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交響曲第10番ホ短調 op.93 - 第1楽章
last updated: 2001.4.4

交響曲第10番概説 ▼第二楽章

第一楽章概説

●旋法と歌と踊りの3つの主題

  1. 全曲の基本動機:旋法(奏する低音弦楽器の音色によって増幅される哲学的暗さを伴う)
  2. 第一主題:哀歌
  3. 第二主題:死のワルツ(乾いた皮肉な調子の踊り)

3つの主題がソナタ形式にそって組み合わされ弓形のドラマを作る。 思索的な暗さと哀歌と皮肉な調子という3つの特徴は、第十番のみならずショスタコーヴィチの音楽の特徴ともいえる。

全曲の基本動機

交響曲第10番第1楽章冒頭

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EF#G|D#F#Aと上昇する3つの音2組からなる。直後に総休止を伴い、(ベートーヴェンの第五番同様)はっきりと提示される。チャイコフスキー「悲愴」、ムソルグスキー「ボリス・ゴドノフ」それぞれの冒頭を想起する。

全体として大変良く似たモチーフがムーソルグスキの歌曲「太陽なく」第6曲の「河にて」の伴奏に3回出てくる。またリスト「ファウスト交響曲」との影響も指摘されている。

リスト「ファウスト交響曲」冒頭

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ファウストの哲学的性格を反映しているといわれる。
ムソルグスキ「河にて」より

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「河にて」は歌曲集「太陽なく」の第6曲。「未知の声が聞こえてくるのだ」に続く3つの疑問文、(この声は)「聞けと命じているのだろうか?」「ここから追い払おうというのか?」「深みへと呼んでいるのか?」の伴奏音型

第一主題(哀歌)

出だしの4小節はマーラーの「原光」のアルトによる歌い出しの部分の引用。(「原光」は「子供の魔法の角笛」による歌曲の1つであり、交響曲第ニ番「復活」の第四楽章。)

交響曲第10番第1楽章第1主題

「原光」引用、さらに続く部分も十字架音型。


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マーラー「原光」(交響曲第2番第4楽章)より

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「子供の魔法の角笛」による歌曲の1つ。アルトによって「人間は窮乏のきわみにある。人間は苦悩のきわみにある。」と歌いだされる部分。十字架音型の旋律であり、記譜も(バッハのように)わざわざシャープとナチュラルをつけてそのことを強調している。第五楽章で「復活」する前の第四楽章で「十字架」に架けられていると思われる。

第ニ主題(死のワルツ)

ジグザグに下降する形(死を暗示する Dies Irae の変型)の旋律を同音反復で刻む八分音符のリズムが特徴のピチカートの伴奏がついたワルツ。しかし、楽し気でも優雅でもなく、乾いた皮肉な調子に聞こえる。

交響曲第10番第1楽章第2主題

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第1楽章 Moderato 弓形のソナタ形式

全音楽譜出版者の楽譜(4-11-891802-1)での練習番号Nの第m小節めを N.m の形式で示す。

(約2分半) 呈示部

まず、総休止で区切られた3音順次進行の基本動機が呈示され、低音弦が中心となりたいへん思索的に響く。伴奏に D-S-D と半音上がって下がる動きがある。途中長短のリズム(.8)と旋律が第1主題(哀歌)を予告する。


ときおりmfまでクレッシェンドして またすぐデクレッシェンドする他は終始静か。しかもしばしば 立ち止まるかのような総休止が効果的に使われる。全て弦楽器のみで演奏され、わずかに速度を速めて(4.9)第1主題部へ進む。

5

(約4分)

この部分だけでも一種の弓形をなす。

  • クラリネットに抒情的な(歌の)第1主題(哀歌)が呈示される。マーラー「原光」からの引用と思われる。ヴァイオリンに引き継がれて発展する(6)。八分音符のリズムが現れて第2主題を予告する(8)。
  • ホルンさらにフルートが加わって(9)少しずつ盛り上がり、主題中程の十字架音型が強奏される(10.7)。いったん盛り上がって(12)静まり(13)、金管がコラール(14)を奏する。
  • 続くクラリネットの独奏に導かれて(14.8)哀歌が再現し、はじめの雰囲気に戻る(15)。
交響曲第10番第1楽章より金管によるコラール

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17
  • 少しテンポを速めフルートの低音で第2主題(死のワルツ)が呈示される。八分音符のリズムに特徴がある。
  • ヴァイオリンに引き継がれ(20)さらにクラリネットに移って盛り上がる(21)。クライマックスにあらわれた上昇の動きは形を変えファゴットで演奏される(22)。
    交響曲第10番第1楽章より(ファゴットで演奏される)

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  • 再びクラリネットに第2主題が(半音下がって)あらわれ(24)木管により強奏された後(26)静まる(28) 。

29

(約7分)

展開部

非常に訴える力の強い音楽である。

  • テンポを戻してファゴットにまず哀歌、続いて基本動機があらわれ(29.6)、競い合うようにしてしだいに盛り上がる。
  • 哀歌に死のワルツの動きが加わり(33)、ついには死のワルツと基本動機の争いとなる(34)。
  • 基本動機(35)による盛り上がり(40)が頂点に達したところで、ホルンが基本動機を反行し(44)、弦が哀歌を強奏する(45.5)。
47 再現部 興奮の頂点で基本動機が再現する。しだいに静まっていく(ここでやっと再現部に達していることに気付く)。しだいに興奮を冷ましながら始めの思索的な気分に戻っていく。呈示部同様コラール(55)に続いてクラリネットの独奏があらわれる(56)が、弦が加わらずクラリネットのみであるため、より虚ろに響く。
57   死のワルツはフルートではなく(3度音程の)2本のクラリネットで奏される。
65 コーダ 基本動機と哀歌が弱音で奏された後、寂寥感に溢れる2本のピッコロの音色が楽章を締めくくる。(映画「リア王」や「乱」の最後の場面を連想してしまう。戦いの後の空しさを感じる。)

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