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41.猫の惑星 42.杏奈は春待岬に 43.たゆたいエマノン 44.デイ・トリッパー 45.黄泉がえり again 46.彼女は弊社の泥酔ヒロイン 47.おもいでマシン 48.クロノス・ジョウンターの黎明 |
【作家歴】、地球はプレイン・ヨーグルト、ヤマナベ・ポリスのミイラ男、サラマンダー殲滅、ドグマ・マ=グロ、スカーレット・スターの耀奈、OKAGE、黄泉がえり、黄泉びと知らず、美亜へ贈る真珠、もう一人のチャーリー・ゴードン、フランケンシュタインの方程式 |
タイムトラベル・ロマンス、インナーネットの香保里、未来のおもいで、新編クロノス・ジョウンターの伝説、波に座る男たち、精霊探偵、この胸いっぱいの愛を、時の"風"に吹かれて、きみがいた時間ぼくのいく時間 |
つばき時跳び、悲しき人形つかい、ムーンライト・ラブコール、あねのねちゃん、アイスマンゆれる、穂足のチカラ、メモリー・ラボへようこそ、ボクハ・ココニ・イマス、壱里島奇譚、クロノスの少女たち |
おもいでエマノン、さすらいエマノン、まろうどエマノン、ゆきずりエマノン、ダブルトーン、アラミタマ綺譚、うたかたエマノン、怨讐星域1〜3 |
41. | |
「猫の惑星 PLANET OF THE CATS」 ★☆ |
2019年05月
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「猫の惑星」という題名、当然ながらSF映画「猿の惑星」のもじりでしょう。 となれば、ストーリィは地球以外の惑星を舞台にしたSF冒険ストーリィでしょうか。 子供だけが特殊な超能力をもつことができる社会。そうした子供たちは「シテン」と呼ばれる施設に集められ、ママたちに世話と訓練を受けながら暮らしていた。 主人公のイクオ(190号) もそんな一人。年上の少年と組まされ幾度も「ホンテン」のパパから下されたミッションを果たしますが、少しずつ疑問を覚えるようになります。 そんな折に突然、イクオは老猫ウリとテレパシーで会話ができるようになったことに気付きます。ウリ曰く、このまま施設に留まっていたらどんな目にあわされるかわからない、という。この世界の主は実は人間ではなく猫。どこかにいる“猫の王”を一緒に探しに行こうとウリから誘われたイクオは、ウリと3匹の仔猫と共にシテンを脱走、猫の王を探す旅に出ます。 しかし、イクオを追う危険なものが・・・・。 本書一冊で完結と思っていたら、本ストーリィの状況がようやく後半に至って明らかにされるだけで、本書はプロローグに過ぎないようなもの。 当然、この続きがあるんですよね、梶尾さん? イクオとウリのコンビも重要ですが、アル・クロ・ベーという3匹の猫たちの存在、その能力が魅力的です。 猫たちが道連れということで、さながらM・トウェイン「ハックルベリー・フィンの冒険」の始まりのような趣きを感じるのですが、他にも思いがけない道連れが登場、ハックに比べると中々賑やかです。今後を楽しみにしたい処です。 |
42. | |
「杏奈は春待岬に」 ★★ |
2018年10月
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カジシンさん久々の、タイム・トラベルを題材にした時空を超えるラブロマンス・ストーリィ。 「未来のおもいで」「クロノス・ジョウンターの伝説」「つばき、時跳び」に連なる作品と言えます。 主人公の白瀬健志は、祖父母が暮す苓浦町を訪ねた春休みに、岬にある洋館で一人の美しい娘を目にします。 しかし、健志が恋したその深沢杏奈は、あるトラブルから時空に閉じ込められ、岬に春が訪れるその短い期間だけ現世に姿を現すことができるという運命を負っていた。 数日しか現世で時間を過ごすことが出来ない杏奈が17歳のままいっこうに年を取らないのに対し、杏奈の兄は既に老人の姿。2人の元を毎年のように訪ねる健志は、杏奈を守り、何時しか杏奈を時空の歪みから救うと決意するのですが・・・・。 カジシンさんのラブロマンスはハッピーエンドであることが多いのですが、本書の場合は極めて切ないハッピーエンド、と言えるでしょうか。 健志と杏奈がお互いに想い合っても時空を共にできず、健志と同い年である青井梓が健志と時空を共にしていても気持ちを通い合わせることができないという運命と、それは相似しているように思えます。 結末がどうであろうと、10歳の初恋を一筋に貫いた健志の生き方には圧倒される思いです。 ※青井梓という少女が選んだ道も、切ないなぁ・・・。 それでも、何とかハッピーエンドになれる道はなかったのかと思い続けずにはいられないところが、カジシン作品の忘れ難いところです。 |
43. | |
「たゆたいエマノン EMANON of MEMORIES」 ★★ |
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2020年04月
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“エマノン”シリーズNo.6。 前作から3年余。梶尾さん、しばらく経つとエマノンにまた会いたくなる、そうしてエマノンの話を書く、と語っていますが、それは読み手にとっても同様。またエマノンに出会えると、ホッとする気分がします。愛着あるシリーズです。 今回は、時を跳ぶ女性であるヒカリとエマノンの関りが主体。それもエマノンが原生物だった時から始まる、時代と世代を超えた交流で、お互いに助け合う共存関係であるという設定。 ヒカリ(布川暉里)は、第1作である「おもいでエマノン」の「あしびきデイドリーム」に登場した女性で、再登場の由。 ・「たゆたいライトニング」:エマノンとヒカリの長い関りを端的に描いた篇。 ・「ともなりブリザード」:北海道の黒宇島で唯一の医師として働く深水健人と結婚するため島に向かう早稲美波は、船でエマノンという女性と知り合う。美波に健人が語った秘密は・・・。 ・「ひとひらスヴニール」:山里の祖父母の元で小学校時代を過ごした俊悟は、かつてエマノンと交わした再会の約束を果たすため、再びその場所を訪れます。 ・「さよならモイーズ」:本篇はヒカリと無関係。十数年前に訪れたアフリカの保護区を訪れたエマノンですが、そこは既に武装集団による内乱地帯になっていた・・・。 ・「けやけしドリームタイム」:久屋裕介だけでなく同級生3人もまたエマノンという女性の夢を毎日見るようになっていた。 超上現象研究部員という祝川という女生徒の前で4人はいろいろと推論を繰り返しますが・・。 4篇中3篇にヒカリが登場し、それぞれ関わりあるストーリィになっています。この趣向が楽しい。 たゆたいライトニング/ともなりブリザード/ひとひらスヴニール/さよならモイーズ/けやけしドリームタイム |
44. | |
「デイ・トリッパー Day Tripper」 ★★ |
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2021年10月
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カジシンさんらしい、タイムトラベルものラブ・ストーリィ。 結婚後わずか3年半で最愛の夫=大介を喪った中川香菜子、半年経っても悲しみは癒えず、もう一度大介に会いたい、という思いが募るばかり。 そんな香菜子に突然声を掛けてきたのが、笠陣芙美という女性。 その芙美が香菜子に示したのは、亡き伯父の機敷埜風天が作ったという、タイムマシンならぬ、心だけを過去の自分に送り込むという“デイ・トリッパー(遡時誘導機)”。 もう一度大介に会うため、香菜子は勇気を奮ってデイ・トリッパーに乗り込みます。そして・・・・。 数々のタイムトラベル方法を創り出してきた梶尾さんですが、心だけを過去に送り込むとはねぇ・・・。 何故“心”だけかというと、過去の自分と併存するタイム・パラドックスを回避するため。 しかし、人間自身なら物体であり、時間を超えてというSFストーリィもすんなり理解できるのですが、“心”は物体ではなし、そもそもどうやって科学的に捉えることが出来るのか?という疑問が生じます。 しかし、そんな疑問を軽々と飛び越えて展開されるところが、梶尾さんのタイムトベルものラブ・ストーリィの楽しさ。 主人公の香菜子と、再会した大介との仲睦まじい様子はとても気持ち良いものです。 しかし、いずれ香菜子は現在に引き戻される筈・・・。 最後、どう梶尾さんが鮮やかに結末をまとめるのか、どうぞお楽しみに。 ※ちょっと映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」みたいなところがありますね。 |
45. | |
「黄泉がえり again」 ★★☆ |
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あれから17年。2016年の熊本地震で大きな被害を受けたその熊本で、再び“黄泉がえり”現象が起きます。 今になって一体何故・・・? 大事なあの人は帰って来るのか。 驚きました。「黄泉がえり」、そして「黄泉びと知らず」であの物語は完全に終わった、と思っていましたから。 何故あの物語は今再びなのか?と言えば、それは梶尾さんの熊本復興への想い、そして祈りがあるからでしょう。 だからこそ、前作ではありえなかった過去の人物、熊本で今も敬慕されているのでしょう、清正公(せいしょうこう)こと加藤清正もまた黄泉がえらせたのでしょう。 そしてもう一匹、信じ難い黄泉がえりも。それは読んでのお楽しみです。 主な登場人物の一人は、前作でも活躍した肥之國日報記者の川田平太(カワヘイ)。今回はフリーライターとして再登場。 その川田平太、今回の黄泉がえりの理由が、相楽いずみという女子高生と関わりがあると知らされます。 前回、黄泉がえった人たちが皆消え去った中で、唯一人生き残った人物が相楽周平。いずみは、黄泉がえった周平と妻の玲子との間に生まれた娘だという。 何故、再び黄泉がえり現象が起きたのか。黄泉がえった人たちは前回と同様に再び家族たちの前から姿を消してしまうのか。 今回も黄泉がえった人たちと関わりを持った多くの人たちそれぞれのドラマが群像的に描かれていきます。 そして最後は、前回よりはるかにスケールアップしたクライマックスが待ち受けています。 そしてその後のエピローグでは、温かな気持ちに満たされます。 やはり好きだなぁ、このストーリィは。 再び感動を味わいたい、新たにしたいという方に、是非お薦め。 |
46. | |
「彼女は弊社の泥酔ヒロイン−三友商事怪魔企画室− A-CRY PRINCESS」 ★☆ | |
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梶尾さんのSFというと常にロマンスの香りがあって大好きなのですが、本作は純然たるライトノベル作。 泥酔ヒロインとなるのは三友商事の新入社員=中田栄子。 ただし、主人公は栄子ではなく、就職のため上京してきた栄子が同居することになった飯田家で一歳年上の従姉=美宇。 この美宇、新入社員歓迎会で初めてビールを飲み泥酔した栄子がとんでもない身体能力を発揮するところを目撃してしまいます。元々スーパーヒーローものが大好きだった美宇は大興奮。 栄子の母親である乙子が美宇に打ち明けたところでは、中田の女たちは代々<怪魔>に対する生体結界の能力を受け継いでいる。そして、泥酔によって身体能力が高まる一方、結界の力が弱まり怪魔を呼び寄せてしまうのだとか。 そんな栄子に目を付けたのが、三友商事社長の息子であり、新規事業開発を命じられていた取締役企画室長の友田。 スーパーヒーローによる会員制お守りビジネスを展開し始め、友田が営業、栄子が実務、実家のコンビニ店員である美宇はヘルプという役どころ。 てっきり三友商事を舞台にした、新人OLのちょっと変わったお仕事小説と予想していたのですが、栄子ら家族と怪魔との対決ストーリィ。それをビジネスに結び付けられてもなぁ、と思うところです。 それなりに楽しめますが、いつもの梶尾作品レベルとしては、またお仕事小説としても物足りなさあり。ただし、ライトノベルとしては十分面白いかも。 1.覚醒/2.逆襲/3.誕生/4.起動/5.修練/6.帰郷/7.襲来 |
47. | |
「おもいでマシン−1話3分の短編集−」 ★☆ |
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カジシンさんのショート・ショート集。 初めてのショート・ショート集かと思いきや、1989年「有機戦士バイオム」の刊行があるのだそうです。 さて本書、高橋酒造さんのホームページに連載している“カジシンエッセイ”というコーナーに、読者の方たちからカジシンさんのショート・ショートを読みたいというリクエストがあったのだとか。 その“ショート・ショート”、以前なら星新一さん、現在なら田丸雅智さんが代表的な書き手なのでしょうけれど、カジシンさんも全く引けを取っていないと感じます。 ただ、星新一ショートには皮肉というか痛烈な風刺とかいうものがあって胸に突き刺さるような印象に残るものが幾つもあったのですが、残念ながらカジシンショートには余り強い印象を受けるものは無かった印象。 その理由を考えてみると、それはカジシンさんが優しい、からではないかと思います。ホラー的なショートにしても余り怖さを感じない、というか。 でもでも、カジシンさんらしさが詰まっているショート・ショート集。ファンの方はどうぞ読み逃しされませんように。 私が好きな作品としては、「正月を捕まえる」「忘れな草お姉さん」「完璧な殺し屋」「おとぎ苑にて」「やみつき」「悪魔の温泉」「奇妙な写真」「ママのくるま」といった辺り。 なお「哀しきアムネジア」、年を取るとなぁと切実感たっぷり。 また、「ショート・ショートの主題と構造」のオチには笑ってしまいました。 本音商会/サタンの下請け/祖母山のできごと/おもいでマシン/正月を捕まえる/大井川の奇蹟/忘れな草お姉さん/先輩がミャオ/宇宙船降臨/嘘つき村のエイプリル・フール/福を迎えに/伝説の食堂/ペットショップのお薦め/完璧な殺し屋/おとぎ苑にて/今日は何の日?/一人おいての男/根子岳の猫屋敷/父のAI/ナマハゲ・サミット/世の中リモコン/やみつき/母の日のできごと/しんえんくん/鬼童岳の霧女/哀しきアムネジア/背後で響くもの/根子島の呪われた月/無神教のお誘い/運命の朝/悪魔の温泉/父を知る/貧乏神警報/バレンタインの獣!/奇妙な写真/本当は怖い桃の節句/ショート・ショートの主題と構造/理想の伴侶/こんなお仕事/ママのくるま |
48. | |
「クロノス・ジョウンターの黎明 The Dawn of Chronos Jaunter」 ★★ |
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“クロノス・ジョウンター”続編。 本作では、クロノス・ジョウンター開発の経緯が描かれます。 愛する人を救うため過去にメッセージを、そして自分自身が過去へ跳んで彼女を救おうとする、タイムトラベル・ストーリィ。 とはいえ、そこは梶尾さんですから、道具立ては一種のタイムマシンであろうと、本質的にはラブ・ストーリィ。 昼食を取りに通う<海賊亭>で仁科克男は、店主からかつて撮った8mmビデオを見せてもらうことになるのですが、そのフィルムに映っていた若い女性=清水杏子に惹かれます。 しかし、撮影後に彼女は、若くして事故死したという。 その後仁科は、「時間軸圧縮理論」に基づく<クロノス・ジョウンター>という過去射出装置の開発に携わることになります。 そして、仁科は清水杏子を救うため、ある行動を・・・・。 青井秋星は、清水杏子と同じ時代に属する大学生。 未来からのメッセージを受け取った青井は、杏子を救うため行動を起こしますが、実際の杏子に出会った途端、恋してしまう。 何とか杏子の命を救おうと動き出す青井でしたが・・・・。 「クロノス・ジョウンターの伝説」に比較すると、開発経緯を描くという面がある所為か、タイムトラベルものとしては地味なストーリィ。 しかし、時代が異なる2人の青年が恋した女性を救うために協力し合う、という処が本作の見どころ。 なお、クロノス・ジョウンター完成後に実際に過去へ跳んだ人物として、前作に登場した吹原和彦、布川輝良という2人の名前も挙がります。 そう、本作は続編ではなく、上記「伝説」と合わせてひとつの物語なのです。 そのため、巻末の「年表」は、両作を合わせたもの。 1.仁科克男の軌跡・1986年/2.青井秋星の軌跡・1960年5月10日〜5月11日/3.青井秋星の軌跡・1960年5月29日/4.青井秋星の軌跡・1960年6月6日〜6月7日/5.青井秋星の軌跡・1960年6月8日〜6月23日/6.青井秋星の軌跡・1960年6月24日/7.それからの青井秋星・1962年〜1997年/8.それからの仁科克男・1997年6月〜10月/エピローグ/クロノス・ジョウンター年表 |
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