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11.キネマトグラフィカ 12.さよならの夜食カフェ−マカン・マラン おしまい− 13.アネモネの姉妹 リコリスの兄弟 14.鐘を鳴らす子供たち 15.お誕生会クロニクル 16.最高のアフタヌーンティーの作り方 17.星影さやかに 18.二十一時の渋谷で−キネマトグラフィカ− 19.山亭ミアキス 20.百年の子 |
【作家歴】、快晴フライング、十六夜荘ノート、風の向こうへ駆け抜けろ、痛みの道標、マカン・マラン、花舞う里、フラダン、女王さまの夜食カフェ、蒼のファンファーレ、きまぐれな夜食カフェ |
東京ハイダウェイ、最高のウェディングケーキの作り方 |
「キネマトグラフィカ Kinematographica」 ★★ | |
2022年03月
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老舗映画会社に入社した“平成元年(1989)組”と呼ばれた同期の男女6人。その入社から2018年の現在に至るまでの彼らの軌跡、そして彼らの4年目当時を回想として描く連作風長編。 6人の内4人は営業部に配属され、ローカルセールス、つまり地方の映画館を廻り、自社が手掛けた作品を上映してもらうという営業担当。 ・仙道和也は元山岳部。平凡なただのオヤジにだけはなりたくないと考えている。 ・水島栄太郎は映画好きで詳しく、自分こそ有用な人材と自負。それなのに現実はここでも余り者扱い。心を病んでいく。 ・葉山学はいい加減な男。楽ちんで楽しければそれでいい、という考え方。ちっとも学ばないところから仇名は「マナバヌ」。 ・北野咲子は初の女性総合職。映画に詳しい上に美人、努力家。しかし、いつも「女性」扱いされることに鬱積は絶えず。 ・小笠原麗羅は縁故入社の帰国子女で、咲子と同じ初の総合職、国際部配属。孤立を恐れず、旧弊なやり方を打ち破っていく。 ・小林留美は短大卒で、欠員補充の採用。25歳で結婚・子供2人が親から植え付けられた目標。しかし、相手を見つけられず。 仕事に夢、そして自分の能力を信じて、会社に入社してくるものだと思います。 しかし、現実は思ったより厳しく、夢ばかり語っていられないもの。そして、自分自身はというと格別な能力はなく平凡な一社員に過ぎないと思い知らされるもの。 本書に登場する6人、ことごとく性格もタイプも異なるという設定。したがってそれぞれの26年間も実に様々。 彼らの背景に、映画業界そのものの衰退がリアルに描き出されるところが興味尽きないところ。 主役は上記6人と言いつつも実際に印象が強いのは、“女性”というレッテルを貼られて我慢を重ねつつ、プロデューサーという地位を手に入れた咲子と、彼女の盟友である麗羅の2人です。 女性総合職のフロントランナーであった彼女らの苦労は、今からすると涙ぐましいばかりですが、といって現在でもその苦労が全く無くなったとは言えないように思います。 振り返るのは、また新しく踏み出すためであって欲しいと、信じたい。まだまだ人生は続くのですから。 2018年 桂田オデオン/1992年 発端 登録担当 小林留美/1992年 リレーその1 北関東担当 水島栄太郎/1992年 リレーその2 関西担当 仙道和也/1992年 リレーその3 東海担当 葉山学/1992年 リレーその4 九州担当 北野咲子/1992年 到着 海外事業担当 小笠原麗羅/2018年 桂田オデオン |
「さよならの夜食カフェ−マカン・マラン おしまい−」 ★★ | |
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“マカン・マラン”シリーズ第4弾にして最終巻。 最終巻と聞いただけで、寂しいなぁ。 温かくて、居心地が良くて、どんな人間であっても包み込むように迎え入れてくれる場所・・・マカン・マラン。 それはストーリィの中、登場人物だけに限られるものではなく、読者に対しても同様だと思うのです。 この場所に行けば、その場所に頁の中で触れるだけでも、自然と元気が出てくる、そんな場所、そんな作品です、マカン・マランは。 ですから、もうシャールやジャダらドラァグクイーンたち、マカン・マランに集う仲間たちに会えなくなるのだと思うと、寂しい限りです。 他の場所(本)では、会うことのできない人たちなのですから。 改めて本シリーズの魅力を思い返します。 シャールという懐の深い人物の魅力、マカン・マランで供される身体に良さそうでかつ美味しそうな料理の数々、そしてシャールが客たちに捧げる含蓄ある言葉の数々。 願わくば、スピンアウトでも何でもいいですから、いつの日かまたシャールや仲間たちに再び相まみえたいものです。 ・「さくらんぼティラミスのエール」:主人公は、学校友達からいつか仲間外れになっていたと気付いた秋元希実。 ・「幻惑のキャロットケーキ」:日本料理界の革命児と自負していたもののSNSで炎上し、窮地に追い込まれた芦沢庸介。 ・「追憶のたまごスープ」:トロフィーワイフの座を獲得したと思っていたのに心許ない座だと悟った若妻の平川更紗。 ・「旅立ちのガレット・デ・ロワ」:クリスマス〜大晦日、マカン・マランの仲間たちは今・・・。 1.さくらんぼティラミスのエール/2.幻惑のキャロットケーキ/3.追憶のたまごスープ/4.旅立ちのガレット・デ・ロワ/謝辞(あとがきに代えて) |
「アネモネの姉妹 リコリスの兄弟」 ★★☆ The sister of Anemone, the brother of Lycoris. |
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必ずしも良好とばかり言えない兄弟姉妹関係、ネットの<花言葉診断>による言葉を絡めて描いた6篇。 共通して感じることは、第一子と第二子の違い。 親からすると、初めての子だから神経質になるし、過剰干渉になりがち。それに対して第二子となると、どうにかなるだろうとやや放任がち。 私も第一子なのですが、まず自分のこと。で結果的にそれが子供の基準値になってしまうのですよね。それを第二子はどう見るのやら。 各篇で主人公たちが受け取る、花言葉診断の言葉、どんなことを意味しているのか、ストーリィにどう絡むのかという興味も膨らみ、秀逸です。 そして、兄弟姉妹という関係にも、様々な姿、様々な思いがあることが描かれていきます。 一口に兄弟姉妹といっても、必ずしも家族らしい親密な関係があるとは限りませんし、すれ違いもあれば、癒しようのない断絶もあります。 そうした中で、各自の色濃い人生ドラマも端的に、余すところなく描き出している処が、上手い! 古内さん、流石です。 なお、痛快な面白さを感じたのは、最終話「カリフォルニアポピーの義妹」。姉弟以外の登場人物である女性=キャロのユニークさ、力強さにすっかり魅了されました。 1.アネモネの姉妹/2.ヒエンソウの兄弟/3.マツムシソウの兄妹/4.リコリスの兄弟/5.ツリフネソウの姉弟/最終話.カリフォルニアポピーの義妹 |
「鐘を鳴らす子供たち」 ★★ | |
2023年08月
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戦後大ヒットしたNHKの連続ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」をモチーフにしたフィクションとのこと。 その「鐘の鳴る丘」、流石に私の生まれる前のことですから聴いたことはありませんが、そうしたラジオドラマがあったということは聞き覚えがありますし、主題歌の「鐘が鳴ります キンコンカン」という歌も冒頭のメロディーは覚えがあります。 食べるものが少なく子供たちも未だひもじい思いをしていた戦後すぐの日本社会で、教諭の菅原に導かれた小学生たちは、菊井一夫脚本のラジオドラマに出演することになります。 全くド素人の子供たちが特訓を受けたりして訳の分からぬままドラマで登場人物の声を演じるのですが、そのラジオドラマは日本全国の大人や子供たちに希望をもたらしていく。 ラジオドラマに出演した子供たちの葛藤、成長も読み応えがあるのですが、単に事実をなぞったストーリィに終わらなかったのは、これからの時代を担う子供たちにその覚悟を質すストーリィになっているからだと思います。 その象徴と言えるのが、公開生放送の場面。 大人に頼らず自分たちのことは自分たちで決めようという熱い叫びは真に圧巻です。 ただ、その子供たちの熱い思いをその後の子供たちである我々が受け継いでいったのかと問われると、ちょっと申し訳ないような気になります。 一方、そんな子供たちの純真な思いが叶えられるよう、大人はそれに応えていかなければならないのではないか、という責任を強く感じます。 昭和四十八年 春/昭和二十二年 五月/テスト/特訓/伏兵/配役/予行練習/闇市/本番/最後の一人/涙/取材/異変/秘められた思い/『鐘の鳴る丘』/昭和四十八年 春 |
「お誕生会クロニクル Happy Birday to you」 ★★ | |
2024年03月
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お誕生会、誕生日をモチーフにした連作短篇。 年代の違いもあり、男子ということもあり、お誕生会、誕生日と言われても、どうもピンときません。 娘に聞くと小学校の頃1度したことある、とのこと。子供のことは家人任せでしたから、やはりピンと来ずです。 なお、誕生会等がモチーフといっても、友達や同級生間の問題ではなく、結局は親子の問題に帰結するようです。 本作はそんなストーリィを描いた連作短編集。 ストーリィにピンと来ずとも、構成、ストーリィの運び方は流石に上手い、と感じます。 とくに登場人物が各章で交錯し、主要人物を主観・客観の両面から描いているところが嬉しい。 ・「万華鏡」:主人公は小学校の図工専科教員=岡野尚子。勤務する小学校でお誕生会禁止。でも、尚子はお誕生会をしてもらったことがない・・・。 ・「サプライズパーティー」:親会社から系列の印刷会社に出向中の宇津木湊。姪のお誕生会に振り回されたおかげで・・・。 ・「月の石」:ヤンママの佐藤美優。娘の誕生会を盛大にと意気込んで大失敗。しかし、失敗して学んだことも・・・。 ・「ビジネスライク」:女性ファッション誌<メイリー>で唯一の男性編集者=広崎健吾。いつもビジネスライクというその姿勢の裏にあったものは・・・。 ・「ドールハウス」:中堅出版社人事部長の市山孝雄。娘の誕生日プレゼントにドールハウスを手作りしたのですが・・・。 ・「あの日から、この日から」:働きながら二卵性双生児の男の子を育児中の遠野多香美。2人の誕生日を巡って実母と諍いしたことから、孤軍奮闘中。 ・「刻の花びら」:小学校教師の西原文乃。痴呆化した母親の面倒をみているが、母と弟には密かに怨念もあり・・・。 万華鏡/サプライズパーティー/月の石/ビジネスライク/ドールハウス/あの日から、この日から/刻(とき)の花びら |
「最高のアフタヌーンティーの作り方」 ★★ How to make your afternoon tea the best ever |
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自分の夢に向かって頑張っている人たちにエールを贈る連作ストーリィ、と言って良いと思います。 舞台は、広大な庭園を魅力として持つ老舗の桜山ホテルにて、“アフタヌーンティー”を堪能できるティールーム。 主人公の一人は、アフタヌーンティー開発を夢見て桜山ホテルに就職、ようやく宴会担当から<アフタヌーンティーチーム>への異動を勝ち取り、張り切っている遠山涼音(すずね)、29歳。 もう一人は、桜山ホテルに転職して5年、チーフ・パティシエを務める飛鳥井達也。イケメンだが人と打ち解けないところがあるのは、ある秘密を抱えているから。 その2人が交互に主人公となり、同僚や常連客らと絡みながら綴る、仕事への熱意、人生の苦み等を描いたストーリィ。 軽食とお菓子&お茶という贅沢なひと時を愉しむ“アフタヌーンティー”についつい魅せられてしまいます(文章だけでは今一つですが、そこは誘われるように想像力を駆使して)。 そして多彩な登場人物たちが、アフタヌーンティーを巡る同好の士の集まりのように感じられて楽しい限り。 でも本作、決してフワフワと楽しいだけのストーリィではありません。涼音も達也も、陰口に苦しんだり、今もその裏切りに忘れられないでいます。 自分の思いもしなかった思い、考え方に触れ、新しい見方を我が手に掴む。それが新たな推進力となって、さらに自分を今一歩、高みにむかって前進させることができる、という展開。 読了後は、すっきりして、極めて気持ち良い思いです。 いつか私も、アフタヌーンティーのひと時をゆっくり楽しんでみたいものです。 1.私のアフタヌーンティー/2.俺のアフタヌーンティー/3.彼女たちのアフタヌーンティー/4.彼たちのアフタヌーンティー/最終話.私たちのアフタヌーンティー |
「星影さやかに」 ★★ | |
2024年07月
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戦中から戦後にまたがり、宮城県北部古川にある旧家の家族の姿を連作風に描いたストーリィ。 主人公の良彦は次男、3歳下の妹である美津子と仲が良い。 しかし、父親の良一は東京で中学の英語教師をしていたが、心病んで家に戻って以来部屋に籠りっきり。 周囲から「非国民」として非難される父は、予科練に憧れる良彦からみても「情げねぇ」人。 そして、旧家の跡継ぎ娘だった祖母の多嘉子はいつも威張り散らし、母の寿子をこき使ってばかり。 順調とはとても言えない家族の有り様、そして各人の人物造形がくっきりしているので、戦中〜戦後という過去のストーリィでもそれなりに面白く読めました。 しかし、読み終えた後で何を訴えるストーリィだったのか、と振り返ると、ちょっと捉え難いところあり。 戦時中の苦難の物語か。それとも家族の物語だとすると、何故戦時中に舞台設定する必要があったのか。 結局本ストーリィは、家族一人一人の物語だったかな、と思います。 父親には、良彦には窺い知れない苦悩があった。また、母親は祖母にこき使われ、病んだ父親のために苦労を抱え込んでいるとしか見えなかったが、決してそれだけではなかった・・・。 そして鬼婆としか感じていなかった祖母は、実は義侠心も備えた女性だった・・・。 人には表からは見えない裏の面があること、生きるということは喜びだけでなく苦しさもあること、そして家族を守る責任の大きさを描き出したストーリィと思います。 どうぞじっくり、味わってください。 昭和39年−東京−/ 1.錦秋のトンネル−昭和19年−/2.泥鰌とり−昭和22年−/3.良人の薯蕷(とろろ)−昭和25年−/4.御真影−昭和26年−/ 昭和39年大晦日−古川− |
「二十一時の渋谷で−キネマトグラフィカ−」 ★★ In Shibya at 9pm Kinematographica |
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2023年09月
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「キネマトグラフィカ」の続編。 前作当時から映画会社の斜陽化はさらに進み、ついに<銀都活劇(略称:銀活)>も大手IT企業資本のマーベラスTV傘下に入ることが決定済。 営業譲渡だから業務体制・内容は変らないというのが上層部の説明でしたが、実情は既に早期退職者の募集が始まっている、という状況。 そうした中、DVD宣伝チーム長の佐原江見(40代半ば・バツイチ・子供なし)は、どうせならやりたいことをやろうと、かつて北野咲子がプロデュースしたヒット映画「サザンクロス」のDVD再発売とそれに関わるイベントを企画します。 本作は、その佐原江見とその発案企画を中心軸として、かつての“平成元年組”の生き残りであり今はグループ長である葉山学、既に退社した小笠原麗羅と北野咲子、江見の部下である新世代の若林令奈、江見にやたら敵愾心を燃やす官僚体質の野毛由紀子らを描いた群像劇。 登場する各篇の主人公たち、一見順風満帆に見えるようでも、実はそれぞれに壁を抱えています。 自分は仕事に何を求めるのか、自分の生き方に箍をはめてはいないか、を問うストーリィ。 先行き不透明な現代社会だからこそ、胸に届き、共感する問題でもあります。 なお、江見を敵視し、やたら張り合おうとする野毛由紀子という中年女性像がユニーク。「権力こそ正義」って、いったい何時の時代の話か、等々。 「キネマトグラフィカ」と併せての読書をお薦めします。 開幕.バック・トゥ・ザ・ナインディーズ/2.令和戦線異状あり/3.ゆとり羊は90年代の夢を見るか?/4.女も男もいない舗道/5.あおさぎ、たちずさんで/6.第三の女/閉幕.時をかける我ら |
「山亭ミアキス(さんてい) Hotel Miacis」 ★☆ | |
2024年01月
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各篇主人公たちがたまたま迷い込んだ、山中の不思議な宿<山亭ミアキス>。 迎え入れる従業員の振る舞いはどこか調子外れ だが、超絶美形のオーナーに、シェフが提供するアイルランド料理は超美味。 しかし、泊ると思いも寄らぬ酷い目に遭わされる。 後になって調べてみると、東北南部に位置するこの一帯の山地の名前は“猫魔ヶ岳”と言い、古くから妖力を身につけようとする猫たちが集まって修業する場所、という伝説があるらしい。 言わずもがなですが、宮沢賢治「注文の多い料理店」を思い出させられますね〜。 でも、ただ酷い目に遭うだけではありません。その結果として各主人公、前に向かって新たに踏み出すことになります。 そうであれば、良しとすべきなのでしょう。奇貨と思えるかどうかは各主人公次第。 ・序:幼女の危機を黒猫は救えず・・・。 ・「競わせる女」:木島美沙・37歳、中堅芸能事務所でチーフマネージャー。トラブルの始末を社長から押し付けられ・・・。 ・「逃げる男」:綿引清人・27歳、事実上のヒモ暮らし。相手から妊娠と責任を突き付けられ、慌てて逃げ出しますが・・・。 ・「抗う女」:寺本由香子・40歳、成功できる筈だったのに今やすべてうまくいかず・・・。 ・「隠れる少年」:中園健斗・高2、顧問教師の圧力からブラック化した部活。ついに耐えられず合宿を抜け出し・・・。 ・「背負う女」:五十嵐苑子・28歳、母親からも誰からも否定され続けてきた人生、思わぬ妊娠で決意したことは・・・。 ・終:修業を終えた黒猫は・・・。 序/1.競わせる女/2.逃げる男/3.抗う女/4.隠れる少年/5.背負う女/終 |
「百年の子」 ★★☆ | |
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登場する大手総合出版社<文林館>は、小学館がモデルなのでしょう。 小学生の子どもたち向けに戦前から出版された“学年誌”。 その出版史と、女性や子どもたちに向けた熱い気持ちの籠った、長篇ストーリィ。 令和の現在、主人公の市橋明日花(28歳)は、女性ファッション誌編集部から突然、文林館創業百周年記念の<学年誌創刊百年企画チーム>行きを命じられ、悄然とします。 かつては勢いのあった学年誌も、今は「学びの一年生」が残るのみ。他の3人のメンバーも学年誌関係のベテラン社員ばかりで、活気は全く感じられず。 何で自分が、とモチベーションも下がっていた処で偶然発見したのは、戦時中に採用された臨時職員の中に、自分を可愛がってくれた祖母=鮫島スエの名前。 祖母は若い頃、自分と同じく文林館で働いていた!? そこから学年誌に関心を抱いた明日花は、企画事業にも前向きになっていく・・・。 明日花を主人公にした令和の時代、祖母のスエを主人公にした戦中の時代、そしてかつて学年誌の編集者として大活躍した野山彬を主人公にした戦後の時代と、令和と昭和の2つの時代を並行して描いたストーリィ。 「人間の歴史は百万年。子どもの歴史は百年」という言葉が、本作の内容を象徴しています。 大本営の命令下に、子ども達を欺く言葉を書き連ねていた戦中の学年誌の有り様を反省し、子どもたちの為になる学年誌を作る、その蔭に名も知れぬ女性たちの活躍があったことを、本作は描き出しています。 そうした書物がどれだけ子どもたちの成長を後押ししてきたことか。 現代はSNS、ゲームが子ども達の興味の中心なのかもしれませんが、本は、それらにはない熱い思いのこもった、力のある存在であることを、あらためて感じた次第です。 是非読んでいただきたい、良書です。 令和三年 春/昭和T−昭和十九年(1944年)/令和三年 初夏/昭和U−昭和二十年(1945年)/令和三年 夏/昭和V−昭和四十二年(1967年)、−昭和四十三年(1968年)/令和三年 夏/昭和W−昭和四十五年(1970年)/令和四年 夏 |
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