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「烈兄貴!」
後ろからついてきていると思っていた人物から突然名前を呼ばれて、烈と呼ばれた少年はその場に立ち止まって、振り返る。
「……お前、何してるんだ?」
自分から数歩は離れている場所で立ち止まっている実の弟の姿に、少しだけ呆れたように尋ねれば相手が顔を上げた。
「これって、魔物じゃねぇのか?」
「はぁ??」
指を指しながら言われたその言葉に、思わず聞き返してしまう。
ハンターたるもの、一々誰かに、魔物の種類を聞くその癖を直してもらいたいものだ。
「…お前、一流のハンターになるつもりあるのか?」
呆れたようにそう言えば、不満そうな表情で見詰めてくる。
「俺、もう一流のハンターのはずだぞ」
拗ねたように返されたそれに、思わず盛大なため息をついてしまう。
確かに、自分たちは一流のハンターで、賞金も貰っているのを認める。
だが、その一流のハンターが、魔物の正体も分からないとは、情けなさ過ぎると言うものだ。
「……お前、そう言えばマネモネも知らなかった奴だもんなぁ……」
今自分の肩に乗っている、魔物の名前。
いや、魔物と言うよりも妖精の方がまだいいかもしれない。
それは、ハンターたちの間では、有名な生き物。
しかし、この弟は、それすらも知らなかったのである。
「悪かったなぁ!でも、俺は魔物の名前なんて関係ねぇんだよ!!」
「……威張って言う事じゃないな。お前、ボクが居なくなったら、どうするつもりだ?」
呆れたように尋ねられたそれに、豪が驚いたように兄を見た。
「兄貴、居なくなるのか?」
驚いたように自分を見詰めてくるその姿に、烈は再度ため息をつく。
「例えばの話だ!んで、どれだ?」
進まない話に、烈は豪の隣へと行き、指差しているものを覗き込んだ。
そこには、小さな花が一つ咲いているだけ。
「……お前には、これが魔物に見えるのか?」
どう見ても魔物には見えないそれに、烈は盛大なため息をついて問い掛ける。
「けど、さっきこれ動いたんだぞ!」
「動くに決まってるだろう!移動草は、日の光を求めて移動するんだよ。動けば、魔物だって思うのは、問題だぞ」
「だ、だって……」
「だってじゃない!そんなんだから、今だに未熟者のレッテル貼られるんだ。魔物が倒せるからって、一流のハンターとは言えないんだぞ」
厳しい兄の言葉が正論なので、何も言い返せずに、豪はただ恨めしそうに烈を見た。
「文句があるのなら、聞いてやるよ。でもなぁ、ハンターなら剣だけじゃなく、魔法の勉強も必須だって事忘れるなよ」
呆れたように呟いて、そのまま歩き出す。
自分たちは、間違いなくハンターとして認められている。
それは、政府公認のハンターバッチを受け取った者だけが名乗れる名称。
実地のみのテストを受けて、正式なハンターになれるのだが、今思えば、その実地だけと言うテストに問題があるように思えてしまう。
『……ハンターテストって、今度から筆記も入れるべきじゃないのか……』
実の弟が、魔物の名前も知らない無知だという事が、情けない。
しかも、おまけとばかりに、魔法のまの字も使えないとくれば、呆れるのを通り越して、いっそ立派だと思えてしまうのは、どうしてなのだろうか。
「ぴーっ!!」
盛大なため息をついた瞬間、自分の肩に乗っかっていたモノが警戒したような声を出す。
それに、烈と豪は同時に顔を上げて辺りを警戒するように見回した。
「……兄貴!!」
緊迫した空気が流れる中、先に動いたのは、見えない敵。
ざっと、風が動いた瞬間、烈の頬に裂傷を残す。
「……鎌イタチ……」
風が、渦巻くように移動していくのを見ながら、烈は切れた頬の血を乱暴に拭う。
「兄貴、大丈夫か?」
「ボクは、大丈夫だ。そんな事よりも、来るぞ」
心配そうな弟に、返事を返して、体制を整える。
「来るって…姿見えねぇよ!」
剣を構えながら、それでも見えない敵を探すように辺りを見回す。
「……だから、未熟だって言うんだ!……『姿無き敵を映せ その姿を捉えよ……』」
「兄貴!!」
瞳を閉じ、両手を組むように合わせて、聞き取れない言葉を発する烈に向けて、風が舞う。
「『縛!』」
「見えた!」
再度烈の顔に、傷が出来る。
しかし、その瞬間、傷を負わせた相手の姿がボンヤリと現れた。
「敵が見えりゃ、こっちのモンだぜ!!」
嬉しそうな表情を見せて、豪がその敵に向けて剣を振り下ろす。
それに気が付いた相手が、慌てて避けようとした瞬間、剣が相手を切り裂いた。
「遅い!…兄貴の顔に、傷付けたお前が悪いんだぜ」
最後の声を上げて、そのまま灰に成って消えていく魔物の姿に、豪はただ冷たく言い放つ。
「……ご苦労様…って、言いたいけど、敵が見えなくっても、気配ぐらい感知しろ!この、馬鹿!!」
剣を鞘に収めている豪に、烈が呆れたように盛大なため息をついて、怒鳴る。
「うわ〜、ヒデー……バカって言うか、普通……」
「馬鹿だから、馬鹿って言うんだよ!しかも、何が、オレの顔に傷付けたお前が悪いだ!カッコ付けんな、馬鹿!」
「……って、聞こえてたのか……そうだ!兄貴、顔の傷!!」
不機嫌な兄の言葉に、思わず苦笑を零しながら、豪は思い出したとばかりに烈の顔をマジマジと見詰めた。
「あれ?傷は??」
しかし、あの魔物に傷付けられた筈なのに、既にその傷跡は跡形も無い。
確かに、血が流れた跡は、あるのに……。
「…治癒魔法に決まってるだろうが!だから、馬鹿だって言うんだよ!」
「……そう言えば、そんな魔法も存在してたような……」
「ようなじゃない、してるんだよ!!」
馬鹿にしたような兄の言葉に、豪は何も返せない。
確かに、自分は、魔法に対しての知識は皆無なのだから……。
「豪、今日は宿屋に泊まったら、みっちりと魔法について教えてやるよ」
「えっ!ちょっと待てって!!」
「ついでに、魔物についてもだ!」
「兄貴〜っ!!」
張り切っている相手を前に、空しいだけの抵抗が続く。
のんびりとした空の下、今日もやっぱり兄に勝てないと自覚する弟一人。
ハンターたるもの、勉強あるのみ。
そう悟る、兄の姿に、何が言えると言うのであろう。
町へと続く道すがら、弟の絶叫だけが響き渡るのだった。
お待たせいたしました。(って、待てて下さっている方が居るのかは、謎)
豪くん誕生日祝い小説を漸く再UP!!
結局、何処をどう直しても話が変なモノになってしまうので、何も直さずにUPしてあります。
なのに、こんなに遅くなるなんて、駄目すぎますね。
これから、この話がどうなっていくのか謎ですが、お付き合いくださると嬉しいです。
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