彼等が、家を出て行くのを見送って、僕は盛大なため息をつく。
 リビングでは、彼とあのデジモンが、真剣な表情で話をしていた。
 だから、そこに戻る事も出来ないで、ただそのドアを見詰める。

 玄関のドアの向こうには、彼等の気配。
 その気配は、動く事なく、その場に佇んでいるのが分かった。
 彼等にしても、無理やり打ち切られた話しに、納得など出来る事はないだろう。

 それが、当然だ。

 そして、それは僕も同じ。

「光子郎はん?」

 何時までもこの場所から動けないで居る僕に、パートナーであるデジモンが心配そうに名前を呼んでくる。

「何でもないよ……そう、何でも……」

 心配そうに見詰めてくる視線に、そう返して、もう一度ため息。

 彼のあの態度を考えれば、今夜にでもここを出ていく事は容易に想像できる。
 出来るからこそ、ため息を止められない。

 どうして彼は、何もかもを、一人で背負い込んでいるのだろう。
 あんなにも、小さな背に……。

 それは、僕には想像も出来ないほどのモノを、たった一人で持ち続けている。

 リビングでは、きっと彼等が、これからの事を話しているだろう。
 だからこそ、僕はその中へ入っていく事が出来ない。

 今にも泣き出してしまうのではないかと思えるほど、思い詰めた表情で言われた言葉。
 それが、僕の足を進ませてくれないのだ。
 彼が、どうして自分達をそのデジタルワールドと言う世界に連れて行きたくないのか、その理由はちゃんと分かっている。
 本気で、彼が自分達の事を心配してくれているのが、分かるから……。

 だが、自分達が危険だと分かっていても、彼の事を知りたいと思う気持ちを、止められないのだ。
 そして、その鍵が、デジタルワールドと言う場所にあるというのなら……。

「……僕の心は、決まっているみたいですけどね」

 自嘲した笑みが浮かぶ。
 僕の呟きを耳にして、不安そうに見詰めている瞳が、困ったような顔を見せる。

「光子郎はんは、本当にそれで、いいんですやろうか?」
「はい、それが、僕の決めた事ですから」

 困ったように質問された内容に、僕ははっきりと言葉を返しす。
 僕が、そう言葉を返したその時には、外に感じられた気配は、もう既にその存在を感じる事は、出来なかった。



 数回深呼吸を繰り返して、リビングのドアを叩く。
 本当に、自分の家なのに、何でこんなに緊張しているのか、自分でも可笑しくなるくらいだ。

「光子郎?」

 数回ノックした後、ゆっくりとリビングのドアが開いて、彼が顔を見せる。

「お話中すみません。宜しかったですか?」
「えっ?いや、話は、してなかったから……皆は、帰ったのか?」

 顔を覗かせた彼に、謝罪すれば、困ったように首を振って返された。
 そして、その後、困ったように質問された言葉に、思わず苦笑を零す。
 堂々巡りな会話を打ち切ったのは、自分なのに、可笑しな事を質問する。
 そんな彼に、僕は小さくため息をついた。

「もう、とっくに帰りましたよ。僕も、少し用事がありますので、部屋に居ます。用事がある時は、呼んでくださいね」

 少し意地悪だと思うけど、冷たいとも取れる声音でそれだけを言うと、そのままリビングの扉を閉めようと扉に手を伸ばす。

「光子郎!」

 そんな僕に、慌てたように、彼が少し大きめな声で名前を呼ぶ。

「何ですか?」
「………ごめんな…」

 自分の名前を呼んだ相手に、義務的に返事を返す自分は、きっとすっごく意地が悪いと思う。
 それでも、何もかもを、一人で背負っている彼に、イライラした気持ちは、隠せない。
 そんな僕の耳に、小さな謝罪の言葉が、聞こえてきた。

「……貴方のお気持ちは分かります。だけど、やっぱり!」
「うん、だから、ごめんな……俺、我侭だから……」

 困ったような笑顔で言われる言葉に、一瞬言葉に詰まる。

 我侭。

 確かに、僕達を連れていかないと言うその気持ちは、彼だけの想い。
 だけど、それは、自分達を、危険な目に合わせたくない為。

 それは、自分達が、彼に守られていると言う事。

「………それが、貴方の我侭と仰るのなら、これから、何があっても、それは、僕の…いえ、僕達の我侭です」
「えっ?」

 だけど、僕はもう決めている。
 だって、確かに、彼の事を知りたいと、そう想う気持ちは止められないから……。

 僕の言葉に、彼が驚いたように、僕を見上げてくる。
 それに、僕は、そっと笑みを浮かべた。

「これは、自分達が決めた事なんです。だから、誰にも、譲れません」
「光子郎?」
「失礼しました」

 意味が分からないと言うように見詰めてくる視線を交わして、そのまま扉を閉めて、自分の部屋へと入る。

「光子郎はん……」
「すみません、貴方も、リビングに行っても良かったんですよ」
「わては、光子郎はんのパートナーですさかい…」
「有難うございます」

 自分の直ぐ傍に居る相手に、笑顔で謝礼の言葉を述べれば、少しだけ気持ちが落ち着いた。

「じゃ、連絡を取ろうか」
「誰にですか?」
「勿論、彼等にだよ」

 多分、彼等は、そのまま城戸さんの家に居る筈。
 だって、納得なんて、出来ないんだって、百も承知している。

 彼の家の電話は、調べれば直ぐに分かるだろう。
 部落会が同じだったから、その時の名簿を見れば、直ぐに知れる。

 部屋に置かれている電話の子機を持って、出してきた名簿から目当ての電話番号を探して、ダイヤルを押していく。
 耳に届く呼び出し音を聞きながら、僕は、そっと息を吐いた。


                                               



   うきゃ〜っ!話が、後退してるっ!!
   そ、そんな訳で、『裏・GATE』光子郎さん視点となります。
   そして、また丈先輩の視点に戻ります。
   次こそは、電話の内容を!!
   そして、この『裏・GATE』に合わせまして、表の『GATE』も手直ししなければ……。
   忙し過ぎて、更新ストップ状態ですみません。(><)