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「で、お前は、何処まで分かってるんだ?」
盛大なため息をついて、一冊の古い本をテーブルの上に置く。
そんな目の前の兄の姿に、豪は思わず苦笑を零した。
本気だと分かるその表情に、逃げられないと悟ってしまう。
「……えっと、魔物が存在してて、それから、魔族って言う種族が存在してるって事。まぁ、そっちは滅多に人間の前に姿を見せないんだったよな……」
「それで?」
自分が知っている事を取り合えず口に出していく。
まず、人間と言う自分達の種族。
そして、人間に害を成す、魔物。
これは、姿から言って化け物と言っても良い存在。
それから、魔族。これは、人間のような姿をした魔物。
人の言葉を話すし、鳥のような羽があるとも言われている。
「魔物、魔族は正解だ。それから?」
「それからって……えっと、人間と共存する存在に、精霊や妖精……いて!」
必死で自分の記憶をたどりながら口を開いていた瞬間、頭を叩かれて、豪は不機嫌そうに兄をにらみつけた。
「間違いだ。精霊も妖精も、共存している訳じゃない。種族によっては、共存している者達も居るが、その言葉は不合格!」
「え〜っ!けどよぉ……」
「お前、精霊の姿見た事あるのか?」
兄の説明に文句を言おうとした瞬間、その前に質問されて、思わず首を振って返す。
「姿も見てないのに、共存してるとは言わない。はい、やり直し!」
自分の返事に呆れながら言葉を返す兄を恨めしそうに見詰めるが、相手は全く無視状態。
「……ほら、早くしろよ」
しかも、先を促されるような言葉まで言われてしまっては、もう反論も出来ない状態である。
自分にとって兄は、逆らえない存在であると言ってもいいのだ。
「…えっと、精霊には、炎・水・風・土の四大精霊が存在するんだったよな……それから…妖精…人を騙す奴から、助ける奴までさまざまと……」
「まぁ、間違いではないな。魔物・魔族・精霊・妖精は、そこまでにしてやるよ。最も、子供でも知ってる一般的な知識だったけどな」
必死で言ったその言葉に、はっきりした口調で言われたそれは、複雑なものがある。
しかし、確かに今話したモノは、全て学校で習う一般的なモノだと言う事は否定できない。
「次は、魔法だな……お前は、何処まで覚えてるんだ?」
「えっと、魔法の呪文が、古代文字ってのくらいかな……だから、読めないんだよなぁ……」
言ってから、盛大なため息。
魔法を使う為の呪文と言うモノがあるのだが、それは古代文字と言われる一般的には、ルーン文字と言われているのだが、特殊なもので、読める人間の方が少ないだろう。
また、それが読めたからと言って、誰でも魔法を使えると言う訳でもないから、厄介なのである。
「使えるようになれとは言わないけどな、せめて、ルーン文字くらいは読めるようになれないか?」
「読めねぇよ、あんな意味不明の図形文字なんて!」
呆れたようにため息をつきながら言われた事に、反論するように言葉を返せば、再度大きなため息が返されてしまう。
「だったら少しぐらい努力しろ!!」
怒ったようにテーブルに置かれていた本を投げ付けられて、見事なまでに顔面にヒット。
「その本をボクが戻ってくるまでに、目を通すんだ!後で、何が書かれていたか聞くからな」
「てぇ……って、兄貴??」
投げ付けられた本を手にとって、痛みを堪えている自分に投げ付けられた言葉。
それに、豪は驚いて顔を上げた。
烈は、何処かに出掛ける準備をしているようだ。
「マネモネは、豪を見張ってろよ!」
準備を整えて荷物を持つと、ベッドの上で寛いでいるマネモネに言い置いて部屋を出て行こうとドアを開く。
「兄貴は、何処行くんだよ!!」
旅館から出て行こうとしている兄に、慌てて問い掛ければ、ただ冷たい視線が向けられてしまう。
「お前には関係ない!いいな、ボクが戻ってくるまでに、読んどけよ!!」
最後にもう一度念を押して、そのまま部屋から出て行ってしまうその姿を見送って、豪は目の前にあるその本を前に盛大なため息をついた。
「…読めって、こんなん読める訳ねぇじゃん……xx」
その本は、全てルーン文字で書かれている。
全くルーン文字が読めない自分に、それを読むのは不可能と言っていいだろう。
「……大体、なんでこんな本持ってんだよ、兄貴は……」
ルーン文字で書かれた本は貴重で、そんなに簡単に手に入るものではない。
ましてや、一般で本を持っている者などいないと言ってもいいだろう。
持つことを許されているのは、司祭やお偉い貴族達だけだと決まっている。
それだけ、ルーン文字の本は貴重なものなのだ。
「…んな貴重な本を投げ付ける奴なんて、ウチの兄貴しかいねぇだろうなぁ……」
古びたその本を見詰めながら、盛大なため息をついても、それは許されるだろう。
何時までたっても本を開かない豪を前に、マネモネが大きな欠伸を一つして、うとうととまどろみ始める。
それを横目で見詰めつつ、豪も同じように大きな欠伸を一つ。
そして、気が付けば、二つの寝息が部屋の中に聞こえ始めた。
3.5
「って、あれだけ言ったのに……」
薄暗くなった部屋の中に入った瞬間、烈は盛大なため息をつく。
用事を済ませて戻ってくれば、ちゃんと言い置いておいたのにも関わらず、残された弟は気持ち良さそうな寝息を立てていた。
「……この本は、母さんと父さんが、ボク達の為に書いてくれた本だって言うのに……」
そっと枕代わりにされているその本に触れながら、呆れたように呟いて、烈は窓の外を見る。
空に浮かぶ、三日月。その月を見ながら、そっとため息をついた。
「……あれから10年が過ぎたんだね……」
自分の目の前で、二人は血に染められていった。
あの時の自分はまだ子供で、何も出来ずに二人に守られただけ……。
幸せそうに眠っている弟を見詰めて、苦笑を零す。
「……せめてもの救いは、お前があの時、家に居なかったって事だな……」
偶々用事で出ていた弟。だから、その時の惨劇を知らない。
そして、その本当の理由も……。
自分は、その事を教えては居ないから……。
全ての記憶を自分の中だけに封印して、烈は再度ため息をつく。
「出来れば、このままずっと……無理、なんだろうけどね……」
目の前の寝顔を見ながら、小さく呟いて苦笑を零す。
一体、後どれくらい一緒に居られるのだろうか?
この旅の目的が終了した時、もう一緒には居られないかもしれない。
「……だからそれまでに、一人前のハンターになってくれよ、豪……」
誰にも、負けないように……。
そして、どんな事からも、逃げないような、そんなハンターに……。

はい、40000HIT有難うございます!
遅くなりましたが、何とか間に合いました。
って、嘘です。無理やり終わらせました。<苦笑>
そんな訳で、今度再UPする時は、かなり付け足されると思います。
烈が、何処に行っていたのかとか、豪が起きてからのの事とかを!
そんな訳で、今回はちょっとだけシリアスです。
少しだけ触れた二人の旅の目的。大体予想がつきましたでしょうか??
さて、このシリーズに、終わりは来るのでしょうか??
それは、分かりません。
言える事は、まだまだ続きそうです。頑張りますね。
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