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13.石を抱くエイリアン 14.ことづて屋 15.ことづて屋−停電の夜に− 16.アカシア書店営業中! 17.ことづて屋−寄りそう人− 18.この川のむこうに君がいる 20.南河国物語 |
【作家歴】、その角を曲がれば、フュージョン、トーキョー・クロスロード、レッドシャイン、碧空の果てに、白い月の丘で、木工少女、紅に輝く河、レガッタ!、レガッタ!2 |
夏休みにぼくが図書館で見つけたもの、with you、野原できみとピクニック、マスクと黒板、空と大地に出会う夏、シタマチ・レイクサイド・ロード、金曜日のあたしたち、はじまりは一冊の本!、となりのきみのクライシス、girls |
あたたかな手 |
11. | |
「くりぃむパン」 ★★ |
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小学4年の香里の家は、5世代同居の上に下宿人が2人いるという計11人の大家族。 その香里家に大晦日、突然やってきたのが本山父娘。 勤めていた会社が倒産して以降その父親は職を転々としており、今度住み込み社員として工場で働くことになったため、縁戚の香里の家を頼ってきたという次第。 香里と同学年生の未果は素直で明るい優等生タイプ。周囲の皆が皆、未果を褒めるのが香里としては気に入らない。 ある日クラスに未果が守銭奴という噂が広まり・・・。 さて、香里と未果の間に友情は芽生えるのか。 母親が病死し、その上父親の会社が倒産して、あちこちを転々としてきたうえでの見知らぬ家への居候。そんな辛い状況の中でも明るくしっかり者として振る舞う未果の姿は、健気で切ないものがあります。 一方、そんな未果といきなり較べられることになった香里の腹立たしい気持ちも無理ないこと。 本書は、香里が未果の切ない胸の内を理解し、友だちになるまでを描いたストーリィ。 その2人を繋ぐきっかけになるのが、近所にある昔ながらのパン屋さんで評判のくりぃむパン、という次第です。 小学校中高学年向けの児童書ですが、2人の小学生女子の微妙な立ち位置、心情が絶妙に描かれていて良いですよね。大人が読んでも感動できる佳作です。 |
12. | |
「レガッタ!3 光をのぞむ」 ★☆ |
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女子高ボート部を舞台にした青春部活ストーリィ「レガッタ!」の第3巻、完結編。 1年生から真剣に取り組んできたボートも残すところはインターハイ出場資格を得るためのレースと本レースのみ。 爽快な学園スポーツ小説もいつかは終幕が訪れるもの。そこをどうまとめるか次第で読了後の満足感あるいは達成感といったものが違ってくるのですが、その点、本物語は後味も爽快です。 ※小瀬木麻美「ラブオールプレー」をちょっと思い出すところがありました。その後も続く物語かどうかという違いはありますけど、共通するものがあることを感じます。 |
13. | |
「石を抱くエイリアン」 ★★ |
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1955年生まれの中学三年、15歳たち。その中学最後の1年間を描いて“希望”を問うた作品。 これから高校受験を迎える中3生が希望を持てないなんて何と寂しいことかと思いますが、今の社会状況を見るとあながち彼らを非難する訳にもいきません。どうすれば彼らに希望を持ってもらうことができるのか。 |
14. | |
「ことづて屋」 ★★ |
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地味で十人並以下の器量のうえに無類の方向音痴、というのが本書の主人公である山門(やまと)津多恵、22歳。 何ともファンタジーで、いつか何処かで読んだような気がするストーリィですが、ただ言葉だけを伝えるというのは珍しい設定かもしれません。 ただ言葉を伝えるだけなら平板なストーリィで終わってしまうところを、趣向を凝らすことによって彩のあるストーリィに仕上がっています。また、津多恵と恵介の迷コンビぶりが楽しい。 |
「ことづて屋−停電の夜に−」 ★☆ | |
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地味で冴えないフリーター女子のうえに無類の方向音痴である山門(やまと)津多恵が、イケメン美容師である大迫恵介のサポートを受けながら、死者から頼まれた伝言を様々な相手に届けるという「ことづて屋」第2弾。 登場人物もストーリィ趣向も前作どおりなので、特筆するようなことは無し。しいて言えば、多少ながら津多恵と恵介のコンビが深化しているのではないか、津多恵自身も少々成長したのではないかと感じることができます。 「小さな騎士」:亡き父親から5歳の息子への伝言。 「隠し場所」:亡き夫から認知症の老妻への伝言。 「灯籠流し」:戦禍によって仲直りできないままとなっていたかつての女学生からかつての友達への伝言。 「本の虫」:故カリスマ書店員から現役書店員への伝言。この篇は、本好きへの洒落たプレゼント、と感じます。 「悪魔との取引」:読み手の好み次第かも。 「停電の夜」は、かつて恋人だった青年から、その相手であった女性への伝言。3.11東日本大震災が重要な鍵となっています。 人への愛しさをしみじみと感じられる篇。ラブ・ストーリィでもあります。 小さな騎士/隠し場所/灯籠流し/本の虫/悪魔との取引/停電の夜 |
「アカシア書店営業中!」 ★★ |
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小学校高学年向き児童書。 主人公である本好きの小学5年生=大地が住む町には、本屋さんが今も一軒だけあります。その店の名は「アカシア書店」。その店の良いところは子どもの本コーナーがあって子どもの本が充実しているところ。 ところが2代目店長は子どもの本に関心がないらしく、子どもの本コーナーを縮小してグッズ販売を広げようとしている様子。 このまま手をこまねいている訳にはいかないと、大地は本好きの友人=智也、同級生でやはり本好きの真衣、琴音と協力して子ども本の売り上げアップに協力しようと思います。 子供時代から本が好きだった本好きには、興味を引き付けられずにはいられないストーリィ。 私が住む周辺地域でもずいぶんと書店が閉店になりましたし、図書館利用派としては申し訳ない思いが多分にありますが、書店はぜひ町にあって欲しいもの。 また、子供たちにはぜひ本を読む楽しみを知ってもらいたいし、本好きが少しでも増えてほしいと思うところです。 その意味で、大人目線ではなく、子供たちがどうすれば子ども向け本の売り上げを伸ばすことができるだろうかと知恵を絞り行動に移す本ストーリィは、嬉しくもあり、頼もしくもありといった読み応えがあります。 ふと、やはり本好きだった自分の子供時代が懐かしくなるなぁ。 |
「ことづて屋−寄りそう人−」 ★★ |
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死者から依頼を受けた山門津多恵が、イケメン美容師の大迫恵介にサポートされながら、その伝言を指定された相手に届けるという“ことづて屋”シリーズ第3弾。 第3巻にまで至ると、津多恵と恵介のコンビも息もぴったり合ってきて、伝言を届け終わった去り際に「恋人同士なの?」と聞かれることも度々となっています。 また、津多恵本人にしてもひどい方向音痴であることは相変わらずにせよ、第1巻の頃に比べるとすっかり落ち着いてきたなぁという印象を受けます。 つまりは津多恵の成長ということですが、そんな津多恵の成長ぶり、きれいと言われるようになったその様子が、ファンとしてはとても嬉しい。 ・「モテ男の背中」:同一青年に何と女性3人目からの伝言。 ・「連獅子」:反目していた父親から息子への伝言。 ・「塞翁が馬」:単なる同級生に過ぎなかった彼から、思いがけない感謝の伝言。 ・「海のかなた」:東日本大震災で行方知れずとなったままの女性から今も待ち続けている恋人への伝言。 ・「それも愛ゆえに」:伝言の届け出先は、思いもよらなかった相手。本シリーズを締めるに相応しい、読み応えたっぷりの篇です。 本書の最後では、津多恵と恵介という2人の前に明るい道が開かれていることが示唆されて終わっています。 死者の伝言という重たい荷物を背負い続けている津多恵にも、幸せが訪れて欲しいと思うのは当然のこと、ですからこの幕切れは嬉しい。 濱野さん曰く「物語としての「ことづて屋」はこの巻で終わり」とのこと。惜しむ気持ちを抱きつつ、津多恵と恵介2人の未来に幸あれと心から祈ります。 モテ男の背中/連獅子/塞翁が馬/海のかなた/それも愛ゆえに |
「この川のむこうに君がいる」 ★★☆ | |
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東日本大震災の被災者である女子高生=岩井梨乃が主人公に、被災者が今も抱える心の痛みと、彼女の新たな一歩を描く長編作。 家族で宮城県から引っ越した先の埼玉県戸田市の中学で、被災者として特別視されたことに苦痛を感じ、梨乃はわざわざ都内の私立高校を選んで進学。 そこで、中学で入りたかったのに当時の事情からできなかった吹奏楽部に入部し、新たな仲間たちを得ますが、自分が被災者であることは隠したまま。 しかし、同じ1年生部員の紺野遼は、原発被害で福島から引っ越してきた被災者であることを公言しており、梨乃は自分との距離を感じてしまう。 被災を現実に経験していない人に自分の苦しさはとても理解してもらえないという鬱屈、同じ「被災者」といってもそれぞれの状況はいろいろ違いがあるという事実、兄を亡くしたショックを今も引きづり続けている母親の存在、普通の生活を送りたいのにどこか息を潜めるようにして日々を過ごしている梨乃の今が、リアルに語られます。 そうした中で、吹奏楽部の部活に熱心に取り組むうち、梨乃の心境に変化が生まれていきます。 気持ちを通じ合える相手を得られたこと、信頼できる仲間たちを持てたことが梨乃の心を溶かしていく。 梨乃の心の変化が、心から嬉しい。 我々に何かが出来る訳ではなく、結局は本人自身に足を踏み出してもらう他ないのですから。 題名にある「川」とは、人間同士の間にある距離を示すもののようです。しかし、その向こうにいる人間をしっかり見ることができたとき、川を越えて繋がりあうことができるようになる、本書題名はそんなメッセージを伝えているのではないでしょうか。 主人公たちに心からのエールを贈りたくなる青春ストーリィ。 梨乃たちの健やかな心に、心を洗われる気がします。お薦め。 |
「谷中の街の洋食屋 紅らんたん」 ★☆ | |
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面接が苦手の奈留美は、ことごとく就活に失敗。 美容室レインで店員募集中と聞いて扉を叩いたのが、小さな洋食屋<紅らんたん>。 店員は、料理担当の真崎さん(見た目40代、無口)と、コーヒーを美味しく淹れるのが上手い千佳さん(74歳)、そして奈留美の3人のみ。 そして料理も、絶妙な味のハヤシライスとパスタ2種、ミックスサンドという4品のみ。 そんな洋食屋の常連客は、近所に住む年配者ばかり。 本作は、<紅らんたん>の店内外で奈留美が目にする、年配者たちの人生ヒトコマと言うべき日常の出来事を描く、奈留美にとってはちょっとばかり人生勉強になる、短篇集。 特徴は何と言っても、年配者たちのストーリィであるところ。子供や若者主体の作品が多い濱野さんとしては、まず珍しい一冊と感じるところです。 でもいまや高齢化社会、元気な年配者や、一人暮らしの寂しさを囲っている年配者もいたりしますから、こうした短篇集も至極当然と感じます。 千佳さんが、心優しい上品な老女というより、辛辣で皮肉屋でもあるところが、スパイスの効いた短篇集となっていて魅力を感じます。 私の記憶からすっかり飛んでいたのですが、本作中に何度か登場する美容室<レイン>、“ことづて屋”3作に登場する美容室とのことです。 したがって、イケメン理容師と呼ばれているのは大迫恵介、オーナーは当然竹沢怜という2人。 実はこの<紅らんたん>、既に“ことづて屋”シリーズに登場していて、同シリーズから派生した物語、なのだそうです。 勝手な想像ですが、他にも谷中にある店を舞台にした作品がまた描いてもらえれば、“谷中シリーズ”になるのにと想像を巡らせます。 プロローグ/1.古い手紙/2.恋模様/3.夢枕に立つ人/4.母と娘/5.千佳さんの休日/6.怪我の功名/7.汚部屋の住人/8.ワトソンがんばる/エピローグ |
「南河国物語−暴走少女、国をすくう?の巻− Nangakoku story」 ★★☆ | |
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古代中国を舞台にした歴史ファンタジー。 主人公の紅玉は15歳の娘。 父親の唐賢良は飾り職人でしたが、愛し合って駆け落ちしたのは豪商の娘=李翠玉。紅玉という娘を得たものの、父親の李庚成は強引に翠玉を連れ戻したばかりか、賢良の仕事を邪魔し、おかげで賢良は肉体労働で生活の糧を得てきたという具合。 その賢良・紅玉の父娘が都へ出てきた処、賢良が「雷将軍」と異名をとる大将軍=郭秀良の瓜二つだったことから、捕らえられ身代わりにされることに。そして紅玉はというと・・・。 副題に「暴走少女」とありますが、これはもちろん紅玉のこと。 とはいえ具体的なイメージが浮かばなかったのですが、実際に本作を読んでみると、すこぶる面白い、面白過ぎる! まず、紙芝居的にストーリィ展開のキレ、テンポがいい。 そして主人公の紅玉、僅か15歳だというのに頭の回転が良いうえに、抜群に度胸がいい。 郭将軍やその部下の楊士敬、アホな皇太子の慶徳、抗争中の蒙呂族の仙術使い弟子=周逸、そして蒙呂族長の娘である紫蘭まで、まさに<手八丁口八丁>どころか<口十六丁>と嘘泣きでころっと手玉に取ってしまうのですから、いや痛快、痛快過ぎます。 このヒロインの武器は剣術ではなく、頭と口と度胸、そしてちょっぴり仙術も習得、ですから気持ち好く笑えます。 大人が読んでも子供が読んでも、絶対に面白い!こと請け合いです。お薦め! ※濱野京子さん、実にお見事です! 1.飾り職人唐賢良、都に上り、娘とともに酒場で歓待を受く 2.賢良、騙りの罪で捕らわれ、紅玉と生き別れる 3.紅玉、都の商場で腕飾りをねだり、雷将軍を唸らせる 4.賢良、泣く泣く雷将軍の命に従い、鎧を身にまとう 5.紅玉、芙蓉夫人の元で手習い修業をし、侍女たちの妬みを買う 6.賢良、趙勇翔にしごかれ、郭将軍は紅玉の進言で職人仕事に精を出す 7.郭将軍、病を押して出陣し、緑河の戦いに臨む 8.紅玉、雷将軍に連れられ東宮に入り、美貌の太子に見える 9.紅玉、太子を作り話で惑わし、銀雀台の祝宴で卓をひっくり返す 10.寧徳、紅玉を我がものにせんとして果たせず、紅玉は間諜を見んと牢を訪う 11.洞仙、危機を察し周逸を召還し、紅玉は紫蘭の顔を見る 12.周逸、紫蘭を太子に売り込み、賢良は生き別れた妻と出会う 13.紅玉、せがんで郭将軍より手鏡を得、将軍はお忍びで茶屋に遊ぶ 14.太子、たぶらかされて出奔し、皇帝は蒙呂攻略の命を発す 15.太子、第二の袋を開き、雷将軍は病を理由に出陣を渋る 16.紫蘭、愛の証に玉をわたし、太子は第三の袋を開ける 17.紫蘭、紅玉に斬りかかり、士敬は周逸と技比べをする 18.太子、皇帝の御前にて面目を施し、白蓮は楊士敬と周逸に近づく 19.太子、紫蘭に弓の手ほどきを受け、紅玉には危機がせまる 20.紅玉、崖際に立たされて大泣きし、太子の矢は大きく狙いをはずす 21.紫蘭、蒙呂に帰還し、郭将軍は唐賢良を従えて李家を訪ねる 22.紫蘭、戦場を走って劣性を挽回し、翠玉は娘と再会す 23.皇帝は戦況の膠着に倦み、皆みな、月を見上げて思いにふける 24.太子、河岸にて矢面に立ち、紅玉は砂金を緑河に流す |
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