激動の20世紀、植民地時代のビルマ、インド、マレーシアをまたぎ、3世代にわたる3家族の歴史を描いた長篇小説。
始まりは1885年、ビルマの首都マンダレー。大英帝国の侵略によりビルマ王国は倒壊。その激変の最中、インド人孤児の少年ラージクマールは王妃の侍女ドリーと運命的な出会いをする。
大英帝国の植民地となったビルマでラージクマールは、中国人孤児だったサヤー・ジョンの助力を得て木材業で成功者となり、ドリーを追い求めてインド西岸のラトナギリまで赴く。そこはビルマ国王一家が蟄居せしめられた地。今なお侍女として仕えるドリーを励ましてラージクマールとの橋渡しをしたのは、インド人収税官の妻ウマ。
それまでを本物語の始まり部分として、それ以降ビルマのラージクマール一家、マラヤのサヤー・ジョン一家、長い米国暮らしを経てインドに帰国したウマとその甥・姪と、3代にまたがり密接に関わり合う3家族を主人公に、アジアの激動の時代を描く壮大なストーリィ。
本書の魅力のひとつは、今まで読んだことのない近代史ストーリィであること。
第二次大戦前後においてアジア諸国がどういう状況に置かれていたかは、精々高校の世界史で植民地支配を受け、戦後独立を果たしたという程度の知識しかありませんでした。
それを描く、それもインド、ビルマ、タイ、マレーシアという数カ国を俯瞰した物語。本書を読んで、大英帝国から同じく植民地支配を受けていたといっても、各国の置かれた状況は相当に異なるものであったことは、本書により初めて実感したこと。
(※なお、本書のおかげでインド、ミャンマー、タイ関連の政治社会記事さえその背景が判って面白くなる気がするのです。)
もうひとつの魅力は、物語として抜群に面白いこと。
ストーリィの舞台は自在に国境を越え、登場人物たちは軽々と国境、人種を越えて恋し、生きていきます。そして物語はスピーディに進展していく。それは3家族を一応の主人公としつつも、本当の主役は激動時代のアジアの国々そのものである、と言わんばかりです。
さらに、実在のマハトマ・ガンジー、インド国民会議派、最後にはアウンサンスーチー女史の名前まで飛び出してきて、物語は臨場感に富み、その読み応えたるや相当なものです。
歴史の激変の中に翻弄された人々を描いた数々の名作「戦争と平和」「風と共に去りぬ」、最近の「コールドマウンテン」らにも勝るとも劣らぬ名作。また、20世紀アジアを舞台にした壮大な作品という点では類稀な傑作といえる作品です。是非お薦め!
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