その3 茶の湯に関する名著・古典

 最近読んでいるお茶の本を紹介

 まずは”茶の本”。著者は岡倉覚三(岡倉天心)。東京美術学校(現・東京芸術大学)の校長を退き、日本美術院を設立、海外での生活も長かった天心が英文で出版した本の1つに”THE BOOK OF TEA”があり、本著はその訳本である。

 文明開化の時代、大量に流入してきた西洋文化の前に自ら培ってきたものを放棄せんとする同胞を嘆き、また欧米人に対しては東洋の文化の素晴らしさを示す文明論となっている。タイトル通り茶の湯の世界で育まれてきたもの、またその背景にあるものを具体例として挙げて自説を論じている。今となっては多少史実を誤認している部分もなきにしもあらずだが、その言わんとするところはよくわかるのである。

 ”禅は仏教の有為転変の説と精神が物質を支配すべき”との思想にみられるように、日本では古来から家というものは現世での仮の宿でその人一代かぎりという風習に基づくものであった。それ故、新改築の容易な木造建築が大勢を占めてきた。日本の家屋が木と紙で出来ていることを単に技術的な問題としてとらえ、西洋に劣るものと卑下するのは誤りである、といったような主張の数々には頷けるものがある。

 当時でさえ、日本の西洋かぶれを危惧していた著者に現代の日本はどう写っているのだろうか。

 

 もう1冊は”南方録”。利休が集大成した侘び茶の精神と奥義を全7巻(覚書・会・棚・書院・台子・墨引・滅後)に体系立ててまとめた茶人のバイブルとも言うべきもの。利休の弟子であった堺南宗寺の僧南坊宗啓が相伝したものをまとめ、利休がその内容を証明する奥書をしている。中には、秘事を詳細に書きすぎているから焼却せよと利休が奥書した”墨引”などという巻もある。ひよっこの自分にはまだまだ分からない部分も多く、今後繰り返し読む事になるだろう。

 

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