ここにってくると決めた時、自分でこれだけはとったことがある。

  誰も、傷付ける事が無いように………。

  その為なら、どんな事になろうとも、自分は彼等を護ると誓った。
  だからこそ、彼等を連れて行くことは出来ない。
  今、一番危険だと思われる、その場所へ…………。


 
                                         GATE 30


 今にも泣き出してしまうのでは中と言う程の瞳に、その場に居た誰もが言葉を失う。

「折角集まってくれたのに、俺が皆を混乱させるような事してごめん、な」

 告げられる謝罪の言葉に、否定の言葉を返せない。
 ただ困ったような表情で見詰めてくる瞳に、その場に居た者達は、小さく首を振って返すのが精一杯だった。

「もう、時間遅くなっちまったな。今日は、帰った方がいいだろう?」

 そして告げられた言葉に、時計へと視線を向ける。
 この部屋に皆が集まった時間から、既に窓の外は茜色に染まっていた。

「光子郎、皆を見送ってやってくれるか?」

 誰も何も言わない事をいい事に、太一はこの家の主へと声を掛ける。

「……分かりました。今日は、一先ず解散致しましょう。小学生も居る事ですし、遅くなるのは、問題ありますからね」

 声を掛けられて、光子郎がもっともな言葉で同意した。
 それに太一は、内心ホッと安心したように、ため息をつく。

「ちょっとまて!俺は、それじゃ、納得……」
「石田先輩、取り合えず、今日は帰ってください。今、話をしても、彼の意志は変わらないですよ」

 皆をリビングから追いたてる様にする光子郎に、ヤマトが声を荒げる。
 しかし、それを、光子郎が冷たいとも取れる声で、制した。

「玄関まで、お送りします」

 その言葉を耳に、誰もが何かを言いたそうにしながらも、そのまま大人しく従って出ていく。
 その後姿を見送りながら、太一は大きく息を吐き出した。

「タイチ?」

 そんな太一に、アグモンが心配そうな視線で見上げてくる。

「これで、皆を、大切なパートナーの所に送り届ける事が出来て、ホッとしてたんだよ」

 心配そうに見詰めてくる瞳に、太一は曖昧な微笑を向けた。

 それぞれの、大切なパートナー。
 それが、今この世界に戻ってきた自分が、成し遂げなければ行けなかった事。

 そして、彼等の大切な人を護る事こそが、自分にとって一番にしなければいけない事なのだ。

「これで、一つ肩の荷が下りたんだよなぁ……」

 皆に再会できて嬉しいはずなのに、複雑な気持ちを隠せない。

 嬉しいと思うのに、こんな時に再会した事。
 そして、自分の所為で、彼等を危険な目に合わせてしまって居るのだから、この再会を素直に喜ぶ事は出来ない。

「どうして俺は、あの世界に、一人だけ残されちまったんだろうな……」
「タイチ?」

 覚えていない理由。
 どうして、あの世界に居たのか。
 曖昧で、不確かなモノ。

「タイチ、お前は、本当に、それでいいのか?」
「レオモン。いいも悪いも、あの世界にあいつ等を連れて行く事なんて、出来る訳ないだろう。それは、お前だって、分かって居るはずだ」

 黙って、自分達の遣り取りを見守っていたレオモンの質問に、太一は、はっきりとした口調で言葉を返す。
 太一の言葉に、レオモンは、何も答えることが出来なかった。
 この世界に来た自分が、彼等に何をしたのかを、その身をもって、体験してしまっているからこそ……。

「だから、今晩、皆には内緒で、デジタルワールドに行く。そして、皆にデジヴァイスを……」

 意志の強い瞳が、真剣に言葉を口にする。
 そんな太一に、レオモンは、何も言わずに、ただ頷いただけだった。
 話が、一段落した瞬間、遠慮がちな、ノックの音。

「光子郎?」

 数回のノックの音に、ゆっくりとリビングのドアを開いて、相手を確認する。
 勿論、この家の主で、ある事は分かっていたのだが…。

「お話中すみません。宜しかったですか?」
「えっ?いや、話は、してなかったから……皆は、帰ったのか?」

 顔を覗かせた自分に謝罪の言葉と躊躇いがちな質問に、慌てて首を振って返す。
 そして、他の仲間の姿が見えない事を確認するように、一度視線を漂わせてから、そっと質問を投げかける。

「もう、とっくに帰りましたよ。僕も、少し用事がありますので、部屋に居ます。用事がある時は、呼んでくださいね」

 自分の問い掛けに、少しだけ呆れたような口調で、そう返されると、太一は複雑な表情を見せた。

 自分から、帰れと言っておいて、確かに、そんな質問をするのは可笑しいだろう。
 そして、自分を見ない光子郎に、太一は、扉を閉めようと伸ばされた手を、止めるようにその名前を呼ぶ。

「光子郎!」
「何ですか?」

 自分の声に、冷たいとも取れる声が、義務的に言葉を返してくる。

 分かっている。
 自分に対して、彼等が怒っていると言う事は、誰よりも……。

「………ごめんな…」

 それでも、皆を危険な目に合わせたくないから、だから、ただ謝罪する事だけしか出来ない。
 卑怯だと分かっていても、それが、今自分が出来る精一杯の事。

「……貴方のお気持ちは分かります。だけど、やっぱり!」
「うん、だから、ごめんな……俺、我侭だから……」

 皆の自分の事を思っていてくれる気持ちは、本当に嬉しい。
 それでも、皆を危険な目に合わせるぐらいなら、自分は………。

 それが、我侭だと分かっていても、譲れないのだ。
 何も覚えていない彼等を、危険に晒す事など出来ない。

 そんな事をするくらいなら、いっそ……。

「………それが、貴方の我侭と仰るのなら、これから、何があっても、それは、僕の…いえ、僕達の我侭です」
「えっ?」

 自分の言葉に、真剣な声が返される。
 だが、言われた意味が分からずに、太一は驚いて、光子郎を見上げた。

「これは、自分達が決めた事なんです。だから、誰にも、譲れません」
「光子郎?」
「失礼しました」

 言われる言葉の意味が分からずに、問い掛けるように名前を呼ぶ。
 しかしそれに返されたのは、退室の言葉と、閉められたドアの音だけ。

「タイチ、コウシロウ、どうしたんだろうね?」

 目の前で閉じられてしまった扉の前で、ただ何も言わずジッと佇んでいる太一に、不思議そうに、アグモンが首を傾げた。

「………そうだな、どうしたんだろう、な……」

 そんなアグモンの声に、太一はただそう呟いて、もう一度閉められてしまった扉を見詰めた。



                                                 



   そんな訳で、『GATE 30』を手直しどころか、書き足しました。
   今までUPされておりました30話は、これに伴い31話目とさせていただきます。
   これで、裏との話にも、ちゃんと繋がったと思うんですけど、どうでしょう?(誰に、聞いてるんだ?!)
  
   そんな訳で、前30話にUPされていた『裏・GATE』2作も、こちらの方に隠されております。
   言葉は、代わっておりませんので、興味のある方は、そちらからどうぞ。