有栖川有栖作品のページ


1959年大阪生、同志社大学法学部卒。書店勤務の傍ら89年「月光ゲーム」にて作家デビュー。その後作家専業となり、本格ミステリーの中核として幅広く活躍。2003年「マレー鉄道の謎」にて日本推理作家協会賞、08年「女王国の城」にて本格ミステリ大賞を受賞。


1.
幽霊刑事

2.有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー(アンソロジー)

3.作家小説

4.絶叫城殺人事件

5.虹果て村の秘密

 


 

1.

●「幽霊刑事」● 




2000年5月
講談社刊

(1800円+税)

2003年7月
講談社文庫化

 
2003/09/15

1998年9月20日、大阪万博記念ホール/万博記念公園内お祭り広場で行われた「熱血!日立 若者の王様Part9 推理トライアスロン」のために提供した推理劇「幽霊刑事」の原案を小説化した作品とのこと。

本書は、上司の刑事課長に呼び出され射殺された刑事・神崎達也が、成仏できず幽霊となって、自らの事件を捜査するというストーリィ。
幽霊となった分、それなりの能力を使えるかと思いきや、本書はそうはなりません。何も触れず、恋人だった女性刑事・森須磨子にさえ気付いて貰えない。唯一の例外は、恐山のイタコを祖母にもつ新米刑事・早川のみ、という不便さ。
その早川とコンビでの捜査活動となる訳ですが、もうひとつ緊迫性、迫真性に乏しい。むしろ、幽霊刑事ゆえのコミカルな推理ストーリィという印象です。

本格ミステリーと純愛ラブストーリィの協奏曲という帯文句ですが、その両方とも物足りずと言わざるを得ません。

     

2.

●「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」● ★★




2001年8月
角川文庫刊
(705円+税)

 

2001/10/08

久し振りに謎解きの面白さを味わった気がします。
ただ、ミステリの世界を楽しむには、それだけの心の準備が必要なようです。本書は「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」とペアで楽しむアンソロジーと言えますが、「北村薫」編がもうひとつ楽しめなかったのは、その心の準備が足りなかったからかもしれません。「有栖川」編は、「北村薫」編の後だからこそ楽しむ事ができたとも言えます。
本書収録作品は、どれも本格的な謎解きストーリィ。
“読者への挑戦”はクィーン同様の面白さがありますし、“トリックの驚き”はまさに究極のトリックと言いたい。また、“線路の上のマジック”はトラベル・ミステリーですが、その内の「生死線上」は台湾人作家によるスイスを舞台にした謎解きストーリィと、極めて珍しい作品。
“トリックの冴え”における「わたくしは犯人」は、“トリックを使い捨てるトリック”というのが心憎い趣向。
この一冊で幾つもの入手困難な本格ミステリが楽しめるという、贅沢な本です。ミステリファンには是非お薦め。
なお、「引立て役倶楽部」には、ワトスンはじめ、ニッキー・ポッター等名探偵の脇役たちが勢揃い。楽しくなる一品です。

T読者への挑戦
 1.埋もれた悪意 2.逃げる車 3.金色犬
Uトリックの驚き
 1.五十一番目の密室 2.<引立て役倶楽部>の不快な事件
 3.アローモント監獄の謎
V線路の上のマジック
 1.生死線上 2.水の柱
Wトリックの冴え
 1.「わたくし」は犯人 2.見えざる手によって
※ あとがき代わりのミステリ対談 vs北村薫

※本書と併せて「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」をお薦めします。

  

3.

●「作家小説」● 

  


2001年9月
幻冬舎刊

(1500円+税)

2004年8月
幻冬舎文庫

 
2002/07/14

「作家小説」という題名から、どんなストーリィを想像されるでしょうか?
読者への謎かけは、既に題名から始まっている、と言って良いかもしれません。
本書には短編8篇を収録。そのいずれにも、作家が登場します。“作家”自体を謎めいた職業として、その実相に挑戦するというのが本書のテーマのようです。
上記のように言うと格好良いのですが、作家のボヤキ、苦しみを短編小説に仕立てたもの、とも換言できます。
原稿が書けない辛さ、締切りに追い詰められる苦しさ、編集者から冷たくあしらわれることの悔しさ、閑散としたサイン会への怖れ、ウ〜ン、判るなぁ。
冒頭の「書く機械」は、まさにブラック・ユーモア。
「サイン会の憂鬱」は、作家の心境が判ってユーモラス。
作家が漫才コンビをしているという「作家漫才」は、異色ですけれど、納得感があって愉快。
作家というのはつくづく因果な商売だなと、読者に訴えようとしているかのような作品集、楽しめます。

書く機械/殺しにくるもの/締切二日前/奇骨先生/サイン会の憂鬱/作家漫才/書かないでくれます?/夢物語

   

4.

●「絶叫城殺人事件」● ★☆

  

 
2001年10月
新潮社刊

(1600円+税)

2004年2月
新潮文庫化

  

2002/06/20

有栖川さん自身のミステリを読むのは、本書が初めてです。
したがって、有栖川作品としての本書の評価はできかねますが、久しぶりのミステリをそれなりに楽しめました。
各篇とも一風変わった館が事件の舞台となっています。そんな殺人ミステリ、6篇。
有栖川さんは、これまで“殺人事件”を題名に冠することを避けてきたそうなのですが、本書6篇は、一様に「殺人事件」が題名に冠されています。
もっとも、そんな陰惨な雰囲気はありません。むしろ、サラッと読めてしまう感じ。
探偵役は、犯罪社会学者の火村英生有栖川さん自身も、その友人かつ推理小説家として登場し、ワトソン役を勤めています。
本書の各篇は、殺人事件そのもの、トリックそのものより、登場人物の人間らしい心理の方に興味を惹かれます。
6篇の内では、冒頭の「黒鳥亭殺人事件」が読後の余韻深く、印象的です。この作品も含め、5篇は軽く読める作品。
それに対し、最後かつ表題作の「絶叫城殺人事件」は、もっとも本格らしい殺人事件。謎めいた、妖しげな雰囲気は、まさに最後を飾るにふさわしい一篇です。結末の予想を覆すような逆転劇は、有栖川さんの技の冴え、と評価すべきでしょう。
本書は、なかなか楽しめるミステリ短編集です。

黒鳥亭殺人事件/壺中庵殺人事件/月宮殿殺人事件/雪華楼殺人事件/紅雨荘殺人事件/絶叫城殺人事件

   

5.

●「虹果て村の秘密」● ★★

  

 
2003年10月
講談社刊

(2000円+税)

2012年08月
講談社ノベルス

  
2003/12/20

 
amazon.co.jp

“かつて子どもだったあなたと少年少女のための−ミステリーランド”シリーズ(講談社)の第2回配本作品。

将来推理作家になりたい(父親は刑事)という上月秀介、将来刑事になりたい(母親は推理作家)という二宮優希という、共に12歳の2人が主人公。
夏休み、2人は優希の母親ミサトの故郷であり、別宅がある虹果て村にやってきます。出迎えてくれたのは、ミサトの従妹である藤沢明日香
ところが、辺鄙な一方平和なその虹果て村で、密室殺人事件、次いで襲撃事件が起こります。大雨による土砂崩れで村は孤立し、捜査にあたるのは、たまたま居合わせた新米刑事と高齢の駐在のみ。これ幸いとばかり、秀介、優希の2人が事件解明に乗り出します。
事件そのものは難解という程でないにしろ、一応本格ミステリ。秀介、優希という2人の小学生がとにかく魅力的です。2人のやりとり、息の合った名コンビぶりには、脱帽。冒険小説に子供は何とふさわしいことか、と改めて感じさせられます。
明日香とその両親をはじめ、虹果て村の面々もなかなか楽しい。
なお、冒険ミステリの中で、それとなく過疎地への道路建設問題の是非をめぐる議論を入れ込み社会勉強にも繋げる辺り、有栖川さんも心憎いことをしてくれます。

  


  

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