東川篤哉
(ひがしがわとくや)作品のページ


1968年広島県尾道市生、岡山大学法学部卒。96年鮎川哲也編「本格推理G」に「中途半端な密室」が初掲載。2002年「密室の鍵貸します」が光文社カッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクト“Kappa-One” 第一弾に選ばれて長篇デビュー。2011年「謎解きはディナーのあとで」にて本屋大賞を受賞。

 
1.
もう誘拐なんてしない

2.謎解きはディナーのあとで

3.謎解きはディナーのあとで2

  


   

1.

●「もう誘拐なんてしない」● 


もう誘拐なんてしない画像

2008年01月
文芸春秋刊

(1200円+税)

 

2008/02/23

 

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大学生の翔太郎がひょんなことから知り合ったのは、女子高生の絵里香
父親違いの妹を救うため手術費を工面してやりたいというその絵里香にほだされ、翔太郎は一緒に狂言誘拐を企てることになりますが、何と彼女が地元暴力団組長の娘だったとは!
組員7名という小世帯ながら、地元門司のれっきとした暴力団、花園組の次女。おまけに絵里香には、組長の父親より余っ程恐ろしいと言われる姉、皐月がいる。

狂言誘拐が幕を上げたと思ったら、姉の皐月がニセ札絡みの殺人事件に直面し、さらに後半思いもよらぬ殺人事件まで発生、という軽快なユーモア&ミステリ。
こうしたコメディタッチのミステリに杉田比呂美さんのイラストは合いますねー。表紙の絵だけ見ても楽しくなってきます。

翔太郎、絵里香のみならず、組長の花園周五郎と皐月を始めとして、この花園組組員の面々がまたコミカル。思わず小林信彦「唐獅子株式会社を頭に浮かべてしまいますが、同作ほど強烈なパロディ趣向はありません。
むしろ、ここまでやるかなぁ〜と思うくらいの、ドタバタ劇。
ただ、人物造形、結構期待していたのですけれど物足りず。さらに、事件の真相の動機たるや、何と矮小なことか。
まぁ、ドタバタ余りある分、気軽に笑えるユーモア・ミステリでしたけれど、結末に期待はすべからず。

          

2.

●「謎解きはディナーのあとで」●          本屋大賞


謎解きはディナーのあとで画像

2010年09月
小学館刊

(1500円+税)

2012年10月
小学館文庫化

  

2011/02/27

  

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大ヒット・ベストセラーという評判ということで読んでみたのですが、左程のことはなかった、というのが率直な感想。

日本を代表する企業グループ「宝生グループ」総帥の一人娘である宝生麗子が主人公。その麗子、富豪令嬢であることを隠して国立署に勤務する女性刑事という設定。
しかしその麗子の推理力はというと、やたら金持ちのボンボンであることを吹聴する上司の
風祭警部と似たり寄ったりで、本書で名探偵役を務めるのは麗子の執事兼運転手である影山
事件の詳細を麗子から聞き取るやいなや
「失礼ながらお嬢様−この程度の真相がお判りにならないとは、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」という痛烈な一言と共に、見事に真相を明らかにしてみせるという、典型的な安楽椅子探偵型ミステリ。

富豪が刑事という設定は、古くは米国のTVドラマ「バークにまかせろ」があり、筒井康隆「富豪刑事」(TVドラマでは男性主人公を女性に変え深田恭子が好演)もありますし、刑事ではなく素人探偵ですが北村薫“覆面作家”シリーズがあるといった具合で、それ程珍しいものではありません。
また、いささか間の抜けた主人と、鋭い頭脳をもった召使という設定には、
ウッドハウス“ジーヴズ”シリーズという傑作があります。
それらに比べると、事件の真相にも推理にも驚きや意外性は余りなく、ユーモアミステリとしては“覆面作家”の方が遥かに上。優秀かつ辛辣な執事という点ではジーヴズに遥かに及ばず、と言う他ありません。
また、いくら現役刑事だからとはいえ、大富豪の一人娘でありながら口にする言葉の品の無さ、気になります。

ただし、それらの作品を読んだことがない方であれば、目新しい組み合わせによる軽快ユーモアミステリとして読み易く、手頃な面白さかもしれません。  

殺人現場では靴をお脱ぎください/殺しのワインはいかがでしょう/綺麗な薔薇には殺意がございます/花嫁は密室の中でございます/二股にはお気をつけください/死者からの伝言をどうぞ

           

3.

●「謎解きはディナーのあとで2」● 


謎解きはディナーのあとで2画像

2011年11月
小学館刊

(1500円+税)

  

2011/12/09

  

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ベストセラー・ミステリの第2弾。
たまたま借りて読める機会がありましたので、それならと読んだ次第。

相変わらず、騒々しいミステリ短篇集です。
主人公にして新米刑事の
宝生麗子も賑やかなキャラクターなのですが、それを数段上回って騒々しいのが、麗子の上司で風祭モータースの御曹司というピント外れの刑事=風祭警部
そして、警察関係者ではないながらも安楽椅子探偵として活躍する、麗子の執事兼運転手の
影山
風祭は毎度見当違いの推理をことさら大袈裟に言いふらし、麗子の推理を毎回のように影山が手酷くコケにし、その度に麗子が大袈裟に反発するというパターンの繰り返し。
一応ミステリなのですが、上記の騒々しさがドタバタコメディ劇でもある、という風です。

同じユーモラスなキャラクターによるミステリ短篇集ということで、つい北村薫“覆面作家”シリーズと比較してしまうのですが、何が違うのかなぁと考えてみたところ、ミステリとして美しくない、ということではないかと思いました。
そして、美しさがあるかないかを左右しているのは、犯人の犯行動機にあるのではないか。

本シリーズ、北川景子・櫻井翔主演でTVドラマ化されていますが、この騒々しさ、TVのコメディドラマには似合うようです。

アリバイをご所望でございますか/殺しの際は帽子をお忘れなく/殺意のパーティへようこそ/聖なる夜に密室はいかが/髪は殺人犯の命でございます/完全な密室などございません

    


  

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