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1.快晴フライング(文庫改題:銀色のマーメイド) 2.十六夜荘ノート 3.風の向こうへ駆け抜けろ 4.痛みの道標(文庫改題:赤道 星降る夜) 5.マカン・マラン−二十三時の夜食カフェ− 6.花舞う里 7.フラダン 8.女王さまの夜食カフェ−マカン・マラン ふたたび− 9.蒼のファンファーレ 10.きまぐれな夜食カフェ−マカン・マラン みたび− |
キネマトグラフィカ、さよならの夜食カフェ、アネモネの姉妹 リコリスの兄弟、鐘を鳴らす子供たち、お誕生会クロニクル、最高のアフタヌーンティーの作り方、星影さやかに、二十一時の渋谷で、百年の子 |
東京ハイダウェイ、最高のウェディングケーキの作り方 |
1. | |
●「快晴フライング」● ★★ ポプラ社小説大賞特別賞 |
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2013年04月 2018年09月
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水泳部の主将だった月島タケルが突然事故死して以来、水泳部はバラバラ、中心選手たちが揃って退部し、水泳部は存続の危機に至ります。 タケルと幼馴染で、幼い頃から一緒にスイミングスクールへ通っていた仲の上野龍一と岩崎敦子は、何とか部を存続させようと心を砕きますが、かろうじて残った部員といえば息継ぎのできない奴に、水中歩行専門部員等々で、龍一は頭を抱えるばかり。 そのうえ、顧問の教師から部存続の条件として突き付けられたのは、大会に出場してメドレーリレーで優勝する、というもの。 さあ、弓が丘第一中学校の水泳部はどうなる!? というストーリィ。 自分さえ速く泳げればそれでいいと、自己完結型、他の部員のことなどまるで気にしたこともなかった龍一、主将としての苦労に、部を放り出したくなったのは、何度あったことか。 しかし、ダメダメ部員たちと付き合う内、いつしか龍一自身も人間的に大きく成長していくことになります。 もちろん、それはダメダメ部員たち側でも同じこと。 しかし、それだけなら平凡な、学園スポーツ+青春・成長物語に留まって終わり、というところなのですが、それを一変させているのが雪村襟香という生徒の存在。 誰もが目を見張る美少女ながら、他の生徒と一切口を利かず、クラスで完全に孤立している女生徒。驚いたことにその雪村、完璧なスイミングフォーム、男子顔負けのスピード。 さて、窮地の一中水泳部、襟香とどう関わっていくのか。 ストーリィ展開に甘いところもありますが、一方では極めて清新な、学園スポーツ+青春ストーリィ。 思わずニヤリとしたくなるくらい、気持ちの良い作品です。 |
2. | |
●「十六夜荘ノート(いざよいそう)」● ★★☆ |
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2017年09月
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マーケティング会社でトップ昇進、29歳の若さでグループ長の職についた大崎雄哉が本書の主人公。 雄哉を主人公とする現在の章と、未だ若い男爵家令嬢だった頃の大伯母=笠原玉青(たまお)を主人公とする章を交互に置きつつ、玉青が生き抜いた戦後の軌跡、そして雄哉がこれからの道をどう選ぶかを描いた新生ストーリィ。 |
3. | |
「風の向こうへ駆け抜けろ」 ★★☆ |
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2017年07月
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地方競馬の新人女性騎手=芦原瑞穂を主人公とする、人と馬が一体となって躍動する爽快ストーリィ。 那須塩原の地方競馬教養センターを卒業した瑞穂が望まれて所属したのは、広島県にある鈴田競馬場、緑川厩舎。しかしそこは、やる気のない調教師=緑川光司と、年老い、あるいはアル中等々問題のある厩務員ばかりの厩舎だった。 個人的には競馬そのものに余り興味はありませんが、人と馬が一体になって躍動、疾走するストーリィには人を惹き付けて止まないものがあります。 女性騎手だからという差別、欲が絡む故に生じる醜い人間像。それらを撥ね退けて、人と馬が一体となっての躍動感、空を駆けるかのような疾走感が本書の堪えられない魅力です。お薦め! |
「痛みの道標(みちしるべ)」 ★★ (文庫改題:赤道 星降る夜) |
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2018年08月
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ブラック企業に勤める八重樫達希は、上司の命令による架空売り上げ計上、その穴を補填するのサラ金借金漬け、さらに会社の粉飾決算の罪まで負わされそうになって衝動的に会社ビルの屋上から飛び降り自殺を図ります。 その達希を救ってくれたのは、何と15年前に死んだ祖父の勉。 その祖父の交換条件と言っても良い依頼で達希は、祖父が探し出して会いたいという女性=石野紀代子を訪ね、祖父の幽霊と共にボルネオに向かいます。 そのボルネオは、祖父が志願し少年兵として赴いた地。その地で勉は、現地の住民たちの賢明さに魅了され親しみますが、やがて過酷な体験をすることに。それは敗戦濃厚になっての窮状ではなく、親切であった現地の人を裏切らざるを得ないよう上官の命として強制されたこと。 その旅で達希は、いい加減な人物と自分が思い、周囲からもそう思われていた祖父が抱えていた辛い過去と、それを償おうとして懸命に生きていた事実を知ることになります。 現代のブラック企業に勤める達希と、戦地に赴任した祖父が経験した過酷な思いには共通するところがあります。当時の日本軍を現代のブラック企業に照らし合わせたところは真に慧眼。 祖父は拭い切れない後悔を抱えることになりましたが、達希にはまだやり直せる余地がある。 祖父との辛い旅は、達希の再生ストーリィにも通じます。 本作品の魅力は、登場人物の魅力にも支えられています。 現代のボルネオ現地で達希が知り合った、見える筈がないものが見えてしまうという辛さを抱えた少女の雪音、中年バックパッカーの桂木真一郎、勉が知り合った佐藤武弘とその妻のヘイレン等々。 いつの世にも自分の我欲、自分の都合で他人に暴力を振るい、他人にも自分と同じような行動を強制してくる輩はいるもの。相手が強者だからといえ、決してそれに負けてしまってはいけないのだということを心から感じます。 プロローグ 第1章:東京/ボルネオ=カリマンタン/石油の街/東の州都/マハカム川/サマリンダ街道/西の州都/赤道標 第2章:昭和17年/昭和18年/昭和19年 第3章:鎮魂の丘/再会/追憶−昭和19年夏/昭和20年/終戦−昭和20年夏/慰霊祭 エピローグ |
「マカン・マラン MAKAN MALAM −二十三時の夜食カフェ−」 ★★☆ | |
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商店街の路地の奥に古い一軒家がある。それがマカン・マラン、深夜しか営業しない隠れ家カフェ。 インドネシア語で「マカン」は食事、「マラン」は夜の意。 その店のオーナーは女装した大男のシャール、オカマではなくドラァグクイーンなのだと言う。 悩みを抱えた人たちが偶然に、あるいは様々な理由でその店を訪れたときから、主人公たちにとって新たな時が刻み出す。そんな連作風作品。 「真夜中のパン屋さん」等々、似たような設定のストーリィは幾つもあるように思いますが、その中でも本書は抜群。 とにかく、現代社会の重みに身も心も疲れ果てている客たちにシャールが供してくれる料理が、何とも身体と心に優しそうでしかもとびきり美味しそうなのです。 そしてシャールはそんな客たちに、今までの頑張りは間違いではなかった、でももっと自分を大事にしていい筈と、親身に諭してくれるのです。 そのおかげで彼らは、新しい一歩を踏み出すことができる、という連作ストーリィ。 食事を大切にする、身体を大切にするということは、ひいては自分を大切にする、ということなのですね。 どの篇も実がぎっしり詰まっているという風で、読み応え、リアル感、納得感とも充分。 連作小説の一部に過ぎないというのに、各篇ドラマのこの読み応えは嬉しい。 中心となるシャールの他、各篇の主人公たち、そして常連客たちも登場人物の誰もが生き生きとして個性的、魅力的です。 本書を読み逃したら勿体ない事請け合いです。お薦め! ※シャールが次々に繰り出す身体に良さそうな料理の数々、是非食べてみたいですよねぇ。 1.春のキャセロール/2.金のお米パン/3.世界で一番女王なサラダ/4.大晦日のアドベントスープ |
「花舞う里」 ★★ | |
2021年03月
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親友を殺してしまったという罪の意識を抱えてしまった中2生の杉本潤は、東京から母親の故郷である愛知県奥三河の澄川に引っ越してきます。 転校した中学校は小学校を併設、そして同じ中2の生徒は僅か3人という小さな集落でしたが、澄川は“花祭り”という伝統芸能を伝える由緒ある土地。 同級生の岡崎周と相川康男は、潤が転入したおかげで澄中生3人で“三つ舞”が舞えると大歓迎でしたが、罪人である自分が神事の舞い手になれる訳がないと否定的。そしてもう一人に同級生である神谷葵は、潤だけでなく周や康男に対しても冷ややか。 やがて潤は、辛い思いを抱えているのが自分だけではないこと、だからこそ神事である花祭りにかける各々の思いがあることを知り・・・・。 主としては潤の再生を描く少年ストーリィなのですが、それに留まらず、様々に辛い思いを抱えた人々の祈るような姿とその救済を描いたストーリィ。 本書においてその具体的な核となるのが、地元の神事である伝統芸能“花祭り”における幾つもの舞いであることは、疑いようもありません。 再生、成長だけの物語であれば特段珍しいというものではありませんが、本作品については“花祭り”と絡ませたところが秀逸。とくに終盤で描かれる花祭り、舞いの光景は、読むだけでも圧巻です。 清々しく爽快感ある再生ストーリィ、お薦めです。 ※家族の再生ストーリィを伝統芸能(相撲)に絡ませて描いた作品に川上健一「渾身」があります。こちらも爽快感ある作品でした。 |
「フラダン」 ★★ JBBY賞 | |
2020年03月
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福島県立阿田工業高校、主人公の辻本穣(ゆたか)は部の中心になった同級生の態度が気に入らず、水泳部を退部したばかり。 それを待っていたかの如く穣に強引なアプローチしてきたのが、澤田詩織。前から穣の体に目を付けていた、ついてはフラダンス愛好会に入ってくれ、男子が加わればフラダンスの演目にヴァリエーションが増えるからと。 詩織から逃げ回る穣でしたが、シンガポールからの転校生=柚木宙彦に引きずり込まれ、さらに同級生の林マヤの信頼のこもった視線に負け、ついに入部を応諾。 別途入部した1年男子2人と共に、女子8人+男子4人=計12人となったフラ愛好会“アーヌエヌエ・オハナ”は、全国の高校チームが参加する“フラガールズ甲子園”を目指して特訓が始まります。 ※アーヌエヌエ・オハナとは、家族の様な仲間という意味の由。 高校青春ストーリイに、“フラ男子”という興味&面白さを掛け合わせたのが本書の魅力。 ただ本書は、単純に青春ストーリィとだけ言っていられない要素を含んでいます。それは、福島原発事故問題。 被災地住民と一口に言っても、地域・人によって被災の程度は様々。だからこそ軽々に自分の状況を口にできないという葛藤、悩みをそれぞれが抱えています。 そしてそれは、フラ愛好会にも影を落とします。 本作は高校生向きの作品。でも、フラ男子の面白さと、被災住民たちの間に入り込んでこそわかる問題の根深さに触れられるという面では、大人にとっても充分読み応えがあります。 プロローグ/1.危ないストーカー/2.シンガポールからきた男/3.アーヌエヌエ・オハナ/4.オテア/5.風/6.フラ男子レビュー/7.ニュース/8.仮設訪問/9.新メンバー/10.亀裂/11.過去/12.それぞれの思い/13.フラガールズ甲子園/エピローグ |
「女王さまの夜食カフェ−マカン・マラン ふたたび−」 ★★ |
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女王のイケメン大男、“ドラァグクイーン“を自称するシャールが営む路地裏の夜食カフェ、「マカン・マラン」第2弾。 嬉しいですねー、「マカン・マラン」が再び読めるなんて。是非古内さんにはシリーズ化してもらいたい処です。 第2弾は、シャール(本名:御厨清澄)が癌の手術を受けて再びマカン・マランに戻ってくる時からのストーリィ。 ・「蒸しケーキのトライフル」:派遣社員として働く西村真奈、職場のお局から「(どうでも)いい人」と言われてもそれを否定できないくらい、自分に自信を持てないでいる27歳。キジトラ猫に誘われるようにしてマカン・マランの前に。 ・「梅雨の晴れ間の竜田揚げ」:漫画家志望だが何かが足りないと評される藤森裕紀、28歳。老舗旅館を継いだ優秀な兄が急死して旅館の跡継ぎを叔父から強要されるが・・・。ふと美味しそうな匂いに誘われ・・・。 ・「秋の夜長のトルコライス」:子育て中の専業主婦、伊吹未央が主人公。自分は懸命にやっているのに息子の圭は思うままにならない。ついに怒りを爆発させてしまった未央、圭が駆け込んだかもしれないダンスファッションの店へ・・・。 ・「冬至の七種うどん」:シャールの元中学同級生で現在は教員の柳田敏、高2の娘=真紀がイルカとイケメン調教師に魅せられ文系から突然理系に志望を変えたいと言い出したことに反対。当然の如く娘との間が険悪になり・・・。 それぞれに迷いや悲嘆を抱えこんでどうにもならなくなった時、ふと出会ったマカン・マラン、シャールが差し出す身体にも心にも良さそうな美味しそうな料理と、優しい言葉に救われ、自分を取り戻すの道を見い出すという連作ストーリィ。 料理や言葉に象徴されるシャールの深い思いやりが、本作の温かな魅力です。 そして、一度シャールと触れ合うや皆が皆、マカン・マランが織り出す仲間の一人に加わっていくという辺りが実に楽しい。 乞う! 続刊。 1.蒸しケーキのトライフル/2.梅雨の晴れ間の竜田揚げ/3.秋の夜長のトルコライス/4.冬至の七種うどん |
「蒼のファンファーレ Blue fanfare」 ★★ |
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2021年12月
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地方競馬、その小さな厩舎を舞台に、女性騎手の芦原瑞穂と奇怪な容貌をもつ競走馬=フィッシュアイズがコンビを組んで疾走した「風の向こうへ駆け抜けろ」の続編。 中央競馬G1の桜花賞に挑んだものの惨敗した、その翌年のストーリィ。 それなりの実績を残しているにもかかわらず、女性騎手だからと観客や競馬関係者から罵詈雑言を浴びる状況は相変わらず。 そんな状況下、イケメン風水師だという馬主から何故か、超良血馬であるティエレンが緑川厩舎に託されます。しかも、瑞穂が調教してフィッシュアイズに勝って欲しいという注文付き。 当然ながらフィッシュアイズと瑞穂の関係は一体どうなるの?と心配になります。 一方、話題作りか、鈴田競馬場で女性騎手を集めての“全日本女性ジョッキー招待競走アマテラス杯”の開催が決まります。 次々と瑞穂、そしてフィッシュアイズに試練が襲い掛かります。 それは彼らだけでなく、失語症の厩務員である木崎誠にも通じること。 幾多の試練を乗り越えて、緑川厩舎の仲間たちが一体となって彼らを押し上げていくというストーリィ。 瑞穂だけの頑張りだけではない、フィッシュアイズだけの奮闘ではない、また木崎誠だけでできることでもない・・・・仲間たちが心をひとつに合わせたからこそ、奇跡は起きるのか。 レースでのライバルたちとの息詰まるせめぎ合い、それと対照的な馬と一体になった疾走感、躍動感に溢れた面白さは、前作に引けを取りません。 それらに加えて本書では、長く孤独な戦いを続けてきた先輩女性騎手の二階堂冴香、緑川光司の実母である美津子らの登場も見逃せません。 どうぞ本作の快感を味わってみてください。お薦め! プロローグ/1.厩舎/2.予言/3.新馬/4.予兆/5.食卓/6.電話/7.麗人/8.会見/9.血統/10.過去/11.自覚/12.牽制/13.不在/14.誓い/15.落涙/16.京都/17.岐路/18.誘い/19.伏兵/20.中京/21.発生/22.GI/23.好敵/エピローグ |
「きまぐれな夜食カフェ−マカン・マラン みたび−」 ★★ |
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毎年11月刊行が恒例になった観のある、“マカン・マラン”シリーズ第3弾。 年末に、今年もこうしてシャールたち気の置けない、楽しそうな仲間たちの出会えるのは、とても嬉しいことです。 ・「妬みの苺シロップ」 小〜中学校とイジメの対象になっていた弓月綾は、現在コールセンターで働く契約社員。唯一の発散は、ネット上であちこちの人気店を酷評すること。しかし、綾自身の現在生活は何も解決されず・・・・。 ・「藪入りのジュンサイ冷や麦」 一流の料理人を目指しながら、現在は自律神経失調症を病み味覚が分からなくなっている香坂省吾。どこで選択を誤ったのか。そんな省吾を特約記者という安武さくらが、マカン・マランへと省吾を導きます・・・。 ・「風と火のスープカレー」 主人公の中園燿子はもうすぐ47歳、ウォーターフロントの高層マンションで何不自由ない暮らし。しかし、14年前に結婚した夫は浮気三昧、ついに離婚を切り出します。それどころか円満離婚を脚色しようと、燿子に離婚式を提案してきますが・・・。 ・「クリスマスのタルト・タタン」 主人公は、アパートに住む独居老人、実はマカン・マランの地権者という瀬山比佐子が主人公。70歳を過ぎてから知り合った友人たちのおかげで、夜がとても楽しい。今後を考え、自分史を書き出すのですが・・・・。 悩みを抱え、そこから抜け出せないでいた主人公たちが、マカン・マランに出遭い、ドラァグクイーンのシャールが差し出す料理をきっかけに、自分のために新たな一歩を踏み出すという連作ストーリィ。 わいわいとした仲間たちによる楽しそうなざわめき、栄養たっぷりで美味しそうな料理、これらが揃えば楽しくない筈がない、というのが本シリーズの魅力。 ※「風と火のスープカレー」に登場する燿子は、かつてシャールこと御厨清澄と、ニューヨーク支社での同僚だったとのこと。 まだ知られていなかった御厨の一面が知れるという点で、見逃せない一篇です。 1.妬みの苺シロップ/2.藪入りのジュンサイ冷や麦/3.風と火のスープカレー/4.クリスマスのタルト・タタン |
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