された河合。 対照的なキャラクターでありながら、そこから一歩でも二歩でも抜け出そうと奮闘、もがき苦しむところは共通です。 主人公格ではないながら、二股掛けられた同士として意気投合し今では河合と一緒に温泉にも出かけるというイタリア料理店のオーナー=賀川尚之、南波オフィスで有能ながら容赦ない言葉遣いで人間関係に難のある後輩デザイナー=竹内春希も、2人に準ずるキャラクター。 分かりやすく要約するならば、仕事上での遅れてきた青春ドラマ(芳野)、永過ぎる青春の卒業ドラマ(河合)を、がっぷり四つに組ませたストーリィ、と言って良いでしょう。 即ち、仕事への没頭とささやかな成長、30歳前後になってもこんなかと感じるような逡巡と迷走が繰り広げられる訳で、それに相応するコミカルかつ活気あるストーリィが展開されます。 最後、転げ落ちるような〇〇と河合の決断、おいおいこれって?という名作映画さながらの芳野と○○のシーンが、噴飯したくなるように愉快。 この痛快な面白さは、やはり額賀澪さんならではのものですね。 1.ほら、何も起きない!/2.覚悟できない男/3.八つ当たりです/4.南波仁志め/5.文化祭の準備/6.責任/7.できない男 |
「沖晴(おきはる)くんの涙を殺して」 ★★ | |
2023年10月
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がんで余命1年と宣告され、教師を退職して故郷の階段町に戻って来た踊場京香。 帰郷早々にその京香が出会ったのが、どんな時でも笑顔を浮かべている高校2年生の志津川沖晴。 「カフェ・おどりば」を営む祖母が沖晴の食事の面倒を見ていることから、必然的に京香も沖晴と関わるようになります。 その沖晴は京香に、死神に会って生命を助けてもらう代わりに、人間のもつ5つの基本感情のうちネガティブな4つ(悲しみ・怒り・嫌悪・恐れ)を差し出し、残った感情はポジティブな喜びだけなのだと語ります。だからいつも笑みが浮かぶのだと。 一人生き残った沖晴、余命1年と宣告された京香。まるで対照的な2人ですが、<生と死>に向かい合わざるを得ない2人だからこそ向かい合うことができるのでしょうか。 合唱部の臨時コーチとして母校に顔を出すようになった京香、合唱部の一員である沖晴、京香と沖晴の関わりが密度を濃くしていくに連れ、感動もボリュームアップ、そして各章毎、様々な事態に出会ううち、沖晴に失った筈の感情が戻ってきます。 しかし、果たしてそれは沖晴にとって幸せなことなのか・・・。 生きるということはどういうことなのか。ネガティブだという4つの感情は人間にとって必要なものなのでしょうか。 ひとつひとつ過程を進む中で、京香たちから強いメッセージを受け取っている気分です。 悲しみや苦しみがあるからこそ、それを味わってこそ、人間は強くなって生きていけるんだ、という思いを新たにします。 最後のエピローグも清新。人に感情があるからこそ、人と人もまた繋がれるのでしょう。 冒頭は、特異な設定に驚いたものの、次第に胸がいっぱいになっていき読了。 お薦めです。 1.死神は呪いをかける。志津川沖晴は笑う。/2.死神は嵐を呼ぶ。志津川沖晴は嫌悪する。/3.死神は命を刈る。志津川沖晴は怒る。/4.死神は連れてくる。志津川沖晴は泣く。/5.死神は弄ぶ。志津川沖晴は恐怖する。/6.踊場京香は呪いをかける。志津川沖晴は歌う。/最終話.死神の入道雲 |
「転職の魔王様 THE EXPERT OF CHANGING JOBS」 ★★ | |
2023年06月
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「転職の神様」なら分かるのですが、何と「魔王様」! この題名が凄い! 転職とは? 難しさ、厳しさ、その一方で希望、可能性。でも、そのためにはまず、求職者自らの覚悟、決断が必要、ということなのでしょうか。 主人公の未谷(ひつじたに)千晴は26歳。新卒で大手広告代理店に就職しますが、直属の上司が酷いパワハラ人物。こき使われた挙げ句、心身を損なって三年もたずに休職、そして退職。 ようやく立ち直って来た今、何とか早く社会人に復帰したいと、叔母の落合洋子が経営する人材紹介会社<シェパード・キャリア>に転職活動サポートを依頼することになったのですが、千晴の担当になったCA(キャリア・アドバイザー)こと、「転職の魔王様」と異名をとる来栖嵐。 さすが「魔王」と呼ばれるだけあって、千晴に対する来栖の弁は辛辣極まりなく、もう震えあがるくらい怖い。おかげで千晴の心を粉々に砕かれますが、それでも・・・。 第一話の求職者は千晴。そして第二話以降は、叔母の発案で<シェパード・キャリア>に1年間試用採用されることになった千晴が、来栖の指導下に見習いCAとして奮闘する、という構成。 転職側と、転職サポート側、両方から“転職”について考え、学ぶことができるお仕事小説。 以前、リストラ対象者の転職をサポートする垣根涼介「君たちに明日はない」シリーズを楽しみましたが、本作と似ていて違う処もあり、といったところです。 かつて私も、勤務先が経営危機に陥った際に中途退職者の募集があり、大勢の社員と一緒に転職説明会を聞いたことがあります。結局は転職とはならなかったので、本ストーリィを新鮮な気分でリアル体験しました。 まぁ、ブラック企業からは早く逃げ出し(退職)、転職先を探した方が良いですね。 プロローグ 1.そんなこと自分で決めてください−26歳/女性/広告代理店 営業職 退職 2.周りが転職してるから焦って自分も、ですか−32歳/女性/派遣社員 文具メーカー 事務職 3.転職はレビューサイトで店を選ぶのとは違うんです−25歳/男性/広告代理店 営業職 4.貴方の人生の前ではどうだっていいものなんですよ−32歳/女性/教育コンテンツ配信会社 制作職 5.仕事に夢を見ないのはご自由です−30歳/男性/リース会社 営業職 退職 エピローグ |
「風は山から吹いている Why climb mountains with me?」 ★☆ | |
2024年07月
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登山の喜び、爽快さの語り+青春期の小ミステリ、という一冊。 主人公の筑波岳は大学新入生。 高校時代、スポーツクライミング部に所属しインターハイ出場経験もあることから、大学スポーツクライミング部の部長=国方晃に入部してくれと始終付きまとわれている状況。 そんな折、ふとしたことで出会ったのが構内でも変人として有名な、一人だけの登山部・部長である梓川穂高。 その穂高から筑波山登山に誘われたことをきかっけに岳は登山部に入部するのですが、鍋割山登山の最中、高校時代に世話になったコーチ=宝田謙介から無言の電話が・・・。 そしてその翌朝、岳はその謙介が宝剣岳で滑落死したことを知らされ、ショックを受けます。 謙介の死は、事故か、それとも自殺か? 岳は穂高の協力を得てその真実を確かめようと・・・。 本作の特徴を一言で言い表すなら、登山の魅力を余すことなく伝えようとした一冊、でしょう。 文章を読んでいるだけでその、途中の苦しさ、登頂したときの達成感、清々しさが伝わってきます。 こんなに爽快なら自分も登ってみようか・・・と思う人が多いのではないかと思いますが、そこは非アウトドア派、私は読んでの爽快感のみで充分、としておきます。 ミステリ部分、岳にも穂高にも、それぞれ隠していることがあった、というところがミソ。 下界では口にできないが、山の上なら素直に口に出せる、というのも分かる気がします。 最後に一言、登山の魅力、リアルにたっぷり楽しめます。 プロローグ/1.筑波山は晴れている/2.鍋割山に湯気が立つ/3.日の出山に洗われて/4.木曽駒ケ岳に偲ぶ/5.宝剣岳で君を暴く/エピローグ |
「世界の美しさを思い知れ」 ★★ | |
2024年06月
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蓮見貴斗・24歳は平凡なサラリーマン。 しかし、一卵双生児の弟で人気俳優だった蓮見尚斗が、自宅マンションで自殺を遂げたことから、世界が変わってしまう。 一卵双生児だからなのでしょう、なぜ尚斗の気持ちをわかってやれなかったのかと思う一方、一人だけ取り残されたという思いが消えない。 折しも、顔認証で使えた尚斗のスマホに、礼文島行きの航空券が届きます。なぜ尚斗は礼文島に行こうとしていたのか。 その答えを知ろうと、貴斗は尚斗の代わりに礼文島へ向けて旅立ちます。 そこから始まる、尚斗の死の理由を知りたいと思う貴斗が、尚斗が行こうとしていた場所、かつて行った外国の街を訪ね歩くロードノベル。 自殺の謎は掴めないままですが、尚斗が親しくした人物とのその地での出会いに、貴斗はいつしか楽しさを感じていく。 そして、尚斗が行ったことのない場所へ貴斗が踏み出したとき、貴斗がそこで感じ、見い出したことは・・・・。 仲の良かった双子の弟が死んだからといって、生きている兄の世界までが閉ざされる訳ではない。貴斗の目的も定かならぬ旅はそれを知るための旅だったと言えるでしょう。 見知らぬ場所への旅、見知らぬ人との出会い・・・、喪失感の消えない一方でそこにはやはり、旅の楽しさ、出会いの喜びがあります。 登場する女性たちと貴斗とのやりとりも中々に面白い。 会社の同僚である古賀凛、尚斗をスカウトして以来マネージャーだった野木森佳代、尚斗と一時交際が報道された辻亜加里と。 最初は意味不明だった本作題名、その意味するところが最後には納得して感じられます。 貴斗のその後の人生も中々のものです。以て瞑すべし。 1.礼文島/2.マルタ島/3.台中/4.ロンドン/5.ニューヨーク/6.ラパス/最終章.尚斗 |
「弊社は買収されました!」 ★☆ | |
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マスコミ報道で突然、自分の働く会社が外資系企業に買収されたと知ったら、誰しも驚き、今後のことを心配すると思います。 昔ながらに定年まで働くのがフツーという会社なら当然に。 しかし、今や合併、経営統合、買収というニュース報道があるのもそう珍しいことではなくなっていますし、自分の会社にそんなことは起きないと思い込むのはどうかな、と思います。 これまでのことはこれまでとし、新たな状況に向けて気持ちを切り替えていくことが必要なのだと思いますが、本作で買収される側の社員たち、どうもそれができなかったようです。 彼らのエキサイトぶり、拒否反応ぶりはちょっと現実離れしていますが、企業小説もしくはお仕事小説におけるコメディと思えばそうしたシチュエーションも必要でしょう。 主人公は、無添加石鹸の製造メーカーである<花森石鹸>の社員で入社以来ずっと総務部勤務の真柴忠臣・35歳独身。 その忠臣にとって青天の霹靂だったのが、外資系トイレタリーメーカー<ブルーア>による買収。 自称“会社の何でも屋”、皆が働き易いように尽くすが自分の役割と思っている忠臣、早速に経営統合のための事務局メンバーに指名され、そんな役割を負わせられます。 本作はそんな忠臣と仲間たちの奮闘ストーリィ。 忠臣の相棒となるのが、台湾人青年でブルーアNY本社から、新社長ターナーの通訳兼統合メンバーの一人となったダニエルこと林柏宇(リンバイユー)。 会社で顔を合わせた2人、余りの偶然に驚愕するという関係。 年齢が高いほど、考え方も硬直化する・・・とあって、プルーア日本支社から送り込まれた社員と花森石鹸社員の対立が続く中、事態を切り崩していくのはやはり若い社員たち、というのは当然の展開でしょう。 しかし、現実はもっとドライ、ではないでしょうか。その点、やはり本ストーリィはコメディ風で日本的、と感じます。 そのため、何やら源氏鶏太のサラリーマン小説を思い出させられる処があります。 決して他人事ではないと思えば、それなりに楽しめます。 プロローグ.弊社は買収されました!/1.カタカナばっかり使いやがって!/2.人員整理は総務から!?/3.プライドくらいありますよ!/エピローグ.さあ、洗濯でもしようか |
「モノクロの夏に帰る Return to Monochrome Summer」 ★★ | |
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毎年8月になると、広島、長崎への原爆投下、終戦と、アジア太平洋戦争の記憶を新たにします。 しかし、直接原爆被害を受けた方たち、戦時下の時代を身を以て知る方たちは年々少なくなっていて、戦争の記憶をどう次世代に引き継いでいくのかが課題だと言われ始めて久しい。 本作はその課題にどう向き合うかを、様々な登場人物の姿を以て連作形式で語ったストーリィ。 なお本作、地味かつ着実に語っていくという風で額賀作品のこれまでの雰囲気とはかなり異なることから、戸惑いも感じました。 ストーリィ内容を一言でいうと、戦時中のモノクロ写真をカラー化した写真集「時をかける色彩」、新たに刊行されたその写真集が人々を動かしていく、というもの。 ・「君がホロコーストを知った日へ」:主人公は、上記写真集への推薦文を依頼された書店員の黒瀬飛鳥。昔「祖父の戦争体験を捏造したことがある」自分に、戦争を語る資格があるのか、と迷います。 ・「戦略的保健室学校同盟」:効率的な中学生活を送りたいからと保健室登校を続けている喜多村紫帆。保健室登校デビューしたばかりの一色松葉と一緒に、上記写真集をもとに松山市の戦時中の様子を調べようとします。 ・「平和教育の落ちこぼれ」:戦争特番制作を命じられた番組制作会社のディレクター=青柳守美、自分は「(広島の)平和教育の落ちこぼれ」と自称。その意味は? ・「Remember」:米国フィラデルフィアから埼玉の高校に転入したレオ・ブラウン。陽気な米国少年を装っていますが、クラスの文化祭企画で戦争を取り上げることが決まり、その準備が進んでいくといつしか追い詰められた気持ちになり・・・。 戦争をしてはいけない、戦争によってどれだけ過酷な体験をした人が生まれたことか・・・・過去の事実をもとに戦争反対の気持ちを強く持つことは大切なことと思います。 しかし、教科書に記載されている文句をそのまま暗記するようにして済ませていくことについては、私も疑問に思います。 日本に限らず世界的に戦争・紛争を考えて欲しいし、一面だけからではなく多面的に考えてほしい。 その意味で、喜多村紫帆の作文は痛快ですし、レオや星桜太の抵抗感もよく分かります。 「平和教育の落ちこぼれ」と自称する故の、青柳守美の視点も捨て難い。 まず、いろいろな情報から自分自身で考えてみたいものです。 君がホロコーストを知った日へ/戦略的保健室登校同盟/平和教育の落ちこぼれ/Remember |
「ラベンダーとソプラノ Lavender and soprano」 ★★ | |
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額賀さん初めての児童向け作品。 小栗真子が所属する常花小学校合唱部は、全日本合唱コンクールの常連。 しかし昨年、3連覇を逃したことから卒業した部員から「来年は絶対に金賞を取って!」と、真子ら新6年生は重い責任を託されます。 昨年から顧問となった若い長谷川先生や、部長の横山穂乃花からは笑顔が無くなり、指導は厳しくなるばかりで、やたら「責任をもって」という言葉が繰り返されます。 そんな折、5年生の菅野優里が不登校になり、その関わりで知り合った柚原朔(ゆはらはじめ)という優里の幼馴染から真子は、トコハナ商店街の“半地下合唱団”の存在を教えられます。 誘われて赴いたその合唱団は、大人に朔や中学生も混じり、統制は取れていないものの皆が楽しく、演奏や歌を楽しんでいる。 必然的に真子は、その合唱部と半地下合唱団の2つの間に挟まれて、いろいろ考えていくことになるのですが・・・。 私は元々、大勢で一緒に何かを目指すとか、競うということが苦手で、そうした部活動をしたことはないのですが、とはいってもその楽しさや魅力が分らない訳ではありません。 でも、辛さばかりで楽しさはどこにもなく、言いたいことさえ言えず我慢する、となれば、それは違うだろうと思います。 本作は、違うという思いを言葉にできなかった真子が、やっと言葉にすることができるまでのストーリィ、とも言えます。 本ストーリィの中でもう一つ感じたことは、子どもの行動の背景には親の大人の言動がある、ということ。 ともあれ、最後は楽しい気分で読了。 半地下合唱団が歌う「翼をください」「あの素晴らしい愛をもう一度」は、私の高校時代の思い出の曲でもあります。 1.金賞を追いかけて/2.タンポポの綿毛/3.ボーイ・ソプラノ/4.あなたの歌が聴きたくて/5.いつか消えてしまう歌声/6.途切れた音がつながらない/7.入道雲の向こうに見えるもの/最終章.光を追いかけて |
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