「絶対絶対、納得できない!!」

 光子郎くんの家を出てからも、私はそう言って両手を振る。
 子供染みた行動だって事は、自分でもちゃんと分かっているんだけど、納得できないものは納得出来ないのよ!

「落ち着いて、えっと、太刀川さん、だったわよね?」

 私の声に、少しだけ困ったように武之内先輩が声を掛けてくる。

「はい、太刀川ミミです。武之内先輩……」
「あら?私の事、知っているの?」

 優しい表情の先輩に、私は改めて自己紹介した。
 そんな私に、武之内先輩が少し驚いたように問い掛けてくる。

「だって、私もお台場小学校に通ってたんです。その時、地域の班が一緒だったから……」

 だから、優しかった武之内先輩に憧れていたなんて、そんな事言えない。
 けど、今目の前に居る先輩の姿に、私は困ったように説明する。

「そう……私の事は、空でいいわよ」

 私の説明に、先輩がニッコリと笑顔を見せて、そう返してくれた。
 それに、私は、満面の笑顔を返す。

「それじゃ、私の事も、ミミって呼んでください」
「分かったわ。それじゃ、ミミちゃん、貴方、旅行鞄を持っているけど、今日泊まる所あるのかしら?」

 憧れの先輩に、自分の名前を呼ばれて、浮かれている中、その先輩から言われた内容に、私は一瞬、頭の中が真っ白になった。
 だって、私、今日の朝アメリカから態々日本に戻ってきたのに、その間に飛行機事故にはなるし、マスコミの人達には追われるしで、今日泊まるホテルだって、まだ見つけてない。

「ど、どうしよう……」

 行き成り付き付けられてしまった現実に、思わず情けない声を出してしまう。
 だって、泊まる所がないって事は、私ってば野宿しなきゃいけないのよ!この秋の夜空に、野宿なんて出来るわけ無いじゃないの!
 私の情けない言葉に、先輩…空さんが、小さく笑うと私の顔を覗き込んで来た。

「そうだと思った。なら、家にいらっしゃい。私達は仲間なんでしょう?一緒に居た方が、何かと都合がいいと思うの」
「いいんですか?」

 空さんの優しい言葉に、心配そうに問い掛ければ、ニッコリと優しい笑顔で頷いてくれる。

「勿論よ。それにね、皆の顔を見て分かったの。きっと、私達は、彼の言うデジタルワールドに行く事になると思うわ」
「空さん?」

 そして、続けて言われた言葉に、私は今だに光子郎くんの家のドアを見詰めている人達を見た。
 石田先輩に、城戸先輩。石田先輩の弟だと言うタケルくんと、あの人の妹だと言うヒカリちゃん。
 皆、デジモンと言うパルモンと同じ生態の生き物を連れている。
 空さんの隣にも、ピンク色の鳥の姿をしたデジモン。

「私達が、仲間だと言う事は、この子達が証明しているわ。だからこそ、今は、皆一緒に居た方がいいのよ」

 少し寂しそうな笑顔で言われたそれに、私も複雑な表情を返した。
 説明された内容は、正直言って信じられないモノだったんだけど、私とパルモンが出会ったのが何時だったのかを考えれば、それが嘘なんかじゃないって事が、直ぐに分かる。

 そう、私には消えている空白の記憶があるから……。

 誰も何も言わずに、ただ閉ざされている扉を見詰めている。
 その中には、あの不思議な少年と、光子郎君が居るだろう。

「……空さん…」

 ただ黙って見詰められているその視線を感じながら、私は小さく空さんへと声を掛けた。

「何、ミミちゃん」

 私の呼び掛けに、空さんが不思議そうに私を見る。

「……空さんにも、あるんですか?」
「何が?」
「消えてしまっている、空白の記憶です」
「ミ、ミミちゃん?」

 私の言葉に、驚いたように空さんが名前を呼ぶ。
 その瞬間、扉を見詰めていた皆の視線も、一斉に私に向けられた。

「それが、ヒカリちゃんが言うデジタルワールドでの時間なのかもしれないって、そう思えるの……だから、あの人が嘘なんて、言ってない事も」

 だって、あの人は、私しか知らないパルモンの事を知っていた。
 それだけで、私はあの人を信じられる。

「その話し、聞かせてくれないかな。ボクの家が、この直ぐ近くだから、移動しようか」

 私と空さんの間に、城戸先輩が優しい笑顔と共に声を掛けて来た。
 それに、私は顔を上げて、城戸先輩を見る。

「俺達も、これからの事を話したい。だから、同行させてもらってもいいだろうか?」

 それに便乗するように、石田先輩が、質問してくるそれに、城戸先輩が頷いて返す。
 その後、私達は、漸くその場所を離れる事が出来た。

 勿論、後ろ髪惹かれる思いだったけどね……。


                                               



   ひとまず、『裏・GATE』ミミちゃん視点です。
   彼女の言葉使いが違うのは、大目に見てやってください。<苦笑>
   この後は、多分丈先輩視点の予定。
   短いのは、上の理由からです…xx
   それにしも、デジモンの台詞が一つも無い。
   ミミがこれだけ騒いでいたら、パルモン…じゃなくって、タネモンは、黙っていないと思うんですけどね。
   でも、今回デジモンが出てくると邪魔なので、省かせていただきました。
   次の丈先輩視点も、似た感じになると思います。
   さぁ、頑張って書くぞ!