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11.下町ロケット−ゴースト 12.下町ロケット−ヤタガラス 13.ノーサイド・ゲーム 14.半沢直樹 アルルカンと道化師 15.ハヤブサ消防団 16.俺たちの箱根駅伝 |
【作家歴】、空飛ぶタイヤ、鉄の骨、下町ロケット、ルーズヴェルト・ゲーム、ロスジェネの逆襲、七つの会議、銀翼のイカロス、下町ロケット2−ガウディ計画−、陸王、花咲舞が黙ってない |
11. | |
「下町ロケット−ゴースト」 ★★ |
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2021年09月
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「下町ロケット」第3弾。 今回、佃が目を付けたのはトランスミッション(変速機)。しかし、これまで全く手掛けたことのない部品である故に、まずはトランスミッション用のバルブからその分野に入り込もうとします。 その相手となったのは、トランスミッション専門メーカーながら急速に業績を拡大している新興ベンチャーの(株)ギアゴースト。 部品設計のみ自社開発、製造は全て外注という徹底した割り切り方。 同社を率いる両輪は、かつて帝国重工・機械事業部に所属していたが冷遇されて飛び出した社長の伊丹大と、同社で天才エンジニアと称された副社長の島津裕。 さっそく佃製作所は、ギアゴーストからの新規受注を狙います。 そのギアゴーストに、かつて佃製作所が経験したと同様の危機が襲い掛かります。 今後の業務提携を見込んで佃製作所の面々は誠意をもって同社を応援するのですが・・・・。 「下町ロケット」過去2作の内容をお浚いするような縮小版ストーリィといった印象。 でもそれを非難する理由はありません。今秋刊行予定という第4弾「下町ロケット−ヤタガラス−」とは実質上下巻と言って良い関係。本作はまずその舞台設定という内容なのですから。 一方、帝国重工は、米子会社で多額の損失計上したために、自社も赤字転落。社長の藤間が引責辞任必須の状況。後任社長と目される的場俊一は最初からロケット開発に否定的。佃製作所の注力してきた「スターダスト計画」に暗雲が垂れ込みます。 また、佃製作所で経理部長を務めてきた殿村に、代々農家を引き継いできた父親が倒れるという窮状が発生。 あぁ、第4弾「ヤタガラス」が早くも待ち遠しい・・・。 1.ものづくりの神さま/2.天才と町工場/3.挑戦と葛藤/4.ガウディの教訓/5.ギアゴースト/6.島津回想録/7.ダイダロス/8.記憶の構造/最終章.青春の軌道 |
12. | |
「下町ロケット−ヤタガラス」 ★★ |
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2021年09月
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「下町ロケット」第4弾。 新たに農業機械向けのトランスミッション(変速機)参入を目指す佃製作所の挑戦ストーリィ、前半部分の「ゴースト」に続き、いよいよ後半戦の「ヤタガラス」。 汚い手も厭わないライバル会社とのし烈な競争という構図は、これまでと変わらず。 会社の窮地に手を差し伸べてくれた佃製作所を裏切り、ギアゴースト社長の伊丹は、佃のライバル会社となるダイダロス社長の重田と手を組み、無人農業ロボット“ダーウィン・プロジェクト”の製造を大々的に世間に発表します。 それに対し、財前率いる帝国重工と佃製作所はどう対抗していくか、というところなのですが、帝国重工内部が不穏。 次期社長の座を狙う的場が、強引にプロジェクトを自分直轄にして自分の手柄にしようとする。しかし、強引さだけが取り柄で技術を全く評価する能力のない的場は、かえって墓穴を掘り、さらに重田・伊丹連合の攻撃を受ける羽目に。 「ゴースト」に始まる長編ストーリィの実質後半部分とあって、次から次へと急展開に続く急展開、まさに息を呑むばかり、ぐいぐいとストーリィに引きずり込まれます。 もちろん、文句なしの面白さは、言うまでもありません。 しかし、これまでの「下町ロケット」以上に、的場の悪役ぶりは群を抜いています。 そこから思うことは、一般社員がどれだけ真面目に仕事に取り組み、そのことによって社会の役に立ちたいと願っていても、上層部の出世争い、権力争いの道具にされかねないというサラリーマン世界の虚しさです。 その典型例が、伊丹。そして、それでも道はあるという例が、ギアゴーストからも追われた天才エンジニアの島津裕と言えるでしょう。 これは本作中の帝国重工だけのことではなく、選挙の得票大事で農業改革を先延ばし先延ばしして来て、本作中で指摘される危機を招いた政治家にも言えること。 なお、そうした理屈は抜きにして、アクション、冒険ものに劣らないスリリングな面白さを楽しめる一冊であることに間違いありません。そもそも勧善懲悪劇ですしね。 1.新たな提案と検討/2.プロジェクトの概要と変遷/3.宣戦布告。それぞれの戦い/4.プライドと空き缶/5.禍福スパイラル/6.無人農業ロボットを巡る政治的思惑/7.視察ゲーム/8.帝国の逆襲とパラダイムシフトについて/9.戦場の聖譚曲(オラトリオ)/最終章.関係各位の日常と反省 |
13. | |
「ノーサイド・ゲーム No Side Game」 ★★ |
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2022年11月
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大企業内ドラマと企業系スポーツドラマを組み合わせた、池井戸潤さんらしいエンターテインメント。 基本的に勧善懲悪のストーリィですから、序盤の失意、中盤の危機、そして終盤の逆転という展開、読んでいて面白くない筈がありません。 構成がよく似ている池井戸作品に「ルーズヴェルト・ゲーム」がありますが、企業対企業か、それとも企業内部の争いか。そして野球かラグビーか、という違い。 その意味で類似系ストーリィと言って良いでしょう。 大手自動車メーカー=トキワ自動車で経営戦略部次長の職にあった君嶋隼人は、営業本部長である滝川常務提案による企業買収計画に待ったをかけ、提案は取締役会で否決されます。 その報復なのか、直後、君嶋は横浜工場総務部長への異動(誰が思っても左遷)を命じられます。 しかも、まるで門外漢であるラグビー・チーム“アストロズ”のゼネラルマネージャーも兼務することに。 そのアストロズにかかる年度予算は16億円、しかも収入はゼロという酷いもの。 役員の中には廃部を主張する声もあるが、君嶋自身、同感。 しかし、今の君嶋の立ち位置は、アストロズを守る側。 アストロズ存続のためには何をしたら良いのか−。アストロズの存在価値を高めるにはどうすべきか。収支を改善するためには何が必要なのか。そして、アストロズを強くするための方法は。 ラグビー経験者ではない、しかし、会社経営もチーム経営も共通するところがある、経営者の視点をもって君嶋の奮闘が始まります。 ※本ストーリィにおける注目ワードは、<プロの経営者>。 痛快でスピーディなストーリィ展開と合わせ、お楽しみに。 第一部 ファースト・ハーフ プロローグ/1.ゼネラルマネージャー/2.赤字予算への構造的疑問/3.監督人事にかかる一考察/4.新生アストロズ始動/5.ファーストシーズン/エピローグ 第二部 ハーフタイム 第三部 セカンド・ハーフ 1.ストーブリーグ/2.楕円球を巡る軌跡/3.六月のリリースレター/4.セカンドシーズン/5.ラストゲーム/ノーサイド |
14. | |
「半沢直樹 アルルカンと道化師」 ★★ |
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2023年09月
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「倍返しだ」の決めセリフですっかり話題になった“半沢直樹”シリーズ第5弾。 ただし、舞台設定は、第1作「オレたちバブル入行組」に遡る、大阪西支店・融資課長の頃。 前作「銀翼のイカロス」でスケールが大きくなり過ぎたこともあり、舞台を初期に戻したのはストーリィに落ち着きを取り戻すうえで適切だったと思います。 半沢の口から「倍返し」のセリフが出るのも1回だけで、あっさりとしたものでしたし。 岸本頭取がM&Aに力を入れようとしたことから、大阪営業本部の伴野が大阪西支店取引先の仙波工藝社に対し、強引かつ脅迫じみた姿勢で買収話を応諾させようとします。 そこで仙波工藝社の利益のためにと立ち上がったのが、例によって半沢融資課長。 まぁ今回も、支店長、副支店長、業務統括部長の宝田、大阪営業本部で宝田の走狗になって動く面々と、ろくでもない銀行員ばかり。 とくに宝田が、審査部時代の半沢に散々論破されて、怨念を抱いている人物、という設定。 それでも、大阪西支店の重鎮ともいうべき竹清翁、仙波工藝社の経営者一族、融資課の部下たちと、徐々に半沢を応援する人たちが増えていくという、お馴染みの定例パターンへ。 それでも、やはり面白いです。何と言ってもこれは、痛快な勧善懲悪ストーリィですから。 見せ場は、大阪西支店の不祥事を半沢の責にしようとして開かれる人事査問会、そして岸本頭取臨席の元に開かれる業務統括部主宰の全国会議です。 しかしまぁ、現実のサラリーマンがあんな思い切った発言をできることはないでしょう。だからこそサラリーマンが狂喜するのでしょう。 1.アルルカンの部屋/2.ファミリー・ヒストリー/3.芸術家の生涯と残された謎/4.稲荷祭り騒動記/5.アルルカンの秘密/6.パリ往復書簡/7.不都合な真実/8.道化師への鎮魂歌/9.懲罰人事/最終章.アルルカンになりたかった男 |
15. | |
「ハヤブサ消防団」 ★☆ 柴田錬三郎賞 |
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東京から引っ越しての田舎暮らし体験&連続放火事件、さらに新興宗教団体の影が・・・。 主人公はミステリ作家の三馬太郎。5年前に明智小五郎賞を受賞して期待されましたが、現状は苦戦続き。 ふと亡き父親の故郷を訪ねた処、景観の良さに一目で魅了され、東京から相続した父親の実家に引っ越してきます。 場所は、中部地方、U県S郡、山に囲まれた八百万町のハヤブサ地区にある紫野集落。 すると、いきなり頼まれたのが、<八百万町消防団ハヤブサ分団>への入団。 田舎で暮らす以上これも付き合いの一環として太郎は入団に応じますが、折しもこの地域では放火と思われる火事が連続して発生していて・・・。 穏やかな田舎だというのに、連続放火? しかも、地域住民の元を<タウンソーラー>の営業マンが足繁く訪ね回っているという状況があり、太郎は不審を抱きます。 さらにその背後に、新興宗教団体の影がチラつき・・・。 田舎暮らしの是非は、その人の性格次第という処が大きいと思いますが、やはり人間関係は濃いですね〜。 事件の真相は、その人間関係の濃さも関係しているのか? それなりに楽しみましたが、田舎暮らしストーリィと事件の真相究明ストーリィにバランスが十分取れているかというと、池井戸さんの剛腕で貼り合わせた、という印象は残ります。 ただ、本作の人気は高そうですね。 1.桜屋敷の住人/2.だんじり祭り/3.消防操法大会始末/4.山の怪/5.気がかりな噂/6.夏の友だち/7.推理とアリバイ/8.仏壇店の客/9.没落する系譜/10.オルビスの紋章/11.或る女の運命について/12.偽の枢機卿/最終章.聖地へ続く道 |
16. | |
「俺たちの箱根駅伝」 ★★☆ |
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箱根駅伝をテーマにした小説、結構読んだからなぁと思っていたのですが、読み始めればやはり面白い。ぐいぐいと惹きこまれます。 池井戸作品の面白さということもありますが、箱根駅伝という舞台自体が面白い、ドラマ要素たっぷり、ということが大きいのだろうと思います。 ストーリーの始まりは、箱根駅伝予選会から。 かつては連覇したこともある名門=明誠学院大学陸上競技部も本選出場を逃し続け、今年こそと意気込んで予選会に出場したものの、結果11位で出場を逃します。 それを受けて、長年チームを率いてきたベテラン監督=諸矢は辞任を表明、後をOBで黄金期の伝説ランナーだった甲斐真人に託します。 しかし、その甲斐、卒業後は総合商社マンとして活躍し、陸上競技とは全く無縁とあって、監督としての力量は未知数。 その甲斐、諸矢に代わって<学生連合チーム>の監督も担うことになりますが、所詮素人だと外部からの揶揄や批判が殺到。 そうした中で甲斐、そして学生連合チームに選ばれた各大学のランナーたちは、どう箱根駅伝を戦っていくのか・・・。 なお、チームのキャプテンとなったのは、明誠の青葉隼斗。 一方、ランナーや監督たちだけでなく、当日の実況放送を担う<大日テレビ>における内紛の様子も描かれます。 実況を率いるのは、チーフ・プロデューサーの徳重亮、そして徳重がチーフ・ディレクターに抜擢した宮本菜月。 そしてセンターアナは、アクの強いベテラン、辛島文三。 懸命に走っても何の記録にも残らない学生連合チーム、それでも彼らは懸命に走れるのか、また何のために走るのか。 そして、箱根駅伝を実況するテレビ局側に求められるものは何なのか、何を伝えるのか。 総じていえば、本作が伝えようとしているのは、<箱根駅伝>とは何なのか、ということでしょう。 ともあれ、本戦レース、それも復路に至るともう、ページを繰る手が止まりません。その臨場感は実際の箱根駅伝実況放送を観ているのとまるで遜色ありません。 監督の甲斐、寄せ集めチームと揶揄される学生連合チームのランターたちがどう戦うのか、それは読んでのお楽しみです。 乞う、ご期待! (※三浦しをん「風が強く吹いている」の興奮、再び!) 第一部 決戦前夜 1.予選会/2.社内政治/3.アンカー/4.学生連合チーム始動/5.箱根につづく道/6.それぞれの組織論/7.チーム断層/8.本戦前夜/9.つばぜり合い 第二部 東京箱根間往復大学駅伝競争 1.大手町スタートライン/2.立ちはだかる壁/3.人間機関車/4.点と線/5.ハーフタイム/6.天国と地獄/7.才能と尺度/8.ギフト/9.雑草の誉れ/10.俺たちの箱根駅伝/最終章.エンディング・ロール |