楡 周平作品のページ No.2



11.国士

12.バルス


【作家歴】、再生巨流、ラストワンマイル、プラチナタウン、虚空の冠、「いいね!」が社会を破壊する、砂の王宮、和僑、ラストフロンティア、ドッグファイト、ぷろぼの

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11.

「国 士(こくし) ★★


国士

2017年08月
祥伝社刊

(1600円+税)



2017/09/04



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集団就職で務めた町工場が25歳の時に倒産。その後カレー店を夫婦で開業、苦労の末一代でカレー専門店チェーン“イカリ屋”を年商 400億円の一部上場企業まで育て上げた篠原悟・74歳
もうこれ以上国内での発展は見込めない、海外進出を目指すべきという社内の意見に耳を傾けます。しかし、それには高齢で何の経験もない自分には無理と、外資系ハンバーガーチェーンを好業績に導いた
“プロの経営者”である相場譲・50歳をスカウト、自社のこれからの発展を相場に託します。
しかし、相場が取った経営戦略は、確かに業績だけに目を留めるのなら合理的なものかもしれませんが・・・・。

本ストーリィで描かれるものは、フランチャイズ・オーナーと手を携えて皆を幸せにするため事業を大きくしてきた創業者である経営者と、米国的な合理性と業績数字を第一にする“プロの経営者”との比較、対立です。

上記対立は本ストーリィだけのことではありません。今や、日本中にゴロゴロしている話であると思うのです。
確かに大企業の経営体質や利益率は高まり、投資家の期待に応えられるようになったのかもしれませんが、かつて“ジャパン・アズ・ナンバーワン”と言われた日本株式会社はどうなったのか、ひとりひとりの日本人の幸せ度は高まったのか。残念ながら企業業績と逆比例しているとしか思えません。
そもそも“プロの経営者”とは何ぞや。むしろ胡散臭いものに聞こえます。何の理念もなく、ただ数字だけに走るのであれば、それはもう真の経営者とは言えず、単なる数字請負人と言うべきでしょう。

そうした中で大事にすべきものは、篠原悟の経営者としての思いではないか。また、本書にも登場する
プラチナタウン」〜「和僑」山崎哲郎の発想ではないか、と強く感じる次第。

     

12.

「バルス ★★


バルス

2018年04月
講談社刊

(1650円+税)



2018/06/03



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かつてラストワンマイルでネット通販会社と運送会社の対決を描き、最後に勝者となるものは物流を手にしたものである、と唱えたのが楡周平さん。
本作は再びネット通販会社と物流の関係を描いた長編ですが、単なる企業同士の闘いに留まらず、日本社会の現在の有り様、そしてこれからの日本社会の進む道を訴えた力作です。

本ストーリィでは、現在の日本社会が抱えた大きな闇、病巣といった問題点を洗いざらい描き出した、と言って良いのではないでしょうか。
まず登場する主人公の一人は、有名私立大学の学生ながら、大企業ばかりを狙って結局どこからも内定を取れず、就活浪人(留年)を決めた
百瀬陽一
就活が始まるまでの間、
外資系ネット通販会社<スロット>の本・CDを扱う集中センターで派遣社員として働きますが、分刻みで効率的な作業を求められる過酷な職場、そうした職場で働くしかない立場に置かれた人たちの姿を知ります。

その後いろいろあって陽一がスロットを辞めた後、物流の隙をついたようなテロ事件が次々と日本各地で起こり、物流が滞ることによってあらゆるビジネス、労働に影響が広がっていく・・・。

ネット通販を利用したときに宅配料が無料というケースが結構あります。物流には多大な経費が掛かるはず。それなのに無料というのなら、その負担はどこが担っているのか。
正規社員が減り、派遣労働者が増えている現在、彼らは将来に希望を持つことができるのか。むしろ不安に苛まれているのではないか。
大企業に就職すれば一生が保証されるのか。事業縮小、リストラはないのか。いざその時、新たな職場を見つけることができるのか。

かつてエズラ・ヴォーゲルが
「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を著した時から、日本のビジネス社会で何を良しとするか、その評価基準は逆転と言っていいくらいすっかり変わってしまったと思います。
ある面では確かに正しいと言える部分もあります。しかし、何もかも欧米流にすることは、多くの人にとっての幸せに繋がるのだろうか、というのはかねてから疑問に思って来たことです。

その結果、今どういう現実があるのか。
本作ストーリィ、登場人物たちの語りによって、その現実がリアルに描き出されます。
しかし、それをどうしたら改善できるのか。
リアルな現実を巡るサスペンスという興奮と、政治と企業の身勝手さに対して鋭く問題提起した力作。お薦めです。


序章.お祈りメール/1.派遣労働/2.絶望の淵で/3.祭り/4.週刊近代/5.手紙/6.接点/終章.バルス

       

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