額賀 澪作品のページ


1990年茨城県行方郡麻生町(現・行方市)生、日本大学芸術学部文芸学科卒。広告代理店に勤務しながら小説の創作を続ける。2015年「ヒトリコ」にて第16回小学館文庫小説賞、同年「屋上のウインドノーツ」(「ウインドノーツ」を改題)にて第22回松本清張賞を受賞し作家デビュー。


1.屋上のウインドノーツ

2.ヒトリコ

3.タスキメシ

4.さよならクリームソーダ

5.潮風エスケープ

6.ウズタマ

7.完パケ!

8.風に恋う

9.イシイカナコが笑うなら

 


           

1.
「屋上のウインドノーツ ★★         松本清張賞


屋上のウインドノーツ

2015年06月
文芸春秋刊
(1200円+税)

2017年06月
文春文庫化



2015/07/16



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ミステリ系作品の受賞が多い松本清張賞にあっては珍しい、青春&部活小説。

主人公の
給前志音は、県立茨城県行方第一高等学校に入学したばかりの1年生。幼い頃から楽しいという感覚や人とのコミュニケーション力が欠落していて、同い年の友人=青山瑠璃にいつも守られ、庇われてきた少女。そんな状況に嫌気を覚え、敢えて瑠璃と同じ敬真学園の高等部には進学せず、県立高校に進学したという次第。
もう一人の主人公である
日向寺大志は、同校の吹奏楽部長。中学時に経験した揉め事からずっと自分を抑え込んできた3年生。
そんな2人が学校の屋上で偶然に出会ったところから、本書ストーリィは始まります。
志音は、これまでの自分から変われるかもしれないという期待感を持って。一方の大志は、志音と一緒ならあの場所まで行けるかもしれないという確信を持って。

2人が励まし合い、支え合って、一つ目標に向かって邁進する。そして、そのことを通じて2人が成長していく、という青春小説の王道を行った本ストーリィは、爽快な読み応えです。
志音、大志が交互に主人公となってストーリィを引っ張っていくという構成も、躍動感があって良い。
但し、極端なキャラクター設定の他、もう少しストーリィに奥行きと幅があったらと感じる処がありますが、新人作家の作品としては文句ない及第点であると思います。


1.この老いぼれのように、君達若者も野心的であれ/2.この気持ちを自分は忘れられるのだろうか/3.餓鬼が一丁前に責任負った気になってんじゃねえっつうの/4.そんな単純な作りを人の心はしてない/5.結果が多分、今日のステージにあるはずだ/6.卵、今日はしょっぱい奴だったよ/7.大空の青が映り込んだ君の目は、きっと世界で一番綺麗だろう/8.そうですね。答え、出ました/9.風は山から吹いている

       

2.

「ヒトリコ ★★         小学館文庫小説賞


ヒトリコ

2015年06月
小学館刊

(1200円+税)

2017年12月
小学館文庫化



2015/08/11



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小5の時、クラスで飼っていた金魚が死んだのは日都子が殺した所為だと決めつけ殴ったヒス気味の女教師、日都子が金魚を殺したがっていたと嘘をついた親友の嘉穂、その結果はクラスを挙げての日都子へのイジメとなった。
それ日以来、
深作日都子「関わらなくてもいい人とは関わらない」と決意し、孤立の道を選ぶ。即ち“ヒトリコ”
そんな日都子の姿をずっと、あたかも自分が傷ついたかのように見つめ続ける同級生が
堀越明仁
中学時代もドラマはありますが、日都子と堀越、嘉穂の関係は変わらず。
そして彼らが高校に入学した時、転校して日都子が金魚の世話をする原因を作った
海老澤冬希が彼らの前に再び同級生として姿を見せます。モンスターペアレントとなった母親と決別し、父親と共に故郷に戻ってきたという次第。
冬希の再登場によって“ヒトリコ物語”は何か変わるのか。

前半こそヒトリコである日都子の物語でしたが、後半に至って本作品が
日都子、冬希、堀越、嘉穂という4人の物語であることに気付かされます。
孤立を意味するとしか受け止められなかった“ヒトリコ”という名前が、冬希の登場以来、別の意味を響かせるようになっていく展開が巧妙かつ面白い。

人と群れ、目立たぬように「みんな」の中に埋没してしまうことは子供であっても処世術としてとても楽な方法でしょう。
でも自己主張せず、自身で選択もせず、全て事勿れで済ませてしまうことが本当に自分にとって良いことなのかどうか。
本書は、孤立を恐れず、勇気を持って自分の本心に従い行動しようとする少年少女たちへのエールとなる作品です。
粗削りなところはありますが、新人作家とは思えない程の読み応えがあり、実にお見事。お薦めです。


1.ヒトリコと「アメイジング・グレイス」/2.ヒトリコと「心の鐘」/3.ヒトリコと「遺作」/4.ヒトリコと「怪獣のバラード」

       

3.
「タスキメシ ★★


タスキメシ

2015年11月
小学館刊

(1300円+税)



2016/01/19



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高校陸上部の長距離ランナー兄弟に、料理研究部一人部員の女子を絡ませた、陸上X料理という青春ストーリィ。

眞家早馬は有力な長距離ランナーでしたが、右膝の剥離骨折という重傷を負い、高3の現在リハビリ中。
そんな早馬が巡り合ったのが、料理研究部一人部員にしていつも調理実習室でただ一人料理を作っている
井坂都。その都は清楚な外見に関わらず、男子のような乱暴な口の利き方。でも都の作る料理はどれもとびっきり美味しい。
リハビリという中途半端な状況、父子家庭である上に1学年下で同じ陸上部の弟=
春馬は野菜嫌いのひどい偏食とあって、早馬は都に料理を習い春馬にきちんとした食事を取らせようとします。しかし、その背中を追いかけて走り続けてきた春馬はそんな兄の姿を認め難く・・・。

高校スポーツ青春ストーリィに料理を組み合わせた発想が卓抜。
このふたつ、決して不釣り合いな組み合わせということはありません。(
古内一絵「マカン・マランでも感じたことですが)きちんとした食事をとるということは即ち自分を大切にすることであり、スポーツで強くなるためにも必須のことですから。
そして早馬と都の掛け合いに、早馬が料理に目覚めていく風なところは痛快な楽しさがあります。

前半
「去る者」は<早馬と都を中軸に+春馬>という単純明快なストーリィ構図でしたのでメリハリが効いていましたが、後半「追う者」では、井坂都の事情、早馬をライバル視する部仲間の助川、強豪校の藤宮という人物も入り込み、青春群像ストーリィといった観があります。その分前半に比べるとやや散漫になった観があって少々トーンダウンした印象は否めません。

最後は消化不良に終わってしまったような思いが残りますが、全体としては絶妙で魅力あるストーリィに、わくわくする面白さを味わえた高校青春ストーリィ。お薦めです。


1.去る者/2.追う者

         

4.
「さよならクリームソーダ ★★


さよならクリームソーダ

2016年05月
文芸春秋刊

(1450円+税)

2018年06月
文春文庫化



2016/06/15



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美大に入学した寺脇友親、親に頼らずバイトで自活と決意していたのですが、早々と資金難。そんな苦境を救ってくれたのが、同じ旭寮の住人で友親と同じ油絵科4年の柚木若菜
それ以来何かと若菜の世話になる友親でしたが、ある日
進藤恭子という女子学生が友親を訪ねてきていきなり、若菜君のことをよく見ていてほしいと頼み込んでくる。
進藤恭子は若菜とどういう関わりがあるのか。また、冒頭で若菜が名前を呼んだ
「ヨシキ」とはどういう人物なのか。
美大生2人が各々主人公となる、2筋のストーリィを交錯させた青春ストーリィ。

友親と若菜には共通点があった。それが若菜が友親に声をかけ、金まで貸してくれた理由。
若菜は父親が再婚、新しく母親と妹ができますが、新しい家族関係にいつしか息苦しさを感じ・・・。
一方、友親は母親が再婚。友親は母親の幸せのため仲の良い家族関係を作らなければと心を砕くのですが、義姉となった
斎木涼から嘘っぽさを非難され続けています。

離婚、再婚といった事情によって誕生する新しい家族関係。どう折り合って新しい家族になるかというストーリィはもはや珍しいものではありませんが、それと逆に、子として新しい家族からドロップアウトしたいという願望もあって不思議ないことなのでしょう。

根底にあるテーマは<家族>でながら、表面的には美大生たちの青春ストーリィであることから、惹きつけられます。

でも「ヨシキ」に関わる部分については、いくら小説とはいえ作り事めいている印象を拭い切れません。他の美大生たちが個性的で現実感があるだけに、なおのことそう感じられるように思います。

彼らはみな大学生、人生はまだまだこれからです。家族のためでなく、まず自分の為に生きればいい。そう声を掛けてあげたくなる青春ストーリィ。


1.うちのアパート、風呂なしじゃん/2.まるで自分の血の流れる音のように/3.代わりに先輩が空から降ってきました/4.私がどこかに行っちゃうのが先でしょうしね/5.世界のスピードに置いて行かれた/6.掌に散ったこの緑色を/7.毎日毎日毎日毎日、よーくわかってるよ

                         

5.

「潮風エスケープ ★☆


潮風エスケープ

2017年07月
中央公論新社

(1400円+税)



2017/08/18



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主人公の多和田深冬は、紫峰大学付属高校の2年生。思いを寄せる紫峰大生の潮田優弥を狙って、彼の所属する江原ゼミの活動に参加しています(大学・付属高校の連携活動らしい)。
夏休み、同ゼミは優弥の生まれ故郷である離島“
潮見島”で合宿し、12年毎に行われるという島伝統の“潮祭”を見物することになります。もちろん、深冬も参加。

潮祭の主役は“神女”。そしてその神女となる条件は、まだ一度も島から出たことがない13〜17歳の少女であること。そして今回その神女になるのは、中学3年生だという
汐谷柑奈
自分も大規模農家の一人っ子で両親から実家の農業を継ぐよう事あるごとに押し付けられている深冬は、何の反抗もせずしきたりにしたがっている柑奈に反感を覚えずにはいられません。そんな深冬に対し、柑奈もまた敵愾心を抱いている様子。

束縛されるのを嫌い故郷を飛び出して寮生活を送る深冬と、故郷のためと甘んじて束縛を受け入れている柑奈という対照的な2人に加え、東京に一度出たものの今は島に戻って離島留学センター活動をしている
内間憲や優弥、そして柑奈の姉であるらの年長の男女も加わって、過疎化する島を故郷にもつ彼らの複雑な思いや迷いが語られていきます。
離島の伝統祭りを背景にした、そうした若い世代の揺れる思いを描く青春ストーリィ。

両親も含めて東京生まれの東京育ちという私には無縁の世界ですが、最初から自分の運命を定められてしまったら、その閉塞感はさぞ強いことだろうなぁと思います。
出会った最初はお互いに敵意を抱き合っていた深冬と柑奈が、いつしか2人揃って冒険行動に出るという展開は、嬉しいものがあります。
一方、押し付ける側の大人たち、押し付けられる側の若者たち、と単純に2極化したような展開には、少々物足りなさあり。


1.私を捕まえられない/2.神様の島なんだよ/3.今更、何しに戻ってきたんだよ/4.俺のこと恨んでるだろ/5.あなたの傷は優しいものじゃなかった/6.どうして、今頃言うの/7.死んだらごめん/8.どんなにたくさんの帰る家ができたって

                       

6.

「ウズタマ uzutama ★★


ウズタマ

2017年11月
小学館刊

(1400円+税)



2018/01/20



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28歳の会社員である松宮周作は、シングルマザーの紫織と結婚の約束をしている。しかし、紫織の幼い娘=真結ともう一つ打ち解けられず、新たな家庭を作ることに自信が持てずにいる。
そんな時、父親の
将彦が脳梗塞で倒れて入院し結婚が延びたことに、むしろ周作はほっとしている。

その父親の将彦が、結婚を報告した際に周作へ渡した多額の預金通帳、誰が周作の為に長年にわたってお金を貯めていてくれたのか、父親が意識不明となった状況では聞き出しようもない。
幼い頃に母親は死んだと聞かされ、ずっと父子2人だけの家族だけでしたが、ふと、自分たちの家族のことを何も知らないままでいたことに周作は気づきます。
それから、自分たち家族の過去について周作は調べ始めますが、その結果判った事実は、自分たち父子が25年前に起きた、ある傷害致死事件の被害者家族であったこと・・・。

幼い3歳の頃、自分には家族同然の大切な人がいた。
その人を探し求めるのは、周作にとって失った“家族”を取り戻すことと同じこと。
そしてそれは、紫織と真結という2人と新たな家族を作ることに通じるものだった。
過去、そして今後に向けての、周作の新たな“家族”探しのストーリィ。

伝統的な家族以外に、様々な形の“家族”が生まれているだろう現在だからこそ、周作の不安も寂寥感も、そして懸命になる気持ちも、分かるような気がします。
改めて家族という関係、どこからその関係が生まれるのか、そしてその大切さを感じさせてくれる作品になっています。

周作、紫織と真結、そしてもう一人、新たに家族として結びついた4人の今後に、嬉しい気持ちで「幸あれ」という言葉を贈ります。

※なお、題名の「ウズタマ」とは、うずら卵のこと。

序.悪魔が彼の耳で囁いた/1.今度こそ涙を流してしまう/2.自分ではない誰かの、声がほしい/3.謝らないといけないんだ/4.俺に復讐しに来たか?/5.ウズラの卵は、ないからな/6.血と水が入り混じった時間/終章.なんとなく、わかるでしょ

                

7.
「完パケ! ★☆


完パケ!

2018年02月
講談社刊

(1400円+税)



2018/03/21



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題名の「完パケ」とは、映像などの編集がすべて完了し、放送できる状態に至っていること、「完全パッケージメディア」の略、とのことです。

本作の主人公は、
安原槙人北川賢治。入学生減少、経営難から閉校の噂が絶えない武蔵映像大学(ムサエイ)の4年、共に将来の映画監督を目指していますが、育った境遇・性格とも対照的な2人です。
最終学年となった2人、卒業制作映画(ノンフィクション部門)の学内コンペで競いますが、選ばれたのは安原の応募作
「終わりのレイン」
選ばれた直後に安原は、北川にプロデューサーになってくれと依頼。即諾した北川が有力メンバーを集め、自主再作映画「終わりのレイン」制作に向けて“安原組”がスタートします。

そこからは、少しでも完成度の高い映画を作ろうと、安原組のスタッフとなった学生たちや、主役を演じる若手俳優、ヒロインに抜擢された素人女子学生を加えての熱いドラマが展開されていきます。
その中でも、とんでもなく容赦ないのは、監督である安原。その安原を全力で北川がサポートしていきます。

極限まで、まるで果し合いのような映画作りの現場に、安原母子の感動的なドラマが合わさって、胸熱くなるのを抑えきれなくなるのも度々のこと。
しかし、読み終わってみれば、映画作りを舞台に設定した、熱い青春ストーリィの一つに過ぎない、という読後感。


1.ムサエイの意地って奴を/2.あの監督の現場に入るのは怖い/3.僕は映画の世界になんて行けない

                

8.
「風に恋う(こう) ★★☆


風に恋う

2018年07月
角川書店刊

(1600円+税)



2018/08/07



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7年前、全国大会で連続金賞受賞という実績を残した千間学院高校吹奏楽部も、今や当時の面影はまるでない。
当時の同校吹奏楽部の演奏に魅了されて吹奏楽を始めたのが、
茶園基(ちゃえんもとき)鳴神玲於奈という幼馴染の2人。

その基、中学3年間吹奏楽部で頑張って来たものの、結局一度も全国大会へ進めず。千間学院に入学したものの現在の状況を知る基は、玲於奈が3年・部長になっているとはいえ、もう吹奏楽を続ける気持ちはない。
そんな基の気持ちを一転させたのは、栄光時に部長だった
不破瑛太郎が臨時のコーチを務めることになったと聞いたことから。
その瑛太郎、緊張感の欠片もなくぬるま湯に浸ったような現吹奏楽部にいきなりショックを与えます。
それは、玲於奈に替え、一年生である基を部長に指名したこと。
その時から、吹奏楽部の再生ドラマが始まります。

当然ながら、1年生が部長では、2年・3年生の気持ちが平穏である訳がありません。
それなのに何故瑛太郎は基を部長に指名したのか。
一方、瑛太郎自身にも、学習塾の講師を辞めてから、フリーターに近い状況にあり、何らかの挫折を抱えている様子。
ストーリィは、共に吹奏楽に全身全霊を注ぎ込もうとする、かつて注ぎ込んできた基と瑛太郎という2人を軸にして進展していきます。

もちろん上記2人だけがドラマを作るのではなく、玲於奈を始め他の吹奏楽部員たち、一人一人のドラマも描かれます。
そこはまさに、高校部活もの青春ストーリィに他なりません。
ただし、単純な部活ストーリィにならなかった理由は、部活の一方で大学受験という重荷を背負っている状況も描かれているからです。

部活もいいけれど、塾での勉強、大学受験の方がもっと大切という教師や親たちの存在。
そんなことは本人たちも判ってはいるのですけれど、その一方で後に悔いを残さないよう部活に全力を尽くしたい、全国大会へ行きたい、仲間に負けたくないという気持ちも強くあり、まさにジレンマと言う他ありません。

そんな皆の思いがエネルギッシュに高まっていき、まさに爆発せんとするかのようなストーリィ。
高校生たちの様々な揺れ動く気持ち、ひたむきさ、緊迫感、部員たち同士の相克に満ち満ちていて、読み応え、感動、爽快さともたっぷりです。 お薦め!


序章.凍てつく夜に「夢やぶれて」/1.追憶と「二つの交響的断章」/2.オー・マイ・「スケルツァンド」!/3.僕達は「汐風のマーチ」になりたかった/4.「風を見つめる者」は愛を歌う/Coda.風に恋う

             

9.
「イシイカナコが笑うなら --


イシイカナコが笑うなら

2019年03月
角川書店刊

(1500円+税)

2019/03/--

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       近日中に読書予定








プロローグ:爽やか教師は遅れてやって来る/1.イシイカナコはやり直す/2.塩原雪乃は告白する/3.細谷宏一は甘酸っぱい/4.菅野京平は痛感する/5.石井加奈子はもういない/6.イシイカナコが笑うなら/エピローグ:「ねえ、せんせ」

  


   

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