HUNTER 03.5

 宿屋を後にしてから、町の中を歩く。
 目的の場所は、この町から少し離れた場所にあると聞いているので、烈は町並みを見詰めながら、小さくため息をついた。

「……久し振りの、大きな町なのに……」

 旅をしている中で、こうして宿屋に泊まれるのは、少ない。
 大きな町ならまだいいのだが、村などには、宿屋がない所もあるのだ。

「…この町で、必要なものを補充していかないと……食料と、薬草……そう言えば、あいつまたでかくなったから、服も買わなきゃいけないな……」

 歩きながら、思わず盛大なため息。
 準備するには、勿論先立つものがなければ、やってられない。
 近頃、小さな仕事ばかりで、纏まったお金を稼いでいなかった事を思い出す。

「……このくらいの町なら、大きな仕事もあるだろうし、ついでに依頼を取るって言うのも、手だよな……」

 町が大きければ、それだけ魔物にも狙われやすくなる。
 だから、確実な依頼を貰えるのだ。そう言う依頼を貰いたい時は、ハンター専用の集まり場に行けば、確実に仕事は手に入る。

「…用事が済んでから、行ってみるか……」

 決まれば、後は早い。目的の場所へと早足で向かう。






 古びた小さなテント小屋。それが、自分が目的としていた場所。
 占い小屋と書かれたそれを確認して、中へと入るためにテントの入り口を捲り上げる。

「あの、すみません…今日の営業は……」

 そんな自分に、後ろから慌てたような声が掛けられた。
 助手だろう小さなその子は、水汲みをしていたらしくその手には大事そうに抱えられた水桶を持っている。

「その人は、いいんだよ」

 しかし、困ったように自分を見詰めてくるその子供に、優しい声が掛けられた。
 その瞬間二人は同時に声のした方を振り返る。

「J様!」
「Jくん…久振りだね……」

 金髪に黒い肌の青年の姿に、烈はそっと笑顔を浮かべて声を掛ければ、相手も優しい笑みを見せた。

「本当に久し振りだね、烈くん……良く、ここが分かったね?」
「うん、風の噂で聞いたからね…」
「あ、あの、J様のお知り合いの方だったのですね、す、すみません」

 二人の会話を聞いていた少女が慌てて頭を下げるのに、烈は苦笑を零す。

「気にしなくってもいいよ。突然来たボクが悪いんだからね」

 ニッコリと優しく笑顔を見せれば、少女の顔が少し赤くなる。

「そ、それでは、私、お茶の準備をしてまいります!!」

 しかし、直ぐに我に返って、慌てて頭を下げると、少女がテントの中へと入っていく。

「……Jくん、あの子は?」

 その後姿を見送ってから、小さく尋ねたそれに、Jは少しだけ困ったような表情を見せた。

「……両親を魔物に殺されたんだよ……ボクが、この町に来た初めの頃に、ね……」
「……その魔物は?」
「まだ、あの森の中に……この町は大きいけれど、集まっているハンターは有能ではないみたいだからね」
「そっか……」

 言われた言葉に小さく頷いて、烈が指された森を見詰める。

「…烈くん、一人であの森に行こうだなんて、考えないでよ」

 そっと森を見詰めている烈に、Jが心配そうに声を掛けた。
 彼の性格を知っているからこそ、心配なのだ。
 森や洞窟は、魔物にとっては格好の棲になっているからこそ……。

 しかし、自分のその言葉に、烈はただニッコリと笑顔を返しただけである。
 それが、更に自分の不安を募らせた。

「……君のその笑顔が、一番ボクには怖いんだけど……」

 そっと、ため息をつく。
 しかし、そう思うのは、きっと自分だけで無いと言う事を知っている。
 今はこの場に居ない、目の前の人物の弟。

「烈くん、せめて、豪くんは一緒に連れて行ってよ」

 だから、百歩譲ってのお願い事をすれば、それさえも笑顔で返された。
 分かっているのか、居ないのか、その笑顔では全く読めない。

「……豪は、今日は休業中。あいつは、ルーン文字の勉強させてるからね」
「って、烈くん!」
「心配要らないって、仕事はするつもりだけど、それがあの森だと決まってないからね」

 ニッコリと笑顔を見せての言葉に、複雑な表情を見せる。
 仕事をするつもりだと言った烈のその言葉に、不安が募る。

 ハンターが仕事を貰うのは、寄り合いに行って依頼を確認するのが殆どなのだ。
 それはつまり、この町の寄り合い所に仕事を貰いにいくと言う事で、つまりはあの森に関しての依頼しか無いと言うことである。
 多分、目の前の人物もそれを十分に分かっているはずなのだ。
 それなのに、あえて何も言わない。

「……本当に変わってないね、君は……」
「Jくんも、同じだよ。何の関係も無いあの子を保護しているところなんて、君らしいよね」

 呆れたように呟いた言葉に、ニッコリと笑顔で返されたそれに、思わず苦笑。
 本当に、変わらない友人に、Jはもう一度ため息をついた。

「……それなら、せめて護符を……これぐらいなら、邪魔にならないはずだから……」

 そっと自分の持っていたそれを烈に手渡す。
 占い師である自分が出来ることは、未来を見る事と、こうした護符を扱う事。
 簡単な護身術である魔法や医療の心得があるのが、占い師である。
 だから、こうして町や村を転々と移動して、薬や護符を売るのが、占い師の役目なのだ。

「本当、占い師の知り合いを持つと、いろいろ便利だよね」

 そっと差し出された護符を手にとって、烈がニッコリと笑顔を見せた。

「……ボクなんかの護符よりも、烈くんが作った護符の方が、本当は強いんだけどね」

 そっとため息をつけば、目の前の人物が苦笑を零す。
 自分と同じような知識を持っているこのハンターが作った護符が、普段占い師が取り扱っているものよりも強力であると知っている。

「ボクのは、ただの玩具だよ。やっぱり、占い師のモノは信用できるからね」
「……あれが玩具なら、ボク達が作ってるのは、玩具以下って事だよね……」

 さらりと言われた言葉に、思わず頭を抱えたくなってしまう。
 やはり、魔物退治をしている分だけ、彼は魔物の属性と言うモノをよく理解しているのだ。
 だからこそ、強い護符も作れるのである。

「……本当は、Jくんに占って貰いたい事があってきたんだけど、また今度にするね」
「えっ?烈くん??」
「それじゃ、顔も見れたし、仕事しなきゃお金もらえないから、もう行くね」
「ちょっ!烈くん!!」

 慌てて呼び止める自分に、烈はただ笑顔で手を振るとそのまま走って行ってしまう。

「J様?あの方は??」

 烈の姿が見えなくなった頃、お茶を入れて戻ってきた少女が不思議そうに首を傾げて、声をかけてくる。

「……君の、ご両親の仇を漸く、討てるかもしれないね……」
「えっ?」
「彼は、ハンターなんだよ。この町に居る、無能なハンターと違って、正真正銘のね……」

 ニッコリと優しい笑顔とともに説明されたそれに、少女が驚いたように瞳を見開く。

 この町のハンター達は、森の魔物を恐れて、仕事をしないような連中ばかりだと言う事を、誰よりも知っている。
 弱い魔物しか相手にしない連中に、自分の両親の敵を取って欲しいと願い出たが、誰も聞き手入れてはくれなかった。
 しかも、それは自分だけではなく、直接政府が依頼を出して居るのにもかかわらず、誰もそれを引き受ける者が居ないのだ。
 多額の賞金が出されている自分の仇でもあるその魔物が、今漸くあの森から居なくなると言ったJのその言葉に、ただ信じられない気持ちで、その森を見詰めるのだった。





「……この町の連中は、よっぽどのバカだね…」

 ハンターの寄り合い所へと行けば、Jが話をしていた魔物の情報は幾らでも手に入った。
 それに対して政府からの、直々の依頼も出ていると知り、烈は一も二も無く返事を返し、森へと来ている。
 勿論、その依頼を受け時、その場に集まっていたハンターたちが、止めた言葉を完全に無視して……。
 この町に集められたハンターは、無能であると言うJの言葉は、正に正しかったようである。

「……ハンターが魔物退治もしなくなったら、この世も終わりだね…」

 寄り合い所での言葉を思い出すと、嫌悪感が襲ってくる。
 自分の命が一番だと言った、ハンターたちの言葉に、怒りを覚えた。

「お陰で、今回の依頼はすんなりと終わってくれたけどね……」

 目の前のそれを見詰めて盛大なため息をつく。

「……依頼は完了………っと…」

 ハンターが依頼をこなしたのかどうかを確認するのは、大概ターゲットになる魔物には、監視の鳥が付けられているのだ。
 だから、その鳥が全てを終えると自動的に寄り合いに戻るように設定されている。
 死体の残らない魔物でも、この鳥が寄り合いに戻る事で、依頼は終了されたことになるのだ。

「さぁて、そろそろ戻らないと、あいつ絶対に寝ているだろうし、な……」

 盛大なため息をついて、その場を後にする。
 もう、依頼が終わったのだから、ここに居る必要は無い。

「あっ!Jくんに、これ返さないと……」

 ポケットから取り出したそれを思い出す。
 預かったものは、ちゃんと返さないといけない。

「それに、賞金も出てるだろうからね……」

 決めたと言うように、大きく伸びをすると、烈はまず寄り合いへと歩き出した。
 もう既に依頼を完了した事は知られているはずである。
 だから、その場で賞金を受け取る権利があるのだから……。





「J様!」
「それは、君のモノだよ」

 突然差し出された大金に、少女が驚いてJを見詰める。

「でも、私にこれを貰う権利は……」
「あの魔物を始末してくれたハンターからの、本当に小さなお礼って所かな……」

 困ったように自分を見詰めてくる少女に、Jはただ苦笑を零した。
 ここに戻ってきた烈が、自分に護符を戻して、そしてこのお金を残したのは、ほんの数分前の事。
 勿論怪我などせずに戻ってきた彼に、ほっとしたのは言うまでも無い。

『ねぇ、これをあの子に渡してくれるかなぁ?』
『烈くん!でも、これは、あの魔物を倒した賞金じゃ……』
『そうだよ、だから、これを持つはのは、ボクよりもあの子の方が正しいと思うんだ。あっ!勿論、少しはボクも貰ってるから、安心して』

 そう言って残されたのは、今少女へと渡したお金。
 しかし、烈が貰っているというのは、嘘だと言う事を自分はちゃんとわかっている。

『……ボクも、伊達に占い師はしてないんだよ…魔物の賞金ぐらいは、ちゃんと知ってるんだ……』

 烈が、全ての賞金を少女に渡した事を知っているからこそ、ため息をつく。
 本当に変わっていない自分の幼馴染の姿に、尊敬と最大の感謝の気持ちを持つ。
 この少女に強く生きて欲しいと願っているのだと分かるからこそ、これをきちんと受け取ってもらいたいのだ。

「……ハンターって、お金だけが大切なんだと思ってました……」
「そんなハンターだけじゃないって事、ちゃんと知っていてもらいたいよ、ボクは……」
「はい……」

 そっと頷く少女に、Jは優しく微笑んでみせる。
 きっと、彼女は忘れないだろう。烈と言うハンターを……。


 

                        



    
はい、3.5です。
    いや、何が書きたかったのでしょうか??
    って、Jを出したかっただけなんですけどね。<苦笑>
    これからも、時々Jは出てくると思います!
    後、誰が出てくるかは謎ですけどね。(笑)
    そして、3の宿に戻ってかたの話になる訳です。
    この烈は、自分の苦労なんて物を誰にも言わないタイプだと思っているので、今回の事も、豪は知らずに終わるでしょう。