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1969年千葉県生、早稲田大学人間科学部卒出版社勤務を経てフリー。2006年「ラストサムライ・片目のチャンピオン武田幸三」にて第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。07年「海を抱いたビー玉」にて作家デビュー。 |
2.虹の岬の喫茶店 3.ミーコの宝箱 4.ヒカルの卵 7.青い孤島 9.ロールキャベツ 10.さやかの寿司 |
桜が散っても |
1. | |
●「青森ドロップキッカーズ」● ★★ |
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2014年01月
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青森が舞台、そして題材は氷上のスポーツ=カーリング。 主人公は、競技会での優勝を目指す柚香(ゆうか)・陽香(はるか)の沢井姉妹と、学校で執拗なイジメにあっている中学生=苗場宏海(ひろみ)+その幼馴染である工藤雄大。 勝ち負けに主眼を置いた勝負ストーリィではなく、カーリングという競技を通して未来への希望をつかみ取り、そのカーリング精神を知ることによって成長していく4人の姿を描く、青春+成長ストーリィ。 |
2. | |
●「虹の岬の喫茶店」● ★ |
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2013年11月
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岬の突端にある喫茶店、岬カフェ。 妻を病気で亡くしたばかりの陶芸家と4歳の娘、就職活動に心が疲れ切った青年、事業に失敗して家庭も仕事も全て失って泥棒に入った中年男等々、その店を訪れるのは疲れた心を抱える人ばかり。 思いがけない場所、窓からは美しい眺望、そこに美味しいコーヒーと、耳に気持ちの良いBGM。 気持ちの良いストーリィ。でもあっさりし過ぎているところもあって、余韻が少ないように感じます。そこが惜しまれる点。 <春>アメイジング・グレイス/<夏>ガールズ・オン・ザ・ビーチ/<秋>ザ・プレイヤー/<冬>ラヴ・ミー・テンダー/<春>サンキュー・フォー・ザ・ミュージック/<夏>岬の風と波の音 |
3. | |
「ミーコの宝箱」 ★★☆ |
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2016年03月
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主人公ミーコは生まれて直ぐ両親に見捨てられ、父方の祖父母に育てられた女性。彼女が祖父から教えられずっと守ってきたことは、毎日「小さな宝物」を探すこと。 祖父は優しかったものの、祖母の躾けの厳しさは虐待といってもおかしくないもの。そんな祖父母の元から一人で世間に出ていき、そしてシングルマザーとなったミーコの苦労は並大抵のものではなかったことでしょう。 毎日小さな宝物を探す、それはE・ポーター「少女パレアナ」の“何にでも喜びを見つけるゲーム”と似たところがあります。しかし、状況の厳しさと現実性は本作品の方がはるかに上回り、最後は胸が詰まるような感動を覚えます。 一人の女性の半生記であると当時に、ひとつひとつのストーリィでは学園小説、成長小説、青春小説、親子小説といった面も備えており、感動と共に面白さもたっぷりです。お薦め。 ミーコとナベちゃん/神原泰三とシリウス/下山久美とビー玉/井川奈々とアロマポット/浅利文也とマフラー/黒木竜介とハンチング/チーコと工芸茶 |
4. | |
「ヒカルの卵」 ★★ |
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限界集落のひとつ=蛍原集落で養鶏場を営む“ムーさん”こと村田二郎。 言うまでもなく本書、村おこし小説のひとつです。 本書中、幾つか良いセリフが登場しますが、その中の一つに「幸福と裕福は別のもの」という言葉があります。その言葉が実感として持てるのは、本書を読んでからでしょう。 1.卵ブーメラン/2.傷つかない心/3.ヒカルの卵/4.商売の神髄/5.魔法の醤油/6.真夏の転機/7.屈託なき笑顔/8.男と男の約束/9.ボーイ・ハント/10.エピローグ/あとがき |
5. | |
「たまちゃんのおつかい便」 ★★ |
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葉山珠美20歳、東京の大学に退学届を出し、故郷の青羽町に戻ってきます。 理由は、大好きな静子ばあちゃんをはじめ、買い物難民となったおばあちゃんたちのために“おつかい便”(=移動販売)を起業しようと決心したから。 珠美の母親は12歳の時に事故死、“居酒屋たなぼた”を営む父親は既にシャーリーンというフィリッピーナ39歳と再婚済。 そのシャーリーン、明るい性格で頑張り屋。しかし、日本人の感覚とちょっと違うその言動に、珠美はつい苛ついてしまうことが度々。 そんな3人の他に、母方の祖母=静子、珠美の幼馴染で実家の自動車整備業を継いでいる常田壮介、現在引きこもり中の同級生=松山真紀らが絡み合いながら展開していくストーリィ。 俯瞰してみると、これからいろいろなことに挑戦していこうとしている珠美や壮介、真紀の世代に、それなりに自分の人生を築き上げてきた父親やシャーリーンら親世代、人生の終盤に至っている静子婆ちゃんや千代子ばあたち老人世代と、世代と世代を繋ぐストーリィとなっているところが嬉しい。 皆、それぞれに悩みや不安を抱えているけれど、現在を精一杯生きているという思いがストーリィに充満しているように感じられます。 静子婆ちゃんも父親の正太郎もシャーリーンも、若い人たちに対する人生の先達として見事な人生観を示してくれます。 また本書中、もっとも魅力的な人物はというと、私は珠美の祖母である静子ばあちゃんを挙げたい。 ストーリィの終盤、帰宅する珠美を見送ってひとり残った静子ばあちゃんを描く情景が実にお見事。私自身もこうありたいもの、と心から思います。 軽快で、人と人の結びつきを大切に描いた、気持の良い長編ストーリィです。 1.血のつながり/2.ふろふき大根/3.涙雨に濡れちゃう/4.秘密の写真を見つけた/5.まだ、生きたい/6.かたつむり |
6. | |
「おいしくて泣くとき」 ★★ |
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きちんとした食事をとれない子供たちのために食事を無償で提供する“子ども飯”を題材としたストーリィ。 長編ストーリィですが、3人の主人公の視点から、同時並行で綴られていくという構成です。 一人は風間心也、中三。小三の時に母親を亡くしており、父親と2人暮らし。父親は「大衆食堂かざま」を営んでいて、子ども飯を提供しています。 もう一人は、新井夕花。心也とは幼馴染で同級生。学業優秀な女子ですが、同級女子たちからイジメに遭っていて孤独。義弟の幸太と共に時々「かざま」で子ども飯を食べています。 三人目の主人公は、ゆり子。「マスター」の夫と「カフェレストラン・ミナミ」を営んでおり、<子ども食堂サービス>を行っています。 心也と夕花の関係は分かりますが、ゆり子は2人と何か関係があるのかないのか。そこが興味処ですが、それは最後のお楽しみ。 怪我でサッカー部を退部した心也、イジメで孤立している夕花、共に放課後の時間を持て余していることから、夕花からの提案で「ひま部」を結成。 ただそれは、夕花が家に帰りたくないという事情があるから。3人の中で一番辛い状況にあるのは夕花であり、心也はその目撃者という立場です。 夏休み、夕花と心也は思い切った行動に出ます。それは・・・。 それぞれ辛い状況にあった主人公たち、でも最後は気持ち良い感動を覚えるストーリィに終わる、というパターンは森沢さん本来のものでしょう。 しかし、本作では<子ども飯>が重要なポイントだと思います。 そのサービスを行っている飲食店側の苦労、その一方で、そのサービスに救われている子供たちが多くいること。。 そうした現実を知らしめて、理解と協力を広く訴える、その意味は大きいと思います。 なお、結末が爽快。まさに私の好きな大団円です。 プロローグ/1.夏のトンボ/2.台風がくる/3.孤独のライオン/4.わたしのヒーロー/5.さよなら、そして・・・/エピローグ |
※映画化 →「おいしくて泣くとき」
7. | |
「青い孤島 Blue Isolated Island」 ★★☆ |
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勤務先で無能と決めつけられ、離島行を命じられた主人公。 派遣先は青く美しい海に囲まれた美景満載の島・・・でも他に何もなし。住民たった 199人のその島で繰り広げられる深刻な東西対立・・・。楽しみ処満載のお仕事&問題解決ストーリィ。 主人公は7年間務めてきた小さな広告・イベント制作会社で、社長から「使えない奴」と決めつけられ、助成金をかっさらって来いと離島に島流しされた小島佑(たすく)、30歳。 その小鬼ヶ島は、七丈島からフェリーで更に3時間。船を降り立ったのは、佑と船中で知り合った27歳の美女“るいるい”こと粟野留美(居酒屋で働く予定)の2人だけ。 さっそく佑、村長の息子ながら訳ありの枝野翔・22歳に案内され3日間、島を巡るのですが、とにかく圧倒されたのはオーシャンビューの美しさ。 一方、住民の少ないこの島で、西(漁業が主)と東(農業が主)で深刻な対立が長年に渡り続いていることを気づかされます。 その代表的な被害者が、翔とその恋人。まさに「ロミオとジュリエット」の世界です。 その島でついに、社長の強欲と佑の無能評価がバレてしまい、東西両陣営からはじき出されてしまった佑、るいるいが結成した<地球防衛軍>らと共に起死回生は成るのか!? 主人公の再生&離島の活性化策という点では加納朋子「二百十番館にようこそ」を思い出しますが、やはり別の物語。 前半は、観光案内されて島を巡る楽しさが味わえますし、後半では佑の起死回生をかけた逆転劇が楽しめるという構成。 ところが、計画とは全く別の方向へ事態が転がり出す、という展開へ。この部分ではもう、佑と読者が一体化してハラハラドキドキを満喫させられます。 愉快なのは、そのお告げはよく当たるという評判の小鬼ヶ島神社の“椿姫”という存在でしょう。中々に曲者です。 物語の面白さをたっぷり堪能できる 400頁余。 最後も締めも、驚きがあって痛快、そして爽快です。 ※離島には離島の良さがあり、という声が聴こえてきそうです。 1.泣きの西、笑いの東/2.地球防衛軍、結成/3.マジックショップ/4.人生はゲーム/5.心までイケメン/6.金色の天女/7.僕の気持ち、伝われ/8.宝の地図 |
8. | |
「本が紡いだ五つの奇跡」 ★★ |
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2024年03月
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出来上がっている本を鍵とする連作と思いきや、一つの小説本を作るところから始まるストーリィでした。 第1章は、自分に自信が持てていない女性編集者=津山奈緒が、かつて自分を救ってくれた小説と同じ方向の作品を書いてもらいたいと、拒絶姿勢の作家に立ち向かっていきます。 第2章は、ミステリ本で家族を養おうとしたが失敗し、離婚もされた小説家側。真正面からぶつかってくる津山に突き動かされ、ある思いを伝えるため、新しい作品に挑むことを決意します。 第3章は、出来上がった小説の装丁デザインを依頼された、今は大御所と呼ばれるデザイナー。実は余命僅か。新作小説に感動させられ、最後の仕事として受けることを決めます。 第4章は、売る側。大学生で書店バイトの白川心美が主人公。以前から気になっていた来店客の青年=唐田健太郎と、あることが切っ掛けで話すようになるのですが、さらにそれを深めてくれたのが、新作小説の中に登場する言葉。 第5章は、健太郎の父親である唐田一成。10年前に妻が死去、海辺の町で今は一人、美容院を続けています。その元に久しぶりに健太郎が返ってきます。息子がプレゼントしてくれた新作小説を気になっている女性に贈ろうとしたのですが、そこに何と奇跡的な出来事が。 それぞれの主人公たちに、新しい時間が動き出す始まりを描いたストーリィ。最終章の海辺の風がさらに心地良さを盛り上げてくれています。 そして楽しいのは、第1章から第3章における、担当編集者である津山と作家の涼元とのやりとり。読み返してもおかしい。 第4章と第5章は若者、そして中年男女の恋愛篇。爽やかです。 1.編集者−津山奈緒/2.小説家−涼元マサミ/3.ブックデザイナー−青山哲也/4.書店員−白川心美/5.読者−唐田一成 |
9. | |
「ロールキャベツ」 ★★☆ |
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2025年04月
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“チェアリング”をモチーフにした、大学生5人による青春起業小説と言ったら良いでしょうか。 さて、その“チェアリング”とは何か?というと、野外の好きな場所にアウトドアチェアを持ち出し、それに座ってゆったりと会話や飲食を楽しむアウトドアの遊びだそうです。 主人公となる夏川誠は、将来に何の夢も抱いていない大学生。 偶然、パン子こと王丸玲奈、上村風香という同学年女子と知り合った誠は、2人から誘われチェアリングを初体験。 さらに、シェアハウスで一緒に暮らす大学生仲間2人=ミリオンこと長沢智也、マスターこと奈良京太郎も仲間に誘い入れたことから、5人はチェアリング部を自称、他の人にもサービスを広げることになりますが、喫茶店のオーナーから唆されてビジネス化の道を踏み出すことになります。 チェアリングの話に終始するのかと思いきや、5人それぞれが抱えている悩みや難題が順次明らかになっていきます。 そして、それら問題を仲間たちで共有するようになる処から、互いに励まし合い、助け合うという展開へと進んでいきます。 一人で問題を抱え込んでいる限り、気持ちはどうしても暗くなってしまいがち。そんな時、君の思いや考えは間違っていないと励ましてくれる仲間たちが傍にいてくれたら、それはどんなに幸せなことでしょうか。 そして、5人それぞれの問題を持ち寄った処から、思わぬ局面が開けていきます。 本ストーリィ、都合よく行き過ぎ、という面は確かにあるでしょう。でも仲間たちで助け合い事態を打開して処は、チェアリングに負けず劣らず、すこぶる気持ち良い。そこが魅力! また、“起業”とはこうして楽しみながら行うことなのかと、改めて思う次第です。 気持ちの良い作品がお好きな方に、是非お薦め! プロローグ/1.青の世界/2.若草色のテーブルクロス/3.葡萄(えび)色の朝/4.鉛色の波/5.パイナップル色の夕空/6.ピンク色のTシャツ/7.金色の文字/8.ブルートパーズ色の海/エピローグ/あとがき |
10. | |
「さやかの寿司」 ★★ |
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海辺の街にある寿司店、<江戸前夕凪寿司>を舞台にした、そこに集まる人々の心の温かさをベースにした群像劇。 ひとりぼっちで苦しい時も、手を差し伸べてくれる人がちゃんといたら、どんなにか心が救われることか。 ただし、感動的な部分はもちろんあるのですが、それ以外に噴飯ものといったコメディ場面もふんだんにある処が愉快、たっぷり楽しめます。 特に第一章、さらに第三章が格別にコミカル、爆笑。 ふと、原宏一「間借り鮨まさよ」が思い浮かびましたが、同じ女性の寿司職人といっても、本作の職人=江戸川さやか(29歳)と雅代ではキャラクターもストーリー趣向も大きく異なります。 ただし、握られる寿司の美味しそうなことは、同じく堪能できるのではないでしょうか。 ・「ハンバーグの石」:家族も仕事もすべて失くした作田まひろ(22歳)、唯一の幸せな思い出だった夕凪寿司にやってくるのですが、とんでもない事態に追い込まれ・・・。 ・「自転車デート」:年増ギャルを伴った一見客の成金オヤジが夕凪寿司にやってきたと思ったら、やたら寿司の通を気取り、さやかの握る寿司についてあれこれ批判ばかり。呆れるのを通り越して、ついに常連客たちの怒りを買い・・・・。 さやかの祖父で元店主である伊助のキャラクターも実に良い。 「参ったなぁ」という一言が気持ち良く胸に残ります。 ・「親馬鹿とジジ馬鹿」:地元で代表的な建設会社を築いた金光社長、皆から慕われていますが、離婚して一人暮らしと、寂しい気持ちは拭えず・・・。 ・「ツンデレの涙」:夕凪寿司の従業員である遠山未來(22歳)、実はある事情を抱えていたのですが、新たな決断を迫られ、思い悩みます・・・。 1.ハンバーグの石/2.自転車デート/3.親馬鹿とジジ馬鹿/4.ツンデレの涙 |