P・G・ウッドハウス作品のページ No.1


Pelham Grenvile Wodehouse 1881−1975年 英国サリー州生。ユーモア小説史上最大の巨匠。香港上海銀行勤務の傍ら執筆活動を開始し、後に作家専業。ウッドハウスが創造した作中人物では、完璧な執事のジーヴス、中年の英国人マリナー氏、遊び人のスミス氏の3人が名高い。第二次世界大戦後米国ロングアイランドに定住。55年に帰化、75年サーの称号を受ける。


1.
ジーヴズの事件簿
−P・G・ウッドハウス選集1−

2.エムズワース卿の受難録−P・G・ウッドハウス選集2−

3.マリナー氏の冒険譚−P・G・ウッドハウス選集3−

4.ユークリッジの商売道−P・G・ウッドハウス選集4−

5.比類なきジーヴス−ウッドハウス・コレクション1−

6.よしきた、ジーヴス−ウッドハウス・コレクション2−

7.それゆけ、ジーヴス−ウッドハウス・コレクション3−

8.ウースター家の掟−ウッドハウス・コレクション4−

9.でかした、ジーヴス!−ウッドハウス・コレクション5−


P・G・ウッドハウスの笑うゴルファー

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1.

●「ジーヴズの事件簿−P・G・ウッドハウス選集1−」● ★★☆
 
原題:"The Casebook of Jeeves"        編訳:岩永正勝・小山太一


ジーヴズの事件簿画像

2005年05月
文芸春秋刊

(2762円+税)

2011年05月
文春文庫化
(才知縦横の巻)

2011年06月
文春文庫化
(大胆不敵の巻)

 

2007/07/28

 

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のっけから、文句なしに笑える! 
そして、頁を繰る毎にワクワクするような面白さを味わえる、まさに類稀な短篇集です。
本書は、頭のとろい主人バーティ・ウースター&“機略と手際”の従僕ジーヴズというコンビによる人気シリーズ。

各篇のストーリィは、バーティがいろいろな揉め事に巻き込まれる度、ジーヴズが鮮やかな手並みで解決してみせる、という共通パターン。
英国の貴公子、それに仕える執事あるいは従僕という組み合わせは、いかにも英国ならではのコンビです。
謹厳実直で忠実というのが典型的な執事・従僕像で、カズオ・イシグロ「日の名残りはそんなプロたる執事像を見事に描いた作品でした。
本書で活躍するジーヴズは、それとは対照的。それどころか主人たるバーティを勝手に悪戯の犯人に仕立て上げたりと、バーティをないがしろにするような行動も度々。それにもかかわらず、そんなジーヴズの行動をバーティは最終的に感謝しつつ是認せざるを得ないこととなるのですから、これはもう愉快ったらありません。
口うるさいアガサ叔母、およそ女性なら誰にでも惚れ込んでしまう友人ビンゴに振り回され、なおかつジーヴズにも「頭脳皆無」などと見下げられているバーティはもう哀れなぐらいですが、「ジーヴズが来て一週間もたたないうちに、僕は自分のことを自分で処理するのをやめてしまった」と満足しているのですから、よいコンビなのでしょう。
といっても、このバーティ&ジーヴズの人物造形が傑作!
主人のバーティがボンヤリした人物だけに、ジーヴズの油断のなさ、抜け目ない手並みが際立ちます。
予想外の展開、結末に唖然とさせられるのは、バーティだけでなく読者も同じなのです。それこそが本シリーズの痛快な、かつ病み付きになりそうな面白さ!です。

※なお、従僕というとヴェルヌ「八十日間世界一周」のフランス人従僕バスバルトゥーが忘れられませんが、このジーヴズも決して忘れられない従僕像です。

序文(トニー・リング)/
ジーヴズの初仕事/ジーヴズの春/ロヴィルの怪事件/ジーヴズとグロソップ一家/ジーヴズと駆け出し俳優/同志ビンゴ/トゥイング騒動記/クロードとユースタスの出帆遅延/ビンゴと今度の娘/バーティ君の変身/ジーヴズと白鳥の湖/ジーヴズと降誕祭気分/(特別収録作品)ガッシー救出作戦
/(巻末付録)P・G・ウッドハウス頌(イーヴリン・ウォー)/P・G・ウッドハウス(吉田健一)/収録作品解題/訳者付言

        

2.

●「エムズワース卿の受難録−P・G・ウッドハウス選集2−」● ★★
 
原題:"The Misgivings of Lord Emsworth"     編訳:岩永正勝・小山太一


エムズワース卿の受難録画像

2005年12月
文芸春秋刊

(2476円+税)

2012年08月
文春文庫化

 

2007/07/22

 

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英国貴族、第九代エムズワース伯爵を主人公とした滑稽譚。
思わず笑い出すという種の面白さではなく、思わずニヤリ!という、いかにも英国的な面白さ。

最初こそ、偏屈で頑固者の父親伯爵に、軽薄でお調子者の次男フレデリックが度々登場するユーモラスな短篇集と思って読み進んでいたのですが、そうではないことにすぐ気がつきます。
このロード・エムズワース、相当なドジでヘマをやらかすことにかけては名人級、と言って間違いなしの人物。
一方、その父親から困り者の次男坊と思われているフレディ。なんだかんだと言いつつ、結局最後にロード・エムズワースはこの息子の思惑どおりの道を選ぶのですから、意外にこのフレディ、しっかりした若者なのかもしれません。
各篇を読み進むにつれ、ロード・エムズワースとフレディのこの印象、ますます増していきこそすれ、戻ることなし。
作品中でも「いまや働き者になったフレディは、ロード・エムズワースのように土を耕すことも糸を紡ぐこともしない男を軽蔑の目で眺めていた。まるで庇護者気取りなのだ」と父親が嘆く羽目に至るのですから、何をかいわんや。
その他、妹たち、姪たちが幾人も登場するのですが、ロード・エムズワースはその誰に対しても気後れし、好きなように言いまくられるばかり。唯一の見方は老執事のビーチだけでしょう。世襲の貴族ともなるとそれでも済むのかと思いますが、小説の中だからこそと考えておくことにしましょう。

本書中、だらしなさ加減を目一杯発揮しているのが「ブランディングズ城を襲う無法の嵐」。そして思慮不足の典型例ともいえるのが「セールスマンの誕生」
その点、次男フレディが主人公となる外伝格の「フレディの航海日記」では、八面六臂の活躍をみせるフレディの溌剌とした若者ぶりが楽しめて、これもまた楽しい。
「天翔けるフレッド叔父さん」は、“エムズワース”シリーズにも登場する、第五代イッケム伯爵という破天荒な人物を主人公にした短篇。これはまたエムズワースものとは異なる痛快な面白さあり。

いずれにせよ、本書は英文学好きな人向けのユーモア短篇集。噛めば噛むほど味が出てくるところも、英文学的。

南瓜が人質/伯爵と父親の責務/豚、よぉほほほほーい!/ガートルードのお相手/あくなき挑戦者/伯爵とガールフレンド/ブランディングズ城を襲う無法の嵐/セールスマンの誕生/伯爵救出作戦
/フレディの航海日記/(特別収録作品)天翔けるフレッド叔父さん
/(巻末付録)探偵小説とウッドハウス(真田啓介)/文体の問題、あるいはホームズとモダンガール(A・B・コックス)/訳者付言

       

3.

●「マリナー氏の冒険譚−P・G・ウッドハウス選集3−」● ★★
 
原題:"The Exploits of the Mulliners"     編訳:岩永正勝・小山太一


マリナー氏の冒険譚画像

2007年07月
文芸春秋刊

(2381円+税)

 

2007/08/20

 

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釣り師はほら吹きの名人と相場が決まっているのだとか。
その釣り師が集まる釣遊亭のバー・パーラーで、釣り師たち相手にマリナー氏が語り出す珍談・奇談の数々、という設定でのユーモア小説集。

大笑いするということはありませんでしたけれど、理屈なしに楽しい。読んでいる間ずっと愉快で、充実した楽しさを満喫できた読書時間でした。
冒頭こそこの程度かと思ったのですが、読み進むに連れその面白さがジワジワと増してきて、いつの間にかマリナー氏の世界に取り込まれてしまう、そんな作品集です。
ちょっとホラ的かなァと感じる面白さに、若い男女のロマンスに関わるドタバタ話というストーリィという組み合わせですから、気分好く楽しめるのは当然のことでしょう。

恋愛といっても、理想的な男女ばかりとは限りません。どちらかというと男側が気が弱く、女側ははっきりとした性格が多いように思えます。
その中でも圧巻なのが、姪ロバータ・ウィッカム。若い男性なら皆一目惚れしてしまうような美人なのですが、一旦付き合ったら誰もがもうこりごりと敬遠したくなる奔放ぶり。この痛快(?)なロバータものがまず計3篇。
その一方、気弱な青年だったのに、マリナー氏の弟ウイルフレットの発明になる“バック−U−アッポ”という強壮剤を飲むや一転して大胆な好漢になってしまうという、甥オーガスティン&主教ものが計3篇。
卵を産むメンドリの物真似が得意というアーチボルトものが計3篇。このアーチボルト、私は好きだなァ。
次いで、ハリウッドものが計3篇。
最後の「ストリキニーネ・イン・ザ・スープ」は、本好き、ミステリ好きには堪えられない展開です。
なお、特別収録「もつれあった心」はゴルフもの。ロバータ・ウィッカムに並ぶヒロイン、アグネス・フラックが登場。

序文(P・G・ウッドハウス)/
ジョージの真相/にゅるにょろ/お母様はお喜び/アンブローズの周り道/人生の一断面/マリナー印バック−U−アッポ/主教の一手/仮装パーティの夜/アーチボルト式求愛法/マリナー一族の掟/アーチボルドと無産階級/オレンジ一個分のジュース/スタア誕生/ジョージとアルフレッド/ストリキニーネ・イン・ザ・スープ
/(特別収録作品)もつれあった心
/(巻末付録)フランシス・ベイコンと「手直し屋」(P・G・ウッドハウス)/ピンクの水着を着た娘(P・G・ウッドハウス)/訳者付言

       

4.

●「ユークリッジの商売道−P・G・ウッドハウス選集4−」● ★☆
 
原題:"The Enterprises of Ukridge"     編訳:岩永正勝・小山太一


ユークリッジの商売道画像

2008年12月
文芸春秋刊

(2476円+税)

 

2009/01/14

 

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楽天的と言えば聞こえはいいが、それよりも、何でも自分に都合良く思い込んでしまうアホ、人の迷惑を顧みない身勝手かつ厚顔無恥と形容するのが最も相応しい、というのが、本シリーズのスタンリー・ファンショー・ユークリッジなる人物。
いくら失敗しても懲りることなく、あれこれ思いついては大儲け間違いなしと吹聴するものの、計画はいつも穴だらけ。当然その結果は大失敗、大損すら抱え込むというパターンの繰返し。
毎度毎度呆れる他ない、という類の英国らしい滑稽譚。

しかし、私が呆れるのはそのユークリッジのことより、主人公かつ語り手となる友人コーキー・コーコランのこと。
毎度毎度迷惑ばかりかけられ通しだというのに、突き放さず、寄って来られてはあるいは頼ってこられてはいつも協力してやるのですから、この交友関係にはほとほと呆れるばかり。
そしてもう一人の友人は、(常にコーキーを通して間接的にというところが見事だと思うのですが)外務官僚として出世コースを驀進中のジョージ・タッパー
一度学友となったからには、どんなことがあっても見捨てず、というのが英国精神なのでしょうか。ジーヴズもののバーティと共通するものを感じます。
それに対し資産家で作家でもある伯母=ミス・ジュリア・ユークリッジは、迷惑をかけられる度に怒って甥を家から叩き出すのですが、彼女のような反応こそが本来の筈。

そしてもう一人、本書で挙げない訳にはいかない登場人物が、“バトリング(闘士)・ビルソン”ことウィルバーフォース・ビルソン
彼を元にユークリッジが儲け事を企んではその度に予想外の行動に出て、ユークリッジの計画を水泡に来させてしまうという、善意溢れる人物。このビルソンの篇は特に可笑しい。
毎章毎章同じパターンの繰返しでいい加減にせい!と言いたくなるユークリッジでしたが、最後の「義理義理叔父さん」「成功物語」で大笑い。まぁ許してやろうか、という気持ちで読み終わりました。

ユークリッジの犬学校/ユークリッジの傷害同盟/パトリング・ビルソンのデビュー/ドーラ・メイソン救援作戦/バトリング・ビルソン再登場/男の約束/婚礼の鐘は鳴らず/ルーニー・クートの見えざる手/バトリング・ビルソンの退場/ユークリッジ虎口を脱す/メイベル危機一髪/きんぽうげ記念日/ユークリッジと義理義理叔父さん/ユークリッジの成功物語/(特別収録作品)晴天からの霹靂
/(巻末付録)ユークリッジと三人のモデル(N・T・P・マーフィー)/訳者付言

    

5.

●「比類なきジーヴス−ウッドハウス・コレクション1−」● ★★
 
原題:"The Inimitable Jeeves"        訳:森村たまき


比類なきジーヴス画像

2005年02月
国書刊行会刊

(2000円+税)

2007/12/21

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ジーヴスものコレクション、第1巻目=短篇に加筆して連作長篇の形に編み直した一冊です。

ところが何と!、この「コレクション」第1巻目の収録作品、すべてP・G・ウッドハウス選集1−ジーヴズの事件簿」(文芸春秋刊)で読んだ作品ばかりでした。
折角意気込んで読み出したものの、あれれ、どこまで進んでも読んだことのあるストーリィばかりだと、がっくり。

ジーヴス、小脳を稼働させる/ビンゴが為にウエディングベルは鳴らず(=ジーヴズの春)
アガサ伯母、胸のうちを語る/真珠の涙
(=ロヴィルの怪事件)
ウースター一族の誇り傷つく/英雄の報酬/クロードのユースタス登場/サー・ロデリック昼食に招待される
(=ジーヴズとグロソップ一家)
紹介状/お洒落なエレベーター・ボーイ
(=ジーヴズと駆け出し俳優)
同志ビンゴ/ビンゴ、グッドウッドでしくじる
(=同志ビンゴ)
説教大ハンデ/スポーツマン精神/都会的タッチ
(=トゥイング騒動記)/クロードとユースタスの遅ればせの退場(=クロードとユースタスの出帆遅延)
ビンゴと細君/大団円
(=ビンゴと今度の娘)

    

6.

●「よしきた、ジーヴス−ウッドハウス・コレクション2−」● ★★
 
原題:"Right Ho,Jeeves"        訳:森村たまき


よしきた、ジーヴス画像

1934年発表

2005年06月
国書刊行会刊

(2200円+税)

 

2007/12/29

 

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ジーヴスもの長篇としては2作目とのことですが、1作目の比類なきジーヴスは短篇をとりまとめて連作長篇としたものなので、長篇ストーリィとしては実質第一作目というべき巻。

短篇ジーヴスものと長篇ジーヴスものにどんな違いがあるかといえば、要は短篇を引き伸ばしたようなもの。
具体的にいうと、ジーヴスのご主人様であるバートラム・ウースターが、短篇ならすぐ引き下がるところを、長篇ではジーヴスが引き止めるのも聞かずしゃしゃり出て、その結果事態をさらに悪化させてしまうことの繰返し、という違いなのです。

まずは、悩みを抱えた友人、叔母たちがいずれもジーヴスの智慧を借りたいと訪れてきます。
(1)に友人ガッシー・フィンク=ノトルマデライン・バセット嬢に恋するという騒動、(2)に友人タッピー・グロソップと従姉妹アンジェラの婚約解消騒動、(3)にダリア叔母さんがバカラで身ぐるみそっくりはがされた後始末をめぐる騒動。
本書でのバーティ、「ジーヴスは巧緻に過ぎる」と大胆に言ってのけ、自分の提示する方策こそ直截的かつ論理的で完璧なものであるとばかり強引に最良の助言者役を買って出るのです。
しかしその結果といえば、あぁ、予想を裏切って事態をいっそう悪化させるばかり。
バーティにも同情する余地はあるのです。普通だったら、バーティの方策でうまくいったのかもしれません。しかし、バーティを囲む親族、友人らと言えば、いずれも相当に偏屈な人物ばかり。そのため坂を転げ落ちるように、とんでもない結果が次々と飛び出してくるのです。全てはバーティの洞察力不足といえば、その通りではありますけれど。

ただ、ジーヴスもの短篇をバーティのヘマで間延びさせただけ、やはり短篇の面白さに及ばないな、と感じるのです。
ところがどっこい、最後の最後、ジーヴスが出番を求められて鮮やかに采配を振るうやあっさりとトラブルが解決するばかりか、全員がそれに満足を覚えるという大団円。あぁ、しかし、ご主人様たるバーティがここまでコケにされて良いものか?!
でも、良いのです。バーティがコケにされる度合いが大きいのは長篇の面白さ故、必然的なことですから。(笑)

1.ジーヴス不興を示す/2.イモリの友フィンク=ノトル/3.ダリア叔母さん電報をよこす/4.夜明けの訪問者/5.失意のメフィストフェレス/6.バーティー乗り出す/7.ブリンクレイ・コート/8.サメとブタ/9.不実な従僕/10.詩人の愛/11.事態ますます混迷を深める/12.食料庫の邂逅/13.知恵者バーティー/14.令嬢アンジェラ/15.バーティー危機一髪/16.細工は上々/17.マーケット・スノッズベリーの寵児/18.誘惑者フィンク=ノトル/19.救い難きは女/20.天窓の怪人/21.ジーヴス復活/22.踊る使用人/23.終りよければすべてよし

   

7.

●「それゆけ、ジーヴス−ウッドハウス・コレクション3−」● ★★
 
原題:"Carry ON,Jeeves"        訳:森村たまき


それゆけ、ジーヴス画像

1925年発表

2005年10月
国書刊行会刊

(2200円+税)

 

2007/09/29

 

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ジーヴズの事件簿がすこぶる面白かったので、ジーヴスものコレクションもいっそ読んでしまおう、と思った次第。
本書はその「コレクション」第3巻目=短篇集です。

主人たるバーティまで思うように誑かし、一旦窮地に追い込んでから颯爽と救いの手を差し伸べることも度々という、人を喰ったような従僕ジーヴスの曲者ぶりが面白いこと請け合い!のこのシリーズ。
しかしこのジーヴスものには、もうひとつ別の面白さもあるのです。
それは、バーティがジーヴスに対する報償としてヘンテコ柄のスーツやピンクのネクタイ、さらにはひげまで諦めて剃り落とし、それに対してジーヴスが満足な表情をみせる部分。
この主従、いつも服装や見なりをめぐって対立することが多いようです。従僕のいいなりになってたまるかと、バーティはことさらに自分の思ったとおりを押し通そうとする。それに対していつもジーヴスは傷ついたような表情を見せるという(ジーヴスがそんな繊細な人間とはとても思えないのですが、これはあくまでバーティの観察によるもの)。ところが問題が起きるとバーティは必ずやジーヴスに頼りっきり、最後は決まってジーヴスの軍門に下るということの繰返し。
それこそ、このジーヴスものの面白さに他ならないのです。

本書中では、問題児の面倒を押し付けられてバーティが悩む「ジーヴスと招かれざる客」が抜群、大笑いしてしまう。
また、ここまでやるものかと、改めてジーヴスに呆れ返る思いをしたのが「刑の代替はこれを認めない」
いやはや、ジーヴスのしたたかな手並みには毎度呆れ返り、そのうえで笑ってしまうばかりです。
※なお、本書中に登場するお馴染みの名前は、アガサ伯母、オノリア・グロソップ嬢、その父親のサー・ロデリック

ジーヴス登場/コーキーの芸術家稼業/ジーヴスと招かれざる客/ジーヴスとケチンボ公爵/伯母さんとものぐさ詩人/旧友ビッフィーのおかしな事件/刑の代替はこれを認めない/フレディーの仲直り大作戦/ビンゴ救援部隊/バーティ考えを改める

  

8.

●「ウースター家の掟−ウッドハウス・コレクション4−」● ★☆
 
原題:"The Code of the Woosters"        訳:森村たまき


ウースター家の掟画像

1938年発表

2006年03月
国書刊行会刊

(2200円+税)

 

2008/05/28

 

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ジーヴスもの「コレクション」第4巻目にして、長編よしきた、ジーヴスの続編。

相も変わらず主人公バートラム・ウースター(愛称:バーティ)は身勝手な叔母、友人たちの犠牲となり、一人苦境に陥るという定例パターンのストーリィ。
よくもまぁ懲りずにいつもいつも他人に都合よく利用されるものだと、ホトホト感心するのですが、それにはれっきとした訳があります。
「汝、友を落胆させるべからず」(第1条)、「汝、女性の求愛を拒絶するなかれ」(第2条)というのが、ウースター家の掟であるため。
それが故に、どんなに理不尽だろうと友人の依頼をはねつけること叶わず、結婚を避けるためには婚約者との破談を許すまじ、という他ないのです。
本巻での難題は、ダリア叔母から命じられたウシ型クリーマーの奪回、親友ガッシーと婚約者マデライン嬢との破談阻止、これ以上自分勝手な存在はいないと思えるスティッフィー嬢と友人の副牧師スティンカーの婚約成就、スティッフイーとスティンカーのコンビによるオーツ巡査のヘルメット強奪事件の無事解決と、難題てんこもり。そのうえそれらの難題が相互に絡み合い、ますます複雑極まれり、という風。
そして苦境に陥るのは、いつも本来部外者であるバーティただ一人というのですから、なんとまぁ愚かしいことか。

長編ですからなかなかジーヴスの出番は回ってきません。ところが、一旦回るやいなや事態は滑らかに回転しだし、一気に事態は好転するのですから、出番僅かとはいえさすがにジーヴス!
今回は珍しくも、バーティが危機を脱するだけでなく、自分を苦しめた元治安判事にしてマデラインの父親かつスティッフィーの伯父であるサー・ワトキン・バセットに一矢報いることができるというのですから、目出度し。
そして最後、冒頭のバーティーとジーヴスの論争も完全なジーヴスの勝利にして終わるのですから、これまた愉快。

なお、君子たるもの、バーティの如くみすみす泥沼に足を突っ込むようなことは断じてしないことです。本書は、そんな教訓も感じる滑稽譚。

   

9.

●「でかした、ジーヴス!−ウッドハウス・コレクション5−」● ★☆
 
原題:"Very Good, Jeeves!"        訳:森村たまき


でかした、ジーヴス!画像

1930年発表

2006年07月
国書刊行会刊

(2200円+税)

 

2008/02/04

 

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ジーヴスもの「コレクション」第5巻目=短篇集。
そして、本書がジーヴスもの短篇集としては最後とのこと。

あいかわらず気の良い間抜け青年=バートラム・ウースター(バーティー)としたたかな従僕ジーヴスが、あらゆる愚かしさ溢れる困難をコンビで乗り切るユーモラス綺譚。
相変わらずバーティーは、モンテ・カルロでの休暇や船旅予定を急に取り止めてジーヴスの機嫌を損なったり、
「僕はいかなる提案も必要とはしていない、ジーヴス。僕はこの難問を自分で処理することができるんだ」とわざわざジーヴスの提案を押し留めてかえって窮地に陥り、
「僕は最初から君の導きに従っているべきだった」と後になってから悟る(「ジーヴスとクレメンティーナ嬢」)というように、今まで以上にジーヴス頼みの傾向は増しているようです。
そんなバーティーによくもまぁ賢明なるジーヴスが我慢していると思うのですが、愚かさを発揮する人物が多く集まるという点でウースター一族とその周辺に勝る存在はなく、それでこそ自らの力量を発揮して満足する場面があるというもの、というのがジーヴスの内心なのではないかと、想像する次第。

何もバーティーばかりが原因ではないのです。無茶苦茶な要求をいつも押し付けてくるアガサ伯母さん、ダリア叔母さんたちも問題人物。
その近親者2人のジーヴスに対する評価が正反対である点も、見逃せない愉快なところ。
アガサ伯母さんは、一族の重大な問題を従僕ごときに相談するなどとんでもないと言えば(「ジョージ伯父さんの小春日和」)、ダリア叔母さんはジーヴスへの信頼厚く、「ジーヴスなしのあんたが何の役に立つと思っているのよ」「愛はこれを浄化す」)と手厳しい。

本巻中ダントツに面白い「ジーヴスと迫り来る運命」「ジーヴスとクリスマス気分」は、ジーヴズの事件簿にて既読。
その他では、魅力的ではありますが身勝手さ相当なロバータ(ボビー)・ウィッカム嬢、忘れない恨みをもつ相手ながら依然として振り回されてばかりのタッピー・グロソッブの存在が、本巻では目立つところ。

ジーヴスと迫りくる運命/シッピーの劣等コンプレックス/ジーヴスとクリスマス気分/ジーヴスと歌また歌/犬のマッキントッシュの事件/ちょっぴりの芸術/ジーヴスとクレメンティーナ嬢/愛はこれを浄化す/ビンゴ夫人の学友/ジョージ伯父さんの小春日和/タッピーの試練

   

※ 国書刊行会“ウッドハウス・コレクション”ジーヴス・シリーズ 

6.「サンキュー、ジーヴス」 2006.11刊
7.「ジーヴスと朝のよろこび」2007.04刊
8.「ジーヴスと恋の季節」  2007.12刊
9.「ジーヴスと封建精神」  2008.09刊

 

P・G・ウッドハウス作品のページ No.2

 


      

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